Journal of Information and Communications Policy
Online ISSN : 2432-9177
Print ISSN : 2433-6254
ISSN-L : 2432-9177
Amendments to the Broadcasting Act and the Radio Act
Masakazu IWATSUBO
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2023 Volume 7 Issue 1 Pages 259-273

Details
要旨

第211回通常国会において成立した「放送法及び電波法の一部を改正する法律」は、近年の放送を取り巻く環境の変化を踏まえ、国内基幹放送事業者が事業運営の効率化を図りつつ放送の社会的役割を果たしていくことを将来にわたって確保するため、①複数の放送対象地域における放送番組の同一化、②複数の特定地上基幹放送事業者による中継局設備の共同利用、③基幹放送事業者等の業務管理体制の確保に係る規定の整備の各措置を講ずるものである。

①については、経営基盤強化計画の認定制度を改正し、国内基幹放送の役務に対する需要の減少等の認められる地域として総務大臣が指定する地域を含む地域において、地域性の確保のための措置を講ずる等の一定の条件の下で、異なる放送対象地域の国内基幹放送事業者が、その個別の経営状態にかかわらず、同一の放送番組の放送を同時に行うための制度を整備するものである。

②については、複数の特定地上基幹放送事業者が中継局設備を共同で利用することで事業運営の効率化を図ることを可能とするため、特定地上基幹放送事業者が、総務大臣による確認を経た上で、他者(基幹放送局提供事業者)の中継局を用いて地上基幹放送の業務を行うことを可能とするものである。

また、日本放送協会(以下「協会」という。)の地上基幹放送の業務の効率化を図る必要性が特に高い地域として総務大臣が指定する地域において、協会の子会社が、中継局を保有・管理し、協会の地上基幹放送の業務の用に供することを可能とするとともに、協会の放送設備の当該子会社への譲渡を放送設備の譲渡制限の例外とするものである。

③については、基幹放送事業者及び基幹放送局提供事業者に対して設備の運用のための業務管理体制(委託先における業務管理体制を含む。)を総務省令で定める基準に適合するように維持する義務を課すとともに、基幹放送業務の認定及び基幹放送局の免許の申請書の記載事項に設備の運用の委託に係る事項を追加することにより、総務大臣が委託の実態を把握することを可能とするものである。

Translated Abstract

In light of the changes in the environment surrounding broadcasting in recent years, Amendments to the Broadcasting Act and the Radio Act, which was approved by the 211th ordinary session of the Diet, offers domestic basic broadcasters the following measures to ensure that they will continue to play their social roles in broadcasting in the future while improving the efficiency of their business operations: (i) they can operate the simultaneous broadcasting of programs in multiple target regions for broadcasts; (ii) they can use relay station facilities jointly; and (iii) they can operate broadcasting management system more ensurely.

With regard to (i), the Government will revise the approval system for the Business Infrastructure Reinforcement Plan and establish a system under which domestic basic broadcasters in different target regions for broadcasts can simultaneously broadcast the same program in regions, including those designated by the Minister for Internal Affairs and Communications as regions where a decline in demand for domestic basic broadcasting services is recognized, regardless of their individual business conditions, under certain conditions, such as by taking measures to ensure regionality.

With regard to (ii), in order to make it possible for multiple specified terrestrial basic broadcasters to increase the efficiency of their business operations by jointly using relay station facilities, the Act will allow specified terrestrial basic broadcasters to conduct terrestrial basic broadcasting operations using relay stations of other parties (suppliers of basic broadcasting stations) after confirmation by the Minister for Internal Affairs and Communications. In addition, in areas designated by the Minister for Internal Affairs and Communications as areas where there is a particularly high need to improve the efficiency of the terrestrial basic broadcasting operations of the Japan Broadcasting Corporation (NHK), only the subsidiary of NHK will be able to own and manage relay stations and use them for the terrestrial basic broadcasting operations of the NHK. The transfer of NHK's broadcasting equipment to the subsidiary will be an exception to the Broadcasting Act’s restriction on the transfer of broadcasting equipment of NHK.

With regard to (iii),the basic broadcasters and basic broadcasting station suppliers will be obliged to maintain the broadcasting management system for operating the facilities ,including that operated by outsourcees, in compliance with the standards specified by the Ordinance of the Ministry of Internal Affairs and Communications. And by adding matters pertaining to the outsourcing of the operation of facilities to the matters stated in the application for approval of basic broadcasting operations and license of basic broadcasting stations, the Minister for Internal Affairs and Communications will be able to grasp the actual status of the outsourcing.

