Journal of Intelligence Science in Local Research
Online ISSN : 2759-1158
Journal
A Study of Comprehension and Stumbling in the Basics of “Descriptive Statistics”
Through Analysis of Test Errors on “Data Analysis”
Jun Sasaki
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2024 Volume 1 Issue 2 Pages 20-39

Details
Abstract

 本研究では、大学・高専生及び社会人に対して数理・データサイエンス・AI教育を効果的に行うことを目的として、それらの教育の必要となる「記述統計」の基礎事項の理解度とつまずき箇所の考察を、文系大学生に行った基礎力テストを用いて分析を行った。 分析の結果、問題で具体的な数値を与えた場合、平均・中央値・最頻値を求める方法については良好な正答率であった。しかし、具体的に数値を与えなかった場合は平均についても求めることができない学生が散見され、具体的な数値を与えた場合と比較して有意な差が認められた。分散については、具体的な数値を与えた場合も正答率は低く、具体的な数値を与えなかった場合は正答率が更に下がった。そのため、分散の教育は具体的な計算から指導する必要があると考える。四分位数については定義が曖昧な学生が散見されたため、教育を実施する際は定義の説明のみならず意味や実用性を含める必要がある。

Translated Abstract

In this study, with the aim of effectively providing education in mathematics, data science, and AI to university and technical college students and working adults, we analyzed the understanding of the basic concepts of “descriptive statistics” necessary for such education and the points where students have difficulties, using a basic skills test administered to liberal arts university students. The results of the analysis showed that the students had a good level of understanding of questions that required them to find the mean, median and mode. However, the correct response rate for questions about variance and quartiles was low, and there were some students whose definitions were unclear. Therefore, I think that education on descriptive statistics should include guidance on the meaning of variance and quartiles.

【原著論文】

「記述統計」の基礎事項の理解度とつまずき箇所の一考察

―「データの分析」に関するテスト問題の誤答分析を通して―

A Study of Comprehension and Stumbling

in the Basics of “Descriptive Statistics”

―Through Analysis of Test Errors on “Data Analysis”―

佐々木 淳1

Jun Sasaki1

1下関市立大学

Shimonoseki City University

要旨

 本研究では、大学・高専生及び社会人に対して数理・データサイエンス・AI教育を効果的に行うことを目的として、それらの教育の必要となる「記述統計」の基礎事項の理解度とつまずき箇所の考察を、文系大学生に行った基礎力テストを用いて分析を行った。

分析の結果、問題で具体的な数値を与えた場合、平均・中央値・最頻値を求める方法については良好な正答率であった。しかし、具体的に数値を与えなかった場合は平均についても求めることができない学生が散見され、具体的な数値を与えた場合と比較して有意な差が認められた。分散については、具体的な数値を与えた場合も正答率は低く、具体的な数値を与えなかった場合は正答率が更に下がった。そのため、分散の教育は具体的な計算から指導する必要があると考える。四分位数については定義が曖昧な学生が散見されたため、教育を実施する際は定義の説明のみならず意味や実用性を含める必要がある。

キーワード:代表値、記述統計、散布度、四分位数

Abstract

In this study, with the aim of effectively providing education in mathematics, data science, and AI to university and technical college students and working adults, we analyzed the understanding of the basic concepts of “descriptive statistics” necessary for such education and the points where students have difficulties, using a basic skills test administered to liberal arts university students.

The results of the analysis showed that the students had a good level of understanding of questions that required them to find the mean, median and mode. However, the correct response rate for questions about variance and quartiles was low, and there were some students whose definitions were unclear.

Therefore, I think that education on descriptive statistics should include guidance on the meaning of variance and quartiles.

Keywords: Descriptive Statistics, Measures of Central Tendency, Statistical Dispersion, Quartile Points

1.はじめに

AIやデータサイエンスの発展は急速に進んでおり、その影響は社会のあらゆる分野に及んでいる。閣議決定された内閣府(2022)による「AI戦略2022」において様々な具体目標が定められ、大学・高専生に対しては「文理を問わず、全ての大学・高専生(約50万人卒/年)が課程にて初級レベルの数理・データサイエンス・AIを習得」することを目指し、社会人に対しては「多くの社会人(約100万人/年)が、基本的情報知識と、データサイエンス・AI等の実践的活用スキルを習得できる機会をあらゆる手段を用いて提供」することとしている。この目標から数理・データサイエンス・AIの技術を活用するための基盤として、数理的な能力の重要性が強調されていることがわかる。

しかしながら、大学・高専生及び社会人に対して数理・データサイエンス・AI教育を行う場合は、中等教育のそれとは違い、教育に充てられる時間が限られているため、効果的に教育を行うことが不可欠となる。具体的には学生や社会人が何を理解していて、理解不足の内容がどこにあるのかを教育を行う者が踏まえた上で教育を実施しないと、学生や社会人が知っていることを丁寧に教育することになることや十分に理解できていないことに気づかず教育することになり、所要の結果が得られない可能性が考えられる。

そこで本研究では、文系大学生を対象に実施した記述式の数学基礎力テストの中から、数理・データサイエンス・AI教育の基礎となる高等学校数学Iの「データの分析」に関する問題に焦点を当てる。そして理解度およびつまずき箇所を把握し、高等学校、大学の教育及び社会人に対するリカレント教育のいずれにも効果的となる示唆を得ることを目的とする。

この目的とした理由は、誤答例から教育内容に強弱をつけ効果的なものするためである。数学・統計の単元や問題は、易しいものから難しいものまで幅広くあるが、難易度を考慮した研究は多くない。そのため、例えば高等学校等における数学の授業であれば、教員による経験もしくは教科書の配列順などを頼りにすることになる。教員に経験がない場合に問題解説を行う際、もしかすると授業を受けている生徒がよく分かっている問題に対して時間をかけて丁寧に解説を行っている可能性や、逆に生徒があまり理解できていない問題に対して理解ができている問題と同じ時間で解説を行い、生徒が理解不足になっている可能性も考えられる。本研究がその対策となり、効果的な教育の一助となることを目的としている。

