今回の第20 回日本行動医学会学術総会(2013)では、 中山健夫会長のご配慮で、シンポジウム「行動医学のコ アカリキュラムの提案」が開催されました。わが国では、 はじめての重要な試みと思われます。ここでは、司会を 担当したものとして、その経緯について少し説明をさせ ていただきたいと思います。
これまで、わが国の医学教育の中で、行動科学(行動 医学)が正面から取り上げられることはほとんどありま せんでした。日本医学教育学会の委員会の中に、準備教 育・行動科学委員会が設けられていることからもわかる ように、その重要性について認識されてはいるものの、 具体的な定義や内容についての検討や周知がなされてい るとは言い難い現状にあります。
ところが最近になってわが国の医学教育界で、行動科 学・行動医学が話題になることが多くなってきております。 というのも、全国80 の医学部・医学大学は、世界医学 教育連盟(WFME:world federation for medical education)の グローバルスタンダードに準拠する分野別認証を受ける 必要に迫られており、達成しなければならない重要な要 素に行動科学があるからです。
少し詳しく説明させていただくと、WFMEのグローバ ルスタンダードは、1.医科大学の使命と教育成果、2. 教育プログラム、3.学生評価、4.学生、5.教員、6. 教育資源、7.プログラム・カリキュラム評価、8.総括 および管理運営、9.継続的改良の9 領域(AREA)からな る包括的なものです。
それぞれ、全ての医科大学・医学部が達成しなくては ならない基本的水準が定められていますが、「2.教育プ ログラム」のなかに、カリキュラムに明示し、実践しな ければならない重要な科目として「行動科学」があげら れております。しかし、わが国で行動科学(行動医学) を独立した科目として実施しているところは皆無に等し く、手本にするところがないので、どう対応してよいか わからない状態にあるからです。
このような状況の中、私どもは、多少なりとも行動医 学の授業を行っておりましたので、昨年、主催させてい ただいた第19 回日本行動医学会学術総会で、“行動医学 をどう活かすか~教育から臨床まで”をテーマとし、“行 動医学と医学教育”のタイトルで会長講演をさせていた だきました。
こうしたことを契機として、日本行動医学会が中心と なって、行動科学・行動医学コア・モデルカリキュラム を作成することにより、わが国の医学教育に貢献しようと、 北里大学の堤教授をリーダーとする行動科学(行動医学) コアカリキュラム作成ワーキンググループが結成されました。 すぐに活発な活動が開始され、アンケート調査なども行 われております。
今回のシンポジウムは、このようなワーキンググルー プ活動を報告し、また、広く各方面からの意見を求める ために開かれました。シンポジストとして公衆衛生から 井上 茂先生、心療内科から吉内一浩先生、保健医療行 動学から中川 晶先生、行動科学から高瀬堅吉先生、予 防医学から石川善樹先生、アンケートの報告ならびに総 括として堤 明純先生の諸先生方により、貴重な講演と 活発な討論が行われたことをご報告しておきます。詳し くは、それぞれの先生方の論文をご覧いただきたいと思 います。