Journal of Information and Communications Policy
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ISSN-L : 2432-9177
Distribution of digital contents and the principle of exhaustion
Masahiro Kurita
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2021 Volume 5 Issue 1 Pages 69-96

Details
Abstract

著作権法は、著作物の流通をコントロールする権利として、頒布権(同法26条)、譲渡権(同法26条の2)及び貸与権(同法26条の3)を認めている。ただし、一方では商品の自由な流通を確保する必要があり、他方では著作者には第一譲渡に際して代償を確保する機会が保障されていれば十分であるため、著作物の原作品又は複製物の適法な第一譲渡があれば譲渡権は消尽し、その後の譲渡には権利を行使できないものとされている(同法26条の2第1項)。同様に、判例は「頒布権のうち譲渡する権利」についても解釈によって消尽を認めている。ところが、消尽は、「原作品」又は「複製物」という有体物の適法な第一譲渡を要件としているため、文言を素直に読む限りでは、情報の送受信によって提供されるデジタルコンテンツには適用の余地がないように思われる。しかし、複製物と同等の対価を支払ってデジタルコンテンツの永続的な私的利用の許諾を得たにもかかわらず、その再販売が認められないのは不当であるとして、この場合にも消尽を認めるべきとの主張がある。これをデジタル消尽という。欧州司法裁判所は、適用されるEU指令が異なることなどから、コンピュータプログラムについては限定的にデジタル消尽を認める判断を下しながら(UsedSoft事件)、電子書籍についてはこれを否定した(Tom Kabinet事件)。また、両先決裁定を受けて、ドイツ法では、デジタル消尽の一般化の適否が論じられるとともに、仮にこれを認めても権利者はプラットフォームのアーキテクチャの設計と利用許諾契約によってその適用を回避できることが指摘され、デジタルコンテンツを提供するプラットフォーム事業者とエンドユーザーとの法律関係の規律へと議論は展開しつつある。この両者の法律関係が契約法、消費者法及び競争法による規制を受けることはもちろんであるが、著作者、利用者及び公共の利益を調整するという著作権法の役割も重要であるとして、一部では、エンドユーザーの法的地位を役権(制限人役権)に相当する物権的権利と位置づけるなどの多様な視角からの検討が行われている。そこで、本稿では、デジタルコンテンツの流通形態を整理して現行法の解決を示したうえで、欧州司法裁判所の両先決裁定とこれを受けたドイツ法の展開を紹介し、日本法への示唆を得るとともに、将来に向けての検討の方向性を提示する。

Translated Abstract

The Japanese Copyright Act provides the distribution right, the right of sale and the right of rental. They allow the right holders to control the distribution of copyrighted works. However, since it is necessary to ensure the free distribution of goods and it is sufficient if the author is guaranteed the opportunity to obtain fair compensation upon the first sale, those rights are mandated to be exhausted upon the first sale of the original work or copy of the work (first-sale doctrine, exhaustion of rights). Mainly for historical reasons, the first sale doctrine requires the transfer of tangible objects. So, it is ambiguous if the transfer of intangible contents exhausts the distribution rights. In connection with this issue, the European Court of Justice (ECJ) made two contrasting preliminary rulings (UsedSoft (C-128/11) and Tom Kabinet (C-263/18), and former cas was referred by the German Federal Court of Justice (Bundesgerichtshof). They led to an increasingly active discussion of “digitale Erschöpfung (digital exhaustion)” and the restriction of user’s rights by digital platform companies in German law. This article aims to consider the possible application of digital exhaustion in Japanese law, using comparative law with EU and German law.

1.はじめに

本稿は、デジタルコンテンツの円滑な流通と著作者の利益との調整を図るために、いわゆるデジタル消尽について基礎的な考察を加えるものである。

1.1.従来の議論

1.1.1.複製物の流通と著作権

著作物とは「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」をいい(著作権法2条1項1号)、それが化体する有体物とは区別される。著作物の原作品や複製物は有体物であり、その所有者と著作権者とは必ずしも一致しない。これらの「物」の取引は民法の規律に服し、所有関係の規律は著作権法の目的とするところではない。ただし、著作権法は、原作品及び複製物の流通をコントロールする権利として、頒布権、譲渡権及び貸与権を規定しており、その限りにおいて、所有者はその所有する「物」の譲渡や貸与を制限されることになる。

このうち、譲渡権とは、映画以外の著作物2をその原作品又は複製物の譲渡により公衆に提供する権利をいう(著作権法26条の2第1項)。ただし、適法な第一譲渡があれば、その後の譲渡には譲渡権は及ばない(同2項)。これを譲渡権の消尽といい、特許権をはじめとする工業所有権についても広く認められている3。例えば、新刊書店で書籍を購入すれば譲渡権は消尽し、その再販売にあたって著作者から権利行使を受けることはない。

次に、貸与権とは、映画以外の著作物4を著作者に複製物の貸与により公衆に提供する権利をいう(同法26条の3)。貸レコード業等に対応するために、昭和58年の特別法によって創設され、翌年の改正で著作権法に組み込まれた権利であり、その性質上、消尽しないものと考えられている。

最後に、頒布権とは、「映画の著作物をその複製物により頒布する権利」をいう(同法26条)5。映画の著作物の頒布には、①複製物の公衆への譲渡又は貸与と②公衆提示目的での複製物の譲渡又は貸与の両方が含まれているため(同法2条1項19号)、頒布権は、譲渡権と貸与権を包含する権利だといえる。

頒布権は、文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約に基づく義務の履行として現行著作権法制定時に規定されており、劇場用映画フィルムの配給制度を維持することを目的の一つとしていた。通常、劇場用映画フィルムの配給の対価は興行収入の一定の割合として定められており、そこから映画製作に要した投下資本の回収が図られている。これを配給制度という。配給制度は、劇場用映画フィルムを公衆に提示することによって興行収入を得るという利用を前提としており、その経済的用法に鑑みれば、自由な流通を認めるべき必要はほとんどない。これに対して、劇場用映画フィルムについて頒布権の消尽を認めれば、映画製作者への対価の還流を伴わない二次市場(中古市場)が成立し、興行収入から映画の製作費用を十分に回収できなくなった映画産業そのものが衰退してしまうおそれがある。こうした経緯から、頒布権の消尽は規定されなかった。

しかし、公衆に提示する目的を有しない家庭用ソフトウェアについては、頒布権の消尽を否定する上記の理由は妥当しない。むしろ、その経済的用法は書籍や音楽レコード等の伝統的な複製物に近似する。そのため、判例は、家庭用テレビゲーム機用ソフトウェアについて、解釈上、「頒布権のうち譲渡する権利」の消尽を認めた6。その趣旨は、映画の著作物の複製物のうち、公衆に提示することを目的とせずに譲渡されるもの一般に妥当するものと考えられている。

表1.複製物等の流通をコントロールする権利
支分権 根拠条文 対象著作物 対象物 権利内容 消尽
頒布権 26条 映画の著作物 複製物 譲渡+
貸与
譲渡する権利のみ*(判例)
譲渡権 26条の2 映画以外の著作物 原作品+複製物 譲渡 する(26条の2第2項)
貸与権 26条の3 複製物 貸与 しない

* 公衆に提示する目的を有しないものに限る

また、前記各判例は、著作権法上の「譲渡する権利」に消尽を認めるべき理由として、以下の点を挙げており、これらは消尽原則の正当化理由として一般に認められている。すなわち、一方では、譲渡を行う都度著作権者の許諾を要するということになれば、市場における商品の自由な流通が阻害され、著作物又は複製物の円滑な流通が妨げられて、かえって著作権者自身の利益を害することになるおそれがある(商品の自由な流通)。また、他方では、著作権者は、著作物又はその複製物を自ら譲渡するにあたって譲渡代金を取得し、又はその利用を許諾するにあたって使用料を取得することができるのであるから、その代償を確保する機会は保障されているものということができ、著作権者又は許諾を受けた者から譲渡された著作物又はその複製物について、著作権者等が二重に利得を得ることを認める必要性は存在しない(代償を確保する機会の保障、二重利得の禁止)。

以上のように、著作物の原作品又は複製物の譲渡は譲渡権又は頒布権の対象となるが、譲渡に関する限り、これらの権利は適法な第一譲渡によって消尽する。これによって、一方では商品の自由な流通が確保され、他方では著作者に代償確保の機会が保障されている。また、ここでは、著作物が有体物に化体して流通することが前提とされているから、消尽原則は、著作権と所有権の調整という側面も有しているといえる。

1.1.2.デジタルコンテンツの流通と著作権

しかし、現在では、デジタルコンテンツ(コンピュータで処理可能なデジタルデータの形式で提供される著作物)7は、必ずしも有体物に化体せずに流通するようになっている。その流通形態を第一譲渡と再販売の形式に着目して整理すれば、①第一譲渡と再販売がいずれも有体物の譲渡によって行われる形態(音楽CDの再販売等)、②第一譲渡は情報の送受信によって、再販売は有体物によって行われる形態(ダウンロードしたデータを保存した記録媒体の再販売等)、③第一譲渡と再販売がいずれも情報の送受信によって行われる形態(ダウンロードしたデータの送信による再販売等)、④サブスクリプション型サービスにおける利用許諾契約上の地位の移転(IDやシリアルコード等の利用に必要な情報の開示)8の四つに加え9、⑤第一譲渡は有体物によって、再販売は情報の送受信によって行われる形態(音楽CDからリッピングした楽曲データの送信による再販売等)の五つに分類することができる(以下、順に「第1類型」から「第5類型」という。)。

表2.デジタルコンテンツの流通形態
第一譲渡 再販売
第1類型 有体物 有体物 音楽CDの再販売
第2類型 情報の送受信 有体物 DL購入したデータの記録媒体の再販売
第3類型 情報の送受信 情報の送受信 DL購入したデータのDL再販売
第4類型 なし(契約上の地位の移転) IDやシリアルコード等の開示
第5類型 有体物 情報の送受信 音楽CDから取得したデータのDL再販売

1.1.3.デジタル消尽

このうち、第1類型は伝統的な著作物の流通形態であり、有体物に化体した著作物がデジタル形式で記録されているに過ぎない。そのため、第一譲渡と再販売のいずれも譲渡権の対象となるところ、これは適法な第一譲渡によって消尽するため、著作者の許諾なしに再販売することが許される。

これに対して、その他の類型では,現行法の一般的な解釈を前提とする限り、再販売には著作者の許諾を要することになりそうである。まず、第一譲渡が情報の送受信によって行われる場合には、原作品又は複製物の譲渡という消尽の要件を満たさないため、譲渡権は消尽しない。ダウンロードしたデジタルコンテンツを記録媒体に保存して複製物を作成し、これを再販売する行為は、複製物の譲渡として譲渡権の対象となるため、譲渡権者の許諾を要することになる(第2類型)。次に、再販売が情報の送受信によって行われる場合には、その行為は公衆送信権又は複製権の対象となるため、著作権者の許諾を要することになる(第3類型、第5類型)。このとき、第一譲渡によって譲渡権が消尽するかどうかは、結論に影響しない。最後に、利用許諾契約上の地位の移転は、原則として契約によってその可否と範囲が決定されるため、主として契約解釈の問題になる(第4類型)。