なお、本研究における文系大学生とは、文学部、経済学部、法学部などの文系学部に所属する大学生とする。また、数学の基礎力は、高等学校の教科書に掲載されている例題の意味を理解し、計算間違いをせずに解答できる能力と定義する。本研究は、佐々木(2023)及び佐々木(2024)をもとに更に分析を行い、大幅に加筆・修正したものである。

 

2.研究の方法等

2-1.分析する問題

誤答の分析は、文系大学生の数学基礎学力を測るために2023年度及び2024年度に実施した数学基礎力テストを用いて行った。数学基礎力テストは、数理・データサイエンス・AIを学ぶ上で必要となる統計の基礎的な能力を確認する内容で、記述統計に関連する内容であるデータの分析から7題、推測統計に関する内容である、集合から1題、場合の数から4題、確率から5題、数列のΣ計算から2題、積分の計算から2題で構成されている。

本研究は数学基礎力テストにおけるデータの分析の問題7題から表1にある4題の分析を行う。この4題を選出した理由は、データの分析における基本的な概念であるとともに、数理・データサイエンス・AIの理解に不可欠となるためである。本数学基礎力テストの問題は、学校基本法30条2項にある「生涯にわたり学習する基盤が培われるよう、基礎的な知識及び技能を習得させる」ことを踏まえ、基礎的な知識及び技能を確認できるものとし、具体的には高等学校の教科書や東京理科大学数学教育研究所(2022)を参照して出題した。

表1 基礎力テスト1における「データの分析」に関する内容を抽出

問題 内容(下線は2024年のみ出題、下線なしは2023年・2024年の両年出題)
1

次のデータに対して問いの値を求めよ「1、2、3、4、5、6、6、7」1

(1)  中央値、(2)  最頻値、(3)  範囲、(4)  第1四分位数、(5) 第2四分位数、

(6) 第3四分位数

2

次のデータに対して問いの値を求めよ「9、4、7、8、5、1、10、8、2」

(1) 平均、(2) 分散、(3) 中央値、(4) 最頻値、(5) 範囲、(6)  第1四分位数、(7)  第2四分位数

3 平均点が60、分散が225のテストにおいて、全員の点数を10点加えたとき及び10倍したときの平均点
4 平均点が60、分散が225のテストにおいて、全員の点数を10点加えたとき及び10倍したときの分散

2-2.分析方法

 数学基礎力テストを採点し、正答・誤答、無答の人数及び割合を算出した。平均・分散については、問題2のように具体的な数値で出題したものと、問題3及び問題4のように、具体的な数値を与えなかったものがあり、これらの正答率に有意な差があるか否かについてはマクネマー検定を用いて分析した。また、中央値及び第2四分位数の正答率についても、有意差を調べるためマクネマー検定を用いた。分析にはSPSS for windows Ver.28.0を用いた。なお、SPSSにおけるマクネマー検定のp値は、二項検定のよるp値が算出されるため、検定統計量から算出したp値はそれとは別に示した。

前述の分析後、誤答の集計を行い、どのような誤解や理解不足があるのかを分析した。

2-3.研究対象者

対象は公立S大学経済学部の学生で、主となる対象学年は1年生である。回答は記述式で行い、プリントやノートの持ち込みは不可とした。実施日、試験時間及び受検者数等の内訳は表2の通りである。なお本研究において、研究対象を大学生とした理由は、高等学校における教育課程を経た学生が、どの程度基礎知識および学力レベルを身に付けているのかを検証すると同時に、短期的な記憶に依存した学習効果を最小限に抑えるためである。具体的には、定期試験の直前に行われる一夜漬け学習などによって得られる短期的な記憶効果に左右されない状況とすることで、研究の信頼性を高めることを目的とした。

2-4.倫理的配慮

対象の学生には文書と口頭により研究の趣旨を説明した。研究の参加は自由意志によること、途中で拒否できること、個人情報の保護及び匿名性の確保等を伝え、研究同意書を用いて同意を確認した。本研究に不同意の学生はいなかったが、日本とカリキュラムが異なる留学生及び過去に同数学基礎力テストを受検した再履修の学生は分析対象に含めなかった。分析の対象に含めなかった学生は、2023年度の留学生9人、2024年の留学生9人及び2023年度に基礎力テストを受検し、2024年に再履修した学生の3人である。本研究の調査実施に当たっては、下関市立大学の倫理委員会(受付番号2301-0417)の承認を得て行った。

表2 基礎力テスト1の実施年度、実施日、試験時間及び受検者数

実施

年度

実施日

試験

時間

有効回答数(受検者数)単位:人
1年 2年 3年 4年
2023 5月15日 60分 287 (292) 14 (16) 6 (6) 7 (9) 314 (323)
2024 4月22日 75分 281 (290) 12 (14) 1 (1) 2 (3) 296 (308)

3.先行研究

「データの分析」に関する誤答分析は、高等学校の単元として「データの分析」が導入される前と後でそれぞれ存在する。

「データの分析」導入前の先行研究としては、日本数学会(2013)が、平成 23 年度入学の大学新入生を主な対象として46の大学で大規模な調査を行っている。代数・幾何・解析の 3 分野から偏りなく出題しており、この中に「データの分析」に関する内容が含まれている。

「データの分析」に関する内容は、分布や平均に関する基本的な正誤問題であった。日本数学会(2013)は、正答率を90%と想定していたが、結果は大幅に下回っていた。分析の結果及び、東京理科大学数学教育研究所(2006)が行った2005年基礎学力調査報告の結果から「定義に従って平均を計算することはできるが、平均の性質や意味がわからない層がかなりいると思われる」と指摘している。

