2022 Volume 5 Issue 2 Pages 95-116
本稿は英国通信法制に関するものであり、特にインフラ・インカンバントに対する規制を対象とし、その展開を整理し、特徴を浮き彫りにすることを目的とする。
英国の通信インフラ市場を見ると、旧国営のインカンバントであるBTがOpenreachとして事業を展開しており、英国のブロードバンド事業者は依然として多くの地域でOpenreachの設備を利用することが必要になっている。故に、Openreach自体の支配的な地位の濫用を防止する必要が生じ、また、OpenreachがBTを他の事業者に比べて有利に扱うことを防止する必要が生じる。前者が「SMP(重大な市場支配力)規制」の問題であり、後者が「アクセス分離」の問題である。もっとも、こういった英国の通信規制枠組みに関しては邦語研究も含め先行研究が既に扱ったものである。にもかかわらず、本稿が今、この問題に改めて取り組む理由として2つ指摘したい。1つは、邦語研究のアップデートである。デジタル化の要請の中で大容量通信網の構築が世界的な課題となっており、英国もそれに向けて動いている。そこで、邦語研究をアップデートし、今後の我が国の通信インフラ政策に寄与したいと考えた。もう1つは、より一般的な視点であり、英国のインカンバントに対する規制の特徴を整理しておく必要性を感じた。背景には我が国のNTTに対する規制が変革期にあること及びプラットフォームに対する規制として企業規模に応じた事前規制が世界的に検討されていることがある。独占的な事業者に対する事前規制として通信法制、特にアクセス分離を早くから取り入れた英国は格好のサンプルであり、その分析によって今後のプラットフォーム規制の要点を学びたいと考えた。
以上の問題意識の下、本稿では、1980年代以降の英国通信法制を調査した。その結果、インカンバントに対する規制はサービス競争(市場への参入の促進ひいては料金競争)に焦点を当てたものから、インフラ競争(競争者による投資の促進)に焦点を当てたものに転換していることを指摘した。加えて、アクセス分離がSMP規制の重要な方策である一方で、組織に焦点を合わせた「共同規制」であることを指摘した。そして、この「競争/投資」及び「組織(共同規制)」という指針は通信市場に限らず、より一般的な価値を持ち得ることも指摘した。
The purpose of this study is to summarize the developments of the UK telecommunications law, particularly the regulations for BT as an infrastructure incumbent, and to highlight its characteristics.
In the U.K., Openreach, a wholly owned subsidiary of BT, is engaging telecom infrastructure business. Broadband operators in the U.K. still need to use Openreach's facilities in many geographic areas. Therefore, it is necessary to prevent abuse of a dominant position and preferential treatment of BT by Openreach. The former is an issue of "SMP (Significant Market Power) regulations" and the latter is an issue of "equality of access and operational separation."
Although there have been prior studies on the UK's telecoms law, there are two reasons why we have undertaken this study.
The first reason is to contribute to Japan's telecoms policy by updating the previous studies of UK's initiatives. As a background, the construction of high-capacity communication networks has become a global issue in the context of the demand for digitalization.
The second reason is to summarize the characteristics of the regulation for the British incumbent, with regards to the following factors: Japan's regulation for NTT is in its period of change; and ex-ante regulations for platforms based on the size of companies are being considered worldwide.
With the above in mind, this study focuses on the UK telecoms law since the 1980s. As a result, the following points can be highlighted: regulations for the incumbent operator has shifted its focus from service competition (promoting market entry and hence price competition) to infrastructure competition (encouraging investment by competitors); operational separation is exercised in the UK as "co-regulation" with a focus on organization; and the guiding principles of "competition/investment" and "organization (co-regulation)" can have a more general value, not limited to telecoms market.
本稿は英国通信法制に関して、インフラ・インカンバント、すなわち、BT(Openreach)に対する規制を検討する。BTに対しては「SMP(重大な市場支配力)規制」と「アクセス分離」という2つの規制が課せられている。では、なぜ同一の市場・同一の事業者に対して二重の規制が設けられているのであろうか。どういった歴史的理由があり、どういった特徴があるのだろうか。これが本稿の基本的な問題意識であるが、本稿はこの問いが単なる歴史的な関心を超え、競争政策における本質的な問いに関係するものと捉えている。すなわち、通信市場においてはネットワーク敷設のインセンティブを与えるため、独占的利益を与える必要があるが、他方で、独占の弊害を緩和する必要がある3。英国の政策もこの二律背反の舵取りを目指すものであり、本稿は上記政策の分析を通じて本質的な問いに切り込むものである。また、デジタル化の要請の中で大容量通信網の構築が世界的な課題となっており、今後の通信インフラ政策の指針として、過去の政策を総括しておく必要性も感じた。
以上の問題意識の下、本稿では、1980年代以降の英国通信法制を調査した。具体的には、固定電話市場の規制からブロードバンド市場の規制の展開及びSMP規制にアクセス分離が加わるに際し、どういったことに焦点が当たっていたのかを追った。また、アクセス分離の中身についても、「機能分離」の段階が進み「法的分離」となった政策の背景を調査した。その上で、これらの政策の特徴を整理した。同時に、単なる政策動向にとどまらず、これらの規制の細部について比較を行い、その異同を明らかにし、実務的な議論への寄与も意識した。
加えて、インカンバント規制の特徴がより一般的な政策の指針となり得るかどうかも本稿の関心事である。近時、巨大プラットフォームの事前規制に焦点が当たっている。本稿はインカンバント規制が事前規制においていわばプラットフォームの先輩といえないかという素朴な発想から出発し4、インカンバント規制の特徴がどのようにプラットフォームの事前規制に応用できるかも試みに検討した5。その意味で、本稿は通信法制の専門家だけではなく、より広く競争法に関心のある方に向けたものである。
後述の通信法制の展開について理解を助けるために、まず英国通信法制の全体像を概観する6。
