2026 Volume 36 Issue Special_Issue Pages s9-s17
ペル及びポリフルオロアルキル物質(PFAS)はその高い残留性と健康への悪影響の可能性から,大きな環境問題となっている。本稿ではPFASの分配および吸着特性に関する現在の知見を概観し,これらの特性がPFASの環境動態にどのように影響を及ぼすかを論じる。アルキル鎖のペルフルオロ化は分子サイズを増加させるがファン・デル・ワールス相互作用を大きく変化させないため,結果として疎水性を増大させ,凝縮相からの揮発性を高める。またペルフルオロ化は近傍の官能基の電子的性質にも影響を与え,その顕著な帰結の例としてpKaの低下があげられる。一般的な陸域環境において,中性PFASは高い揮発性と水相への分配傾向の低さから,スルホンアミド基のような強い極性官能基を持たない限り,主に大気中に分布すると予測される。一方,イオン性PFASは,大気,土壌,生物相といったコンパートメントにおいて複雑な分配挙動を示す。この挙動は水相および固相の組成に強く影響され,依然としてさらなる研究が求められる。
Per- and polyfluoroalkyl substances (PFAS) are a major environmental concern due to their persistence and their potential to cause adverse health effects. This article reviews the current knowledge of the partition and sorption properties of PFAS and discusses how these properties influence their environmental fate. Perfluorination of an alkyl chain increases molecular size without significantly altering van der Waals interactions, resulting in greater hydrophobicity and higher volatility from condensed phases. Perfluorination also affects the electronic properties of nearby functional groups, with a notable outcome being the lowering of pKa. In a generic terrestrial environment, neutral PFAS are expected to distribute primarily into the atmosphere because of their high volatility and low propensity to partition into the water phase, unless they contain a strongly polar functional group such as a sulfonamide group. Ionic PFAS exhibit complex partition behavior in atmospheric, soil, and biological compartments. This behavior is strongly influenced by the composition of the aqueous phase and the solid matrix and remains an area of further investigation.
ペル及びポリフルオロアルキル物質(PFAS)は,すべてのH原子がF原子に置換したペルフルオロC原子をもつ化合物である1)。その中でも,ペルフルオロアルキル鎖(-CnF2n+1)をもつPFASが環境汚染物質として特に注目されている。ペルフルオロアルキル鎖は化学的に極めて安定であり,環境中で分解や変成をほとんど受けない。ペルフルオロオクタン酸(PFOA)やペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)など,ペルフルオロアルキル鎖をもつ一部のPFASは,ヒト健康や生態系に対して影響を及ぼすことが知られている。また,ペルフルオロアルキル酸の前駆体と考えられるPFASも数多く存在し,それらはペルフルオロアルキル鎖以外の部分が分解・変成し,最終的に安定なPFOAやPFOSなどへと変化し,環境中に残留する2)。
