Journal of Information and Communications Policy
Online ISSN : 2432-9177
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ISSN-L : 2432-9177
Transitions in the Broadcasting Media Regulations in the Digital Age in Germany
Focusing on Perspectives for the Internet Distribution of Broadcasting Content and the Broadcasting Prominence
Masashi Nakagawa
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2024 Volume 8 Issue 1 Pages 81-102

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要旨

総務省「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会」及びその傘下の各ワーキンググループ等で、放送を取り巻く環境の変化を踏まえて、目指すべき2030年頃の「放送の将来像」等について議論・取組が進められている。本稿の目的は、この中で放送(特に公共放送)コンテンツのインターネット配信と放送プロミネンスのトピックに焦点を当て、この点をめぐるドイツの動向を紹介し、今後の日本での検討の参考となることを期待するものである。

本稿では、まず前段として、日本より先行して開始されたドイツの放送メディア(特に公共放送)によるインターネット配信に関連する制度・取組の変遷(放送受信料から放送負担金制度への移行、公共放送のインターネット配信の必須業務化・提供に際しての内部監督機関による評価の仕組みの構築・インターネット配信独自の番組提供開始等)を確認し、加えてインターネット配信独自の番組提供開始時の三段階テストの事例を紹介する。

また、本稿の後段として、ドイツにおいても、デジタル情報空間上で視聴者が自分の関心だけを反映したメディア環境に閉じこもることの危険性などが指摘されている中で、民主主義が機能するための事実に基づいた信頼できる多様な情報への自由なアクセスに対する放送メディア(基本的供給を担う公共放送をはじめ)の役割が強調されているところ、メディア州間協定において、世論形成に特に関連する特定のコンテンツをユーザーインターフェース上で見つけやすくする仕組み(いわゆる放送プロミネンスの仕組み)が規定されており、その仕組みについて確認し、現状の実装状況を紹介する。

Abstract

The Ministry of Internal Affairs and Communications (MIC) holds the “Study Group on the Ideal Broadcasting System in the Digital Age" and its working groups to discuss and work on the future vision of broadcasting around the year 2030 based on the changes in the broadcasting environment. The purpose of this paper is to focus on the topics of the Internet distribution of broadcasting (especially public broadcasting) content and the broadcasting prominence, to introduce German trends in this area, and to serve as a reference for future considerations in Japan.

First of all, this paper reviews the transition of the systems and efforts related to the Internet distribution by German broadcasting media (especially public broadcasting) that started ahead of Japan, such as the transition from the broadcasting receiving fee system to the broadcasting contribution fee system and the start of providing original programs for the Internet distribution etc., and also introduces an example of the three-step test when an original program for the Internet distribution by German broadcasting media started to be provided.

Also in Germany, the role of the broadcasting media (including public broadcasting, which is responsible for the basic supply) in providing free access to reliable and diverse factual information for functioning democracy has been emphasized in the context of the danger of viewers being confined to a media environment that reflects only their own interests in the digital information space. Then, the Interstate Media Treaty provides for a mechanism to make it easier to find specific content on the user interface that is particularly relevant for the formation of public opinion (the so-called broadcasting prominence mechanism). The second part of the paper introduces this mechanism and reviews its current state of implementation.

1.はじめに

1.1.背景-放送コンテンツのインターネット配信

我が国の放送は、NHKと民間放送事業者(以下、「民放」という。)の二元体制の下、これまで国民の「知る自由2」を保障し、「社会の基本情報」の共有や多様な価値観に対する相互理解の促進といった社会基盤としての役割を果たしながら、健全な民主主義の発達に貢献してきた3。近年では、我が国の放送メディアは、デジタル情報空間4の広がり5、視聴者の視聴環境の変化6や事業者間の競争環境の変化等に対応するため、通信と放送の垣根を越えて放送コンテンツのインターネット配信の取組を拡大してきている7。民放は、自らの経営判断の下、無料・有料による見逃し配信、VOD配信、同時配信の提供等の取組を進めている。また、NHKは、任意業務として、「NHKオンデマンド」(2008年12月~)によるVoDサービスの提供や、「NHKプラス」(2020年4月~)による同時配信及び見逃し配信サービス(番組終了から7日間)を提供している。2024年5月17日には、「放送法の一部を改正する法律」(令和6年法律第36号)が成立し、原則として全てのNHKの放送番組について、同時配信や見逃し配信等をNHKの必須業務とすることとなった8

ドイツにおいては、日本よりも早い段階で放送メディアによるインターネット配信の取組が進んでおり、環境の変化(技術の進展、視聴者ニーズや利用実態の変化等)に対応するために、今日に至るまで累次にわたって放送制度の改正が行われ、その過程で様々な論点について議論・検討がなされてきた。例えば、受信料制度の改正、公共放送のテレメディア9(いわゆる同時配信以外のインターネット配信等)提供に係る制度の改正が挙げられる。先行者としてのドイツの議論・取組の変遷を概観することは、今後の我が国の検討の参考となることが期待されることから、本稿の前段としてドイツにおける放送(主に公共放送)コンテンツのインターネット配信に係る制度・取組の変遷を振り返り、加えてインターネット配信独自のコンテンツ提供等が一般的に可能となった制度改正後の三段階テストの事例を紹介することとする。

1.2.背景-放送プロミネンス

放送メディアが、従来の伝統的な放送に加えてインターネット上での取組を拡大している一方、近年、インターネットを中心とするデジタル情報空間では、膨大な情報が氾濫する中で、人々の関心や注目の獲得ばかりが経済的な価値を持つアテンションエコノミー10が形成され、フィルターバブル11やエコーチェンバー12、フェイクニュースといった問題も指摘され始めている。社会の基本情報へのアクセスがなく、適切な情報に接することができないことや、情報の偏りによる社会の分断や極化を加速させるおそれがあるとの指摘もある。この問題の特効薬がすぐに見つかるものでもなく、そもそも解決可能な問題なのかもわかっていないとの意見もある13。こうした中、放送法等による一定の規律の下、取材や編集に裏打ちされた信頼性の高い情報発信、1.1で述べた社会の情報基盤としての放送の価値は、デジタル情報空間全体における情報的健康(インフォメーション・ヘルス)14の確保15の観点で、その役割に対する期待が増している16。NHKと民放の取組により、インターネット上での放送コンテンツの流通が拡大している一方で、膨大な情報が氾濫するインターネット上では放送コンテンツが埋もれてしまう可能性もある。人間が1日に情報取得のために使える情報可処分時間は限られている中で17、放送がインターネットを中心とするデジタル情報空間でも期待される役割を果たし続ける18ためには、視聴者が信頼性の高い放送コンテンツを容易に視聴できる環境の検討が期待される。そこで現在、総務省「放送コンテンツの制作・流通の促進に関するワーキンググループ」において、デジタル情報空間19で放送が果たすべき役割やその期待に応えるべく、コネクテッドTV20上において、視聴者がインターネット経由で放送コンテンツを容易に視聴できる環境(放送コンテンツのプロミネンス21(当該ワーキンググループにおいて「表示・操作性などにより、放送コンテンツが視聴者に視聴されやすいようにする取組」と定義)の在り方)の議論・検討が、諸外国の状況も勘案しながら進められているところである。

ドイツにおいては、昨今のメディア環境における意見の多様性を確保するためにメディア州間協定が2020年に策定され、従来の放送に加え、ゲートキーパーのサービス(検索エンジン、スマートテレビ22、AI音声アシスタント、アプリストア、SNS等のメディアコンテンツを媒介したり、配信したりするサービス)に規制を設けた。その中で、メディア州間協定§84において、多様性を強化し、見つけやすさの重要性が高まっていることを考慮する観点から、世論形成に特に関連する特定のコンテンツをユーザーインターフェース上で見つけやすくする仕組み(いわゆる放送プロミネンスの仕組み)が規定されている。メディアが社会に提供する価値や貢献に焦点を当て、利用者に社会的付加価値を提供し、世論形成にとって特に重要な放送・テレメディアの提供物を公共的価値提供物として、より見つけやすくするための規定を設けていることは注目に値する。これらのドイツの制度を概観することは、今後の我が国の検討の参考となることが期待されることから、本稿の後段として、ドイツにおける当該放送プロミネンスの仕組みについて確認し、現状の公共的価値のユーザーインターフェースへの実装の状況について紹介する。