英国における通信関係法として、事前規制としての2003年通信法(Communications Act of 2003)、事後規制としての一般的な競争法及び一般的な消費者法がある7。前者の通信法はEU初の電気通信の包括法である枠組指令(Framework Directive)8の実施法として策定されたものである。通信法は通信規制当局Ofcomが所管しており、Ofcomの義務や後述のSMP規制などの枠組みを定めている。Ofcomの義務を定めた条項の中に通信法の目的も規定されている。すなわち、通信法3条(1)は消費者の保護を主たる任務とし、その手段として競争の促進を挙げる。通信法はEUの通信法の改正に合わせてたびたび改正されている。直近では、2018年に成立したEU電子通信規則(European Electronic Communication Code: EECC)9を国内法化するため、2020年12月に英国通信法が改正された。後者の競争法として、1973年公正取引法(Fair Trading Act 1973)、1980年・1998年競争法(Competition Acts of 1980 and 1998)、2002年企業法(Enterprise Act 2002)及び2013年企業規制改革法(Enterprise and Regulatory Reform Act 2013)があり、競争・市場庁(Competition & Markets Authority: CMA)が所管している10。たとえば、通信事業者による合併については、CMAが審査する。もっとも、Ofcomは完全に一般競争法と無関係というわけではなく、後述の通り、BTのOfcomに対するコミットメントは企業法154条に基づくものである。
英国通信法制では、大きく対称規制と非対称規制の2種類の規制がある。そのうち、非対称規制はSMP規制とアクセス分離に分かれる(なお、アクセス分離もSMP規制の一種であるが、本稿は歴史的展開の説明の便宜上「SMP規制」をアクセス分離を除いた規制群を指す用語として用いる。EU通信法上、アクセス分離がSMP規制に含まれる歴史的経緯は後述4.2.1.)。対称規制とは一定の種類の電気通信事業を営む全ての事業者に課される義務である。英国における対称規制は通信法に基づき資格の一般条件(General Conditions of Entitlement: GC)として定められている11。規制の内容としては、主に相互接続や消費者保護の義務などが定められている(後述のように、秘密保持義務など、非対称規制と重なるものもある)(参照、末尾表 2)。
SMP規制は非対称規制であり、重大な市場支配力(SMP)を有する事業者にのみ課される規制である。SMPかどうかは「市場の支配に達するかまたは相当する地位」にあるかどうかによって判断されるため、市場毎に異なる(通信法78条(1)。同旨、枠組指令14条(2)、EECC 63条(2))。SMP及びその義務内容(救済策)についての審査は「市場分析(Market Review)」と呼ばれる。
ブロードバンド市場の市場分析における大きな問題はアクセスである。「アクセス(Access)」は、典型的には、新規参入事業者が既存の事業者のネットワークを利用可能にすることである(参照、アクセス指令(Access Directive)12 2条(a)、EECC前文(27))。本来、既存の事業者はアクセス開放のインセンティブをもたないため(新規参入が増えれば、競争が増すため)、政府が介入することで競争を創出する効果がある13。ブロードバンド市場の市場分析においては、アクセス義務をどこの市場に課すのかが主たる関心事である。伝統的には、卸売ローカルアクセス(Wholesale Local Access: WLA)市場と卸売ブロードバンドアクセス(Wholesale Broadband Access: WBA)市場という2つの市場に分けて規制が課されてきた(図 1)(厳密には、後述3.5.の通りネットワークやエンド・ユーザに応じて、市場が細かく分けられていた14)。
図 1 WLA市場とWBA市場
(出典)Ofcom, Review of the wholesale broadband access markets Consultation on market definition, market power determinations and remedies, 8 (2013)
WLA市場の規制では、BT(Openreach)にローカル・ループ・アンバンドリング(Local Loop Unbundling: LLU)の義務を課すことになる。LLUとは、アクセスを提供する方法の1つであり、他の通信事業者に交換機への接続と顧客の施設へのアクセスを許すことである(参照、アクセス指令2条(e)、EECC前文(30))15。これはBT(Openreach)から顧客までのネットワーク(アクセス・ネットワーク)を借りるシナリオであり、伝送用ネットワーク(コア・ネットワーク)は競争者が自前で敷設する必要がある。そのため、ネットワーク間競争(インフラ競争)が促進されると評価されている(英国におけるサービス/インフラ競争の歴史的経緯については、後述3.1.及び3.4.)16。
WBA市場の規制はBT(Openreach)から伝送用ネットワークを借りるシナリオである。典型は「ビットストリーム・アクセス(bitstream access)」の提供であり、これによりBTはLLUをすることなく、他の通信事業者にアクセス・リンクを提供する。この場合、いわゆる「ラスト・マイル」はBTのネットワークとなる17。類似の場面として「共有アクセス」があり、これはデジタル加入者線アクセス多重化装置(Digital Subscriber Line Access Multiplexer: DSLAM)へのアクセスを認める場合をいう18。WBAにおいてはWLAよりも競争者の参入コストが少なくてすむ。そのため、ネットワーク間競争ではなく、小売り(サービス)の選択肢を多様にする効果を持つ19。
厳密には救済策には(1)アクセス義務だけではなく、(2)差別的取扱いの禁止、(3)料金規制及び(4)エンフォースメント(サービス品質(QoS)を含む)がある(参照、末尾表 2)。なお、救済策の内容については、いろいろな分け方があるが(参照、アクセス指令8条、EECC 68条20、後述2021年市場分析21)、本稿ではアクセス分離との比較の観点からこの4種類に分類している。
英国ブロードバンド市場における重要なイベントは、① (電話市場だが、前提としての)British Telecomのアクセス・ネットワークの開放(1983年)、② ブロードバンド市場へのLLUの導入及び価格の引き下げ(1999年・2004年)、並びに、③ アクセス分離規制(2006年機能分離・2017年法的分離)である。なお、British Telecomは現在、主として持株会社のBT Group plc及びその子会社のBritish Telecommunications plc (BT plc) からなる(後掲図 3)。以下、特に明記のない限り、両者を含め「BT」という23。
結論の先取りになるが、これらの展開は競争の促進・維持という関心からなされたものとしては共通しているが、その狙いは細部では(しかし重要な点で)異なる。それはどのレベルの競争を促進するかという観点である。すなわち、①のアクセス・ネットワークの開放は単に競争者がインカンバントのネットワークを使えるようになったというのみで、サービス競争(市場への参入ひいて小売料金の低下)を促進するものだった。これは結果として、電話網及びケーブル網のインフラ投資を過小にさせたと評価されている。その焦りから、②ではインフラ競争を促進するため、LLUが導入され、インカンバントはアクセス・ネットワークだけではなく、ローカル・ネットワークの開放をも要求されることになった。③も②と同様に、インフラ投資を強化する趣旨からのものとされる24。
そして、直近では、英国は次世代ネットワークのインフラ投資を促進する政策を採用している。このような、サービス競争からインフラ競争(ないし投資)へという政策の転換はEU法のレベルでも同様だとされる25。以下、この視点から英国の規制の展開を追っていきたい。
3.2.1980年代:British Telecomの民営化26従前、英国の電気通信事業は英国政府の国営事業であり、郵便局(Post Office)が管轄していた。また、当該国営事業を監視する特別な機関は存在していなかった27(なお、Hull地域では、自治体所有の電話会社(現KCom)があったが、郵便局に統合されなかった28。そのため、現在でもKComが支配的な地位を占めている。)。
その後、1981年にBT法(British Telecommunications Act 1981)が成立し、電気通信事業が郵便局から分離され、国営企業British Telecommunications(以下、「British Telecom」という)が設立された29(2001年にBT Group plcに再編されている)。
マーガレット・サッチャーが1983年に英国首相に再選すると、公益事業の非国有化の第1弾として、British Telecomが対象となり、その株式の段階的な売却が決定された。同時に電気通信市場の監督機関として、1984年、Oftel(Office of Telecommunications)が設置された(現Ofcom。後述)30。さらに、1984年に電気通信法(Telecommunications Act 1984)が成立し、電気通信事業への参入が許可制とされた。
民営化だけではなく、独占への対策もなされた。英国政府はMercury Communicationsに参入を許可した。これによりBritish Telecomによる独占が終焉した31。法的な規制としては、British Telecomに対しアクセス・ネットワークへの接続義務が課され、競合者が市場に参入しやすいようにされた32(実際、Mercury Communicationsは独自のコア・ネットワークを持たず、主にBritish Telecomのラスト・マイルに頼っていたとされる33)。また、British Telecomの小売及び卸売サービスに対して料金規制がなされた34。