PFASはその高い安定性に加え,物理化学的性質においても非フッ素化合物とは異なる特徴を示す。本稿では,PFASの物理化学特性のうち,環境動態の理解にとって重要な希釈条件下での分配・吸着性(すなわち溶質としての性質)に焦点を当て,現在の知見を概観する。なお,溶解度や蒸気圧などの純物質としての性質や,フッ素化ポリマー全般については本稿の対象外とする。また,現在のOECDの定義1)では-CF2-や-CF3を含む化合物は基本的にすべてPFASであるが,「PFASらしい」特徴的な物性を示すのはF/C比がある程度高い(>1.53))物質であるため,本稿では炭素数4以上のペルフルオロアルキル鎖を有するPFASを中心に取り上げる。
次節ではまず,アルキル鎖のペルフルオロ化(全フッ素置換)が分子の性質に与える影響について考察する。続いて,有機化学物質の環境挙動が中性物質とイオン性物質とで大きく異なることを踏まえ,PFASの酸解離定数(Ka)に関する知見をレビューし,PFASを中性およびイオン性に分類する。さらに,中性PFASとイオン性PFASの物性および環境中での分布について概説する。最後に,今後の研究課題を整理し,本稿の結論とする。
アルキル鎖のペルフルオロ化が分子の性質に与える影響としては,分配性や吸着性の観点からは,次の2点が重要である(Fig. 1)。

F原子はH原子に比べ,サイズが大きい。例えばファン・デル・ワールス(vdW)半径は,Fが 1.47 Å,Hが 1.20 Åである4)。また分子のモル体積への寄与は,Fが1個につき 12.5 mL/mol,Hが1個につき 8.71 mL/molである5)。多数のHをFに置換することで生じるペルフルオロ化は,分子の体積・表面積を大きく増加させる。一方で重要なのは,ペルフルオロ化がvdW相互作用に大きな影響を与えない点である3)。vdW相互作用はすべての分子の間に働く非特異的な力であり,有機化合物の分配・吸着挙動に大きな影響を及ぼす。一般に,有機化合物は分子が大きいほどモルあたりのvdW相互作用が強くなるが,ペルフルオロ化は分子を大きくする一方で,vdW相互作用の強さ自体はほとんど変えない(Fig. 1 のモル屈折率を参照)。つまり体積あるいは表面積あたりで考えると,ペルフルオロアルキル鎖のvdW相互作用は(C,Hから成る普通の)アルキル鎖より弱い。ペルフルオロアルキル鎖のvdW相互作用が弱いのは,vdW相互作用の主体であるロンドン分散力が弱いためであり,それはF自体の分極率が低いことや,F原子の分子全体の電子雲に与える影響による6)。またペルフルオロアルキル鎖が剛直であり,他分子と相互作用するための立体配座的柔軟性を欠いていることも相互作用の弱さの一因であるとされている7)。
2.2 近傍の官能基の極性に影響を及ぼすF原子は電気陰性度が高く,分子内で電子を引きつける性質をもつ。F原子を多数含むペルフルオロアルキル鎖も強い電子求引性を示し,誘起効果を通じて近傍の官能基の極性に影響を与える。顕著な例としては,次節で述べる酸解離定数(pKa)の低下があげられる。また,電子求引的誘起効果により,OH基などの水素結合供与性が高まり,水素結合受容性が低下する8)。このような誘起効果はペルフルオロアルキル鎖が官能基に直接結合している場合に最も顕著であり,距離が離れるにつれて減衰し,3,4原子程度の距離でほとんど消失する8,9)。なお,電子求引効果はCl,Brなど他のハロゲン置換においても観察される。
以下の節でも述べるが,アルキル基のペルフルオロ化が分配特性に与える影響は,ほぼ上述の2点で説明できる。一方で,特定の結合タンパクとの結合など,分子の立体構造が重要となるケースでは,立体効果が挙動に大きく影響することもある10)。
PFASのpKaの測定値の報告は多くない。Murillo-Gelvezら11)のデータ収集の結果によると,特にペルフルオロ炭素数が4以上のPFASに関する測定値は少ない。例外的に,PFOAついては多くの測定値が報告されている。しかし,その値は0.5–3.8と範囲が広い。ペルフルオロ炭素数4以上のPFASではその疎水性から分子会合や表面吸着などが起きやすく,実験誤差によってpKaが過大評価されやすいと考えられている12,13)。近年にも2件の研究論文がPFOAのpKaの測定値を報告しているが,一方は ≤ 0.4214),他方は1.3515)と,少なくとも 1 log単位の差がある。一方,短鎖PFASの測定値は比較的信頼性が高いと考えられる。短鎖のPFCAのpKaの実験値は,ほとんどが0–1の範囲にある。
Fig. 2 に,主なPFASとその対応する非フッ素化合物のpKa値をまとめた。PFASについては測定値が少ないため,推算値も併せて考慮した。推算値は文献11)に記載されたのものと,COSMOthermソフトウェア16)によるもので,いずれも量子化学計算に基づいている。