2.インターネット配信に係る放送メディア制度の変遷

本章では、主に公共放送の放送コンテンツのインターネット配信に関連する制度の変遷に焦点を当て、その時々の改正内容を先行研究の業績を活用して時系列に整理・再構成した上で(大きな改正は当時の経緯や議論も記述)23、インターネット配信独自のコンテンツ提供等が一般的に可能となった放送制度改正後の三段階テストの事例を紹介する。

概観する観点で、ドイツと日本の公共放送によるインターネットサービスの位置づけの変遷を視覚的に示すと図1のようになる。

図1.ドイツと日本の公共放送によるインターネットサービスの位置づけの変遷

(出典)総務省公共放送ワーキンググループ(第4回)「諸外国の公共 放送に関する制度について」(2022年12月22日)を元に筆者作成

2.1.公共放送によるオンラインコンテンツサービスの開始(法律の規定なし)(1996年)

公共放送のARDとZDFは、1996年に初めてそれぞれのウェブサイトを開設し、オンラインコンテンツサービスを開始した24。しかし、これらサービスは法律上の明確な規定なしに提供された。その後、これらサービスがドイツ基本法第5条第1項25にいう「放送」の概念に含まれるのか、同サービス提供のための法律の根拠の必要性などが議論された26

2.2.公共放送によるオンラインコンテンツサービスが法律に明記(第4次改正放送州間協定)(2000年)27

公共放送によるオンラインサービスに対する規律は、2000年4月1日発効の第4次改正放送州間協定によって初めて法律に明記された。具体的には、主に放送番組に関連する内容を伴うものを提供できるとされた。これに伴い、公共放送は、インターネット上でのWebコンテンツ等のオンラインコンテンツを拡大していったが、これは新たな批判を呼び、公共放送のオンラインコンテンツに対する法律上の制約が要請されるようになった。

2.3.公共放送が提供可能なオンラインコンテンツサービスを厳格化(第7次改正放送州間協定)(2004年)28

これを受けて、2004年4月1日発効の第7次改正放送州間協定では、公共放送が提供可能なオンラインコンテンツがより厳格化された。具体的には、放送番組に関連する内容を伴うものを、放送番組に付随して提供することができると規定された29

2.4.従来のラジオ受信機やテレビ受信機に加え、インターネットに接続するパソコンや携帯端末が受信料の対象機器扱いに(2007年)30

これまでの受信料の対象機器は、その所有世帯のラジオ受信機やテレビ受信機(2台目以降は免除31)であった32。これに対し、第4次改正放送州間協定によって、公共放送によるオンラインコンテンツサービスが法律に規定された際、インターネットに接続できるパソコンや携帯端末などの機器も受信料の対象機器扱いとすることが定められた。ただし、公共放送のオンラインコンテンツサービスの規模がまだ小さいことから、実際の徴収は累次にわたって延期され、2007 年1月から、インターネットに接続できるパソコンや携帯端末等の機器は新型受信機と定義された上でラジオ受信機と同じ基本料金が設定された33

2.5.ZDFとARDがインターネット同時・見逃し配信サービス開始(2007、2008年)

ZDFは2007年9月にZDFメディアテーク、ARDは2008年5月にARDメディアテークと呼ばれる番組配信ポータルサイトを開設し、多くの番組を無料で、オンデマンドないしライブで提供した。オンデマンドでは、番組種類別に提供期間が定められている34

2.6.テレメディアを公共放送の任務として位置づけ、公共放送のテレメディア任務の範囲の具体化、三段階テストの導入(第12次改正放送州間協定)(2009年)35

第12次改正放送州間協定では、テレメディア36をテレビ・ラジオと並んで公共放送の任務(いわゆる必須業務)として法律に規定37するとともに、その任務の範囲を具体化した。具体的には、公共放送のテレメディアは、ジャーナリスティックかつエディトリアルに指示・制作されるものとされ38、また、提供が禁止されるテレメディアが明文化された。さらに、特定のテレメディアについては、その提供のために事前に公共放送の内部監督機関による「三段階テスト39」を実施することが義務付けられた。三段階テストでは、まず公共放送が、テレメディアサービスの目的・対象・内容・提供期間・コスト等を詳細に記したコンセプトを内部監督機関(ARD:放送評議会、ZDF:テレビ評議会)に提出し、内部監督機関は、コンセプトに基づいて、そのサービスが、①民主的・社会的・文化的ニーズに合致しているか、②ジャーナリズム競争に質的な観点でどの程度貢献するか、③どの程度の財政支出が必要かの三段階で審査を行う。

2.7.原則として全世帯・全事業所に対する放送負担金制度の開始(第15次改正放送州間協定)(2013年)

2.7.1.第15次改正の背景となるキルヒホフ鑑定書の概要40

2000年代に入って放送サービスを利用できる受信機が多様化する中で、今後受信機の設置を根拠に受信料を徴収することが次第に難しくなり、将来的に公平負担の原則を危うくするという認識を公共放送も州政府も持つようになっていき、2006年10月に放送と通信の融合時代にふさわしい簡素で公平な受信料のあり方の検討が連邦州政府で始まった41

この検討の過程で、公共放送からの委託を受け、2010年4月に元連邦憲法裁判所裁判官でハイデルベルク大学のキルヒホフ(Prof. Dr. Paul Kirchhof)教授が公共放送の財源に関する鑑定書42を作成・公表した。この鑑定書に依拠して放送受信料制度に代わる新たな放送負担金制度の導入につながった43

キルヒホフ教授は次のとおり主張した。現行の受信料制度は、受信料支払い義務の出発点を受信機の設置としているが、特に若者の間では、携帯可能かつ放送の受信以外にも様々な機能を利用可能な携帯電話やパソコンをインターネットに接続し、テレビ番組等を受信している。そのため、受信機の設置はもはや世帯及び事業所における放送の利用を把握するための手がかりではなくなっており、制度と実態が乖離しているため、放送受信料制度の説得力がしだいに低下している。その結果、放送を受信しているのに、放送受信料を支払っていない世帯の数が増え、負担に不公平な状態が生まれており44、制度の合憲性を脅かしている45。したがって、受信機の所有や種類に関わらない、簡素でわかりやすく、公平さを担保する徴収根拠と公課形態を考えなければならないと主張した。

キルヒホフ教授は、公共放送は、憲法でアクセスが保障されるあまねく利用できる情報源であるから、その財源として、公課を徴収することは正当化され、ドイツの租税公課法上、考えられる公課の形態は、税金、受益者負担の対価(料金または負担金)、特別公課であると述べた。それぞれの公課の形態に対するキルヒホフ教授の説明は表1のとおりであり、キルヒホフ教授は、負担金という形態がもっとも適切であるという見解を示した。

表1.公課の形態とキルヒホフ教授の説明

公課の形態 キルヒホフ教授の説明
税金 使途の決定権は予算承認権を持つ国会に属していなければならないという原則があり、公共放送は国家から独立していなければならないとする憲法上の原則に反する。
料金

負担金
料金も負担金も、受益者負担の対価(受ける利益または発生した費用の相殺)を意味する。このうち、実際に受けた公的サービスに対して個人が払うのが料金で、利用しようと思えばできるサービスの利益提供に対して払うのが負担金である。公共放送の財源は、個人の利用の度合いに関わらず誰でもあまねく利用できる情報源にアクセスできるという利益に対して払うものであるから、負担金という形態が適している。これまでの受信料も負担金の性格を持つものであった。
特別
公課
租税でもなく、手数料や負担金でもない、他の全ての公課を包括するものである。これはあくまでも例外で一時的である公課形態で、安定・継続的にサービス供給するべき公共放送の財源形態としてはふさわしくない。

また、キルヒホフ教授は、放送負担金を原則として全世帯・全事業所から徴収することの正当性も次のとおり述べた。あまねくアクセスできる情報源のための財源は、原則的に公共放送の影響範囲内にいる全ての人に負担が課される。なぜなら、このような情報、意見形成、娯楽や文化的な刺激のための情報源に、望むときにアクセスできるという利益を全ての人が得ているからである46と述べ、全ての住民は、文化、民主主義、判断力、地域社会で生計を立てる条件のために機能する公共放送の恩恵に、たとえ個人的にサービスを利用しなくても、あるいは利用できなくても享受している47と説明し、放送負担金の一律徴収の正当性を述べた。さらに、老若男女の利用習慣の違い、従来の受信機と新型受信機の使い分けの差違も世帯で見るとある程度平均化でき48、また事業所についても、休憩時間中の番組視聴、社用車の装備、携帯電話やパソコンの多機能の利用等は、営利企業の典型的な業務手順や組織構成の一部である49として世帯・事業所単位の徴収の正当性を説明した。加えて、公課が受信機と結びつけられている限りは、これを確認し、その所有者の利用状況を調べ、最終的には住居内のチェックも行わなくてはならなくなり、これに対し、放送負担金の算定根拠を世帯や事業所での利用を想定したものにするならば、公課の徴収要件は、個人情報保護や不可侵の住居の保護領域にまで踏み込まずに済むと述べた50