「データの分析」の導入後の先行研究としては、中村(2019)が、公立短期大学校で数学的な知識や技能を必要とする工業系の学科(建築科、情報技術科)に所属している学生45人に対して実施している。中村(2019)は、「データの分析」の学習内容の理解の様相について3つの結果を残している。1つ目は、調査した工業系の学生45人の中に「データの分析」を苦手としている学生が約4割存在すること。2つ目は「最頻値、四分位数、箱ひげ図については苦手意識がないが、実際にはそれらの意味を十分に理解していない」こと。3つ目は「分散、標準偏差、相関係数は、苦手意識をもっており、実際にそれらの意味や関係を理解できていない。また、それらの値を求めることもあまりできていない」ことである。中村(2019)はこれらの結果を踏まえ、「分散、標準偏差、相関係数は、それぞれの意味と関係の理解が重要」「四分位数と四分偏差の意味を理解し、箱ひげ図との関係で捉えることができるように指導することが必要」で、そのためには「5数要約量の視覚化を指導に取り入れることが有効」であり、「データの分析」の指導においては「苦手意識を取り、学習内容が好きで、楽しくなるような教材、題材や指導などの工夫が必要」と述べている。

中村(2019)の結果は有用であるものの、対象者数が少ないためサンプルサイズを考慮すると、調査結果は集団依存の可能性も考えられる。また、対象者が数学的な知識や技能を必要とする理系の学生であるため、そうではない学生、特に文系の学生の様相については調査・分析の蓄積が必要と考えられる。

学習の定着度の観点では、高松・村上・関・中田(2017)が、「データの分析」が高等学校の学習課程に導入され、その内容を学んだ高校生が初めて大学に入学した2015年度に、神戸常盤大学保健科学部(看護学科および医療検査学科)の新入生を対象に「データの分析」から選んだ17項目で基礎学力テストを実施し、その結果を分析している。

分析の結果は「数学的な概念の学習定着度が低かった」と結論付けており、「大学における統計学教育においても再度、学習定着度を向上させる教育が必要である」と指摘している。ただし、この論文では調査した問題を非公開にしている点と、表3と論文中の分析の通り正答率に有意な差が見られるものの、その理由が明らかにはされておらず、改善策の具体的な言及がなされていない。そのため、大学において統計教育の再教育が必要であること、特に正答率が低い分散や四分位数の教育を強調する必要があることは示唆されるものの、その原因が計算力不足によるものなのか、転記間違いなどのケアレスミスによるものなのか、定義の記憶が曖昧によるものなのか、詳細な情報を得ることができない。

表3 正答率 高松・村上・関・中田(2017)から、特徴的なデータを抽出(表中の百分率は正答率)

年度 学科 対象人数 分散2 第2四分位数 第3四分位数 散布図2
2015 看護 74 16% 39% 47% 66%
2015 医療検査 85 41% 55% 65% 79%
2016 医療検査 95 58% 60% 73% 67%

出典:高松邦彦・村上勝彦・関雅幸・中田康夫(2017)「神戸常盤大学保健科学部新入生に対する統計学教育に関する一考察 ―高等学校数学Ⅰ(新課程)の「データの分析」の学習定着度をもとに―」

全国学力・学習状況調査では、小学生及び中学生に様々な代表値やグラフの定着度を確認する調査をしている。中学の数学では、令和5年度は累積度数(正答率:46.3%)、四分位範囲(正答率:65.7%)及び箱ひげ図の解釈(正答率:33.9%)、令和4年度はヒストグラムの解釈(正答率:44.2%)、箱ひげ図の解釈(正答率:44.4%)、令和3年度はヒストグラムの度数の読み取り(正答率:83.2%)、令和2年度は範囲(正答率不明)、平成31年は最頻値(正答率:58.6%)、中央値(正答率:54.1%)ヒストグラムに関する内容(正答率:13.8%)などである。小学校の算数では、令和5年度は棒グラフの読み取り(正答率;56.4%)及び分割表の読み取り(正答率:64.8%)、令和3年度は棒グラフの読み取りが2つ(正答率:90.8%と78.8%)、平成31年度も棒グラフの読み取りが2つ(正答率:95.2%と78.8%)であった。

これらはデータの分析に関する誤答分析の先行研究の一部であるが、データの分析に関する誤答分析は少なく、文系の学生を対象とした誤答分析については更に少ない。冒頭で引用した内閣府(2022)のAI戦略2022が掲げているのは「文理を問わず」であるため、文系の学生がどこまでを理解していて、どの内容に理解不足があるのかについては研究の蓄積が必要であると考える。

本研究は、先行研究の調査対象では少なかった文系の学生に焦点を当て、答案の誤答分析から学生が理解不足の原因となっている箇所の把握を行い、効率的な教育への示唆につなげることを目的とする。なお、本研究が対象とする学生と先行研究が対象とする学生とでは、受けてきたカリキュラムが異なる点について注意した上で分析を行っている。

4.誤答の分析

4-1 平均・分散の誤答分析

4-1-1 具体的な数値を与えた場合の平均・分散の誤答分析

表1の問題について正答率及び誤答の分析を行う。平均及び分散の計算については表1の問題2で出題した。問題は「9、4、7、8、5、1、10、8、2」の平均と分散で、答えは、それぞれ 6 80 / 9 であり、結果は表4の通りであった。平均の結果については良好であったが、分散については正答者が2割程度であった。

平均の誤答は、データの大きさを9ではなく10としたことによる計算間違いなどのケアレスミスによるものがほとんどであり、定義を把握していないと考えられる回答はほとんどなかった。ただし、平均を間違えた場合は分散も間違えることになるため、サンプルの大きさの数え直しや計算の確認などの見直しの重要性を伝える必要があると考える。分散の誤答の概要については表5の通りで、計算間違いと定義を把握していないものに大別された。

表4 問題2(1)平均・(2)分散の正答・誤答・無答の内訳

(単位:人、括弧内の単位:受検者数に対する百分率、以後の単位も同様とする)

問題 年度 正答 誤答 無答 受検者数

問題2

(1) 平均

2023 299 (95.2) 15 (4.8) 0 (0.0) 314
2024 280 (94.6) 16 (5.4) 0 (0.0) 296
合計 579 (94.9) 31 (5.1) 0 (0.0) 610

問題2

(2) 分散

2023 78 (24.8) 94(29.9) 142 (45.2) 314
2024 55 (18.6) 145 (49.0) 96 (32.4) 296
合計 133 (21.8) 239 (39.2) 238 (39.0) 610

