2025 Volume 8 Issue 2 Pages 19-37
スマートフォン利用とwell-being低下の関連が、様々な量的研究によって報告されている。先行研究の多くは主にスマートフォン利用時間に着目し、利用時間の大きさとwell-being低下の関連を指摘しているが、利用アプリケーションごとに、そして自己申告による利用時間ではなく実際の利用ログデータを利用して分析をすると、異なる結果が導出されることも明らかになっている。スマートフォン利用には、多様な利用内容、利用方法、そして利用者の心的傾向が複雑に関連するが、スマートフォン利用とwell-beingの関連に関する研究は、それらが十分に考慮・検討されておらず、その結果、スマートフォン利用そのものが危険であるかのような過度の一般化を招き、利用自体が懸念視されている。スマートフォン利用とwell-beingの関連の実態をより具体的に検討・把握するべく、本研究では、高校生1・2年生(n=549)を対象に質問紙調査を実施した。スマートフォン利用時間に加え、利用率の高いLINE利用時間、そしてX(旧Twitter)、 Instagram、Facebook、TikTokの各SNS利用時間は、生徒自身が実際の利用ログデータを確認し、その後回答をした。同様に、スマートフォン利用に伴いロックを解除する動作を指す起動回数も、実際の利用ログデータを生徒に確認・回答を求め分析に利用した。その他、学習中のスマートフォンの同時利用傾向やスマートフォン依存傾向、睡眠・運動時間、well-beingの評価値を取得・分析し、スマートフォン利用における各変数とwell-beingの間にある具体的な関連を検討した。分析の結果、スマートフォン利用時間とwell-beingの間には相関が見られず、SNS利用時間、LINE利用時間とwell-being間には非常に弱い正の相関が確認された。失望感因子などwell-beingを構成する各下位因子別にも検討したが、スマートフォン利用時間との相関は見られなかった。スマートフォン依存傾向はwell-beingとの相関は認められなかったが、下位因子の失望感とのみ非常に弱い負の相関が見られた。利用時間ごとにパス解析をしたところ、SNSとLINEの利用時間はwell-beingとの間に直接の関連が見られた。スマートフォンとSNSの利用時間はスマートフォン依存傾向と関連し、スマートフォン依存傾向はwell-being、または睡眠時間と関連し、睡眠時間はwell-beingと関連することで、スマートフォンとSNSの利用時間はwell-being低下と間接的に関連する可能性が示唆された。これらの結果より、利用内容によってwell-beingとの関連は異なり、利用時間がwell-beingの低下に直接的に関連するのではなく、他変数を介して関連する可能性が示唆された。「スマートフォン利用」とひとくくりにせず、多様な利用方法を前提とし、各変数間の関係を考慮して調査・分析をしなければ、スマートフォン利用とwell-beingのより具体的な関連の検討はできないことが本研究によって明らかになった。
Numerous quantitative studies have reported an association between smartphone use and declines in well-being. Many previous studies have primarily focused on smartphone usage time, pointing to a negative correlation between longer usage and well-being. However, when analyzing data based on specific applications and actual usage logs rather than self-reported usage time, different results have been observed. Smartphone use involves various types of usage, behaviors, and psychological tendencies, yet research on the relationship between smartphone use and well-being has often overlooked these factors. This has led to excessive generalizations suggesting that smartphone use itself is inherently harmful, raising concerns about its use.
To gain a more precise understanding of the relationship between smartphone use and well-being, this study conducted a questionnaire survey of 549 first- and second-year high school students. In addition to overall smartphone usage time, usage time for LINE and major social media platforms (X [formerly Twitter], Instagram, Facebook, and TikTok) was measured using actual usage log data, which students verified before reporting. Similarly, the number of unlocks, indicating screen activation frequency, was recorded and analyzed. Other variables, including simultaneous smartphone use during study, smartphone dependency, sleep and exercise time, and well-being scores, were also examined.
The analysis found no significant correlation between total smartphone usage time and well-being. A very weak positive correlation was observed between well-being and SNS or LINE usage time. While examining subfactors of well-being, no significant correlation with smartphone usage time was found. Smartphone dependency showed no correlation with well-being overall, but a very weak negative correlation with the disappointment factor. Path analysis suggested that SNS and LINE usage time were directly related to well-being and indirectly related through smartphone dependency, sleep time, and well-being. These findings highlight the importance of considering usage content and intermediary factors rather than treating smartphone use as a singular entity when investigating its relationship with well-being.
