2026 Volume 36 Issue Special_Issue Pages s18-s26
ペルおよびポリフルオロアルキル化合物(PFAS)は多様な構造と性質を持つ化合物群であり,個別化合物を定量するターゲット分析が主に用いられてきた。高選択性・高感度なLC-MS/MSによるターゲット分析は,規制物質の監視などにおいて中心的な役割を果たしているが,標準物質のないPFASやターゲット分析で測定が困難なPFASも含めて網羅的に評価することは困難である。こうした課題を補完する手法として,抽出態有機フッ素(EOF),吸着態有機フッ素(AOF),酸化性前駆体総濃度分析(TOP assay)などのPFAS Total分析法が用いられている。これらのPFAS Total分析法は,ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)やペルフルオロオクタン酸(PFOA)を含むPFASの評価が可能であるが,すべてのPFASを完全に捉えることはできない。各手法には,検出可能なPFASの特性や分子構造に応じた分析ウィンドウが存在するため,包括的な評価を行うには,分析目的や対象化合物,試料マトリクスの特性に応じた最適な手法の選択と組合せが重要となる。PFASの環境モニタリングを効果的に実施し,持続可能な管理を実現するには,ターゲット分析に加えて,PFAS Totalスクリーニング手法の実用化と標準化を進めることが求められており,今後の研究と制度設計の両面での取り組みが期待される。
Per- and polyfluoroalkyl substances (PFAS) comprise a diverse group of chemicals with varying structures and physicochemical properties. Targeted analysis using highly selective and sensitive liquid chromatography–tandem mass spectrometry (LC-MS/MS) has been the primary method for quantifying individual PFAS compounds. This approach plays a central role in regulatory monitoring and toxicological assessment. However, comprehensive evaluation remains challenging for PFAS lacking analytical standards, including unknown precursors and transformation products.
To address these limitations, complementary “PFAS Total” quantification methods have been employed. These include extractable organic fluorine (EOF), adsorbable organic fluorine (AOF), and total oxidizable precursor (TOP) assay, which collectively aim to estimate the totality of PFAS burden. While PFAS Total methods can quantify substances such as perfluorooctane sulfonic acid (PFOS) and perfluorooctanoic acid (PFOA), but they cannot comprehensively capture all PFAS species. Each method has an inherent “analytical window” depending on the detectable PFAS structures and properties.