表5 問題2(2)分散の誤答の概要

分散の誤答の概要 回答の数値 年度 合計
2023 2024
分子(偏差平方和)の計算間違い   
81 / 9 = 9
9 33 42 62
  
89 / 9
6 0 6
上記以外 10 4 14
偏差平方和を回答 計算正解   
80
8 26 34 39
計算間違い 上記以外 1 4 5
偏差平方和の平方根を回答   
80 = 4 5
8 9 17
偏差の和、偏差の和の平均を回答 0 5 8 13
最大値を回答 10 5 2 7
標準偏差(計算間違い含む)を回答   
4 5 / 3
6 0 6
平均の平方根を回答   
6
2 4 6
平均偏差を回答 計算正解   
24 / 9 = 8 / 3
0 3 3 6
計算間違い   
20 / 9
0 1 1
分子のみ   
24
0 2 2
計算間違い後、平方根を回答   
9 = 3
3 2 5
2乗平均、計算は正答   
404 / 9
3 2 5
最頻値   
8
3 2 5
割るサンプルの大きさの間違い 80 / 6 80 / 36 0 3 3
その他 25 40 65
合計 94 145 239

定義を把握していないことに起因する誤答を分析すると、偏差平方和を回答したものやその平方根、偏差を2乗しなかったもの、最大値、平均偏差を回答したものなどであった。これらの誤答は、偏差を2乗する意味や偏差平方和をサンプルの大きさで割る理由を理解していないことが原因で分散の定義が正確に記憶されず、誤答になった可能性が示唆される。

そのため、分散を指導する際には、偏差を2乗する意味を強調すること、特に偏差の和が0になるという結果を口頭で説明するにとどめず、実際に計算して0になることを提示するなど、面倒な計算を省略せずに見せて、実感させる必要があると考える。その上で、偏差平方和をデータの大きさで割る(偏差平方の平均とする)説明を行い、公式の意味を理解させることで曖昧な公式暗記による誤答が減少すると考えられる。特に、サンプルの大きさで割ることは、後に学習する自由度や不偏分散の理解にもつながるため、定義式や公式を提示して演習するのみならず、具体的に演習した問題を活用しながら、公式の意味を言葉にして説明するなどの工夫が必要になると考える。そして、これらの配慮は中央教育審議会(2014)が指摘する「知識の暗記・再生に偏りがち」を防ぐことにもつながると考える。また、分散は、統計的な推測などで必須の統計量であるため、知識のみの習得にとどめてしまうと、分散の知識が必要となる統計的な推測の理解不足につながる可能性があると考えられる。

なお、この誤答結果が示すように、意味を理解することが大事であることはもとより、計算力も大事であることも強調する必要があると考える。

4-1-2 具体的な数値を与えない場合の平均・分散の誤答分析

表4の結果は、具体的な数値を与えた場合の平均・分散の誤答である。そうではない場合が問題3及び問題4であり、結果は表6の通りである。問題3、問題4の正答・無答の判断は、10を加えた場合、10倍した場合の両方ともに正答・無答の場合とし、それ以外を誤答に分類した。表4では正答率が約95%であった平均の正答率は、問題3の表6で64.5%と30%以上も下がっており、表4では正答率が約20%であった分散の正答率は、問題4の表6で4.7%と、15%以上も下がった。平均、分散ともに問題2と比較すると、正答率が大きく下がったため、この正答率の有意差を調べるためにマクネマー検定を行った。

表6 問題3の平均、問題4の分散の正答・誤答・無答の内訳

問題 年度 正答 誤答 無答 受検者数
3  平均 2024 191 (64.5) 60 (20.3) 45 (15.2) 296
4  分散 2024 14 (4.7) 199 (67.2) 83 (28.0) 296

2024年度の問題2(1)の平均と問題3の平均の正誤についてマクネマー検定を行った結果、検定統計量が71.36、p値が2.98 10 17 、二項検定によるp値が 2 i = 0 11 ( 111 i ) ( 1 2 ) 111 = 4.09 10 19 であり、具体的な数値で与えた場合の平均と具体的な数値を与えなかった場合の平均の正答率に有意な差が見られた。検定統計量及びp値算出に使用した分割表は、表7である。

表7 問題2(1)の平均、問題3の平均に関する分割表

問題3の平均 合計
正答 誤答・無答

問題2 (1)

の平均

正答 180 100 280
誤答・無答 11 5 16
合計 191 105 296

同様に2024年度の問題2(2)の分散と問題4の分散のデータに対してマクネマー検定を行った結果、検定統計量が29.49、p値が 5.62 10 8 、二項検定によるp値が 2.72 10 8 であり、具体的な数値で与えた場合の分散と具体的な数値を与えなかった場合の分散の正答率に有意な差が見られた。検定統計量及びp値算出に使用した分割表は、表8である。

表8 問題2(2)の分散、問題4の分散に関する分割表

問題4の分散 合計
正答 誤答・無答

問題2 (2)

の分散

正答 6 49 55
誤答・無答 8 233 241
合計 14 282 296

 問題3の平均及び問題4の分散の誤答の概要は表9の通りである。

表9 左の表が「平均」の誤答、右の表が「分散」の誤答(灰色の背景は無答もしくは誤答)

問題3 平均の誤答 誤答の人数
+10の場合 ×10の場合
70 無答 14
70 60 11
60 600 6
70 70 3
60 60 3
70 120 2
60 無答 2
無答 600 2
1人だけの回答が17 17
合計 60

問題3の平均の誤答については「10を加えたときに70、10倍したときに白紙」と回答したものと「10を加えたときに70、10倍したときに変化せず60」と回答したものを合わせると25人であり、誤答の41.7%を占めた。問題4の分散の誤答については「10を加えたときも10倍したときも共に225」と回答したものと「10を加えたときに225、10倍したとき2250」と回答したものを合わせると122人であり、誤答の61.3%を占めた。

 具体的な数値ではない問題3の平均及び問題4の分散の正答率は、具体的な数値である問題2(1)の平均及び問題2(2)の分散の正答率と比べ大幅に下がり有意な差が見られた。この結果は、藤村(2012)の分析した「概念的理解に基づき思考プロセスを多用に表現することに関しては国際平均レベルであり、考えを何も表現しないものの割合は国際平均を上回っていることを示している」ことを顕著に表していると考える。