スマートフォンの利用率が高まり、生活に浸透するにつれ、スマートフォン利用がwell-being2低下と関連することを示唆する調査・研究が増加している。日本においてもスマートフォン利用率は98.1%と高く[1]、LINEやInstagram、FacebookなどのSNSの利用率は98.8%に達している[2]。先行研究を概観すると、主に、スマートフォン利用時間や問題あるスマートフォン利用(problematic smartphone use)に焦点を当て、well-beingの低さとの関連を指摘する研究が多く確認される[3][4][5][6][7]。青年期においては、一連の研究結果の一側面に焦点を当て、利用そのものがwell-beingや学業成績に悪影響を及ぼすと喧伝するメディア・書籍等も登場している[8][9][10]。しかし、利用時間においては、テレビやゲーム、インターネットやメールなど他新興技術においても過去同様の傾向が指摘されており[11][12]、スマートフォンの利用時間に関しては、well-beingに与える影響は最大でも0.4%ほどの変動しか説明できないという指摘もある[13]。また、スマートフォン利用とwell-beingの増加の関連を確認し、積極的な利用の検討に言及する研究も一部存在する[14]。一連の調査・研究を概観すると、スマートフォン利用とwell-being低下の関連を指摘するものが多いが、その解釈や見解は一貫性を欠いており[15]、因果関係の検討も十分になされていないなど、関連性が指摘される一方で、具体的なwell-beingとの関連の理解が限定的である。
なぜ、スマートフォン利用とwell-beingの具体的な関連の理解が進まないのか。その理由としては、主に4つ挙げられる。第一に、新しい技術研究が生まれると、関心の対象が次の技術に移ることで、過去と同様のリサーチクエスチョンが再利用され続け、類似した研究、そして類似した結果が時を経て繰り返されてしまう点が挙げられる[16][17]。第二に、研究対象となる新興技術の固有の特徴への着目が不足していることが指摘されている[17]。スマートフォンの持つ固有の特徴としては、多様な利用方法(スマートフォン利用には通話やメール、インターネット検索、SNS、ゲーム、動画利用などが含有される)、常時利用可能性(他媒体と異なりいつでも、どこでも利用することが可能となる)、受動利用性(メッセージ受信や通知等により注意を引かれ利用が誘発される)が存在する。利用方法はアプリケーション別の利用時間、常時利用可能性は同時利用傾向(学習中のスマートフォン、および各アプリケーションの同時利用傾向)で検討されているが、受動利用性については、机上にスマートフォンが存在するだけで作動記憶が低下する可能性と[18]、受信メッセージを念慮する心的傾向3の有無が学業成績と関連する可能性が先行研究で示唆されているが[19]、それら固有の特徴とwell-beingの関連については十分に検討されておらず、利用時間や問題ある利用など、特定の変数とwell-beingの関連のみに焦点が当てられている。第三に、スマートフォンの固有の特徴を踏まえたうえで、利用時間や学習中の同時利用傾向などの利用行動や、スマートフォン依存傾向に代表される心的傾向を考慮した、複数変数間の具体的な関連が検討されていない点が挙げられる[20]。例えば、問題あるスマートフォン利用が測定される際に用いられる尺度には、利用時間、スマートフォン依存傾向、同時利用傾向が含まれているが[21]、これらの要素が区別されずに、まとめて1つの変数として分析に利用することが課題視されている[22]。各要素単体としてもwell-beingとの関連を検討する研究は存在するが[23] [24]、それぞれの要素間の関連を考慮された研究・分析設計は十分になされていない。第四に、自己申告データと実際の利用ログデータによる結果の相違が挙げられる[15][20][25]。自己申告による利用時間は、客観的に測定された実際の利用時間と差異があり、それにより関連や効果の大きさも異なることが示されている。
スマートフォンは現代社会において、ますます欠かせないものになっているが、その利用とwell-beingの関連に関する議論や見解、考察が深まらず、ネガティブな結果のみが過度に一般化されてしまい、誤ったガイドラインの周知や教育的・生活的指導が一方的になされる懸念もありうる。そこで、本研究では、先行研究の課題を踏まえたうえで、スマートフォン利用とwell-beingの具体的な関連を明らかにすることを目指す。
先行研究で得られた知見と課題をまとめる。一連の先行研究の結果を通じ、その関連や効果の大きさに差異はあれ、スマートフォン利用時間とwell-being低下の関連が指摘されている。また、利用時間に加え、問題あるスマートフォン利用とwell-being低下の関連も示唆されていることから、重度の長時間利用、スマートフォン依存傾向、同時利用傾向もそれぞれwell-being低下と関連があると考えられる。一方で、第1章にて言及したように先行研究には課題が存在し、それにより、スマートフォン利用における各要素とwell-beingの関連は十分に検討されていない。これらの課題を踏まえ、本研究では以下の3点をリサーチクエスチョン(RQ)として設定した4。
これまで整理してきたように、スマートフォン利用とwell-beingの関連について論じる際は、スマートフォンの利用時間だけでなく、アプリケーション別の利用時間、同時利用傾向、スマートフォン依存傾向はもちろん、スマートフォン利用における固有の特徴や生活習慣などを考慮し、それら要素間の関連も考慮する必要がある。先行研究では、スマートフォン利用時間、各アプリケーション別の利用時間、同時利用傾向、スマートフォン依存傾向などの各変数間の関連の検討が不十分であったため、RQ(1)を設定し、本研究にて検討を行う。続いて、RQ(2)で述べたように、自己申告データを利用する場合、各アプリケーションの利用時間を正確に分けられず、利用時の印象的な記憶、および他者から利用時間について指摘された経験の有無等により、実態と異なる申告をする可能性もある。利用ログデータに基づくことで、アプリケーションによって、関連性の有無に相違が見られる可能性も考えられる。そして、RQ(3)で整理したように、通知や返信、確認の念慮に伴い、主にロックを解除して受動的にスマートフォン利用を促される、受動的利用行動として検討する起動回数が、直接的にwell-being、もしくは他変数を介して間接的にwell-beingと関連することも考えられる。そして、先行研究では、睡眠や運動など特定の他活動をスマートフォン利用が奪う「剥奪仮説」も示唆されているため[15]、本研究においては、スマートフォン利用時間が睡眠時間や運動時間といった生活習慣を介してwell-beingとどう関連するかについても検討する。