1.はじめに

令和5年6月2日に公布された放送法及び電波法の一部を改正する法律(令和5年法律第40号。以下「本法律」という。)は、近年の放送を取り巻く環境の変化を踏まえ、国内基幹放送事業者が事業運営の効率化を図りつつ放送の社会的役割を果たしていくことを将来にわたって確保するため、複数の放送対象地域における放送番組の同一化、複数の特定地上基幹放送事業者による中継局設備の共同利用及び基幹放送事業者等の業務管理体制の確保に係る規定の整備の各措置を講ずるものである。

本稿では、本法律の制定に至る検討の経緯及び論点を紹介した上で、本法律による放送法(昭和25年法律第132号)及び電波法(昭和25年法律第131号)の各改正事項の概要について解説することとしたい。なお、本稿中意見にわたる部分は筆者の個人的見解であることを予めお断りしておきたい。

2.経緯及び論点

2.1.「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会」における検討

デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会(以下「本検討会」という。)は、ブロードバンドの普及やスマートフォン等の端末の多様化等を背景に、デジタル化が社会全体で急速に進展する中、放送の将来像や放送制度の在り方について、「規制改革実施計画」や「情報通信行政に対する若手からの提言」(令和3年9月3日総務省情報通信行政若手改革提案チーム)も踏まえつつ、中長期的な視点から検討を行うため、令和3年11月から令和4年8月までに計13回にわたり開催してきた。

本検討会では、特に、インターネット動画配信サービスの伸長等を背景として若者を中心に「テレビ離れ」が進む中、主に地上テレビジョン放送に係る課題を中心に検討した。

令和4年8月、本検討会は、それまでの検討結果を取りまとめる形で「デジタル時代における放送の将来像と制度の在り方に関する取りまとめ」を公表した。

同取りまとめでは、「事業者からは、メディア環境の変化や地方における人口減などにより、今後、テレビ広告市場が想定以上に縮小していく懸念もぬぐい切れず、中小規模のローカル局は固定的な経費の比率が高くコスト削減には限界があるため、経営難が顕在化した場合に迅速な対応が可能となるよう、先行して経営の選択肢を増やしておくことが望ましい」とされている。

今後の方向性として、①「放送対象地域は県域を基本としているが、地域社会の実態等を踏まえつつ、経営の選択肢を増やす観点から、同一の放送番組の放送対象となる地域について柔軟化を図るべきである。具体的には、放送対象地域自体は現行から変更せず、希望する放送事業者において、複数の放送対象地域における放送番組の同一化が可能となる制度を設けるべきである」、②「放送ネットワークインフラに係るコスト負担を軽減し、コンテンツ制作に注力できる環境を整備していく観点から、例えば、株式会社放送衛星システム(基幹放送局提供事業者)のような、複数の地上基幹放送事業者の放送ネットワークインフラをまとめて保有・運用・維持管理する『共同利用型モデル』が経営の選択肢となり得る」、③「マスター設備の集約化・IP化・クラウド化は、放送事業者の経営の選択肢であることに留意しつつ、その要求条件を総務省において検討・整理すべきである。その際、放送に求められる可用性を確保するためには、不測の事態における対処をクラウド側に委ねるのではなく、マスター設備の利用者である放送事業者自らがリスクをグリップ(把握)し、コントロール(制御)できることが重要であることにも留意すべきである。」等の方向性が示された。

図1. 放送を巡る社会環境の変化

(出典)総務省資料

図2. 「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会」取りまとめ(令和4年8月5日公表)の概要

(出典)総務省資料

3.複数の放送対象地域における放送番組の同一化

3.1.放送対象地域に関する制度

基幹放送1については、放送法第91条の規定に基づく基幹放送普及計画(昭和63年郵政省告示第660号)において、放送の区分ごとに放送対象地域を設定した上で、放送対象地域ごとの放送系2の数の目標を定めることとされている(同条第2項第2号及び第3号)。

ここで、放送対象地域とは「同一の放送番組の放送を同時に受信できることが相当と認められる一定の区域」(放送法第91条第2項第2号)であり、地上基幹放送については、原則として、都道府県単位で設定されている3。放送対象地域の設定を含む基幹放送普及計画の内容は、「地域の自然的経済的社会的文化的諸事情」(同条第3項)4を勘案して定めることとされており、その結果、異なる放送対象地域においては、異なる放送番組が放送されることが想定されている。

基幹放送の業務の認定や特定地上基幹放送局の免許は、基幹放送普及計画への適合性を要件として行われることから(放送法第93条第1項第6号及び電波法第7条第2項第4号ハ)、異なる放送対象地域の基幹放送事業者5は、異なる放送番組を放送することが想定されている6

なお、基幹放送事業者を含む放送事業者は、放送番組の適正性を図るため、放送番組審議機関を置くものとされているが(放送法第6条)、その設置は、以上の趣旨を踏まえ、各放送対象地域の放送事業者がそれぞれ行うことが原則とされている(同法第7条第3項)。

3.2.経営基盤強化計画の認定制度

経営基盤強化計画の認定制度は、経営困難状態に陥っている国内基幹放送(国内放送である基幹放送)を行う基幹放送事業者の収益性向上に向けた取組を支援することで、放送の役務に対する需要の減少等が認められる地域においても、国内基幹放送の中長期的な維持を図ろうとするものであり7、平成26年の放送法改正により導入された制度である(改正前の同法第116条の3から第116条の7まで)。

具体的には、

  • ① 総務大臣が、国内基幹放送の役務に対する需要の減少等の認められる放送対象地域を「指定放送対象地域」として指定した上で、
  • ② 当該指定放送対象地域において国内基幹放送を行う基幹放送事業者から提出された収益性向上に関する計画(経営基盤強化計画)を総務大臣が認定し、
  • ③ 当該認定を受けた計画に従って国内基幹放送の業務を行う場合について、放送法上の規制に対する一定の特例措置を適用する