Fig. 2 に示す通り,アルキル基がペルフルオロアルキル基に置き換わることによって,pKaは最大で4程度低下する。これは,電子求引的誘起効果により陰イオン種の負電荷が安定化されるためである。この影響はC1(トリフルオロメチル)で最も小さく,鎖長とともにやや大きくなるが,C3程度で頭打ちであり,C4以降ではpKaはほぼ一定となる12)。またフルオロテロマー化合物のように,イオン基とペルフルオロアルキル基の間にCH2が挿入されると,pKaへの影響は弱まる。CH2が2つ(n:3 FTCAなど)の場合にはまだ誘起効果が存在するが9),CH2が3つになると影響はほぼ消失する。
官能基の種類ごとにpKaを見ると,PFSAは~-6,n:2 FTSは~-2,PFCAは0–1であり,これらのグループは水中でほぼ完全に陰イオンとして存在する。Fig. 2 には図示していないが,PFASにはリン酸や亜リン酸も存在し,これらは強酸であるため同様に陰イオンとして存在する。一方,FTCAはpKaが3–4程度の弱酸であり,水中では主に陰イオンとして存在するが,条件によっては中性種の存在が環境挙動に影響を及ぼすと考えられる。スルホンアミド基をもつPFASも弱酸(pKa,6–8)であり,pHに応じて優占する化学種が異なる。本稿では,スルホンアミド類は便宜的に中性PFASに分類することとした。なおMeFOSEなどの三級スルホンアミドは,解離可能なHをもたないため中性である。FTOHはpKaが10以上であるため,中性とみなしてよい。それ以外のFTO,FTAC,FTMAC,PFAIなどには水中でイオン化する構造がなく,常に中性である。
水成膜泡消火薬剤からは非常に多くの種類のPFASが検出されており,三級アミン,四級アミン,スルホンアミド,スルホン酸,カルボン酸,ベタインなどのイオン性官能基を有するPFASが多数同定されている17)。これらのPFASには双性イオンなど,分子中に複数のイオン基を有するものも含まれる。しかし標準物質として販売されている物質は少なく,物性や環境挙動に関する知見は非常に限られている。
FTOHを代表とするペルフルオロアルキル酸の前駆体の中には,中性の化合物も多く存在する。一方で,中性PFASの環境媒体における分配係数(たとえば土壌吸着係数(Kd))の測定例は,PFOAやPFOSなどと比べて非常に少ない。たとえば著者の知る限り,FTOHのKdを測定して報告した論文は,同一研究グループによる2報のみである18,19)。オクタノール/水(Kow),空気/水(Kaw),オクタノール/空気分配係数(Koa)といった基礎的な分配係数についても測定値は限られているが,近年になって報告例が増加しつつある8,20,21)。さらに,COSMOthermやPP-LFERなど,中性PFASに対する予測精度が検証された物性推算ツールも存在し,こうしたデータの不足を補う手段となりうる8,21)。このような研究状況を踏まえ,本稿では中性PFASについて,Kow,Kaw,Koaに基づいて分配の傾向を把握し,環境分布の評価を行うこととする。
4.1 中性PFASの分配特性Table 1 に,中性PFASの物性値の一例を示した。FTOHとPFASAはC4,C6,C8のペルフルオロアルキル鎖長をもつ化合物を選定し,それ以外のPFASについてはペルフルオロアルキル鎖長をC6に統一することで,官能基による違いが比較できるようにした。
PFASと非フッ素化合物の物性を比較するため,Fig. 3 に4:2 FTOH,6:2 FTOH,8:2 FTOHと,1-ヘキサノール,1-オクタノール,1-デカノールの分配係数を図示した。なおFig. 3 ではKawの逆数であるKwaを使用しているが,これはKoaとの比較を容易にするためである。

まずFig. 3 から全体的な傾向を見ると,ペルフルオロアルキル基を有するFTOHは,同じ炭素数の1-アルキルアルコールよりlog Kowが高く,log Kwaが低く,log Koaも低い。つまり,PFASは非フッ素化合物より疎水性が高く,揮発性も高いことがわかる。次に,アルキル鎖とペルフルオロアルキル鎖の長さが物性に与える影響を検討する。アルキルアルコールのlog Kwaに注目すると,アルキル鎖長が変化しても大きな変化が見られない。これは,アルキル鎖の伸長により水相とのvdW相互作用が強くなる一方で,分子サイズの増加により水相でキャビティ(cavity,空洞)を形成するエネルギーコストも増加し,これらの正負の効果が相殺されるためである。一方,FTOHではペルフルオロアルキル鎖の伸長が分子サイズを著しく高めるため,キャビティ形成のコストの増加がvdW相互作用の増加を上回る。