2020 Volume 4 Issue 1 Pages 175-185
第201回通常国会において成立した電気通信事業法及び日本電信電話株式会社等に関する法律の一部を改正する法律は、電気通信市場のグローバル化、人口減少等の社会構造の変化等に対応し、電気通信サービスに係る利用者利益等を確保するため、①外国法人等が電気通信事業を営む場合の規定の整備等を行うとともに、②NTT東西(東日本電信電話株式会社及び西日本電信電話株式会社をいう。以下同じ。)が他の電気通信事業者の電気通信設備を用いて電話を提供することを可能とするための措置を講ずるほか、③第一種指定電気通信設備を設置する電気通信事業者の役員兼任規制に関する規定の整備等を行うものである。
①については、外国法人等が提供するプラットフォームサービス等の国内における利用が急速に拡大していること等を踏まえ、外国法人等に対する規律の実効性を強化するため、登録又は届出の際の国内代表者等の指定義務、電気通信事業法違反の場合の公表制度等に係る規定を整備するものである。
②については、人口減少の急速な進展に伴い、電話の提供に係るNTT東西の近年の赤字傾向が更に拡大するおそれがあること等を踏まえ、所要の条件を満たす場合に限って、総務大臣の認可により、NTT東西が他の電気通信事業者の設備を用いて電話を提供することを可能とする等の制度整備を行うものである。
The Act Partially Amending the Telecommunications Business Act and the Act on Nippon Telegraph and Telephone Corporation, etc., which was passed in the 201th Japanese ordinary diet session, has mainly three aims; (1) the act maintains the articles regarding cases when foreign corporations, etc., operate telecommunications businesses, (2) it enables Nippon Telegraph and Telephone East Corporation and Nippon Telegraph and Telephone West Corporation (NTT East and West) to provide telephone services by means of the telecommunication facilities of other telecommunications carriers, (3) it maintains the articles concerning regulations on systems for interlocking directorate within the telecommunication carriers that install Category I designated telecommunication facilities. The purpose of this act is to respond to changes in social structures, such as the globalization of the telecommunications market and population decline, and to secure the users’ interests related to telecommunication services.
Specifically, as for (1), this maintains the articles regarding the obligation to designate domestic representatives, etc., at the time of registration/notification. Also, it maintains articles regarding the publication system in the case of the Telecommunications Business Act violations. The background of these is to strengthen the effectiveness of discipline for foreign corporations, etc., due to a rapid domestic usage expansion of platform services provided by foreign corporations, etc.