2.7.2.第15次改正の概要と国民・経済社会の反応

キルヒホフ鑑定書も踏まえ、放送負担金制度を規定した第15次改正放送州間協定51が、2013年1月に発効した。同協定の立法理由書52によると、放送受信料制度に代わる放送負担金制度の導入は、負担の公平性、放送資金調達に対する私的領域(世帯)及び非私的領域(事業所)の負担、支払い義務の出発点としての受信機設置からの脱却、社会的公正、国家からの独立、低い管理コスト、社会全体の受容の改善を目的とした関係法令等の遵守等の要求を満たす必要があるとされた。また、公共放送は社会全体に利益をもたらすため、負担金の支払い義務は、実際の放送の利用とは無関係に生じ、支払い義務は理論的な利用の可能性と結びついており、受信に必要な設備が世帯になくてもよい。ドイツ全土で放送の受信が技術的に可能であると考えられるため、特定の世帯で放送が利用されていないとか、技術的に受信可能な受信機器がないという反論によって、負担金支払い義務を回避することはできないと説明された53。負担金の額は、従来のラジオ及びテレビ受信機所有世帯の受信料額と同じ54月額17.98ユーロとされた55

放送負担金制度は、もともと自宅にラジオもテレビも所有していない世帯には支払い義務が新たに課されたことになるが、全体としては、国民の間に大きな反発の動きは見られず概ね受け入れられた。一方、特に事業所に関しては、これまで支払ってきた放送受信料の額と比べて数倍になった事業所もあるといわれ、2012年に入り新制度への移行が目前に迫って以降、放送負担金制度に対する批判が、その合憲性を争う裁判として連邦や州の憲法裁判所に提起されるに至った56。例としては、事業所数の多い全国チェーンのドラッグストアや車両を多く保有するレンタカー会社などからの提訴が挙げられる5758

2.8.ARDとZDFによるインターネット配信独自の若者向け番組「funk」の提供開始59(第19次改正放送州間協定)(2016年)

放送負担金制度の導入に伴い、放送負担金が原則全世帯・全事業所から徴収されるようになったこともあり、テレビ・公共放送離れの傾向が著しい10〜20 代の若い世代の民主的、社会的、文化的なニーズを満たすサービスを提供し、ARDとZDFが提供する番組全体が、将来、世代を超えて現在よりも多く利用されるようにすることが求められた。放送したテレビ番組をただインターネットで配信するだけでは若い世代に届かないことが明らかだったため、このサービスに限って、①放送とは関係ないインターネット配信独自の若者向け番組の制作、②YouTube、Facebook、Instagram、Snapchatなどの外部プラットフォームの活用、③番組の提供期限を特段に設けないことなどが認められた。こうして2016 年10月、第19次改正放送州間協定が発効し、ARDとZDFは共同で、14〜20代の若者向けにインターネット配信独自の番組配信サービス「funk」の提供を開始した60

2.9.テレメディア任務の規制緩和と強化(第22次改正放送州間協定)(2019年)

2.9.1.第22次改正の背景

メディア利用環境の変化に伴い、従来の放送州間協定による公共放送のテレメディア任務の在り方等に関して様々な議論がなされ、放送負担金を財源とする公共放送の任務の重要性は、ますます高まっているとされた61。例えば、ZDFが2016 年10月に公表した鑑定書62「クラウド時代の公共放送の法的資格と任務」では、フィルターバブルやエコーチェンバー現象が起きている中で、公共放送は、質が高く、多元的で、異なる関心を持つ視聴者の対話を促進し、社会の統合に寄与するような番組を提供する任務があるとした。そして公共放送がこの任務を果たせるように、「funk」で例外的に認められたように、オンライン配信期間の制限緩和、オンライン配信独自の番組制作、YouTube等の外部プラットフォームの積極的活用を認めるよう提言した。また、連邦憲法裁判所は、2018 年7月の判決63において、公共放送は商業放送に対するバランサーとして、経済的な動機づけとは異なる合理的な意思決定に基づき、独自の番組編成が可能となるようなコンテンツを提供する任務を有しており、自由な市場を介してのみでは保障され得ない内容の多様性に公共放送は寄与するものでなければならないとした64

2.9.2.第22次改正の概要

以上の議論も経て、2019年5月に発効した第22次改正放送州間協定65では、公共放送のテレメディア任務の規制を緩和し、その範囲を大幅に拡大するとともに、一方で、公共放送事業者に対しての規制を強化した。

テレメディア任務の規制の緩和については、これまでの放送州間協定で課せられていたテレメディアコンテンツの配信期間の制限(放送後7日間)が原則として撤廃され、また、放送番組のリニア放送前のオンライン配信、オンライン配信独自の番組制作、自らのポータルサイト以外でのテレメディア提供(無制約ではない)なども認められた。

公共放送事業者に対しての規制の強化については、これまでの放送州間協定では、(新しいまたは変更されたテレメディアコンテンツであっても)三段階テストを実施することなく提供可能なテレメディアを列挙していたが、第22次改正では、新しいまたは本質的な変更がなされたテレメディアコンテンツは全て三段階テストが課せられることとなった。その他、自らのポータルサイト以外でテレメディアを提供する場合にも商業広告およびスポンサリングの禁止が明記されるとともに、これまでの放送州間協定では、番組に関連しないプレスに類似のテレメディアコンテンツは提供禁止されていたのに対し、第22次改正では、原則として番組に関連するテレメディアコンテンツを含めた全てのテレメディアコンテンツに、プレスとの類似性の禁止が適用されることとなった66

2.9.3.第22次改正を踏まえて実施された三段階テストの事例(phoenix)

第22次改正を踏まえ、いくつか三段階テストが実施されているが、その一つとしてARDとZDFによる共同運営のテレビチャンネルであるphoenix(時事・ドキュメンタリー)の事例を紹介する。

phoenixのテレメディアサービスの拡大に向けた変更コンセプトが2021年にZDFのテレビ評議会に提出され、三段階テストが実施された67。拡大の内容は、①オンライン配信独自のテレメディアコンテンツの提供、②テレメディアコンテンツ配信期間の延長、③第三者プラットフォーム経由のテレメディアコンテンツ配信についてである。

第一段階の民主的・社会的・文化的ニーズに合致しているかについて68、第三者から提出された意見では、①は大半が肯定的に捉えられていた。一方、商業メディア協会(Verband Privater Medien(VAUNET))からは、オンライン配信独自のコンテンツが長期的に拡大することにより、商業放送に対する競争圧力が激化する可能性を指摘するなど、変更に対して明確に批判的であった。②への賛成意見では、この変更は時代に沿ったものであり、利用者に期待に応えるものであると歓迎され、特に政治・教育分野では、コンテンツの利用期間を無制限にするよう求める声もあった。VAUNETは、テレメディアのコンテンツ量の増加や、第三者のプラットフォームにおけるプレゼンスの長期化につながるとして、配信期間の延長を拒否していた。③に対しては、より多くのユーザーにリーチできるなどから、この変更は時代に合っていると多くが賛成した。VAUNETは、グローバルな第三者のプラットフォームにおける公共放送のコンテンツは、その魅力を高め、新たなユーザーを生み出し、広告市場における第三者プラットフォームのシェアが拡大すればするほど、この成長は広告市場の他の参加者を犠牲にすることになると指摘していた。

第二段階のジャーナリズム競争に質的な観点でどの程度貢献するかについて69、テレビ評議会は、①に関し、ソーシャル・ネットワークが、一般の人々がコメントするディスカッションの場として支配的な役割を担っているのであれば、phoenixも自社のサービスにおいて参加と関与を強調すべきであり、phoenixがオンラインで提供するものを通じて、より深く社会的な言説に持ち込むことができると評価している。②は質の高い公共サービスコンテンツをより長く利用できるようにし、その結果、アクセシビリティとリーチを向上させるという意味で、社会のコミュニケーションニーズに合致していると評価されている。③に関し、phoenixのコンテンツをできるだけ多くの年齢層が視聴できるようにし、そのリーチを拡大するためには、第三者プラットフォームによる配信が重要な役割を果たす。特定のターゲット層がさまざまなプラットフォームで公共サービスコンテンツにアクセスしやすくなることは、ジャーナリズムの競争に対する質的な貢献の指標とみなすことができる一方、公共放送の他の関連目的(未成年者の保護、データ保護等)に関して起こりうるマイナスの影響も考慮しなければならないとしている。

