Japanese Journal of Behavioral Medicine
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Differential Effects of Defusion Strategies Using Different Verbal Stimuli and Exposure to Verbal Stimuli on Anxiety Symptoms
Tomoya SATO Rui HASHIMOTOShunta MAEDAAyumi YAMASHITAHironori SHIMADATomu OHTSUKI
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2015 Volume 21 Issue 2 Pages 99-108

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要約

Acceptance and Commitment Therapyにおいては、言語刺激が有する機能を変容するため、脱フュージョンという技法が用いられる。この脱フュージョンを目的として用いられる技法の1つとして、Word Repeating Technique(以下、WRT)がある。本研究の目的は、異なる言語刺激を用いたWRTと言語刺激に対する曝露が、言語刺激が有する機能や不安症状などの各種指標に及ぼす影響の差異を検討することであった。49名の大学生および大学院生を、中性的な言語刺激のみを用いるNeutral-Defusion群、苦痛度の高い言語刺激のみを用いるNegative-Defusion群、中性的な言語刺激と苦痛度の高い言語刺激の両方を用いるBoth-Defusion群、苦痛度の高い言語刺激に対する曝露を行うVerbal-Exposure群に無作為に割り当て、介入効果の差異を検証した。データ解析の結果、WRTは、言語刺激に対する曝露とは各種指標に及ぼす影響が異なることが示された。加えて、苦痛度の高い言語刺激を用いたWRTにおいては各種指標の改善に対する短期的な効果が認められる可能性が示唆された。また、中性的な言語刺激を用いたWRTが含まれる場合、言語刺激が有する回避機能の減弱や主観指標の改善に対する長期的効果が認められる可能性が示唆された。

問題と目的

「脱フュージョン(Defusion)」は、思考やその他の私的出来事の形態や頻度を変容せずに、その望ましくない「機能」を変容することを目的としたAcceptance and Commitment Therapy(以下、ACT)の技法のひとつである1)。この脱フュージョンを目的とした種々の技法のなかでも、もっとも頻繁に用いられる技法として、「Word Repeating Technique(以下、WRT)」2)がある。WRTにおいては、例えば「みるく」という言語刺激を繰り返し声に出すことで、「みるく」という言語刺激が有していた機能(例えば、ミルクの味や白いイメージ)が消失する体験をすることになる。WRTは、この言語刺激が有していた機能の変化の体験を手がかりとして、「みるく」という言語刺激のみならず、不安反応や回避行動を誘発する機能を有する言語刺激を含めた、言語刺激そのものがもつ機能を一時的に変容することを前提としている。このWRTの言語刺激が有する機能の変容に対する介入効果に関しては概ね有効性が示されているものの3,4,5,6,7,8)、適切な介入手続きやWRTの作用機序の記述、効果の測定方法についての検討がなされていない状況にある。

第1にWRTの手続きに関する問題として、用いられる言語刺激の種類が一貫していない点が挙げられる。先行研究において標準的とされるWRTの手続きは言語刺激そのものが有する機能の変容を目的としている。そのため、WRTにおいては、「れもん」や「ふあん」などの言語刺激を繰り返し声に出すことで当該言語刺激の機能の変化を体験し、その結果、言語刺激そのものの機能の変容が起こることが前提とされている。しかしながら、「ふあん」といった苦痛度の高い言語刺激を使用したWRTの場合、苦痛度の高い言語刺激を繰り返し声に出すことで、当該言語刺激が有する不快情動等の誘発機能が減弱することのみを学習する場合があり、結果的に、WRT本来の目的である言語刺激そのものの機能の変容にはいたらない場合があることが指摘されている9)。そのため、WRTにおいては、「みるく」といった「ふあん」とは異なる中性的な感情価を有する言語刺激を用いることが重要視されている9)。一方、苦痛度の高い言語刺激を用いて言語刺激の機能の変容を直接的に体験することの重要性を指摘した研究も見受けられる6)。そのため、WRTにおいて用いるべき言語刺激の種類に関しては見解が一貫していない状況にあるといえる。