ものである。

この場合の特例措置の一つとして、「異なる放送対象地域においては、異なる放送番組が放送される」という前述の原則に対する例外措置がある。すなわち、経営基盤強化計画の認定を受けた基幹放送事業者89は、地域固有の需要を満たすために講ずる措置(地域性確保措置)10を行うこと等を条件に、複数の放送対象地域において放送時間の全部又は大部分(省令では8割以上11)について同一の放送番組の放送を同時に行うこと(特定放送番組同一化)が認められ(改正前の放送法第116条の4第2項第5号イ)、このことを前提に、放送番組同一化を行う基幹放送事業者は、他の放送対象地域の事業者と共同で放送番組審議機関を設置すること等が認められている(改正前の同法第116条の7)。

3.3.課題

地方の人口減少や若者のテレビ離れ、インターネット動画配信サービスの伸張等の要因により、地方における地上基幹放送を巡る経営環境は年々厳しさを増しつつある。地上基幹放送が地域住民の生活にとって重要な基幹メディアであることは変わらないため、地上基幹放送を行う地方の基幹放送事業者の経営効率化に向けた取組を支援することで、地方における地上基幹放送の中長期的な維持を図ることが求められている。

特定放送番組同一化は、「異なる放送対象地域においては、異なる放送番組が放送される」という放送法上の原則に対する例外であり、無条件に行われるべきものではないが、番組制作費の削減や番組送出設備12の共用によるインフラコストの削減につながることから、厳しい環境に置かれた地方のローカル局にとっては、経営効率化のための有効な手段となると期待されている。地域住民の立場から見ても、特定放送番組同一化は、放送対象地域の統合13や放送系の数(チャンネル数)の減少に比べれば、一般に望ましいものと考えられる。

経営基盤強化計画の認定制度は、このような問題意識から、一定の条件の下での特定放送番組同一化を特例として認めたものであるが、同制度は、国内基幹放送を行う個別の基幹放送事業者が既に経営困難状態にあることを前提に、当該基幹放送事業者の救済を図るための制度となっており14、同計画の認定を申請することは、自社が経営危機にあることを自認することに等しい。このため、基幹放送事業者は、出資者や取引先に与える影響を懸念して同制度の利用を強く忌避する傾向にあり、同制度は、制度創設後10年弱が経過した現在も、認定に至った実績がない。

3.4.改正概要

以上の課題を踏まえ、経営基盤強化計画の認定制度を改正し、①指定放送対象地域において、②地域性確保措置を講ずること等を条件に、③基幹放送事業者の個別の経営状態を問わずに、特定放送番組同一化を行うことを認める制度へと再編することとする。①及び②は経営基盤強化計画の認定制度と基本的に共通であり、③が経営基盤強化計画の認定制度と新制度の違いである。

新制度においても、放送法上の原則の例外である特定放送番組同一化は無条件で認められるべきものではなく、地域性確保措置15を講ずること等を条件として認めることが適当であるため、基幹放送事業者が提出16する特定放送番組同一化に関する実施方針(特定放送番組同一化実施方針)を総務大臣が審査し、その適合性を認定する仕組みとする。(改正後の同法第116条の4第1項)

その際の要件としては、放送番組の同一化が「異なる放送対象地域においては、異なる放送番組が放送される」という原則に対する例外措置であることを踏まえ、地域性確保措置の実施等の要件に加えて、新制度の適用を合理的な範囲に限定するため、新たに、

  • ① 特定放送番組同一化を行う放送対象地域の自然的経済的社会的文化的諸事情が相互に相当程度共通していること
  • ② 特定放送番組同一化を行う放送対象地域の数が総務省令で定める数を超えないこと

を要件として規定することとする。(改正後の放送法第116条の4第3項)

認定を受けた基幹放送事業者が特定放送番組同一化を行う場合の特例措置は、経営基盤強化計画の認定制度と同様、①放送番組審議機関の設置(放送法第7条)の特例、②あまねく普及努力義務(同法第92条)の特例、③認定放送持株会社の関係会社の地域向け番組制作努力義務(同法第163条)の特例の3点とする。(改正後の同法第116条の6)

なお、新制度は、基幹放送事業者の個別の経営状態を問うものではないため、認定を受けた基幹放送事業者について、基幹放送の業務の認定の更新時又は特定地上基幹放送局の再免許時に「経理的基礎」の審査を免除する旨の規定(改正前の放送法第116条の6)は削除することとする。

4.複数の地上基幹放送事業者による中継局の共同利用

4.1.地上基幹放送に関する制度

地上基幹放送(地上波テレビジョン放送及び地上波ラジオ放送)の業務を行う方法としては、①他人の無線局を用いることを前提に、放送法上の地上基幹放送の業務の認定(同法第93条)を受ける方法(ハード・ソフト分離型)と、②自ら無線局を開設することを前提に、電波法上の特定地上基幹放送局の免許(同法第6条)を受ける方法(ハード・ソフト一致型)の2つがある。

地上基幹放送の業務を行おうとする民間事業者は、いずれの方法を採るかを自ら選択できるが、実際には、全ての民間事業者が、後者の方法(ハード・ソフト一致型)を選択しており、それぞれ、自らが地上基幹放送を行うためのハード設備(親局及び中継局)を整備・維持している。