3.3.1990年代:ブロードバンド市場へのLLUの導入1990年代後半からブロードバンドへの需要が急速に高まり、ブロードバンド市場の育成が課題となった。たとえば、2001年にOftelは「2005 年までに G7 の中で最も広範で競争力のあるブロードバンド市場を持つ」ことを目標に掲げている35。
そして、LLU導入に反対してきたこれまでの政策を転換し、1999年、BTにLLUの義務を課した36。当時の市場分析は次のように述べ、LLUの導入により価格が競争的になるだけではなく、消費者の選択の幅が広がるとする37。
3.4.2000年代:LLUの価格の引き下げ「BTがアクセスを提供するだけでは、競争力のある価格と消費者の選択肢を確保するのに、また、アクセス提供におけるイノベーションを促すのに十分ではない。他の事業者に〔ローカル・〕ループをアップグレードし、いつ、どこで、どのように展開するかについて独自の決定をする機会を与えることも必要である。」
「消費者は、新しいプロバイダーから直接、ローカル・ループ上の電話を含む様々なサービスを受けることができるようになる。これにより、競争力のある価格が実現し、提供される商品の選択肢と多様性が高まる。」(〔〕内筆者)
しかし、1999年に導入したLLUは不発に終わった。というのも、アンバンドリングの料金が高額だったため、参入者は自社のコア・ネットワークを敷設した上で、BTのアンバンドリングを利用する代わりに、BT回線のレンタルを利用したからだとされる38。そこで,2004年の市場分析によりOfcomはLLUの料金を引き下げた。加えて、アクセス分離について構造分離を勧告した(結果的に機能分離に決着した。後述)39。その結果、TalkTalk(AOL)やTiscali(後にTalkTalkに統合)などの競争者がLLUを利用してブロードバンド市場への投資を加速させたとされる40。たとえば、2006年にはTalkTalk及びTiscaliの合計シェアが26.5%となり、23.8%のBTのシェアを超えている(なお、Virgin Media(ntl及びTelewestの合併により設立)などのケーブルテレビ事業者のシェアもBTと同水準を維持している)41。
なお、法的枠組みも2000年代に入り大きく変化した。EUはインターネットの普及のためにさらなる規制緩和と規制の簡素化が必要だという認識から、2002年に電気通信指令パッケージ(枠組指令やアクセス指令など)を成立させた42(後にEECCに統合された)。このEU法の実施法として、2003年に英国通信法が成立した。また、Ofcom法(Office of Communications Act 2002)に基づき、2003年、電気通信、ケーブル及び地上波放送の監督機関としてOffice of Communications (Ofcom) が設立された。
3.5.2010年代~最近の動き:ギガビット網の促進2010年代から現在までにおいて、英国のブロードバンド市場の競争政策における焦点はギガビット対応のネットワークの整備である。ギガビット対応とは英国の定義では、ダウンロード速度が最小1 Gbpsのことであり、技術的には固定通信では光ファイバ(FTTP)及び高速ケーブル(DOCSIS 3.1)を指している。また、固定通信だけではなく、潜在的には5G網もギガビット対応に含むとされている43。
2016年の政策文書「デジタル通信の戦略的検証」44では、フル・ファイバ網を家庭と事業所に展開し、5G網の展開を促進することがうたわれている。こういったフル・ファイバ網を促進する政策は英国政府のフル・ファイバ及び5Gに関する通信インフラ政策45と軌を一にしている。具体的には、Boris Johnson政権は2025年までに少なくとも85%の施設をギガビット対応網にアクセス可能にすることを目標としている46(2021年5月時点で1200万施設(40%)をカバーしている47)。
市場では事業者もフル・ファイバ網またはギガビット網(ケーブル)の大規模な敷設計画を打ち出している(BT(2020年末までに2000万施設(premises))、CityFibre(時期は未定だが800万施設)、ケーブルテレビ事業者Virgin Media(2021年末までに1500万施設)及びHyperoptic(2024年末までに500万施設))。Ofcomはこういった事業者の投資により2020年代半ばまでに英国の80%をギガビット対応ネットワークでカバーできると予想している48。
直近では2021年3月にはブロードバンド市場について包括的な市場分析がなされている49。2021年市場分析の対象市場は広く、固定アナログ交換回線(WFAEL)市場、ISDN(Integrated Services Digital Network)市場、WLA市場、WBA市場及び事業者用接続市場であり、ブロードバンドに関わる市場が広く対象とされ、これらの市場に関する従前の決定を変更している50。
2021年市場分析の狙いは光ファイバ網の投資促進である。市場分析決定のタイトルも、文字通り、「ファイバ網における競争及び投資の促進(Promoting competition and investment in fibre networks)」となっている。具体的には、市場の競争環境ごとに政策を分け、BT (Openreach) または競争事業者のネットワーク投資を促進している。すなわち、競争事業者がいる市場では競争事業者が独自ネットワークを構築することを奨励し、他方、競争事業者がいない市場ではBT (Openreach) によるネットワーク投資を奨励しようとしている51(市場分析の内容については、簡単には、末尾表 2)。
以下では英国のアクセス分離の経緯及びその一形態である法的分離の特徴を整理する。概観すると、Ofcomはアクセス分離を後述表 1の通り8つに分類している。BT/Openreachは2005年から「5:機能分離」、2017年から「7:法的分離」の形態をとった。後者は2番目に厳しい措置であり、アクセス分離の強化がさらに必要となった場合、残すは「8:構造分離」のみとなる。後述4.2.2.2.の通り、Ofcomは、構造分離のカードは保持したままである。
本稿がSMP規制に加えてアクセス分離も検討する理由は、1つは、前述2.の通りそれがブロードバンドの非対称規制の一部だからである。つまり、アクセス分離まで見なければブロードバンドの非対称規制の全体像は分からない。もう1つは、アクセス分離はインカンバントの組織に手を加える規制手法であり、SMP規制とは一線を画すからである。特に、我が国ではNTT及びデジタル・プラットフォームに対する規制が議論の俎上にあり、その意味で英国の組織に対する規制手法から学ぶことがあると考えている。
4.2.政策とその背景 4.2.1.機能分離の導入52前述の通り、Ofcomは2004年12月にはLLU価格引下げを決定し、2005年初に実施したものの、「近い将来、英国の通信業界に新規事業者が参入し、BT が所有・運営するのと同じ機能を果たす全国的なアクセス・ネットワークを構築する可能性は低い……。つまり、英国の多くの家庭や企業にとって、BTはローカルアクセスを提供する唯一の事業者であり、この状況が近い将来に変わることはないと思われる。」53という認識を抱いていた。
そこで、Ofcomは2005年9月の総合的戦略レビューにおいて、「継続性の高いボトルネックの存在が公正な競争を妨げている」54と指摘し、BTに強制的な構造分離の実施をちらつかせながら(後述4.2.2.2.)、2年間の協議を経てBTから自主的に公約(Undertakings)55を提案させた。主な内容は、アクセスサービス部門(Openreach)の設立、EoIによる製品・サービスの提供、部門を超えた情報共有ルール、行動規範の導入及び独立した監視部門(Equality of Access Board: EAB)の設立である。あくまで自主的な公約という前提ではあるが法的拘束力を持つ(後述4.4.3.)。
EoIとは、アクセス分離(operational separation)またはアクセスの平等性(equality of access)を確保することにおいて重要なキーワードであり、Equivalence of Inputs(インプットの同等性)を指す。公約の定義を引用すると次の通りである56。
「『Equivalence of Inputs』または『EoI』とは、BTが特定の製品またはサービスに関して、すべての通信事業者(BTを含む)に同一の製品またはサービスを同一のシステム及びプロセスにより同一のタイムスケール及び条件(価格及びサービスレベルを含む)で提供することを意味し、すべての通信事業者(BTを含む)に当該製品、サービス、システム及びプロセスに関する同一の商業情報を提供することを含む。特に、BT が他の通信事業者と同じ方法でかつ他の通信事業者が経験したのと同じ程度の信頼性と性能でこのようなシステムとプロセスを使用することも含まれている。」
つまり、SMP規制対象であるプロダクト(公約 3項及び5項にて規定)については、たとえBT内の組織であってもBTを含む全ての通信事業者を平等に扱わなくてはならない。また、EoIを実現するための組織や、情報共有ルール、行動規範、ガバナンス等の取決めが、この公約の全体像である。そして、2005年9月22日、2002年企業法に基づきBTは競争当局への照会に代えてOfcomに対し法的拘束力のある約束をし、それをOfcomが受入れることでOpenreachが設立された57。