これらの異なる言語刺激を用いたWRTの作用機序として、苦痛度の高い言語刺激を用いたWRTにおいては、当該言語刺激を繰り返し声に出すことで、その刺激が有していた不安情動等を誘発する嫌悪的なレスポンデント機能が減弱する体験をする。WRTにおいては、WRT実施前の言語刺激(例えば、不安情動等を誘発する機能を有する「ふあん」という言語刺激)と、これらの機能が消失したWRT実施後の言語刺激(単なる文字列としての「ふあん」)の「変化」を弁別することが目的とされる。そして、これらの体験を通じて、言語刺激の機能が一時的に制御可能であること(言葉は恣意的であること)が学習される。その結果、当該刺激(「ふあん」)に限らない言語刺激そのものが行動に及ぼす影響(機能)が減弱していくことが想定される。この点を踏まえると、苦痛度の高い言語刺激を用いたWRTにおいては、レスポンデント機能の減弱という「変化」の体験が生じることが考えられる。しかしながら、この場合のWRTにおいては、WRTの本来の目的である「言語刺激の機能が一時的に制御可能であること」の学習ではなく、「不快な言語刺激を繰り返し声に出すと不快な情動がなくなる」といった不快な不安状態を消失させる単なるコーピング方略についての学習がなされてしまう可能性も考えられる9)。また、先行研究においては、嫌悪的なレスポンデント機能が減弱しても、回避行動が持続する場合があることが報告されている10)。そのため、当該の言語刺激の嫌悪的なレスポンデント機能は減弱しても、言語刺激そのものが、回避行動といったオペラント行動に及ぼす機能は十分に変容されず、加えて、他の言語刺激全般に対する効果の般化も十分に生起しない可能性が考えられる。

一方、中性的な言語刺激を用いたWRTにおいては、そのような嫌悪的なレスポンデント機能を操作しない。そのため、WRTの手続きが不安状態を消失させる単なるコーピング方略とならず、言語刺激の機能の変容を手がかりとして、苦痛度の高い言語刺激を含む他の多くの言語刺激へ効果が般化することが期待できる。しかしながら、中性的な言語刺激のみを用いた場合においては、中性的な言語刺激と苦痛度の高い言語刺激の共通項(言語刺激であること)に気づきにくく、苦痛度の高い言語刺激にまで効果が十分に般化しないことが想定される。そのため、WRTにおいて、言語刺激が有する機能の減弱等に対する介入効果を十分に担保するためには、中性的な言語刺激と苦痛度の高い言語刺激のどちらか片方のみを用いるのではなく、これらの言語刺激両方を用いる必要があると考えられる。

このように、WRTで用いる言語刺激の差異によって作用機序が異なることが想定されるものの、WRTの介入効果を検討した研究においては、単一事例デザインを用いてWRTの介入効果を検討した研究3)、言語刺激の機能を十分に変容するために必要なWRTの手続きの長さ(言語刺激を声に出す時間)を検討した研究4)、嫌悪的な思考から気をそらす方略である「ディストラクション」との効果の差異を検討した研究5)、苦痛度の高いエクササイズを実施することの有効性を示した研究6)、WRTと他の脱フュージョンのエクササイズを組み合わせた介入の効果を検討した研究7)、また、WRTがターゲットとされた言語刺激以外の言語刺激の苦痛度、確信度の減弱に与える影響を検討した研究8)等に限られ、WRTで用いる言語刺激の感情価の差異に着目した研究は見受けられない。

第2に、苦痛度の高い言語刺激を用いたWRTと、エクスポージャー技法における「刺激に対する曝露」の作用機序の差異に関する記述が不明瞭である点が挙げられる。エクスポージャー技法は、恐怖対象(外的刺激、内部感覚、思考(言語刺激)など)やそれにともなう諸反応に対して、複合的に、繰り返し曝露されることで、恐怖対象が有する不安情動が馴化すること(レスポンデント機能の減弱)を目的としている。その一方、苦痛度の高い言語刺激を用いたWRTにおいても、言語刺激を繰り返し声に出す手続きが含まれている。そのため、どちらの手続きにおいても、言語刺激に対する曝露に基づくレスポンデント機能の減弱が含まれると考えられる。しかし、WRTにおいては、これらの機能の変化の体験を手がかりとして、刺激(言語刺激)そのものがもつ機能を変容することが目的となる。したがって、苦痛度の高い言語刺激を用いたWRTは、曝露と比較して、WRTで用いられた苦痛度の高い言語刺激以外の、多くの言語刺激の機能を変容することが期待できる。これらの点を踏まえると、言語刺激に対する曝露に基づくレスポンデント機能の減弱の効果を統制してもなお、言語刺激の機能の変容の効果が認められるかについて明らかにする必要がある。具体的には、WRTは、言語刺激に対する曝露のみを行った場合と比較して、言語刺激が有する機能をはじめとした効果指標に対する介入効果が大きいことが想定される。しかしながら、WRTと言語刺激に対する曝露の効果指標に与える影響の差異について検討した研究は見受けられない。