そのため,log Kwaは鎖長とともに大きく低下する(つまり,水相からの揮発性が高まる)。log Koaについては,アルキルアルコールおよびFTOHいずれにおいてもオクタノール相とのvdW相互作用の増分がキャビティコストの増分を上回るため,鎖の伸長に伴って値が上昇する(オクタノールからの揮発性が低下する)。Kwaと逆の傾向になるのは,水分子が水素結合により強く凝集した水相に比べ,オクタノール相ではキャビティ形成コストが低いためである。ただしオクタノール相でもある程度のキャビティコストが発生するため,FTOHではその影響によりlog Koaの増加はアルキルアルコールと比べて緩やかである。log Kowは基本的に,「log Koa – log Kwa」で表される。log Kowはどちらの物質群も鎖の伸長により同程度上昇するが,その要因は異なる。アルキルアルコールではアルキル鎖の伸長によりオクタノール相への親和性が高まることが主な理由であるのに対し,FTOHではペルフルオロアルキル鎖の伸長により水相への親和性が低下する効果がより大きい。分子間相互作用と分配係数の関係については文献5,22)も参照のこと。
4.2 中性PFASの環境分布中性PFASの環境中における分配の傾向を概観するため,各物質のlog Kawとlog KowをFig. 4 にプロットした。比較のため,いくつかの非フッ素化合物も併せて示した。さらにオクタノール,水,空気の体積比が1:103:106である仮想的な空間において,各物質が主にどの相に分配するかをFig. 4 中に色と線で示した。これは,オクタノールを環境中の有機相(主に土壌・底質有機物)のモデルと見なし,分配平衡時に有機相,気相,水相にそれぞれ何%存在するかをKawとKowから計算したものである。使用した体積比は約10%が水域で覆われた陸域環境を模している23)。このような図は化学分配空間プロット(chemical partitioning space plot)とよばれ,非フッ素化合物ではよく用いられてきた手法である24)。

全体的な傾向として,中性PFASは気相に大部分が移行すると考えられる物質が多い。特に,極性官能基をもたない中性PFAS(FTOs,FTIsなど)は,99%以上が気相に分配する。気相への分配割合が99%を大きく超える物質は,PFAS以外ではアルカンや(代替)フロン類などに限られ,これらは水相,有機相のいずれとも親和性が低く,揮発性が極めて高いという特徴をもつ。また中性PFASの中で水相に1%以上分配するものは少なく,短鎖かつ極性の高い官能基をもつもの(一部のスルホンアミド類など)に限られる。
極性官能基をもつフルオロテロマー物質(FTOH,FTACなど)は,有機相にもある程度分配するが,やはり揮発性の高さが特徴である。揮発性が高いBTEXや塩素系溶媒などの揮発性有機化合物(VOC)はKawが0.1程度であることが多く,ある程度水相にも存在するのに対し,これらの中性PFASはKawがより高く,より気相に移行しやすい。実際,FTOH,FTO,FTACなどは大気における検出例が多く25,26),環境水からはあまり検出されない。また処分場の排ガスや周辺大気から高い濃度のFTOHが検出されることがある27,28,29)が,処分場排水の報告は見つからない。
FTOHsよりもさらに極性の高いスルホンアミド類は,気相より有機相への分配割合が高く,Fig. 4 の化学空間プロットにおいてはHCB,γ-HCH,低塩素PCBなどと同じ位置を占める。近年,PFOSAやPFHxSAが魚類や二枚貝などの水生生物から検出されている30,31)が,これはそれらの物質の物性と整合的である。なおFig. 4 ではスルホンアミド類は完全に中性と仮定しているが,実際は弱酸であるため,Fig. 4 で示されるよりも水相への分配割合が高い可能性がある。
スルホンアミド類以外でも,C8以上の中性PFASはlog Kowが6以上を示すものが多く,高い生物蓄積性で知られるDDTや高塩素PCBに匹敵する疎水性をもつが,DDTやPCBよりlog Kawがはるかに高い。前節(4.1)に述べた通り,ペルフルオロアルキル鎖の伸展はlog Kowの増加とともにlog Kawの増加(log Kwaの低下)をもたらすため,単純に有機相への蓄積が増加するとは限らない。
なお,本節では環境中の有機相≈オクタノールとして考察をおこなったが,中性PFASの分配を評価する上で,オクタノールが環境中のさまざまな有機相のモデルとしてどの程度適切であるかについては,十分な検証が行われていない。実際,FTOHにおいては有機炭素/水分配係数(Koc)とKowの間に約 2 log単位の差が報告されており,今後さらなる検証が必要である18,19)。
