Journal of Information and Communications Policy
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Protection of Personal Information after Death:
Comparing with Defamation and Moral Rights of Authors
Tomomi OTSUKA
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2024 Volume 8 Issue 1 Pages 59-80

Details
要旨

社会のデジタル化が進展し、特にインターネットを通じて、多くの個人情報が収集されるようになっている。このような時代においては、個人に関する情報が適正に取り扱われることが法的に保障されて初めて、個人は安心して暮らすことができる。個人情報保護法は、このような目的から、個人情報を保護する仕組みを用意している。しかし、現行法上、ここで保護される個人情報は、「生存する個人に関する情報」に限定される。すなわち、個人が死亡した後は、当該死者に関する情報は個人情報保護法上の個人情報ではなくなり、原則として保護の対象ではなくなってしまう。

このような法状況の下で、本稿は、死後においても個人情報を保護すべきか、保護すべきとした場合、どのような規律をすべきかについて論じる。第1に、死後の個人情報の保護に関する裁判例及び条例を、第2に、類似の問題状況が存在する死者の名誉及び著作者人格権の保護に関する議論を分析する。これらの分析により、死後の個人情報の保護に関する立法論を展開する上で考慮すべき利益、具体的規律のあり方の選択肢やそれぞれのメリット・デメリットが明らかとなる。

本稿は、結論として、以下の立法論を主張する。(ⅰ)死者自身の人格的利益を保護するため、死者に関する情報をも個人情報として保護すべきである。(ⅱ)死者に関する情報を個人情報に含めた上で、著作権法116条に倣い、その遺族あるいは死者に指定された者に開示請求権等を付与するとの法律構成を採用するべきである。(ⅲ)具体的な規律としては、①遺族あるいは死者に指定された者を請求権者とする、②死者の意に反しない限り、これらの者が開示請求、訂正等請求、及び、利用停止等請求をすることができるものとする、③これらの請求については、死者の人格的利益の保護の必要性と、死者の情報を利用することで社会が得られる利益や開示請求等の対象となることによって生じる個人情報取扱事業者等の負担とのバランスをとらなければならないという個人情報保護特有の事情を考慮しながら適切な期間制限を設けるべきである。

Abstract

As society becomes increasingly digitalized, especially through the Internet, a great deal of personal information is being collected. In such an era, individuals can live in peace only when they are legally guaranteed that information about them will be handled appropriately. The Personal Information Protection Law provides a mechanism to protect personal information for this purpose. However, under the current law, personal information protected here is limited to “information about a living individual”. In other words, after an individual dies, information about the deceased ceases to be personal information under the Personal Information Protection Law and, in principle, is no longer subject to protection.

Under these legal circumstances, this paper discusses whether personal information should be protected even after death, and if so, how it should be regulated. First, court decisions and ordinances concerning the protection of personal information after death will be analyzed. Second, discussions concerning the defamation and the moral rights of the dead, where similar problems exist, will be analyzed. These analyses will reveal the interests to be considered, the options for specific discipline, and the advantages and disadvantages of each.

In conclusion, this paper suggests for the following regulations. (i) In order to protect the personal interests of the deceased, information about the deceased should be protected as personal information. (ii) The rights to demand disclosure should be granted to the surviving family member or person designated by the dead, in accordance with Article 116 of the Copyright Act. (iii) As specific rules, (a) the surviving family member or the designated person should hold the right, (b) they can request for disclosure, correction, and discontinuance of the utilization, unless it is against the will of the deceased, and (c) appropriate time limits should be set for these requests, taking into consideration the unique circumstances of personal information protection.

1.はじめに

社会のデジタル化が進展し、個人は電子メールやSNSなどにおいて多くの情報を蓄積している。その結果、個人が死亡すると、それら多くの個人情報が事業者や行政機関などに残されることになる。このような個人情報が自らの死後は適切に扱われないとすると、それを懸念して、生存中においても個人情報を利活用することを躊躇う可能性がある。しかし、現在の個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号。以下「個人情報保護法」という。)では、「生存する個人に関する情報」のみが保護の対象となっており(2条1項柱書)、死者の個人情報は原則として保護されない2。社会のデジタル化を推し進めつつ、個人情報に関する個人の不安を取り除くことを目指すのであれば、死後の個人情報の保護について、改めて検討する必要がある3

このような問題意識の下で、本稿は、死者の個人情報の保護について、立法論の検討を行う。叙述の順序は以下のとおりである。第1に、従来の裁判例及び条例において、死者に関する情報がどのように扱われてきたのかを概観する(2.)。第2に、類似の問題状況にある制度(名誉及び著作者人格権の保護)を分析する(3.)。第3に、以上の検討を踏まえ、死者の個人情報に関する立法提案を行う(4.)。

なお、2021年に成立し、公布されたデジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律(令和3年法律第37号)により個人情報保護法制の一元化が目指され、行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第58号。以下「行政機関個人情報保護法」という。)及び独立行政法人等の保有する個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第59号。以下「独立行政法人等個人情報保護法」という。)が個人情報保護法に統合された(以下「令和3年改正」という。)4。令和3年改正前においても、3法全てにおいて個人情報は「生存する個人に関する情報」に限定されていたため(行政機関個人情報保護法2条2項柱書、独立行政法人等個人情報保護法2条2項柱書)、以下ではこれらを特に区別せずに論じることとする(以下、個人情報保護法、行政機関個人情報保護法及び独立行政法人等個人情報保護法を合わせて「個人情報保護法等」という。)。

2.裁判例・条例の分析

まず、死後の個人情報の保護に関する従前の裁判例及び条例を分析する5

第1に、個人情報保護法等及びそれをモデルとした一部の(旧)個人情報保護条例は、個人情報を「生存する個人に関する情報」に限定する。しかし、死者に関する情報も、「生存する個人に関する情報」に該当する限りにおいて、個人情報保護法上の保護の対象となることが認められてきた(2.1.)。

第2に、(旧)個人情報保護条例において、死者の情報をも個人情報に含める例があり、また、近時、個人情報保護制度とは別に、死者の情報に関する条例が制定される例もある(2.2.)。

2.1.裁判例における「生存する個人に関する情報」の解釈

個人情報保護法等及びそれをモデルとした一部の(旧)個人情報保護条例における「個人情報」は、「生存する個人に関する情報」に限定されているため(個人情報保護法2条1項柱書など)、死者に関する情報は個人情報に当たらない。しかし、「死者に関する個人情報が、同時に、遺族等の生存する個人に関する情報でもある場合には、当該生存する個人に関する情報に該当する」6。例えば、死者の遺伝子情報や相続財産に関する情報がこれに該当するものとされてきた7

ここでは、死者に関する情報が遺族等の個人情報にも当たるかが争われた裁判例を検討する。この問題について一定の解釈を示した最高裁判決である最判平成31年3月18日判時2422号31頁8(以下「平成31年最判」という。)は、ある情報が死者に関する情報であることを特別視せず、それが生存する個人にとって「個人に関する情報」に該当するか否かは「当該情報の内容と当該個人との関係を個別に検討して判断すべきものである」とした(個別判断説)。これに対し、平成31年最判以前、死者に関する情報であることを理由に、それ以外の場合と異なる特別な基準を示す裁判例も存在した(特別基準説)。

2.1.1.個別判断説

平成31年最判の事案は以下のとおりである。Aは、Y銀行の支店において普通預金口座を開設し、その際、Aの住所及び氏名、生年月日、連絡先電話番号、開設日の年月日が記載され、Aの取引印章による印鑑が押捺された印鑑届書(以下「本件印鑑届書」という。)をY銀行に提出した。その後、Aが死亡し、法定相続人であるXらがこれを相続した。Xらの間で遺産に関する紛争が生じ、Aの遺言をめぐって訴訟が継続し、控訴審判決により終結した。Aの遺言書の真偽に疑問を持ったXは、これを明らかにすることを目的として、Yに対し、個人情報保護法(平成27年法律第65号改正前のもの9)25条1項に基づいて、本件印鑑届書の写しの交付を求めて訴えを提起した。争点は、本件印鑑届書の情報がXに関するものとして「個人に関する情報」に該当するか否かである。