しかし、このような解決は、著作権法の基本思想から必然的に導き出されるものではなく、消尽の適用範囲を有体物の譲渡に限定することが立法者意思であったともいいがたい10。例えば、現行法では、ビジネスソフトウェアを記録した光ディスクを購入すれば自由に再販売を行えるが(第1類型)、これをダウンロードの方法で入手すれば、同じ対価を支払っていたとしても11、再販売は許されないことになる(第2類型、第3類型)。このように見れば、「物理的媒体で可能であった行為がどうしてデジタルの世界では否定されることになるのか、という不満」12が生じるのは、理由のないことではない。少なくとも、立法論としては、有体物の譲渡によらない著作物の提供についても消尽を認めるべきかを検討する必要がある。これを、一般にデジタル消尽(digitale Erschöpfung)という。

デジタル消尽に肯定的な見解は、有体物の譲渡によらない著作物の提供についても、消尽原則の正当化根拠が基本的に妥当することを指摘する。すなわち、①商品の自由な流通には、 (1)二次市場の成立による著作物の享受機会の増加、(2)文化資産の保存、(3)消費者のプライバシーと自律性の保護及び(4)利用条件の明確化による取引費用の低減という社会的便益があるところ、これらは第一譲渡が情報の送受信によって行われる場合にも同様に妥当する13。また、②著作者が一回の対価を得る機会を保障されていることも変わらない14。このように考えれば、第一譲渡が情報の送受信によって行われる場合であっても、その著作物を化体した有体物によって再販売が行われるときには、譲渡権の消尽を認めてよいとされる(第2類型)15。あるいは、従来の消尽原則が物理的媒体の取引において達成していた「権利者と利用者の利害のバランス」が保たれることを重視し、「物理的媒体の場合と同様に、一物=一者=一権利が基本的に維持されるのであれば、デジタル消尽を認めるべきだ」とも指摘されている(第3類型)16

しかし、デジタルコンテンツのデータは、それを保存した記録媒体とは異なり、無劣化の複製を簡単に作成でき、使用損耗や経年劣化を生じず、複数の場所に同時に存在し、複数の人が同時に利用できるという性質を有している。これらの特徴は、消尽によって成立する二次市場と一次市場の関係を決定的に変質させるおそれがある。

そのため、デジタル消尽に慎重な見解からは、(a)複製数のコントロールの確保の必要性と(b)コンテンツライブラリ化の懸念が指摘されている17。もっとも、(a)複製数のコントロールの確保は技術的に実現可能であり、デジタル消尽を否定する決定的な理由にはならないように思われる18。少なくとも立法論としては、複製数の増加が技術的に抑止されることを要件としてデジタル消尽を認めることは十分に可能である19。しかし、(b)コンテンツライブラリ化の懸念は払拭しがたい。ここでいう「コンテンツライブラリ」とは、デジタルコンテンツの再販売を仲介するプラットフォームであって、その利用者が仲介手数料を支払う必要がなく、顧客の支払う「購入代金と売却代金の差額はゼロであるか極めて低廉」であるものをいう。コンテンツライブラリでは、データの購入と売却をくり返すことによって、実質的には「ゼロであるか極めて低廉」な費用でデジタルコンテンツを利用できることになる。そのため、これは「実質的には貸与行為」であり、貸与権の消尽が認められないのと同様に、コンテンツライブラリの承認につながるデジタル消尽も認めるべきではないというのである20

また、デジタル消尽を認めるかどうかにかかわらず、デジタルプラットフォームによってデジタルコンテンツが提供される場合には、利用許諾契約とアーキテクチャの設計によって、権利者は顧客に許される利用行為の範囲を自由に限定することができる。例えば、電子書籍プラットフォームのAmazon Kindleで「購入」した電子書籍は、同一アカウントに紐づけられた複数のデバイスで閲覧することができ、ハイライトやコメントを書き込むこともできるが、再販売することはできない。このような利用方法を決定づけているのは、プラットフォームのアーキテクチャと利用許諾契約である。そうだとすれば、問題となるのは、「譲渡権の消尽を認めるべきか否かという著作権法の規律」ではなく、「ユーザーアカウントの譲渡(契約上の地位の移転)が許されるべきか否か」であり、これは契約法、消費者法及び独占禁止法によって規律されるべきだと指摘されている21

1.2.本稿の方法

以上のように、デジタルコンテンツの取引形態は多様化しており、デジタル消尽をめぐる議論は解決を見ていない。そこで、本稿では、デジタル消尽が論じられる契機となった欧州司法裁判所2012年7月3日先決裁定(Used Soft事件)と、これに対照的な判断を示した同2019年12月19日先決裁定(Tom Kabinet事件)を分析するとともに、両先決裁定を受けたドイツ法の議論を参照して、デジタル消尽の意義と限界について基礎的な検討を加えることにしたい22。なお、以下では、問題の単純化のため、特に断りのない限り、情報の送受信によって第一譲渡と再販売の両方が行われるものを想定する(第3類型)。

2.EU法におけるデジタル消尽とその限界

2.1.序

まず、EUの著作権制度を確認しておこう。著作権制度に関する一般法にあたる情報社会指令23は、日本法の公衆送信権及び譲渡権に対応する権利として、以下のような規定を置いている。

  • 第3条(著作物の公衆伝達権及びその他の保護対象の公衆供用権)
  • 1. 加盟国は、公衆の各員にその選択した時間と場所で使用可能にする方法での著作物の公衆供用(öffentliche Zugänglichmachung)を含む、その著作物の有線又は無線の公衆伝達(öffentliche Wiedergabe)を許諾し又は禁止する排他的権利を著作者に認めるものとする。
  • 2. …………
  • 3. 前2項に規定する権利は、この条文に規定する公衆伝達又は公衆供用によって消尽しない。

  • 第4条(頒布権〔Verbreitungsrecht〕)
  • 1. 加盟国は、その著作物の原作品(Original)又は複製物(Vervielfältigungsstück)に関する、販売その他の方法による公衆への頒布を許諾し、又は禁止する排他的権利を著作者に認めるものとする。
  • 2. 頒布権は、共同体内では、原作品又は複製物に関しては、権利者による、又は権利者の同意のある共同体内でのこれらの物(Gegenstand)の第一販売又はその他の最初の所有権移転によってのみ消尽する。

これに対して、コンピュータプログラムの法的保護について規定するコンピュータプログラム指令24は、「頒布する権利」はプログラムコピーの適法な第一販売によって消尽するものとし(同指令4条2項)、「適法な取得者」は「適正な目的」のための使用に必要な複製等を無許諾で行えると規定していた(同5条1項)。

  • 第4条(同意を必要とする行為)
  • 1. 第5条及び第6条の規定を除き、第2条に基づく権利者の排他権は、以下の行為を行い、又は許諾する権利を含む。
  • a. あらゆる方法及び形式の、コンピュータプログラムの全部又は一部の永続的又は一時的な複製。コンピュータプログラムの読込、表示、実行、送信又は保存にコンピュータプログラムの複製が必要な場合には、これらの行為には権利者の同意を要する。
  • b. トランスレーション、アダプテーション、アレンジメントその他のコンピュータプログラムの改変及びこれによって得られた成果物の複製。ただし、プログラムを改変する者の権利を妨げない。
  • c. あらゆる形式の、貸与を含む、オリジナルコンピュータプログラム又はそのコピーの公衆への頒布
  • 2. 権利者による、又は権利者の同意のあるプログラムコピー(Programmkopie)の共同体における第一販売(Erstverkauf)によって、共同体におけるそのコピーを頒布する権利は消尽する。ただし、プログラム又はそのコピーの再貸与をコントロールする権利については、この限りではない。

  • 第5条(許諾を要する行為の例外)
  • 1. 特別な契約条項のない限り、エラーの修正をはじめとする本来の目的のための、適法な取得者によるコンピュータプログラムの使用に必要である場合には、第4条1項a号及びb号の行為には権利者の許諾を要しない。
  • 2. …………

両指令の文言を比較すれば、情報社会指令4条1項の頒布権は「原作品」又は「複製物」という有体物の頒布のみを対象としているのに対して、コンピュータプログラム指令4条1項c号の頒布の権利は「あらゆる形式の……公衆への頒布」を対象としており、有体物と無体物とを区別していないように読める。また、後者は「適法な取得者」に必要な範囲で複製権を認めている。このように、コンピュータプログラムについては、両指令の規律が異なっているため、その関係が問題とされることになった。

2.2.欧州司法裁判所2012年7月3日先決裁定(UsedSoft事件)25

2.2.1.事案の概要

UsedSoft事件の原手続は、ドイツ連邦通常裁判所(BGH)に上告された民事訴訟である。原告オラクル社(Oracle Int. Corp.)は、クライアント-サーバ型のデータベースソフトウェアを提供しており、同ソフトウェアは無償でダウンロードすることができたが26、その利用にはライセンス(Lizenz)27が必要とされていた。利用許諾契約では、ユーザーの権利には、①プログラムの複製を永続的にサーバに保存する権利と②ワークステーションのメインメモリにダウンロードする方法で特定のユーザーにそのアクセスを認める権利とが含まれるものとされており、③保守契約に基づいてアップデートとパッチを同社のウェブサイトからダウンロードすることができた。また、顧客が請求すれば、これらのプログラムを光ディスクで提供してもらうこともできた。

このライセンスはユーザー25名単位で提供されていたため、例えば、ユーザー27名が使用するためにはライセンスを2つ取得する必要があった。なお、利用許諾契約には、「権利の許与」との見出しの下に、以下の文言が規定されていた。

「当サービスへの支払により、お客様は、お客様の社内業務を目的とする場合に限り、本契約に基づいてオラクルが開発し利用に供するすべてのものについて無償で使用する非独占的かつ譲渡不可の権利を取得するものとします。」

被告ユーズドソフト社(usedSoft GmbH)は中古ソフトウェアライセンスを販売する会社である。被告は、原告の顧客から前記ソフトウェアのライセンスの全部又は一部(余剰分)を取得し、2005年10月、「オラクル特売」と銘打って原告のソフトウェアの「中古」ライセンスを販売した。また、その際に、被告は、同ソフトウェアを保有していない顧客は公式サイトから直接ダウンロ-ドし、すでに保有している顧客はそれを追加ユーザーのワークステーションに複製するように案内していた。