Accordingly, a comprehensive PFAS assessment requires the appropriate selection and combination of analytical methods based on the purpose of monitoring, the target compounds, and the characteristics of the sample matrix. While targeted analysis remains indispensable, the practical implementation and standardization of PFAS Total screening techniques are essential for advancing environmental monitoring and achieving sustainable PFAS management. Future efforts should aim to integrate these approaches through both methodological development and regulatory frameworks.
ペルおよびポリフルオロアルキル化合物(per- and poly-fluoroalkyl substances, PFAS)は,撥水・撥油性,熱や化学薬品に対する高い安定性など,優れた物理化学的性質を有しており,撥水撥油剤,界面活性剤,半導体製造用の反射防止膜,金属メッキ処理剤,水成膜泡消火剤,農薬,コーティング剤,機能性薬品など,幅広い分野で利用されてきた。しかし,一部のPFASは,環境中での高い残留性や生物蓄積性,長距離移動性,さらには有害性が指摘されている。これまでにペルフルオロオクタンスルホン酸(perfluorooctane sulfonic acid, PFOS),ペルフルオロオクタン酸(perfluorooctanoic acid, PFOA),ペルフルオロヘキサンスルホン酸(perfluorohexane sulfonic acid, PFHxS)といった代表的なPFASが,2009年,2021年,2024年にそれぞれストックホルム条約(POPs条約)に追加されており,2025年5月にはさらに長鎖のペルフルオロカルボン酸類(LC-PFCA:炭素数9~21)の追加も決定された。
PFASの問題は,従来のように数種類の化合物のみを対象とする調査やリスク評価では対処できない複雑なものとなっており,現在ではフッ素系医薬品やハロカーボンなども含めたフッ素置換アルキル化合物全体の適正使用やライフサイクル全体を見据えた評価が求められている1)。本稿では,このように多様なPFASを対象とする分析方法,標準化動向および課題について紹介する。
PFASという用語は,個別の化学物質を指すものではなく,様々な構造を持つ有機フッ素化合物を含む総称として用いられている。
2000年代初頭にはPFOSやPFOAといった一部のPFASのみが主な研究対象であったが,その後の研究により,他のPFASも環境中で分解・変換を経てPFOSやPFOAのような残留性の高い別のPFASに変化する可能性が示されるようになった2)。そのため,PFOSやPFOAのみに着目した測定や評価では,実際の環境負荷を適切に把握することが困難であることが明らかになってきた。
PFAS管理における重要な課題のひとつは,PFASの定義が国や地域,法体系によって異なる点である。定義の不統一は,分析手法の選定,法規制の適用範囲,ならびに政策議論に混乱をもたらす要因となっている。たとえば,経済協力開発機構(OECD)は2018年3)および2021年4)のレポートにおいてPFASの構造化学的な定義を提案しており,2021年の定義では,例外を除き「少なくとも1つの–CF3または–CF2–を含む化合物」をPFASとした。この定義では有害性は考慮されていないことに注意が必要ではあるが,これに従えば,米国国立医学図書館のPubChemデータベース上で約700万種類もの化合物がPFASに該当する可能性があると報告されている5)。一方,米国環境保護庁(US EPA)は,PFASを「構造中にR–(CF2)–C(F)(R’)R”を含むフルオロ化化合物であり,CF2およびCF基は飽和炭素に結合しており,Rグループはいずれも水素でない」と定義している6)。これにより,トリフルオロ酢酸(Trifluoroacetic acid, TFA)のように,OECDの定義ではPFASに該当するが,US EPAの定義では該当しない化合物も存在する。TFAは,農薬,医薬品,ポリマー,さらにはクロロフルオロカーボン代替物の潜在的な分解生成物として注目されている化合物であるが,このような定義の違いは,分析対象化合物の選定や規制範囲の相違を招いている。