第一審(岡山地判平成28年10月26日金判1569号12頁)は、次のように判示して、Xの請求を棄却した。まず、「死者に関する情報であっても、それが同時に生存する個人に関する情報でもあると認められる場合には、法[個人情報保護法]2条1項の「生存する個人に関する情報」に当たる」ことを認める。しかし、「法は、個人情報取扱事業者が個人情報を取扱うことによる本人の権利利益の侵害の危険性や本人の不安等を取り除くことをその目的にしており、法の目的に照らせば、法が保護しようとする個人の権利利益とは本人の人格的権利に由来するものと解され、本人の財産権行使等の便宜を図ることはその本来の目的ではない」と解し、それゆえ、「生存する個人が、現に自己に帰属する財産権の行使のために必要ないし有用な情報であれば、それが本来は死者である被相続人に由来する情報であっても、直ちに生存する個人(相続人)に関する情報に当たると解するのは相当でな」く、「法の目的からすれば、生存する個人に関する情報といえるためには、当該情報の取扱いによって個人の権利利益を侵害する可能性がある情報、すなわち、当該情報によって生存する個人それ自体を識別することができる情報である必要がある」とした。Xが控訴。

控訴審(広島高岡山支判平成29年8月17日金判1569号10頁)は、次のように判示して、第一審判決を取り消し、Xの請求を認容した。まず、「法[個人情報保護法]は、個人情報の適正な取扱いを定めて、個人の権利利益の保護を目的としているところ、死者に権利利益を享受する法的地位は認められないし、死者が個人データの開示、訂正等及び利用停止等を求めることもないから、死者に関する情報を、死者を主体として法の対象にする意義は乏しい」ことを認める。しかし、「死者に関する情報であっても、当該情報が、死者が死亡時に有していた財産に関する情報である場合には、当該財産が相続人や受遺者に移転することにより、当該情報も相続人や受遺者に帰属することになり、これを相続人や受遺者に関する情報ということを妨げる理由はな」く、「また、当該情報に死者の氏名等が明示されていることにより、その氏名等と夫婦や親子という身分関係に関する情報や遺言に含まれる相続人や受遺者の情報とは容易に照合することができるから、それにより特定の相続人や受遺者を識別することができることも明らかであ」り、「のみならず、前記のような死者に関する情報が不適切に管理されて、無用の情報が流出すること、又は、必要な情報が提供されないことは、死者に関する情報と他の情報を容易に照合することにより識別することができる特定の生存する個人の権利利益が適正に保護されないことを招き、このような結果は、法の目的に反するものといわなければならない」として、「死者に関する情報は、同時に、当該死者に関する情報から識別することができる特定の生存する個人にとって、法にいう個人情報として、法による保護の対象となるべき情報である」とした。Yが上告受理申立て。

最高裁は、次のように判示して、控訴審の判決を破棄し、控訴を棄却した。「法[個人情報保護法]は、個人情報の利用が著しく拡大していることに鑑み、個人情報の適正な取扱いに関し、個人情報取扱事業者の遵守すべき義務等を定めること等により、個人情報の有用性に配慮しつつ、個人の権利利益を保護することを目的とするものである。法が、保有個人データの開示、訂正及び利用停止等を個人情報取扱事業者に対して請求することができる旨を定めているのも、個人情報取扱事業者による個人情報の適正な取扱いを確保し、上記目的を達成しようとした趣旨と解される。このような法の趣旨目的に照らせば、ある情報が特定の個人に関するものとして法2条1項にいう「個人に関する情報」に当たるか否かは、当該情報の内容と当該個人との関係を個別に検討して判断すべきものである。」「したがって、相続財産についての情報が被相続人に関するものとしてその生前に法2条1項にいう「個人に関する情報」に当たるものであったとしても、そのことから直ちに、当該情報が当該相続財産を取得した相続人等に関するものとして上記「個人に関する情報」に当たるということはできない。」このように、最高裁は、ある情報が死者に関する情報である場合に、死者の情報がその相続人等の情報に該当するかという問題設定をせず、ある情報が生存する個人にとって「個人に関する情報」に該当するか否かを直接に問題とし、「当該情報の内容と当該個人との関係を個別に検討して判断すべきものである」との見解を示している(個別判断説)10

その後の裁判例は、平成31年最判と同じ枠組みによる判断を示す。

第1に、大阪地判令和元年6月5日判時2431=2432合併号79頁は、石綿粉じんばく露作業に従事し、胸膜中皮腫により死亡した父の子が、国に対する損害賠償請求訴訟を提起するため、兵庫労働局長に対し、母の遺族給付等に係る情報の開示を請求した事案において、行政機関個人情報保護法12条1項にいう「自己を本人とする保有個人情報」に該当するかについて、平成31年最判と同じく、「当該情報の内容と当該個人との関係を個別に検討して判断すべきものである」とした上で、本件各情報が相続財産である損害賠償請求権の発生要件の充足を直接的に示すものであって原告である子の「自己を本人とする個人情報」に該当するとした11

第2に、鳥取地判令和3年2月12日(令和元年(行ウ)第4号)は、鳥取県個人情報保護条例(平成11年鳥取県条例第3号)12に基づき、死者の子が死体調査等記録書(警察等が取り扱う死体の死因又は身元の調査等に関する法律(平成24年法律第34号。以下「死因・身元調査法」という。)に基づく調査・検査等の結果を記録したもの)の開示を請求した事案について、「死者に関する情報が、生存する開示請求者の「自己の個人情報」に当たるといえるかについては、本件条例の趣旨目的に照らし、当該情報の内容と当該個人との関係を個別に検討して判断するほかない」との一般論を示した上で、死因・身元調査法の制度趣旨を遺族等の不安の緩和・解消等と解し、特段の事情がない限り、調査・検査の結果に関する情報が死者の遺族の個人情報になるとした13

学説上も、平成31年最判の判断を支持する見解がある1415。ただし、判例に現れた事案の特殊性には注意が必要である。すなわち、開示請求の対象となる情報が相続財産(預金契約上の地位)についてのものであること、開示の目的が相続財産についての権利行使を目的とするものでないこと、相続財産についての権利行使において当該情報の開示の必要がなかったことが挙げられる。そうすると、判例の射程は2.1.2.で取り上げる裁判例のような事案には及ばないと解することも可能である16

2.1.2.特別基準説

平成31年最判が登場する以前は、死者に関する情報であることを理由に、それ以外の場合と異なる特別な基準を示す裁判例も存在した。ここでは、4つの裁判例を紹介する。

第1に、東京地判平成9年5月9日判時1613号97頁(以下「平成9年東京地判」という。)17がある。事案は次のようなものである。Xの次女であるAは、当時、東京都町田市立B中学校に在籍していたが、自殺により死亡した。B中学校では、Aの死後、Aの自殺に関する全校集会が開かれ、生徒が作文を書いて各担任に提出した。Xは、町田市教育委員会教育長(個人情報実施機関である町田市教育委員会から事務の委任を受けたものである。以下「Y」という。)に対し、町田市個人情報保護条例(平成元年町田市条例18(以下「本件条例」という。)第5号)に基づき、「Aの死について説明をした後生徒に書かせた作文のうちAにかかわるもの」の開示(写しの交付)を請求した。これに対し、Yは、Xに対し、非開示情報(本件条例21条1項2号及び3号)に該当するとして、開示しない旨の決定(以下「本件決定」という。)をし、Xの不服申立てに対し、町田市教育委員会は、Xの申立てを棄却した。そこで、Xは、本件決定の取消しを求めて訴えを提起した。

これに対し、東京地判は、結論として、非開示情報に該当することを理由に請求の一部を棄却し、また、作文が返却又は焼却されて存在しないことを理由に請求の一部に係る訴えを却下したが、以下のように述べて、亡子の個人情報を親の個人情報と同視する可能性を認めた。「たしかに、個人の人格の独立性の観点からすれば、自我の萌芽がない幼児を除き、子の個人情報は親の個人情報と区別されるべきであり、子の独立の人格を認める以上、親といえども子の秘匿する情報に介入しないことが相互の信頼の基礎とされるものといえる。しかし、子が親の監護、養育の下に置かれ、社会的にも親が監護、養育の権利を行使することが期待される場合においては、子の対外的言動は監護、養育を行うべき親に対する評価の基礎となる親の個人情報というべき側面をも有するものであり、また、子の交友関係等は、本来的には子の判断に委ねられつつも、なお監護、養育権者としても当然に認識しておくべき事項というべきであり、また、子の固有の情報であっても、子の死亡によって当然にその個人情報の主体が消滅するものと解すべきではなく、子の個人情報が当該家族共同体の社会的評価の基礎資料となるものはもとより、家族共同体の一員として関心を持ち、その情報を管理することが社会通念上も当然と認められる情報については、家族共同体構成員の固有情報と同視することができる場合があるというべきである。」19

