Journal of Environmental Chemistry
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ISSN-L : 0917-2408
Review
Field Monitoring of PFAS: Current Trends and Emerging Challenges in Japan
Kei NOMIYAMA
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2026 Volume 36 Issue Special_Issue Pages s34-s43

Details
要約

現在の日本では,河川や飲料水におけるPFAS汚染,土壌への吸着および地下水汚染とそれに伴うリスクに注目が集まっている。一方で,野生生物における汚染状況については依然として知見が乏しい。PFASの生物影響を考慮すれば,高次栄養段階の生物を対象としたバイオモニタリングは,環境汚染の実態および生態系への影響を把握するうえで極めて重要である。しかしながら,PFASの分析法には依然として技術的課題が残されている。今後は,レガシーおよび新興PFASを含む包括的なモニタリング体制の構築と,高精度かつ高感度な分析手法の導入が求められる。日本においても国際的な協調のもとでモニタリング体制の拡充を図り,多様なPFASに対する包括的な管理戦略を早急に確立する必要がある。

Summary

This paper reviews the status and challenges of monitoring PFAS (per- and polyfluoroalkyl substances) in aquatic environments, soil, and wildlife, and suggests future directions for field monitoring in Japan. Currently, attention in Japan is focused on PFAS contamination in rivers and drinking water, as well as PFAS adsorption to soil and groundwater contamination and associated risks, while the contamination status of wildlife remains unknown. PFAS accumulate in the liver, serum and kidneys of living organisms and have been implicated in lipid metabolism disorders and liver damage. Therefore, biomonitoring of higher trophic level species such as fish, birds and cetaceans is critical to understanding environmental contamination levels and ecological impacts. However, analytical techniques for this purpose remain limited.

In the future, it will be necessary to establish a comprehensive monitoring system for legacy PFAS, as well as emerging and alternative PFAS, and to introduce high-precision analytical methods. In addition, scientific knowledge that considers ecological impacts is needed for policy decisions that go beyond human health. To this end, Japan urgently needs to expand environmental monitoring and establish a comprehensive PFAS management strategy through international coordination.

1. はじめに

PFAS(Per and polyfluoroalkyl substances)は,耐熱性・耐薬品性・界面活性などの優れた特性を示すことから1,2,3,4,1940年代以降,半導体製造や消火用泡消火剤,撥水加工剤など多くの用途で使用されてきた4,5,6。しかし,環境中での高い安定性により,水や土壌,野生生物,ヒトの体内からも広く検出されている2,3,4,5,6,7,8。PFASへの曝露は,健康リスクを引き起こす可能性があり9,10,11,PFOS(perfluorooctane sulfonic acid),PFOA(perfluorooctanoic acid),PFHxS(perfluorohexane sulfonic acid)はそれぞれ2009年,2019年,及び2022年にストックホルム条約付属書BおよびAに追加され,使用の制限及び廃絶が決定された。さらに,環境保護局(EPA)および欧州化学機関(ECHA)や欧州食品安全機関(EFSA)により,炭素鎖9~14のPFCAs(Perfluoroalkanecarboxylic acids)や炭素鎖4,6,9のPFSAs(Perfluoroalkyl sulfonic acids)などが高懸念物質として規制され,許容摂取量を設定している1,12,13。それを受けて,産業界では短鎖のPFBA(Perfluorobutanoic acid)や,エーテル基を含むPFESs(Perfluoroalkyl ether substances)などの代替物質の利用が近年増加している14,15。さらにPFESA(Perfluoroalkyl ether sulfonic acid),PFECA(Perfluoroalkyl ether carboxylic acid)などの新興PFASも環境中やヒト・野生生物から検出されている16,17,18。しかし,これらの新興PFASについての知見はまだ限られ,健康や環境への影響が懸念されている。

