Japanese Journal of Behavioral Medicine
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2015 Volume 21 Issue 1 Pages 39

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紹介理由:

近年、労働者の仕事のストレスと身体疾患との関連は、国際的な注目を集めている。仕事のストレスの中でも、「努力-報酬不均衡モデル」は、労働者の仕事上の努力と報酬の不均衡状態が、ストレス反応を発生させるというモデルである。本論文は労働者の仕事のストレスの影響と糖尿病および糖尿病前状態の関連を男女別に検討した研究であり、努力-報酬不均衡モデルによる研究は、労働者の健康問題を考える上で、参考になると考えられる。

研究内容:

【問題と目的】糖尿病は世界的に急速に増加しているが、職場でのストレスと糖尿病および糖尿病前状態の関連を明らかにした研究はまだ少ない。歴史的に心理的ストレスは、糖尿病の発症のリスクファクターとされている。仕事のストレスを測定する「努力 - 報酬不均衡(Effort - Reward Imbalance:ERI)モデル」では、仕事に費やす努力と、報酬(給与、昇進の見通し、雇用保障、自尊心)の間で、不均衡状態(高い努力 / 低い報酬)が及ぼす有害な影響を強調している。仕事上での努力と報酬の不均衡状態は、心血管疾患、精神疾患、筋骨格系の疾患のような健康上の悪影響を及ぼす。南ドイツの人口統計では、青年期・中年期の年代において、糖尿病前状態の有病率は、糖尿病より多く、糖尿病前状態は、糖尿病と心血管疾患の重要なリスクファクターである。しかしながら、仕事のストレスと糖尿病前状態の関連は、それほど注目されていない。本論文では、ドイツの大規模職業コホート(MIPH:マンハイム公衆衛生研究所の産業コホート研究)の横断的データを使用し、ERIを用いて仕事のストレスと糖尿病、糖尿病前状態の関連を検討することを目的とした。

【方法】研究デザインは横断的研究。2009年9月から2010年3月の間に行った健康診断を受けた南ドイツにある3つの機械および製造会社の労働者6080名を対象とした。最終的に2674名の対象者(男性2057名、女性617名)を解析対象者とした。仕事のストレスは、“努力”、“報酬”、“オーバーコミットメント”という3つのスケールで構成されているEffort-Reward Imbalance(ERI)Questionnaireを用いて測定した。全てのスケールと、努力と報酬の比率については、それぞれ3群(高群、中群、低群)に分類された。糖尿病および糖尿病前状態は、グリコヘモグロビンA1cまたは空腹時血漿グルコース基準を用いて診断した。分析はt検定、χ2乗検定、分散分析(ANOVA)、単変量および多変量ロジステック回帰分析を行った。

【結果】糖尿病の有病率は3.5%、糖尿病前状態の有病率は42.2%であった。交絡要因を無調整で単変量ロジステック回帰分析を行ったところ、努力と報酬の不均衡状態は、糖尿病(OR = 1.67(95% CI : 1.36 – 2.05))および糖尿病前状態(OR = 1.59(95% CI : 1.29 – 1.97))に対して最も高いオッズ比を示した。全ての交絡要因(年齢、婚姻状態、雇用状態、行動(喫煙、アルコール飲酒、活発な身体活動)、生物医学要因(腹部肥満、高トリグリセリド、低HDL-C、高血圧)、糖尿病の家族歴)を調整して多重ロジステック回帰分析を行った結果、男性において、職場での高いERI(努力と報酬の不均衡状態)は、糖尿病に有意に関連し(OR = 1.27(95% CI : 1.02 – 1.58))、糖尿病前状態とも関連する(OR = 1.26(95% CI : 1.01 – 1.58))ことがわかった。しかしながら、女性では、仕事のストレスと糖尿病および糖尿病前状態との関連に有意な差はみられなかった。

【考察】男性労働者において、高い努力と低い報酬のような矛盾が最も問題であることが明らかとなった。努力と報酬の不均衡状態は、糖尿病と糖尿病前状態となる可能性が高い。仕事のストレスは、視床下部―下垂体―副腎軸と自律神経系の神経システムを介して糖尿病を発症するかもしれない。また、生活習慣の改善が、糖尿病のリスクを減らす可能性がある。

訳者の感想:

ドイツの男性労働者において、仕事の努力と報酬の不均衡状態が糖尿病と関連することがわかった。労働者にとって、職場は生活の大半を過ごす場所であり、そこで強いストレスがあると、糖尿病発症リスクが高まる。仕事上の努力と報酬の不均衡をできるだけ小さくすることが、労働者のフィジカルヘルスおよびにメンタルヘルスを良好に保つために重要なことだと改めて感じた。雇用者側が、仕事量に見合った報酬(給与、雇用形態、昇進等)を労働者に与えることができているのかを把握し、仕事での努力と報酬の矛盾をできるだけ生じさせないような職場の環境づくりを行うことがますます重要になると考えられる。今後、職場での努力―報酬不均衡モデルの活用が期待される。

 
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