As for (2), this maintains the legal system enabling NTT East and West to provide telephone services by means of the facilities of other telecommunications carriers, only if the necessary conditions are met, and with the approval of the Minister for Internal Affairs and Communication. The background of this is due to expectations that a deficit trend at telephone services provided by NTT East and West will deteriorate further due to the rapid progress of population decline.
令和2年5月22日に公布された電気通信事業法及び日本電信電話株式会社等に関する法律の一部を改正する法律(令和2年法律第30号。以下「本法律」という。)は、電気通信市場のグローバル化、人口減少等の社会構造の変化等に対応し、電気通信サービスに係る利用者利益等を確保するため、外国法人等(外国の法人及び団体並びに外国に住所を有する個人をいう。以下同じ。)が電気通信事業を営む場合の規定の整備、NTT東西による他の電気通信事業者の電気通信設備(以下「他者設備」という。)を用いた電話の役務の提供を可能とするための制度整備、第一種指定電気通信設備1を設置する電気通信事業者に係る役員兼任規制に関する規定の整備等を行うものである。
本法律の経緯は次のとおりである。平成30年8月、電気通信事業法等の一部を改正する法律(平成27年法律第26号)附則第9条に基づく「施行後3年後の見直し」を契機として、総務大臣の諮問機関である情報通信審議会に対し、「電気通信事業分野における競争ルール等の包括的検証」について諮問(平成30年8月23日付け諮問第25号)が行われた。これを受け、情報通信審議会「電気通信事業分野における競争ルール等の包括的検証に関する特別委員会」2、また、これに関連する有識者会議である「プラットフォームサービスに関する研究会」3等において検討が行われ(図1参照)、「電気通信事業分野における競争ルール等の包括的検証」最終答申(令和元年12月17日情報通信審議会答申)(以下「最終答申」という。)として、2030年頃を見据えた電気通信事業分野を巡る諸課題に対応する提言が取りまとめられた。最終答申においては、中でも当面の対応として、電気通信市場のグローバル化の進展及び人口減少等の社会構造の変化等に対応した制度整備を迅速に進めるべきとされた。
最終答申を踏まえ、政府においては、令和2年2月28日に本法律の案を閣議決定し、第201回国会に提出した。その後、国会における審議を経て令和2年5月15日に本法律が成立し、同月22日に公布された。
本稿では、本法律の制定に至る検討の経緯及び論点を紹介した上で、本法律の各改正事項の概要について解説することとしたい。なお、本稿中意見にわたる部分は筆者らの個人的見解であることを予めお断りしておきたい。
(出典)総務省資料
図1.「電気通信事業分野における競争ルール等の包括的検証」に係る検討体制
近年、インターネット上で消費者や企業等に対して様々な取引等の場を提供する外国プラットフォーム事業者等の提供するサービスが多様化し、クラウド型メールやソーシャルネットワーキングサービス等は多くの人が日常的に利用するコミュニケーションツールとして、我が国の国民生活及び経済活動にとって不可欠のものとなってきている。これに伴い、その電気通信役務において大規模な通信障害や通信の秘密が侵害されるおそれのある事案が発生した際には、国内利用者の利益にも多大な影響を与える状況となっている。
しかし、事業法には外国法人等に対する監督規定の執行を想定した措置が整備されておらず、法執行の実効性を十分に担保できていないことから、外国法人等からは、国内で同等のサービスを提供する電気通信事業者であれば行うはずの事業法第28条の規定による重大事故等の報告はなされず、総務省において情報を十分に把握し、対策を講ずることができていない。
