Japanese Journal of Behavioral Medicine
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Recent Global Trends in Standardized Reporting of Behavior Change Technique
Yoshiki ISHIKAWA
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2014 Volume 20 Issue 2 Pages 41-46

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要約

疫学研究などの成果により、健康に寄与する行動が明らかにされ、科学的知見の整理が進められてきた。また、行動科学や健康心理学などの観点から、それら健康行動の決定要因が特定され、これまで様々な行動モデルが提案されてきた。しかし、健康行動のメカニズム解明が進む一方、具体的にどのような介入を行えば実際に行動が変容するのかという点は、21世紀における医学・公衆衛生学上の課題として残されている。行動変容を狙いとした介入は、複雑ないくつもの要素から構成され、またそれら要素は互いに相互作用し合っている。それ故、介入の再現性や臨床現場での適用性、さらにはシステマティックレビューを通じた知見の統合を困難にしていることが指摘されている。CONSORT(Consolidated Standards of Reporting Trials: 臨床試験報告に関する統合基準)は、ランダム化比較試験(randomized controlled trial: RCT)の報告の質を改善することを狙いとした国際標準のガイドラインである。その中では、運動や食生活などの健康行動の改善を目的とした非薬理学的治療においても、介入プロセスや内容について詳細な報告を行うことが求められている。しかしながら、具体的にどのように介入プロセスや内容を記述すればよいのか、CONSORTで定められているガイドラインは存在しない。そこで近年、介入内容を客観的で、再現性があり、かつそれ以上還元のできない行動変容テクニックに分類する試みが国際的に行われている。その成果として、たとえば身体活動、食生活、禁煙、飲酒、性感染症予防分野などで、効果的な行動変容テクニックが特定され始めている。また2013年には、Annals of Behavioral Medicine誌上にて、国際的なコンセンサスのとられた93に及ぶ行動変容テクニックの分類表が公表されている。本稿では今後の医学教育における行動科学のカリキュラム作成における基礎資料の提供を狙いとし、どのような考え方・手法に基づいて行動変容テクニックの標準化が進められているのか、近年の国際的な動向を展望することを目的とする。

はじめに

疫学研究などの成果により、健康に寄与する行動が明らかにされ、科学的知見の整理が進められてきた。また、行動科学や健康心理学などの観点から、それら健康行動の決定要因が特定され、これまで様々な行動変容モデルが提案されてきた1)。しかし、健康行動のメカニズム解明が進む一方、具体的にどのような行動変容テクニック(Behavior Change Technique)を活用すれば、どのくらい行動が変容するのかという点は、21世紀における医学・公衆衛生学上の研究課題として残されている。

近年では、臨床研究や疫学研究として行われた、EBM(Evidence Based Medicine:根拠に基づいた医療)の根幹を成す研究において、その研究計画の立案や報告方法を標準化すべく、CONSORT(Consolidated Standards of Reporting Trials:臨床試験報告に関する統合基準)やSTROBE(Strengthening the Reporting of Observational Studies in Epidemiology:観察的疫学研究報告の質改善)といったガイドラインが国際的に整備され、研究の質のボトムアップが図られている。その中でもCONSORTは、ランダム化比較試験(Randomized Controlled Trial: RCT)の報告の質を改善することを狙いとした国際標準のガイドラインである。その中では、運動や食生活などの健康行動の改善を目的とした非薬理学的治療においても、介入プロセスや内容について詳細な報告を行うことが求められている。

しかしながら、具体的にどのように介入プロセスや内容を記述すればよいのか、CONSORTの中で定められているガイドラインは存在しない。そのため、同一の行動変容テクニックが異なるラベルで報告される(例:ある研究でself-monitoringと報告された内容が、別の研究ではdaily diariesと報告)、あるいは同一の行動変容テクニックに含まれる具体的な内容が異なる(例:behavioral counselingに含まれる内容が、ある研究ではeducating patientと報告され、別の研究ではself-monitoring、feedback、およびreinforcementと報告される)ということが起きている2)。それ故、行動科学的介入の再現性や臨床現場での適用性、さらにはシステマティックレビューを通じた知見の統合が困難になっており、行動変容テクニックの標準化は行動科学研究推進の上で重要かつ緊急の課題になっている。