PFCAとPFSA,特にPFOAとPFOSについては,各環境コンパートメントでの分配挙動に関する実験研究が数多く報告されている。一方,イオン性物質は中性物質とは異なり,有機相への分配をKowで表すことはできない。中性種とイオン種では有機相に対する親和性が異なり,イオン種では有機相以外の固相も分配に関与することがある。また,水相のpHや共存イオンが分配に与える影響も考慮する必要がある。したがって,現在の知見ではイオン性PFASの環境中での分配をFig. 4 のように概観するのは困難である。そこでイオン性PFASについては各コンパートメントにおける分配・吸着挙動について,知見をまとめることにする。
5.1 大気における分配一般にガス態として存在するイオン種は無視できるほど少ないため,大気へと揮発するのは中性種のみである。PFCAやPFSAはpKaが<1と非常に低く,環境水中でほぼ完全にイオンとして存在していることから,これらの物質が環境水から大気へ揮発する量は非常に少ないと考えられる。しかし,PFCAもPFSAも大気から検出されている32,33,34)。これは汚染源からの直接の放出や35),大気中での前駆体からの生成36)などが原因と考えられている。また近年,海しぶき(sea spray)による大気への輸送も注目されている37)。
エアロゾル中の水はpHが低い(1–4程度)ことから,pKaが0–1であるPFCAはある程度,中性種として存在する。PFCAの中性種はKawが比較的高く,例えばPFOAのlog Kawは-2程度と報告されている38)。これは4:2 FTOHの値よりやや低い程度である。Taoら39)は分配係数とpKaから,PFCAは大気中では主にガス相に存在すると推定している。しかし,実際にはPFCAは粒子からも一定程度検出されており,鎖長が長くなるほど粒子態の割合は高くなる32,33,34)。物性による推定との乖離について原因は明らかではないが,PFCAのイオン種の有機物分配が過小評価になっている可能性がある。一方で,PFSAはpKaが約-6とさらに低く,大気粒子中の水相に分配する割合が高いと考えらえる。しかし,PFBSなどはガス態としても検出されており,そのメカニズムについては物性・実測の両面からさらに検証が必要である。
5.2 土壌における分配土壌における分配(あるいは吸着,収着とも)は,土壌吸着係数Kdにより評価される。Kdは平衡時における土壌粒子中濃度と水中濃度の比であり,汚染物質の土壌および地下環境における動態に大きな影響を与える。イオン性PFASのKdについては多くの研究が実施されており,近年は総説が次々と報告される状態である40,41,42,43,44)。これらの総説で共通して述べられているように,既報の大半はPFCAおよびPFSAに関するものであり,特にPFOA,PFOSの測定が多い。PFOAおよびPFOSのKdは 1–1,000 L/kg程度であり,範囲としてはBTEXや塩素系有機溶媒など地下水汚染の原因となる物質と類似している。同じ官能基を有するPFASでは鎖長が長いほど吸着が強い傾向がある45)。一方,土壌間での各PFASのKdの変動要因は明確ではない。有機物含量が多い土壌ほど吸着が強いことを示す報告は多いが,総じて相関は弱く,中性化合物の場合ほど明確ではない。低有機物含量の土壌でも吸着が見られ,無機物による吸着も示唆されている46)。PFCAおよびPFSAについては,pHが低いほど吸着が強く47),水中の二価陽イオン(Ca2+など)の濃度が高いほど吸着が強い48)。これらはPFCAおよびPFSAと土壌粒子表面の負電荷の静電反発を緩和する効果として説明できる。さらに,PFCAおよびPFSAは気液界面に蓄積しやすいことから,土壌の不飽和層では気液界面への吸着が輸送遅延に影響していると考えられている49)。
5.3 生物における分配中性物質ではKowにより生物相へ親和性を評価するのが一般的である。これは,生物構成成分のうち,脂質が主な分配相であり,オクタノールを脂質のモデル相とみなす考え方に基づいている。イオン性物質でもpKaが7に近い,弱酸や弱塩基の場合には,イオン種が生物相に分配しないと仮定し,イオン化補正オクタノール/水分配係数(Dow)を用いて評価することがある。しかしPFCAやPFSA,およびその代替物質は強酸であるため,Dowは使用できない。近年,PFASを含むイオン性物質については,リン脂質膜/水分配係数(Kmw)が生物蓄積性の指標として提案されている50,51)。リン脂質膜はタンパク質とともにPFCAやPFSAの生物蓄積において主要な分配相であると考えられている52)。PFCAおよびPFSA のlog Kmwは鎖長とともに増加し,その増加割合(傾き)はアルキルスルホン酸イオンとほぼ等しい(Fig. 5)。