こうした状況の背景は次のとおりである。事業法は、その適用対象となる「電気通信事業」について、「電気通信役務を他人の需要に応ずるために提供する事業」(事業法第2条第4号)と定義しており、条文上、外国法人等が国内利用者に対して電気通信役務を提供する電気通信事業を排除していない。そして、属地主義の原則により、行為の一部が国内で行われていれば国内法の適用が可能であるため、外国法人等が国内利用者に対して電気通信役務を提供する電気通信事業も事業法の適用対象になると解される。しかし、これまでは、国内の電気通信事業者によって提供されるサービスと同等のサービスを外国法人等が国内利用者に対して提供している場合であっても、外国法人等に対して事業法の執行が困難であった。これは、外国法人等に対する監督規定(業務改善命令等)の執行には、執行管轄権の観点で外国の国家主権との抵触が生じ得るが、改正前の事業法の規定では、外国法人等に対する事業法の執行を想定しておらず、そのような問題を回避するための手当てが十分になされていないことから、法執行の実効性を欠いている状況にあったことが理由である。
この点に関して、最終答申において、国内利用者の利益や国内外の事業者の間の公正競争を確保するため、国内利用者にサービスを提供する外国法人等に対し事業法の規律を及ぼすための制度整備を迅速に進める旨が示された。また、「プラットフォームサービスに関する研究会」(平成30年10月~)の最終報告書(令和2年2月7日)において、外国法人等に対して業務改善命令の発動、国内代表者等(国内における代表者又は国内における代理人をいう。以下同じ。)の指定等の規律を及ぼすよう所要の措置を講ずることが適当とされたところである。
2.2.改正の概要本法律は、外国法人等に対する法執行の実効性を強化するため、改正後の事業法第10条、第12条及び第16条では、外国法人等が電気通信事業の登録又は届出を行う際の国内代表者等の指定義務を課す(図2参照)とともに、改正後の事業法第167条の2では、事業法違反の場合の氏名等の公表に係る規定を設けているほか、所要の措置を講じている。
(出典)総務省資料
図2.国内代表者等の指定イメージ
外国法人等に対して公権力の行使となる業務改善命令等を行う場合は、これらの執行が外国の主権を侵害するおそれがあり、執行管轄権の観点からの問題が生じる。すなわち、国内利用者に対して電気通信役務を提供する外国法人等に対しては、そのサービスの提供に関して事業法に違反し得る問題が生じている場合に、強制力のある報告徴収や業務改善命令等を執行しようとしても、特別な措置を講じない限り、業務改善命令等の執行のための文書の送達ができない状態にあった。また、事業法の遵守状況を確認するために強制力を持たない連絡を行う場合においても、国内にコンタクトポイントが存在しないため迅速なコミュニケーションを取ることができないという問題があった。
これらの課題を踏まえ、国内利用者に対して電気通信役務を提供する電気通信事業を営もうとする者が登録の申請(事業法第9条)又は届出(事業法第16条第1項)を行う際、次の理由から、国内代表者等の指定を義務付けることとした。
改正後の事業法第10条第1項第2号及び第16条第1項第2号では、国内利用者に対して電気通信役務を提供する電気通信事業を営もうとする者が登録又は届出を行うに当たり、国内代表者等の指定を義務付けるため、それらを記載した登録申請書又は届出に係る書類の提出を規定している。なお、事業法の規律の執行に当たり、監督官庁が国内代表者等と連絡を取るに当たっては、その電話番号等の詳細な連絡先が必要となる。これらは登録の申請又は届出に当たって必要な事項ではあるものの、細目的事項であることから、総務省令において定めることとしている(改正後の事業法第10条第1項第5号及び第16条第1項第5号)。
改正後の事業法第12条第1項第4号では、国内代表者等の指定義務の実効性を担保するとともに、国内代表者等を指定しない外国法人等の事業参入を排除する観点から、国内代表者等を定めていないことを登録の拒否事由としている。また、改正前の事業法第12条第1項第1号及び第2号では、事業法、有線電気通信法(昭和28年法律第96号)又は電波法(昭和25年法律第131号)の規定により罰金以上の刑に処せられ、その執行を終わり、又はその執行を受けることがなくなった日から2年を経過しない者及び電気通信事業者としての登録の取消しを受け、その取消しの日から2年を経過しない者については、電気通信の秩序を乱すおそれがあるため、登録拒否事由としている。今般の事業法の改正により、外国に本拠を置いて電気通信事業を営む外国法人等による参入の増加が見込まれるところ、参入しようとする外国法人等には、上記の国内法令に相当する外国の法令に違反した者も含まれ得る。そのような者についても、国内法令に違反した者と同様に、電気通信の秩序を乱すおそれが認められることから、改正後の事業法第12条第1項第1号及び第2号では、改正前の事業法第12条第1項第1号及び第2号の登録拒否事由に相当する外国法令違反も登録拒否事由に追加している4。
一方、届出は行政庁に対し一定の事項を通知する行為であり、行政庁が諾否の応答をするものではない。したがって、届出に対する拒否処分は存在せず、外国法人等が国内代表者等を指定しないことをもって届出拒否処分をすることはできない。ただし、形式的要件を欠く届出は、届出としての手続上の効果は発生せず、無届出となるため、国内代表者等を指定してその旨を記載した書面を届け出ることなく電気通信事業を営む場合には、事業法第16条第1項への違反となる。