2023年には,ドイツなど欧州5か国が欧州化学品庁(ECHA)に対して,OECD 2021年定義に準拠した包括的なPFAS規制案を提出した。この提案は,すべてのPFASを対象とした世界でも類を見ない広範な内容であり,EU域内外の産業界を巻き込んだ大きな議論を引き起こしている。さらに,2024年6月には国際純正・応用化学連合(IUPAC)がPFASの用語・分類・命名法の標準化を目的としたプロジェクト “Terminology and Classification of Per- and Poly-Fluoroalkyl Substances(PFAS)” を開始しており,国際的な定義の統一に向けた動きが加速している7)。
このように,PFASの定義は単なる学術的な問題にとどまらず,規制,分析,リスク評価,政策決定など実務的な面にも大きな影響を及ぼしている。分析対象とすべきPFASの範囲は今後も拡大することが見込まれ,個別物質ごとの対応のみならず,グループ管理的な視点に基づく測定・評価手法の構築が求められている。
PFOSやPFOAなどの個別のPFASを対象とする「ターゲット分析」は,現在最も一般的なPFASの分析手法である。ターゲット分析においては,固相抽出(Solid Phase Extraction; SPE)カラムによる前処理が一般的である。ISO 21675 8)に基づくSPE測定方法の概要をFig. 1 に示す。PFOSやPFOAのように陰イオン性を有しているPFASについては,陰イオン交換型のSPEカラムが使用される。まず,あらかじめコンディショニングしたSPEカラムに水試料を通液し,続いて洗浄工程を経て,中性PFASはメタノール画分に,イオン性PFASはアンモニアメタノールなどのアルカリ性画分により溶出される。その後,抽出液は必要に応じて濃縮され,機器分析に供される。

一般的には,イオン性のPFOSやPFOAなどはLC-MS/MS(液体クロマトグラフ-タンデム質量分析計)により分析される。分離には逆相系のオクタデシルシリル基(ODS)を化学結合させたカラムが用いられるが,特にペルフルオロブタン酸(Perfluorobutanoic acid; PFBA)などの炭素数4以下の短鎖PFASはODSカラムでは保持が不十分な場合がある。そのため,逆相モードとイオン交換モードを併せ持つミックスモードカラムが用いられることがある9)。
水試料中のPFAS分析に関する国際的な標準規格としては,PFOSおよびPFOAを対象とした世界初の国際規格ISO 25101:2010 10),その国内規格としての修正版JIS K 0450-70-10:201111),および30種類のPFASと9種類のPFOS・PFOAの側鎖異性体を含むISO 21675:2019 8)などがある。特にISO 21675では,定量下限値が 0.2 ng/Lで,著者の知る限り最も高感度な標準分析法である。水道水中のPFOSとPFOAに関する目標値のうち,米国では各 4 ng/L,デンマークではPFOS,PFOA,PFNA,PFHxSの合算値で 2 ng/Lと世界でも厳しい基準値が設定されているが,これらはいずれもISO 21675 8)によって測定可能なレベルである。この他にも,様々な分析法が公開されている。US EPAは,飲料水を対象としたMethod 537.1 12)およびMethod 533 13),液体試料に加えて固体や生体試料も対象としたMethod 1633 14)のように40種類のPFASをカバーしている方法を公開している。
3.2 超短鎖PFASの分析の課題ISO 21675では分析対象としていないが,TFAのような超短鎖PFASは長鎖PFASに比べてイオン性が高く,イオン交換モードによるカラム分離が有効である。なお,ISO 21675 8)には,ODSカラムおよびミックスモードカラムの双方による測定例が記載されており,TFA測定にも応用が可能である9,15)。TFAは,他のPFASと比較して環境中濃度が著しく高い場合が多く9,16),後述するPFAS Totalで濃度管理をする場合であっても,TFAを他のPFASと分けて個別に定量することが求められる場合がある。2024年に欧州委員会が発行したEU飲料水指令(Directive(EU)2020/2184)に基づくPFASモニタリングの測定技術ガイドライン17)において,TFAの特異性が明記されている。同ガイドラインでは,TFAのみでPFAS Totalの値を超える可能性があるため,TFAの寄与を考慮してPFAS Totalの分析結果を報告する必要があるとされているが,TFAの分析方法については明記されていない。今後,PFAS Totalといった包括的な規制が進展する中でも,TFAの環境中挙動や健康影響の評価を進める上でも,統一的な分析方法と個別分析に基づくデータの蓄積が不可欠である。