なお、当時のEUの電子通信規制枠組みでは各国規制当局(NRA)が機能分離を選択する際の要件は明確に規定されていなかったが、上述のような各国の動きを受けてEUレベルでの検討がなされ、2009年11月に成立したBetter Regulation指令58においてアクセス指令に13a条(NRAが例外的救済策として機能分離を課す場合)、13b条(SMP事業者が自主的に機能分離を行う場合)が追加され、機能分離が例外的救済策として導入された。枠組指令7条及び7a条にて規定されている標準的な救済策の手続きとは異なり、13a条に基づく機能分離はアクセス指令8条(3)に従い、欧州委員会への事前承認手続きが必要となるが、13b条に基づく機能分離では、SMP事業者が自主的に機能分離を行う旨をNRAに通知し、NRAは影響評価を行ったうえで必要な修正等の協議を行い、救済策を決定することができる。このように、NRAによる強制的な機能分離とSMP事業者による自主的な機能分離では特にEUレベルでの手続きが異なる。なお、この考え方は2018年のEECC(77条及び78条)でも同様である。
4.2.2.法的分離への移行 4.2.2.1.「強制的な」法的分離の提案2005年9月の機能分離後、競争の激化を理由として、BTは2006年に小売価格規制の撤廃を、また、2008年に英国の約70%の地域でのWBA市場規制の撤廃(SMP規制の撤廃)を獲得した59。しかし、その後、BTのブロードバンドのシェアは2009年末の27.0%から増加し、2016年末には32.8%に至った60。そこで、Ofcomは2016年2月の戦略的レビューにおいて「BTは、Openreachの新たなネットワーク投資についての戦略的意思決定の際に、自社のリテールに有利になるようにするインセンティブも能力も保有している」61という競争上の懸念を表明し、全国民のための「フル・ファイバ」投資に向けて、Openreachに対しより強い独立性を求めた。競争上の懸念とは、具体的には次の点である。
「・BTグループは、Openreachの戦略的意思決定と、競合他社が使用するネットワークの一部に費やされる予算を引き続き管理している。
・OpenreachのガバナンスはBTグループからの独立性を欠いている。
・Openreachには、研究開発などの分野でBTとは独立した独自の機能がない。」
2016年2月の戦略的レビューを踏まえ、Ofcomは政策文書「デジタル通信の戦略的検証」62において強制的な法的分離を示唆した。
4.2.2.2.代替案としての構造分離実は、選択肢として法的分離だけではなく、それよりも弱い規制及びより厳しい規制である構造分離も俎上に上っていた。当時の機能分離は表 1の「5:独自報奨制度を伴う機能分離(functional separation with local incentives)」であり、Ofcomが示したのはそれよりも独立性の強い次の3つ、すなわち「6:独立ガバナンスを伴う機能分離(functional separation with independent governance)」、「7:法的分離(legal separation)」及び「8:構造分離(structural separation)」であった。Ofcomは「7:法的分離」が好ましい選択肢であるとしたうえで、それを導入してもなお目的が達成できなければ「8:構造分離」が選択肢として残り続けるとしていた63。
分離モデル | 概要 |
1:会計分離 | 個別財務報告(プロダクトの売上と費用を異なるバスケット配賦) |
2:卸売部門の創設 | 卸売部門を切り出して競合事業者にプロダクト供給(ただし、アクセスの同等性はない) |
3:仮想分離 | 内部・外部の顧客へ同等条件でサービスを提供するが、物理的な事業の切り離しはない |
4:機能分離 | 事業及びプロセスの切り離し(例:場所、スタッフ、ブランド、情報システム) |
5:機能分離 (独自報奨制度を伴う) |
機能分離 +独自ガバナンス及びマネジメント・インセンティブ(報奨・報酬) |
6:機能分離 (独自ガバナンスを伴う) |
機能分離 +グループ取締役会から独立して行動する非業務執行取締役による部門取締役会の創設 |
7:法的分離 | 上流事業をグループ内の異なる法的主体として切り離すが、所有権は変わらない |
8:構造分離 | 垂直的統合運用を異なる法的主体として切り離し、主要な所有者を変える、また、事業ラインの制約を課し、お互いの市場への再エントリーを防止する |
(出典)Ofcom, Strengthening Openreach’s strategic and operational independence, Proposal for comment, 5 (2016)
しかし、「強制的な」法的分離は結局断念された。すなわち、2017年3月にBTがOfcomに対して「コミットメント(Commitment)」を提出し、法的分離を自発的に行うことでOfcomと合意した64。その背景は、2016年11月の法的分離要求65においてOfcomが説明している。これによると、Ofcomは、重要な分野(特に、ヒト、モノ(資産)及びBT役員がOpenreachのマネジメントに及ぼす影響)において、事前にBTから示されたコミットメント案は「十分でない」として却下した。その上で、BTとOpenreachという2つの事業の物理的分割及び年金スキームの分割の影響に鑑みれば、「構造分離は法的分離よりもコストとリスクが大きい」と判断した。他方、法的分離は「最短時間で最大効果に到達するであろう」と結論した。つまり、Ofcomは効果に加えて、コスト、リスク及び時間を考慮に入れ、BTによる「自主的な」法的分離を「要求」したのであった。
「コミットメント」66はOpenreachの設立目的、独自戦略策定、従業員移籍、情報及びシステム等ファイヤーウォール要件並びに監視報告体制などについて規定しており、「公約」と比較してOpenreachの独立性を強化したものとなった(前述表 1を参照)。また、法的分離に伴い、BTとOpenreach間で委託契約書「Agency and Services Agreement(ASA)」67が交わされた。ASAには、OpenreachがBTを代理する範囲、すなわち、BTとOpenreachの間の戦略、監督、運営・管理、取引、契約及び従業員の雇用等についての枠組みが定められている。さらに、BTがOpenreachのガバナンスに関する責任及び義務の内容を定めた「Governance Protocol(ガバナンス・プロトコル)」68が策定された。これは主にOpenreachの取締役会と執行役員の任務について規定したものである。
その後、法制度上でも法的分離への移行がなされた。2017年4月に英政府は「デジタル経済法(Digital Economy Act 2017)」を可決し、BBユニバーサルサービス義務を導入するとともに、容易な事業者間のサービススイッチング及びBBサービス問題発生時の自動補償といった本格的な英国内でのブロードバンド展開に向けた法整備を完了した。同年7月にOfcomは法的分離の監視機関であるOpenreach Monitoring Unit(OMU)を設立した。そして2018年10月にはOfcomは2005年の公約からBTを解放し、Openreachの法的分離を確認した69。
4.3.法的分離のポイント以上が英国のアクセス分離についての経緯である。それを踏まえ、以下では、法的分離の特徴を整理する。前述の通り、英国ブロードバンド市場規制の特徴は(1)アクセス義務、(2)差別的取扱いの禁止、(3)料金規制及び(4)エンフォースメントの4つに大別でき、そのうち、アクセス分離においては(2)及び(4)を具体化している。ここで、法的分離のポイントを①組織、②差別的取扱いの禁止、③従業員、④設備、⑤戦略/計画策定及び⑥情報と順を追って見ていきたい。これらは(2)差別的取扱いに関わる。(4)エンフォースメントについては次項で述べる。なお、比較の便宜のため、GC及びSMP条件も含め、ブロードバンド規制をマッピングした(末尾表 2)。適宜、参照されたい。
①組織機能分離では、OpenreachはBT単体の一部門であった。卸売サービスをコア・ネットワークとアクセス・ネットワークに分け、後者のアクセス部門を切り離したものがOpenreachであった。一方、法的分離では、BT単体配下にOpenreach Divisionという機能的に独立した部門を設置している(図 2)。BTの他部門から当該部門の本部へのアクセス(物理的な接触や人的交流、情報共有等)は制限される。Openreach Divisionは、BT側で資産管理やOpenreachへのプロダクト提供にあたるOpenreach LoB (line of business)と、法的に独立した会社であるOpenreach Limitedに区分される。なお、以下では単に「Openreach」というときはOpenreach Divisionを意味する。
図 2 法的分離時のBTとOpenreachの関係
出典)BT plc, Guidance Note 2 (2019)に基づき筆者作成
Openreach LimitedはBT単体の完全子会社であるが、前述4.2.2.で述べたASAに基づき、BT代理人としてOpenreach LoBの管理・運用(顧客との取引実施、資産の管理運用、サプライヤーとの関係管理及び従業員の雇用・管理)を行う。なお、Openreachのプロダクト提供のために使用されるBTアクセス・ネットワークやバックホール・ネットワークは全てBTの資産であり、LoBの所管となっているが、上述のASAに基づきOpenreach LimitedがBTの代理人としてこの資産を管理運用する。