スマートフォン利用とwell-beingの関連においては、未だ明らかになっていない点が多くある。しかし、先行研究で言及されていたような「スマートフォン利用はwell-being低下と関連がある」という早計な結論を下してしまうことで、具体的な関連や機序の知見が深まらず、過度な一般化がなされてしまう懸念がある。本研究は、未だ明らかになっていないスマートフォン利用とwell-beingの関連をより具体的に検討し、本研究領域の発展と新たな知見の創出を目指す。
2.2.調査方法調査は、千葉県に所在する私立高校に通う生徒575名(1年生297名、2年生278名)を対象として、2023年9月に、クラスごとに実施される授業前のホームルームで質問紙調査を合計1回実施した。回答時間は約10分程度であった。調査協力校は、全日制・普通科であり、進学率は高く、一学年の生徒数はおよそ300名規模である。なお、同校の校内におけるスマートフォン利用は授業中のみ制限しており、その他の利用制限は特に設けられていない。調査協力者575名のうち、スマートフォン未所有、無回答を分析対象外とし、最終的に549名(1年生297名、2年生252名)が有効回答者となった。調査は、株式会社マクロミルのアンケートシステムQuestant6を利用した。調査実施の2カ月前より、調査協力校教諭と対面で1回、オンラインで3回打ち合わせを行い、本調査の目的と概要、具体的調査内容を説明し、校長や教頭をはじめとする学校側の責任者の許諾を得て調査を実施した。学校側を通じて、調査協力者である生徒への説明、および保護者への紙面による通知を行い、アンケート回答を希望しない場合の配慮、ならびにアンケート回答途中での離脱、項目ごとに無回答を選択できるなど、倫理的配慮を行った。アンケートは匿名であり、各回答内容や個人情報が特定されることはない旨も教諭からの説明時、およびアンケート回答の冒頭にも表示し、十分に周知することを心がけた。なお、学校側と相談の上、謝礼は提示していない。
本研究は調査項目として、利用時間(スマートフォン、SNS、LINE)、スマートフォン依存傾向、学習中のスマートフォンの同時利用傾向、スマートフォン固有の特徴である受動利用性の項目としてスマートフォン起動回数、生活習慣として睡眠時間と運動時間、そして従属変数にwell-beingを取得し、分析に利用した。なお、本研究はスマートフォン利用者を対象としているため、スマートフォン未所有者、および未利用者は対象から除外している。
より具体的な調査項目の取得方法について述べる。利用時間は、通話や検索、各アプリケーション利用など、すべての利用を含むスマートフォン利用時間に加え、調査対象である高校生年代において利用率の高いLINE、そしてX(旧Twitter)、Instagram、TikTok7、Facebookの4つのSNSを調査対象サービスとした。利用性質の異なるLINEと、4つの各SNSを分類し、各SNSは利用時間を全て合計したうえで、LINE利用時間とSNS利用時間としてそれぞれ分析に利用した。以降、SNSという記載は、LINE以外のサービス利用を指す。起動回数は、スマートフォンを使用する際にロック解除等をして使い始める動作の1日あたり平均回数を、起動回数として取得し分析に利用した。これらの利用時間と起動回数は、実際の利用ログデータを用いた。スマートフォン機種にかかわらず、設定機能内にて表示される利用ログデータ(iOS:スクリーンタイム、Android:Digital Wellbeingと保護者による使用制限)の確認を回答者に指示し、回答を求めた。調査日を起点として過去7日間の1日あたりの平均利用時間(スマートフォン、LINE、各SNS)と1日あたりの平均起動回数がそれぞれ表示されるため、本データには平日と土日の利用データが含まれている。なお、長期休みの期間は含まれていない。
スマートフォン依存傾向は、先行研究にて信頼性と妥当性が検証されている尺度(設問項目数10)を翻訳して利用し[28]、5件法にて回答を求め8、単純加算し量的変数として分析に利用した。クロンバックα係数 =.84であり信頼性に問題はないと判断した。
同時利用傾向は、先行研究において分析された同時利用傾向尺度(設問項目数6)を参考9にし[29]、利用したことがないから頻繁に利用しているまで5段階にて回答を求め、単純加算し量的変数として分析に利用した(クロンバックα=.82)。
従属変数であるwell-beingには、先行研究において信頼性と妥当性が検証された主観的幸福感(設問項目数15)を採用し[30]、「非常にそう思う」から「まったくそう思わない」の4件法で回答を求め、単純加算し量的変数として分析に利用した(クロンバックα=.88)。
また、先行研究よりwell-beingと関連があると考えられる生活習慣の睡眠時間と運動時間も取得し、well-beingとの直接的、および間接的な関連について検討した。睡眠時間は平日平均を1時間未満から9時間以上までの9件法で、運動時間は平日平均で30分未満から4時間以上までの9件法で、それぞれ自己申告にて回答を求めた10。なお、分析は、IBM SPSS Statistics Version 29.0.1とIBM SPSS Amos Version 29を使用した。
分析に利用した各変数の基本統計量を表1に示す。本研究はスマートフォン、およびLINE、SNSの利用者を対象としており、スマートフォン未所有者、および未利用者は対象から除外している。各変数の回答数nは、有効回答数549名より無回答・利用なしを除いている。また、本研究は利用者を対象としているため、スマートフォンおよびLINEを未利用の生徒は調査対象から除外し、SNSについては、4つの対象アプリケーションを全て未利用の生徒を除外し、1つ以上利用している生徒を対象とした。未利用のSNSのアプリケーション利用時間は0分として扱い、SNSの合計利用時間を算出した。なお、スマートフォン利用時間にはLINEやSNSの利用時間も含まれるが、高校生年代はLINEやSNSよりも動画や音楽の利用が多く[1]、スマートフォン利用時間の構成割合は動画や音楽が多くを占めると考えられる。
n | 平均 | SD | |
---|---|---|---|
スマートフォン利用時間(分) | 536 | 285.4 | 168.3 |
LINE利用時間(分) | 527 | 34.3 | 48.7 |
SNS利用時間(分) | 452 | 96.7 | 102.3 |
起動回数(回) | 536 | 49.4 | 35.2 |
同時利用傾向(点) | 536 | 10.7 | 3.9 |
スマートフォン依存傾向(点) | 536 | 26.3 | 7.7 |
平日睡眠時間(時間/日) | 549 | 7.4 | 1.2 |
平日運動時間(時間/日) | 549 | 2.9 | 1.6 |
well-being(点) | 549 | 38.5 | 7.6 |