原告は、被告の上記事業の差止めを求めて、ミュンヘン地方裁判所に訴訟を提起した。第一審は原告の請求を認容し、控訴審は控訴を棄却したため、被告はBGHに上告した。BGHは、本件訴訟は、被告の顧客がコンピュータプログラム指令5条1項を国内法化したドイツ著作権法(UrhG)69d条1項を援用できるかに係っているとして訴訟手続を中断し、以下の質問を欧州司法裁判所(EuGH)に付託した。

  • 【付託質問】
  • 1. コンピュータプログラムのコピーを頒布する権利の消尽を主張できる者は、コンピュータプログラム指令5条1項の「適法な取得者」に該当するか。
  • 2. 第一質問への回答が肯定である場合について。取得者が権利者の同意の下にインターネットからデータ記録媒体へとプログラムをダウンロードすることによりコピーを作成した場合には、コンピュータプログラムのコピーを頒布する権利は、コンピュータプログラム指令4条2項本文に基づき、消尽するか。
  • 3. 第二質問への回答も肯定である場合について。「中古」ソフトウェアライセンスを取得した者も、コンピュータプログラム指令5条1項及び4条2項前段に基づく「適法な取得者」としてプログラムコピーを作成するために、第一取得者がそのプログラムコピーを消費し、又はすでに使用していない場合には、同人が権利者の同意の下にインターネットからデータ記録媒体へとプログラムをダウンロードにより作成したコンピュータプログラムのコピーを頒布する権利の消尽を主張できるか。

2.2.2.欧州司法裁判所の判断

これを受けて、EuGHは、以下の先決裁定を下した。なお、裁定事項1は質問2に、裁定事項2は付託質問1及び3にそれぞれ対応する。

  • 【先決裁定】
  • 1. コンピュータプログラム指令4条2項は、以下のように解釈しなければならない。すなわち、無償であっても、インターネットからデータ記録媒体へとそのコピーをダウンロードすることを認めた権利者が、その者に帰属する著作物のコピーの経済的価値に対応する報酬の取得を可能にするだけの料金の支払と引換えに、そのコピーを期間制限なしに利用する権利を許与した場合には、コンピュータプログラムのコピーを頒布する権利は消尽する。
  • 2. コンピュータプログラム指令4条2項及び同指令5条1項は、以下のように解釈しなければならない。すなわち、ライセンスの再販売が著作権者のウェブサイトからダウンロードされるプログラムコピーの再販売と結びついており、かつ、そのライセンスがもともと第一取得者に権利者から期間制限なしに、その著作物の経済的価値に対応する報酬の取得を可能にするだけの対価の支払と引換えに許与されたものであったときには、利用許諾(Nutzungslizenz)の第二取得者及び各後続取得者は同指令4条2項に基づく頒布権の消尽に依拠することができ、したがって、同指令5条2項にいうプログラムコピーの適法な取得者とみなされ、同規定に基づく複製権を行使できる。

本先決裁定の内容は、裁定理由も参照しつつ、本稿の目的に即して整理すれば、以下のようにまとめられる。なお、本稿の問題関心に従い、裁定理由の一部は省略した。

(1)「販売」

第一に、「販売(Verkauf)」とは、一般に「ある者が、自己に属する有体物又は無体物の所有権を、代金の支払と引換えに、他の者に譲渡する契約」をいうところ(Rn. 42)、本件では、ライセンス契約の締結と無償ダウンロードとは不可分一体であり、顧客は、コピーの経済的価値に相当する代金の支払と引換えに、コピーを期間制限なしに利用する権利を許与される。これは、全体として見れば、プログラムコピーの所有権(Eigentum)の譲渡と評価できる(Rn. 44-46)。また、ここでは、コンピュータプログラムの提供がダウンロードと物理的媒体のいずれによって行われたかを区別する必要はない。というのも、取得者の側から見れば、物理的媒体からダウンロードする行為と利用許諾契約の締結とが不可分一体であることは、ウェブサイトからダウンロードする場合と変わらないからである(Rn.47)。

したがって、①著作者による複製の提供、②複製の経済的価値に相当する代金の支払及び③期間制限のないライセンス(以下「永続ライセンス」という。)の許与は不可分一体なものとして適法な第一販売を構成し、これによって頒布権は消尽する(Rn. 48)28

(2)有体物と無体物

第二に、コンピュータプログラム指令4条2項の適用は、有体物による著作物の取引に限定されない。というのも、同指令は情報社会指令の特別法であるところ、その立法者意思は有形と無形の複製を等しく取り扱うというものであり(同指令1条2項、前文理由書7項参照)、同指令4条2項の文言も「プログラムコピーの販売」を要件とするのみであって、有体物と無体物のいずれの形式によるかを区別していないからである(Rn.53-60)。また、経済的にも、CD-ROMやDVDの販売とダウンロード販売は同等であり、これらを区別すべき理由はない。さらに、頒布権の消尽の原則を有体物の取引に限定すれば、著作権者は、第一販売から適切な報酬を得ることができるにもかかわらず、ダウンロード再販売の度に追加の報酬を要求できることになってしまうが、これは「知的財産権の特定の側面の保護」に必要な範囲を超えている(Rn.61-63)。

(3)頒布権の消尽と複製権

ただし、頒布権の消尽から、グループライセンスを分割して再販売する権利を基礎づけることはできない。第一取得者は、同指令4条1項a号の複製権の侵害を避けるために、再販売時、自己の有するコピーを使用不能にしておかなければならないからである(Rn.69-71, 78)。このことを確保するために、権利者は、プロダクトキーなどの技術的手段を利用することができる(Rn. 79)。

(4)「適法な取得者」

第四に、頒布権が消尽すれば、著作権者はコピーの再販売に異議を唱えることはできなくなる。そのため、第二取得者及び各後続取得者は同指令5条1項の「適法な取得者」に当たり、「本来の目的のためのプログラムの使用に必要な」複製として、コピーをダウンロードする権利を有する(Rn. 80-81, 85)。

2.2.3.小括

以上のように、本先決裁定は、コンピュータプログラム指令の適用にあたって有体物と無体物を区別すべき理由はないとして、権利者によるコピーの提供と永続ライセンス契約の不可分一体の組み合わせを「販売」と評価し、頒布権の消尽を認めた(同指令4条1項c号参照)。また、頒布権の消尽を主張できる者は「適法な取得者」に当たるとされたため、第二取得者及び各後続取得者は、必要な範囲でコンピュータプログラムを複製する権利を有することになる(同指令5条1項)。

これに対して、Tom Kabinet事件先決裁定は、情報社会指令の適用を前提として、電子書籍のダウンロード再販売を公衆伝達権の対象と判示した。公衆伝達権は消尽しないため、電子書籍のダウンロード再販売はその侵害を構成することになる。以下、項を改めて、Tom Kabinet事件先決裁定を概観することにしたい。

2.3.欧州司法裁判所2019年12月19日先決裁定(Tom Kabinet事件)29

2.3.1.事案の概要

Tom Kabinet事件の原手続は、ハーグ地方裁判所に提起された民事訴訟である。原告らはオランダの出版社の利益の保護を目的とする団体(オランダ出版社協会〔Nederlands Uitgeversverbond〕及び一般出版社団体〔Groep Algemene Uitgevers〕)であり、複数の出版社から著作権の保護と行使を委任されていた。被告トムカビネット社ら(Tom Kabinet Holding BV et al.)は、2014年6月24日、「中古」電子書籍の仮想市場で構成されるオンラインサービスを開始した。ところが、別訴において、違法にダウンロードされた電子書籍の販売を可能にするオンラインサービスの提供を禁止する判決が確定したため、2015年6月8日、被告らは自らが電子書籍販売者となる「トム読書クラブ(Tom Leesclub)」へとサービスの内容を変更した。本件で問題とされたトム読書クラブの内容は、以下のようなものである(表3参照)。

表3.トム読書クラブの概要
電子書籍の入手方法 トムカビネット社が購入する。又は、
会員が無償で寄付する(手元の複製を削除した旨の宣誓が必要)
電子書籍のDL トムカビネット社が正規の方法でダウンロードする
電子透かしの付加 適法に購入されたことを示すため、トムカビネット社の独自の電子透かしを各電子書籍ファイルに付加する
会員の閲覧方法 会員はトムカビネット社のサーバからダウンロードして閲覧する
会費・価格 サービス開始時 月額会費€3.99(寄付者割引€0.99)
電子書籍1冊€1.75
2015年11月18日以降 会費制廃止
電子書籍1冊€2.00+5クレジット*

* 電子書籍の寄付や取引で付与されるポイント。直接購入も可能

原告らは、被告らに対して、トム読書クラブにおける電子書籍の提供ないし複製による著作権侵害の差止を求めてハーグ地方裁判所に訴訟を提起した。同裁判所は、電子書籍が情報社会指令にいう著作物に当たることなどを内容とする中間判決を下した後、訴訟手続を停止し、以下の質問事項をEuGHに付託した。

  • 【付託質問】
  • 1. 情報社会指令4条1項は、同規定にいう「その著作物の原作品又は複製物に関する、販売その他の方法による公衆への頒布」には、電子書籍(すなわち、著作権によって保護される著作物のデジタル複製物)の期間制限なしの使用譲渡(Gebrauchsüberlassung)であって、著作権者に属する著作物のコピーの経済的価値に対応する報酬を同人に取得させるだけの価格と引換えにダウンロードによって行われるものも含まれると解釈すべきか。
  • 2. 第一質問への回答が肯定である場合について、……。

2.3.2.欧州司法裁判所の判断

付託質問1について、EuGHは、以下のような先決裁定を下した。なお、付託質問2以下は、いずれも付託質問1への回答が肯定であることを条件としていたため、回答は不要とされている(Rn. 73)。

  • 【先決裁定】
  • 永続的な利用のために電子書籍をダウンロードにより公衆に提供することは、情報社会指令3条1項の「公衆伝達」の概念に、より厳密には、「公衆の一員がその選択した時間と場所で使用可能にする方法での著作物の供用」の概念に該当する。

本先決裁定の内容は、裁定理由も参照しつつ、本稿の目的に即して整理すれば、以下のようにまとめられる。なお、本稿の問題関心に従い、裁定理由の一部は省略した。

(1)「頒布」と「公衆伝達」

本件では、永続的利用を目的とする電子書籍のダウンロード販売が情報社会指令4条1項の「頒布」と同指令3条1項の「公衆伝達」のいずれに当たるのかが問題となる(Rn. 33-34)。しかし、これは情報社会指令の文言のみから判断することはできない(Rn.37)。というのも、確立した判例法によれば、EU法の規定の解釈に際しては、文言のみならず、文脈、その規定が追及する目的及び立法過程を考慮しなければならず、EUが締結した国際条約と可能な限り一致するように解釈する必要があるからである(Rn. 38)。