なお、この問題においても思考プロセスが多用であるため、仮に概念的理解ができていなくても正答することはできる。具体的には「知識の暗記・再生」、「手続き的知識の正確な適用」、「具体的な数値による検証」などで解答ができることから、それらの方法についても定着していない可能性が示唆される。例えば「知識の暗記・再生」であれば、下記の ( 2 ) 式を、 ( 1 ) 式に用いることで、問題3は ( 3 ) 式、問題4は ( 4 ) 式のように求めることができる。もちろんこの公式は、受検者が学習した現在の教育課程の1つ前の課程では、数学Bの確率分布と統計的な推測で学ぶ内容で、多くの学生がこの単元を履修していない可能性が高いため、この公式を学んでいない。この状況は、現在の教育課程では多くの学生が履修することとなった統計的な推測を学ぶことで解消されるが、本結果より数学Iのデータの分析における平均及び分散の定義と ( 1 ) 式が関連されていないことがわかる。そのため、現在の教育課程における統計的な推測で ( 1 ) 式を学習しても、「知識の暗記・再生」に留まる可能性が示唆される。数学Bの統計的な推測の学習において ( 1 ) 式の「知識の暗記・再生」とならないためには、数学Iのデータの分析で、平均及び分散の定義を学習し、問題演習をさせた上で ( 1 ) 式を紹介し、具体的な問題を通して、 ( 1 ) 式の意味付けをするなどの配慮が必要になると考える。

  
E ( X + Y ) = E ( X ) + E ( Y ) E ( a X ) = a E ( X ) V ( a X + b ) = a 2 V ( X )

  
E ( X ) = 60 V ( X ) = 225

  
E ( X + 10 ) = E ( X ) + E ( 10 ) = 60 + 10 = 70 V ( X + 10 ) = V ( X ) = 225

  
E ( X 10 ) = 10 E ( X ) = 10 60 = 600 V ( X 10 ) = 10 2 V ( X ) = 100 225 = 22500

次に、この問題の誤答を通して「手続き的知識の正確な適用」について考察したい。この問題の誤答結果から、藤村(2012)が述べる「日本の子どもは、解法が1つに定まった問題に対しては手続き的知識を正確に適用して解決すること(定型的問題解決)には秀でている」のは、具体的な数値に限られる可能性があると考えられる。

なぜなら本問は次の解答例にあるように、記憶した公式に文字を代入する「手続き的知識の正確な適用」によっても解決ができるためである。つまり、公式を正確に記憶し、文字式に不慣れでなければ、概念的な理解ができていなくても解決できるのである。

解答例)受検者を n 人( n は自然数)とし、 n 人の点数を x i ( 1 i n ) 、その平均を x ¯ 、その分散を s x 2 とする。 x i のそれぞれに10点を加えた点数を y i ( 1 i n ) 、その平均を y ¯ 、分散を s y 2 とし、 x i のそれぞれを10倍した点数を z i ( 1 i n ) 、その平均を z ¯ 、分散を s z 2 とする。

問題文の条件は ( 5 ) 式のように表現できる。

  
x ¯ = i = 1 n x i n = 60 s x 2 = i = 1 n ( x i x ¯ ) 2 n = 225 ( 5 )

まず問題3の平均を求める。 y i = x i + 10 及び z i = x i 10 とし、 ( 5 ) 式を用いることで、次の ( 6 ) 式、 ( 7 ) 式と求まる。

  
y ¯ = i = 1 n y i n = i = 1 n x i + 10 n = i = 1 n x i n + 10 n i = 1 n 1 = 60 + 10 n n = 60 + 10 = 70 ( 6 )

  
z ¯ = i = 1 n z i n = i = 1 n x i 10 n = 10 i = 1 n x i n = 10 60 = 600 ( 7 )

次に問題4の分散を求める。 y i = x i + 10 及び z i = x i 10 とし、 ( 5 ) 式を用いることで、次の ( 8 ) 式、 ( 9 ) 式と求まる。

  
s y 2 = i = 1 n ( y i y ¯ ) 2 n = i = 1 n { ( x i + 10 ) ( x ¯ + 10 ) } 2 n = i = 1 n ( x i x ¯ ) 2 n = 225

  
s z 2 = i = 1 n ( z i z ¯ ) 2 n = i = 1 n ( x i 10 x ¯ 10 ) 2 n = 10 2 i = 1 n ( x i x ¯ ) 2 n = 100 225 = 22500

最後に「具体的な数値による検証」であるが、受検者の誤答から具体例を用いて実験する能力も不足している可能性が示唆される。例えば分散が225であれば、標準偏差が 225 = 15 となることを考慮すれば、60点から15点高い75点と60点から15点低い45点という2つのデータを用意することできる。推奨できる方法ではないが、この2つのデータから容易に問題文の条件を具体的な数値で表すことができ、計算によって解答だけは導くことができる。全員の点数を10点加えた場合の平均は ( 10 ) 式、10倍した場合の平均は ( 11 ) 式である。同様に、全員の点数を10点加えた場合の分散は ( 12 ) 式、10倍した場合の分散は ( 13 ) 式である。

  
y ¯ = ( 45 + 10 ) + ( 75 + 10 ) 2 = 140 2 = 70

  
z ¯ = ( 45 × 10 ) + ( 75 × 10 ) 2 = 1200 2 = 600

  
s y 2 = { ( 45 + 10 ) 70 } 2 + { ( 75 + 10 ) 70 } 2 2 = 15 2 + 15 2 2 = 15 2 = 225

  
s z 2 = { ( 45 × 10 ) 600 } 2 + { ( 75 × 10 ) 600 } 2 2 = 150 2 + 150 2 2 = 150 2 = 22500

本結果から、問題3、問題4のような具体的な数値で構成されていない問題については、まず具体的な問題、例えば問題1や問題2などを用いて、10加えた場合、10倍した場合はどのように変化するのかを演習も兼ねた計算をさせて、実感させた上で意味付けをする等の工夫が必要であると考える。もちろん、前述に示した通り、 y z の文字を用いることで、手続き的知識の正確な適用で解答を導くこともできるが、本結果の通り具体的な数値による問題の演習によって手続き的知識の正確な適用ができても、文字には不慣れな場合は y z などを用いた問題に対して手続き的知識の正確な適用ができるとは限らないと考える。そのため、藤村(2012)が紹介する「手続き的知識・スキルを獲得するための方法としてスモールステップで問題を構成」する必要があると考える。