以上の2つの方法の選択は、放送対象地域(原則として都道府県単位で設定)ごとに行われることが想定されており、同一の事業者が、同一の放送対象地域において、両方の方法を併用すること(放送対象地域の一部において自ら無線局を開設し、他の一部において他人の無線局を用いること)は、想定されていない。

このことを反映し、改正前の制度上、基幹放送局提供事業者(基幹放送を行うための無線局等のハード設備を他人に提供する事業者)は、認定基幹放送事業者(上述①の方法を選択して基幹放送の業務の認定を受けた事業者)とのみ放送局設備供給契約(ハード設備の供給に関する契約)を締結することが可能とされており、特定地上基幹放送事業者(上述②の方法を選択して特定地上基幹放送局の免許を受けた事業者)が基幹放送局提供事業者と放送局設備供給契約を締結することは、認められていなかった(改正前の放送法第117条)。

なお、民間の放送事業者と異なり、日本放送協会(以下「協会」という。)は、あまねく提供義務(放送法第20条第5項)を始めとする公共放送としての責務(同法第15条)を確実に履行する観点から、地上基幹放送については、常にハード・ソフト一致型で業務を行うこととされていた(改正前の同法第20条第1項第1号)。

4.2.基幹放送局免許等に関する制度

基幹放送局提供事業者の無線局の免許を審査する際は、基幹放送用周波数の電波が確実に放送に使用されることを担保するため、当該基幹放送局提供事業者が放送局設備供給契約を締結することとなる者の氏名・名称を申請書に記載させ、その者が実際に放送法上の基幹放送の業務の認定を受けられるかどうかを、併せて審査することとされている(電波法第6条第2項第8号及び第7条第2項第5号)。

電波法上の基幹放送局の免許と放送法上の基幹放送の業務の認定はいずれも5年ごとに再免許・更新される必要があるため、5年ごとに上述の観点からの審査(通称「ペア審査」)が行われる仕組みとなっている。

また、基幹放送の業務の認定を審査する際は、認定を受けようとする者が確実に基幹放送の業務を行うことを担保するため、その者の用いる番組送出設備等のソフト設備(基幹放送設備)が総務省令で定める技術基準に適合することや、その者が業務の維持に必要な技術的能力を有すること(ソフト設備の運用のための業務管理体制を確保していること)を審査することとされている(放送法第93条第1項第2号及び第3号)。

4.3.課題

地方の人口減少や若者のテレビ離れ、インターネット動画配信サービスの伸張等の要因により、地方における地上基幹放送を巡る経営環境は年々厳しさを増しつつある。地上基幹放送が地域住民の生活にとって重要な基幹メディアであることは変わらないため、地上基幹放送事業者の経営効率化に向けた取組を支援することで、地方における地上基幹放送の中長期的な維持を図ることが求められている。

地上基幹放送事業者の経営効率化のための有望な手段として、放送インフラの共同利用がある。複数の事業者間で地上基幹放送を行うためのハード設備を共同で利用できれば、各事業者はインフラ維持に要するコストをそれぞれ軽減でき、コンテンツ制作に注力できると想定されている。特に、親局の放送を直接受信できない地域に放送を中継するための中継局設備については、そのカバーする世帯数が限られているにもかかわらず、維持経費が高額であるため17、共同利用による効率化が期待される。

ここで、仮に、ある放送対象地域の複数の地上基幹放送事業者が、その保有するハード設備を親局も含めて全て共同出資した子会社に譲渡し、その設備を共同利用しようとした場合には、当該複数の地上基幹放送事業者がいずれも「認定基幹放送事業者」となり、基幹放送局提供事業者たる共同出資子会社と放送局設備供給契約を締結することで、改正前の制度の下でもそのような共同利用を実現することができる。

しかしながら、これまで長年にわたりハード・ソフト一致型で地上基幹放送を行ってきたという歴史的経緯や、ハード・ソフト一致型には災害時の迅速な対応等の点でメリットもあると考える事業者も少なくないこと等から、ハード・ソフトの完全分離への移行を検討する地上基幹放送事業者は、現在のところ見られない状況にある。

このため、各事業者が親局は引き続きそれぞれ保持し、「特定地上基幹放送事業者」としての資格を維持したまま、中継局設備については共同利用を行うこと(ハード・ソフトの一部分離)を可能にするための制度整備が求められている18

その際、地上基幹放送が民間の放送事業者と協会による二元体制により提供されているという実態を踏まえ、中継局設備の共同利用によるメリットを最大限に引き出すため、協会側にもメリットが認められる場合には、民間の放送事業者のみならず協会も参画して共同利用が行われることを視野に入れた制度整備が求められている。

4.4.改正概要

4.4.1.特定地上基幹放送事業者が他者の中継局設備を用いるための規定の整備

以上の課題を踏まえ、一の放送対象地域において複数の特定地上基幹放送事業者が中継局設備を共同で利用することを可能とするため、特定地上基幹放送事業者は、自らの無線局を用いて地上基幹放送を行っている放送対象地域と同一の放送対象地域においては、基幹放送局提供事業者と放送局設備供給契約を締結し、当該基幹放送局提供事業者の中継局を用いて地上基幹放送を行うことが可能である旨を規定する。(改正後の放送法第105条の2第1項及び第117条)