3.3 コンタミネーション管理の重要性PFAS分析においては,コンタミネーション(汚染)の管理が分析精度を左右する重要な課題である。PFASは環境中に広く存在し,分析に用いる試薬,器具,分析装置,さらにはラボ環境や分析者自身からもコンタミネーションが生じうるためである18)。特に,PTFEやバイトンなどはバイアルキャプ,配管,Oリングなど様々な製品・部品・器具類に用いられており,また撥水処理されたラボコートや,ワックス処理された床なども汚染源となる場合がある。そのため,PFASフリーの資材や専用の洗浄手順の徹底や実験環境の整備が求められる。また,超純水や有機溶媒のブランクチェックも不可欠であり,系統的なブランク管理が必要である。
また,分析装置由来のコンタミネーション(機器ブランク)が検出感度に影響を与えるため,特に高感度分析を行う場合には注意が必要である。このような背景から,PFASの機器ブランクを低減する手法の一つとして,ギャップカラムまたはディレイカラムと呼ばれる補助カラムを用いることがある。これは,試料注入前の移動相に由来するPFASを分離し,ターゲット化合物のリテンションタイムから遅延させることで,分析対象と重ならないようにするために用いられる。通常,LCシステムのポンプと試料注入口の間に配置される。このカラムにより,機器ブランクと真のピークとの識別が容易になる。ただし,これらのカラムを導入しても機器ブランクがなくなるわけではないため,フッ素樹脂を含む配管やシール材など,装置構成部品の見直し・交換を通じて,機器ブランクそのものを最小化する対策が重要である18)。
コンタミネーションは,ターゲット分析はもちろんのこと,後述するPFAS Total分析においても重要な課題であり,注意を払って管理することが求められる。
PFAS Total分析とは,すべてのPFASを包括的に分析することを目的とした手法である。EUの飲料水指令では,PFAS Totalはthe totality of per- and polyfluoroalkyl substancesとして記載されている。日本語では「総PFAS」や「全PFAS」などと訳されることがあるが,現時点で用語の統一はなされていない。また,現時点において,すべてのPFASを完全に分析可能な分析手法は確立されておらず,PFAS Totalを評価するための代理的手法として,抽出態有機フッ素(Extractable Organic Fluorine, EOF),吸着態有機フッ素(Adsorbable Organic Fluorine, AOF),酸化性前駆体総濃度分析(Total Oxidizable Precursors Assay, TOP assay),ノンターゲット分析(Non-targeted analysis, NTA)などが用いられている。
4.1 EOF分析 4.1.1 EOF分析の概要EOF分析は,試料中に存在する抽出可能な有機フッ素化合物を網羅的かつ定量的に把握する手法であり,2007年にPFAS評価法として初めて報告された19,20)。この手法では,燃焼イオンクロマトグラフ(Combustion Ion Chromatography, CIC)を用いて,フッ素化合物を高温で燃焼し,生成されるフッ化水素を水中に捕集したのち,イオンクロマトグラフィーによりフッ化物イオンとして定量する。
CICに導入する試料の前処理方法によって,分析対象となるフッ素化合物の範囲が変化する。前処理を行わない場合,無機および有機のすべてのフッ素化合物が測定対象となるが,水試料中のEOFを分析する場合には,SPEにより,有機フッ素化合物を抽出した後にCICで分析するのが一般的である(Fig. 2)。この抽出操作は,ターゲット分析に用いられるSPE法と類似するが,EOFではSPEカラムに保持された無機フッ素を除去する目的でアンモニア水による洗浄を行う点が異なる。また,内標準物質を添加しないことも,ターゲット分析とは異なる。これはCICでは全フッ素量を測定するため,PFAS由来のフッ素と内標準由来のフッ素を区別できないためである。

SPEを用いたEOF分析は,ターゲット分析と同様に低いブランク値を実現できるという利点があり,適切な前処理や,前処理ブランク・機器ブランク管理を行えば,水試料中のEOFを数十~数百 ng-F/Lの範囲で測定することが可能である。これはEU飲料水指令におけるPFAS Total基準値(500 ng/L)にも対応可能な感度である。