すなわち、第一に、情報社会指令は、著作権に関する世界知的所有権機関条約(WCT)に基づく義務の実施を目的の一つとしており、その規定は可能な限り同条約6条1項(譲渡権)及び同8条(公衆伝達権)の定義に従って解釈されなければならない。このうち、同6条1項は「原作品及び複製物(original and copies)」を対象としており、これは合意文書30によって「有体物として流通可能な固定された複製物」と定義されているため、電子書籍のような無体物の複製は含まれないことになる。また、同8条の「公衆の各員にその選択した時間と場所で使用可能にする方法での著作物の公衆供用を含む」という文言は、情報社会指令3条1項に再現されており、「双方向性の活動(interaktive Tätigkeit)」を意味するものとされている(Rn. 39-41)。

第二に、欧州委員会による情報社会指令の理由書では、オンデマンド配信は公衆伝達権の対象とすべきであり、複製物の頒布のみに適用される譲渡権の対象とすべきではないとされている(Rn.42-45)。

第三に、情報社会指令の主な目的は著作者の高水準の保護を確立することにあり31、「公衆伝達」は広い意味で理解されるべきである(同指令前文理由書23項、同25項参照)32。また、頒布権は、「有体物に化体された著作物の頒布」をコントロールする権利であり、サービスやオンラインサービスについては権利の消尽は生じないものとされている(同28項、同29項参照)。

第四に、立法者は、「物(Gegenstand/tangible article)」「その物(dieser Gegenstand/that object)」という用語を用いることによって、知的創作を化体した有体物の第一販売をコントロールする権利を著作者に与えることを意図している(Rn. 52. 情報社会指令前文理由書28項参照)33

以上のように、情報社会史歴の目的や立法過程等に鑑みれば、電子書籍のダウンロード販売は譲渡権又は頒布権の対象ではなく、公衆伝達権の対象になるものと解すべきことになる。

(2)有体物と無体物

また、実質的にも、電子書籍のダウンロード販売を頒布権の対象とし、その消尽を認めるべきではない。というのも、電子書籍は使用によって劣化せず、中古電子書籍は新刊電子書籍の「完全な代替物(perfekter Ersatz)」になるからである。さらに、電子書籍の取引には追加の労力や費用を必要としないため、中古市場の成立を認めると、有体物の中古市場よりも著作者の利益に大きな影響を与えるおそれがある。このように、電子書籍は物理的書籍とは経済的、機能的に等価ではなく、これについて頒布権の消尽を認めれば、著作者の高水準の保護という情報社会指令の目的に反することになる(Rn. 58)。

なお、コンピュータプログラム指令は有体物と無体物を区別していないが、電子書籍はコンピュータプログラムではないため、同指令は適用されない(Rn.54)。また、電子書籍の本質的要素はコンテンツであるから、閲覧用コンピュータプログラムが組み込まれていても、これは付随的なものに過ぎず、同指令は適用されない(Rn.59)。

(3)「公衆伝達」

情報社会指令3条1項の「公衆伝達」には、①伝達行為性、②公衆性(量的公衆性)、③新規視聴者の存在(質的公衆性)の3つの要件があるところ34、本件では、①会員に著作物をその選択した時間と場所で使用可能にするものであること、②電子書籍の反復取引を前提としており、同一の著作物の複製を同時又は連続して使用する者の数が最小閾値(de minimis)の限度を超えて多いと評価できること(累積的多数性)及び再販売者の手元の複製を削除し、仕入数を超えた再販売を防止する技術的保護手段の実装を主張立証していないこと、③権利者が事前に想定していない者が第二取得者になっていることなどから、トム読書クラブにおける電子書籍の再販売は「公衆伝達」に該当するといえる(vgl. Rn. 61ff.)。

2.3.3.小括

以上のように、本先決裁定は、電子書籍のダウンロード販売には情報社会指令が適用され、頒布権(同指令4条1項)ではなく公衆伝達権(同3条1項)の対象となることを明らかにした。トム読書クラブにおける電子書籍のダウンロード再販売は「公衆伝達」であるところ、公衆伝達権は消尽しないため、被告らの行為は公衆伝達権の侵害を構成するものと考えられる。

2.4.まとめ

本項で確認したように、EuGHは、コンピュータプログラムと電子書籍とで対照的な判断を下している。すなわち、コンピュータプログラム指令が適用される「コンピュータプログラム」35の公衆への頒布は、同指令に基づく頒布権の対象となり(同指令4条1項c号)、適法な第一販売によって消尽する(同2項)。また、ここでいう「第一販売」には、権利者によるコピーの提供と永続ライセンス契約の組合せが含まれる。このような判断は、同指令がコンピュータプログラムの頒布の形式として有体物と無体物とを区別していないことと、権利者が「第一販売」に際して相応の対価を取得できることから基礎づけられている(UsedSoft事件)。これに対して、情報社会指令が適用される電子書籍のダウンロード販売は、同指令4条1項にいう頒布権の対象とはならず、「公衆伝達」の要件を満たす限りにおいて36、公衆伝達権の対象とされる(同指令3条1項)。その背景には、同指令に基づく頒布権の対象が有体物に限定されているという解釈のほか、紙の書籍とは異なり、中古電子書籍が新刊電子書籍の「完全な代替品」であり、その取引に追加的な手間や費用を要しないことから、中古市場の成立は著作者に過度の不利益をもたらしかねないという評価が存在していた。

表4.UsedSoft事件とTom Kabinet事件の比較
著作物の種類 適用指令 適用法条 有体物と無体物
UsedSoft事件 コンピュータプログラム コンピュータプログラム指令 頒布権 等価
Tom Kabinet事件 電子書籍 情報社会指令 公衆伝達権 不等価

ここで、特別法であるコンピュータプログラム指令の適用の有無が判断を分けたのだとすれば、Tom Kabinet事件先決裁定の射程は電子書籍に限られず、その他の種類の著作物のダウンロード販売にも及ぶものと予想される。しかし、同先決裁定は、コンピュータプログラムが付随的要素に過ぎないことから電子書籍へのコンピュータプログラム指令の適用を否定しており、その限界は必ずしも明らかではない。例えば、コンピュータゲームのような複合的な著作物について、同先決裁定の射程が及ぶかは不明である。というのも、物理演算エンジン等のコンピュータプログラムはユーザーエクスペリエンスに大きな影響をもたらし、その価値を決定しない付随的要素とは言い切れないからである37

3.ドイツ法における評価

3.1.国内裁判例の展開

ドイツ国内裁判所の判例は、コンピュータプログラム指令5条1項に対応するUrhG69d条1項の要件を明確化し、ボリュームライセンスの分割譲渡における頒布権の消尽について立場を明らかにするなど、コンピュータプログラムに関しては、UsedSoft事件先決裁定に沿った判例を展開している。すなわち、BGH2013年7月17日判決は、UrhG69d条1項(同意を要する行為の例外)の要件について、複製者(第二取得者)が主張立証責任を負うことや、同規定の適用にあたって記録媒体の授受が必要とされないことなどを明らかにしている38。また、BGH2014年12月11日判決は、複数の独立したコピーの使用を許諾するボリュームライセンスの場合には39、第一取得者(再販売者)が対応する数のコピーを使用不能にしていれば、第二取得者も頒布権の消尽を主張することができると判示した40。また、これらの判例では、頒布権の消尽後の「プログラムを使用する権限を有する者」に認められた複製等は、利用許諾契約によって制限されないことも明らかにされている。

もっとも、ンピュータプログラム以外の著作物については、ドイツ国内裁判所は一貫して消尽を否定していた41。そのため、Tom Kabinet事件先決裁定は当時のドイツ法実務に沿うものであり、実務上の影響は限定的であったとされている。

3.2.学説の展開

3.2.1.コンピュータプログラムとそれ以外の著作物の区別

これに対して、学説では、両先決裁定の評価を巡って争いがある。以下では、本稿の問題関心に従い、デジタル消尽の採否という観点からドイツ法学説の評価を概観することにしたい。

まず、両先決裁定の整合性は、コンピュータプログラムとそれ以外の著作物を区別すべきことを前提としている。この点について、Tom Kabinet事件の法務官最終報告書は、「技術的進歩が特に早い分野に属するツールとして、コンピュータプログラムは、たとえアップデートしても速やかに陳腐化する傾向にある」と指摘している42。ここでいう「陳腐化」(Veralterung)は、ニュースや娯楽文学などでも生じる、単なる時間の経過による需要の減少ではなく、ハードウェアや基本ソフトウェアの技術的進歩によりコンピュータプログラムが使い物にならなくなることを想定している43。例えば、技術的に最新のプログラムの代わりに中古プログラムを購入しても代わりにはならない。こうしたプログラムの技術的陳腐化による価値の低下は、デジタル化されていない、有体物に化体した著作物が媒体の損耗によって被る価値の低下に対応しているともいえる。これに対して、コンピュータプログラム以外のデジタルコンテンツは、媒体の損耗の影響を受けないため、時間の経過や転得者の数にかかわらず、その価値を維持する。この点において、コンピュータプログラムの中古市場よりも、それ以外のデジタルコンテンツの中古市場の方が著作者の利益を害するというのである44

これに対して、インターネット上の流通形態については、コンピュータプログラムとそれ以外の著作物とを区別する実質的な理由はないとの批判もある45。Tom Kabinet事件では、電子書籍と「使い古される」46紙の書籍とが比較されたが、音楽や映画の著作物ではこのような比較は必ずしも成り立たない。というのも、音楽や映画の著作物が化体したCDやDVDとコンピュータプログラムを記録したCD-ROMとの間には、耐摩耗性において有意な差はないからである47。この考え方によれば、コンピュータプログラムとそれ以外の著作物を区別せず、デジタルコンテンツのダウンロード販売に一般にデジタル消尽を認めるか、又は公衆伝達権の対象とすべきことになる。

3.2.2.デジタル消尽肯定説

そのうえで、デジタル消尽を肯定する見解は、以下のように主張する。すなわち、頒布権の消尽が認められているのは、著作権者には適法な第一販売に際して対価を取得する権利を認めれば十分であり、その後の複製物の流通をコントロールして追加的な対価を取得することまで認める必要はないからである。そうだとすれば、デジタルコンテンツのダウンロード販売にあたっても、適法な「第一販売」が行われれば、その後の流通をコントロールする権利を著作権者に認めるべきではない48。著作権者は、中古市場の成立を前提として価格を決定すればよく、違法な複製や重複利用を防ぐために技術的手段を講じることもできる49

そのうえで、この立場は、デジタルコンテンツをダウンロード販売によって適法に購入した者は、自己の保有する複製をすべて削除するなどの要件を遵守する限りにおいて50、デジタルコンテンツを適法に再販売できるべきだと主張する。たしかにUsedSoft事件先決裁定を著作物一般に直接に転用することはできないかもしれないが、その理由づけ自体はオンラインで取得したデジタルコンテンツの再販売に広く当てはまる51。そうだとすれば、情報社会指令における消尽原則の類推適用又はその法意の適用により52、又はEU法の立法によって53、デジタル消尽原則を一般に採用すべきだというのである。