本稿では、行動変容テクニックの標準化に関する近年の国際的な動向について、整理を行うことを目的とする。具体的には、ロンドン大学のSusan Michie教授らが中心となり、2010年から2013年にかけて行われた行動変容テクニックの標準化に関する国際的な取り組み(Behaviour Change Technique Taxonomy Project)について概説を行う。その理由として、このような取り組みはこれまでに行われておらず、初めての試みであり、他には行われたことがないからである。さらに、行動変容テクニックの標準化が、行動科学分野における研究や実践にどのような意義を与えたのか、これまでの成果について概観を紹介する。その上で、今後の医学教育において求められることになる行動科学のカリキュラム化において、わが国でどのような取り組みが求められるのか、特に行動変容テクニックの標準化という観点から考察を行う。

行動変容テクニックの標準化に関する国際的な取り組み

行動変容を狙いとした介入は複雑ないくつもの要素から構成され、それら要素は互いに相互作用し合っている。それ故、介入の再現性や臨床現場での適用性、さらにはシステマティックレビューやメタ解析を通じた知見の統合を困難にしている。

英国のMedical Research Councilは、Fig. 1に示す通り、行動変容のような複雑な介入を行う際の指針を示している3,4)。すでに述べたように、これまで数多くの行動変容に関する理論や決定要因が提唱されてきた5)。一方、客観的で、再現性があり、かつそれ以上還元のできないレベルまで行動変容テクニックを標準化しようという試みは、ほとんど行われてこなかった。それ故、介入の再現性、臨床現場での適用性は困難なものであったことが報告されている。たとえば行動医学の研究者や臨床家は、効果的な糖尿病の介入を再現する自信がないと述べている6)

Fig. 1.

Framework for design and evaluation of complex intervention4)

2008年、Abraham & Michieは、既存の行動変容テクニックを26に分類し、標準化が可能なことを示した7)。その後、行動科学分野に応じた行動変容テクニックの標準化が次々に報告されるようになった。たとえば、禁煙行動は43テクニック8)、身体活動・食生活分野は40 テクニック9)、飲酒行動は42 テクニック10)に分類されることが報告された。

それらの研究が基盤となり、行動変容テクニックの国際的な標準化を目指して、Medical Research Councilの助成によるBehaviour Change Technique Taxonomy Projectが組織された。このプロジェクトでは国際的な諮問委員会が立ち上げられ、アメリカ(11人)、イギリス(5人)、オーストラリア(4人)、オランダ(3人)、カナダ(2人)、スペイン(1人)、デンマーク(1人)、ドイツ(1人)、フィンランド(1人)、ノルウェー(1人)から延べ30人の行動科学の専門家が参加した。

行動変容テクニックの標準化には、デルファイ法が用いられた。まず、14人の専門家が既存の6つの行動変容テクニックシステムから総計124の行動変容テクニックを抽出・定義した。その後、18人の専門家がそれぞれの行動変容テクニックの中身を精査し、整理を行った2)

その結果、Table1に示すように、既存の行動変容テクニックは16分野93のテクニックに分類され、Behavior Change Technique Taxonomy v1(BCTTv1)として2013年にAnnals of Behavioral Medicine誌上で公開された2)