なお、外国法人等の中には、既に登録を受け、又は届出をして電気通信事業を営んでいる者もあるが、事業の主体が外国法人等である以上、事業法の法執行の実効性向上が必要であることは異ならないことから、これらの者に対しても新たに国内代表者等の指定義務を課している(本法律附則第3条第1項参照)。
2.2.2.事業法違反の場合の公表制度 (1)公表制度を設ける理由電気通信事業者が法令等違反行為(事業法又は事業法に基づく命令若しくは処分に違反する行為をいう。以下同じ。)を行った場合には、その行為に対する制裁としての刑事罰が科されることにより、法執行の実効性が担保されている。しかしながら、
といった事情により、当該法令等違反行為を行った者がその是正を行うことなく事業を継続することにより、その間利用者への被害が拡大する可能性や、電気通信の安全性及び信頼性等が確保されない可能性がある。これらの状況の発生を防ぎ、利用者利益の保護を図るとともに、電気通信役務の円滑な提供を確保するため、利用者が適切な情報に基づき適切な事業者を選択できる環境を整える必要がある。そのため、改正後の事業法第167条の2では、総務大臣は、法令等違反行為を行った者の氏名等を公表することができることとした。
行政法規における公表とは、「義務の不履行あるいは行政指導に対する不服従があった場合に、その事実を一般に公表する」6ものである。そのような公表を行うに当たって法律の根拠を要するか否かについては、「厳密な意味での侵害留保原則が妥当するものではないが、制度化に当たっては、法令の根拠を置くのが法治主義に適合的である」7とする見解や、「制裁としての公表については、法律または条例の留保が及ぶと解すべきである」8とする見解がある。事業法に新設する公表制度は、上記のとおり利用者利益の保護のための情報提供を主な目的とし、公表の対象になった者に対して直接法的義務を課すものではない。しかしながら、当該公表制度は、電気通信事業者が法令等違反行為を行った場合にはその旨を明らかにすることにより、法令等違反行為の抑止を間接的に図ることが可能となるという制裁としての性質をも持つものである。このように、反射的効果であっても制裁としての性質を持つ公表を制度化する以上、法令の根拠を置くことが適当であると考えられることから、改正後の事業法では公表制度に関する明文の規定を設けている9。
なお、法令等違反行為は、電気通信事業者でない者により行われる場合があることから、公表の対象となる者は電気通信事業者に限定していない。
(2)規定の内容改正後の事業法第167条の2は、「電気通信役務の利用者の利益を保護し、又はその円滑な提供を確保するため必要かつ適当であると認めるとき」として、法令等違反行為の発生により、事業法の目的が確保されない事態となったと認めるときに限り、本規定が適用されることとしている。
総務大臣は、「法令等違反行為を行った者の氏名又は名称」だけでなく、「その他法令等違反行為による被害の発生若しくは拡大を防止し、又は電気通信事業の運営を適正かつ合理的なものとするために必要な事項」も公表することができる。これは、事業法が、利用者利益の保護のほか、電気通信事業の公共性に鑑みてその運営を適正かつ合理的なものにすることをも目的として掲げていること(事業法第1条)に鑑み、これらの目的を達成するために必要な事項が広く公表の対象となり得ることを意味する。
また、前述のとおり、行政機関による氏名等の公表は行政処分には該当しないものと考えられるが、その対象者の社会的信用等に影響を与えるものであることから、対象者の利益が不当に害されることを防ぐための措置を講ずる必要がある。「総務省令で定めるところにより」の委任文言に基づいて、総務省令において必要な手続保障について定めることを予定している。
現行の日本電信電話株式会社等に関する法律(昭和59年法律第85号。以下「NTT法」という。)においては、NTT東西の本来業務である地域電気通信業務(NTT法第2条第3項第1号)は、自ら設置した電気通信設備(以下「自己設備」という。)を用いて行うこととされている(改正前のNTT法第2条第3項第1号)とともに、国民生活に不可欠な電話の役務について、NTT東西に対し、その「あまねく日本全国における適切、公平かつ安定的な提供の確保に寄与する」責務を課している(NTT法第3条)。