スマートフォン利用における各変数、スマートフォン依存傾向とwell-beingの関連を確認するため、相関分析を実施した。各変数とwell-being間において関連がないという帰無仮説を設定し、相関係数、および有意確率p値を確認し、帰無仮説を棄却するか否かを検討した。相関分析の結果を見ると、先行研究で指摘されているスマートフォン利用時間、同時利用傾向、そしてスマートフォン依存傾向とwell-beingの負の相関は、本研究では確認されなかった。一方で、LINE利用時間、SNS利用時間、起動回数、平日睡眠時間、平日運動時間は、well-beingと有意な非常に弱い正の相関が確認された。すなわち、LINE・SNS利用時間、起動回数、平日睡眠・運動時間は帰無仮説が棄却され、well-beingとの関連が示唆された。結果を表2に示す。また、各変数間の相関を表3に示す。なお、相関係数0.2未満は「ほとんど相関無し」と判断されるが、本研究は社会心理学領域も含むことから、先行研究[31]にて挙げられていた「25,000以上の社会心理学研究のメタ分析の結果、平均的な相関係数rは0.21であり、r=0.1で小程度、r=0.2で中程度、r=0.3以上でほとんどの社会心理学研究で報告されている効果と比較して大きい」を参照し、相関係数0.2未満でも「非常に弱いが相関はある」として結果を確認・考察している。
n | well-being | |
---|---|---|
スマートフォン利用時間 | 536 | -.025 |
LINE利用時間 | 527 | .148** |
SNS利用時間 | 452 | .153** |
起動回数 | 536 | .098* |
同時利用傾向 | 536 | .075 |
スマートフォン依存傾向 | 536 | -.063 |
平日睡眠時間 | 549 | .106* |
平日運動時間 | 549 | .160** |
注:数値はPearsonの相関係数, **p <.01, *p <.05
n | a | b | c | d | e | f | g | h | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
a.スマートフォン利用時間 | 536 | ― | ― | ― | ― | ― | ― | ― | ― |
b.LINE利用時間 | 527 | .159** | ― | ― | ― | ― | ― | ― | ― |
c.SNS利用時間 | 452 | .373** | .370** | ― | ― | ― | ― | ― | ― |
d.起動回数 | 536 | .130** | .156** | .248** | ― | ― | ― | ― | ― |
e.同時利用傾向 | 536 | .184** | .101* | .131** | .174** | ― | ― | ― | ― |
f.スマートフォン依存傾向 | 536 | .270** | .069 | .253** | .224** | .457** | ― | ― | ― |
g.平日睡眠時間 | 549 | -.063 | -.099* | .189** | -.075 | -.133** | -.151** | ― | ― |
h平日運動時間 | 549 | -.084 | .123** | .085 | .117** | .015 | -.075 | .036 | ― |
注:数値はPearsonの相関係数, **p <.01, *p <.05
続いて、各変数のうち、どの変数がwell-beingと強く関連するのか、関係性をより明確に把握するため重回帰分析を実施した。well-beingは、当然スマートフォン利用の関連変数のみで説明できず、家庭環境や友人関係、遺伝等、多様な変数が関連する。本分析は、well-beingを予想するモデルではなく、あくまでもスマートフォン利用に変数を限定したうえで、どの変数が最も関連するかを明らかにすることを目的とした。結果を表4に示す。
n | B | β | 95%信頼区間 | R2 (調整済みR2) | |
---|---|---|---|---|---|
性別 (0:女子, 1:男子) | 549 | .540 | .037 | (-.896, 1.975) | .097*** (.076) |
スマートフォン利用時間 | 536 | -.004 | -.087 | (-.009, .001) | |
LINE利用時間 | 527 | .010 | .068 | (-.005, .025) | |
SNS利用時間 | 452 | .011 | .160** | (.003, .019) | |
起動回数 | 536 | .009 | .042 | (-.012, .029) | |
同時利用傾向 | 536 | .096 | .050 | (-.104, .295) | |
スマートフォン依存傾向 | 536 | -.021 | -.021 | (-.128, .086) | |
平日睡眠時間 | 549 | 1.185 | .178*** | (.542, 1.829) | |
平日運動時間 | 549 | .609 | .130** | (.156, 1.062) |
注:βは標準化回帰係数, Bは非標準化回帰係数, ***p <.001, **p <.01
従属変数にwell-being、独立変数に他変数を設定し、統制変数として性別、ならびにwell-beingとの関連が考えられる睡眠時間と運動時間を設定し、重回帰分析を実施した。VIF の最大値はそれぞれ1.49であり、多重共線性の問題は生じていないと判断し、すべての変数を投入した。各独立変数を組み合わせ重回帰分析に使用した本モデル、および各独立変数とwell-beingに関連はないという帰無仮説を設定し、決定係数と標準化回帰係数、有意確率p値を確認したうえで、帰無仮説を棄却するか否かを検討した。
結果を見てみると、有意な関連が見られたのは、SNS利用時間と平日睡眠時間、平日運動時間であり、SNS利用時間は、標準化回帰係数β= .160(p<.01)、平日睡眠時間は、標準化回帰係数β= .178(p<.001)、平日運動時間は、標準化回帰係数β=.130(p<.01)であった。スマートフォン利用時間やLINE利用時間、同時利用傾向や起動回数は、well-beingとの関連が確認されず、またwell-being低下と有意に関連する変数も確認されなかった。すなわち、今回実施した重回帰分析のモデル、およびSNS利用時間、平日睡眠・運動時間においては帰無仮説が棄却された。