3.2.3.デジタル消尽否定説

これに対して、Tom Kabinet事件先決裁定を支持し、著作物一般へのデジタル消尽原則の適用を否定する見解も有力に主張されている。第一に、消尽原則は、消尽の対象となる個々の複製物が、有体物の事実上の利用制限──競合性(Rivalität)、排他性(Exklusivität)及び損耗可能性(Abnutzbarkeit)──に服していることを前提としているが、無体の著作物はこれらの特徴を共有しておらず、その自由な流通を認めるべき理由はない。デジタルコンテンツの再販売において問題となるのは、例えば、単純利用権(UrhG31条1項、同2項)の譲渡可能性であって、「デジタル消尽」は本質においてライセンス法の問題というべきである54。第二に、デジタルコンテンツの利用には複製が不可避的に伴うところ、情報社会指令には適法取得者に無許諾の複製を認める規定はなく、デジタル消尽を認めたとしても意味がない55。第三に、デジタル消尽を認めるためには、デジタルコンテンツの流通に際して行われる公衆再生と複製をどのように法的に評価するか、デジタル消尽の要件である適法な第一販売の目的物として何を想定するか、又は第一取得者の法的地位が第二取得者に承継されるかなどの解決すべき問題が少なくない56。そのため、少なくとも現行法の解釈論としては、デジタル消尽を採用することは困難である。

さらに、立法論としても、デジタル消尽は望ましくない。というのも、Tom Kabinet事件先決裁定も指摘するように、中古電子書籍は新刊電子書籍の「完全な代替品」「経済的等価物」であり、中古市場の成立が著作者の利益に与える影響が大きすぎるからである57。同じことは、電子書籍だけではなく、音楽や映画などのデジタルコンテンツについてもいえる。光ディスクであっても摩耗するが、デジタルデータは摩耗せず、その取引費用も極めて低廉だからである58。また、デジタル消尽を肯定する見解は、中古市場の成立を認めても、権利者は技術的手段の使用や価格設定を通じて自らの利益を維持できると主張していた。しかし、中古市場の成立を認めれば、権利者は電子書籍化やオーディオブック化を断念してしまうかもしれない。これは、エンドユーザーにとっても、決して望ましい結果ではない59。むしろ、新刊電子書籍は購入しないが中古電子書籍であれば購入するという顧客層は、権利者に対価が還流しない中古市場ではなく、権利者の許諾の下に運営されるレンタル市場に取り込まれるべきだというのである60

3.2.4.契約とアーキテクチャによる法の私物化61

しかし、現在では、デジタル消尽の可否という問題設定そのものの意義が失われつつあるとも指摘されている。というのも、UsedSoft事件先決裁定はコンピュータプログラムの再販売を認めたが、権利者は、売切型ダウンロード販売(永続ライセンスの許与)からサブスクリプション型サービス(有期ライセンスの許与)へとビジネスモデルを変更することによって、コンピュータプログラム指令に基づく頒布権の消尽を回避することができるからである62。実際に、ビジネスソフトウェアを中心に、サブスクリプション型サービスが普及しつつある(SaaS: Software as a Service)。この場合には、UsedSoft事件先決裁定の基準によっても「販売」が存在せず、頒布権の消尽が成立する余地はない。また、複合的な著作物であるコンピュータゲームにコンピュータプログラム指令が適用されるかについては争いがあったが63、現在では、オンラインマルチプレイヤーゲームが主流になっており、「有期利用権」へと商品の形態が変わりつつあると指摘されている。仮にそうだとすれば、コンピュータゲームの複合的な性質をどのように理解するかにかかわらず、頒布権の消尽を適用する余地はないことになる64

以上のように、著作物の利用形態は複製物の譲渡からサービスの提供へと移行しつつあり、デジタルコンテンツの流通は利用許諾契約とプラットフォームのアーキテクチャによってコントロールされている65。たしかに、このことは、必ずしもデジタルコンテンツの再販売可能性そのものの否定を意味するわけではない。著作物を提供するプラットフォームの間で公正な競争が行われ、プラットフォーム事業者がデジタルコンテンツの再販売を行う仕組みを導入すれば、デジタル消尽を議論する意味は実質的に失われるだろう66。しかし、これとは逆に、オンラインでデジタルコンテンツを「取得」した者が有体物である複製物の購入者よりも弱い法的地位しか有しなかったとしても、ユーザーはそれを受け入れるほかはない67。例えば、電子書籍を「取得」した者は、──プラットフォーム事業者がそれを可能にしていない限り──単純に貸し借りをすることもできず、特定のフォーマット、デバイス又はアカウントに拘束されることになる。

このように見れば、デジタルコンテンツの流通の確保のためには、契約法、競争法及び消費者法による規律も極めて重要である。例えば、デジタルコンテンツ指令8条1項b号68は、デジタルコンテンツは、「同種のものにとって通常であり、消費者が合理的に期待できる数量、品質及び動作上の特徴を備えていなければならない」と規定している。しかし、競争法や消費者法は、必ずしも著作者等の権利やその公正な利用の促進を主たる目的としているわけではない。このように、「再販売に関しては、著作権法は、著作者、取得者及び公共の利益を調整する高権を債務法に奪われつつある」69。しかし、著作権法の果たしてきた役割に意義があるとすれば、デジタルコンテンツの取得者の権利を正面から論じるべきだというのである。

3.2.5.デジタルコンテンツの取得者の権利

もっとも、すでに見たように、売切型ダウンロード販売(永続ライセンスの許与)とサブスクリプション型サービス(有期ライセンスの許与)は決定的に異なっている。伝統的な売切型ダウンロード販売では、対価の支払と引換えにデジタルコンテンツのデータが給付され、永続ライセンスが許与される。そのため、契約の性質は、継続的契約関係というよりも、一回的給付による財貨の交換契約である売買に近似する70。そのため、デジタルコンテンツを「取得」した者にも、複製物の買主と同等の地位を認めるべきだという発想にも一定の説得力がある。たしかに、デジタルコンテンツは、消尽原則を支えている有体物の制約を備えていないが、デジタルコンテンツを提供するプラットフォームのアーキテクチャによっては、そうした有体物の制約を再現することも不可能ではない。

このような理解を前提としつつ、立法論として、デジタルコンテンツの取得者の法的地位を物権的に構成し、享益権(Genussrecht)を創設すべきだという見解が主張されている。この立場が前提としているのは、現行法には、私的利用を目的とするデジタルコンテンツの「取得者」(以下「エンドユーザー」という。)の法的地位を適切に規律する枠組みが存在しないという認識である。すなわち、利用許諾契約によっては、エンドユーザーが、相手方に対して著作権の不行使を請求する権利を有するに過ぎず、許される利用行為の範囲も契約上の地位の移転可能性も契約によって決定されてしまう。これは、複製物の買主がその所有権を取得し、売主は物権的にその再販売を禁止できないとされていることとは対照的である(ドイツ民法典137条前段参照)71。これに対して、専用利用権(ausschließliches Nutzungsrecht)には、他の者の利用を排除する権利や第三者に利用を許諾する権利が含まれており(UrhG31条3項)、エンドユーザーへの設定は考えられない。また、単純利用権(einfaches Nutzungsrecht)も、個人による私的利用を利用方法として想定しておらず、デジタルコンテンツの取得に伴って必要な利用権が黙示に設定されるとも解しがたいため、エンドユーザーの権利を表現するのに適切とはいえない。そもそも、これらの利用権は、著作者と事業者との関係を想定して設計されており、権利者とエンドユーザーの関係を規律するための制度ではなかった。というのも、書籍やレコードのようなアナログコピーを私的に鑑賞する行為は著作権の対象ではないため、著作権法の制定時には、著作者とエンドユーザーが契約を締結する必要があるとは考えられていなかったためである72。このように、現行著作権法には、エンドユーザーに対して設定されるべき適切な権利が用意されていない。

そこで、この見解は、民法上の制限人役権(beschränkte persönlich Dienstbarkeit)73を範型として、エンドユーザーの権利として享益権の制度を創設すべきだと主張する。享益権は、著作権に対する物的負担(Belastung)74であって、私的利用のために必要なあらゆる行為をする権利を含み、著作物の使用不能化措置と複製の全消去を要件として譲渡可能なものとして構想されている75

たしかに、デジタルコンテンツの私的利用は著作権の制限規定等によっても認めることができるが、技術の発展やビジネスモデルの変化が急速に進むことを考えれば、エンドユーザーの権利として規定することには一定の意味がある。享益権構成に立ち入った検討を加えることは本稿の目的を超えるが、あえていえば、デジタルコンテンツの「取得者」の地位を伝統的な複製物の購入者の地位に近づけようとする試みだと評価できる。再販売の要件として譲渡人の使用不能化と複製の全消去を求めるのも、有体物の制約──アーキテクチャ──を再現するものといえるだろう。

4.おわりに

4.1.まとめ

以上の比較法の成果をまとめておこう。

まず、欧州司法裁判所(EuGH)は、コンピュータプログラムと電子書籍とで対照的な判断を示していた。すなわち、UsedSoft事件先決裁定は、コンピュータプログラム指令の解釈として、コンピュータプログラムが頒布権の対象となることを認め、①コピーの提供、②コピーの経済的価値に相当する代金の支払及び③永続ライセンスの許与を不可分一体のものとして適法な第一販売と評価し、これによって頒布権は消尽するものと判示した。これに対して、Tom Kabinet事件先決裁定は、情報社会指令の解釈として、電子書籍のダウンロード販売を公衆伝達権の対象と判示した。公衆伝達権は消尽しないため、電子書籍の再販売には著作者の許諾を要することになる。両先決裁定の相違は、形式的には、コンピュータプログラム指令が情報社会指令の特別法に当たり、コンピュータプログラムについては優先的に適用されることから説明できる。しかし、コンピュータプログラムとそれ以外の著作物を区別する十分な実質的理由があるかについては疑論の余地があり、いわゆるデジタル消尽を一般に採用し、又は否定すべきかについて議論は継続した。

これを受けたドイツの裁判実務では、コンピュータプログラムについてはUsedSoft事件先決裁定と同様の要件の下に再販売を認め、それ以外の著作物については一貫して消尽を否定していた。ところが、学説では、オンラインで流通する限りにおいて、コンピュータプログラムとそれ以外の著作物とを区別する実質的な理由はないとも指摘され、デジタル消尽を一般に採用すべきかついて論争があった。