4-2 中央値・最頻値の分析

問題1と2の中央値と最頻値の分析を行っていく。問題1と問題2の違いは、データが昇順に並べられ、データの大きさが偶数であるのが問題1、データが規則なく並べられ、データの大きさが奇数であるのが問題2である。

まず表1の問題1の中央値、最頻値の問題について分析を行う。出題したのは2024年度のみで、正答・誤答・無答の内訳は表10の通りであった。

表10 問題1(1)中央値、(2)最頻値の正答・誤答・無答の内訳

問題1 年度 正答 誤答 無答 受検者数
(1) 中央値 2024 280 (94.6) 16 (5.4) 0 (0.0) 296
(2) 最頻値 2024 294 (99.3) 2 (0.7) 0 (0.0) 296

問題1の中央値、最頻値は共にほとんどの学生ができていた。中央値の誤答は、中央にある2数の中で小さい値の4と回答した学生が9人、中央にある2数の中で大きい値の5と回答した学生が3人で、この2つが誤答の75%を占めた。この誤答から、中央値が真ん中のある値であることは認識していると考えられる。本問を間違えた学生にはデータの大きさが2以上の偶数の場合は、中央の2数の平均が中央値になることを強調して説明する必要があると考える。なお、最頻値の誤答の2人は、最大値を求めていた。

次に表1の問題2における中央値、最頻値であるが、出題は2023年・2024年の両年で表11の通り多くの学生ができていた。最頻値については、すべて95%を超える正答率であり良好であった。

表11 問題2(3)中央値、(4)最頻値の正答・誤答・無答の内訳

問題2 年度 正答 誤答 無答 受検者数
(3) 中央値 2023 293 (93.3) 20 (6.4) 1 (0.3) 314
2024 278 (93.9) 16 (5.4) 2 (0.7) 296
合計 571 (93.6) 36 (5.9) 3(0.5) 610
(4) 最頻値 2023 302 (96.2) 12 (3.8) 0 (0.0) 314
2024 291 (98.3) 5 (1.7) 0 (0.0) 296
合計 593 (97.2) 17 (2.8) 0 (0.0) 610

4-3 範囲の分析

表1の問題1及び2の範囲について分析を行う。問題1の範囲は2023年度のみ、問題2の範囲については2023年度・2024年度の両年で実施した。正答・誤答・無答の内訳は表12の通りであった。

表12 問題1(3)及び問題2(5)範囲の正答・誤答・無答の内訳

範囲 年度 正答 誤答 無答 受検者数
問題1 (3) 範囲 2024 236 (79.7) 52 (17.6) 8 (2.7) 296
問題2 (5) 範囲 2024 237 (80.1) 49 (16.6) 10 (3.4) 296
問題2 (5) 範囲 2023 231 (73.6) 52 (16.6) 31 (9.9) 314

問題1(3)、問題2(5)、の範囲に関する誤答の概要は表13の通りであった。いずれにおいても範囲の定義を覚えていないことによる誤答で、誤答で多かったものは最大値を回答したものと「最小値~最大値」を回答したもので、この2つの誤答で誤答全体の75%を占めた。

表13 問題1(3)及び2(5)の範囲に関する誤答の概要

問題1(3) 範囲の誤答 誤答の人数
内容 数値
最大値 7 27
最小値~最大値 1~7 14
最小値+最大値 8 8
(最小値+最大値)/2 4 2
データの総和/4 8.5 1
合計 52

4-3 第2四分位数の分析

4-3-1 第2四分位数の分析(問題1)

表1の第2四分位数の分析については問題1と問題2に分けて行う。問題1の中央値は前述の通り良好であったが、第2四分位数の正答率は表14の通り大きく下がった。

表14 問題1「1、2、3、4、5、6、6、7」(1)中央値、(5)第2四分位数の正答率等

問題1 年度 正答 誤答 無答 受検者数
(1) 中央値 2024 280 (94.6) 16 (5.4) 0 (0.0) 296
(5) 第2四分位数 2024 237 (79.3) 47 (16.4) 12 (4.3) 296
(5) 第2四分位数 2023 185 (58.9) 98 (31.2) 31 (9.9) 314
(5) 第2四分位数 合計 422 (69.2) 145 (23.8) 43 (7.0) 610

問題1における、2024年度の中央値と第2四分位数の正誤のデータに対してマクネマー検定を行ったところ、検定統計量が37.7、p値が 8.11 10 10 、二項検定によるp値が 6.98 10 11 であり、中央値と第2四分位数の正答率に有意な差が見られた。検定統計量及びp値算出に使用した分割表は表15である。

表15 問題1(1)の中央値、問題1(5)の第2四分位数の正答と誤答・無答に関する分割表

問題1(5)の第2四分位数 合計
正答 誤答・無答

問題1(1)

の中央値

正答 234 46 280
誤答・無答 3 13 16
合計 237 59 296

問題1(5)の第2四分位数の誤答の概要は表16の通りである。

表16 問題1「1、2、3、4、5、6、6、7」(5)第2四分位数に関する、誤答の内訳(N=145)

誤答の内容 年度 合計
誤答の概要 数値 2023 2024
第1四分位数 ( Q 1 )   
2.5
58 6 64 82
第1四分位数 ( Q 1 ) と誤解し、更にミス   
2
13 5 18
中央にある2数「4、5」の中で 小さい値   
4
2 9 11 19
大きい値   
5
3 5 8
「1、2」、「3、4」、「5、6」、「6、7」 と4分割した後、2番目に当たる「3、4」の平均値   
3.5
9 6 15
第3四分位数 ( Q 3 ) 5.5/ 6 1 8 9
「1、2」、「3、4」、「5、6」、「6、7」 と4分割した後、2番目に当たる「3と4」 3と4 5 1 6
前半4項の中央の2数「2、3」のうち大きい値 3 5 0 5
その他 2 7 9
合計 98 47 145