3.2.主観的幸福感尺度の因子別のwell-beingとの関連本研究でwell-beingとして採用した主観的幸福感尺度は、構成する5つの下位領域の全因子項目の合計をもって尺度得点としている[30]。下位領域は、人生に対する満足感、自信、達成感、人生に対する失望感、至福感の5つの因子であり、それぞれ3項目ずつ、合計15項目によって構成されており、失望感因子のみが逆転項目となっている(逆転項目対応済み。得点が高いと失望感が低く、得点が低いと失望感が高い)。そこで、スマートフォン利用の各変数が5つの因子それぞれとどのように関連するかを相関分析にて検討した。各変数と5つの因子それぞれの間において負の相関はないという帰無仮説を設定し、相関係数と有意確率p値を確認したうえで、帰無仮説を棄却するか否かを検討した。まず、各因子の基本統計量を表5に示す。
n | 平均 | SD | クロンバックα | |
---|---|---|---|---|
人生に対する満足感(点) | 549 | 8.57 | 2.09 | .76 |
自信(点) | 549 | 7.68 | 1.92 | .74 |
達成感(点) | 549 | 7.42 | 1.92 | .71 |
人生に対する失望感(点) | 549 | 7.36 | 1.94 | .72 |
至福感(点) | 549 | 7.48 | 1.96 | .73 |
スマートフォン利用時間は、どの因子とも有意な相関が確認されなかった。先行研究ではwell-beingと負の相関が指摘されていたSNS利用時間、LINE利用時間、そして同時利用傾向は各因子と負の相関は見られず、先行研究の結果とは異なり、各因子と非常に弱い有意な正の相関が確認された。その他の変数を見てみると、スマートフォン依存傾向のみが、失望感因子と非常に弱い有意な負の相関が確認された。それ以外に、主観的幸福感を構成する5つの因子に対する、有意な負の相関は、本調査では確認されなかった。すなわち、有意な負の相関が確認されたスマートフォンフォン依存傾向においては、帰無仮説が棄却された。結果を表6に示す。
n | 人生満足感 | 自信 | 達成感 | 人生失望感 | 至福感 | |
---|---|---|---|---|---|---|
スマートフォン利用時間 | 536 | .035 | -.027 | -.038 | -.025 | -.046 |
LINE利用時間 | 527 | .093* | .164** | .124** | .075 | .118* |
SNS利用時間 | 452 | .083 | .092 | .172** | .059 | .188** |
起動回数 | 536 | .045 | .096* | .098* | .018 | .126** |
同時利用傾向 | 536 | .083 | .056 | .021 | -.011 | .137** |
スマートフォン依存傾向 | 536 | -.015 | -.047 | -.033 | -.220** | .067 |
平日睡眠時間 | 549 | .120** | .025 | .063 | .136** | .062 |
平日運動時間 | 549 | .066 | .115** | .169** | .124** | .152** |
注:数値はPearsonの相関係数, **p <.01, *p <.05
各利用変数とwell-beingの関連をより具体的に検討し、利用時間や受動的な利用行動はwell-beingと直接的に関連するのか、それとも同時利用傾向やスマートフォン依存傾向等の他要素を介してwell-beingと関連するのかを明らかにするべく、パス解析を行った。先行研究ごとに、各変数の相互の関連は検討されているものの、先行研究に見られる三番目の課題として指摘したように、複数の変数間の具体的な関連は検討されていない。そのため、先行研究によって関連が示唆されている各変数のパスを前提とし、モデル適合度の指標を確認、比較したうえで、パスモデルを検討した。なお、利用アプリケーションによって、各変数、およびwell-beingとの関連性の有無には相違が見られることが想定されるため、スマートフォン利用時間、SNS利用時間、LINE利用時間それぞれでモデルを検討した。
外生変数として各利用時間(スマートフォン、LINE、SNS)と起動回数、内生変数としてスマートフォン依存傾向、同時利用傾向、睡眠時間、運動時間を設定し、well-beingとどのように関連しているかを検討した。各変数間のパスは、各利用時間がwell-being、そしてスマートフォン依存傾向、同時利用傾向、睡眠時間、運動時間の関連が先行研究によって確認されていることから[3][4][5][6][7]、各利用時間からこれら変数へのパスを考慮・検討した。同様に、スマートフォン依存傾向、同時利用傾向、睡眠時間、運動時間とwell-beingの関連も示唆されていることから[6][7][23][24]、これら変数からwell-beingへのパスを考慮・検討した。続いて、受動的利用行動として設定した起動回数と各変数のパスは、先行研究において具体的な関連の検討は十分になされていないため、本研究において、利用時間との共分散、およびスマートフォン依存傾向、同時利用傾向、睡眠時間、運動時間、そしてwell-beingへのパスを検討した。パスモデルの検討にあたり、内生変数の同時利用傾向と他変数とのパスは有意ではなく、適合度指標も低下したため、本パスモデルから同時利用傾向は除外した。同様に、起動回数と睡眠時間、運動時間、well-beingへのパスは有意ではなく、適合度指標も低下したためパスを除外してパスモデルを検討した。
最終的に、最も適合度指標が高かった図1、2、3に示すパスモデルに至った。各パスモデルの適合度指標の一覧を表7に示す。パスモデルそのものに加え、各パスに関連はないという帰無仮説を設定し、適合度指標、パス係数、有意確率p値を確認したうえで、帰無仮説を棄却するか否かを検討した。なお、図1、2、3内の数値は標準化係数を示す。
表7. 各利用時間のモデル適合度
SNS 利用時間 |
LINE 利用時間 |
スマートフォン 利用時間 |
|
---|---|---|---|
n | 452 | 527 | 536 |
χ2 | 7.98 | 8.98 | 15.94 |
df | 5 | 5 | 5 |
p | .157 | .110 | .007 |
GFI | .995 | .995 | .990 |
AGFI | .980 | .977 | .960 |
CFI | .983 | .965 | .919 |
RMSEA | .033 | .038 | .063 |
AIC | 39.98 | 40.98 | 47.945 |