EOFはPFASを網羅的に把握できる手法であり,特定成分に依存しないため,PFAS総量の過小評価のリスクが比較的小さいとされている。一方で,EOFはPFAS以外の有機フッ素化合物(例:フッ素化医薬品)や,ヘキサフルオロリン酸(Hexafluorophosphate; PF6-),テトラフルオロホウ酸(Tetrafluoroborate; BF4-)などの無機フッ素イオンの影響を受ける可能性が指摘されている21)。抽出条件が不適切な場合,これらが抽出液中に残存し,EOF値を過大評価する要因となる。たとえば,洗浄条件が弱い(例:アンモニア水濃度0.001%)とフッ素イオンや無機フッ素化合物が除去されずに残留することが報告されており,逆に洗浄を強化(例:アンモニア水濃度0.1%)すると,TFAやPFBAなど一部のPFASまで除去される恐れがある19)。現状では,抽出液から無機フッ素を完全に除去することは困難であるため,EOFの定義を「抽出態有機フッ素(Extractable Organic Fluorine)」ではなく,「抽出態フッ素(Extraction of Fluorine)」と表現する例もある(例:EU飲料水指令のテクニカルガイドライン17))。
EOFおよび後述するAOFに共通する点として,得られる値はフッ素濃度(例:ng-F/L)であることに留意が必要である。一方,EUの飲料水指令におけるPFAS Totalの規制値である 500 ng/LはPFASそのものの質量濃度(ng-PFAS/L)を示すものであり,直接比較することはできない。たとえば,EOF値が 344 ng-F/Lであった場合,これがすべてPFOA(C8HF15O2)に由来すると仮定し換算すると(PFOA中のフッ素含有率約68.8%),500 ng/L PFOAeqに相当する。したがって,EOFやAOFの測定値をPFAS濃度に換算し,規制値と整合的に解釈する方法も統一することが今後求められる。
4.2 AOF分析AOF分析は,試料中のすべての吸着可能な有機フッ素化合物を測定する方法で,固相吸着剤にフッ素化合物を吸着させた後,EOF分析と同様にCICを用いて水試料中の有機フッ素化合物を測定する方法である。AOFは活性炭を用いて水試料中の有機フッ素を吸着し,この活性炭をCICで測定する方法であり,EOFとは試料の前処理方法が異なる。特に,EOFでは試料を固相吸着カートリッジに通水後,有機溶媒で目的物質を溶出した抽出液を測定するのに対し,AOFは試料水を通水した活性炭そのものを測定する点が異なる。
AOF分析方法は,US EPAからMethod 162122)がスクリーニングメソッドとして公表されているほか,ISOではドイツ工業規格のDIN 38409-59:2021を基にしたISO/FDIS 18127 23)が現在議論されている。AOFはスクリーニングメソッドとして簡便に吸着可能な有機フッ素を測定できる一方で,活性炭そのもののフッ素ブランクが高いため,検出・定量下限値が高くなる点に注意が必要である。Method 162122)では,分析方法の開発段階で 0.1~6 µg-F/Lの活性炭のベースラインコンタミネーションが観測され,ISO/FDIS 18127の検出限界は 2 µg-F/Lが提案されている。したがって,EU飲料水指令で提案されているPFAS Totalの規制値 500 ng/Lは,既存のAOF分析方法では評価できないため,EU飲料水指令におけるテクニカルガイドラインに記載されていない。今後は,低フッ素ブランクの活性炭の開発と普及が求められる。
4.3 TOP assay分析前駆体PFASを評価する手法として,TOP assay,加水分解性前駆体総濃度分析(Total Hydrolysable Precursors Assay; THP assay)および光分解性前駆体総濃度分析(PhotoTOP)などが提案されている24,25,26,27)。TOP assayおよびTHP assayは,それぞれ酸化または加水分解によってPFAS前駆体などを分析可能なPFCAsやフルオロテロマーアルコールなどへ変換し,従来のLC-MS/MSまたはGC-MS(/MS)による定量分析が可能になる。PhotoTOPは光触媒を用いて酸化分解を行う方法である。本節ではTOP assayの概要と課題について述べる。
4.3.1 TOP assay分析方法の概要TOP assayでは,ペルフルオロオクタンスルホンアミド(perfluorooctane sulfonamide, FOSA)はPFOAへ,6:2フルオロテロマースルホン酸(6:2 fluorotelomer sulfonic acid, 6:2 FTSA)はペルフルオロヘキサン酸(perfluorohexanoic acid, PFHxA)などのPFCAsに分解される(Fig. 3)24,27)。このように,仮にターゲット分析では把握されない前駆体も,分解後のPFCAsを通じて評価可能となるため,PFASの潜在的存在量を包括的に推定する手法として有効である。本手法は,EU飲料水指令に基づくテクニカルガイドラインにおいてPFAS Totalの代替評価手法の一つとして位置付けられている。