その際、事業者のソフト設備やその運用能力に対する規制の水準が自らの無線局を用いる場合に比べて低下することを防ぐため、特定地上基幹放送事業者が基幹放送局提供事業者と放送局設備供給契約を締結する際は、事前に、当該特定地上基幹放送事業者のソフト設備やその運用のための業務管理体制が総務省令で定める基準に適合したものであることについて総務大臣の確認を受けることを義務付けることとする19。(改正後の放送法第105条の2第2項から第5項まで)

また、「ペア審査」の枠組みを改正後においても維持するため、特定地上基幹放送事業者に対して中継局設備を提供する基幹放送局提供事業者の無線局免許の審査においては、当該特定地上基幹放送事業者の氏名・名称を申請書に記載させた上で、その者が引き続き特定地上基幹放送局の免許を受けられるかどうかを、併せて審査することとする。(改正後の電波法第6条第2項第8号及び第7条第2項第6号)

4.4.2.協会を含めた中継局設備の共同利用を可能とするための規定の整備

前述のように中継局設備の共同利用に協会が参画することは、共同利用のメリットを最大限に引き出す上で有効と考えられるが、その一方で、①協会の共同利用への参画は、あくまで協会自身の業務効率化を第一義的な目的として行われる必要があるとともに、②協会の共同利用への参画が、協会のあまねく提供義務を始めとする公共放送としての責務を弛緩させるものであってはならない20

そこで、これらの点を踏まえ、①協会を含めた中継局設備の共同利用は、協会が中継局設備の共同利用により業務効率化を図る必要性が特に高い地域として総務大臣が指定する地域(指定地上基幹放送地域)に限って行われることとし、②協会に対して中継局の提供を行う基幹放送局提供事業者は、協会の支配下にあり、協会の経営委員会等による統制が及ぶ協会の子会社21でなければならないこととする。(改正後の放送法第20条第1項第1号並びに第20条の2第1項及び第3項)

その上で、協会は、当該子会社(基幹放送局提供子会社)に対して、総務大臣の認可を受けて、収支予算、事業計画及び資金計画で定めるところにより、指定地上基幹放送地域で用いられる中継局設備を譲渡することができることとする22。(改正後の放送法第20条の2第4項及び第85条第2項)

5.基幹放送事業者等の業務管理体制の確保に係る規定の整備

5.1.設備の維持及び業務管理体制の確保に関する制度

基幹放送は、災害情報等(放送法第108条)の国民生活に不可欠な情報を送り届ける社会的役割を果たすものであることから、その適正かつ確実な遂行を確保するため、同法に基づく基幹放送の業務の認定(その更新を含む。)及び電波法に基づく基幹放送局の免許(その再免許を含む。)の審査においては、

  • ① 基幹放送の業務に用いられる電気通信設備23が、総務省令で定める技術基準に適合することが要件とされるとともに(放送法第93条第1項第3号並びに電波法第7条第2項第1号及び第4号イ)、
  • ② 認定又は免許を受けようとする者が、基幹放送の業務を維持するに足りる技術的能力を有していることが要件とされている(放送法第93条第1項第2号及び電波法第7条第2項第3号)。

また、認定基幹放送事業者、特定地上基幹放送事業者及び基幹放送局提供事業者(以下「基幹放送事業者等」という。)は、基幹放送設備(番組送出設備等のソフト側の設備)及び基幹放送局設備(放送局の無線設備等のハード側の設備)を、常に技術基準に適合するように維持しなければならないこととされている(放送法第111条第1項、第112条及び第121条第1項)。

5.2.設備の運用の委託に関する制度

基幹放送事業者等のうち、協会については、放送設備24の運用を他人に行わせることは原則として禁止されている(放送法第85条第2項)。また、無線局の免許人については、基幹放送局設備を構成する設備のうち、無線設備(電波の送受信のための電気通信設備)については、その運用を他人に行わせることは原則として認められていない(電波法第70条の7から第70条の9まで及び第110条第2号)。

これに対し、協会以外の基幹放送事業者等が、無線設備以外の設備の運用を他人に委託することについては、明文の規律は置かれていない。前述のように、基幹放送の業務の認定及び基幹放送局の免許の要件として「技術的能力」を要求していることを踏まえれば、基幹放送の業務に用いられる設備の運用を他人に委託することについては条理上一定の制約があると考えられるが25、その限界は専ら解釈に委ねられている。

なお、基幹放送事業者等が基幹放送の業務に用いられる設備の一部の運用を他人に委託した場合、当該基幹放送事業者等は、当該委託した部分を含めた設備全体について、自らの義務として、技術基準適合維持義務を負うこととなる。

5.3.課題

5.3.1.業務管理体制の不備に起因する放送事故

基幹放送の放送事故は、落雷、地震等の自然災害や、停電等の外部要因により発生する場合があり、これらの要因による放送事故を防止するため、技術基準において、基幹放送の業務に用いられる電気通信設備について、耐雷対策、耐震対策、停電対策等の各種対策を行うことを求めている。

その一方、基幹放送の放送事故は、社員による設備の操作ミス等によっても生ずる場合があり、また、設備の故障を直接の要因として生じた放送事故が、故障への適切な対応を怠ったために長期化・重大化する場合がある。近時、このような人為的要因による放送事故が発生している状況にある。