図1のパスモデルにおいて、SNS利用時間から、スマートフォン依存傾向(係数=.226)と、睡眠時間(係数= -.147)、運動時間(係数=.085)へは、それぞれ有意なパスが見られ、well-beingに対しても直接的な有意なパスを示していた(係数=.193)。また、スマートフォン依存傾向からwell-being(係数= -.089)と睡眠時間(係数= -.120)へ、有意なパスが確認され、睡眠時間からwell-being(係数=.137)、運動時間からwell-being(係数=.188)に対してもそれぞれ有意なパスを示していた。起動回数からスマートフォン依存傾向へも有意なパスを示していたが(係数=.163)、それ以外の変数への有意なパスは認められず、適合度指標も低下したため、このモデルではスマートフォン依存傾向へのパスのみを採用した。まとめると、SNS利用時間はwell-being増加と直接的な関連が示唆されたものの、スマートフォン依存傾向と睡眠時間を介し、well-being低下に間接的に関連する可能性が示唆された。起動回数も同様に、スマートフォン依存傾向を介して、well-being低下と関連する可能性を示した。
図2のパスモデルにおいて、LINE利用時間からwell-beingへ直接的な有意なパスが確認されたが(係数=.148)、スマートフォン依存傾向への有意なパス、そしてスマートフォン依存傾向からwell-beingへの有意なパスは確認されなかった。well-beingとの間接的な関連という点においては、SNS利用時間と比較して関連性の有無の相違の可能性が示唆された。また、LINE利用時間から睡眠時間(係数= -.117)、運動時間(=係数.135)に対してそれぞれ有意なパスが見られ、睡眠時間からwell-being(係数=.127)、運動時間からwell-being(係数=.184)へも有意なパスが確認された。起動回数はスマートフォン依存傾向に対して有意なパスが確認された(係数=.219)。まとめると、LINE利用時間はwell-being増加と直接的な関連があるものの、睡眠時間を介し、well-being低下と間接的に関連する可能性が示唆された。しかし、スマートフォン依存傾向とwell-beingの間には有意な関連は見られなかった。
図3のパスモデルにおいて、スマートフォン利用時間からスマートフォン依存傾向へ有意なパス(係数=.251)と、運動時間への有意なパス(係数= -.152)が見られたが、SNS利用時間とLINE利用時間のモデルでは確認された、睡眠時間への有意なパス、そしてwell-beingへの有意なパスは認められなかった。また、スマートフォン依存傾向からwell-beingへ有意なパスは見られず、睡眠時間からwell-being(係数=.110)、運動時間からwell-being(係数=.207)へは有意なパスが見られた。まとめると、スマートフォン利用時間はwell-beingと直接の有意な関連は見られず、スマートフォン依存傾向、そして睡眠時間を介してwell-being低下に間接的にする可能性、また運動時間を介してwell-being低下と間接的に関連する可能性が示唆された。
各モデルは、睡眠時間と運動時間からwell-beingへの有意な正のパスが見られること、スマートフォン依存傾向から睡眠時間へ有意な負のパスが見られること、起動回数からスマートフォン依存傾向へ有意な正のパスが見られる点で共通していた。それ以外のパスにおいては、各利用時間で異なる結果が見られた。特に、スマートフォン利用時間のモデルのみwell-beingへの直接的な有意なパスが見られない、LINE利用時間のモデルのみスマートフォン依存傾向への有意なパスが見られない、SNS利用時間のモデルのみスマートフォン依存傾向からwell-beingへの有意なパスが確認された点が挙げられる。
各モデル、および5%以下の有意確率p値が示された各パスにおいては帰無仮説が棄却された。すなわち、各利用時間において、well-beingと直接的な関連だけでなく、各変数を介して間接的に関連する可能性が示唆された。なお、本研究は、多母集団同時分析など直接比較を検証したわけではないため、関連の程度の相違についての言及はできない。今後も継続的に検討し各アプリケーションの関連の程度の相違を検証することが求められる。
3.4.考察本研究の結果を振り返る。先行研究で指摘されていたスマートフォン利用時間をはじめ、SNS利用時間やLINE利用時間、スマートフォン依存傾向、同時利用傾向とwell-beingの関連については、本研究の相関分析では、有意な負の相関は認められず、むしろSNS利用時間(r=.153)とLINE利用時間(r=.148)は、それぞれwell-beingと有意(p<.01)な非常に弱い正の相関が確認され、スマートフォン利用とwell-being増加の関連を示唆する一部の先行研究[14]と同様の結果となった。また、スマートフォン固有の特徴である受動利用性の起動回数もwell-beingと有意(p<.05)な非常に弱い正の相関(r=.098)が確認された。
パス解析を見てみると、SNS利用時間とLINE利用時間は、well-beingに対し直接的な有意(p<.001)なパスが見られたが(SNS利用時間:係数=.193, LINE利用時間:係数=.148)、スマートフォン利用時間では見られなかった。SNS利用時間とスマートフォン利用時間、そして起動回数は、スマートフォン依存傾向や睡眠時間を介して、well-being低下と有意な関連があることが示唆された。これらの結果より、以下のことが示される。
まず、スマートフォンは、利用するアプリケーションごとにwell-beingとの関連性の有無が異なる可能性が示唆された。関連の程度も異なる可能性が考えられるため、直接比較を検証する分析モデルを実践するなど、今後の研究において各アプリケーションの関連の程度の相違を検証することが求められる。スマートフォン利用時間にはLINEやSNSはもちろん、本調査では対象外であったが長尺の動画視聴や音楽、ゲームの利用時間も含まれており、各アプリケーションの利用時間の構成比に影響を受ける可能性が高い。アプリケーションごとにwell-being増加・低下の関連が見られることも考えられ、そのためスマートフォン利用時間のみがwell-beingと直接の関連が示唆されなかった可能性も考えられる。したがって、スマートフォン利用とひとくくりにせず、利用率の高いアプリケーションごとに、利用時間とwell-beingの関連を検討する必要があると言えるであろう。
続いて、well-being低下との関連を指摘する一連の先行研究と本研究が異なる結果となった理由の1つとしては、一部の先行研究で指摘されていたように、自己申告データではなく実際の利用ログデータを分析に利用したことが挙げられる。平均的な利用者は、利用時間を自己申告する際に過大申告する傾向[25]があるため、well-being低下との関連が確認されやすくなる可能性があることに加え、「スマートフォンの利用時間が多いほどwell-beingが低い」といったニュースや情報に事前に触れていることで、過大な利用時間を申告したユーザーはwell-beingを低く見積もり、調査の回答をする可能性も考えられる。