現在,EPAの「PFAS structures in DSSTox」には14,700種類以上のPFAS物質が登録されているが1,PubChemにはCF3またはCF2分子を基本骨格とする化合物が700万種類以上登録されている19。これは現在明らかになっているPFAS汚染が氷山の一角である可能性が高いことを意味する。新興PFASの多様な物理化学特性は,分析技術の開発を困難にし,環境中での移動やヒトへの曝露リスクを増大させるため,PFASの挙動解明は急務である18

本総説では,PFASの特異な特性と環境残留性を踏まえ,国内外の水・土壌・野生生物モニタリングの現状と課題を整理し,今後の日本におけるフィールドモニタリングの方向性を考察する。

2. PFASと水環境汚染とモニタリング

世界的に地下水,地表水,飲料水,湖沼のPFAS汚染が広がっている20。とりわけ,地下水が一度PFASに汚染されると,その影響は極めて長期にわたる可能性が高いため,地下水中におけるPFAS汚染は,将来的にも持続的な公衆衛生上の重大な懸念事項である。地下水中のPFASの存在は,土地利用(汚染源),水文学的要因(輸送),地球化学的要因(運命と輸送)によって左右される21。近年,航空燃料火災の消火に使用される水成膜泡消火剤(AFFF)は,PFASの重要な地下水汚染の要因として注目されている22。AFFFのPFAS組成は時代や地域によって異なり,その特徴的な汚染パターンを解析することで汚染源の特定に役立つことがある22

PFASは主に工業化学生産施設周辺の地域において,河川や地下水等の水源から広く検出され23,24,汚染された水源の影響を受ける地域に住む住民の血清中PFAS濃度の上昇が報告されている25,26。これを受け,EPAでは飲料水中のPFOA,PFOS,PFHxS,PFHxA(Perfluorohexanoic acid),HFPO-DA(Hexafluoropropylene oxide dimer acid)の最大汚染物質濃度を 4~10 ng/Lに設定した27。一方,欧州委員会(EC)では,20種類のPFASの合計濃度を 0.1 μg/L以下に制限する規制を導入した28

日本では2020年「水質汚濁に係る人の健康の保護に関する環境基準等の施行等について(通知)」により,暫定水質指針値(PFOSとPFOAの合計)が 50 ng/Lに設定された。しかし,2020年の全国調査では,12都府県21地点でこの暫定基準値を超過している29。さらに,日本のPFASモニタリング対象の多くはPFOS,PFOA,PFHxSの3物質のみに限られており,また現状,都道府県レベルの調査ではPFHxSはほとんど含まれていない。したがって,新興PFASや短鎖のPFASによる汚染にも注視する必要がある。短鎖PFAS(炭素数6以下のPFCAsおよび炭素数5以下のPFSA)は,水層や堆積物中で高い移動性を示すため30,環境への影響が大きいことにも関わらず,これまで監視が十分に行われていない。マサチューセッツ州の公共水道水のPFASレベルは上昇傾向にあり,汚染レベルは25年間で5~320倍も増加している。しかし,これらPFASの最大94%は定量化されていない(未知のPFAS)であることが示されている31。そのため,今後は日本においてもノンターゲットやワイドターゲットのような,探索型のPFAS分析により,標的とする新規PFASを明らかにすることも重要となる。

近年,関西エリアにおける飲料水や河川域におけるPFAS汚染の動向はとくに注視されている。これは流域内にフッ素樹脂メーカーの事業場が存在し,事業場排水を受け入れる下水処理場の放流水から高濃度のPFOAが検出されていることによる32,33。これまでの調査では2007年と比較して近年のPFOAおよびPFOSの濃度は減少しているが,代替物質であるPFHxAの排出量は増加しており,最大 10 μg/Lの濃度で検出されている33。その他,PFOS,PFBS(Perfluorobutanesulfonic acid),PFDS(Perfluorodecanesulfonic acid),PFHxS等のPFSAs類,およびPFBA,PFOA,PFNA等のPFCAs類に加えて,新興・代替PFASであるFOSA(Perfluorooctane sulfonylamide),N-MeFOSA(N-methylperfluorooctanesulfonamide),N-EtFOSA(N-ethylperfluoro-1-octanesulfonamidoacetic acid)が検出されている。近年では,PFOAの代替物質として利用が増加しているGen-X(HFPO-DA)も,0.5~43 ng/Lの範囲で検出されている33。世界的にGen-Xの関連化合物であるHFPO-TA(三量体)やHFPO-TeA(四量体)による汚染が懸念されているが,日本の汚染実態はほとんど明らかになっていない。これらのPFASはEPAが提示するPFASリストの対象になっていないため,汚染が見逃されやすい可能性がある。今後の社会的動向を踏まえると,多様な新興・代替PFASによる水環境の汚染実態を把握し,その結果に基づいた環境政策の方向性を議論することが求められる。