第2に、東京高判平成11年8月23日判時1692号47頁(平成9年東京地判の控訴審)がある20。本判決においても、第一審同様、結論としては、Xの請求は認められていない。しかし、東京高判は、以下のように述べて、親権者であった者による開示請求の可能性を認める。「たしかに、本件条例上は、死者の個人情報についてその遺族等が開示を求めるといった事態を予想した規定は置かれておらず、したがって、死者の個人情報について、一般的にその遺族等がその開示を求め得るものとすることには、疑問があるものというべきである。しかし、本件のように、親権者であった者が死亡した未成年の子どもの個人情報の開示を求めているという場合については、社会通念上、この子どもに関する個人情報を請求者自身の個人情報と同視し得るものとする余地もあるものと考えられることに加えて、本件決定さらには不服申立てに対する決定においても、Xあるいは市教委が、Xが亡Aの個人情報の開示を請求する資格を有することを前提とした処理を行ってきているという経緯があることなどにかんがみ、一応、Xに亡Aに関する個人情報の開示を請求する資格が認められるとの前提で、さらに検討をすすめることとする。」

第3に、東京地判平成30年1月18日判タ1467号126頁がある。事案は次のようなものである。Aは、Y(東京都)に対し、東京都市計画事業環状第7号線用地として、本件各X所有地の一部から分筆登記された土地である、本件各土地を譲渡した。Aから、贈与又は相続により、本件各X所有地を取得したXは、処分行政庁に対し、東京都個人情報の保護に関する条例(平成2年東京都条例第113号21。以下「本件条例」という。)13条1項に基づき、「Aの東京都への土地の売渡に関する、土地売渡証、図面その他一切の情報」(以下「本件情報」という。)の開示を請求した(以下「本件請求」という。)。しかし、処分行政庁が、本件情報が請求者本人の個人情報ではないとの理由により、本件請求を却下する旨の処分をしたため、Xは、Yに対し、却下処分の取消しを求める訴訟を提起した。

これに対し、東京地判は、Xの請求を棄却したが、死者に関する情報について次のように述べる。「本件条例において、個人情報とは、生存する個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)をいうとされ(本件条例2条2項)、保有個人情報とは、実施機関の職員が職務上作成し、又は取得した個人情報であって、当該実施機関の職員が組織的に利用するものとして、当該実施機関が保有しているもの(ただし、公文書に記録されているものに限る。)をいうとされる(同条3項)ところ、本件条例は、実施機関が保有する自己を本人とする保有個人情報について、何人も、当該実施機関に対し、開示請求をすることができると規定としており(本件条例12条1項)、生存する個人に対し、自己がその情報の本人となっている保有個人情報の開示を請求することができる権利を付与したものである。」「もっとも、死者に関する情報であっても、死者と請求者自身との関係及び当該情報の内容に照らして、それが同時に請求者自身の個人情報と同視し得る場合には、当該個人は、当該死者の個人情報について自ら開示を受けた上で、自己を本人とする保有個人情報の開示、訂正及び利用停止を求めるという本件条例に定められた自己情報への関与についての権利を行使し得ると解され、上記の場合には、当該死者に関する情報を開示請求の対象とすることが認められると解される。本件条例は、このような理解を前提として、死者に関する情報であっても、請求者自身の保有個人情報であると考えられる情報及び社会通念上請求者自身の保有個人情報とみなせるほど請求者と密接な関係がある情報については、自己を本人とする保有個人情報に含むものとしているものと解される。そして、ここに、死者に関する情報であっても請求者自身の保有個人情報であると考えられる情報とは、請求者が死者である被相続人から相続した財産に関する情報、請求者が死者である被相続人から相続した不法行為による損害賠償請求権等に関する情報、近親者固有の慰謝料請求権などの死者の死に起因して相続以外の原因により請求者が取得した権利義務に関する情報等をいい、社会通念上請求者自身の保有個人情報とみなせるほど請求者と密接な関係がある情報とは、死亡した時点において未成年であった自分の子に関する情報等をいうと解され、これと同旨を定める本件通達第12条関係第2の規定22は、正当なものと解される。」「したがって、本件条例においては、死者に関する情報であっても、以上のような情報に当たるものについては、自己を本人とする保有個人情報として開示請求の対象とされるものというべきである。」

第4に、山口地判平成30年10月17日判時2415号13頁がある23。事案は次のようなものである。Xは、Aと婚姻し、本件児童を含む2子をもうけたが、2子の親権者をいずれも母であるAと定めて調停離婚した。その後、未成年であった本件児童は、自宅で自殺した。Xは、山口県個人情報保護条例(平成13年山口県条例第43号24。以下「本件条例」という。)10条1項に基づき、山口県知事に対し、「岩国児童相談所などで所管する本件児童に関する……書類」(以下「本件情報」という。)の写しの開示を求めた(以下「本件開示請求」という。)。本件開示請求につき、山口県知事が本件情報の全部を開示しない旨の個人情報非開示決定処分(以下「本件処分」という。)をしたところ、Xは、Y(山口県)に対し、本件処分の取消しを求めて訴訟を提起した。

山口地判は、次のように述べて、Xの請求を認容した。「本件条例は、個人情報にかかる本人の権利利益を保護することを目的とするものであり(本件条例1条)、死者に関する情報の保護によって遺族等の第三者の権利利益を保護することは予定されていない。」「しかしながら、当該死者と特に密接な関係を有する遺族等については、社会通念上、当該死者に関する個人情報が、同時に遺族等「生存する個人」自身の個人情報に当たる場合があり得るから、そのような情報については、当該「生存する個人」に関する個人情報として、本件条例による保護の対象となるものと解するのが相当である。」「そして、死者が未成年者である場合には、相続人たる地位を有する父及び母は、当該未成年者の権利義務を包括的に承継する者として、特に密接な関係を有し、当該未成年者にかかる情報が、社会通念上、相続人たる地位を有する父又は母自身の個人情報と同視し得る余地があると考えられるから、Xは、本件条例10条に基づき、本件児童にかかる個人情報を自己の個人情報として、開示請求をする適格を有するものと解するのが相当である。」「なお、生前の親権の有無については、親権制度が子を監護養育する者の権利義務を定めて当該子の福祉・利益を保護するためのものであることに照らし、親権に服する子の死亡後は、親権の有無によって子との関係を別異に扱う必要はないというべきである。」

以上で取り上げた4つの裁判例(及びそこで根拠とされた条例)では、個別判断説とは異なる考え方が示された。すなわち、死亡した未成年の子に関する情報が、社会通念上、親又は親権者の個人情報と「同視し得る」場合に、当該親又は親権者による開示請求を認めるものである。ただし、いくつかのヴァリエーションが存在し、請求権者を親とするもの、親権者とするもの、「相続人たる地位を有する父又は母」とするものがあり25、また、その基礎を親の監護・養育の権利に置くもの、「密接な関係」に置くものがある。死亡した未成年の子に関する情報について、親又は親権者が開示を請求できるとする価値判断については、裁判例上一致が見られるものの、学説上は、未成年の子のプライバシーをより保護すべきであるとする見解もある26。また、これらの裁判例と平成31年最判との関係については、平成31年最判の射程を広く解する見解が多いものの、上記のとおり、平成31年最判の射程はこのような事案には及ばないと解することも可能であろう27

2.2.死者の情報に関する条例

個人情報保護法とは別に、各地方公共団体が死者の情報について特別の定めを置くことがある。個人情報保護法の令和3年改正前においては、各地方公共団体が独自に個人情報保護に関する条例を制定することが可能であり、個人情報保護条例の中には、個人情報について死者の情報を含むような定義をするものもあった。しかし、令和3年改正により、個人情報保護法制に係るルールの全国的な統一を図ることとされ、多くの地方公共団体において、個人情報保護条例が廃止され、新たに個人情報保護法施行条例が制定された。これにより、条例において、死者に関する情報を含めた個人情報の定義を行うことは許されなくなった28。しかし、個人情報保護制度とは別の制度として死者に関する情報の取扱いを定めることはなお可能であるとされており29、現にいくつかの条例が制定されている。