このように、インカンバントのアクセス部門とその他の部門を分けること(いわゆるファイヤーウォール)により、アクセス部門(Openreach)がBTとその他のサービス事業者との差別的取扱いをできないように(少なくとも、難しく)している70。
なお、ブランドについて、機能分離時代は、Openreachブランドは「BT Group business」「BT corporate device」などのBTブランドの近くで使用できた(公約5.48項)。法的分離後は、Openreachブランドに「BT」または「British Telecom」の要素を組み込んではならないこととなっている(コミットメント16.1項)。
②差別的取扱いの禁止Openreachは、BT以外の競合他社を含め、全ての顧客を平等に取り扱うことが求められているが、SMPプロダクトと、非SMPプロダクトでは、若干扱いが違う。
SMPプロダクトは、Ofcomによって定められた規制対象プロダクトであり、ダークファイバーアクセス、MPF、PIA、イーサネット、WDM及びVULAが含まれる。これらの提供においては完全なEoIが求められる。すなわち、BTを含む全ての顧客に同じプロダクト/サービス/システム/プロセスを提供しなければならない(コミットメント3.2項及び5.3項)。
非SMPプロダクトには、たとえば、管路や電柱へのアクセス(Physical Infrastructure Access: PIA)が含まれる。この点、「非SMPプロダクトについても差別的に取り扱ってはならず、特定の通信事業者(Communications Providers: CPs)を不当に優遇しない」と規定されている(コミットメント5.4項)。これは同等性確保(equal treatment)と呼ばれる。同等性確保においては、Openreachは全ての顧客を率直/正直/公正/透明な方法で取扱い、全ての顧客に商業的・戦略的な事項に関して秘密ベースで契約する機会を与える必要があるが、規模やニーズの相違から全ての顧客に同一結果を保証する必要はない71。このような違いがあるものの、Ofcomは同等性確保をサービス供給に係る全プロセス及びサブプロダクトに関して厳格な同等性を要求するものと解釈している。Openreach には、同等に取り扱わない場合は、その違いを正当化できなければならないという縛りがある72。しかしながら、非SMPプロダクトの提供に係る同等性確保の検証方法は特に定められていない。
③従業員Openreach(LoB/Division/Limited)従業員はBTからOpenreach Limitedに移籍した。報奨及び報酬はOpenreach Divisionの目的のみを反映している(コミットメント8.1項及び8.2項)。機能分離時代はBTとの兼務が禁止されていたが(公約5.35項)、法的分離を機に、事業譲渡(雇用保護)規則(Transfer of Undertakings (Protection of Employment) Regulations 2006: TUPE)に基づき移籍した(コミットメント7項)。移籍は2017年4月の分離合意から開始し、2018年末までに年金の移行も含め完了した73。Openreach CEO及び経営層の報酬インセンティブの取決めは高品質のサービス提供に関するインセンティブを含むスコアカードに基づく。これらのインセンティブはスコアカードの成果全体の25%以上に加重される。Openreach Limitedは顧客を平等に扱うというコミットメントを反映したスコアカードを使用している(コミットメント8項)。
④設備74機能分離から法的分離への移行後も、全ての資産の所有権はBTにある。Openreachはこれらの資産(アクセス・ネットワーク及びバックホール・ネットワーク)を管理運用する権限が与えられている。BTは資産の法的所有権だけではなく、Openreach LoBが行った全ての契約の主体であり、故に、経済的便益とリスクも負担する。Openreach Limitedは、自己のために資産を得たり、負債を負うことはできない。全ての資産の取得・売却・その他の取引はBTを代理して行う。BTはOpenreach LoBの管理運用をOpenreach Limitedに委託している。
⑤戦略/計画策定BTグループ/Openreachでは事業の計画プロセスが文書化・公表されており、独立性と透明性が確保されている。Openreach Limitedは事業の運用及び投資に関する意思決定について、その主要な部分の計画を策定する権限を有する。その計画はOpenreach Limitedの取締役会で承認を受けたうえで、BTグループから最終承認を受ける必要がある(コミットメント2項)。また、その計画がBTグループから承認されない場合、Openreach Limitedはそれに対しコメントし、また、計画を修正及び再提出することができる(ガバナンス・プロトコル2.2(c)項)。なお、BTのOpenreach以外の部門については、事業計画が承認されない場合は、計画を再提出する機会はない75。
このような取決めを通じ、Openreachは独自の戦略を策定し、また、独自の技術、ネットワーク及びプロダクトを選択し、開発することができる。ただし、独自の戦略とはいえ、それはBTグループの戦略フレームワークの範囲内であることに留意が必要である。
⑥情報機能分離時代は、既存情報システムの論理的/物理的分離を進めた。法的分離以降は、システムに関する戦略の策定についてもOpenreach Limitedが責任を負い、独自の情報システムを管理運用する。Openreach Limitedは、Openreach Divisionがプロダクトを提供する際は、ガバナンス・プロトコルに従い使用するシステムについてのセキュリティレベルを決定し、個人レベルでのアクセスを許可する(コミットメント13項)。
BTの従業員等は次の情報にアクセスできない(同10項)。
なお、顧客機密情報はGCにおいても取扱いが規定されており、Openreach外に開示してはならないとされる(参照、表 2)。
4.4.エンフォースメント 4.4.1.監視体制機能分離時代は、BTグループ内の独立組織であるEABが、主にコンプライアンスを監視し、Ofcomへのレポート作成(年次報告)等を行っていた。EABメンバーは5名の内、3名が社外の者である。BTの社内組織としてEAO(Equality of Access Office)のスタッフがEABをサポートし、報告を行っていた。
法的分離時代(図 3)になると、EABはOBARCC(Openreach Board Audit & Risk Compliance Committee)とBTCC(BT Compliance Committee)の2つの組織に置き換えられた。OBARCCはOpenreachによるコミットメントの遵守状況を監視し、また、BTCCはBT単体の監視を主たる任務としているが、グループ全体も監視している。Openreach側はCMO(Commitment Monitoring Unit)のスタッフから、同様に、BT側はCAO(Commitment Assurance Office)のスタッフからのサポートを受けている。そして、Ofcom内にも法的分離スキーム全体の監督/協力を行うOMU(Openreach Monitoring Unit)が設置されている。CMOとCAOは違反事項について最新情報を交換したり、重要なプロセスの監視に共同で取り組んだりしている。また、OMUはCMO/CAOと定期的に会合を行っている。このように各組織が役割分担のうえ3者が連携し、全体として監視体制が強化されている。
図 3 監視体制(法的分離)
(出典)Openreach & Ofcom, Openreach progress with implementation of the new arrangements between BT and Openreach, 19 (2018)に基づき筆者作成
では、実際に法的分離が機能しているかどうかはどのように検証されるのだろうか。この点、OMUが調査・評価し、年次報告書を公開することになっている。OMUは特に以下に焦点を当てて評価する。
また、評価にあたって、OMUは次の調査を行う。
Openreach Divisionの決算情報はBTグループの財務諸表上に別個に示すこととなっており、売上(プロダクト・グループ別に記載し、また、内部取引情報等を含める)、主要カテゴリ別の営業費用、減価償却費及びBT他部門への支払といった特定の情報を含めなければならない。これは前述したSMP規制における会計分離とは異なる。SMP規制の会計分離は差別的取扱いの禁止及び料金規制に関する履行状況の証拠を集めることが目的であり、アクセス指令11条(EECC 71条)に基づくが、アクセス分離における会計分離は「別事業体がするのと同じ方法で会計せよ」という趣旨であり、枠組指令13条(EECC 17条)に基づくとされる76。
4.4.3.法的性質/違反の場合の執行BTのコミットメントは通信法に基づくものではなく、一般的な競争法である企業法154条に基づくものである77。同条の所管は競争当局のCMAであるが、Ofcomは通信法370条(3)により同等の権限を有することから、コミットメントにより規制目的を達成することが認められている。