3. 土壌におけるPFASモニタリング

一部の炭素鎖が9以上の長鎖PFASは強い土壌への吸着性を示すが,短鎖PFASの吸着性は相対的に低く,地下へ浸透することで最終的に地下水を汚染する34。したがって,地下水汚染に直結する可能性のある土壌中のPFAS汚染は,モニタリングにおいて重要な課題の一つである。EPAでは「土壌スクリーニングガイダンス」に基づき,地下水汚染の可能性がある土壌中のPFAS濃度を評価する方法を定めている35。例えばPFOSでは,土壌中濃度が 0.002 μg/kgを超えると,その地点の地下水汚染のリスク有りと判定される36。一方,表層土壌のスクリーニングレベルは 0.6 μg/kgに設定されている。これは直接摂取,揮発性吸入/粉じん吸入,地下水を介した摂取等の土壌の直接的な摂取シナリオに基づいており,複数の汚染物質の影響を考慮した,目標ハザード指数(HQ)=0.1のデフォルト設定に基づいて算出されている。しかし,この基準では北米の広範な地域で基準値を超過している37。最近の研究では,EPAの土壌-地下水スクリーニング手法の改良が提案され,15種類のPFASについて新たなスクリーニングレベルを提示した38。これによると,PFOS以外の14種類のPFASについては,ほとんどが検出限界以下またはバックグラウンドレベルに近い濃度であった。一方,PFBS,PFHxA,PFUnDA(Perfluoroundecanoic Acid)などの一部のPFASでは,比較的高い濃度レベルが示されており,こちらも継続したモニタリングが重要となる。

日本においてもPFASの発生源を特定し,それぞれに適した環境修復技術を適用するためには,土壌中PFAS汚染の広範な実態調査が必要である。今後,土壌モニタリングの拡大が予想されるが,現在の日本のモニタリング対象はPFOS・PFOA・PFHxSの3種類に限定されている39。そのため実際に使用されているPFASとの乖離があり,発生源の特定が困難になる可能性が高い。このため,ISO 21675やUS EPA Draft Method 1633に基づく「PFAS多成分分析」を適用した濃度・組成解析が求められる。

これまでの土壌中PFASの研究結果を整理すると,地域ごとに土壌の組成や不純物が異なり,測定対象となるPFASの種類や分析手法も統一されていないことから,地理的な比較が困難とあった。最近,農研機構の殷らは,土壌試料の採取,抽出,精製,機器分析,データ解析に関する包括的な分析マニュアルを作成している40。このマニュアルでは毒性や社会的懸念に基づき,優先的に分析すべき30種類のPFASを選定しており,ISO 21675に基づく水中PFAS分析手法と同様の化合物を対象にしている。この手法により,既存の水・食品中のPFASデータと比較が可能となり,PFASの組成プロファイルに基づく全国規模で地理的な土壌-地下水の比較が可能となり,スクリーニングの加速が期待される。