TOP assayにおける酸化処理工程の一例をFig. 4 に示す。試料に過硫酸二水素カリウムおよび水酸化ナトリウムを添加し,pH 12以上のアルカリ条件下で85°C以上,6時間以上加熱して酸化分解を行う。酸化処理後,試料のpHを酸で3以下に調整し,ターゲット分析と同様にSPE(固相抽出)を行った後,分解生成されるPFCAsやPFSAsを含めてLC-MS/MSにより定量する。この手法により,従来のターゲット分析では検出されなかった前駆体由来のPFASもPFCAsとして評価が可能となり,PFASの包括的な評価が可能となる。

本手法では,酸化によりターゲット分析が可能なPFOA等に分解されるPFASを評価する方法であるため,PFAS総量を過大評価するリスクは相対的に小さいとされる。また,ターゲット分析と同様にLC-MS/MSを用いるため,既に同装置を用いている分析機関では比較的導入が容易である。また,LC-MS/MSは高感度・高精度な測定ができるのも利点である。
一方で,TOP assayにはいくつかの課題がある。最大の課題は,酸化条件の影響を大きく受ける点である。酸化剤の種類,反応時間,pH,温度などの前処理条件により,分解される前駆体の種類や分解生成物やその分解率は大きく変動し,施設間での分析結果の相互比較性を低下させる可能性がある。反応が不完全である場合には,一部の前駆体が未分解のまま残存し,PFAS Total量が過小評価されるおそれもある。また,現在は,分解後のPFASの合算濃度で評価されることが多いが,PFAS Totalとしては,EOFのようにフッ素量に換算して評価すると,比較が容易になるだろう。
さらに,酸化処理後の試料には多量の塩類が含まれることがあり,SPE抽出の効率を低下させたり,LC-MS/MS分析においてマトリクス効果が生じたりする。このため,分析精度を確保するには,以下のような複数の内部標準物質による補正が不可欠である。
・Oxidation Standard(OS):酸化処理前に試料に添加し,酸化反応の効率を評価する。たとえば,FOSAは酸化によりモル比で約90%がPFOAへと変換されことを利用し,13C8-FOSAから生成された13C8-PFOA量を定量することで酸化効率を評価する。
・Internal Standard(IS):酸化後かつSPE抽出前の試料に添加し,SPEによる回収率を評価・補正する。
・Recovery Standard(RS):分析機器に注入する直前に添加し,マトリクス効果(イオンサプレッションやエンハンスメント)を評価する。
なお,これらの内標準物質の選定においては,OSから生成される化合物とISおよびRSが重複しないよう注意する必要がある。たとえば,OSとして13C8-FOSAを使用する場合,13C8-PFOAが生成されるため,PFOAの分析にはISとして13C4-PFOA,RSとして13C2-PFOAを使用する。しかし,これらのサロゲート化合物は高価なため,必要となるすべての標準物質を入手することが困難であることも課題である。
さらに,TOP assay分析では特にブランク管理も重要な課題である。ターゲット分析ではブランクが適切に管理されているラボであっても,TOP assayではターゲット分析で非対象の前駆体由来PFASがブランクとして検出されることがあるためである。そのため,ターゲット分析よりも厳格なブランク管理が求められる。
以上のように,TOP assayの精度と比較可能性を確保するためには,反応条件の標準化および国際的な手法の統一が重要である。あわせて,前駆体の化学構造や環境マトリクスに起因する反応性の違いも考慮すべきであろう。
4.4 NTANTAは,ターゲット分析とは異なり,事前に特定の目的物質を設定せずに試料中の化合物を広範にスクリーニングする手法である。主な目的は,未知の化合物を検出し,同定することにある。NTAでは,飛行時間型質量分析計(TOF-MS)やオービトラップ質量分析計(Orbitrap-MS)などの高分解能質量分析計が一般的に使用される。これらの高分解能質量分析計は,質量分析の精度を高め,非常に微細な化合物も識別可能であるため,未知化合物のスクリーニングに適している。
NTAの一形態としてサスペクトスクリーニング(SSA)がある。SSAは,質量スペクトルライブラリーにリスト化された物質を対象に,検出および同定を行う手法である。しかし,リストに含まれるすべてのPFASの標準物質を準備することが困難であるため,定性評価が主な目的となり,定量的な測定とは異なる。