このような人為的要因による放送事故を防止するためには、設備の運用のための業務管理体制(例:責任者の明確化や指揮命令系統の確立、管理規程類の整備、実務経験者の配置)を平時から確保しておく必要があり、前述のように、認定・免許のタイミング(5年ごと)で基幹放送事業者等の「技術的能力」を審査することで、このような業務管理体制を確保しようとしている。

しかしながら、近時、放送事業においても経営環境変化のスピードが速まる中、5年ごとに技術的能力を審査するだけでは、基幹放送事業者等の業務管理体制を確保するためには十分とは言えない状況が生じている。

具体的には、例えば、放送技術の革新が進んだ結果、認定・免許時には適切であった管理規程類の内容がその後実態に即さないものとなる場合や、放送事業における人材の流動化が進んだ結果、認定・免許時には確保されていた実務経験者の配置がその後確保されなくなる場合が見られるようになっている。

5.3.2.委託先との関係に起因する放送事故の発生

前述のように、協会以外の基幹放送事業者等が、無線設備以外の設備の運用を他人に委託することについては、明文の規律を置いていない。実態として、特に番組送出設備等のソフト側の設備(基幹放送設備)については、外部の事業者に運用を委託することが相当程度広範に行われているものと推察されるが、制度上、総務大臣が実態を把握する仕組みがないため26、正確な実態は明らかではない。

そうした中、近時の放送事故には、委託先における業務管理体制の不備や基幹放送事業者等の委託先に対する監督の不徹底、基幹放送事業者等と委託先との連絡体制の不全に起因すると考えられるものが少なからず見られる。

地方のローカル局を始めとする基幹放送事業者等の経営環境が年々厳しさを増す中で、番組送出設備等の運用を外部に委託することは経営効率化の重要な手段となっており、これを一律に禁止することや個別許可制等の厳格な規律に服せしめることは、現実的な政策的対応とは言い難い。

その一方、委託先との関係に起因する放送事故が少なからず発生していることを踏まえれば、少なくとも総務大臣が基幹放送事業者等による設備の運用の委託の実態(どのような設備が、誰に対して委託されているか)を恒常的に把握できるようにすることが必要であり、また、基幹放送事業者等が委託先における設備の運用に係る業務管理体制の確保について責任を負うことを、法律上の義務として明らかにすることが必要と考えられる27

5.4.改正概要

5.4.1.技術基準適合維持義務の対象の拡充

以上の課題を踏まえ、技術基準適合維持義務の対象を拡充し、設備に対する技術基準に加え、その運用のための業務管理体制についても、基準に適合するように維持しなければならない旨を規定する。その結果、基幹放送事業者等は、認定・免許時だけでなく恒常的に業務管理体制を確保する義務を負うこととなる。(改正後の放送法第111条第1項、第112条及び第121条第1項)

これに伴い、拡充後の基準適合維持義務の履行を確保するため、重大事故の報告義務の対象として、業務管理体制の不備に起因する事故を含めるとともに、総務大臣による改善命令及び報告徴求の対象として、業務管理体制に関する事項を含めることとする。(改正後の放送法第113条から第115条まで及び第122条から第124条まで)

5.4.2.設備の運用の委託に係る規定の整備

基幹放送の業務の認定及び基幹放送局の免許の申請書の記載事項として、設備の運用の委託28に係る事項を追加する29。これにより、総務大臣は、認定・免許の審査に当たって、当該事項も勘案して、申請者の技術的能力の有無及び設備全体の基準適合性を判断することとなる30。(改正後の放送法第93条第2項第9号及び電波法第6条第2項第6号)

これに伴い、申請事項の変更許可の対象としても、設備の運用の委託に係る事項を追加する。これにより、基幹放送事業者等は、設備の運用の委託に係る事項を変更する場合には、総務大臣の許可(軽微な変更については総務大臣への届出31)を要することとなり、その結果として、総務大臣は、基幹放送事業者等による設備の運用の委託の実態を恒常的に把握することが可能となる。(改正後の放送法第97条並びに電波法第9条第4項及び第17条第1項)

また、基準適合維持義務の対象として、委託先における業務管理体制を含めることとする。これにより、基幹放送事業者等は、委託先における業務管理体制の確保についても法律上の義務(委託先に対する指導監督義務)を負うこととなり、総務大臣は、基幹放送事業者等に対し、委託先における業務管理体制についても、改善命令や報告徴求を行い得ることとなる。(改正後の放送法第111条第1項、第112条及び第121条第1項)

なお、一般放送は、基幹放送と異なり、民主主義の発展に寄与し、国民が日常生活や社会生活を営む上で必要な情報を提供する等の社会的役割を果たすことを当然に期待されているものではなく、放送事故が生じた場合の社会的影響も、基幹放送と比べれば重大ではないことが多い。このため、今回の法改正では、登録一般放送事業者の技術基準適合維持義務等(放送法第136条から第139条まで)は改正しないこととする。

図3. 放送法及び電波法の一部を改正する法律(令和5年法律第40号)概要

(出典)総務省資料

図4. 地上テレビ局の放送ネットワークイメージ

(出典)総務省資料

6.おわりに

本法律は、公布の日(令和5年6月2日)から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日から施行することとしている。