事業法においては、「国民生活に不可欠であるためあまねく日本全国における提供が確保されるべきものとして総務省令で定める電気通信役務」として、「基礎的電気通信役務」(ユニバーサルサービス)が規定されており(事業法第7条)、具体的な役務として、加入電話(加入電話に相当する光IP電話を含む。)、公衆電話及び緊急通報が総務省令(事業法施行規則第14条)で定められている。基礎的電気通信役務の提供事業者に対しては、適切、公平かつ安定的な提供に努めることを義務付ける(事業法第7条)とともに、確実かつ安定的な提供を確保する等の観点から、当該役務の提供に係る電気通信設備の技術基準適合維持義務(事業法第41条)等の規律を課している。また、基礎的電気通信役務の提供者のうち要件を満たす者をその申請により適格電気通信事業者として指定し、不採算地域の提供費用に充てるための交付金を交付する制度を設けることにより、不採算地域を含めたあまねく日本全国における基礎的電気通信役務の提供の確保を図ることとしている(事業法第108条)。なお、これまで適格電気通信事業者にはNTT東西のみが指定されている。
本法律によるNTT法及び事業法の改正の背景は次のとおりである。NTT東西の電話の役務の提供に用いられるメタル回線については、老朽化の進展や近年多発する豪雨災害等による損傷に対応するための再敷設や補修が負担となり、人口減少等に起因する加入者数の減少等により電話の役務の収益が悪化している。今後、電話の役務の利用者が著しく少ない辺地等においては、自己設備による役務の提供を継続した場合、電話の役務の収益が更に悪化し、役務の安定的かつ継続的な提供の確保が困難となるおそれが生じている。
この点に関して、日本電信電話株式会社より、電話の役務の長期的な維持の観点から、携帯電話網等の他者設備を用いた電話の役務の提供について提案があったことを受けて、情報通信審議会において検討が行われ、最終答申では、これを例外的に認めることは、将来にわたる電話の役務の低廉な提供に資することから、所要の制度整備を講ずるべきとされたところである(図3・図4参照)。
(出典)総務省資料
図3.他者設備の利用のイメージ①
(出典)総務省資料
図4.他者設備の利用のイメージ②
本法律によるNTT法の改正により、自己設備に関する例外規定(改正後のNTT法第2条第5項ただし書)等を整備するとともに、本法律による事業法の改正により、これに対応する適格電気通信事業者に係る技術基準適合維持義務に関する規定を整備する。
3.2.1.自己設備に関する例外規定の整備NTT東西の本来業務である地域電気通信業務については、NTT法における自己設備設置規定を通じ、NTT東西に対し、業務に係る電気通信設備を自ら設置・運用させることにより、他者の経営判断にかかわらず、一定の品質水準の下、電気通信役務の継続的な提供が確保されていると考えられる。
3.1.に述べた背景を踏まえれば、NTT東西の電話の役務について、その提供に要する費用の削減を可能とし、あまねく日本全国における適切、公平かつ安定的な提供を持続的に確保するため、自己設備設置規定の趣旨を損なわない範囲内で他者設備の利用を可能とすることが求められる。そこで、本法律によるNTT法の改正では、第2条第5項において、NTT東西が地域電気通信業務を行うに当たり、引き続き自己設備を用いることを原則とした上で、例外的に他者設備を用いた電話の役務の提供を可能とするための認可制度を導入している。
規定の具体的内容として、「電話の役務をあまねく目的業務区域10において適切、公平かつ安定的に提供することを確保するために必要があると認められる場合」であって、総務大臣の認可を受けたときは他者設備を用いた地域電気通信業務を行えることとしている。当該認可については、NTT東西による、適切かつ安定的な電話の役務の提供を確保するための措置等を確認することを想定し、その詳細を総務省令に委任している。
3.2.2.適格電気通信事業者に係る技術基準適合維持義務に関する規定の整備3.1.に述べたとおり、NTT東西が電話の役務の提供に当たって用いる他者設備としては、携帯電話網等が想定されているところである。改正前の事業法における技術基準に関する制度に従えば、NTT東西が、携帯電話網等を用いて加入電話の代替として電話の役務(以下「ワイヤレス固定電話」という。)を提供する場合は、加入電話の事業の用に供する設備に係るものと同等の技術基準の適合維持義務が課されることとなる。しかし、携帯電話網等を用いて加入電話の事業の用に供する電気通信設備と全く同等の品質等を実現することは技術的に不可能であるため、現行制度を維持した場合、NTT法を改正しても、NTT東西は、ワイヤレス固定電話の提供ができないこととなる。
上記の問題は、不採算地域を含めて適切、公平かつ安定的な基礎的電気通信役務の提供を確保するために設けられた適格電気通信事業者に関する制度において、適格電気通信事業者が、一定の品質は確保しつつ、技術の進展に応じ他者設備の利用を含めて役務提供の効率化を可能とするための固有の技術基準が整備されていないことに起因するものである。そこで、本法律による事業法の改正では、NTT東西のワイヤレス固定電話の用に供する電気通信設備に関する技術基準を含めて、適格電気通信事業者の特性を踏まえた技術基準を定められるように、事業法に適格電気通信事業者に係る技術基準適合維持義務に関する規定を整備している。