NTAの実施においては,機器測定方法に加えて,前処理方法の選定も重要である。適切な前処理が行われないと,測定したいPFASが検出されない可能性がある。その一方で,不適切な前処理により,試料中にPFASのイオン化を阻害または促進する夾雑物質が残存することがあり,これが定性結果に影響を与えることがあるため,前処理のバランス調整が非常に重要である28)。そのため,前処理の標準化と最適化もNTAの信頼性を高めるために不可欠である。
NTAは,EU飲料水指令のテクニカルガイドラインにおいて,PFAS Total分析方法の一つとしても明記されている17)。ワークフローとしては,SSAと並行して,質量欠損(Mass Defect, MD)とKendrick質量欠損(KMD)を用いる方法29),炭素数で正規化した質量欠損(MD/C)と質量数(m/C)を用いる方法30),CF2単位(49.99681 Da)の質量差に基づいて同族体を抽出するホモログスクリーニング31),さらに分子ネットワークやクラス間スペクトルの類似性に基づく手法32)などやこれらを組み合わせる方法など,さまざまなアプローチが報告されている。このように,質量データの取得方法やワークフローに関する研究は現在も進行中であり,標準化のためには更なる開発が求められている。
本稿では,ターゲット分析,EOF,AOF,TOP assay,NTAなど,各種PFAS分析手法の特徴と限界を概観し,PFASの網羅的把握に向けた現行の技術的課題について論じてきた。以下では,PFAS Total分析法を中心に,それぞれの手法の利点や課題を比較しつつ,総括を行う。代表的なPFAS Total分析手法であるTOP assay,EOF,NTAの利点と課題をTable 1 にまとめた。TOP assayは,PFAS前駆体を酸化分解し,最終生成物であるPFCAsに変換することで,前駆体の存在量を間接的に評価する手法である。しかし,酸化条件の制御によって結果が大きく左右されるため,分解の不完全性やマトリクス中の干渉成分により測定値が過小評価されるリスクがある。
EOFは,抽出可能な有機フッ素をフッ素量として一括定量する手法であり,ターゲット分析では検出されないPFASの存在を示唆する指標となる。ただし,医薬品や農薬など,PFAS以外のフッ素化有機化合物も含まれる可能性があるため,結果の解釈には注意を要する。
NTAは,未知または構造類似のPFASを探索するための有力な手段であり,質量スペクトル情報を活用した網羅的スクリーニングが可能である。しかしながら,解析には高度な専門性を要し,測定者間での再現性や結果の解釈の一貫性が課題として残されている。
いずれの手法も,PFOSやPFOAといったレガシーPFASの評価には有効であるものの,すべてのPFASを完全に捉えることはできないことに留意が必要である。各手法には,検出可能なPFASの特性や分子構造に応じた分析ウィンドウが存在する(Fig. 5)。したがって,PFASの包括的な評価を行うためには,分析の目的や対象化合物,試料マトリクスの特性に応じて,最適な手法を適切に選択・組み合わせ,相補的に運用(Fig. 6)することで,より高い信頼性での評価が可能となる。たとえば,ターゲット分析によって主要なPFASを定量し,EOFにより総量を把握,さらにTOP assayにより前駆体の存在を補完的に評価することで,汚染実態のより正確な把握につながる。加えて,NTAを用いて未知PFASの探索を行うことは,新規化合物のモニタリングや規制対象物質の見直しに資する情報を提供し得る。


一方で,PFAS分析技術には依然として多くの技術的課題が残されている。その一つが標準物質の不足である。現在,認証されているPFAS標準物質は限られており,とりわけ新規PFASや前駆体化合物については定量の信頼性確保が難しい。また,高塩濃度や有機物負荷の高い試料では,イオン抑制などのマトリクス効果により定量精度が著しく損なわれる可能性がある。さらに,異なる手法や実施機関間で得られたデータの比較可能性が十分に担保されておらず,国際的な枠組みに基づく分析法の標準化と品質保証体制の整備が強く求められる。
PFASに関する環境モニタリングをより効果的に行い,持続可能な管理を実現するためには,ターゲット分析に加えてPFAS Totalスクリーニング手法の実用化と標準化を,そして水質に加えて大気,生物,植物など多様な環境媒体や製品中のPFASを対象として進め,今後の研究と制度整備の両面からの取り組みを進めて行くことが求められる。
本研究の一部は,環境省・(独)環境再生保全機構の環境研究総合推進費(JPMEERF20245001)により実施した。