機能分離時代の公約も同様であり、公約には法的拘束力があり78、公約の不履行の場合、Ofcomは改善命令または差止めもしくはその他の救済策を求めて高等裁判所への提訴ができた(企業法167条(6))79。
法的分離時代も法的根拠は同様であり、継続して法的拘束力がある。もっとも、法的にOpenreachが分離されたとはいえ、コミットメントの主体はOpenreachではなくBTであり、違反があった場合、OfcomはBTに対して改善命令等を発する。BTはOpenreachに対して介入権(Step-in rights)を持ち、合理的に必要と判断する措置を講じることができ、Openreachはそれに従う必要がある(コミットメント23項)。BTの介入権は以下の場合に行使される。
ここで、Ofcomが法的分離に対して直近でどのような評価を下しているのかについて少し言及したい。OMUによる最新の年次報告書(2020年11月)80の評価では、全体的には良く進捗しているとしながらも、いくつかの懸念事項が示されている。BT/Openreachの独立性に関連するものでは、戦略的独立性、差別的取扱いの禁止及び組織風土の3点が挙げられている。具体的には次の通りである。
こういった懸念が改善されず、法的分離がうまく機能しなければ、次のステップとして前掲表 1 Ofcomによるアクセス分離モデル分類の最終段階である「構造分離」が考えられる。すなわち、現状、OpenreachはBTの完全子会社であり、未だ垂直的に統合・運用されているが、そうではなく、Openreachを異なる法的主体として切り離し、その主要な所有者をBTから変更する、という方策である。また、事業分野について制約を課し、お互いの市場への再エントリーを防止するという方策である。
法的分離以降、BTのブロードバンドシェアは低下したものの、2020年末時点で33.4%84であり、法的分離導入直前のシェアと比べて(参照、前述4.2.2.1.)、依然高い水準である。シェアの維持は企業として当然の行動であることを踏まえると、BTの企業努力だけに頼るわけにはいかない。
一方、法制度を離れて市場及びBTの株主構成を見ると、BTも安泰ではない。英国通信業界の最新の動きとして、2021年6月1日に、英国携帯大手である西Telefónicaの子会社O2と、米Liberty Mediaの子会社Liberty Globalが運営するVirgin Mediaが合併し、Virgin Media O2が誕生した85。合併後企業の売上などを見ても、BTグループに迫る英国第2位の総合通信企業となり、真のBTグループ対抗軸となることを自らも標榜しており、また、市場からもそのように見られている。また、2021年6月10日、突如BTグループの株式の12.1%を英Altice UKが取得し、これまでの独DTの12.0%を上回り筆頭株主となった86。Altice UKは蘭Altice Europeの創設者Patrick Drahi氏の個人的持株会社であるNext Altが保有する会社であり、Next Altは仏SFR(仏第2位の通信事業者)も保有している。Altice UKはBTの企業価値を高めるためOpenreachを分割するのではという観測もなされており、構造分離へ向けた素地が固まりつつあるという見方もできる。
BTは対抗軸の出現による競争圧力と、規制圧力の二重のプレッシャーを受けることとなり、英国ブロードバンドの展開計画やサービス品質、社内プロセスの改善を余儀なくされるかもしれない。
以上、英国通信法制の展開を追った。では、具体的にどのような特徴を抽出できるのだろうか。ここでは3点を指摘したい。
第1に、競争と投資のいずれを促進するかという観点である。これはどこの市場(競争)に介入するかという点に関係している。競争政策上の介入は最終的には消費者の利益を目的にするところ(参照、英国通信法3条(1)、日本独占禁止法87 1条)、英国通信政策は単なる小売価格ではなく、消費者が得られるサービスに目を向けてきた。すなわち、電話市場においては政府介入はサービス競争(市場への参入ひいて小売料金の低下)の促進を意図していたが(Mercury Communicationsは独自のコア・ネットワークを持たなかった)、これに対して、ブロードバンド市場においては政府介入の焦点はインフラ競争(競争者による投資)の促進に転換していった(前述3.1.)。
第2に、アクセス分離規制、換言すれば、組織に対する規制の重要性である。英国の非対称規制にはSMP規制とアクセス分離の両輪があり、両者が役割分担している点に特徴がある。すなわち、基本的な義務内容をSMP規制で定め、他方、上乗せの義務及びエンフォースメント体制を公約ないしコミットメントで定めている(末尾表 2)。では、なぜこのような加重が必要なのだろうか。この点、筆者は2点に着目している。1つは、市場支配的な事業者が複数の市場に参入している場合、ファイヤーウォールが必要となることである。たとえば、前述4.5.の通り競争事業者からの懸念としてBTとOpenreachの情報共有が指摘されている。これを防ぐにはファイヤーウォールが必要であろう(さらに、法的分離で不足なら、構造分離が必要ということになる)。もう1つは、非対称規制のエンフォースメントには透明性の確保策が必要となることである。たとえば、差別的取扱いの禁止を義務づけても、また、より具体的にEoIを義務づけても、それが履行されているかどうかは分からない。そこで、特別の監視組織や会計分離、財務報告などの透明性の確保策が必要となる。特にインカンバントがアクセス市場とサービス市場のいずれにも参入している場合には、会計分離が重要である。というのも、インカンバントのアクセス部門がサービス部門を優遇しているかどうか検証するには、会計を分離して、財務報告をしてもらう必要があるからである。
第3に、アクセス分離規制についてさらに1つの特徴を指摘したい。それは義務の賦課が当局からの一方的な決定ではなく、公約やコミットメントといったインカンバントによる意思表示とそれに対する当局のお墨付きに基づいている点である。換言すれば、直接規制ではなく共同規制(co-regulation)とも言い得る手法に基づいていることである88。では、なぜ共同規制なのだろうか。組織に対する規制の要点がファイヤーウォールと透明性の確保策だとすれば、インカンバントの自発的な関与を組み合わせる方が円滑だろう(もちろん、任意的な措置を優先させるEU法の拘束もある。前述4.2.1.)。他方で、前述4.5.の通りファイヤーウォールが不足なら構造分離が控えている。その意味で、「直接規制を背景とした共同規制」という特徴が見てとれる。
我が国でもまさにNTTグループに対する組織に対する規制が俎上に上っており、そこで懸念されていることは英国と同様に情報を目的外に使用するおそれやインフラ部門(NTT東西)がサービス市場において差別的取扱いをするおそれだとされる89。その意味で、念頭に置いている問題は英国と同様であり、ファイヤーウォールと透明性の確保策の必要性、そして、直接規制を背景とした共同規制という規制手法は参考になり得る。
以上の「競争/投資」及び「組織(共同規制)」という視点はデジタル・プラットフォームの場面でも有用かもしれない。まず、前者の「競争/投資」という視点からは政府介入のあり方について示唆が得られる。たとえば、単にアプリストアへのアクセス義務を課したり、自社アプリとの差別的取扱いの禁止を課したりすることは、サービス(アプリ)競争を促進する。これに対して、iOSやAndroidへのプリインストール・アプリの開放やこれらのOSとの互換性の開放、ユーザへのデータ・ポータビリティの権利の付与はインフラ(プラットフォーム)競争を促進するかもしれない。次に、後者の「組織(共同規制)」という視点からはファイヤーウォール、透明性及び共同規制というキーワードが出てくる。そして、デジタル・プラットフォームに対する懸念は通信インカンバントに対する懸念と類似している。すなわち、デジタル・プラットフォームに対する懸念はプラットフォーム事業者が媒介者としてだけではなく、プレイヤとしても活動することである。当然、プラットフォームは他のプレイヤよりもユーザやプレイヤの情報を得ており(情報の目的外使用の問題)、また、アルゴリズムを操作するなどして、自らのサービスを他のプレイヤよりも優先することが可能となる(差別的取扱いの問題)90。英国の経験からは、前者の対策としてファイヤーウォールを設け、後者の対策として透明性の確保策を設けることが示唆される91。また、規制手法としても、単なる直接規制や共同規制ではなく、直接規制を背景とした共同規制という中間的な方策も示唆される。デジタル・プラットフォーム規制についてはEU及び英国が先行しているが、そこでは通信法制が参照されている92。とすると、次の作業は通信法制を参照しつつ、プラットフォームの組織に対する規制を考えることかもしれない。その際、本稿で得た英国からの示唆が役に立てば幸いである。
本研究はJSPS科研費JP18H05216、公益財団法人末延財団のオンラインデータベース提供事業及び福岡工業大学研究スタートアップ支援制度の助成を受けた。
KDDI総合研究所の泉健太郎さんと村上陽亮さんには草稿について精緻な指摘を、また、本誌の査読者からも含蓄に富む指摘をいただき、大変影響を受けた。もちろん、文責は筆者にあるが、記して感謝したい。
規制の種類 | 資格の一般条件 (GC) |
SMP規制 | 機能分離 | 法的分離 | |
(1)アクセス義務 | 接続義務 | ・PIA ・WLA・LLA・IEC |
N/A | N/A | |
(2)差別的取扱いの禁止 | SMP製品 | N/A | ・PIA:非差別的 ・WLA・LLA・IEC:EoI |