規定の具体的内容として、改正後の事業法第41条第3項において、適格電気通信事業者が提供する基礎的電気通信役務に係る電気通信事業の用に供する電気通信設備を対象とする技術基準を策定し、当該技術基準への適合維持について適格電気通信事業者が義務を負う規定を設けている。
本法律による改正前の事業法第31条第1項において、第一種指定電気通信設備を設置する電気通信事業者(以下「一種指定事業者」という。)の役員は、一種指定事業者がその議決権の過半数を直接保有する会社、一種指定事業者に係る議決権の過半数を直接保有する法人又は当該法人がその議決権の過半数を直接保有する会社であって総務大臣が指定する電気通信事業者(以下「特定関係事業者」という。)の役員との兼任が禁止されている。
これは、他の電気通信事業者が事業展開する上で不可欠な設備である第一種指定電気通信設備を設置し、大きな市場支配力を有する一種指定事業者の役員が、経営が一体的に行われるような密接な関係にある電気通信事業者の役員を兼任した場合には、これらの電気通信事業者との関係を一層強固なものとし、排他的な共同営業や、接続業務を通じて知り得た情報の流用等、他の電気通信事業者との公正競争上の弊害を引き起こす構造的温床となりやすいことから定められたものである。
一方で、近年、グローバル化等の経営を取り巻く環境の変化に対応し、経営の一層の効率化を図るため、企業の再編の動きが活発になっており、結果として、出資関係が多様化し、改正前の事業法の規定では経営の一体性を捕捉しきれない状況となっており、一種指定事業者の役員兼任規制の対象範囲の見直しが求められている。
4.2.改正の概要本法律では、子会社の定義規定として事業法第31条第5項を新設している。本来、特定関係事業者の指定対象範囲については、その経営が一種指定事業者と一体的に行われるような密接な関係にある者を捉えることを目的としていることを踏まえ、出資関係の多様化に対応して密接な関係にある者を捉えるため、改正前の事業法第31条第1項が定めていた子会社の定義における議決権の保有関係を見直し、直接保有関係に加え、間接保有関係にある会社を子会社とみなすものとして規定している。
本法律は、公布の日(令和2年5月22日)から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日から施行(一種指定事業者の役員兼任規制に関する規定の整備については、公布の日から施行)することとされている。
本法律の施行により、その目的とする電気通信サービスにおける利用者利益等が確保されることを期待する。
1 電気通信事業法(昭和59年法律第86号。以下「事業法」という。)第33条第1項の規定に基づき指定される電気通信設備であり、「他の電気通信事業者の電気通信設備との接続が利用者の利便の向上及び電気通信の総合的かつ合理的な発達に欠くことのできない」ものである。ある電気通信事業者の設置する固定端末系伝送路設備について、都道府県ごとに、同種のものに占める割合が50%を超える場合に指定されており、NTT東西の伝送路設備及びこれと一体として設置される電気通信設備が指定されている。
2 電気通信事業分野における競争ルール等の包括的検証に関する特別委員会
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/policyreports/joho_tsusin/denki_hokatsu/index.html
3 プラットフォームサービスに関する研究会
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/platform_service/index.html
4 電気通信番号使用計画及び公益事業特権の認定についても、同趣旨の改正を行っている(改正後の事業法第50条の3、第118条等)。
5 国内において構成要件該当事実の一部が発生した場合(構成要件的結果が国内で発生した場合等)には、実体法上は国内犯と解される(遍在説、大判明治44年6月16日刊録17輯1202頁)。
6 塩野宏「行政法Ⅰ[第六版]」有斐閣(2018年)266頁
7 前掲塩野266-267頁
8 宇賀克也「行政法概説Ⅰ行政法総論[第六版]」有斐閣(2019年)267頁
9 法令違反行為を公表できる旨を明文で規定する他法の例として、金融商品取引法(昭和23年法律第25号)第192条の2、旅行業法(昭和27年法律第239号)第71条がある。
10 本来業務である地域電気通信業務は、NTT法第2条第3項第1号に規定する都道府県の区域においてNTT東西がそれぞれ営むものであるため、これらの区域を「目的業務区域」と定義している。