4. 生物モニタリングの重要性と分析手法の課題

高次生物を対象としたバイオモニタリングは,環境汚染の指標として重要な役割を担う。一部のPFASは,難分解性・生物蓄積性を有しており,食物連鎖の上位に位置する捕食者は寿命が長く,広範囲にわたって採餌を行うため,長期的なPFAS汚染の曝露状況を反映しやすい41,42。また,一部のPFASは内分泌かく乱作用を有しており,生殖ホルモンの異常や甲状腺ホルモンの恒常性等の影響が示唆されている43,44Table 1 はこれまで報告されている高次生物種別のPFCAsおよびPFOS濃度と,特徴的な一部の新興・代替PFAS濃度を整理したものである。野生生物で検出されたPFCAsとPFOSのプロファイルを整理すると,濃度だけでなくプロファイルにも種差と地域差が存在することが推察される。しかし,この差が種差であるか地域差であるかは判断が難しい。その理由として,(1)多くのPFASの生物残留性・濃縮性が未解明,(2)分析対象であるPFASが統一されていない,(3)種による蓄積部位の違い,(4)不十分な前処理によるマトリックスの影響の可能性等が考えられる45,46,47

Table 1 Summary of studies reporting the exposure to PFAS concentration (ng/g ww) in wildlife worldwide

現在,液体クロマトグラフ・タンデム質量分析計(LC-MS/MS)は,PFAS測定の標準技術として広く認識されており48,49,50,分析機器の高感度化によって一部のPFASにおいてはピコグラムレベルの検出限界が容易に達成されている50,51。環境試料中のPFASの抽出・精製・濃縮には,ISO 21675およびUS EPA Draft Method 1633に準拠した固相抽出(SPE)および液液抽出(LLE)が広く利用されており51,52,53,多様な生物を対象とした分析事例が報告されている。多くのPFASはイオン性化合物であり,主に肝臓に蓄積するが,一部は腎臓や胆汁中からも検出されることが報告されている54,55,56。しかし,高マトリックスの生体試料におけるPFAS分析の精度には依然として課題がある。これはPFASの残留は肝脂肪酸結合タンパク質,血清アルブミン,核内受容体(PPARα)などの標的タンパク質との結合が関与しているためである57。これらのタンパク質が高濃度で存在する肝臓は,PFASの主要な蓄積部位である。肝臓試料からPFASを抽出する際には,タンパク質を分解あるいは変性・凝集させることでPFASを遊離させ,脂肪酸などの高マトリックス成分を除去する必要がある。Taniyasuらは,ビーバー(C. canadensis)の肝臓試料を対象にイオンペア抽出法と,アルカリ消化法の後にOasis WAXを用いた抽出法を比較し,アルカリ消化法の方が高い回収率を示すことを初めて報告した8。このような知見に基づき,近年ではアルカリ消化と陰イオン交換型WAXカートリッジを組み合わせたSPE法の適用事例が増加している。しかし,WAXカートリッジだけでは生体成分由来のマトリックスを十分に除去できず,イオン化抑制が生じることが報告されている58,59。このため,グラファイトカーボンを併用することでマトリックスの影響を低減し,回収率の向上が期待できる58。それでもリノール酸,オレイン酸,ステアリン酸などの脂肪酸が夾雑物として残存する場合には,マトリックス効果によりPFASの分析精度が大きく損なわれる可能性がある59。また,タンパク質を分解させるアルカリ消化法は上記のマトリックス成分を増大させる可能性があることにも注意が必要である。とくにPFOSは胆汁酸を十分に除去出来ていない場合,マトリックス効果により濃度を過大評価しやすいため注意が必要である。

こうした背景を踏まえ,著者らの研究グループでは最近,サイズ排除クロマトグラフィー技術を応用した,高マトリックスの生物試料に対応可能な新たなクリーンアップ法を開発した59。本手法では従来の固相抽出法にAgilent社から発売されているCaptiva EMR-LipidやCaptiva EMR PFAS Foodカートリッジを組み合わせることで,脂質やリン脂質,胆汁酸等のマトリックス成分に対して高い除去効果を確認しており,今後の野生生物を対象としたPFASモニタリングへの応用が期待される。