デジタル消尽を肯定する見解の主な論拠は、売切型ダウンロード販売(永続ライセンスの許与)によるデジタルコンテンツの取引においては、消尽原則の正当化原理がそのまま妥当するというものである。著作者は、二次市場の成立を前提とした価格決定を行えばよい。たしかに違法な複製や重複利用の可能性はあるが、これらはデジタル消尽によって適法とされるわけではないし、権利者は技術的手段によってこれを抑止することもできるというのである。

これに対して、デジタル消尽を否定する見解は、有体物と無体物の相違を強調する。消尽原則は、有体物の利用に事実上の制約があることを前提としている。隔地間取引には時間も費用もかかるし、使用損耗や経年劣化も避けられない。しかし、デジタルコンテンツは劣化しないため、中古品が新品を経済的かつ機能的に完全に代替してしまう。また、極めて低い費用で瞬時に送受信が完了し、梱包や輸送に伴う費用が生じない。そのため、デジタル消尽による二次市場の成立は一次市場を著しく縮小させるおそれがある。こうした市場の縮小による売上の低下は合理的な範囲の価格転嫁によって填補可能とは限らず、著作者が著作物のデジタル化を断念することになりかねないというのである。

以上のように、デジタル消尽に関する議論は、現行法の解釈論というよりも、デジタルコンテンツの再販売可能性を認めるべきかという基本的な政策決定を含んでいる。

また、ドイツ法では、事実が法を追い抜いているとも指摘されていた。コンピュータプログラムの提供であっても、サブスクリプション型のビジネスモデルに移行することによって、UsedSoft事件先決裁定の示した頒布権の消尽を免れることができる。このように、現在では、エンドユーザーの法的地位を決定しているのは、利用許諾契約とプラットフォームのアーキテクチャであって、エンドユーザーの利益は、主として契約法、消費者法及び競争法によって保護され、著作権法による利益衡量は後景へと退いてしまうというのである。

そこで、エンドユーザーの法的地位を著作権法上の物権的権利として確立するために、民法上の役権に着想した「享益権」の創設という試論が展開されていた。この見解そのものの是非は措くとしても、デジタルコンテンツの永続的な私的利用のために相応の対価を支払った者の法的地位が、利用許諾契約約款によって決定される極めて不安定なものにとどまっていてよいのか、という問題提起には検討する価値があるように思われる。それは、デジタル消尽を論じる際の基礎となるべき価値判断を示しているからである。

4.2.日本法への示唆

4.2.1.デジタル消尽

(1)著作物の種類

最後に、以上の検討から得られる日本法への示唆をまとめておこう。冒頭ではデジタルコンテンツの流通形態を五類型に整理したが、これに加えて、著作物の種類にも着目する必要がある。というのも、コンピュータプログラムには(日本法の譲渡権に相当する)頒布権の消尽が認められ、電子書籍の再販売は公衆伝達権の対象になるというEuGHの理解は、情報社会指令の特別法としてのコンピュータプログラム指令の適用の有無という形式的な根拠だけではなく、コンピュータプログラムの技術的陳腐化による価値の低下という実質的根拠によっても支えられていたからである。これに対して、使用損耗や経年劣化による複製物の価値の低下については、コンピュータプログラムとそれ以外のデジタルコンテンツとを区別する理由はない。いずれもデジタルデータであることは共通しており、同一の記録媒体に保存することが可能だからである。ただし、デジタルコンテンツの記録媒体は、事実上、伝統的な複製物よりも使用損耗や経年劣化に強い性質を有していることが多く、機械可読性が保たれている限りにおいてコンテンツの劣化も生じにくい。そのため、後述するように、デジタルコンテンツとアナログの著作物では、権利の消尽によって成立する二次市場が一次市場に与える影響に類型的な差異があるものと予想される。

(2)デジタルコンテンツの「販売」

次に、デジタルコンテンツの流通形態の多様化に鑑みれば、権利者と利用者の法律関係はその全体を総合して評価すべきである。UsedSoft事件先決裁定は、①コピーの提供、②コピーの経済的価値に相当する代金の支払及び③永続ライセンスの許与を不可分一体として「販売」と評価していたが、──結論の是非は措くとして──ビジネスモデルの全体を観察するという同先決裁定の評価方法は正当と考える。例えば、コンピュータプログラムについては、機能が制限された「試用版」を無償で配布し、対価と引換えに機能制限を解除するというビジネスモデルが見られる。このとき、「試用版」をダウンロードした後で対価を支払って機能制限を解除した者と、最初から対価を支払って機能制限の解除された「完全版」をダウンロードした者とを区別する実質的な理由はない。むしろ、決定的に重要なのは、データの移転時期や方法ではなく(①権利者がコピーを提供していればよい)、②代金の数額と③永続ライセンスの許与である。有期ライセンスについても期限内の再販売可能性を認めるべきとの議論はあり得るが、これを権利の消尽と見ることができるかは別論である。

(3)消尽の対象となる権利

なお、すでに指摘のあるように76、消尽の対象を譲渡権等に限定すべき理由はない。現行著作権法は譲渡権の消尽の規定しか有しないが(同法26条の2第2項)、判例は、解釈によって「頒布権のうち譲渡する権利」の消尽を認めていた。仮にデジタルコンテンツの自由な流通が認められるべきだとすれば、これに必要な限りにおいて、公衆送信権や複製権の制限も検討されてよい。

また、ドイツ法では、デジタルコンテンツの利用には著作権の対象となる行為が不可避的に伴うことから、デジタル消尽の一般化は現行法の複数の規定と抵触し得ることが指摘されていた。しかし、これは法技術的な問題に過ぎず、デジタル消尽を否定する決定的な理由とはいいがたい。例えば、享益権構成は、著作物の私的利用に必要なあらゆる行為をする権利を一定の要件の下に譲渡可能としており、この論争的だが簡潔な構成によれば、デジタルコンテンツの自由な流通を認めるために関連規定の調整を行う必要は少なくなる。

(4)消尽の限界

以上のように、デジタル消尽を認めることは、その事実上の前提条件の整備も含めて、技術的には可能だといえそうである。それでは、デジタル消尽を認めるべき実質的な根拠があるといえるだろうか。ドイツ法でも、頒布権の消尽を正当化する理由がデジタルコンテンツにも同様に妥当することは一般に認められていたが、そこで問題とされるのは、権利者に代償を確保する機会が十分に保障されているかどうかである。

この点について、デジタル消尽を肯定する見解は、権利者は二次市場の成立を前提として価格を決定すればよく、違法な複製や重複利用を防ぐために技術的手段を講ずることもできるとして、代償確保の機会は保障されると主張していた。これに対して、デジタル消尽を否定する見解は、デジタルコンテンツのデータについては中古品が新品の「完全な代替品」「経済的等価物」であって、第二市場の成立が権利者の利益を過度に害するおそれがあるとの批判を加えていた77。たしかに、権利者には二次市場の成立を見越して対価を決定する機会が保障されているかもしれないが、そのようにして決定された対価が禁止的に高くなれば、代償確保の機会は実質的に意味を失ってしまうだろう78

このように、デジタル消尽の可否を決定するにあたっては、その正当化理由の一つである代償確保の機会が実質的に保障されているかどうかを、二次市場の成立が一次市場に与える影響の程度を考慮して判断すべきである。その一つの基準として機能していたのが、古書市場のような複製物の二次市場が与える影響の程度であったといえるだろう(Tom Kabinet事件参照)。デジタルコンテンツの二次市場が与えるだろう影響が複製物の二次市場を超えなければ、一応は代償確保の機会が保障されていると評価され、デジタル消尽を肯定する余地が認められることになる79

また、著作者、利用者及び公共の利益の調整が著作権法の使命であるとすれば、デジタル消尽の範囲は、デジタルコンテンツの自由な流通によって得られる利益がこれによって失われる著作者の利益に優越するかによって判断すべきだと思われる。ここでも、伝統的な複製物の二次市場との比較が、衡量基準の確定にあたって参考になるだろう。例えば、技術的手段によって複製数の増加を抑止し、同時接続数を制限することは、有体物のアーキテクチャを再現するものであって、一次市場への影響を限定する効果をもつ。こうした技術的手段が実装されていることは、そのデジタルコンテンツについて消尽を認める方向で考慮され得る。これに対して、同一のデジタルコンテンツを保存した記録媒体に比して著しく価格が低いことは、二次市場の成立を度外視して価格設定が行われたことを推測させ、消尽を否定する方向で考慮されるものと思われる。

(5)契約とアーキテクチャによる法の私物化

もっとも、デジタルプラットフォームによってデジタルコンテンツが提供される場合には、通常、利用許諾契約とアーキテクチャによって再販売可能性が決定されることになる。しかし、再販売可能性も対価を決定する要素の一つであるから、対価の不均衡によって利用者に不当な不利益が及ぶ場合には、契約法、消費者法及び競争法によって対処することが考えられる80

4.2.2.エンドユーザーの権利

書籍やレコードのような伝統的な複製物とは異なり、デジタルコンテンツの私的利用には著作権の対象となる行為を不可避的に伴うことが多い。そのため、現行法は著作権の制限規定を整備し、デジタルコンテンツの私的利用が不当に妨げられないように対処している81。しかし、将来にわたる技術革新やビジネスモデルの変化を考えれば、個別の制限規定による対応が常に十分とは限らない。また、利用行為の適法性を判断するにあたり、利用許諾契約に加えて制限規定を確認しなければならないこと自体が、取引費用を増加させるおそれがある。エンドユーザーに「私的利用のために必要なあらゆる行為をする権利」を設定するという立法提案は、その簡明さにおいて検討の余地がある。

また、デジタルコンテンツは、──書籍や絵画等の伝統的な複製物とは異なる意味で──永続的な利用が保障されていない。ストリーミング配信されるデジタルコンテンツは、例えば、差別的表現が含まれているなどの理由で、その提供が終了したり、内容が改変されたりするおそれがある。データをダウンロードして保存していても、基本ソフトウェアの更新等によって閲覧できなくなることがある。エンドユーザーが著作物の永続的な私的利用を許与されているのであれば、少なくとも合理的な範囲で、その著作物の閲覧を契約相手方に請求できて然るべきではないだろうか。このような観点から、日本法においても、「ユーザーが著作物にアクセスすることを保障するための権利」「コンテンツの所有を一定程度保障する権利」としての「アクセス権」が問題となることは早くから予想されていた82。また、従来の著作権法は、利用者の利益を「権利の制限」によって保障して来たとされるが83、令和2年著作権法改正によりライセンスの当然対抗制度が導入され(同法63条の2)84、独占的ライセンスの対抗やこれに基づく差止請求権の導入についても議論が行われるなど、主として事業者を想定したものとはいえ、利用者の利益を「権利」として規定することに体系的な問題は少なくなりつつある。

このように見れば、権利の内容や性質は別論として、エンドユーザーの法的地位を──著作権の不行使を債権的に請求できるという契約上の地位としてではなく──著作権法上の「権利」として規定することを検討する価値はある。