第3に、脱フュージョンで想定される言語刺激の機能の測定方法が確立されていない点が挙げられる。WRTの効果検討を行った先行研究においては、WRTによる介入の機序を記述する「プロセス指標」として、言語刺激の苦痛度(言語刺激がどの程度苦痛か)、確信度(言語刺激の内容がどの程度生起すると見積もっているか)が主観報告によって測定されてきた3,4,5,6,7,8)。これら2つのプロセス指標は、「言語刺激が有する機能」の異なる側面を反映するとされており、介入効果の変化の現われ方が異なることが明らかにされている4)。しかしながら、これら2つのプロセス指標においては、言語刺激が有する苦痛度の減弱に対しては一貫した介入効果が示されているものの、確信度の減弱に対しては一貫した介入効果が得られていない現状にある3,4,5,6,7,8)。この要因として、主観報告に基づいて測定される確信度は、WRTがターゲットとする言語刺激が有する機能(言語刺激と行動の関係)を十分に測定できない可能性5)が指摘されている。このような背景を踏まえ、近年の先行研究においては、従来の主観報告に基づく測定方法とは異なる認知課題等の測定方法によって、言語刺激が有する機能を測定する試みがなされはじめている7)。このような測定手続きの1つとして、Go/No-go Association Task(以下、GNAT)11)をはじめとした、過去の経験によって自動化されている知識の概念間の結びつき(潜在的連合)を測定する課題がある11)。先行研究においては、これらの課題によって得られる指標(潜在指標)がオペラント行動を予測する可能性が示唆されていることから12)、潜在的連合を測定する課題が、言語刺激が有する機能を測定することが可能であると考えられる。これらの点を踏まえると、異なる言語刺激を用いたWRTが、言語刺激が有する機能に及ぼす影響に差異が見受けられるかについて検討する際に、従来の苦痛度、確信度といった主観指標のみではなく、潜在指標を加えて検討する必要があると考えられる。また、先行研究においては、アウトカム指標として抑うつ症状6)といった「症状」の程度、不快な内的状態(私的出来事)を回避する傾向である「体験の回避」13)の程度に関する主観指標がおもに用いられてきた。加えて、WRTをはじめとした脱フュージョンの最終的なターゲットである回避行動といった行動指標も介入の効果を測定する上では必要であると考えられ、先行研究においても行動指標が用いられている7)

これらの点を踏まえ、本研究では、異なる言語刺激を用いたWRTと言語刺激に対する曝露が、プロセス指標、およびアウトカム指標に与える影響の差異を主観指標、潜在指標、行動指標それぞれの側面から検討することを目的とする。具体的には、WRTは言語刺激に対する曝露と比較して、効果指標に対する介入効果が大きく、また、WRT のなかでも中性的な言語刺激と苦痛度の高い言語刺激の両方を用いたWRTは、どちらか片方の言語刺激を用いたWRTと比較して、効果指標に対する介入効果が大きいことが想定される。

本研究から得られる臨床的意義として、第1に、WRTと言語刺激に対する曝露の効果指標に及ぼす影響の差異が明らかとなることで、これら2つの技法の作用機序が異なることが示唆できる点が挙げられる。介入技法の作用機序が異なるということは、それぞれの技法が異なった状態像に対して有効であることを示唆するものであると考えられる。そのため、本研究で得られる結果は、心理臨床場面における介入技法の選択肢の拡大につながる基礎的知見となる可能性が考えられる。

第2に、心理臨床場面において脱フュージョンを実施する際のエクササイズの適切な実施法(WRTで用いる言語刺激の感情価の種類)を示唆できる点が挙げられる。

仮 説

1. WRTは、言語刺激に対する曝露と比較して、主観指標、潜在指標、行動指標の改善の程度が高いであろう。

2. 個人にとって中性的な言語刺激と苦痛度の高い言語刺激の両方を用いたWRTは、どちらか片方の言語刺激を用いたWRTと比較して、主観指標、潜在指標、行動指標の改善の程度が高いであろう。

方 法

1.研究参加者

私立大学の学生49名(女性25名、男性24名;mean age=21.49 years, SD=2.54)を研究参加者とした。対象者の選定基準は、(a)20歳以上の男女であること、(b)インフォームド・コンセントの手続きを経て本人から研究協力に同意が得られていること、の2点とした。また、対象者の除外基準は、実験実施時に、(a)病気や怪我をしていること、(b)服薬をしていること、(c)極度の睡眠不足または疲労を感じていること、(d)実験実施時あるいは過去に心理療法やカウンセリングを受け、特定の診断名を与えられた経験があること、(e)実験実施時あるいは実験実施直前に顕著な心的苦痛を体験していること、(f)複数日にわたる別の実験へ参加中であること、のうち1つ以上の基準を満たすこととした。