なお、本法律の施行後5年を経過した場合において、本法律による改正後の規定の施行の状況について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。

本法律により、放送を取り巻く環境が大きく変化するなかにおいても、国内基幹放送事業者が事業運営の効率化を図りつつ、放送の社会的役割を引き続き果たしていくことを期待する。

脚注

1 基幹放送とは、電波法の規定により放送をする無線局に専ら又は優先的に割り当てられるものとされた周波数の電波を使用する放送のことであり(放送法第2条第2号)、地上基幹放送(ラジオ放送・テレビジョン放送)、衛星基幹放送、移動受信用地上基幹放送の3種類がある。

2 放送系とは、同一の放送番組の放送を同時に行うことのできる基幹放送局(基幹放送をする無線局)の総体であり、ある地域における放送系の数は、当該地域において視聴可能なチャンネル数と基本的に一致する。基幹放送普及計画では、民間の地上テレビジョン放送については4系統(主要地域は5系統)の放送があまねく受信できるようにすることを目標としている。

3 ただし、民間の地上テレビジョン放送においては、関東・中京・近畿の各広域圏がそれぞれ1の放送対象地域とされており、岡山県・香川県と鳥取県・島根県は両県を合わせた区域がそれぞれ1の放送対象地域とされている。

4 自然的事情とは、地形による電波の伝搬状況、他地域からの混信状況等であり、経済的事情とは、基幹放送局の置局、基幹放送の業務の基盤となる地域の経済力等であり、社会的事情とは、他のコミュニケーション、マスメディアの手段の普及状況等であり、文化的事情とは、地域の歴史的・文化的な一体性等である。

5 基幹放送事業者とは、放送法上の基幹放送の業務の認定を受けた者(認定基幹放送事業者)と電波法上の特定地上基幹放送局の免許を受けた者(特定地上基幹放送事業者)の総称である(放送法第2条第23号)。

6 実際には、地方のローカル局(特定地上基幹放送事業者)は、同系列の関東広域圏のキー局(特定地上基幹放送事業者)から一定程度の放送番組の提供を受けて同番組を放送しているものの、自社制作の番組も含めた独自の番組編成を行っており、キー局や他のローカル局と同一の番組編成により放送されていることはない。

7 経営基盤強化計画の認定制度は、直接には、地上基幹放送を行う事業者(具体的には、地方のローカル局)の経営再生を念頭に置いて創設されたものであるが、地上基幹放送以外の基幹放送への適用可能性も否定されないため、国内基幹放送全般を対象とした制度となっている。

8 現行の基幹放送普及計画において、衛星基幹放送や一部の地上基幹放送については、放送対象地域が「全国」とされているため、このような基幹放送について特定放送番組同一化が行われることは実際には想定し難い。しかしながら、放送法は、告示である基幹放送普及計画の内容を前提とせず、その将来的な変更可能性も視野に入れ、国内基幹放送全般について特定放送番組同一化の余地を認めている。

9 地上基幹放送に関する免許制度の運用では、同一の事業者が複数の放送対象地域で業務を行うことを基本的に認めていないが、放送法は、将来的な運用変更の可能性も視野に入れ、基幹放送事業者が「単独で」経営基盤強化計画の認定を受け、特定放送番組同一化を行う余地を認めている(改正前の同法第116条の4第1項、第116条の7第2項等)。

10 例えば、特定放送番組同一化の対象となる各放送対象地域のそれぞれの需要を満たす放送番組を制作すること(A県とB県で特定放送番組同一化を行う場合は、A県向け放送番組とB県向け放送番組をそれぞれ制作し、別々の時間に一定時間以上放送すること)や、地域ごとの取材拠点を一定程度維持すること等が条件として想定されており、これらを「地域性確保措置」としている(改正前の放送法第116条の4第2項第5号ロ)。

11 放送法施行規則(昭和25年電波監理委員会規則第10号)第91条の3。

12 番組送出設備とは、「放送番組の素材を切り替え、当該放送番組の素材その他放送番組を構成する映像、音声、文字及びデータに係る信号を調整し、放送番組として送出し、並びにこれらを管理する機能を有する電気通信設備」のことであり(放送法施行規則第2条第11号)であり、「マスター設備」と通称される。

13 A県とB県で放送対象地域を統合した場合、両県では、全ての放送系(チャンネル)で、同一の放送番組が同時に放送されることとなる。これに対し、特定放送番組同一化においては、両県で、特定の放送系について、同一の放送番組が同時に放送されるにとどまる。

14 経営基盤強化計画の認定を受けるためには、業務を維持するための「最大限の努力」をすることが求められる一方(改正前の放送法第116条の4第3項第1号)、計画の認定を受けた基幹放送事業者は、基幹放送の業務の認定の更新時又は特定地上基幹放送局の再免許時における「経理的基礎」の審査が免除される(改正前の同法第116条の6)。

15 その具体的な内容については脚注11を参照。

16 制度の具体的な適用場面としては、複数の放送対象地域の地上基幹放送事業者が、共同で実施方針を提出することを想定しているが、経営基盤強化計画認定制度の考え方(脚注8から10まで)を踏襲し、国内基幹放送を行う地上基幹放送事業者全般を対象とした制度とし、単独で実施方針を提出する可能性も認めることとする。