ペルフルオロアルキル鎖とアルキル鎖の伸長が分配係数に同程度の影響を与える点は,中性物質のlog Kowの場合と同様である(Fig. 3)。一方,鎖長が同じ場合,PFCAとアルキルカルボン酸イオン,PFSAとアルキルスルホン酸イオンでは,それぞれlog Kmwが 3 log単位も異なる。またペルフルオロ炭素数が同じ場合,PFSAの方がPFCAよりもlog Kmwが高く,これは魚類を用いたBCFやBAF試験の結果と整合している53)。Kmwは代替PFASについても実験値が報告されており,PFECHSや9Cl-PF3ONSはPFOSよりも高いKmwを示し,実際にこれらの物質は環境中で魚類から検出されている54,55)。より精緻に各生物種への生物蓄積を把握するためには,リン脂質膜だけでなく,各種タンパク質への分配10,56)についても考慮し,さらに取り込みおよび排せつ速度に関わるパラメータとともに生物蓄積モデルを用いて評価する必要がある57)。
アルキル基のペルフルオロ化が分配特性に与える影響については,本稿で述べたように,すでに一定の理解が進んでいる。一方,「ペル」フルオロ化ではなく部分的なフッ素化の影響はより複雑である。アルキル基の部分的なフッ素化はむしろlog Kowを低下させるなど,物性に対して加算的ではない影響を及ぼすことがある61)。ADONA,9Cl-PF3ONSなどの比較的新しいPFASには,全フッ素置換されていないC原子も存在する。本稿では現在関心の高いPFASの種類を踏まえ,全フッ素化物質と非フッ素化物質という両極端なケースを比較したが,その中間に位置するポリフルオロアルキル(polyfluoroalkyl)物質についても今後さらに理解を深めていく必要があるだろう。
中性PFASについては,近年,Kowなどの基礎的データは増えつつあるものの,PFCAやPFSAなどイオン性PFASと比べて研究自体が少ない。中性PFASは気相に分配しやすい物質が多いため,より環境動態に即した物性としては,土壌―大気間やエアロゾル粒子―ガス相間の分配に関する知見の充実が期待される。中性物質については理論モデルによる物性推算の研究も進展している。一方で,QSARなど実験データを用いた訓練が必要な経験的モデルでは,データの乏しいPFASの物性値の推算において大きな誤差を生ずることが指摘されている21)。実験データが急激に増加することは考えにくいため,今後も物性推算には理論モデルが大きな役割を果たすであろう。
イオン性PFASについては,PFOA,PFOSからさまざまな鎖長のPFCA,PFSA,そして代替PFASへと研究は広がってきている。しかしPFCA,PFSAに関しても大気,土壌,生物など各コンパートメントにおける分配,吸着の機構は依然として明らかになっておらず,鍵となる物性や物性指標についても議論の途上である。AFFF中の多数のPFASや,分解産物,イオン液体など,次々と新たな構造のPFASが環境中で検出される中で,新規イオン性PFASの分配や吸着の程度をどのように推定し,環境動態を予見するかが大きな課題である。制御された条件下での実験から微視的なメカニズムの理解を深めるボトムアップの研究と,実環境における実測から環境動態を明らかにするトップダウンの研究の両輪がかみ合うことで,PFASの動態に関し,個別物質にとどまらない包括的理解が進むことが期待される。
本研究の一部は,環境省・(独)環境再生保全機構の環境研究総合推進費(JPMEERF20255003)により実施した。
ADONA Ammonium 4,8-dioxa-3H-perfluorononanoate 4,8-ジオキサ-3H-ペルフルオロノナン酸アンモニウム
AFFF Aqueous film forming foam 水成膜泡消火薬剤
BaP Benzo[a]pyrene ベンゾ[a]ピレン
BCF Bioconcentration factor 生物濃縮係数
BTEX Benzene, toluene, ethylbenzene, xylenes ベンゼン,トルエン,エチルベンゼン,キシレン
DDT Dichlorodiphenyltrichloroethane ジクロロジフェニルトリクロロエタン
Dow Ionization-corrected octanol-water distribution coefficient イオン化補正オクタノール/水分配係数
D5 Decamethylcyclopentasiloxane デカメチルシクロペンタシロキサン
FASA N-Alkylperfluoroalkanesulfonamide N-アルキルペルフルオロアルカンスルホンアミド