これらの誤答から、第2四分位数の定義については曖昧である学生が散見されることが分かる。第2四分位数及び後に議論する第1四分位数が曖昧であると、箱ひげ図を正確に書くことも、箱ひげ図を分析することもできない。本研究の結果から、第2四分位数は中央値と同じ値であるという用語の説明のみに留まると「知識の暗記・再生」となってしまい、時間の経過とともに記憶が曖昧となり、定着されない可能性が示唆される。中村(2019)が述べる通り、「四分位数と四分偏差の意味を理解し、箱ひげ図との関係で捉えることができるように指導することが必要」であると考える。

4-3-2 第2四分位数の分析(問題2)

同様に問題2の中央値と第2四分位数の分析を行う。中央値は問題1と同様に良好であったが、第2四分位数の正答率も同様に表17の通り大きく下がった。問題2においても2024年度の中央値と第2四分位数のデータに対してマクネマー検定を行ったところ、検定統計量が46.6、p値が 8.61 10 12 、二項検定によるp値が 2.26 10 13 であり、中央値と第2四分位数の正答率に有意な差が見られた。検定統計量及びp値算出に使用した分割表は表18である。

表17 問題2「9、4、7、8、5、1、10、8、2」(3)中央値、(7)第2四分位数の正答率等

問題2 年度 正答 誤答 無答 受検者数
(3) 中央値 2024 278 (93.9) 16 (5.4) 2 (0.7) 296
(7) 第2四分位数 2024 226 (76.3) 55 (18.6) 15 (5.1) 296
(3) 中央値 2023 293 (93.3) 20 (6.4) 1 (0.3) 314

表18 問題2(3)の中央値、問題2(7)の第2四分位数の正答と誤答・無答に関する分割表

問題2(7)の第2四分位数 合計
正答 誤答・無答

問題2(3)

の中央値

正答 223 55 278
誤答・無答 3 15 18
合計 226 70 296

問題2の第2四分位数の誤答の概要は表19の通りである。問題1の第2四分位数の正答率と同様に、定義について曖昧である学生が散見されていた。

 問題1および問題2において、第2四分位数の正答率が中央値の正答率と大きく離れており、マクネマー検定によって正答率に有意な差が見られたため、中央値と第2四分位数を同じものと認識しているのかを分析した。分析した結果は表20で、中央値と第2四分位数を異なる値で回答した学生の割合は、問題1と2のいずれの場合も20%程度であった。この結果からも、第2四分位数の定義を正確に記憶していない学生が散見されることがわかる。

そして本結果から、第2四分位数については中央値と同じ値であるという言葉の定義のみでは定着度が低くなることが示唆される。定義に関しては、村田(2020)が「何かをするために定義するのではなく、定義すること自体が目的となっている」と述べている通り、定義が目的になると意味理解が希薄になり、本結果のようになることが示唆される。そうならないためにも、中村(2019)が述べるように「四分位数と四分偏差の意味を理解し、箱ひげ図との関係で捉えることができるように指導することが必要である。そのためには、5数要約量の視覚化を指導に取り入れることが有効と考えられる」。

表19 問題2「9、4、7、8、5、1、10、8、2」(7)第2四分位数の誤答の概要(N=55)

誤答の内容 誤答の人数
誤答の概要 数値
第3四分位数(Tukey(1977)の定義によるもの)   
8
7 13
第3四分位数   
8.5
6
昇順もしくは降順に並び変えずに真ん中の値   
5
12
第1四分位数   
3
4 8
第1四分位数(Tukey(1977)の定義によるもの)   
4
2
第1四分位数を決める2数「2、4」で小さい値   
2
2
平均値   
6
7
最大値   
10
3
前半の4項「1、2、4、5」を「1、2」と「4、5」と分割し、2番目の「4、5」の平均   
4.5
3
前半の4項「1、2、4、5」の最後の項の5と後半の4項「8、8、9、10」の最初の項の8の平均   
6.5
2
その他:回答が1人のもの 7
合計 55

表20 問題1・2において中央値と第2四分位数を同じものと認識しているか否か

問題 中央値と第2四分位数を同じものと認識

中央値と第2四分位数

を異なるものと認識

正答 不正答
1 234 (79.1) 3 (1.0) 237 (80.1) 59 (19.9)
2 223 (75.3) 5 (1.7) 228 (77.0) 68 (23.0)

4-4 第1四分位数の分析

4-4-1 第1四分位数の分析(問題1)

表1における問題1の第1四分位数の正答・誤答・無答の結果は表21の通りであるが、本問には正答・誤答の判断ができない回答があった。本来、第1四分位数の正答には第2四分位数の正答が必要である。しかし、第2四分位数が誤答で第1四分位数を正答であった回答が10あった。この10の回答については、偶然正答となった可能性もあるが、第2四分位数を記載ミスなどのケアレスミスによって間違えた可能性も考えられる。したがって、正答・誤答の判断ができないため、判断不能とした。ただし、いずれの場合でも指導は必要で、第1四分位数が偶然正答となった学生には正確な定義を、第2四分位数を転記ミスなどのケアレスミスで間違った学生には見直しの重要性を説明する必要がある。

なお第2四分位数が正答かつ第1四分位数が正答の回答の中に、中央値が誤答であったものが1つだけあったが、この場合は正答に含めた。

誤答は表22の通りで、第1四分位数の定義を記憶していないことによるものであった。

表21 問題1(4)第1四分位数の正答・誤答・判断不能・無答の内訳

問題1 年度 正答 誤答 判断不能 無答 受検者数
(3) 第1四分位数 2024 210 (70.9) 68 (23.0) 10 (3.4) 8(2.7) 296

表22 問題1(4)の第1四分位数の誤答の概要

問題1(4) 「1、2、3、4、5、6、6、7」の第1四分位数に関する誤答

誤答の

人数

誤答の内容 数値
前半の4数「1、2、3、4」のうち中央にある2数「2、3」の中で 小さい値 1 34 41
大きい値 3 7
最小値 1 12
「1、2」、「3、4」、「5、6」、「6、7」 と4分割、「1、2」の平均値 1.5 9
その他:4と回答3人、最大値の7、1~7及び7/4と回答1人 6
誤答の合計 68
判断不能 中央値が正答で、第2四分位数を間違い 2.5 10