EoI | EoI |
非SMP製品 | N/A | N/A | 非差別的 | Equal Treatment | |
ファイヤーウォール | N/A | N/A | アクセスサービス部門設立 (Openreach) |
アクセスサービス部門を法的に分離 (Openreach) |
|
N/A | N/A | 兼務禁止 | 移籍 | ||
接続の交渉過程で得た情報の他事業者への提供禁止 | N/A | 情報の論理的/物理的分離 | 独自の情報システム | ||
資産 | N/A | N/A | OpenreachはBT内組織であるため、所有権・管理権ともBT | ・所有権:BT ・管理権: Openreach(BTの代理人として) |
|
戦略/計画 | N/A | N/A | Openreachは年次計画を作成し、BTグループが承認 | 年次・中期計画、戦略ともOpenreachが作成し、BTグループが承認(不承認の場合、再提出権あり) | |
(3)料金規制 | N/A | ・PIA:費用基準 ・WLA・LLA・IEC:現在価格+インフレ率 (地域・製品により緩和または加重) |
N/A | N/A | |
(4)エンフォースメント | 報告 | N/A | 会計分離 財務報告 |
会計分離 財務報告 |
会計分離 財務報告 |
N/A | N/A | コンプライアンス報告 (BT) |
コンプライアンス報告 (各監視機関) |
||
サービス品質 (QoS) |
N/A | KPIs (地域・製品により任意または加重) |
KPIs | KPIs | |
制裁 | 通信法に基づく | 通信法に基づく | 企業法に基づく | 企業法に基づく | |
監視機関 | N/A | N/A | EAB | OBARCC BTCC OMU(Ofcom) |
|
窓口 | N/A | N/A | 苦情窓口 (EAO) |
苦情窓口 (CMO, CAO) |
1 福岡工業大学社会環境学部助教
2 株式会社KDDI総合研究所シニアアナリスト
3 実積寿也『通信産業の経済学 R1』157-158、178-181頁(九州大学出版会、2019年)[通信市場における参入規制の根拠として自然独占(短期的には効率的だが、長期的には非効率)の緩和やクリームスキミングの防止によるユニバーサルサービスの確保などを指摘する]、砂田薫「イノベーションを促進させるプラットフォーム戦略」智場113号91頁(2009年)[競争がイノベーションを抑制しかねないと指摘する]。
4 欧州におけるデジタル・プラットフォームに対する規制は通信法制における支配的事業者に対する規制に類似するとするものとして、佐々木勉「欧米におけるオンライン・プラットフォーム市場の規制―支配的プラットフォーム規制アプローチ―」情報通信政策研究5巻1号(オンライン掲載版)Ⅳ-14(2021年)。
5 なお、EUの「デジタル市場法案(Digital Markets Act: DMA)」(COM/2020/842 final)をデジタル・プラットフォーム分野の「初めての事業規制法」と評価するものとして、佐々木・前掲4・Ⅳ-23頁。
6 英国通信法制を概説する邦語文献として、参照、総務省「英国」世界情報通信事情 [https://www.soumu.go.jp/g-ict/country/uk/index.html](最終確認日:2021年9月19日)。
7 別の分類として、通信法を「競争創出(市場形成)」ないし「市場規制(Marktregulierung)」の法、一般競争法を「競争維持(市場保全)」の法と分類するものもある(ドイツ通信法についてであるが、巽智彦「規整法(Regulierungsrecht)について : 電気通信分野を中心に」成蹊法学89号252・259・272頁(2018年))。
8 Directive 2002/21/EC, 108 OJ L 33–50 (2002).
9 Directive (EU) 2018/1972, 321 OJ L 36–214 (2018).
10 公正取引委員会「世界の競争法 英国(United Kingdom)」(2021年6月)[https://www.jftc.go.jp/kokusai/worldcom/alphabetic/u/uk.html](最終確認日:2021年9月3日)。
11 Ofcom, General Conditions of Entitlement (2021).
12 Directive 2002/19/EC, 108 OJ L 7–20 (2002).
13 Andrej Savin, EU TELECOMMUNICATIONS LAW, 163 (Edward Elgar Pub., 2018).
14 See Ofcom, infra note 51 at 5.
15 Savin, supra note 13 at 163 note 1.
16 Ofcom, Residential and business narrowband and broadband access, and fixed telephony [https://webarchive.nationalarchives.gov.uk/ukgwa/20210701122624/https://www.ofcom.org.uk/cymru/phones-telecoms-and-internet/information-for-industry/telecoms-competition-regulation/narrowband-broadband-fixed] (last visited 21 Sep. 2021).
なお、設備競争とサービス競争を区別する際、一般には設備競争は交換機及び消費者までのネットワークを有する事業者間の競争を指す(実積・前掲注3・218-223頁)。その意味で、LLUは完全な設備競争ではないという点は留意が必要と思われる。
17 Savin, supra note 13 at 163 note 1, 165.
18 Id. at 165.
19 Ofcom, supra note 17.
20 アクセス指令8条はSMPの義務を、①透明性(9条)、②差別的取扱いの禁止(10条)、③会計分離(11条)、④特定のネットワーク設備へのアクセス及び使用(12条)、⑤価格規制及び費用計算(13条)並びに⑥機能分離(13a)の6つだと示唆している(同旨、EECC 68-74条)。もっとも、これらの義務は限定列挙ではなく、加盟国は欧州委員会の許可を得て、それ以外の義務を課すことができる(アクセス指令8条(3)第2段落、EECC 68条(3)第2段落)。
21 本文で後述の2021年市場分析は救済策を、①アクセス義務、②透明性、③料金規制、④サービス品質(QoS)、⑤提供品質及び⑥地域別料金に分けている(Ofcom, infra note 51 at 12-19)。
22 英国の通信政策の展開について、全体的に参照、Advait Deshpande & Allan Jones, From Denationalisation to Wholesale Broadband Access: A Retrospective of Regulatory Policies in the UK for the Communications Industry, 15 COMPETITION & REG. NETWORK Indus. 232 (2014); 総務省・前掲注6。
23 SMP条件、公約及びコミットメント(本文で後述)上で、「BT」はBT plc 及びその親子会社・関連会社を広く含む。SMP conditions at Part 2 § 1(s) [in Ofcom, Promoting competition and investment in fibre networks: Wholesale Fixed Telecoms Market Review 2021-2026, Volume 7: Legal instruments (2021)]; 公約21頁(BT plc, infra note 56)、コミットメントAnnex A 5項(BT plc, infra note 68)。
24 Deshpande & Jones, supra note 23 at 250[1980年代から2000年代までの規制の展開を概観し、これらの規制の展開をサービス/インフラ競争の転換として説明する].
25 Savin, supra note 13 at 170, 195[2002年の枠組指令は政府介入の目的として効率性、持続的競争、効率的投資、効率的イノベーション及び消費者利益の最大化の5つを挙げるところ、これらの重み付けは平等だが、実際には2018年のEECCへの改正において「競争」から「投資」への転換があるとする].
26 Oftel時代(1984~2003年)について、全体的に参照、Oftel, Oftel Review 1984-2003, Creating competition and choice (2003).
27 Deshpande & Jones, supra note 23 at 234 note 6.
28 Id. at 238 note 8.
29 Oftel, supra note 27 at 2-3. BTグループの歴史については、see BT, Our history [https://www.bt.com/about/bt/our-history] (last visited 20 Sep. 2021).