第三段階のどの程度の財政支出が必要かについては70、予想される財政支出に関して根本的な懸念はないが、変更後に厳格なコスト管理を推奨するとの評価がなされた。

関連市場への影響についても71、専門家への協力を得て検討され、今回の変更により商業競争の最大市場可能性にわずかな影響しか与えず、嗜好のシフトは非常に低いレベルでしか起こらないことが示された(平均市場変化率は-0.67%)。第三者のプラットフォーム、特にYouTubeでの既存コンテンツの配信拡大計画も市場ポテンシャルのわずかな増加しかもたらさず、また、phoenixのテレメディアサービスが他の競合サービスと補完的に利用され続けていることも示された。結果、専門家は、計画されている変更は経済競争に直接的な悪影響を与えないと判断した。

テレビ評議会による総合評価として72、今回の変更は、社会の民主的・社会的・文化的ニーズに合致するものであり、ジャーナリズムの競争と意見形成に質的に貢献し、関連する市場への影響を明らかに上回ると判断され、変更に係る費用が適切かつ妥当で理解しやすい形で提示されたことから、三段階テストの要件が満たされていると結論付けられた。テレビ評議会は、年次報告書に基づき、phoenixのテレメディアの実施、コスト等について引き続き監視・評価していくこととしている。

2.10.放送州間協定に代わるメディア州間協定が発効し、検索エンジン、SNS、スマートテレビなども規制対象に(メディア州間協定)(2020年)

2020年11月に、第23次改正まで続いた従来の放送州間協定に代わり、新たに放送・通信の融合法制であるメディア州間協定が発効した。本協定は、2018年に改正されたEU視聴覚メディア・サービス指令(AVMSD)を踏まえ、従来の放送に関する規制に加え、人々が意見形成する際に大きな影響力を持つようになったゲートキーパーのサービスに対する規制等を設け、デジタル時代のメディア環境における意見の多様性の確保を目的としたものである73。具体的には、これらの新たなサービスをメディアプラットフォーム、ユーザーインターフェース、メディア媒介サービスなどに類型化し、コンテンツの収集・選別・提示の基準等の透明性確保等、それぞれに個別の規制を課している74。なお、これまでの放送州間協定では、放送は「電磁波」を用いるものとされてきたが、メディア州間協定では、より技術的に中立な「電気通信」を用いるものへと変更している75

2.11.公共放送が提供するサービス委託の柔軟化等(第3次改正メディア州間協定)(2023年)

2023年7月1日に発効した第3次改正メディア州間協定では、メディア利用の変化に適合させる観点から、公共放送が提供するサービス委託の柔軟化と基本任務の改正などが行われた76。例えば、サービス委託の柔軟化に関しては、公共放送のテレビチャンネルのうち、いくつかの専門チャンネル77を法律による提供の義務付けの対象から外した。これらの専門チャンネルについては、法改正を行わずとも、公共放送自身の判断の下でインターネット配信への切り替えやサービスの終了が可能になった(三段階テストを経ることは必要)。その他、現状ARDとZDF がそれぞれ個別の番組配信サービスを提供しているところ、ジャーナリズム、技術、経済的な相乗効果を可能にすることから、ARDとZDFに共同プラットフォーム戦略を策定する旨を定めているなどしている78

3.放送プロミネンス(公共的価値)

3.1.背景

インターネット上での様々な動画サービスが普及し、時間と場所に縛られず自分の好きなコンテンツを視聴するという視聴環境の変化により、視聴者が自ら選択したもの以外の情報に触れる機会が減り、また動画プラットフォームのアルゴリズムにより視聴者が自分の関心だけを反映したメディア環境に閉じこもり似たような意見が強化されることの危険性が指摘されはじめた。連邦憲法裁判所の確立された判例79によれば、連邦州は放送・メディアの立法者として、ジャーナリズムの多様性を保護・促進する積極的秩序を形成する任務を負っており、このような秩序の必要性は、デジタル化の進展とそれに伴う機会によって決してなくなったわけではなく、むしろその逆であるとメディア州間協定の立法理由書は説明している80。また、州メディア監督機関81の執行役会議のクライスィヒ(Dr. Wolfgang Kreißig)議長等も次のとおり述べている。誰もが自国の政治的・社会的現実の形成に貢献できる民主主義が機能するには、情報に自由にアクセスでき、その情報が事実に基づいて正しいものであることが必要であり、その中心的役割を果たすのがメディアである。自由で多様な民主的意見形成のプロセスが危うくなり、その結果民主主義への信頼が損なわれるのであれば、行動を起こす必要があり、政治家や立法者は、答えを見つけ、必要に応じて、民主主義の価値を守るための適切な法的枠組みを作ることが求められている。信頼できる情報を簡単に見つけることができ、誰もがアクセスできること、それは民主主義の礎であると述べている82

オンライン上のコンテンツが増大し、例えばコスト高なジャーナリズムの提供ではリファイナンスに必要な注目を集めることがますます難しくなってきている中で、多様性を強化し、見つけやすさの重要性が高まっていることを考慮する観点から、世論形成に特に関連する特定のコンテンツをユーザーインターフェース上で見つけやすくする仕組み(いわゆる放送プロミネンスの仕組み)がメディア州間協定§84に規定された83。メディアが社会に提供する価値や貢献に焦点を当て、利用者に社会的付加価値を提供し、世論形成にとって特に重要な放送・テレメディアの提供物を公共的価値提供物(Public Value Angebote ; ドイツにおける意見や提供の多様性に特に貢献する放送番組やテレメディア)として、より見つけやすくするための規定を設けていることは注目に値する。

そこで本章では、本仕組みに係る規定であるメディア州間協定§84、同条第8項に基づく「メディアプラットフォームとユーザーインターフェースに関する法令」(Satzung zu Medienplattformen und Benutzeroberflächen84)及び「公共的価値法令(Public-Value-Satzung85)」の3つの主な規定を確認した上で、公共的価値法令策定時の業界団体のコメント及び公共的価値のユーザーインターフェースへの実装の状況について紹介する。

3.2.メディア州間協定§84(ユーザーインターフェースにおける見つけやすさ)

ユーザーインターフェースが放送、放送類似のテレメディア、§19 第1項に基づくテレメディア等を伝達するものである場合、主に3.2.1~3.2.3の規定が適用されるとされている86。ただし、その後の実装が技術的に不可能であるか(例えば、既に市場に出回っている機器、改造できない古い機器など)、又は不相応な努力によってのみ可能であることを提供者が証明した場合は適用されないとされている(第7項)。

3.2.1 並べ替え、配置、表示の差別禁止等(§84第2項)

類似の提供物(Angebote)やコンテンツ(Inhalte)は、客観的に正当な理由なく、見つけやすさ、特にユーザーインターフェースにおける並べ替え、配置、表示において異なる扱いを受けてはならず、並べ替えや配置の基準として認められるのは、リーチ順、アルファベット順、ジャンル別(例えば、ドキュメンタリー、娯楽、ニュース)などが考えられるとされている。検索機能は、ユーザーインターフェースの基本的な最低要件であり、すべての提供物は、検索機能によって差別なく見つけることができなければならないとされている。

3.2.2 ユーザーインターフェース上で見つけやすくしなければならない放送、テレメディアの提供物(§84第3項~第5項)

ユーザーインターフェース上で提供される放送は、「スタートページ」や「メニューナビゲーション」といった最初の選択レベルにおいて、その全体が直接アクセス可能であり、容易に見つけられるものでなければならない。放送の中で、放送負担金で賄われる番組、ウインドウプログラム87を含めなければならない放送番組、意見や提供の多様性に特に貢献する商業放送の番組は、容易に見つけられなければならないとされている(第3項)。ユーザーインターフェース上で提供されるテレメディアについては、ARD系列の公共放送のテレメディア、ZDFとDeutschlandradioのテレメディア、又はそれに相当する放送類似のテレメディア、若しくはドイツにおける意見と提供の多様性に特に貢献する商業放送のジャーナリスティックかつエディトリアルな提供物やこれらを直接制御する役割を果たすソフトウェアベースのアプリケーション等は、容易に見つけられなければならないとされている(第4項)。第3項と第4項で規定されるユーザーインターフェース上で容易に見つけられなければならないとする意見や提供の多様性に特に貢献する商業放送の放送番組やテレメディア等は、州メディア監督機関によって公募を経て決定されるとされ、決定には7つの基準(①政治的・歴史的事件に関する報道の割合、②地域や地方の情報に割かれる時間の割合、③自社制作と外部制作の番組内容の比率、④アクセスしやすい番組の割合、⑤番組制作に携わる社員と研修生の比率、⑥欧州作品の割合、⑦若年層向けの番組の割合)が含まれている(第5項)。決定後は、州メディア監督機関にオンライン上のリストで3年間公表される。