17 協会の放送インフラの場合、親局と中継局との世帯カバー率の比が約8:2であるのに対し、親局と中継局との年間維持経費の比は約4:6となっている。民間の放送事業者の場合も概ね同様の傾向を示している。

18 ソフト設備については、各放送事業者が同一の者に設備の運用を委託することで共同利用を実現することも可能だが、ハード設備については、電波法上、無線設備の運用を他人に行わせることは原則として認められていないため(同法第70条の7及び第110条第2号)、そのような形での共同利用は行われていない。なお、このような同法上の原則自体を変更することは、同法において無線局の免許人に課されている諸規律や、放送法において基幹放送局提供事業者に課されている諸規律の潜脱を容易にするため、適当ではない。

19 特定地上基幹放送事業者は、ハード・ソフト一致型で地上基幹放送を行うことの適格性について既に電波法上の審査を受けた者であるから、通常は、ハード側だけでなくソフト側についても、設備やその運用能力についての基準適合性を充たしていると考えられる。しかしながら、電波法における特定地上基幹放送局の免許審査は放送対象地域単位ではなく放送区域(標準的な受信設備で地上基幹放送を良好に受信できると想定される区域)単位で行われることから、他者の中継局を用いる放送区域で用いられるソフト設備やその運用能力(例:番組送出設備から他者の中継局までの有線による予備ルートや、緊急時における当該他者との連絡体制)については、電波法上の審査を受けていないこととなる。そこで、万全を期す観点から、これらの点の基準適合性を確認する手続を放送法に設けるものである。

20 なお、電波法及び放送法の一部を改正する法律(令和4年法律第63号)により、放送法第20条第6項として、「協会は…業務の円滑な遂行に支障の範囲内において…他の特定地上基幹放送事業者及び基幹放送局提供事業者…が第九十二条の責務にのつとり講ずる措置の円滑な実施に必要な協力をするよう努めなければならない」との規定が追加された。このことを踏まえれば、協会は、本文の①及び②の要請を充たす限りにおいて、民間放送事業者との中継局設備の共同利用を積極的に検討すべきものと考えられる。

21 放送法は、協会の子会社に対しては、経営委員会や監査委員会、会計監査人によるガバナンスが、協会本体と遜色のない水準で及ぶ仕組みを用意している(同法第29条第1項第1号ハ(6)、第44条第2項及び第77条第2項)。

22 放送法は、協会の放送の自立性・継続性を確保する観点から、協会の放送設備を他者に譲渡することを原則として禁止しており、譲渡する場合には、総務大臣の認可に加えて、両議院の同意を得ることを必要としている(同法第85条)。改正後の規定は基幹放送局提供子会社への中継局設備の譲渡についてこの点の例外を設けるものであるが、総務大臣の認可に加えて、収支予算、事業計画及び資金計画に定めることを要件としており、収支予算、事業計画及び資金計画の国会承認(同法第70条第2項)を通じて、引き続き国会のコントロールが及ぶこととなる。

23 放送法は、基幹放送設備(番組送出設備等のソフト側の設備)と基幹放送局設備(放送局の無線設備等のハード側の設備)を合わせたものを「基幹放送の業務に用いられる電気通信設備」と呼んでいる(同法第93条第1項第3号)。

24 放送法は、「放送設備」の定義を置いていないが、放送の業務に用いるために協会が保有する電気通信設備全般を意味するものと考えられる。

25 例えば、基幹放送の業務に用いられる電気通信設備の全体の運用を特定の者に包括的に委託することは、認定・免許制度の趣旨を損なうため、認められないと考えられる。

26 改正前の制度下でも、認定・免許時の審査において、委託する設備の範囲や委託先の氏名・名称の提出を求める場合があるが、法律上の明確な根拠に基づくものではない。

27 前述のように、改正前の制度上も、基幹放送事業者等は、委託した設備の技術基準適合性については自らの義務として責任を負うが、委託先における業務管理体制の確保について責任を負うことは、法律上の義務としては規定されていない。

28 ここでの委託は当然に二段階以上の委託を含み、例えば、設備の運用を再委託することが想定される場合は、原則として、再委託先の氏名又は名称も申請書に記載する必要がある。なお、放送法第150条とは異なり、ここでの規律は委託先に対して何らかの義務を課すものではないため、二段階以上の委託を含む旨を法文上明記する必要はないと考えられる。

29 前述のように、ハード側の設備(基幹放送局設備)のうち、無線設備の運用を恒常的に他人に委託することは想定されないため、電波法第6条第2項第6号においては、委託する設備の対象から無線設備が除かれる旨を明記する。

30 認定・免許の申請時に、申請書の添付書類(放送法第93条第3項)として、申請者の組織体制図や管理規程類、組織責任者の略歴を提出させ、これらの書類を基に、申請者の技術的能力の有無を審査している。改正後は、添付書類として、委託先におけるこれらに相当する書類も提出させることが想定される。

31 基幹放送事業者等の事務負担を考慮し、特に軽微な変更については届出も不要とする(改正後の放送法第97条第2項第1号並びに電波法第9条第5項第2号及び第17条第2項第2号)。

 
© 2023 Institute for Information and Communications Policy
feedback
Top