Table 1. Behavior Change Technique Taxonomy v1 (BCTTv1)2)
Grouping and BCTs
1. Goals and planning
1.1. Goal setting (behavior)
1.2. Problem solving
1.3. Goal setting (outcome)
1.4. Action planning
1.5. Review behavior goal(s)
1.6. Discrepancy between current behavior and goal
1.7. Review outcome goal(s)
1.8. Behavioral contract
1.9. Commitment
2. Feedback and monitoring
2.1. Monitoring of behavior by others without feedback
2.2. Feedback on behaviour
2.3. Self-monitoring of behaviour
2.4. Self-monitoring of outcome(s) of behaviour
2.5. Monitoring of outcome(s) of behavior without feedback
2.6. Biofeedback
2.7. Feedback on outcome(s) of behavior
3. Social support
3.1. Social support (unspecified)
3.2. Social support (practical)
3.3. Social support (emotional)
4. Shaping knowledge
4.1. Instruction on how to perform the behavior
4.2. Information about Antecedents
4.3. Re-attribution
4.4. Behavioral experiments
5. Natural consequences
5.1. Information about health consequences
5.2. Salience of consequences
5.3. Information about social and environmental consequences
5.4. Monitoring of emotional consequences
5.5. Anticipated regret
5.6. Information about emotional consequences
6. Comparison of behaviour
6.1. Demonstration of the behavior
6.2. Social comparison
6.3. Information about others’ approval
7. Associations
7.1. Prompts/cues
7.2. Cue signalling reward
7.3. Reduce prompts/cues
7.4. Remove access to the reward
7.5. Remove aversive stimulus
7.6. Satiation
7.7. Exposure
7.8. Associative learning
8. Repetition and substitution
8.1. Behavioral practice/rehearsal
8.2. Behavior substitution
8.3. Habit formation
8.4. Habit reversal
8.5. Overcorrection
8.6. Generalisation of target behavior
8.7. Graded tasks
9. Comparison of outcomes
9.1. Credible source
9.2. Pros and cons
9.3. Comparative imagining of future outcomes
10. Reward and threat
10.1. Material incentive (behavior)
10.2. Material reward (behavior)
10.3. Non-specific reward
10.4. Social reward
10.5. Social incentive
10.6. Non-specific incentive
10.7. Self-incentive
10.8. Incentive (outcome)
10.9. Self-reward
10.10. Reward (outcome)
10.11. Future punishment
11. Regulation
11.1. Pharmacological support
11.2. Reduce negative emotions
11.3. Conserving mental resources
11.4. Paradoxical instructions
12. Antecedents
12.1. Restructuring the physical environment
12.2. Restructuring the social environment
12.3. Avoidance/reducing exposure to cues for the behavior
12.4. Distraction
12.5. Adding objects to the environment
12.6. Body changes
13. Identity
13.1. Identification of self as role model
13.2. Framing/reframing
13.3. Incompatible beliefs
13.4. Incompatible beliefs
13.5. Identity associated with changed behavior
14. Scheduled consequences
14.1. Behavior cost
14.2. Punishment
14.3. Remove reward
14.4. Reward approximation
14.5. Rewarding completion
14.6. Situation-specific reward
14.7. Reward incompatible behavior
14.8. Reward alternative behavior
14.9. Reduce reward frequency
14.10. Remove punishment
15. Self-belief
15.1. Verbal persuasion about capability
15.2. Mental rehearsal of successful performance
15.3. Focus on past success
15.4. Self-talk
16. Covert learning
16.1. Imaginary punishment
16.2. Imaginary reward
16.3. Vicarious consequences

BCTTv1について学びたい専門家あるいは学生向けに、ロンドン大学はインターネット上にて無料オンライン講座(http://www.bct-taxonomy.com/)を公開している(Fig. 2)。また、手軽にBCTTv1が閲覧・活用できるよう、スマートフォン用(iPhone用、アンドロイド用)のアプリも開発され、同じく無料で公開されている。

Fig. 2.