3.2.3 ユーザーによるカスタマイズ(§84第6項)

その他の規定として、提供物又はコンテンツの並べ替え又は配置は、ユーザーによって容易かつ恒久的にカスタマイズ可能でなければならないとされており、これはユーザーの自主性を保証するための最低限の規定であり、例えば、お気に入りリストにおける提供物やコンテンツの並べ替えや配置を変更する可能性が含まれる。その際 これらの要件を満たす上で、特別な技術的な知識を持たない一般的なユーザーであることも重要である。その他の点では、ユーザーインターフェースの一般的なレイアウトと構成は、プロバイダーの裁量に委ねられるとされている。

3.3.メディアプラットフォームとユーザーインターフェースに関する法令

メディア州間協定§84第8項に基づき、メディアプラットフォーム及びユーザーインターフェースに関する法的規定について、その実体上及び手続上の具体化のための詳細を定めたものが本法令(2021年6月発効)である。これは、意見の多様性(提供物と提供者の多様性)を積極的に保護する役割を果たす。特に本法令§10(ユーザーインターフェースにおける見つけやすさ)において、操作性に係る要求事項、§11(透明性)においてコンテンツの選別、配置、提示の透明性要件が規定されており、以下これらを概観する。

3.3.1 同様の提供物やコンテンツの発見は機会均等かつ非差別的に(§10第3項)、検索機能の提供(§10第4項)、見つけやすさの例(§10第5項)、放送全体の見つけやすさ(§10第6項)、ユーザーによる並べ替え可能(§10第7項)、適用除外(§10第8項)

第3項では、機会均等かつ非差別的に、同様の提供物やコンテンツを見つけることが可能でなければならず、不平等な扱いが許されるのは、多様性を確保するという目的に反しない、検証可能な客観的理由がある場合に限られるとされている。提供物及びコンテンツの並べ替え又は配置について許容される基準は、アルファベット、ジャンル(情報、教育、文化、地域、娯楽など)、利用範囲とされている。また、原則として、支払又は類似の対価に影響される選別又は取り決め、利用料が支払われている場合を除いてユーザーインターフェースのプロバイダー88独自の提供物やコンテンツの優先順位付けは許されていないとされている。第4項では、ユーザーインターフェースは、全提供物の中から特定の提供物を検索するオプション(検索機能)を提供しなければならず、検索結果は、オートコンプリート機能などによる検索プロセス中の検索候補を含め、差別的であってはならないとされている。第5項では、ユーザーインターフェースにおける提供物は、例えば前面に表示されていたり、独立したボタン等で強調されていたりして、簡単かつ迅速に見つけることができれば見つけやすくなり、また、個々のケースにおいて、どのように見つけやすさを確保するかは、ユーザーインターフェースの種類、範囲、デザイン、および提供物やコンテンツの具体的なイラストやその他の表示によって異なり、原則として、対応する提供物が他の提供物と同様に簡単かつ迅速に見つけられることは必要であるが、それだけでは十分ではないとされている。第6項では、放送全体は、最初の選択レベルにおいて、中間ステップなしに一般的には1回の操作だけでアクセスできなければならず、放送番組がウインドウプログラムを含んで表示される場合、これを含まない番組等よりも優先されなければならないとされている。第7項では、デフォルトの設定にかかわらず、ユーザーが提供物やコンテンツを簡単かつ迅速に並べ替え、整理できなければならず、ユーザーによって行われた並べ替えや配置は、ユーザー自身によってのみ変更することができるとされている。第8項では、第4項~第7項の規定は、ユーザーインターフェースの提供者が、実装が技術的に不可能であること、又は不釣り合いな労力によってのみ可能であることを証明する場合には、適用されず、不釣り合いな労力の判断は、特に、提供者の財政能力、発見可能性の目的を果たすユーザーインターフェースの他の機能に必要な労力、及び不実施の場合に犯される違反の性質及び程度を考慮した総合的な評価に基づくものとされている。

3.3.2 透明性要件(§11第1項~第3項)

第1項では、コンテンツの選別、配置、提示の基準、コンテンツの選別又は配置を利用者がどのように個別化できるかなどの情報を透明化しなければならず、情報は、利用者が容易に知覚でき、直接アクセスでき、かつ恒久的に利用できるような方法で、ドイツ語で提供されなければならないとされている。第2項では、透明性要件の実施に関する要件については、特定の専門的知識を持たない平均的な利用者の理解が決定的であるとされている。第3項では、ユーザーインターフェース等の使用の際に、例えば、強調表示され、曖昧さのない用語でラベル付けされているなど、容易かつ迅速に見つけることができる場合、情報は容易に知覚可能であり、知覚しやすくするための具体的な設計は、サービスの性質、範囲、その他の設計に照らして行われなければならないとされている。

3.4.公共的価値法令

メディア州間協定§84第8項に基づき、商業放送の放送番組やテレメディア等の中で、ユーザーインターフェース上で容易に見つけられなければならないとする公共的価値提供物に該当するか否かの各種手続き(申請者による申請手続きや州メディア監督機関による決定手続き)を定めたものが公共的価値法令(2021年9月発効)である。

申請者は、申請する提供物の内容やドイツにおける提供及び意見の多様性への特別な寄与を持たらす状況の説明、メディア州間協定§84第5項に規定されている州メディア監督機関の7つの決定基準に関する情報等を含めた申請書を提出することとされるとともに、同決定基準は具体化されている。なお、§8第3項において、意見と提供内容の多様性への特定の寄与を決定する場合、政治的・歴史的な出来事に関する報道の時間の割合、地域的および地方的な情報の時間の割合、並びに若年層向けの提供内容の割合を優先するものとするとされている。

ここで、公共的価値に該当して見つけやすくしなければならないものについては、個々の番組のような公共的価値提供のコンテンツ(Inhalte)は簡単に見つけられる必要はなく、提供物(Angebote)全体、すなわち個々のコンテンツの合計のみが公共的価値のステータスを持つが、提供物の個々の部分ではないとされている89。これは、公共的価値に該当すればRTL Television、SAT.1、ProSieben6、VOX、BBC World Newsといった提供物(いわゆるチャンネル単位)で見つけやすくする必要があり、例えばRTL Televisionチャンネルの個別の番組単位で見つけやすくする必要はないと解される。

また、メディア州間協定§84第3項やメディアプラットフォームとユーザーインターフェースに関する法令§10第6項に基づき、ユーザーインターフェースで提供される放送は、最初の選択レベルにおいて、その全体が直接アクセス可能であり、容易に見つけられるものでなければならないとされているが(いわゆる放送全体の基本的な見つけやすさ)、これは放送の提供物の公共的価値の有無にかかわらず適用されるものである。その中で公共的価値のある放送の提供物は、少なくとも放送提供物全体の中で見つけやすくなければならないことを意味している90

公共的価値の提供物を見つけやすくする方法は強調表示、並べ替え、意味のあるラベリングなどが想定されるが、実際にどの方法かを決定するのは、インターフェースのプロバイダー次第である。また、各インターフェースのプロバイダーが、あらかじめどのように公共的価値のリストを順序づけるかについて法的拘束力はないが、州メディア監督機関連盟が公表している推奨リスト(Public_Value_Empfehlungen_Listungen)91の順番とすることが推奨されている。

3.5 公共的価値法令に対する業界団体からのコメント

3.5.1 VAUNETからのコメント92

2022年9月29日、VAUNETは、州メディア監督機関が、メディア州間協定に基づき、プラットフォーム及びユーザーインターフェース上で公共的価値提供物を見つけやすくすることを実施するための重要な前提条件を作成したという事実を歓迎し、プラットフォームやユーザーインターフェースでの見つけやすさは、公共的価値の提供を促進するという目標を達成するための中心的な要素であるとコメントしている。VAUNETのClaus Grewenig理事長は、この州メディア監督機関のコミットメントを歓迎している、しかし、メディア州間協定に基づく見つけやすさの規制の成功は、その実施と施行の持続可能性においてのみ明らかになると述べている。