2.測定材料

(1)スピーチ課題の操作チェック

主観的不安感:Visual Analog Scale(以下、VAS)を用いて、実験開始時(ベースライン時)と各スピーチの前後に測定を行い、0点から100点の間で得点化した。

(2)プロセス指標

(a)ネガティブな思考のアセスメントおよび苦痛度、確信度(主観指標):研究参加者に対して、これからスピーチを行う際に頭の中に浮かんでくるネガティブな思考を5個以上記述するよう求めた。なお、ネガティブな思考の測定においては、単一の思考ではなく、ネガティブな思考を表わす言語刺激のネットワークそのものの機能を測定するため、多くの研究で用いられているNosek & Banaji11)の手続きに従い、5個以上の記述を求めた。また、研究参加者が、5個以上の思考を思い浮かばない場合は、研究実施者がSocial Phobia Scale 日本語版(以下、SPS)14)、Social Interaction Anxiety Scale日本語版(以下、SIAS)14)の質問項目に基づき、スピーチにおけるネガティブな結果を表わすと考えられる思考を作成し、そのリストを提示し、選択させた。それぞれの思考に対しては、苦痛度(どの程度苦痛であると思うか)、確信度(どのくらい事実であると思うか)について0点(まったく思わない)から100点(とても思う)の間で記入を求めた。その後、ネガティブな思考を苦痛度が高い順に5つ選択し、それぞれの思考を1単語で表わすよう教示した。なお、リストから思考を選択した場合は、対応する単語も提示し、リストのなかから選ぶか、自身で単語を考えるよう教示した。この5つの思考に対する確信度、および5つの言語刺激に対する苦痛度がそれぞれ測定された。(b)苦痛度の高い言語刺激が有する機能(潜在指標):GNAT11)を用いて測定した。GNATは、Nosek & Banaji11)を参考に4つの概念(刺激クラス)で構成され、本研究においては、先述した思考のアセスメントで案出された苦痛度の高い思考を表わす5つの言語刺激、文房具を表わす5つの言語刺激(万年筆、ノート、絵の具、えんぴつ、消しゴム)、接近的行動を表わす5つの言語刺激(主張する、立ち向かう、思い切る、直面する、前を向く)、そして回避的行動を表わす5つの言語刺激(回避する、逃げる、避ける、下を向く、諦める)から構成される計4クラスを用いた。なお、文房具を表わす言語刺激は、大月ら15)で用いられた言語刺激を用いた。また、接近的行動と回避的行動を表わす言語刺激については、大学院生を対象に、研究実施者があらかじめ作成した接近的行動と回避的行動のリストのなかから、これらを表わすと考えられたものを選択させ、また、それ以外のものについては自由記述を求め、選択された回数の多い言語刺激から5つ選択した。GNATには、2種類の条件が含まれており、一方は苦痛度の高い思考を表わす言語刺激および接近的な行動を表わす言語刺激が提示された場合にのみ反応キーを押す条件(A条件)、もう一方は苦痛度の高い思考を表わす言語刺激および回避的な行動を表わす言語刺激が提示された場合にのみ反応キーを押す条件(B条件)であった。本研究では、各条件とも練習試行として20試行、本試行として60試行実施した。各条件の提示順序はカウンターバランスをとった。各試行は、最初に画面中央に注視点(+)を500 ms提示し、注視点が消えた直後に刺激語を1語ランダムな順序で画面中央に提示した。実験参加者は提示された単語のカテゴリーをできるだけ早く正確に判断し、指定されたカテゴリーであった場合にのみ反応キーを押すように求められた。また、刺激語の提示時間は1,500 msまでとし、それまでに反応がない場合は次の試行へ移行した。各GNAT課題は、説明文および刺激語およびプログラムをSuperLab4.0(Cedrus社製)で作成し、Apple社製パーソナルコンピュータMacBook Proにて、SuperLab4.0を用いてナナオ社製の17インチのCRTディスプレイ(Flex Scan T550)に提示した。刺激語は、48ポイントの黒字で作成され提示された。反応キーはCedrus社製RB-530を用い、反応時間を1 ms単位で計測した。