4.3.将来の課題

デジタル消尽をめぐるドイツ法の議論は、デジタルコンテンツの再販売可能性からエンドユーザーの権利の法的性質へと広がりを見せていた。その背景にあるのは、伝統的に著作権法が担って来た、著作者、利用者及び公共の利益の調整という機能が、プラットフォーム事業者の採用する契約とアーキテクチャによって上書きされていくことへの危機感である。契約法、消費者法及び競争法による規律は、意思決定過程への不当な干渉、交渉力の格差又は顧客のロックイン等のそれぞれの対象とする課題を解決することはできるかもしれないが、著作権法の役割を代替するものではない。そうだとすれば、デジタルコンテンツの流通を適切に規律できるように、有体物の譲渡による著作物の提供を自明の前提としていた消尽原則の適用範囲を再検討し、権利の不行使を受ける地位に過ぎなかったエンドユーザーの法的地位を再考することが必要である。

もっとも、利用者の法的地位は、支払われるべき対価と均衡していればよく、すべてのデジタルコンテンツについて再販売可能性を認める必要もなければ、すべてのエンドユーザーに物権的権利を設定する必要もない。デジタル消尽を認めたうえでその要件を過度に緩やかにし、又は物権的権利の設定を強制すれば、著作者の財産権保障や事業者の営業の自由に抵触するおそれがあるばかりか、ビジネスモデルの革新を阻害し、社会にとっても望ましくない結果をもたらしかねない。

本稿では、デジタルコンテンツの流通を著作権法によって規律する際の問題点を示し、複数のあり得る価値判断と解決の選択肢を示したにとどまる。他の多くの法領域と同様に、著作権法においても、権利と自由の境界画定は、法に則った利益衡量──又は基本権衡量──によって行わざるを得ない。これらの具体的な作業については、他稿を期したい。

参考文献

本文中に掲げたもの。

※ 本研究はJSPS科研費(課題番号 20H00056, 20K01371, 18K01361)の助成を受けたものである。

Footnotes

1 名古屋大学大学院法学研究科教授。

2 譲渡権は、著作権に関する世界知的所有権機関条約6条1項(平成8年12月20日採択)を受け、平成11年著作権法改正において創設された。そのため、すでに頒布権が認められていた映画の著作物は譲渡権の対象から除外されている(加戸守行『著作権法逐条講義〔六訂新版〕』(著作権情報センター・2013)203頁参照)。

3 特許権の国際消尽について、最判平成9年7月1日民集51巻6号2299頁〔BBS並行輸入事件〕、国内消尽について、最判平成19年11月8日民集61巻8号2989頁〔インクタンク事件〕参照。権利の消尽を明文で規定する例として、半導体集積回路の回路配置に関する法律12条3項、種苗法21条4項がある。

4 譲渡権と同じく、貸与権の創設時にすでに頒布権が認められていたため、映画の著作物は貸与権の対象から除外されている(加戸・前掲注2)208頁以下参照)。

5 映画に収録されている著作物の著作者も同様に頒布権を有する(著作権法26条2項)。

6 最判平成14年4月25日民集56巻4号808頁(中古ゲームソフト訴訟大阪事件)、最判平成14年4月25日判時1785号9頁(中古ゲームソフト訴訟東京事件)。

7 谷川和幸「デジタルコンテンツの中古販売と消尽の原則」同志社大学知的財産法研究会編『知的財産法の挑戦』(弘文堂・2013)422頁は、デジタルコンテンツを「流通の最初から最後まで一貫して無体的な状態で……流通する著作物」と定義する。

8 技術的保護手段の仕様としてIDやシリアルコード等の入力や送信を求められることはあるが、これはデジタルコンテンツの流通形態とは直接に関係しない。すべての流通形態において、同様の技術的保護手段を実装することが考えられるからである。したがって、第4類型は、オンラインでのデジタルコンテンツの利用を原則とするサブスクリプション型サービス(有期ライセンス)を想定するものと考えられる。

9 松川実「オンライン配信と消尽──アメリカ、ドイツ、日本の法比較的研究──」青山法学論集49巻2号(2007)3頁以下、奥邨弘司「電子書籍の中古販売・流通」ジュリスト1463号(2014)43頁以下、同「欧州におけるデジタル消尽の行方~Tom Kabinet事件CJEU判決を踏まえて~」複製ライト709号(2020)41頁。ただし、両者の分類は必ずしも一致しない(奥邨2014・前掲ジュリスト1463号44頁脚注6) 参照)。

10 奥邨2014・前掲注9) 47頁参照(第2類型)。頒布権と消尽の沿革については、松川・前掲注9) 63頁以下参照。

11 これに対して、いわゆるパッケージ版(複製物の販売)とダウンロード版とで価格差を設けるビジネスモデルも用いられいるが、これはデジタル消尽を否定する方向で考慮されるべき事情と考えられる。

12 椙山敬士「消尽を巡る状況」飯村敏明退官記念論文集『現代知的財産法 実務と課題』(発明推進協会・2015)1235頁。

13 島並良「デジタル著作物のダウンロードと著作権の消尽」高林龍ほか編集代表『現代知的財産法講座Ⅲ 知的財産法の国際的交錯』(日本評論社・2012)224頁以下。椙山・前掲注12) 1232頁以下参照。反対説として、小島立「デジタルでの第一拡布と消尽論」著作権研究45号(2019)51頁以下。なお、対価の支払と引換えにデジタルコンテンツのデータを提供する行為を「譲渡」と評価すべきかについても議論はあり得るが、本稿では立ち入らない。

14 島並・前掲注13) 224頁以下。

15 島並・前掲注13) 226頁以下。

16 椙山・前掲注12) 1236頁。奥邨2020・前掲注9) 47頁は、現行法の解釈としても、例外的に第3類型について「デジタル消尽」を認める余地があることを指摘する(第一取得者が情報の送受信によって取得したデータを保存した記録媒体を譲渡して占有改定の方法で引渡し、第二取得者が同記録媒体から同データをダウンロードする事例)。

17 谷川・前掲注7) 445頁以下。鳥澤孝之「判批」パテント73巻5号(2020)30頁参照。

18 椙山・前掲注12) 1236頁参照。谷川・前掲注7) 446頁は、DRM(Digital Right Management)がプライバシー侵害等の別の問題を引き起こすという懸念から、「DRMによる対応も万能とはいえない」と指摘するが、これは用いられる技術の仕様に依存しており、将来におけるデジタル消尽を一般に否定する理由にはならないと思われる。

19 椙山・前掲注12) 1236頁。

20 谷川・前掲注7) 446頁以下、小島・前掲注13) 51頁。また、コンテンツライブラリ化の懸念が低いことをデジタル消尽を認める方向で考慮されるべき事情の一つとして指摘するものとして、谷川・前掲注7) 448頁以下、小島・前掲13) 52頁、鳥澤・前掲注17) 30頁。ただし、後二者は、技術の発展やビジネスモデルの変化により、このような区別が相対化されつつあることを指摘する。

21 齋藤浩貴「著作物のダウンロード販売と頒布権、譲渡権の消尽」論究ジュリスト8号(2014)225頁。同書は契約による規律を重視し、譲渡権等の消尽を拡張すべきではないとしつつ、単一の端末に自動的に著作物がダウンロードされるような場合には、例外的に譲渡権の消尽を認める余地を留保する。

22 これらの素材をアーキテクチャによる法の私物化との関係から分析するものとして、拙稿「アーキテクチャによる法の私物化と著作権制度」田村善之=山根崇邦編『知財のフロンティア』(弘文堂・2021)191頁参照。

23 2001年5月22日の情報社会における著作権及び著作隣接権の特定の側面の調和に関する欧州議会及び欧州理事会の指令(2001/29/EC)。同指令の翻訳にあたっては、夏井高人「情報社会指令2001/29/EC(参考訳)」法と情報雑誌2巻11号(2017)を参考にした。なお、本稿では、EU指令の翻訳はいずれも原則としてドイツ語版を底本としている。

24 2009年4月23日のコンピュータプログラムの法的保護に関する欧州議会及び欧州理事会の指令(2009/24/EG)。同指令の翻訳にあたっては、山本隆司訳「外国著作権法令集(58)-EU指令編-コンピュータプログラム著作権指令」(公益社団法人著作権情報センター・2021)を参考にした。

25 EuGH, Urt. v. 2.7.2012, C-128/11. 邦語の評釈として、島並・前掲注13) 211頁以下、谷川・前掲注7) 429頁以下、奥邨2014・前掲注9) 46頁以下、同2020・前掲注9) 41頁以下、齋藤・前掲注21) 219頁以下、西口博之「電子書籍の転売と消尽」CIPICジャーナル223号(2014)55頁以下、紙谷雅子「金の卵を生む鵞鳥を殺すのは誰?:デジタル時代の消尽の法理」学習院大学法学会雑誌50巻1号(2014)427頁以下、椙山・前掲注12) 1227頁以下、小島・前掲注13) 44頁以下、鳥澤孝之「判批」パテント73巻5号(2020)28頁以下、今野博之「電子書籍の中古販売と消尽原則」国際商事法務49巻3号(2021)419頁参照。

26 顧客の85%が公式サイトから直接同ソフトウェアをダウンロードして入手していたとされる。

27 利用許諾契約に基づき、著作物を一部又は全部の方法で利用する権利をいう(ドイツ著作権法31条1項参照)。

28 本先決裁定は、コンピュータプログラム指令4条2項の「販売」を、1回限りの代金の支払と引換えに永続にコンピュータプログラムの複製を使用する権利を許与するあらゆる取引活動を含むものと広く解釈している。このことは、コンピュータプログラムはライセンス(Nutzungslizenz)の形で取引されるのが通常であるところ、売買契約ではなく利用許諾契約と位置づければ消尽の原則の適用を回避できるとすれば、同指令4条2項の実効性が失われることから基礎づけられている(Rn. 49. Vgl. Yves Bot, Schlussanträge des Generalanwalts vom 24. April 2012, ECLI:EU:C:2012:234, Rn. 59))。

29 EuGH, Urt. v. 19.12.2019, C-263/18. 邦語の評釈として、鳥澤・前掲注25) 23頁以下、奥邨2020・前掲注9) 43頁以下、今野・前掲注25) 416頁以下参照。

30 Agreed Statements concerning the WIPO Copyright Treaty adopted by Diplomatic Conferen8ce on December 20, 1996.

31 Vgl. EuGH, Urt. v. 19.11.2015, C-325/14, Rn. 14.

32 Vgl. EuGH, Urt. v. 7.12.2006, C-306/05, Rn. 36; EuGH Urt. v. 13.2.2014, C-466/12, Rn. 17.

33 Vgl. EuGH, Urt. v. 22.1.2015, C-419/13, Rn. 37.

34 公衆伝達の要件を満たさなければ公衆伝達権の対象とならないため、例えば、1回だけ再販売され、1人だけが使用可能であれば、公衆性要件を欠くために再販売が技術的には可能だと指摘されている(Linda Kuschel, Anm. zu EuGH, Urt. v. 19.12.2019 (C-263/18), ZUM 2020, 129, 139. Vgl. EuGH, Urt. v. 10.11.2016, C-174/15)。

35 コンピュータプログラム指令前文理由書7項参照。

36 前述のように、トム読書クラブにおける電子書籍のダウンロード再販売は、会員登録やクレジットの取得等のやや複雑な手順を採っているが、公衆伝達の三要件を満たすものと判断されている(2.3.2.参照)。

37 Martin Matzner, Digitale Erschöpfung: Nicht bei EBooks, aber bei Computerspielen?, IPRB 2020, 96, 97ff. 奥邨(2020)前掲9) 46頁も参照。

38 BGH, Urt. v. 17.7.2013, GRUR 2014, 264 - UsedSoft II. 頒布権の消尽について記録媒体の授受とプロダクトキーの開示を区別しない例として、BGH, Urt. v. 19.3.2015, GRUR 2015, 1108 - Green-IT.