5. 魚介類を対象としたPFASモニタリング

河川のPFAS汚染評価には,発生源から表層水・水生生物に至る広範なモニタリングが重要であり,魚類は入手しやすい点からも有効な指標となる。魚類のPFAS残留プロファイルは汚染状況を反映しやすいため,主要な曝露源の特定にも活用できる60。ノルウェーの8か所の異なる地点で採取された淡水魚を対象に,PFASの濃度とプロファイルを調査した結果では,特徴的なPFAS汚染による3つの異なる汚染源:(1)紙製品の製造,(2)AFFFの使用,(3)長距離大気輸送による汚染があることを提示している60

最近の研究ではFOSA等(Fig. 1a)のスルホンアミド系PFAS(FASAs)が魚類で高い残留性を示し,PFCAsよりも生物濃縮係数(BCF)が1から3桁高いことが示されている61。しかし,モニタリング事例は少なく,魚種ごとのPFAS取り込み特性とBCFの評価が今後の課題である61。BCFは,フルオロカーボン鎖の長さが長くなるほど高くなるが,一方でフルオロカーボン鎖長が7以下のPFCAsおよび6以下のPFSAsは,魚類の組織には蓄積しにくい62

Fig. 1 Chemical Structures of Emerging and Alternative PFASs Detected in Wildlife in Recent Years

ニジマス(Oncorhynchus mykiss)は炭素鎖が8-12のPFCAおよびPFSAを効率的に取り込むことが示されており63,とくに血漿と肝臓のPFAS濃度が最も高く,筋肉の濃度は最も低いことから,水環境から魚類へのPFASの移行・残留性を評価する際には,筋肉だけでなく肝臓を解析対象とすることが重要である。

日本における魚類のPFAS汚染の報告は未だ限定的ではあるが,北海道沿岸域で歳出されたマダラを分析した結果,長鎖PFCA(C9-14)の比較的高い残留性を報告している64。しかし本研究はPFCAsの分析に限定していることから,日本沿岸域でのPFSAsおよび新興PFASによる汚染実態は不明な点が多い。

貝類のPFAS取り込みに関する研究では,魚類と同様にPFCAsではフルオロカーボン鎖の長さが長くなるほど取り込み量が増加することが報告されている65,66。日本の食用アサリ(Ruditapes philippinarum)中のPFCAsを分析した事例では,日本産のアサリはカナダ産のアサリと比較して有意にPFAS濃度が高く,PFOAは日本産アサリ中のPFCAsの約53%を占めていることが報告されている67。一方,PFSAsでは短鎖PFSAsの蓄積が確認されている65。ムール貝(Mytilus)の研究では,PFASの取り込み量が水中濃度に依存することが示されており,PFASの水中濃度が高くなるに従い,ムール貝中PFAS濃度/PFAS水中濃度であるBCFが低下する66。これは,ムール貝が取り込まれた遊離体のPFASを排出する機能を有している可能性がある。

6. 海棲哺乳類としたPFASモニタリング

海洋生態系の頂点捕食者である海棲哺乳類は,一部のPFASを生物濃縮する。2000~2017年に北半球の5つの地域(アメリカ大西洋沿岸,スウェーデン,東グリーンランド,西グリーンランド,アイスランド)で採取された鯨類6種の肝臓を対象に行われたPFAS分析では,標的とした36種類のPFASのうち20種類が検出された68。特にPFOS(57~857 ng/g ww)による汚染が顕著であり,PFOSは鯨類だけでなくホッキョクグマ(Ursus maritimus)(1,806 ng/g ww)でも高濃度のPFOS汚染が確認されている(Table 1)。さらに,7:3 FTCA(2H,2H,3H,3H-Perfluorodecanoic acid)の汚染が顕著であった(Fig. 1b)。地域ごとの違いを比較すると,グリーンランドのシャチ(Orcinus orca)でPFAS蓄積レベルが最も高く,食物連鎖を介した生物濃縮が強く反映されていることが示唆される。また,全ての検体で奇数鎖長の長鎖PFCAsで顕著な残留性・生物濃縮性が示されている。PFCAsはFluorotelomer olefins混合物のオゾン酸化によって製造される過程で,奇数PFCA(C=9, 11, 13)が優先的に得られるためである69