Behavior Change Technique Taxonomy (v1) Online Training Website. Retrieved from http://www.bct-taxonomy.com/

標準化された行動変容テクニックを用いた応用研究

行動変容テクニックの標準化が行われるようになると、システマティックレビューやメタ解析を通じた知見の統合が可能になる。つまり、ある健康行動について、どの行動変容テクニックがどのような対象者に、どの程度の効果を持つのか、という点を明らかにすることができるようになる。

たとえばMichieらは、身体活動および食生活の改善に資する行動変容テクニックのメタ解析を行っている11)。過去に行われた122の介入研究(N=44,747)を分析した結果、平均して6つの行動変容テクニック(範囲:1–14)が活用されていたと報告している。またメタ回帰分析の結果、もっとも効果が高かった行動変容テクニックは、「prompt self-monitoring of behavior(行動のモニタリング)」であり、コントロール理論に基づく行動変容テクニック「prompt intention formation(意図の形成)、prompt specific goal setting(具体的な目標設定)、provide feedback on performance(フィードバック)、prompt review of behavioral goals(目標行動のレビュー)」と組み合わせるとさらに効果が高くなることを報告している。ただし、この研究が行われた時点ではまだBCTTv1が完成しておらず、Abraham & Michieが2008年に行った26分類7)が活用されてメタ回帰分析が行われたことに留意されたい。

他にも、妊婦の禁煙12)、インターネットを用いた行動変容13)、安全な飲酒10)、性感染症予防14)、ウォーキング/サイクリング15)、高齢者の身体活動16)、肥満者の身体活動17)、子どもの肥満18)、健康行動一般19)などについて、効果的な行動変容テクニックの特定が行われてきており、今後もさらなる知見が明らかになることが期待される。

また、エンジニアリング分野の知見を行動科学分野へ応用することで、投下できる資源が限られた状況下において効果的かつ効率的な行動変容テクニックの組み合わせを特定することが可能になる20)など、さらなる応用研究の可能性が期待できる。

今後のわが国の医学教育カリキュラムに求められる行動変容テクニックについて

わが国における今後の医学教育カリキュラムにおいて、「行動科学」は重要なキーワードとなる。これまで述べてきたように、行動科学の理論については多くの知見があるものの、理論に基づく行動変容テクニックに関する知見は、まだ整理・蓄積がはじまったばかりである。一方、そのような国際的な流れに対して、未だ日本をはじめとするアジアからの専門家は参加できておらず、今後の積極的な関与が望まれる。

またEBMは現代の医療における大原則であり、薬剤等と比べ低い侵襲性から軽視されがちであるが、行動変容テクニックの選択においてもその有効性・妥当性および倫理性を考慮するためには、適切にデザインされた科学的調査によって得られた情報とその統計学的解析結果に基づくことが必要となる。行動変容テクニックは、文化的な背景に左右されるという性質上、薬剤以上に国籍や民族が異なる集団間での一般化可能性が低いことが想定され、可能であれば日本人に対し、「どのような行動変容テクニックを実施した場合に、どのような結果となったか」という科学的評価が必要となる。

しかしながらこれまでわが国において、具体的にどのような行動変容テクニックが臨床や研究場面で用いられ、それが誰にどのような効果をもたらしたのかという点について、学術的に公表されたエビデンス・レベルの高い資料は限定的である。そのため、今後のわが国における行動科学分野の医学教育カリキュラム構築をする上で、日本の現況に即した行動変容テクニックの標準化およびそれぞれのテクニックの効果に関するメタ解析の実践が行われることは、重要かつ緊急の課題と考えられる。

このように研究知見が限られた状況ではあるが、今後のわが国における医学教育カリキュラムの中で行動変容テクニックがどのように教えられるべきか、最後に提言を行いたい。まずは、Michieら2)により標準化が行われた、16グループ93の行動変容テクニックについて、教員および学生側が知識として理解することが求められる。そのためには、現在英語で提供されているロンドン大学のオンライン学習講座を日本語に翻訳し、誰もが等しく学べる環境を整えることが重要と考えられる。次に、たとえわが国における研究知見ではないにしても、どのような対象者のどのような健康行動について、どの行動変容テクニックを用いると効果的なのか、最新かつ最善のエビデンスについて理解することが求められる。さらに、93の行動変容テクニックのうち、代表的なテクニックについては実際に実践ができるよう、ロールプレイなどを通して学習する環境を整えることが望ましいと考えられる。

上記の取り組みを通じて、わが国における医学教育の中で、行動医学の基盤が整理されていくことを期待する。

文 献
 
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