3.5.2 bitkom(ドイツIT・通信・ニューメディア産業連合会)からのコメント93

2021年2月17日のbitkomのステートメントでは、現行の法令では、インターフェース上でのこれらの提供物のプレゼンテーションは常に考慮されなければならず、この提示に沿って、我々は、決定される提供物の数を制限するために、公共的価値の概念を狭く解釈することに賛成すると述べている。また、あまりに多くの提供物が見つけやすい形で提示されなければならないとすれば、大量にある提供物は見つけやすくなくなり、見つけやすいという目標は達成されなくなると説明している94。公共的価値法令の前文では、世論形成に特に関連する特定の提供物の見つけやすさについて述べられているが、これはまた、ドイツにおける意見や提供物の多様性に特に貢献する提供物の見つけやすさを定めているメディア州間協定の要件とも一致しない、意見形成との関連性は、意見や提供物の多様性への貢献とはまったく異なる基準である旨指摘している95。さらに、公共的価値法令§6第2項によれば、いかなる決定も3年間適用されるため、決定手続きは3年ごとにしか行われず、3年間の入札を適時に決定するために必要であれば、新しい手続きを早急に開始できることも明確にすべきであり、そうでなければ、公共的価値提供物が常に変動するため、継続的なプレゼンテーションの調整が必要となり、ユーザーインターフェースのプロバイダーに過度の負担がかかる恐れがあるとも指摘している96

3.6 公共的価値のユーザーインターフェースへの実装の状況

公共的価値のある提供物を見つけやすくするということに拘束力はあるが、その提供物の順序を実際にどうするかはユーザーインターフェースのプロバイダーに委ねられているところ、ユーザーインターフェースへの実装について対応している旨公表している事例がいくつか見受けられるので、ここで紹介する。

ソニーヨーロッパは、リニアコンテンツについては、ドイツにおける意見や提供物の多様性に特に貢献する公開または非公開チャンネルからのリニアコンテンツを高い優先度で提供し、この目的のために1~99の番組項目を提供すると説明している97。また、LGは、公共的価値に該当するチャンネルはターコイズ色で表示される旨説明しており、LGテレビのアプリについては、ホームメニューのクイックスタートバーの「Public Value」で見つけることができるとしている98。Sky Qは、そのユーザーインターフェース上で、特定のいわゆる公共的価値提供物を強調する義務があると説明しているに留まる99。OTTであるwaipu.tvでは、見つけやすくしなければならない公共的価値のチャンネルは基本チャンネルリストで最初に表示されると説明している。具体的には、waipu.tvで利用可能な全ての公共的価値のメディアライブラリーは、公共的価値チャンネルメディアライブラリーのメニューで確認できると述べている。視聴者はいつでも並び順を変更することができ、また、公共的価値に対応するチャンネルには[PV]のロゴが付されているとのことである100

以上のように、各メーカーやOTT事業者がそれぞれのHPで公共的価値への対応について公表しているが、どう実装しているか、視聴者は公共的価値に該当していることをどう確認できるのかの説明の粒度は各社でバラつきがある101

4.おわりに

本稿では、前段としてドイツにおける放送コンテンツのインターネット配信に係る制度・取組の変遷、後段として放送プロミネンス(公共的価値)の仕組みを述べた。

放送コンテンツのインターネット配信に関連する制度については、一足飛びに現状に至ったものではなく、長年の議論の積み重ねの上に成り立っている。特に、公共放送のインターネット配信については、2000年代後半から実施されており、この点は日本より10年以上先行していることとなる。その後、メディア利用環境の変化(視聴機器の変化、若者のテレビ・公共放送離れ等)や新たに発生した社会課題(フィルターバブルやエコーチェンバー等)等に対応するため、その時々で様々な議論がなされ、累次にわたって制度がアップデートされてきた。この変遷を振り返り、特に大きな改正となった放送負担金制度とテレメディア任務の規制緩和と強化については、一層の示唆が得られるようその背景としてどのような議論が行われていたのかも可能な範囲で記載した。また、インターネット配信独自のコンテンツ提供等が一般的に可能となった第22次改正放送州間協定後の三段階テストとしてphoenixの事例を紹介した。

放送プロミネンス(公共的価値)については、意見の多様性を確保する観点での取組であり、ドイツの場合は制度でアプローチしている。公共的価値のある提供物を見つけやすくするということに拘束力はあるが、その提供物の順序を実際にどうするかはユーザーインターフェースのプロバイダーに委ねられており、また、ユーザーによるカスタマイズ機能も設計要件であることから、外形的な規定を表層的に捉えただけでは、プロミネンスの実効性に懸念が残る。本稿執筆時点で、ユーザーインターフェースへの実装が少しずつ進んできていることを確認したが、今後、当該実装・運用により、視聴者に対してどのような効果があったのかといったプロミネンスの実施に対する評価102がどのようになされていくのか引き続き注目される。

ドイツの放送制度は過去10回を超える連邦憲法裁判所の放送判決が基礎となっており、その事情や放送事業・制度の在り方はドイツと日本で異なるものであることに留意すべきであるが、本稿が、諸外国動向として今後の日本での検討の参考となることを期待し、筆を擱くこととする。

謝辞

本稿作成にあたって有益なアドバイスをいただいた名古屋大学大学院法学研究科林秀弥教授、日頃からドイツの放送制度等に関する情報の収集・整理に多大な協力をいただいている在ドイツ日本国大使館ヘーラー・ジモーネ秘書、本稿の改善に資する的確かつ精緻な指摘をいただいた匿名の査読者、そして本誌の編集委員会の先生方に深く感謝申し上げる。

脚注

1 在ドイツ日本国大使館 一等書記官。本稿で述べた見解は筆者個人のものであり、現在所属している及び過去に所属した組織としてのものではない。また、本稿における誤りは全て筆者の責めに帰する。

2 かつて最高裁判所は、知る自由について次のように説明している。「憲法21条第1項の規定は、表現の自由を保障している。そうして、各人が自由にさまざまな意見、知識、情報に接し、これを摂取する機会をもつことは、その者が個人として自己の思想及び人格を形成、発展させ、社会生活の中にこれを反映させていく上において欠くことのできないものであり、民主主義社会における思想及び情報の自由な伝達、交流の確保という基本的原理を真に実効あるものたらしめるためにも必要であって、このような情報等に接し、これを摂取する自由は、右規定の趣旨、目的から、いわばその派生原理として当然に導かれるところである。」(最大判昭和58年6月22日民集37巻5号793頁)

3 デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会「デジタル時代における放送の将来像と制度の在り方に関する取りまとめ」(2022年8月5日公表)19頁を参照。

4 曽我部真裕「『思想の自由市場』論の前提変容 マスメディアの役割再強化を」Journalism380号(2022年)42頁において、「情報空間とは、インターネット、放送、活字等の各種媒体によって発せられる情報が行き交う空間である。」と述べている。

5 放送等の伝統メディアからインターネット中心のデジタル情報空間への広がり。

6 お茶の間でのテレビでの放送コンテンツ視聴から、多様な機器で、いつでもどこでもインターネットにアクセスし、嗜好に合ったコンテンツを視聴するという視聴環境に移行。

7 当該配信サービスは放送の補完という位置づけである。

8 一部の規定を除き、公布の日から起算して一年六月を超えない範囲内において政令で定める日から施行とされている。NHKの放送番組の全部又は一部について、番組関連情報の配信を行うことも必須業務とされ、本稿執筆時点で、総務省「日本放送協会のインターネット活用業務の競争評価に関する準備会合」において、番組関連情報に関し、民放等との公正な競争環境の確保のために実施する競争評価の枠組みが議論されている。

9 テレメディアは次の3つを除くあらゆる電子情報・コミュニケーションサービスを指す。①主たるサービス内容がテレコミュニケーション・ネットワークを介した信号の送受信にあるテレコミュニケーションサービス、②電話の特別ナンバーのようなテレコミュニケーションに依拠するサービス、③リニア情報・コミュニケーションサービスと定義される放送(注:定義上、「放送」の概念にはインターネット同時配信を含む)。

10 人々の関心や注目の度合いが経済的価値を持つという概念。

11 アルゴリズムがネット利用者個人の検索履歴やクリック履歴を分析し学習することで、個々のユーザーにとっては望むと望まざるとにかかわらず見たい情報が優先的に表示され、利用者の観点に合わない情報からは隔離され、自身の考え方や価値観のバブル(泡)の中に孤立するという情報環境(総務省「令和元年版情報通信白書」の記載を参考)。