(3)アウトカム指標

(a)社交不安症状(主観指標):パフォーマンス場面に対する不安を測定するSPS14)、対人交流場面に対する不安を測定するSIAS14)を用いて測定した。SPSとSIASは、それぞれ20項目で構成される尺度で、信頼性と妥当性が確認されている。回答方法は0(まったくあてはまらない)~4(非常にあてはまる)の5件法であり、得点が高いほどパフォーマンス場面に対する不安が強いことを示す(range: 0–80)。(b)体験の回避の程度(主観指標):Acceptance and Action Questionnaire-II(以下、AAQ-II)16)を用いて測定した。AAQ-IIは、ACT の中心概念である体験の回避(望まない思考や感情などの私的出来事を致命的な存在として受け止め、それらを制御、除去、抑圧しようとする試み)を測定する自己報告式の尺度であり、信頼性と妥当性が確認されている。10項目から構成され、7件法で回答を求める。得点が低いほど体験の回避が高い傾向を示す。(c)社会的場面からの回避行動(沈黙時間;行動指標):大月ら15)の基準に従い、沈黙を5秒以上の発言の不生起と定義し、合計沈黙時間(秒)をスピーチ課題の映像を用いて測定した。(d)社会的場面における回避行動(視線回避;行動指標):本研究では、研究参加者がスピーチ課題において対面にいる評定役の者から視線をそらす行動全般を「視線回避」とみなし、大月ら15)の手続きに従い、スピーチ課題で研究参加者の前方に対座した1名の評定役の者が5件法で評価した研究参加者との視線のそらし具合を視線回避の程度として操作的に定義した。

3.手続き

[実験手続き] 実験は、3日の実験で構成された(Fig. 1)。1日目(60分程度)は、(a)研究参加の同意書の記入、(b)SPS、SIAS、AAQ-II、VASへの記入、(c)スピーチをすることを想像した際に浮かんでくるネガティブな思考と言語刺激のアセスメントおよび苦痛度、確信度の評定、(d)GNAT(Pre期)の実施、(e)スピーチ内容の教示、スピーチの準備(2分間)、VASの記入、スピーチ課題(5分間)の実施、VASの記入、(f)心理学的技法の体験、(g)SPS、SIAS、AAQ-II、ネガティブな思考に対する確信度および言語刺激に対する苦痛度の測定、(h)GNAT(Post期)の実施、(i)スピーチ内容の教示、スピーチの準備(2分間)、VASの記入、スピーチ課題(5分間)の実施、VASの記入で構成された。2日目(Follow-up1期;30分程度)は、約1週間後に実施され、(j)SPS、SIAS、AAQ-II、ネガティブな思考に対する確信度および言語刺激に対する苦痛度の測定、(k)GNATの実施、(l)スピーチ内容の教示、スピーチの準備(2分間)、VASの記入、スピーチ課題(5分間)の実施、VASの記入で構成された。3日目(Follow-up2期;30分程度)は、約1か月後に実施され、実験2日目と同じ手続きから構成された。スピーチ課題においては、研究実施者が、研究参加者に対して、「これから1名の評定者の前で『あなた自身』をテーマとしたスピーチを5分間行ってもらいます。話す内容は自由です。今から2分間スピーチを考える時間を与えます」と教示を行った。2分間のスピーチの準備時間の終了後、研究実施者とは異なる白衣を着用した1名の評定役を担当する者が、研究参加者と対面する(1.5 m離れた)椅子に着席し、研究実施者がスピーチを始めるよう教示した。評定役の右後ろには、ビデオカメラを設置した。なお、研究参加者に対しては、スピーチ課題の内容として、「大学生活について」、「課外活動について」、「将来の生活について」、「趣味について」が、それぞれのスピーチ課題で提示された。

Fig. 1.

Overview of the experimental procedure. Note. SPS=Social Phobia Scale; SIAS=Social Interaction Anxiety Scale; AAQ-II=Acceptance and Action Questionnaire-II; VAS=Visual Analogue Scale; GNAT=Go/No-go Association Task.