本稿では、令和3年改正の前後を通じて、死者の情報について条例上どのような保護がなされているかを分析する。

2.2.1.令和3年改正以前の条例

令和3年改正前に個人情報保護法とは異なる個人情報の定義を置いていた条例のうち、(旧)三重県個人情報保護条例、及び、(旧)新潟県個人情報保護条例を検討する。

第1に、(旧)三重県個人情報条例(平成14年三重県条例第1号)30は、個人情報を「個人に関する情報であって、……」と定義し(2条1号柱書)、「生存する個人に関する情報」に限定せず、死者に関する情報をも個人情報として取り扱っていた。これは、死者に関する情報を適正に管理すべき必要性は生存する者に関する情報と異ならないこと、実務上個人情報の主体が死亡したかどうかを必ずしも全て把握していないことなどによる31。それゆえ、死者の保有個人情報が開示請求(14条3項)、訂正請求(30条2項による準用)、及び、利用停止請求(37条2項による準用)の対象となる。ただし、開示等の対象が死者の保有個人情報であることから、請求権者及び非開示情報に関する特則が置かれた。まず、①「当該死者の配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情があった者を含む。)及び二親等内の血族」(1号)及び「前号に掲げる者のほか、相続人」(2号)を請求権者と定める(あわせて「遺族等」という。14条3項本文)32。ただし、2号請求権者については、「被相続人である死者から相続により取得した権利義務33に関する保有個人情報に限り」請求可能である(14条3項ただし書)。次に、「遺族等による開示請求がなされた場合において、当該開示請求に係る死者の保有個人情報を開示しないことが社会通念上相当であると認められる情報」34が非開示情報に加えられる(16条9号)。

第2に、(旧)新潟県個人情報保護条例(平成13年新潟市条例第4号)35は、個人情報を「個人に関する情報であって、……」と定義し(2条1号)、「生存する個人に関する情報」だけでなく、死者に関する情報をも個人情報に含めていた。それゆえ、死者を本人とする保有個人情報の開示請求(13条3項)、訂正請求(19条2項による準用)、及び、利用停止請求(22条2項による準用)が可能である。請求権者は、①「死者の死亡当時における配偶者並びに死者の子及び父母」(1号)、②「前号に掲げる者がいない場合は、死者の二親等以内の血族及び死者の死亡当時における一親等以内の姻族」(2号)、及び、③「死者の相続人」(3号)であり(13条3項)、3号請求権者について、開示の対象となる個人情報を制限する規定はない。また、死者の個人情報に特有の不開示情報の規定も存在しない。

2.2.2.令和3年改正以後の条例

令和3年改正後に、個人情報保護制度とは別の制度として、死者の情報に関する規律を定めた条例(あるいは要綱)は多数存在するが、本稿では、そのうち、小樽市死者情報の開示等に関する条例、及び、新潟市死者情報の開示に関する条例を取り上げ、検討を加える。

第1に、小樽市死者情報の開示等に関する条例(令和4年小樽市条例第26号)は、「死者の相続人又は死者の死亡当時親権者であった者その他死者と密接な関係を有する者(以下「死者の相続人等」という。)」が、当該死者情報(死者の相続人等を本人とする個人情報に該当するものを除く。)の開示を請求できるものとする(2条1項)。ただし、請求することができるのは、実施機関(市長など)が、小樽市情報公開・個人情報保護審査会の意見を聴いて、当該死者情報の開示請求を認めた場合に限定される。なお、その他の手続は個人情報保護法及び小樽市個人情報保護法施行条例(令和4年小樽市条例第25号)が準用される(2条3項)。さらに、死者情報を個人情報の例に準じて適切に取り扱うべき実施機関の義務も定められる(3条)。

第2に、新潟市死者情報の開示に関する条例(令和5年新潟市条例第5号)は、市の機関に対する死者情報(生存する個人に関する情報を除く。2条2号)の開示請求を認める(3条柱書)。開示請求権者は、①「死者の死亡当時における配偶者並びに死者の子及び父母」(3条1号)、②「前号に掲げる者がいない場合は、死者の二親等以内の血族及び死亡当時における一親等以内の姻族」(2号)、及び、③「死者の相続人」(3号)であり、(旧)新潟市個人情報保護条例と同様である(2.2.1.参照)。死者情報が不開示情報にあたらない限り、市の機関は開示の義務がある(5条柱書)。不開示情報の内容は、「死者以外の個人に関する情報……であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により死者以外の特定の個人を識別することができるもの……又は死者以外の特定の個人を識別することはできないが、開示することにより、なお死者以外の個人の権利利益を害するおそれがあるもの」(5条2号柱書)などが挙げられ、死者である個人の権利や利益を考慮する規定はない。

3.他の制度との比較

次に、死後の個人情報を保護すべきか、保護する場合にどのような制度設計が可能かを検討する視座を獲得するため、死後においてもその者の人格的利益を保護すべきかどうかが問題となる他の制度を取り上げ、そこでの議論を分析する。本稿で取り上げるのは、死者の名誉毀損(3.1.)及び著作者の死後における人格的利益の保護(3.2.)である36

3.1.死者の名誉毀損

刑法上、死者の名誉の毀損も、虚偽の事実を摘示した場合に限り、刑事罰の対象とされる(刑法230条2項)。これに対し、民法上は、死者の名誉が毀損された場合の規律は存在しないものの、この場合に、死者の相続人や遺族等が不法行為法上の救済(損害賠償請求(民法709条)や名誉回復措置(同法723条))を求めることができるかについて、学説・判例上議論がされてきた。そこでは、直接保護説と間接保護説とが対立する。

3.1.1.直接保護説

直接保護説は、死者も人格的利益を保有することを肯定し、その利益(権利)の侵害が法によって保護されるべきであるとする37。このように死者の人格権あるいは人格的利益を保護すべきとする根拠としては、一方で、日本国憲法13条に基礎を有する個人の尊厳を持ち出す見解があり38、他方で、人間の尊厳や生存中における人格の自由な発展そのものも、人間の生活像が死後も一定の保護を与えられると期待できる場合にのみ保護されるとの考え方を提示する見解がある39。このように死者の人格権あるいは人格的利益を保護するとしても、その保護は生者の人格権の保護よりも限定されたものとなる。死者自身が人格権侵害によって苦痛を受けない上、死亡後時間の経過とともに、芸術作品創作の自由や歴史的事実探求の自由が優先すべきだからである40

請求権者について、直接保護説の代表的論者である五十嵐清は、他の実定法との比較を行う41。第1に、刑事における死者の名誉毀損罪(刑法230条2項)では、「死者の親族又は子孫」が告訴権者とされる(刑事訴訟法233条1項)が、これはあまりに広すぎる。第2に、死後の著作者人格権の保護においては、遺族が請求権者とされ、その順位と範囲が定められ、また、遺族の有無にかかわらず、死者による請求権者の指定が可能であるとされ(著作権法116条。3.2.参照)、死者の名誉毀損における民事的請求の場合のモデルとなり得る。遺族、及び、死者に指定された者のいずれもが存しない場合については、刑事における検察官による告訴権者の指定の制度(刑事訴訟法234条)が参考になるとしつつも、表現の自由との関係で慎重な配慮を要するものとされる。これに対し、同じく直接保護説の代表的論者である斉藤博は、五十嵐同様、著作権法116条1項2項の規定を一般化して、一定の範囲の近親者を請求権者とすることを原則としつつ、近親者が死者の人格価値を損なう場合もあることに鑑み、請求権者を拡大することを試みる42。第1に、著作権法116条3項のように、遺言によって請求権者を指定する方法があるが、生前に全ての人格価値について周到に指定しておくことができる者は少ない。第2に、人格権の保護について生前黙示的に授権していたと思われる者を請求権者とする方法があるが、法的安定性を損なうおそれがある。