アメリカで採取されたヒゲクジラの分析事例では,ひげ板,肝臓,脂皮,皮膚,歯茎を対象にPFASが測定され,全ての組織からPFASが検出されている70。PFAS濃度は肝臓で最も高いレベルを示したが組織間でPFASの組成に差異が認められた。肝臓からはPFOSだけでなく高濃度の7:3 FTCAが検出されている。このことから7:3 FTCAはPFOSと同じように生物濃縮性を有すると推察され,モニタリングで注意を払うべきPFASの1種である。7:3 FTCAは鯨類だけでなく,極域のワモンアザラシ(Pusa hispida)の肝臓でも観察されている(Table 171。7:3 FTCAは,8:2 FTOH(1H,1H,2H,2H-Perfluoro-1-decanol)からPFCAsへの代謝過程における中間生成物と考えられている72。8:2 FTOHはフッ素化ポリマーおよびフッ素系界面活性剤の製造における重要な原材料であり,AFFFにも使用されてきた。8:2 FTOHは活性汚泥,汽水域,土壌などの好気的環境下で容易に生体変換される73。一方,7:3 FTCAより短鎖のFTCAは高次生物からはほとんど検出されておらず,生物濃縮性は低いと考えられる。

アジアでは,中国と香港で2012~2018年に採取されたスナメリ(Neophocaena phocaenoides)とシナウスイロイルカ(Sousa chinensis)の肝臓を対象としたPFAS分析が報告されている74。この調査では,検出されたPFASのうちPFOSが最も寄与率(46%)が高く,次いで9Cl-PF3ONS(9-Chlorohexadecafluoro-3-oxanonane-1-sulfonate)(30%)の寄与率の高いことが特徴的であった。9Cl-PF3ONS(6:2 Cl-PFESAとも表記される)は,中国で広く使用されているF-53B製剤に含まれる化合物であり,これは地域特異的な汚染であると推察される。しかし,近年は地球規模でのF-53Bによる汚染と広がりが懸念されている(Fig. 1c75。この物質は主にメッキ産業でクロムミスト抑制剤として使用され,PFOSの代替品として広く用いられている。F-53B製剤中には9Cl-PF3ONSが90%,11Cl-PF3OUdS(11-Chloroeicosafluoro-3-oxaundecane-1-sulfonate; 8:2 Cl-PFESAとも表記される)が10%程度含有されており,日本を含む世界各国でF-53Bの環境中濃度が著しく増加している。9Cl-PF3ONSは生物濃縮性が高く,PFOSに匹敵する長い半減期を有する可能性が示唆され76,汚染実態の解明が急務である。東シナ海で採取されたスナメリを対象にした経年変化に注目した事例では,PFCAsの経年的な減少が認められるが,代わってPFHxSやFOSAの経年的な上昇,9Cl-PF3ONSの近年の上昇が認められている77

日本沿岸域では,Fujiiらが北海道沿岸域に漂着した14種の鯨類の肝臓中PFCAs・PFSAs濃度について報告しており78,その濃度は 10~1,500 ng/g-wetの範囲であったことから,諸外国と比較して比較的高濃度で検出されている。プロファイルに注目すると,PFUnDAとPFTrDA(Perfluorotridecanoic acid)の濃度が支配的であり,総PFASの70%以上を占めていた。鯨類の多くの研究でPFOS濃度は支配的であることから,これまで報告されている鯨類とは異なるプロファイルを示している。これは北海道沿岸域で確認されている長鎖PFCAsによる汚染を反映している可能性がある64。しかし新興PFASによる汚染実態や,日本の他海域,例えば西日本や瀬戸内海等の閉鎖性海域の鯨類のPFAS汚染の報告は限定的であり,今後の調査が必要である。