12 ソーシャルメディアにおいて、本人と似た興味関心をもつユーザーのみとコミュニケーョンする結果、意見を発信すると本人と似た意見が返ってくるという状況を、閉じた小部屋で音が反響する物理現象にたとえたもの(総務省「令和元年版情報通信白書」の記載を参考)。

13 鳥海不二夫=山本龍彦『デジタル空間とどう向き合うか 情報的健康の実現を目指して』(日経BP日本経済新聞出版、2022年)90頁を参照。

14 「情報摂取のバランスをとることによって、フェイクニュースなどへの『免疫』(批判的能力)を獲得している状態」(鳥海=山本・前掲注(13)7頁を参照)。

15 鳥海=山本・前掲注(13)267頁では、「政府は、国民の『情報的健康』に直接介入し、『健康』を強制すべきではない、また『何が健康か』を政府が定義してはならない、このような直接的介入は『情報健康ファシズム』を招くおそれがあり、かえって民主主義をゆがめる」と述べられており、鳥海=山本・前掲注(13)104-105頁では、「重要なのは、多様な情報へのアクセスが保証されること、すなわち、私たちが『健康』になる機会を保証すること」とも述べられている。

16 曽我部・前掲注(4)41頁では、(自由市場論の前提のゆらぎ、あるいは楽観性が顕になってきている中で、)「国家介入をひたすらに拒絶するのではなく、一定の国家介入が求められることを前提に、その適切な姿を議論する姿勢が今後は求められる」とし、情報空間政策(公共的な情報が十分に、信頼性の確保された形で供給され、それがあまねく国民に届くことを確保するための政策)の必要性が述べられている。

17 鳥海=山本・前掲注(13)6頁を参照。

18 例えば、「一方のNHKは、”視聴者=市民”という観点から、多様な情報や自分と異なる価値観に触れてもらえるようなセレンディピティ(予測しない偶然の出会い)をどう提供していくのか等、公共的な目的のために視聴データをどう活用していくかを模索する段階にある。」と述べられている(村上圭子「これからの”放送”はどこに向かうのか? Vol.11」放送研究と調査73巻11号(2023年)8頁を参照)。

19 NHK受信料制度等検討委員会 次世代NHKに関する専門小委員会「『次世代NHKに関する論点とりまとめ(第2次)』報告書」(2023年3月31日)5-6頁では、望ましい情報空間には、要素①として多くの選択肢が提示されていること、要素②として個人の選択能力が確立されていることが必要と整理され、また、要素①、②を設定しただけでは実効性に欠けるため、要素③として要素①、②を可能にする装置も分けて認識することとされている。

20 インターネットに接続する機能を内蔵したテレビ(スマートテレビ)又はテレビ接続機器(ストリーミング機器)。

21 イギリスの動向をはじめとした放送プロミネンスルールについて、詳しくは、村上圭子「これからの”放送”はどこに向かうのか? Vol.8」放送研究と調査73巻1号19-21頁、村上・前掲注(18)11-12頁、水谷瑛嗣郎「メディア環境デザインとしてのプロミネンス・ルール-憲法的価値との接続を意識して-」Nextcom56巻(2023年)30-37頁を参照。

22 die medienanstalten, Video Trends 2023 Ergebnisbericht Oktober 2023, S.25.によると、ドイツにおけるテレビ所有世帯のうち、スマートテレビを所有しているのは71%、スマートテレビをインターネットに接続しているのは59%である。

23 第15次放送州間協定以降の各改正協定と立法理由書は、ラインラント=プファルツ州首相府のWebサイトにリスト化されて掲載されている。https://rundfunkkommission.rlp.de/rundfunkkommission-der-laender/staatsvertraege-und-andere-dokumente

24 杉内有介「ドイツの公共放送の制度と財源」NHK放送文化研究所年報56巻(2012年)183頁を参照。

25 「(略)プレスの自由並びに放送及びフィルムによる報道の自由は,これを保障する。(略)」(高田敏=初宿正典『ドイツ憲法集[第8版]』(信山社、2020年)214頁を参照)。ドイツにおける放送の自由の理念や一連の放送判決を踏まえた放送制度の発展について、詳しくは、鈴木秀美『放送の自由[増補第2版]』(信山社、2017年)を参照。

26 杉原周治「ドイツにおける公共放送のオンライン・コンテンツと法規制(一)─第12次改正放送州際協定に基づく、『テレメディア』に対する公共放送の任務の具体化と『三段階テスト』の分析を中心として─」愛知県立大学外国語学部紀要51 巻(2019年)125頁を参照。

27 Ibid.

28 杉原・前掲注(26)125-126頁を参照。

29 こうした国内の動きと並行して、商業放送通信連盟(Verband Privater Rundfunk und Telekommunikation e. V.(VPRT))(当時)をはじめとする商業放送は、公共放送の活動範囲の拡大を民業圧迫の観点で問題視し、受信料が国家援助にあたり市場の公正な競争を歪めているとして、欧州委員会に対して数回にわたって異議を申し立てた。欧州委員会とドイツ政府による協議の結果、2007年4月に両者間での合意案がまとまり、これが2.6で後述する第12次改正放送州間協定への大規模な法改正につながった。

30 杉内・前掲注(24)189-190頁を参照。

31 事業所の受信機等からは別途徴収された。

32 ラジオ受信機に係る基本料金と、テレビ受信機に追加で係るテレビ料金があった。

33 新型受信機に対する受信料の導入後、当初の懸念通り、パソコンを番組視聴のためには使用していないのに受信料が徴収されるのは不当だとする訴訟が各地で相次いだ(杉内有介「始まったドイツの新受信料制度~全世帯徴収の『放送負担金』導入までの経緯と論点~」放送研究と調査63巻3号(2013年)21頁を参照)。連邦行政裁判所は2010年10月、パソコン受信料の徴収は認められるとする判決を下したが、判決に留保も付けられ、小型で携帯可能な新型受信機は、支払い義務の確定がますます難しくなっており、もし将来この制度に基づく徴収が困難となり、負担に不公平な状態が生まれれば、憲法違反になる可能性があるとの見解が示された(BVerwG, 6 C 12.09.)。

34 例えば、ARDの場合、ドラマは3ヶ月間、特集ドキュメンタリー番組は12ヶ月間、教養番組は5年間、20時の定時ニュースはアーカイブとして無期限提供などである(杉内・前掲注(24)183頁を参照)。

35 杉内・前掲注(24)183-187頁、杉原・前掲注(26)136頁以下を参照。

36 2007年3月1日発効の第9次改正放送州間協定でテレメディアという概念が導入された(杉原・前掲注(26)126頁を参照)。

37 テレメディアの特別な使命として、国民の全てのグループに情報化社会に参画する機会を提供する、複雑化した社会のなかでの状況認識の手助けとなる、メディアリテラシーの向上に役立つという性格をもっていなければならないとされた(杉内有介「ドイツの公共放送の制度と財源」NHK放送文化研究所年報62巻(2018年)217頁を参照)。

38 コンテンツの内容が個人ではなく編集部によって、社会的な重要性に基づき選別され制作されている限り公共放送の任務に含まれるとされた(杉原周治「ドイツにおける公共放送のオンライン・コンテンツと法規制(二・完)─第12次改正放送州際協定に基づく、『テレメディア』に対する公共放送の任務の具体化と『三段階テスト』の分析を中心として─」愛知県立大学大学院国際文化研究科論集20巻(2019年)61頁以下を参照)。

39 ZDF, Drei-Stufen-Test, https://www.zdf.de/zdfunternehmen/drei-stufen-test-100.html

40 杉内・前掲注(33)21頁以下を参照。

41 杉内・前掲注(37)225-227頁を参照。

42 Paul Kirchhof, Gutachten über Die Finanzierung des öffentlich-rechtlichen Rundfunks, 2010.

43 鈴木秀美「ドイツ受信料制度改革の憲法学的考察―放送負担金制度の概要と問題点―」法学研究87巻2号(2014年)450-452頁を参照。

44 杉内・前掲注(37)227頁によると、2008年のデータでは、受信機所有を届け出ている世帯割合は、各州全体平均では概ね90%を大きく超えていたのに対し、ベルリン、フランクフルト、ミュンヘン、シュトゥットガルトといった大都市では76.9~78.5%であった。

45 Kirchhof. S.14.

46 Kirchhof, S.59.

47 Kirchhof, S.61.

48 Kirchhof, S.63.

49 Kirchhof, S.11.

50 Kirchhof, S.58.

51 Fünfzehnter Staatsvertrag zur Änderung rundfunkrechtlicher Staatsverträge (Fünfzehnter Rundfunkänderungsstaatsvertrag), 2010.