39 これに対して、UsedSoft事件で問題となったサーバ-クライアント型のソフトウェアでは、サーバにインストールされたコンピュータプログラムのコピーを複数のユーザーが使用することが許諾の内容となっている。

40 BGH, Urt. v. 11.12.2014, GRUR 2015, 530 - UsedSoft III.

41 OLG Stuttgart, Urt. v. 3.11.2011, ZUM 2012, 811; OLG Hamm, Urt. v. 15.5.2014, ZUM 2014, 715; OLG Hamburg, Beschl. v. 24.3. 2015, ZUM 2015, 503. Vgl. Kuschel, a.a.O. (Fn. 34), 138.

42 Maciej Szpunar, Schlussanträge des Generalanwalts vom 10. September 2019, ECLI:EU:C:2019:697, Rn. 62.

43 Herbert Zech, Vom Buch zur Cloud, ZGE 2013, 394.

44 Szpunar, a.a.O. (Fn. 42), Rn. 62.

45 Vgl. Thomas Hartmann, Weiterverkauf und „Verleih” online vertriebener Inhalte, GRUR-Int. 2012, 980, 982.

46 Szpunar, a.a.O. (Fn. 44), Rn. 89.

47 Artur Geier, Online-Marktplatz für „gebrauchte“ E-Books verstößt gegen das europäische Urheberrecht, JurisPR-WettbR 2/2020 Anm. 1.

48 Hartmann, a.a.O. (Fn. 45), 984; Thomas Hoeren / Sebastian Jakopp, Der Erschöpfungsgrundsatz im digitalen Umfeld, MMR 2014, 646, 647; Christof Peter, Urheberrechtliche Erschöpfung bei digitalen Gütern, ZUM 2019, 490, 500.

49 Hartmann, a.a.O. (Fn. 45), 983f.

50 Peter, a.a.O. (Fn. 48), 500は、デジタルコンテンツの再販売の要件として、①権利者による適法な第一販売と対価の取得、②前取得者が複製を削除すること、③第一取得者の利用制限が第二取得者にも適用されること、④第一販売と再販売が同じ方法で行われること、⑤原作品の特徴が再販売においても維持されていることを掲げる。

51 Malte Grützmacher, Endlich angekommen im digitalen Zeitalter!?, ZGE/IPJ Bd.5, 46, 83 (2013); ders., Was E-Bücher und Computerprogramme gemein haben?, CR 2020, 154, Rn. 9; Nikita Malevanny, Die UsedSoft-Kontroverse: Auslegung und Auswirkungen des EuGH-Urteils, CR 2013, 422, 427.

52 Hoeren/Jakopp, a.a.O. (Fn. 48), 647. 実質的な理由としては、例えば、情報社会指令が制定された1990年代末にはデジタルコンテンツの流通はCD-ROM等の記録媒体によることが普通であったが、コンピュータプログラム指令が制定された2009年にはインターネット上のデジタルコンテンツの流通が一般化しており、後者に基づく消尽原則の一般化が望ましいことや(Hartmann, a.a.O. (Fn. 45), 984)、コンピュータゲームのような複合的著作物を前提とすれば、コンピュータプログラムが商品の価値の主たる要素を構成するかという評価的基準によって消尽の可否を判断するのは不適切であり、むしろデジタル消尽を一般化すべきことなどが指摘されている(Peter, a.a.O. (Fn. 48), 500)。

53 Malevanny, a.a.O. (Fn. 51), 427.

54 Zech, a.a.O. (Fn.43), 378ff.; Reto M. Hilty, Kontrolle der digitalen Werknutzung zwischen Vertrag und Erschöpfung, GRUR 2018, 865, 873.

55 Linda Kuschel, Der Erwerb digitaler Werkexemplare zur privaten Nutzung, 2019, S.53ff.

56 Ansgar Ohly, Anm. zu EuGH, Urt. v. 19.12.2019 (C-263/18), GRUR 2020, 179, Rn. 7f.

57 Ohly, a.a.O. (Fn. 56), Rn. 7f.

58 有体物である記録媒体の取引とは異なり、デジタルデータのオンライン取引には、梱包料や送料等を要さず、目的物の給付が瞬時に完了し、簡易に実行できるという特徴がある(vgl. Geier, a.a.O. (Fn. 47), C.)。

59 Winfried Bullinger / Benedicta von Rauch, Rechtsfragen zum Secondhand-Markt für E-Books, NJW2020, 816, 819.

60 Boris Uphoff / Daniel Reich, Anm. zu EuGH, Urt. v. 19.12.2019 (C-263/18), BB2020, 83. 同論文は、中古市場とレンタル市場は競合すると指摘する。デジタルコンテンツのダウンロード販売とレンタルの区別については、Hoeren/Jakopp, a.a.O. (Fn. 48), 649参照。

61 アメリカの法学者ローレンス・レッシグは、「商業的利益からアーキテクチャが決定されるとき、ある種の私物化された法(privatized law)が創り出される」と指摘している。アメリカ法とドイツ法は前提を大きく異にするが、アーキテクチャを規制手段として論じる文脈においては有用な概念であるため、ここで用いた(Lawrence Lessig, CODE version 2.0, 2006, S. 77. 翻訳として、山形浩生訳『CODE VERSION 2.0』(翔泳社・2007)がある)。

62 Ohly, a.a.O. (Fn. 56), Rn.8.; Matzner, a.a.O. (Fn. 37), 98.

63 ただし、ドイツ連邦通常裁判所は、DVDによる提供とオンライン認証を組み合わせ、利用許諾契約においてIDの譲渡を禁止していた事例において、消尽の適用を否定している(BGH, Urt. v. 11. 2. 2010, NJW 2010, 2661 – Half-Life 2)。

64 Matzner, a.a.O. (Fn. 37), 99f. これに対して、消尽原則の趣旨から永続利用権の再販売に肯定的な判断を示すものとして、パリ大審裁判所(TGI Paris)2019年9月17日判決(No RG 16/01008)がある。

65 Zech, a.a.O. (Fn.43), insb. 395f.; Hilty, a.a.O. (Fn. 54), 879f.; Ohly, a.a.O. (Fn. 56), 185f.

66 ゲームプラットフォームのなかには、ユーザーの間でゲームを譲渡する手段を用意しているものもあるといわれている(Matzner, a.a.O. (Fn. 37), 99f.)。

67 Ohly, a.a.O. (Fn. 56), Rn.9.

68 2019年5月20日のデジタルコンテンツ及びデジタルサービス供給契約の特定の側面に関する欧州議会及び欧州理事会の指令(2019/770)。邦訳については、カライスコス アントニオスほか訳「デジタル・コンテンツ及びデジタル・サービス供給契約の一定の側面に関する欧州議会及び理事会指令(Directive(EU)2019/770)」ノモス45巻121頁参照。

69 Ohly, a.a.O. (Fn. 56), Rn.9. Vgl. ders., Urheberrecht in der digitalen Welt, F 56; Hilty, a.a.O. (Fn. 54), 879f.; Herbert Zech, Lizenzen für die Benutzung von Musik, Film und E-Books in der Cloud, ZUM 2014, 3, 9ff.; Franz Hofmann, Recht der digitalen Güter Keine digitale Erschöpfung bei der Weitergabe von E-Books, ZUM 2020, 136, 137f.

70 Kuschel, a.a.O. (Fn. 55), S. 111ff., 118 u. 285

71 Zech, a.a.O. (Fn.43), 371f.; Hofmann, a.a.O. (Fn.69), 136. なお、譲渡禁止特約は債権的には有効であり、その違反について売主は買主に対して債務不履行に基づく損害賠償請求をすることができる(ドイツ民法典137条後段)。

72 Kuschel, a.a.O. (Fn. 55), S. 202ff.

73 ドイツ民法典1090条以下。ただし、制限人役権は不可譲渡性を有する(同1092条1項。ヴォルフ/ヴェレンホーファー(大場浩之ほか訳)『ドイツ物権法』(成文堂・2016)589頁以下、水津太郎「ドイツ法」比較法研究80号(2019)177頁参照)。

74 „Belastung“とは、所有権に制限物権を設定することをいう。ここでは、著作権に対する享益権の設定を所有権に対する人役権の設定に対応するものと考えている。

75 Kuschel, a.a.O. (Fn. 55), S. 240ff. u. 286.

76 椙山・前掲注12) 1230頁以下。

77 これに対して、今野・前掲注25) 420頁は、デジタルコンテンツも情報の価値は時間の経過と共に劣化するとして、中古になっても劣化しないことを理由とする区別に否定的である。

78 アメリカ合衆国の例をひきつつ、二次市場の成立や海賊版の流通による一次市場での価格への影響を指摘するものとして、紙谷・前掲注25) 430頁以下。

79 ただし、この基準は暫定的なものに過ぎない。現行法が認める複製物の二次市場が一次市場に与える影響をどのように評価するかは問題であるし、それが適正なものであるかにも議論の余地はある。また、ダウンロード販売のみを行っているコンピュータゲームのように、比較の対象となるべき複製物の二次市場が存在しないことも考えられる。

80 関連する近時の立法例として、特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律がある。

81 現行著作権法は、平成30年改正により「デジタルに関してはフェアユースに近い法制になった」と評価されている(中山信弘『著作権法〔第3版〕』(有斐閣・2020)493頁)。

82 小島立「クラウド・コンピューティングとは何か」小泉直樹ほか『クラウド時代の著作権法』(勁草書房・2013)22頁以下。谷川・前掲注7) 450頁脚注49)参照。

83 小島・前掲注83) 23頁。

84 ここでいうライセンスとは、利用許諾契約に基づいて著作物を利用できる権利をいう(著作権法63条参照)。

 
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