[介入手続き] 研究参加者を無作為に4つの介入群(Neutral-Defusion群、Negative-Defusion群、Both-Defusion群、Verbal-Exposure群)に割り当てた。Defusion群においては、心理教育と2回のWRTが実施された。それぞれのDefusion群は2回のWRTで用いる言語刺激が異なっていた。具体的には、Negative-Defusion群においては研究参加者がもっとも苦痛度が高いと評定した言語刺激を用いた30秒間のWRTが2回、Neutral-Defusion群においては中性的な言語刺激(レモン)を用いた30秒間のWRTが2回、Both-Defusion群においては中性的な言語刺激を用いた30秒間のWRTと研究参加者がもっとも苦痛度が高いと評定した言語刺激を用いた30秒間のWRTが実施された。Verbal-Exposure群においては、エクスポージャーの心理教育、研究参加者がもっとも苦痛度が高いと評定した言語刺激に対する30秒間の曝露が2回実施された。なお、脱フュージョンの心理教育は、Masudaら5)の手続きに基づいて実施された。まず、研究実施者が、(a)人間の言語や思考の能力は我々の生活においてポジティブな側面をもたらすものの、これらが苦痛を引き起こすこともあること、(b)とくに、自分が持っているネガティブな考えがそのまま文字どおりに目の前の現実を表わしていると考えると、言葉の影響力が支配的なものとなること、を口頭で教示した。その後、各群それぞれの条件に合わせたWRTを実施した後、研究実施者が、言葉や思考は確固としたものではなく、このような体験は日常生活においても起こりうるものであることを教示した。エクスポージャーの心理教育は、van der Heiden & ten Broekemaru 17)が記述した「心配(言語的内容)に対するエクスポージャー」に基づいて実施された。まず、研究実施者が、(a)不快な感情は、ネガティブな考えによって引き起こされること、(b)その後、これらの不快や感情によって嫌な場面などを回避するようになること、を口頭で教示した。その後、ネガティブな考えが引き起こす不快な感情(恐怖や緊張)に慣れるまで、そのような考えや感情を十分に体験することが重要であることを教示し、30秒間の言語刺激に対する曝露を2回行った。言語刺激に対する曝露においては、研究実施者が、研究参加者に対して、もっとも苦痛度が高いと評定した言語刺激を一定時間(30秒間)、変えたり止めたりしようとすることなく、考え続けるよう教示した。言語刺激に対する曝露実施後、研究実施者が、嫌な言葉が引き起こす不快な感情に慣れるまで、それらを十分に体験することが重要であることを教示した。

[データ分析] GNATは、大月ら15)とTeachman18)の算出方法に従い、(a)標的刺激、評価刺激、妨害刺激において誤反応率を算出し、ブロックで40%以上、課題全体で30%以上の誤反応率を示したらデータから除外する、(b) 300 ms以下、800 ms以上の反応は誤反応とする、(c)総試行数の10%以上で300 msを下回っていたらデータから除外する、(d)妨害刺激に対する反応時間はデータから除外し、標的語と評価語に対する反応時間のみを分析に用いる、(e) 正反応のみでA条件とB条件の反応時間の平均値を算出する、(f)各条件の反応時間の平均値を全条件の標準偏差で割りD-GNAT得点とする、という手続きをとった。結果として、除外基準を満たしたデータはなかった。D-GNAT得点は、負の値に大きいほど苦痛度の高い思考を表わす言語刺激が回避機能を有しており、正の値に大きいほど、接近機能を有していることを表わす。

4.倫理的配慮

本研究は、早稲田大学「人を対象とする研究に関する倫理審査委員会」の承認を得て実施された(承認番号:2011-145)。

5.統計解析

統計解析は、群4(Neutral-Defusion群、Negative-Defusion群、Both-Defusion群、Verbal-Exposure群)×時期4(Pre、Post、Follow-up1期、Follow-up2期)の2要因混合(反復測定)デザインに基づく分散分析を実施した。解析ソフトは、IBM SPSS Statistics version 22を用いた。本研究においては、原則として、有意水準をp=0.05とし、サンプルサイズの影響から第2種の過誤の危険性も考えられたため、解析結果には有意傾向(p<0.10)の箇所も取り上げた。また、行動指標においては、評定実施者の記入漏れによって視線回避においては1名のデータ、ビデオカメラの不具合のために沈黙時間の解析においては5名のデータが除外された。