7. 陸棲哺乳類を対象としたPFASモニタリング

2015~2020年にドイツとデンマークで採集された多様な哺乳類の肝臓を対象としたPFASモニタリング研究では,食性によるPFASプロファイルの違いが示されている(Table 179。草食動物では短鎖のPFCAが有意に高く,雑食動物ではイノシシ(Sus scrofa)から高いPFOS汚染(最大 450 ng/g-wet)が確認されている。また,イノシシからは陸棲哺乳類の中で唯一,9Cl-PF3ONSと6:2 FTS(6:2-Fluorotelomersulfonic acid)が検出されている(Fig. 1d)。多くの肉食動物では長鎖のPFCAsは高値であるが,陸棲の肉食動物であるヨーロッパヤマネコ(Felis silvestris)では,超短鎖PFASであるTFA(trifluoroacetic acid)の汚染が顕著であった(Fig. 1e)。一般的にTFAは親水性で速やかに排出されるため,動物組織には蓄積しないと考えられる物質である。従って,TFAの慢性的な曝露が原因と考えられるが,TFAの発生源としては,ハロゲン化冷媒(HFO-1234yf, HFC-134a, R125等)の大気中での変化と沈着,および生物学的および非生物学的変化の過程でTFAを形成する農薬の存在等が考えられる80。また,半水棲のヨーロッパカワウソ(Lutra lutra)では,他陸棲動物と比較して顕著なPFAS汚染が確認されている(Table 1)。ウェストバージニア州で採取されたカナダカワウソ(Lontra canadensis)のPFAS分析では,詳細な臓器・組織分布が明らかにされているが81,長鎖のPFCAsやPFSAsに加え,FASAsの1種であるFOSAの蓄積も顕著であった(Fig. 1a)。カナダカワウソの肝臓のFOSA濃度は血液よりも11倍高値であった。長鎖のPFCAsやPFSAsはアルブミンやリボタンパク質への結合,腸肝循環による特異な蓄積の可能性が示唆されている。酸性の性質を有するPFASが多い中で,FASAsは中性の性質を有しており,難分解性・脂溶性に基づく生物濃縮性が指摘されている61。長鎖PFCAsとPFSAsは脳からも検出されており,脳へのPFAS蓄積は行動・認知障害に繋がる可能性がある。膵臓でもPFASの蓄積がみられており,臓器・組織分布の解明とその影響評価は今後の重要な課題となる。

8. 鳥類を対象としたPFASモニタリング

高次栄養段階に位置する海鳥・水鳥は,PFASを高蓄積する82,83。従って,鳥類はPFAS汚染とその影響を研究するための理想的な生物モニタリングツールである84。海洋や大気中を移動するPFASおよび関連化合物は,地球規模で拡散することから,極域を含む世界各地の鳥類から検出されている83,84。鳥類のモニタリングでは,卵も主要なツールとして用いられている。PFASはタンパク質と結合して母鳥から卵へと移行するため,卵は親鳥の汚染状況を反映する指標として有用である85。しかし,移行率は炭素鎖の長さによって大きく異なる86。北極圏のミツユビカモメ(Rissa tridactyla)の卵黄中に残留するPFASを調査した研究では,母鳥の血漿からPFOS,PFTrDA,PFUnDAが主要なPFASとして検出された一方で,卵黄からはPFDS(Perfluorodecanesulfonic acid)およびPFHxDA(Perfluorohexadecanoic acid)が主要なPFASとして検出され,組成の違いが明らかになった87。また,一部の新興PFASは母鳥の血漿からは検出されなかったが,卵からは検出されており,新興PFASの調査には血漿よりも卵の使用が適切である可能性がある。