次に、SNSやLINEの利用は、青年期においては、友人数や友人との繋がり、社交といった社会関係の充実と関連すると考えられ、その利用時間は利用者にとってネガティブなものではなく、利用時間がwell-being増加と関連すると考えられる。SNSとLINEは前述したように、社会関係の充実という共通の特徴も持つが、親しい友人のみか、それとも友人以外とも繋がっているか、連絡を取ることを主目的とするか、それとも承認や賞賛を目的に投稿等の行動を取るかなど、異なる特徴も有する。本研究では、両者の違いは確認されなかったが調査設計・尺度を再検討することで、LINEとSNSで異なる結果が得られることも考えられるため、今後も継続的に検討していきたい。そして、SNSもアプリケーションごとにその利用特性は異なるため、各SNSのアプリケーション別に利用時間とwell-beingの関連を検討する必要もある。
受動的な利用性質として取得した起動回数の多さは、パス解析においてはスマートフォン依存傾向と関連し、スマートフォン依存傾向からwell-being低下への直接的な関連、あるいは睡眠時間を介したwell-being低下への間接的な関連が示された。起動回数の多さは、意識せずともスマートフォンを手に取り通知や受信が来ていないかを確認する行動の頻度の高さと解釈でき、このような受動的利用を促進する行動がスマートフォン依存傾向を高めていると考えられる。一方で、睡眠時間や運動時間など他変数との関連、およびwell-beingとの直接の関連は、パスモデル検討時に確認したところ認められず、モデル適合度指標も低下したため採用に至らなかった。
そして、SNS利用時間はwell-being増加と直接的な関連が示唆されたが、スマートフォン依存傾向や睡眠時間を介して間接的にwell-being低下と関連する可能性も示唆された。LINE利用時間もwell-being増加と直接的な関連が見られたが、スマートフォン依存傾向との関連は確認されなかった。スマートフォン利用時間はwell-beingとの直接的な関連は確認されなかったが、スマートフォン依存傾向、そして睡眠時間を介してwell-being低下と間接的に関連する可能性が示唆された。このように、アプリケーションによってどの変数と関連するかは異なり、well-beingとの関連性の有無も異なる可能性が見いだされた。
また、一部の先行研究の見解と同じく[13]、各利用時間とwell-being低下の関連の程度は小さい可能性が示唆された。スマートフォン利用時間とwell-being には直接的な関連は見られず、SNS 利用時間と LINE利用時間はwell-being増加と直接的な関連も見られるなど、各利用時間とwell-being低下の直接の関連が本研究では見られなかった。また、各変数を介することで、well-being増加・低下の関連が混在し、関連性の程度も変わる可能性も考えられる。そのため、スマートフォン利用を過度に危険視することはできず、一部メディアや書籍等で提言されるような、スマートフォン利用そのものがwell-beingをはじめとした精神的健康に大きな害をもたらすと結論することもできない。
最後に、スマートフォン利用にはアプリケーションごとに、他変数を強めるもの、弱めるものがあり、それは先行研究で指摘されていた「剥奪仮説(特定の他活動をスマートフォン利用が代替する)」や「強化仮説(スマートフォン利用によって他活動が強化される)」の知見[15] とも合致することが明らかとなった。本研究では、SNS利用時間とLINE利用時間はそれぞれ睡眠時間の低下と関連していたが、これは両利用時間が夜間における友人との交流等によって睡眠時間を剥奪している可能性が考えられる。また、SNS利用時間とLINE利用時間はそれぞれwell-being増加との関連を示したが、それはスマートフォン利用によって、他活動の剥奪ではなく、友人との交流・連絡交換などの活動が強化されていることが理由の1つと考えられる。
表1に記載したように、本研究の調査協力者の平均スマートフォン利用時間は285.4分/日、LINE利用時間は34.3分/日、SNS利用時間は96.7/分である。2023年に日本国内の青少年を対象に、こども家庭庁で実施された調査データを見てみると、スマートフォン利用時間は236.5分/日[1]であったが、スマートフォンによるインターネット利用に限定したデータであることを考慮すると、本調査データと大きな乖離はないと解釈できると考える。高校生年代でアプリケーション別に利用時間を取得した調査は少ないものの、LINEを含むSNSの平均利用時間は、1~2時間未満の回答者26.7%、2~3時間未満の回答者25.3%となっており[2]、こちらも本調査と大きな乖離はないと考えられる。そのため、本調査結果で得られた結果は、本調査サンプルのみに現れる特有の傾向であるとは言えないであろう。
本研究の結果、先行研究が指摘する、利用そのものがwell-being低下と関連を示すという結論は、単純には導き出せないことが示唆された。利用内容や方法によってはwell-being増加と関連することもあり、また睡眠時間や運動時間を剥奪しない、またはスマートフォン依存傾向につながるような重度利用をしない限りにおいては、well-being低下と関連しないと解釈することもできうる。いずれにせよ、利用ログデータを用い、各変数間の関連を分析したうえで、スマートフォン利用とwell-beingの関係を具体的に検討した結果、先行研究で指摘されているwell-being低下との関連は、本研究では確認されず、利用そのものが危険であると結論づけることはできないことが明らかとなった。
本研究は、スマートフォン利用とwell-beingの関連において、利用率の高いアプリケーションごとに、利用時間の実際の利用ログデータを用い、また、スマートフォン固有の特徴である受動利用性に着目し、具体的な関係性を実証的に検討した。これまでの先行研究で指摘されている利用時間や同時利用傾向、そしてスマートフォン依存傾向は、well-being低下と関連しているのか、それらは直接的に関連するのか、それとも他変数を介して関連するのかを検討した。研究成果を、第2章にて挙げた3つのRQに基づき以下にまとめる。
これらの研究成果により、スマートフォン利用とwell-being低下の関連を指摘する一連の先行研究に対し、各アプリケーション別の利用時間、起動回数、同時利用傾向、スマートフォン依存傾向、そして睡眠時間や運動時間といった生活習慣と、well-beingの具体的な関連について検討を深め、新しい知見を提示することができた。また、今後同領域における、スマートフォン利用のネガティブな側面に焦点を当てた関連を研究する際には、スマートフォン利用時間とひとくくりにして関連を検討するのではなく、利用率の高いアプリケーションごとにそれぞれ関連を検討すること、スマートフォン固有の特徴に着目すること、利用ログデータを用いること、そしてスマートフォン依存傾向や生活習慣を含めた各変数間の関連を具体的に考慮する必要性を示すことができた。