結 果

実験で得られた測度の平均値および標準偏差をTable 1に示す。

Table 1. Descriptive statistics for all measures by group and time
Measures Pre Post Follow-up1 Follow-up2
Baseline Before speech1 After speech1 Before speech2 After speech2 Before speech3 After speech3 Before speech4 After speech4
Subjective Anxiety Neutral-Defusion (N=12) 40.61 (26.55) 66.77 (18.69) 60.50 (30.86) 60.97 (25.31) 35.56 (25.67) 72.11 (18.78) 44.51 (30.54) 50.17 (23.49) 27.53 (20.11)
Negative-Defusion (N=12) 32.76 (24.62) 60.59 (24.79) 32.41 (23.45) 56.48 (32.09) 23.09 (23.84) 50.28 (22.75) 43.34 (24.71) 48.90 (27.35) 29.21 (25.62)
Both-Defusion (N=13) 39.10 (22.75) 69.81 (19.28) 46.59 (29.28) 63.65 (22.10) 47.12 (24.69) 66.42 (27.32) 49.07 (25.60) 60.04 (25.19) 38.05 (23.36)
Verbal-Exposure (N=12) 24.28 (16.41) 67.57 (20.62) 44.62 (32.98) 68.67 (26.75) 40.57 (23.81) 65.38 (18.49) 46.82 (25.04) 51.07 (24.35) 40.55 (29.08)
Discomfort Neutral-Defusion (N=12) 86.67 (14.20) 75.83 (18.93) 77.08 (14.84) 68.33 (25.17)
Negative-Defusion (N=12) 82.92 (9.64) 59.58 (22.20) 65.42 (26.92) 67.92 (23.78)
Both-Defusion (N=13) 84.23 (14.70) 65.38 (26.96) 65.00 (30.69) 71.15 (24.68)
Verbal-Exposure (N=12) 86.67 (12.85) 78.33 (20.60) 78.75 (21.12) 83.33 (15.57)
Believability Neutral-Defusion (N=12) 80.83 (13.29) 78.33 (17.49) 82.92 (14.69) 72.83 (20.52)
Negative-Defusion (N=12) 80.00 (16.51) 69.17 (23.53) 73.75 (22.07) 75.83 (19.29)
Both-Defusion (N=13) 86.15 (13.25) 82.69 (16.91) 82.69 (13.63) 86.15 (12.44)
Verbal-Exposure (N=12) 72.50 (13.73) 81.25 (19.79) 82.50 (15.74) 82.08 (13.56)
SPS Neutral-Defusion (N=12) 21.33 (11.18) 19.00 (11.82) 19.08 (13.57) 17.50 (13.24)
Negative-Defusion (N=12) 16.33 (10.91) 14.08 (13.90) 15.75 (11.77) 17.42 (12.92)
Both-Defusion (N=13) 25.69 (11.32) 21.77 (13.22) 24.08 (11.16) 22.08 (10.93)
Verbal-Exposure (N=12) 12.83 (6.00) 13.92 (10.85) 12.25 (6.44) 14.75 (9.56)
SIAS Neutral-Defusion (N=12) 32.75 (9.77) 30.42 (11.76) 30.17 (9.51) 28.67 (9.71)
Negative-Defusion (N=12) 32.92 (16.34) 31.08 (17.94) 31.92 (16.91) 33.58 (16.46)
Both-Defusion (N=13) 39.00 (14.08) 40.62 (16.58) 37.85 (16.21) 34.54 (16.09)
Verbal-Exposure (N=12) 25.75 (8.64) 27.00 (9.95) 25.00 (6.97) 31.92 (14.65)
AAQ-II Neutral-Defusion (N=12) 44.50 (12.62) 47.67 (12.94) 46.17 (12.73) 47.58 (10.93)
Negative-Defusion (N=12) 47.17 (7.84) 47.92 (8.49) 45.00 (8.93) 47.83 (8.02)
Both-Defusion (N=13) 43.69 (9.94) 44.92 (10.44) 44.08 (11.06) 44.85 (10.50)
Verbal-Exposure (N=12) 49.67 (7.97) 49.83 (10.04) 52.08 (9.99) 51.58 (9.44)
GNAT Neutral-Defusion (N=12) –0.82 (0.46) –0.28 (0.67) –0.42 (0.46) –0.16 (0.54)
Negative-Defusion (N=12) –0.67 (0.32) –0.53 (0.37) –0.22 (0.37) –0.43 (0.38)
Both-Defusion (N=13) –0.62 (0.39) –0.40 (0.40) –0.55 (0.51) –0.16 (0.55)
Verbal-Exposure (N=12) –0.59 (0.48) –0.33 (0.54) –0.54 (0.41) –0.24 (0.40)
Vocalized Pauses Neutral-Defusion (N=10) 9.90 (10.27) 7.14 (12.81) 31.26 (35.66) 8.85 (17.22)
Negative-Defusion (N=10) 12.26 (17.69) 3.21 (10.15) 19.32 (21.76) 2.00 (4.59)
Both-Defusion (N=13) 20.12 (28.07) 9.44 (17.14) 29.03 (58.42) 10.74 (22.30)
Verbal-Exposure (N=11) 13.91 (25.61) 9.85 (21.09) 12.29 (14.13) 7.00 (9.01)
Gaze Avoidance Neutral-Defusion (N=12) 3.67 (1.44) 3.75 (1.29) 3.83 (1.34) 3.33 (1.37)
Negative-Defusion (N=11) 3.82 (1.17) 3.64 (1.29) 4.27 (1.19) 3.45 (1.29)
Both-Defusion (N=13) 3.85 (1.52) 3.38 (1.33) 4.15 (0.99) 3.69 (1.32)
Verbal-Exposure (N=12) 3.83 (0.94) 3.58 (1.31) 4.00 (1.28) 3.33 (1.30)

Note: SPS=Social Phobia Scale; SIAS=Social Interaction Anxiety Scale; AAQ-II=Acceptance and Action Questionnaire-II; GNAT=Go/No-go Association Task.