FASE N-Alkylperfluoroalkanesulfonamidoethanol N-アルキルペルフルオロアルカンスルホンアミドエタノール
FTOH Fluorotelomer alcohol フルオロテロマーアルコール
FTAC Fluorotelomer acrylate フルオロテロマーアクリレート
FTCA Fluorotelomer carboxylic acid フルオロテロマーカルボン酸
FTI Fluorotelomer iodide フルオロテロマーヨージド
FTMAC Fluorotelomer methacrylate フルオロテロマーメタクリレート
FTO Fluorotelomer olefin フルオロテロマーオレフィン
FTS Fluorotelomer sulfonic acid フルオロテロマースルホン酸
γ-HCH γ-Hexachlorocyclohexane γ-ヘキサクロロシクロヘキサン
HCB Hexachlorobenzene ヘキサクロロベンゼン
HFPO-DA Hexafluoropropylene oxide dimer acid ヘキサフルオロプロピレンオキシドダイマー酸
Ka Acid dissociation constant 酸解離定数
Kaw Air-water partition coefficient 空気/水分配係数
Koa Octanol-air partition coefficient オクタノール/空気分配係数
Koc Organic carbon-water partition coefficient 有機炭素/水分配係数
Kow Octanol-water partition coefficient オクタノール/水分配係数
Kd Soil distribution coefficient 土壌吸着係数
Kmw Membrane-water partition coefficient リン脂質膜/水分配係数
MeFHxSA N-Methylperfluorohexanesulfonamide N-メチルペルフルオロヘキサンスルホンアミド
MeFHxSE N-Methylperfluorohexanesulfonamidoethanol N-メチルペルフルオロヘキサンスルホンアミドエタノール
MeFOSE N-Methylperfluorooctanesulfonamidoethanol N-メチルペルフルオロオクタンスルホンアミドエタノール
Naph Naphthalene ナフタレン
OECD Organisation for Economic Co-operation and Development 経済協力開発機構
PCB Polychlorinated biphenyl ポリ塩化ビフェニル
PFBSA Perfluorobutanesulfonamide ペルフルオロブタンスルホンアミド
PFAI Perfluoroalkyl iodide ペルフルオロアルキルヨージド
PFAS Per- and polyfluoroalkyl substances ペル及びポリフルオロアルキル物質
PFASA Perfluoroalkanesulfonamide ペルフルオロアルカンスルホンアミド
PFCA Perfluorocarboxylic acid ペルフルオロカルボン酸
PFHxI Perfluorohexyl iodide ペルフルオロヘキサンヨージド
PFHxSA Perfluorohexanesulfonamide ペルフルオロヘキサンスルホンアミド
PFOA Perfluorooctanoic acid ペルフルオロオクタン酸
PFOS Perfluorooctanesulfonic acid ペルフルオロオクタンスルホン酸
PFOSA Perfluorooctanesulfonamide ペルフルオロオクタンスルホンアミド
PFSA Perfluoroalkylsulfonic acid ペルフルオロアルキルスルホン酸
PFECHS Perfluoroethylcyclohexanesulfonic acid ペルフルオロエチルシクロヘキサンスルホン酸
PP-LFER Polyparameter linear free energy relationship 多パラメータ線形自由エネルギー関係
R-12 Dichlorodifluoromethane ジクロロジフルオロメタン
vdW van der Waals ファン・デル・ワールス
VOC Volatile organic compound 揮発性有機化合物
9Cl-PF3ONS 9-Chlorohexadecafluoro-3-oxanone-1-sulfonic acid 9-クロロヘキサデカフルオロ-3-オキサノン-1-スルホン酸