請求可能期間について、五十嵐は、本来立法による規制が必要であるとしつつ、死後30年くらいが望ましいものとする43。この期間は、著作者人格権の保護の期間制限44と同じであるとすれば一般的には長すぎるため、「故人の法事は三三回忌までとする慣習」を考慮して設定されている。さらに、いずれにせよ、死者の死後、時間の経過とともに、表現の自由の余地が拡大することにより、利益考慮の結果として請求が認められない場合が増えるだろうとされる。

救済手段について、五十嵐は、以下のように述べる45。第1に、一般論としては差止めによる保護を認める。ただし、言論出版の自由との関係で生者の名誉毀損の場合でも差止要件を厳格に解することから、死者の名誉毀損の場合に差止めが認められるのは、「よほど悪質な場合」に限られる。第2に、損害賠償請求、特に慰謝料請求については、死者の人格権侵害を根拠とする限り疑問である46。死者自身が精神的苦痛を感じる余地がないことが理由である。第3に、謝罪広告についてはそもそも問題があり、特に死者の場合には取消文の掲載のみで足りる場合が多く47、ただし、反論権については考慮の余地がある。

3.1.2.間接保護説

間接保護説を示した裁判例として、いわゆる「落日燃ゆ」事件判決(東京高判昭和54年3月14日高民集32巻1号33頁)がある48。本判決は、死者の名誉が毀損されたことを理由に、当該死者の甥である原告が、小説を執筆した被告に対し、謝罪広告の掲載及び慰謝料の支払を請求した事件について、以下のように判示し、控訴を棄却して、原告の請求を棄却した原判決を支持した。

第1に、死者の名誉・人格権について、刑法230条2項及び著作権法60条がこれを法律上保護すべきものとしていることから、一般私法上も法律上保護されるべき権利利益として、その侵害行為について不法行為の成立の可能性を肯定すべきであるとする。しかし、請求権者についての規定がないことから、結局、権利行使について実定法上の根拠を欠くものである。

第2に、「故人に対する遺族の敬愛追慕の情」について、これを一種の人格的法益として保護すべきものであることを認め、違法に侵害する行為は不法行為を構成するとする。この場合、請求権者は遺族であり、死者の利益を保護する場合のような問題が生じない。しかし、このような利益の保護には一定の限界がある。すなわち、「死者に対する遺族の敬愛追慕の情は死の直後に最も強く、その後時の経過とともに軽減して行くものであることも一般に認めうるところであり、他面死者に関する事実も時の経過とともにいわば歴史的事実へと移行して行くものということができるので、年月を経るに従い、歴史的事実探求の自由あるいは表現の自由への配慮が優位に立つに至ると考えるべきである」。

本件の事案では、本件文章が死者の死後44年余りを経過していることから、当該行為の違法性を肯定するためには、少なくとも摘示された事実が虚偽であることを要し、かつ、時間的経過にかかわらず、遺族の故人に対する敬愛追慕の情を受任し難い程度に害したといいうる場合にのみ不法行為の成立が肯定される。しかし、本件文章が虚偽であるとは認められないことから、不法行為の成立は否定される。

3.2.著作者の死後における人格的利益の保護

著作者人格権とは、公表権(著作権法18条1項)、氏名表示権(同法19条1項)及び同一性保持権(同法20条1項)の総称であり(同法17条1項)、著作者が著作物について有する人格的利益を対象とする権利である49。著作者人格権は一身専属的なものであり、相続の対象とならない(同法59条)50。しかし、著作者の死後も、「著作者が存しているとしたならばその著作者人格権の侵害となるべき行為」は禁止される(同法60条本文)51。本稿では、著作者の死後もその人格的利益が保護される根拠及び法律構成、さらに、民事的救済に関する具体的規律について分析を加える52

3.2.1.保護の根拠及び法律構成

著作者人格権は一身専属的なものであり、相続されない(著作権法59条)。しかし、著作者の死後も、著作者人格権侵害に相当する行為は一定の範囲で禁止される(同法60条本文)。禁止の範囲は、著作者が生存中の場合と異なり、「その行為の性質及び程度、社会的事情の変動その他によりその行為が当該著作者の意を害しないと認められる場合は、この限りでない」ものとされる(同条ただし書)。

著作者の死後においても人格的利益が保護される根拠については53、①文化遺産の保護という公益的な説明をするもの54、②死者である著作者自身の人格的利益(人格権)の保護と説明するもの55、③遺族の固有の人格権の保護と説明するもの56がある。①の見解に対しては、文化的遺産の保護と死者の著作者人格権とは本来関係がなく、著作権法上著作物の破棄が問題とされていないこととの平仄が取れないとの批判が57、③の見解に対しては、侵害があるかの認定において「著作者の意を害しない」かどうかを考慮すること、及び、著作者が遺族以外の者を請求権者として指定できることを説明できないとの批判がなされており58、②の見解が通説である。また、②の見解の中には、著作者の生前であれば禁止されていた行為がその死後は自由にできるとすれば「人は安寧の下に生命を全うすることはできない」として、生きている時点における著作者の人格的利益の保護を目的とするものと述べるものもある59

保護の根拠についていずれの見解に立つとしても、どのような法律構成によってその保護を実現するかという問題が生じる60。第1に、著作者の有する著作者人格権をその相続人が相続するという構成が考えられるが、上述のとおり、日本では立法上このような構成が否定される(著作権法60条)。第2に、著作者の死亡と同時に著作者人格権が消滅するとしつつ、それと同内容の権利が一定の近親者に発生するという考え方がある61。第3に、著作者の死亡と同時に著作者人格権が消滅するとしつつ、「著作者が存しているとすれば著作者人格権の侵害となるべき行為」を禁止し、その禁止を求められる主体を法律上定めるものとする考え方がある62。第2の考え方と第3の考え方の違いは、第2の考え方が遺族等に何らかの権利を発生させる規範の存在を前提とするのに対し、第3の考え方は、禁止規範の存在のみを前提とする点にある。

3.2.2.具体的規律

著作者の死後における人格的利益の保護に関する具体的規律については、①保護の範囲、②請求権者、③保護期間、及び、④請求内容が問題となる。

①著作権法60条ただし書が、生前の保護に比べ、著作者の死後における人格的利益の保護の範囲を制限する。すなわち、著作者が存しているとしたならばその著作者人格権の侵害となるべき「行為の性質及び程度、社会的事情の変動その他によりその行為が当該著作者の意を害しないと認められる場合は」、当該行為は禁止されない。「著作者の意を害しない」かどうかの判断について、同法20条における「その意に反し」の文言と比較して要件が緩和されたものと解釈できること、著作者に公表の意思がなかったものでも長い年月の経過により著作者の意を害さないと認定されることもあり得ること、及び、死者の主観の判断は不可能に近く、著作者の意は客観的に忖度せざるを得ないことから、時の経過とともに、多くの場合同法60条ただし書の適用がなされることになることから、これを緩く認める見解もある63

②請求権者については、同法116条が定めを置く64。第1に、著作者が遺言により請求権者を指定することができる(同条3項前段)。第2に、著作者による指定がない場合、その遺族が請求権者となり、ここでいう「遺族」とは「死亡した著作者又は実演家の配偶者、子、父母、孫、祖父母又は兄弟姉妹」である(同条1項)。また、遺族が請求権者となる場合の順位は同項規定の順序とされるが、著作者が遺言により別段の定めをすることも可能である(同条2項)。これらの者が請求をする場合、誰のためにそれをなすべきか。これは、このような請求による保護が何を目的としているかに依存するが、上記3.2.1.②の見解をとる場合、遺族や指定を受けた者は、死者である著作者のために請求権を行使すべきことになるだろう65

③保護期間について、著作権法上明示的な定めは存在しない。しかし、遺族等による請求については、第1に、遺族の範囲が2親等までに限定されていること、第2に、著作者の遺言による請求権者の指定がある場合、「当該著作者又は実演家の死亡の日の属する年の翌年から起算して70年を経過した後(その経過する時に遺族が存する場合にあつては、その存しなくなつた後)」は、指定を受けた者は請求できないものとされていることから(同条3項後段)、事実上、民事上の救済については一定の限界が設けられている66