52 Begründung zum Fünfzehnten Staatsvertrag zur Änderung rundfunkrechtlicher Staatsverträge (Fünfzehnter Rundfunkänderungsstaatsvertrag), 2010.

53 Begründung zum Fünfzehnten Staatsvertrag zur Änderung rundfunkrechtlicher Staatsverträge, 2010, S.6-7.

54 旧制度において放送受信料は、基本料金(ラジオ料金)月額5.76ユーロ、テレビ料金月額12.22ユーロ(合計すると17.98ユーロ)を支払っていた。

55 放送負担金制度の導入後に収入が増加したため、2015年、放送負担金の月額は17.98ユーロから17.50ユーロに引き下げられた。その後、2021年~2024年の放送負担金の月額は18.36ユーロに引き上げられ、2024年2月の公共放送の財源需要審査委員会(KEF)の報告書において、2025年からは月額18.94ユーロに値上げする旨の勧告が出ている。

56 鈴木・前掲注(43)450頁を参照。

57 鈴木・前掲注(43)456-462頁を参照。

58 最終的に、2018 年7月、連邦憲法裁判所が放送負担金制度を合憲との判決を出し(BVerfGE 149, 222)、同年12月には、EUの欧州司法裁判所が放送負担金制度はEU法に反しないとの見解を示した(ECLI:EU:C:2018:1019)。

59 杉内有介「2016年以降のドイツの公共放送改革~デジタル化で問い直される公共放送の任務,サービス,組織~」放送研究と調査73巻6号(2023年)12-13頁を参照。

60 代わりに予算を確保するためARDとZDFの2つの専門チャンネルを廃止している。

61 杉内・前掲注(59)13-15頁を参照。

62 本鑑定書につき、詳しくは、西土彰一郎「ドイツにおける公共放送論の新展開」情報通信政策研究1巻1号(2017年)47頁以下を参照。

63 BVerfGE 149, 222.

64 杉原周治「第22次改正放送州際協定と公共放送のテレメディア任務」情報通信政策研究3巻2号(2020年)I-71頁を参照。

65 詳しくは、杉原・前掲注(64)I-71頁以下を参照。

66 第22次改正放送州間協定第11d条第7項によると、テレメディアコンテンツは、動画または音声に重点を置いて制作されなければならず、テキストが中心となってはならないとされ、一方で、番組の概要、見出し、番組のトランスクリプト、放送局に関する情報、アクセシビリティのための措置といった番組に関連した一定のテレメディアコンテンツは当該禁止の影響を受けないとされた。

67 ZDF Anstalt des öffentlichen Rechts Die Fernsehratsvorsitzende, Vorlage zur 8. Sitzung des Fernsehrates in der XVI. Amtsperiode am 11. März 2022 Drei-Stufen-Test zu den wesentlichen Änderungen der Telemedienangebote von phoenix, hier: Beschlussempfehlung und Begründung, 2022.

68 a.a.O., S.8-11.

69 a.a.O., S.12-21.

70 a.a.O., S.22-23.

71 a.a.O., S.18-20.

72 a.a.O., S.22-23.

73 杉内有介「ドイツで放送・通信の新融合法制『メディア州間協定』が発効」放送研究と調査71巻1号(2021年)80頁を参照。

74 詳しくは、西土彰一郎「放送概念のプロセス化-ドイツ・メディア州際協定を参考にして-」情報法制研究11号(2022年)44頁以下を参照。

75 Begründung zum Staatsvertrag zur Modernisierung der Medienordnung in Deutschland, 2020, S.7.

76 詳しくは、杉内・前掲注(59)15-19頁を参照。

77 tagesschau24, One, ARD-alpha(以上、ARDのチャンネル), ZDFinfo, ZDFneo(以上、ZDFのチャンネル), phoenix, KI.KA(以上、ARDとZDFの共同チャンネル)

78 2023年10月、ARD/ZDFの共同ストリーミングネットワークを開始した旨のプレスリリースが両者より出されている。

79 連邦州が放送・メディアの立案者である旨述べているのは第1次放送判決(BVerfGE 12, 205.)、ジャーナリズムの多様性を保護・促進する積極的秩序の必要性を述べているのは第3次放送判決(BVerfGE 57, 295.)。

80 Begründung zum Staatsvertrag zur Modernisierung der Medienordnung in Deutschland, 2020, S.2.

81 詳しくは、杉内有介「ドイツ州メディア監督機関~連邦的規制と共同規制~」放送研究と調査60巻11号72-85頁を参照。

82 die medienanstalten, Gastbeitrag zum Thema Public Value, 2024, https://www.die-medienanstalten.de/aufgaben/vielfaltssicherung/public-value/gastbeitrag-zum-thema-public-value/

83 Public-Value-Satzung, Präambel.

84 Satzung zu Medienplattformen und Benutzeroberflächen, 2021.

85 Public-Value-Satzung, 2021.

86 本条の立法理由は、Begründung zum Staatsvertrag zur Modernisierung der Medienordnung in Deutschland, 2020, S.45-47を参照。

87 メディア州間協定§59~§60、§64~§65に基づくもので、特に文化、教育、情報の分野で番組の多様性に貢献する観点で、一定の視聴者シェアを持つ全国商業放送が、独立した第三者のために、ウインドウプログラムの放送時間(1週間あたり260分以上、そのうちの75分以上は19時~23時30分の間)を付与するというもの。現在、RTL TelevisionとSAT.1でウインドウプログラムが放送されている。https://www.kek-online.de/medienkonzentration/programmveranstalter/fensterprogramme/

88 ユーザーインターフェース(スマートテレビやアプリのナビゲーションメニュー、電子番組ガイドなど)のプロバイダーは、テレビやセットトップボックスのメーカー、OTTプラットフォームプロバイダーなどが挙げられる。ただし、サービスをバンドルせず、自社のサービスのみを配信するメディアプラットフォーム(例:RTL+)は、ユーザーインターフェースのプロバイダーではない。

89 die medienanstalten, Grundsätze zur leichten Auffindbarkeit von Public-Value-Angeboten | FAQs, 2023, S.2.

90 a.a.O., S.4.

91 die medienanstalten, Public Value, https://www.die-medienanstalten.de/aufgaben/vielfaltssicherung/public-value/

92 VAUNET, VAUNET begrüßt nächsten Verfahrensschritt der Landesmedienanstalten im Public-Value-Verfahren, 2022, https://vau.net/pressemeldungen/vaunet-begruesst-naechsten-verfahrensschritt-der-landesmedienanstalten-im-public-value-verfahren/

93 bitkom, Stellungnahme Satzung zur Durchführung der Vorschriften gemäß § 84 Abs. 8 des Medienstaatsvertrags über die leichte Auffindbarkeit von Rundfunk, rundfunkähnlichen Telemedien und Telemedien mit besonderem Beitrag für die Meinungs- und Angebotsvielfalt in Benutzeroberflächen, 2021.

94 a.a.O., S.1.

95 a.a.O., S.2.

96 a.a.O., S.3-4.

97 Sony Europe B.V., Transparenzerklärung gemäß Medienstaatsvertrag, https://www.sony.de/electronics/support/articles/00245690

98 LG, Transparenzerklärung gemäß deutschem Medienstaatsvertrag, https://www.lg.com/de/tv-contents-policy/

99 sky, Verpflichtende Hervorhebung von Public-Value-Angeboten, https://www.sky.de/hilfe/abonnement/programm/verpflichtende-hervorhebung-von-public-value-angeboten

100 Waipu.tv, Was bedeutet PV?, https://hilfe.waipu.de/hc/de/articles/11313399133085-Was-bedeutet-PV

101 die medienanstalenの担当者からの情報提供によると、この他、Vodafone GigaTV、Fire TV、Samsung TV(2022)等で実装が進んでおり、ユーザーインターフェース上で「Public Value」のタブが設けられ、これをユーザーがクリックすると公共的価値として各プロバイダーにより順序付けられた提供物を視聴できる。

102 die medienanstalten, VIDEO TRENDS 2023, S.10.によると、公共的価値について、スマートテレビユーザーの回答者の63%が、公共的価値のあるコンテンツがスマートTVのインターフェースで簡単に見つかれば便利だと考えている。これを年齢別に見ると、14歳から29歳は73%、30歳から49歳では62%、50歳以上では57%となる。

 
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