30 Deshpande & Jones, supra note 23 at 234.
31 Oftel, supra note 27 at 3-4; Deshpande & Jones, supra note 23 at 238.
32 Oftel, supra note 27 at 3-4.
33 Deshpande & Jones, supra note 23 at 238, 250.
34 Id. at 239, 241.
35 Oftel, Delivering a competitive broadband market - Oftel's regulatory strategy for broadband (2001).
36 Oftel, supra note 27 at 14.
37 Oftel, Access to Bandwidth: Delivering Competition for the Information Age (1999).
38 Deshpande & Jones, supra note 23 at. 246.
39 Ofcom, Review of the Wholesale Broadband Access Markets: Identification and analysis of markets Determination of market power and setting of SMP conditions Final Explanatory Statement and Notification (2004).
40 Deshpande & Jones, supra note 23 at. 247.
41 2003年から2009年までのブロードバンド市場の推移について,Ofcom, The Communications Market 2009, 201 (2009).
42 寺田麻佑『EUとドイツの情報通信法制 技術発展に即応した規制と制度の展開』45-46頁(勁草書房、2017年)。
43 UK Parliament, Gigabit-broadband in the UK: Government targets and policy (2021); HM Treasury, National Infrastructure Strategy: Fairer, faster, greener, 31 (2020).
44 Ofcom, Making communications work for everyone Initial conclusions from the Strategic Review of Digital Communications (2016).
45 Department for Digital, Culture, Media & Sport, Future Telecoms Infrastructure Review (2018)[フル・ファイバについて2025年までに1500万施設へ、2033年までに全国のカバレッジを目指す。また、5Gについて、2027年までに人口の大半への普及を目指す。].
46 UK Parliament, supra note 44.
47 Ofcom, Connected Nations Update: Summer 2021, 8 (2021).
48 Ofcom, infra note 51 at 10.
49 Ofcom, Promoting competition and investment in fibre networks: Wholesale Fixed Telecoms Market Review 2021-26 (2021).
50 Ofcom, Promoting competition and investment in fibre networks: Wholesale Fixed Telecoms Market Review 2021-26, Volume 1: Overview, summary and structure, 5 (2021).
51 Id. at 6.
52 英国の機能分離について、全体的に参照、山本雄次「諸外国のアクセス分離について ~接続ルールの先にあるもの~(前編)」KDDI総研R&A 2009年6月第1号(2009年)。
53 Ofcom, Valuing copper access Final statement, 1 para. 1.3 (2005).
54 Ofcom, Final statements on the Strategic Review of Telecommunications, and undertakings in lieu of a reference under the Enterprise Act 2002, 1 para. 1.5 (2005).
55 Ofcom, Undertakings Given to Ofcom BY BT Pursuant to the Enterprise Act 2002 (Consolidated ver., 2014).
56 BT plc, supra note 56 at 6
57 Ofcom, Ofcom accepts undertakings from Board of BT Group plc on operational separation (2005).
58 Directive 2009/140/EC, 337 OJ L 37–69 (2009).
59 Ofcom, Review of the wholesale broadband access markets Final explanatory statement and notification, 1-2 (2008).
60 Ofcom, Telecommunications Market Data Update [https://www.ofcom.org.uk/research-and-data/telecoms-research/data-updates] (last visited 24 Sep. 2021).
61 Ofcom, supra note 45 at 7 para. 1.39.
62 Id.
63 Ofcom, Strengthening Openreach’s strategic and operational independence, Proposal for comment, 5 para. 1.19-1.20 (2016).
64 Ofcom, BT agrees to legal separation of Openreach (2017).
65 Ofcom, Update on plans to reform Openreach (2016).
66 BT plc, Commitments of BT Plc and Openreach Limited to Ofcom - Issue 5 (2021).
67 BT plc & Openreach Limited, Agency and Services Agreement - Issue 3 (2021).
68 BT plc, Governance Protocol - Issue 4 (2021).
69 Ofcom, Notice of release of undertakings given by British Telecommunications plc pursuant to section 154 of the Enterprise Act 2002 (2018).
70 Savin, supra note 13 at 187.
71 BT plc, Guidance Note 1 (2019).
72 Cullen International, Models of separation, equivalence of treatment and the role of the Supervisory Board, 30 (2020).
73 BT plc, Commitments implementation, 4 (2018).
74 BT plc, supra note 68 at 9 para. 2-3; BT plc, Guidance Note 2 (2019).
75 BT plc, Strategy Development Process Guidance Note, 4 (2019).
76 Savin, supra note 13 at 182.
77 機能分離の公約について、BT plc, supra note 56. また、法的分離のコミットメントについて、BT plc, supra note 66.
78 Ofcom, supra note 55 para. 8.36, 8.37; BT plc, supra note 56 para. 16.1, 16.2.
79 BT plc, supra note 66 at 29 note 23.
80 OMU, Annual Monitoring Report (2020).
81 Id. at 11 para. 3.10.
82 Id. at 16 para. 4.33.
83 Id. at 20 para. 5.4.
84 Ofcom, Telecommunications Market Data Update, Q4 2020, 12 (2021).
85 CMA, Anticipated joint venture between Liberty Global Plc and Telefónica S.A. Final report (2021).
86 Reuters, Billionaire's Altice group buys 12% BT stake in support of fibre plans (2021) [https://www.reuters.com/business/media-telecom/altice-takes-12-stake-bt-says-no-plans-make-takeover-offer-2021-06-10/] (last visited 18 Oct. 2021).
87 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和22年法律第54号)。
88 一般的に、規制の種類として「規制なし」、「(産業団体による)自主規制」、「(政府が自主規制にお墨付き(backstops)を与える)共同規制」及び「(政府による)直接規制」の4つを指摘するものとして、生貝直人『情報社会と共同規制 インターネット政策の国際比較制度研究』22-26頁(勁草書房、2011年)。Ofcomも同旨である(Ofcom, Identifying appropriate regulatory solutions: principles for analysing self- and co-regulation (2008))。
なお、英国のアクセス分離規制をどのように性質決定するかは問題である。というのも、公約及びコミットメントは本文で前述の通り企業法に基づくものという意味で、従来からある規制手法といえるためである。この点、ネットワーク中立性に関する著書の多いMarsdenは共同規制の例としてOpenreachを指摘し、その特徴としてBTにより「自主的に」創設されただけではなく、その背景にOfcomによる介入の可能性があることを指摘している(Christopher T. Marsden, NET NEUTRALITY: TOWARDS A CO-REGULATORY SOLUTION, 165-67 (A&C Black, 2010). 書評として、see Ichiro Kato, Christopher T. Marsden, Net Neutrality: Towards a Co-regulatory Solution, 4 International Journal of Communication 1079 (2010))。本稿も英国が直接規制を敢えてとらず、公約及びコミットメントによる手法を採用したという歴史的経緯を表現するため、共同規制という用語を用いた。
89 総務省・公正競争確保の在り方に関する検討会議「公正競争確保の在り方に関する検討会議 報告書(案)」総務省ウェブサイト(2021 年)。
90 デジタル・プラットフォーム市場の競争上の問題について、参照、大木良子「オンラインプラットフォームと競争」Nextcom 33号12-21頁(2018年)。
91 日本及びEUの個人データ保護法制及び競争法について透明性の確保策が盛り込まれていることを指摘し、特に透明性レポートの公表ないし規制当局への提出義務について、その趣旨が差別的取扱いの監視にあるとするものとして、鈴木康平「デジタルプラットフォーム規制における透明性に関する規定の検討 -EU法と日本法の比較を通じて」情報通信政策研究5巻1号(オンライン掲載版)Ⅱ-21-22頁(2021年)。
92 European Commission, COMMISSION STAFF WORKING DOCUMENT IMPACT ASSESSMENT REPORT Accompanying the document Proposal for a REGULATION OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL on contestable and fair markets in the digital sector (Digital Markets Act), SWD/2020/363 final (2020)[但し、必ずしも通信法制の方法論に依拠しているわけではない(See at PART 1/2 47 para. 138)].
また、英国オンライン安全法案(Draft Online Safety Bill)では規制官庁はOfcomとされている(参照、橘雄介「有害コンテンツ対策としてのプラットフォーム規制-英国オンライン安全法案を題材に-」信学技報SITE2021-42 1-8頁(2021年))。