しかしながら、本研究には、研究課題も存在する。1つは、対象となるアプリケーションの種類である。本研究では利用率の高さと先行研究で指摘されていたことからメッセージングアプリのLINEと各SNSを中心に検討したが、動画視聴サービスや音楽配信サービス、スマートフォン・ゲーム、通話、インターネット検索といった他アプリケーションの利用率も高い。また、SNSはトレンド性が高く、短期間で利用率の高いサービスも変わっていくため、1つの調査研究の結果を持って、結論づけることはできない。また、本研究の結果のみで、SNS利用時間とLINE利用時間のwell-beingに対する関連の程度の相違についても結論することはできず、今後の研究において多母集団同時分析や実証実験などを通じて、直接比較を実施することで、各アプリケーションの関連の程度の相違を検証することが求められる。
2つ目は、調査対象者のサンプリングである。本研究では、千葉県に所在する私立高校を対象としたが、同校は大学進学率も高く、同年代の母集団を適切に反映しているとは言い難い。エリアや学力偏差値、中学生や大学生といった他年代など、サンプリング条件が変わっても同様の成果が得られるのか否かについては、今後も同様の研究を継続的に検討し知見を蓄積していくことが求められる。また、本研究はスマートフォンおよびLINE、各SNSの利用者を対象としたが、スマートフォン未所有者、そして未利用者までを対象に含み、well-beingとの関連の検討を重ねていくことでより知見が蓄積されるため、今後の調査設計にて考慮をしたい。
3つ目は、利用データである。本研究では、先行研究で課題として指摘されていた自己申告データではなく、利用ログデータを活用したが、同時利用傾向や睡眠時間、運動時間など、一部データはそのデータの性質上、自己申告データにならざるをえなかったことは、課題として挙げられる。また、受動利用性として分析に利用した起動回数も、受動的な利用を念慮する心的傾向との関連は認められているものの、起動回数が受動的な利用行動の結果として確実に起こっているとは当然断定できない。そのため、受動利用性のデータの確立という点でも課題は残る。
そして最後に、因果関係には言及できない点を課題として挙げたい。本研究は一時点のデータを使用しており、各生徒の時間的変化の測定はできていない。介入を伴う実験調査でもないため、因果関係の検討には至っていない。パス解析においても、パスの向きごとに各適合度指標を確認し、最適なモデルを選択しているものの、因果関係ではなく、あくまでも各変数間の増加・低下の傾向との関連について言及できるにとどまる12。本研究で得られた知見をもとに、データを縦断的に取得・分析するなど、本領域の調査研究を発展させていく必要がある。
このように、いくつかの研究課題は存在するものの、スマートフォン利用とwell-beingの関連において、より具体的な検討を進め、知見を提示することができた。青少年のスマートフォン利用について、well-being低下との関連があるという一方的な見解や立場から主に利用を制限・抑制を推奨するガイドラインや教育的・生活的指導や取組みが多く聞かれるなか、本研究の結果を参照することで、利用時間だけでなく利用方法や生活習慣、アプリケーション別の利用を検討するなど、多面的でバランスの取れた事実認識と解釈、議論を可能にし、対処方法や利用方針の確立のための一助となれば幸いである。そして、本研究によって得られた成果が、今後の同領域の研究に寄与し、研究知見がますます蓄積されていくことを期待したい。
本研究の調査を実施するにあたり、研究協力校の生徒、ならびに教諭の方々に多大なご協力とご厚意、そしてサポートをいただきました。ここに深謝の意を表します。
1 東京大学大学院学際情報学府博士課程
2 Quality of Life研究の発展の中で、個人の主観的判断、心理的側面を重視するSWB(Su-bjective Well-Being)の研究が発展した[26]。SWBは、家族・仕事など特定の領域に対する満足や人生全般に対する満足を含む広範な概念であり[27]、主観的幸福感あるいは主観的健康感と訳されるが、本稿においては同分野の他研究の慣習にならいwell-beingを用いる。
3 依存傾向や、受信メッセージを念慮する念慮性傾向、利用を抑止するセルフコントロール傾向など、利用者それぞれの心理的な傾向を本論文では心的傾向と表している。
4 スマートフォン利用とwell-being間にほとんど関連が見られないと指摘する研究[13]や、well-beingの増加との関連を示唆する研究も存在するが[14]、本研究ではwell-being低下との関連を想定し、RQを設定した。
5 スマートフォンの起動回数は、主にロックを解除し利用を始める動作を指し、iOS内の表記では持ち上げ回数、Androidでは起動した回数と説明されており、本研究では「起動回数」と表記する。起動回数は先行研究において、受動利用の心的傾向である受信や通知を念慮する受信念慮性との相関が示唆されており[19]、受動利用性の変数として利用する。
6 株式会社マクロミルが提供するQuestantのアドホックプランを利用。<https://questant.jp/> Accessed August 17, 2024
7 TikTokは、X(旧Twitter)やInstagramなど他SNSと同様に短尺の動画の投稿・共有・視聴が主な利用形式のため、本研究ではSNSに分類している。YouTubeは長尺動画も多く、視聴が主な利用形式のため、本研究ではSNSに分類していない。
8 例えば、設問9の“Using my smartphone longer than I had intended”は「使う前に意図していたより、スマートフォンを長時間使ってしまう」と翻訳し使用した。「とてもあてはまる」から「まったくあてはまらない」の5件法で回答を求めた。
9 先行研究ではFacebook、インスタントメッセージ、電子メール、電話、テキスト、授業に関係のない検索の各項目を、学習中に「非常に頻繁に利用する」から「一度も利用したことがない」の5件法で回答を求めている。本研究では、スマートフォン、LINE、X(旧Twitter)、Instagram、TikTok、Facebookの6項目にて、5件法で学習中の同時利用傾向の回答を求めた。
10 睡眠時間は、1時間未満から9時間以上まで1時間ずつ、運動時間は、30分未満から4時間以上まで30分ずつ、それぞれ9件法で回答を求めた。
11 社会科学分野において、説明変数の一部が統計的に有意であるという条件を満たしていれば、決定係数が0.1と低くても許容されるという先行研究を参照し検討した[32]。
12 本論文においては、読みやすさに配慮し「正・負の関連」という表現を避け、「増加・低下の関連」という表現を、全体を通して使用しているが、因果関係について言及する意図では使用していない。