④請求の内容は、差止請求(同法112条)及び名誉回復措置(同法115条)に限られ(同法116条1項)、損害賠償請求をすることはできない。ただし、当該行為が同時に遺族の名誉感情を害するものであるときは、遺族に対する不法行為として、遺族は固有の損害賠償請求をすることができると解されている(民法709条)67

4.立法論の検討

以上の分析を前提に、死後の個人情報の保護について立法論を展開したい。まず、死後の個人情報を保護するべきかという根拠、及び、その場合の法律構成について検討し(4.1.)、次いで、具体的な規律の存在する著作権法の議論に倣い、個別の規律に関する提案を行う(4.2.)。

4.1.保護の根拠及び法律構成

まず、本人の死後もその個人情報を保護すべきか、保護すべきであるとした場合どのように保護すべきかが問題となる。

4.1.1.保護の根拠

保護すべきとの主張を支える根拠としては、大きく3つの考え方があり得る。

第1に、死者自身の人格的利益を保護すべきであるとの考え方がある。個人情報保護法制において死者自身の人格的利益をもある程度考慮すべきとの考え方があることは、(死者の権利主体性を認めるかどうかはともかく、)いくつかの条例や裁判例において示されているところである。また、著作権法60条については死者である著作者の人格的利益を保護するためのものであるとの理解が通説であり、死後の人格的利益を保護することが生前の人格的利益の保護に結びつくとの見解は個人情報の保護にも当てはまる。すなわち、生前には保護されていた個人情報が、自らの死後は何らの保護も受けられないとすれば、生前に遡って個人情報の取扱いに対する不安が生じてしまう。このような不安を取り除くことが個人情報保護法の制度趣旨であるとすれば、死後においても、一定の限度で、当該死者自身のために個人情報を保護すべきである。

第2に、死者の相続人の財産的利益を保護すべきであるとの考え方がある。裁判で争われた事案の中には、相続人が相続した権利を十分に行使するために必要な情報の開示を求めたものも多い。また、特にデジタル化の進展した現代においては、相続人が相続財産を探知するためにも何らかの情報が必要な場合が考えられる。そうすると、死者の相続人が、死者の情報の開示を求めることの必要性が認められる。ただし、この場合は、平成31年最判の示した基準に従って、開示請求の対象とされた情報が相続人自身の個人情報に当たるかを問題とすれば足りる。

第3に、死者の遺族の人格的利益を保護すべきであるとの考え方がある。例えば、未成年者が自殺した場合に、当該未成年者の親(親権者)が、自殺の原因を究明するために個人情報の開示を求める場合などがこれに当たる。裁判例において、遺族の個人情報と「同視し得る」などとされていたものである。たしかに、このような利益が存すること自体は認めざるを得ないが、個人情報保護法制として保護すべき利益であるかという点についてはなお疑問の余地もある。また、死者自身と遺族の利益が相対立することもある。例えば、死者が自らの個人情報について遺族への開示を望まない場合、死者の意に反しても遺族への開示を認めるとすると、上記のような死者の不安を取り除くことができなくなってしまう。したがって、遺族の利益を保護するとしても、それは死者の利益を保護することによる副次的な効果として位置づけるべきである68

以上より、死後の個人情報の保護についての立法提案において、その根拠として検討すべきは、第1の、死者自身の人格的利益の保護である。

4.1.2.法律構成

死者自身の人格的利益を保護するために、その死後も個人情報を保護するとしても、そのための法律構成には複数の可能性がある。ここでは、大きく4つの法律構成について検討する。

第1に、禁止規範のみを設けるとの考え方がある。すなわち、個人情報取扱事業者や行政機関等に対して、死者の情報についても適正に取り扱うべき義務を課した上で、個人情報保護委員会による監督の下に置き、あるいは、その違反に対し刑事罰を科す一方、遺族等に開示請求等の積極的な権限を与えないというものである。この法律構成によれば、遺族等による権限濫用のおそれが生じないものの、個人情報保護委員会による監督を待たなければならず、死者の不安を十分に取り除くことができない可能性がある。

第2に、死者の権利主体性を正面から肯定する考え方がある。この考え方は、死者の利益を保護するという目的からすると素直であるが、一般に死者の権利主体性は認められておらず、体系的な観点からすれば、この場面でのみ死者の権利主体性を認めることは困難である。また、死者の権利主体性を認めたとしても、現にその者が存在しない以上、その者に代わり権利を行使する者を定めなければならず、結局、第3あるいは第4の考え方とさほど変わらないものとなる。

第3に、死者の相続人が、死者の情報69や死者が生前に有していた開示請求権等を相続するという構成もあり得る。すなわち、情報や開示請求権等の一身専属性を否定するというものである(民法896条ただし書)。近時、人格的価値を有する権利の相続を認めつつ、相続人に被相続人のために権利を行使する義務を課す見解が主張されている70。この見解によれば、情報や開示請求権等の相続によって、死者の人格的利益を保護することも可能となろう。しかし、この構成には、共同相続の場合の権利行使方法に問題が生じる、相続人全員が相続放棄をした場合に権利行使ができなくなる、相続人が死者の利益を代弁できるとは必ずしもいえない、被相続人の死後にその者の個人情報を取り扱うことになった個人情報取扱事業者等に対する権利行使が困難であるとの難点がある71

第4に、著作権法116条に倣い、開示請求権等について、遺族を請求権者としつつ、遺言によって請求権者を指定できるとすることが考えられる。この構成によれば、立法によって請求権者の範囲やその順位を明確にしておくことが可能であり、死者の利益を代弁できる者を請求権者とすることができる。また、遺族が死者の意に反した権利行使をしかねない場合、請求権者を指定することで死者の意思を優先することができる。死者に遺族が存在せず、かつ、遺言による指定がない場合、権利行使が不可能となるが、これは、第2や第3の構成をとったとしても同じであり、また、個人情報保護委員会による監督の余地は残っている。

以上によれば、立法によって新たな制度を設計する場合には、第4の法律構成に基づいて具体的な規律を設けるべきである。

4.2.具体的規律のあり方

最後に、具体的な規律のあり方の提案を行う。4.1.で示したとおり、著作権法116条と同様の規律を設けることが望ましいと思われる。ただし、著作者人格権と個人情報の間には差異があるので、それを考慮して相応しい規律が何かを検討していこう。

4.2.1.請求権者

まず、請求権者は、遺言による指定を受けた者、あるいは、遺言による指定がない場合、遺族であるとすべきである。遺族の範囲及び順序についても著作権法116条1項及び2項と同じでよいだろう。

遺族や遺言による指定を受けた者は、死者のために、自らの権利を行使しなければならない。明示的な意思が示されていない場合でも、死者の内心の意思を推測することが求められる。問題となり得るのは、例えば、死者が自殺した原因を究明するための権利行使が許されるかである。この場合、権利行使が必ずしも死者自身の人格的利益を保護するために行われるのではなく、遺族固有の人格的利益を満たすために行われることが多い。しかし、遺族の人格的利益の保護をも、特に死者が未成年者であった場合などにおいては、副次的な制度趣旨とすることが許されるとすれば、死者の明示的な意思に反しない限り、このような権利行使も可能としておくことも考えられるだろう。

4.2.2.権利の内容

次に、権利の内容については、生前と同様、開示請求、訂正等請求、及び、利用停止等請求が認められてよい。これらの権利が行使されることによって、死者の個人情報の適正な取扱いが実現され、それによって、死者の人格的利益を保護することができるからである。

ここで問題となるのは、死者が生前に遺族等による権利の内容や権利行使の方法について何らかの定めをしておくことを可能とすべきかである。例えば、特定の情報について開示請求を禁止する、あるいは、特定の情報について利用停止請求権の行使を委託するなどの定めがある場合、これが遺族等に対して何らかの効力を有するだろうか。これらの制度が死者自身の人格的利益を保護するためのものであることからすると、(遺族等の過度な負担にならない限り)死者の意思を尊重すべきである。したがって、死者が生前にした定めは、遺族等の権利行使に対して法的な制限を加えるものとすべきである。