4-4-2 第1四分位数の分析(問題2)

問題2(6)の第1四分位数の回答については、現行までの高等学校の教科書で定義されているものと、Tukey(1977)の定義によるものが混在していた。現行までの高等学校の教科書において、第1四分位数をTukey(1977)による定義で記載されたものは1つもなく、教科書によっては第1四分位数の定義が他にもあると明記されているものがあるだけであった。もちろん、受検者が独自に学習した可能性も考えられるが、問題1のようにデータのサイズが偶数の場合の中央値や第1四分位数の誤答例から、中央の2数の4と5で大きい方と間違った解釈で解答して偶然正答になった可能性も考えられる。そこで本問の分類については、現行までの高等学校の教科書による第1四分位数で記述され、かつ第2四分位数が正答のものを暫定的に正答と表示し、Tukey(1977)の定義による第1四分位数で記述され、かつ第2四分位数が正答のものについては判断不能とした。結果は表23である。

表23 問題2(6)の第1四分位数の誤答の概要

判定 誤答の内容 数値 人数
正答 中央値、第2四分位数共に正答 3 173 174
中央値は不正答、第2四分位数は正答 1
不正答 中央値は正答、第2四分位数は不正答 17 20
中央値、第2四分位数ともに不正答 3

判断

不能

Tukey

の定義

中央値、第2四分位数共に正解 4 34 35
中央値が不正答、第2四分位数が正答 1
不正答

Tukey

の定義

中央値、第2四分位数共に不正解 6 11
第2四分位数が不正解 5
中央値を除いた前半「1、2、4、5」の中の中央の2数「2、4」で小さいほうの値 2 16
並べ間違い「1、2、4、7」かつ前半の4項の平均 3.5 8
最小値 1 8
その他:回答者が1人、2人の誤答がそれぞれ4つ 12
無答 12

4-5 第3四分位数の分析(問題1)

表1における問題1(6)の第3四分位数の正答・誤答・無答の結果は表24の通りである。第3四分位数の正答の条件として、第1四分位数が正答を含めたため、本問の正答率は四分位数(第1四分位数、第2四分位数、第3四分位数)全部の正答率と同義である。なお、第2四分位数が不正答で第1、3四分位数が正答だった学生は5人存在するが、その場合は判断不能とし、中央値を間違えて、四分位数がすべて正答の学生が1人だけ存在したが、その場合は正答として扱った。

表24 問題1(6)第3四分位数の誤答の概要

問題1 年度 正答 誤答 判断不能 無答 受検者数
(3) 第3四分位数 2024 207 (69.9) 75 (25.3) 5 (1.7) 9(3.0) 296

誤答の概要は表25の通りである。表25の通り、第3四分位数が不正答の学生のほとんどは、第1四分位数も不正答であり、四分位数の定義を正確に記憶していないことによるものであった。

なお、問題2の第3四分位数については、四分位数の定義が高等学校の教科書によるものとTukey(1977)の定義によるものが混在し判断できないものが多々あったため、誤答の分析については今後の課題としたい。

表25 問題1(6)第3四分位数の誤答の概要(灰色の背景は誤答)

第1四分位数 第3四分位数 人数
2 6 28
1 6 6
3 6 6
2.5 6.5 6
1と2 5と6 4
1.5 5.5 3
4 6 2
1.5 6 2
1 3 2
組合せが1つの回答 16
誤答の合計 75
判断不能:第2四分位数が不正答で第1、3四分位数が正答 5

5 まとめと今後の展望及び課題

本研究の目的は、数理・データサイエンス・AI教育の基礎となる「データの分析」に関する問題に焦点を当て、理解度およびつまずき箇所を把握し、高等学校、大学の教育及び社会人に対するリカレント教育のいずれにも効果的となる示唆を得ることであった。

数学基礎力テストの誤答の分析から、平均値、中央値、最頻値の求める方法については良好であった。間違えた学生はケアレスミスによるものなので、見直しの重要性を強調する必要があると考える。

四分位数の第1四分位数、第2四分位数については、定義を覚えていない学生が多く見受けられ、中央値と第2四分位数を同じ値であると認識していない学生が20%を超えていた。そのため、定義を覚えることのみならず、中村(2019)が述べるように「四分位数と四分偏差の意味を理解し、箱ひげ図との関係で捉えることができるように指導することが必要」になると考える。「箱ひげ図」などの利用目的を明確に伝えて、具体的に実践し、図を描きながら実感することで、「知識の暗記・再生」ではなく、実践で使える知識につながると考える。ただし、四分位偏差は現行の教科書から削除されているものもあるため、中村(2019)の論文における四分位偏差を四分位範囲と読み替える必要がある。

分散については意味の理解が十分ではない学生が顕著に見受けられ、定義を覚えていないことによる誤答、計算ミスによる誤答及びそれらの複合の誤答が散見された。また「知識の暗記・再生」、「手続き的知識の正確な適用」、「具体的な数値による検証」についても課題のある学生が多かった。そのため数学Iの「データの分析」、数学Bの「統計的な推測」で扱われる分散については、各々が「手続き的知識の正確な適用」、「知識の暗記・再生」で留まることが無いように、数学Iの「データの分析」において具体的に計算をすることで求めた分散について、データすべてに10を加えた例、データのすべて10倍した例を計算力の養成を意識しつつ演習し、数学Bで学習する公式につなげる配慮などを行うことが有効になると考える。その上で、数学Bの「統計的な推測」では、公式の円滑な活用をしつつも、具体例に落とし込んで、実感させるなどの配慮を行うことが有効になると考える。

今後は本研究の結果を踏まえた講義を行い、本研究の結果が、学生や社会人の理解度に寄与するかを検証していきたい。

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John W. Tukey(1977), “Exploratory Data Analysis 1st Edition”, Addison-Wesley

Footnotes

注1)2023年度は「1、2、3、4、5、5、6、7」として出題した。

 
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