アメリカの大西洋中3種の海域(マサチューセッツ湾,ナラガンセット湾,およびケープ・フィア川河口域)に生息する海鳥6種(オオミズナギドリ(Ardenna gravis),アメリカセグロカモメ(Larus argentatus smithsonianus),アジサシ(Thalasseus maximus),サンドイッチアジサシ(Thalasseus sandvicensis),ワライカモメ(Leucophaeus atricilla),カッショクペリカン(Pelecanus occidentalis))の若鳥の肝臓を分析した事例88では,PFOS(11~280 ng/g, ww)と長鎖PFCAsが高頻度で検出されている。また,深刻なPFAS汚染が報告されているケープ・フィア川河口域で採取された試料からは,レガシーPFASだけでなくNafion byproduct 2(7-hydro-perfluoro-4-methyl-3,6-dioxooctane sulfonic acid)(Fig. 1f),およびPFECAの一種であるPFO5DoDA(perfluoro-3,5,7,9,11-pentaoxadodecanoic acid)(Fig. 1g)による汚染が顕著であった。

2019年にオーストラリアにあるアルバート・パーク湖のコクチョウ(Cygnus atratus)から収集された血清,排泄物からは,長鎖のPFCAs,PFOSとともに新興PFASの1種であるPFECHS(perfluoro-4-ethylcyclohexanesulfonate)が検出されている(Fig. 1h89。PFECHSは蒸発・火災・腐食を防止する目的として,主に航空機の油圧流体に使用される環状構造を持つPFASである。PFECHSは内分泌かく乱作用を有する可能性があり90,今後のフィールドモニタリングでは注視すべきPFASの一つである。北米だけなく,アジア地域の空港周辺の水環境や,北極圏の氷からも検出されていることから,PFECHSの汚染が地球規模で拡大している可能性がある。

日本の鳥類汚染に注目すると,環境省の年次報告書(黒本)では,カワウ(Phalacrocorax carbo)のPFOS,PFOA,PFHxS濃度と経年変化が報告されている(Fig. 291。2010年度に琵琶湖で採取されたカワウの肝臓中PFOS濃度は 769±220 ng/g ww,PFOAが 9.3±2.4 ng/g wwであり,これはTable 1 の結果と比較しても,世界的にも高いレベルのPFOS汚染である。経年変化を見ると,琵琶湖の湖水濃度は減少傾向にあるものの,カワウの濃度(胸筋)では2021年以降に上昇傾向がみられ,今後の汚染状況を注視すべきである(Fig. 2)。また,環境省の報告ではその他のPFASに関しては分析されていないことから,新興PFASや長鎖のPFCAsの汚染状況等は不明である。

Fig. 2 Temporal trends of PFAS concentrations in muscle of Great cormorant (Phalacrocorax carbo) (A) and surface water (B) collected from Chikubushima Island in Lake Biwa

9. 日本でのフィールドモニタリング拡充に向けて

PFASによる汚染問題は,現在の使用状況を鑑みても,近い将来に解決される可能性は低い。日本は先進国でありながら,自然環境のPFAS汚染の解明が進んでおらず,野生生物汚染も高いレベルにある可能性があるため,フィールドモニタリングの拡充は重要な課題である。既にF53B等の新興PFASの一部は水,土壌,大気,野生生物など異なる環境媒体間を容易に移動することが知られており,今後はヒトへの曝露リスクを増大させる可能性がある。従って,水環境汚染問題だけなく,多様なフィールドを対象にしたPFASモニタリングの展開は不可欠である。そのためには多様な環境試料に対応できる分析方法を確立し,日本だけなく地球規模の広範な監視活動への取り組みが求められる。今後の課題として,①新興PFASを含む包括的モニタリングの導入,②ISO 21675およびUS EPA Draft Method 1633に基づく多成分分析の強化,③国際的なデータ共有と政策協調の推進が求められる。世界中の多くの国で多様なPFASが監視も規制もされていない現状は深刻な懸念事項である。PFAS汚染とリスクの効果的な監視と管理には,研究者だけでなく,産業界,官民と市民社会の連携が不可欠であり,連携することで効果的な監視システムを構築し,適切な管理戦略を実施することが可能になる。

文献
 
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