4.2.3.期間制限

最後に、遺族等の権利行使について何らかの期間制限を設けるべきか。これについて、著作権法116条のように、明示的な定めを置かず、遺族が存在しなくなる、あるいは、遺言による指定をした場合、死後70年を経過することにより、以後請求ができなくなるとの規律を置くことも考えられる。しかし、著作者人格権がある程度長期の保護を要するのに対し、全ての個人情報に対して同等の期間の保護を与えるのは過剰であるとも思われる。また、著作権法116条3項の「70年」という期間は、著作権の保護期間(同法51条2項)と合わせる形で規定されており、個人情報保護で同じ期間を採用する根拠は存在しない。そうすると、死後の個人情報の保護に関する立法を行う際に、個人情報保護に相応しい保護期間について一から議論すべきであると考えられる。その際の考慮事情としては、死者の人格的利益の保護の必要性と、死者の情報を利用することで社会が得られる利益や開示請求等の対象となることによって生じる個人情報取扱事業者等の負担のバランスをとる必要があり、一般的には、時の経過とともに、前者の重要性が減り、後者の重要性が増すこととなるだろう。

※本稿は、2023年11月6日に開催された情報通信法学研究会通信法分科会(令和5年度第1回会合)での報告をまとめたものである。司会及びコメンテーターをお引き受けいただいた林秀弥教授及び西内康人教授、また、非常に有益なコメントをくださった研究会構成員の先生方には厚く感謝申し上げたい。

※本研究はJSPS科研費23K01193の助成を受けたものです。

脚注

1 大阪大学大学院法学研究科准教授

2 この理由は、「本法が個人情報の本人を対象として、本人の権利利益の侵害を未然に防止することを目的としており、遺族等の第三者の権利利益を保護することまで意図するものではないことや、開示、訂正等は本人のみが行うことが可能であることによる」と説明される(園部逸夫=藤原靜雄編『個人情報保護法の解説(第3次改訂版)』(ぎょうせい、2022年)66頁。

3 フランスでは、近時、死者の個人情報に関する規定が設けられた。フランスの状況については、曽我部真裕「フランスの個人情報保護法制」比較法研究81号195-196頁(2019年)及び村上裕章「フランスの個人情報保護制度――2018年改正法を中心として」成城91号12-14頁(2024年)を参照。

4 令和3年改正については、個人情報保護委員会「令和3年改正個人情報保護法について(官民を通じた個人情報保護制度の見直し)」(https://www.ppc.go.jp/personalinfo/minaoshi/)(2024年9月6日最終閲覧)及び冨安泰一郎=中田響編著『一問一答 令和3年改正個人情報保護法』(商事法務、2021年)を参照。

5 先行研究として、宇賀克也『新・個人情報保護法の逐条解説』(有斐閣、2021年)53-60頁、髙野祥一「改正個人情報保護法の施行に向けた死者の個人情報に係る取扱いの整理」行政法研究45号63頁(2022年)。

6 個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」(2016年制定、2023年一部改正)6頁。

7 曽我部真裕=林秀弥=栗田昌裕『情報法概説(第2版)』(弘文堂、2019年)222頁〔曽我部〕。

8 判例評釈として、谷健太郎・金法2113号4頁(2019年)、白石大・NBL1155号19頁(2019年)、加来典子・銀法38頁(2019年)、佐々木健・月報司法書士574号45頁(2019年)、石井夏生利・民商155巻6号1202頁(2020年)、三苫裕監修/平野裕佳・ビジネス法務20巻4号51頁(2020年)、井口浩信・ひろば73巻5号60頁(2020年)、仮谷篤子・リマークス61号6頁(2020年)、山下義昭・判時2448号168頁(2020年)、八田剛・金判1636号14頁(2022年)、小林直樹・姫路法学65号167頁(2022年)がある。

9 個人情報保護法25条1項は個人情報取扱事業者の開示義務を定めていたが、平成27年法律第65号による改正後は、本人に開示請求権があることが明示されることとなった(28条1項(令和3年改正後33条1項))。

10 石井・前掲注(8)1208頁、井口・前掲注(8)65頁。

11 平成31年最判と同じ枠組みを用いることの妥当性について、板倉陽一郎「判批」判時2467号149-150頁(2021年)。また、平成31年最判の枠組みを客観的要件と主観的要件とに分析し、本裁判例にも同じ枠組みによる分析が可能であることを示すものとして、神橋一彦「判批」行政法研究33号98-100頁(2020年)。

12 個人情報保護法令和3年改正に伴い、鳥取県個人情報保護条例は全面的に改正された(令和4年鳥取県条例第29号)。なお、本件条例2条1号柱書は、個人情報保護法と異なり、開示請求の対象となる個人情報を「生存する個人に関する情報」に限定せず、死者の情報をもそれに含めている。しかし、死者の子が子自身の個人情報として開示を請求していることから、本判決を「生存する個人に関する情報」の解釈を示した裁判例として取り上げる。

13 石森久広「判批」情報公開・個人情報保護82号29頁(2021年)は、本判決を妥当なものと評価する。

14 佐々木・前掲注(8)48頁。これに対し、基準の客観性・統一性の観点から第一審の判断を妥当とする見解として、井口・前掲注(8)65-66頁。

15 白石・前掲注(8)24頁は、最判平成21年1月22日民集63巻1号228頁が認めた取引経過を開示すべき金融機関の預金契約上の義務の観点から平成31年最判を分析し、その結論を肯定する。この観点からは、本稿の検討課題全体について、契約法的な分析を試みる余地がある。しかし、(準)委任契約上の報告義務(民法645条)と個人情報保護法上の開示請求権とはその趣旨を異にすること、報告義務の場合に相続人による請求の限界を明確に示すことが困難であること(白石・同24頁は権利濫用によって時的限界を設けることを試みる。)からすれば、個人情報保護法の議論としても検討を加えることが必須であるといえる。

16 これに対し、平成31年最判の射程を広く解するものとして、山下・前掲注(8)172頁、小林・前掲注(8)181頁、板倉・前掲注(8)151頁。

17 判例評釈として、安達和志・法教207号102頁(1997年)、常本照樹・判時1643号203頁(1998年)がある。

18 個人情報保護法令和3年改正に伴い、廃止された(町田市個人情報保護法施行条例(令和4年町田市条例第42号)附則2条1号)。

19 本判決について、安達・前掲注(17)103頁は、「教育権者であった親の自己の親権に係るものとして親本人にとっての個人情報性があるとみるべきであろう」と述べる。常本・前掲注(17)205-206頁も、本判決が開示請求権者を親権者以上に拡大するように読める点には否定的な評価を下す。

20 判例評釈として、下村哲夫・ひろば53巻2号68頁(2000年)、太田幸夫・判タ1065号338頁(2001年)がある。

21 個人情報保護法令和3年改正に伴い、廃止された(個人情報の保護に関する法律施行条例(令和4年東京都条例第130号)附則2条1号)。

22 当時の通達は未見だが、「個人情報の保護に関する法律施行条例についての事務対応ガイド」3頁において、旧条例施行通達が本判決と同様の解釈を示していたとされる。なお、同文書4頁では、個人情報保護法施行条例の運用にあたって、個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(行政機関等編)」を参照した上で、「当該死者に関する情報が、同時に請求者自身の「保有個人情報」でもあり、当該請求者個人を識別することができるものであるならば、」「引き続き、自己を本人とする保有個人情報に該当することとなるものとして取り扱う」(強調は原文ママ)としている。

23 判例評釈として、中込一洋・判例自治456号18頁(2020年)、佐々木泉顕=山田敬之=岸本明大・判例自治459号4頁(2020年)がある。

24 個人情報保護法令和3年改正に伴い、廃止された(個人情報の保護に関する法律施行条例(令和4年山口県条例第40号)附則2条)。

25 中込・前掲注(23)20頁は、請求主体について、事案に応じた適切な判断を要するとする。

26 下村・前掲注(20)74頁。

27 佐々木=山田=岸本・前掲注(23)8頁。

28 個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(行政機関等編)」(2022年制定、2023年一部改正)13頁。

29 個人情報保護委員会事務局「個人情報の保護に関する法律についてのQ&A(行政機関等編)」(2022年制定、2024年一部改正)5頁。

30 令和5年4月1日に廃止された(三重県個人情報の保護に関する法律施行条例(令和4年三重県条例第47号)附則2条)。新条例では、「生存する個人に関する情報」のみが個人情報に該当するものとされる(2条1項柱書)。ただし、ガイドラインにおいて、死者に関する情報も個人情報に準じた取扱いがなされるものとされる(「個人情報の保護に関する法律についての事務対応ガイド(行政機関等向け)「三重県版」」Ⅰ-13頁)。

31 「三重県個人情報保護条例の解釈及び運用」3頁。

32 死者に関する保有個人情報が遺族等と密接な関係があって遺族等自身に関する個人情報と考えられる場合であっても、14条3項に基づく開示請求を行うものとする(「三重県個人情報保護条例の解釈及び運用」47頁)。

33 「相続財産・負債、不法行為による損害賠償請求権その他の被相続人である死者からの相続を原因として取得した権利義務」であるとされる(「三重県個人情報保護条例の解釈及び運用」47頁)。

34 「生前に死者が遺族等にも知られたくないとの明確な意思を示していた情報をはじめ、開示しないことが客観的にみて合理的であると認められる情報をいう」ものとされる(「三重県個人情報保護条例の解釈及び運用」62頁)。

35 令和5年4月1日に廃止された(新潟市個人情報の保護に関する法律施行条例(令和5年新潟市条例第4号)附則2条)。新条例では、個人情報保護法の定義が採用される(2条)。ただし、新たに、新潟市死者情報の開示に関する条例が施行されている(2.2.2.参照)。

36 死者の人格権について一般的に論じるものとして、斉藤博『人格権法の研究』(一粒社、1979年)210頁以下、米村滋人「人格権の権利構造と「一身専属性」(1)~(5・完)」法協133巻9号1311頁(2016年)、12号1956頁(2016年)、134巻1号80頁(2017年)、2号277頁(2017年)、3号407頁(2017年)。

37 五十嵐清『人格権論』(一粒社、1989年)170頁[初出1977年]。個人の一般的人格権を認める見解として、斉藤・前掲注(36)210-211頁。

38 五十嵐・前掲注(37)169頁。

39 斉藤・前掲注(36)211頁。

40 五十嵐・前掲注(37)171頁、斉藤博『人格価値の保護と民法』(一粒社、1986年)101頁。

41 五十嵐・前掲注(37)167-168頁。本文のような観点から、五十嵐は、後述する「落日燃ゆ」事件における死者の甥が請求権者にあたるといえるかを問題としつつ、甥が死者を実の父のごとく敬愛してやまないと主張していることをもって、「遺族に準ずる者」として請求権者としてよいとする(五十嵐・同170-171頁)。

42 斉藤・前掲注(40)221-223頁。

43 五十嵐・前掲注(37)171頁。斉藤・前掲注(40)223-224頁も、ドイツ法を参考に、人格価値を担う主体の死後30年が妥当であるとする。

44 当時の著作権法116条3項では、「当該著作者の死亡の日の属する年の翌年から起算して五十年を経過した後(その経過する時に遺族が存する場合にあつては、その存しなくなつた後)においては、その請求をすることができない」とされていた。

45 五十嵐・前掲注(37)172頁。

46 斉藤・前掲注(40)101頁も慰謝料請求を否定する。

47 謝罪広告について、五十嵐・前掲注(37)108-114頁。

48 間接保護説を主張する学説として、前田達明『民法Ⅵ2(不法行為法)』(青林書院、1980年)100-101頁など。四宮和夫『不法行為(事務管理・不当利得・不法行為 中巻・下巻)』(青林書院、1983年)325-326頁は、死者の名誉毀損を不法行為とするための理論構成として、①死者の名誉それ自体の侵害、②死者の名誉の毀損を介した遺族の名誉の毀損、③死者に対する「遺族の敬愛追慕の情」の侵害という3つを挙げ、②及び③は認められる場合があるとしつつ、①については「それを承認する必要がある……としても、その保護の仕方については、立法的解決が必要であろう」とする。

49 加戸守行『著作権法逐条講義(7訂新版)』(著作権情報センター、2021年)486頁、中山信弘『著作権法(第4版)』(有斐閣、2023年)597頁。

50 中山・前掲注(49)597頁。

51 著作権法60条及び101条の3(後掲注(52)を参照。)違反に対しては刑事罰も科される(同法120条)。これらは非親告罪である(同法123条参照)。

52 実演家人格権も、一身専属的なものであるとされつつ(著作権法101条の2)、実演家の死後も一定の限度で保護されること(同法101条の3・116条)。

53 近時の研究として、渕麻依子「著作者人格権と遺族――残された者は誰のために著作者人格権を行使するのか?」法時94巻5号89頁(2023年)。

54 加戸・前掲注(49)488頁。

55 斉藤博『著作権法(第3版)』(有斐閣、2007年)160頁。

56 幾代通「死者の名誉を毀損する言説と不法行為責任」名法88号219-220頁(1981年)。

57 中山・前掲注(49)673頁。

58 田村善之『著作権法概説(第2版)』(有斐閣、2001年)459頁。なお、幾代・前掲注(56)220頁は、著作者が遺族以外の者を請求権者として指定できる点について、「著作権法の定める著作物というもののもつ公共性(著作物を〔原文ママ〕関して社会全体がもつ情報利益と言い換えることもできようか)のゆえに法が特別の社会的是正措置を設けたものである」と説明する。

59 田村・前掲注(58)458頁。

60 半田正夫『著作権法概説(第15版)』(法学書院、2013年)134頁。

61 半田・前掲注(60)134-136頁。

62 斉藤・前掲注(55)160-161頁。

63 中山・前掲注(49)673頁。

64 昭和45年改正前著作権法(明治32年法律第39号)では、「著作者ノ親族」が請求権者とされていた(32条ノ2第2項。昭和6年改正(昭和6年法律第64号)により追加された条文)。ここでいう「親族」は、民法上の「親族」、すなわち、6親等内の血族、配偶者、及び、3親等内の姻族を指し(民法725条)、現行法に比し、広い範囲の者が請求権者とされていた。また、遺言による請求権者の指定に関する規律も存在しなかった。

65 渕・前掲注(53)94頁は、遺族による著作者人格権の行使を、死者のためと同時に社会全体の利益のためのものであると位置づけ、その権利行使を通じて行使者自身の利益を実現するようなことは避けるべきであるとする。

66 これに対し、刑事罰については、理論上永久に科すことが可能であるが、何らかの終期を設けるべきとの立法論が主張されている(中山・前掲注(49)674頁)。

67 中山・前掲注(49)675頁。遺族の名誉感情を侵害したとして損害賠償を認めたものとして、東京地判昭和61年4月28日判時1189号108頁がある。

68 現行法上も、死者の遺族等が行政機関の長等に対して保有個人情報の開示請求をする場合、死者が「開示請求者以外の個人」に該当して当該保有個人情報が不開示情報とならないかという問題において、遺族の利益と死者(あるいは他の遺族)の利益の対立が現れ得る。令和3年改正前の行政機関個人情報保護法についてこの問題を指摘するものとして、神橋・前掲注(11)91-95頁。

69 平成31年最判の控訴審判決にはこのようなアイディアが読み取れる。

70 米村・前掲注(36)法協134巻3号462-464頁。

71 個人情報の本人としての地位の承継を否定する見解として、板倉・前掲注(11)152-153頁。

参考文献
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  • 佐々木健「判批」月報司法書士574号45頁(2019年)
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  • 下村哲夫「判批」ひろば53巻2号68頁(2000年)
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  • 園部逸夫=藤原靜雄編『個人情報保護法の解説(第3次改訂版)』(ぎょうせい、2022年)
  • 髙野祥一「改正個人情報保護法の施行に向けた死者の個人情報にかかる取扱いの整理」行政法研究45号63頁(2022年)
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  • 中山信弘『著作権法(第4版)』(有斐閣、2023年)
  • 八田剛「判批」金判1636号14頁(2022年)
  • 半田正夫『著作権法概説(第15版)』(法学書院、2013年)
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  • 前田達明『民法Ⅵ2(不法行為法)』(青林書院、1980年)
  • 村上裕章「フランスの個人情報保護制度――2018年改正法を中心として」成城91号1頁(2024年)
  • 山下義昭「判批」判時2448号168頁(2020年)
  • 米村滋人「人格権の権利構造と「一身専属性」(1)~(5・完)」法協133巻9号1311頁(2016年)、12号1956頁(2016年)、134巻1号80頁(2017年)、2号277頁(2017年)、3号407頁(2017年)
 
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