[スピーチ課題の操作チェック] 主観的不安感を従属変数とした群4×時期9の分散分析を行ったところ、時期の主効果が有意であり(F (8,38)=18.24, p<0.01, partial η2=0.79)、各スピーチ前の主観的不安感は、ベースライン時と比較して有意に高く(ps<0.01)、また、各スピーチ実施後の主観的不安感は、それぞれのスピーチ実施前と比較して有意に減少していた(ps<0.01)。このことから、それぞれのスピーチ課題が十分に主観的不安感を喚起したことが示された。

[プロセス指標に対する効果] 苦痛度得点を従属変数とした群4×時期4の分散分析を行った結果、交互作用(F (3, 45)=3.14, p=0.08, partial η2=0.14)が有意傾向であった。単純主効果の検定の結果、Both-Defusion群におけるPost期、Follow-up1期の苦痛度得点が、Pre期と比較して有意に減少していることが示された(ps<0.05)。また、Neutral-Defusion群におけるFollow-up2期の苦痛度得点が、Pre期と比較して有意に減少していることが示された(p=0.02)。また、Negative-Defusion群におけるPost期の苦痛度得点が、Pre期と比較して有意に減少していることが示された(p=0.04)。また、確信度得点を従属変数とした群4×時期4の分散分析を行った結果、交互作用が有意であった(F (3, 45)=3.14, p=0.03, partial η2=0.17)。単純主効果の検定の結果、Neutral-Defusion群のFollow-up2期の確信度得点がFollow-up1期と比較して減少する傾向にあった(p=0.05)。

次に、GNATのD-GNAT得点を従属変数とした群4×時期4の分散分析を行った。その結果、交互作用が有意傾向であった(F (3, 45)=2.69, p=0.06, partial η2=0.15)。単純主効果の検定の結果、Both-Defusion群においては、Follow-up2期におけるGNAT得点が、Pre期と比較して高かった(p=0.04)。また、Neutral-Defusion群においては、Post期のGNAT得点がPre期と比較して有意に高く(p=0.03)、Follow-up2期のGNAT得点がPre期と比較して有意に高いことが示された(p<0.01)。また、Negative-Defusion群においては、follow-up1期のGNAT得点がPre期と比較して有意に高いことが示された(p=0.05)。

[アウトカム指標に対する効果] SPS得点、SIAS得点を従属変数とした群4×時期4の分散分析を行った。その結果、有意な主効果および交互作用は認められなかった。加えて、AAQ-II得点を従属変数とした群4×時期4の分散分析を行った。その結果、交互作用が有意傾向であった(F (3, 45)=2.44, p=0.08, partial η2=0.14)。単純主効果の検定の結果、Neutral-Defusion群におけるpost期のAAQ得点が、pre期と比較して有意に増加していることが示された(p=0.04)。スピーチ中の沈黙時間を従属変数とした群4×時期4の分散分析を行った。その結果、時期の主効果が有意傾向であった(F (3, 38)=2.63, p=0.06, partial η2=0.17)。多重比較の結果、Follow-up2期における沈黙時間が、Post期およびFollow-up1と比較して有意に高かった(p<0.05)。スピーチ中の視線回避の評定点を従属変数とした群4×時期4の分散分析を行った結果、時期の主効果が有意であった(F (3, 42)=4.34, p=0.01, partial η2=0.24)。多重比較の結果、Follow-up1期における視線回避が、Post期およびFollow-up2と比較して高かった(p<0.05)。

考 察

本研究の目的は、異なる言語刺激を用いたWRTと言語刺激に対する曝露がプロセス指標、およびアウトカム指標に与える影響の差異を主観指標、潜在指標、行動指標それぞれの側面から検討することであった。

まず、プロセス指標のなかでも、言語刺激が有する苦痛度に関しては、中性的な言語刺激と苦痛度の高い言語刺激両方を用いたWRTを実施したBoth-Defusion群においてはPost期とFollow-up1期、苦痛度の高い言語刺激を用いたWRTのみを実施したNegative-Defusion群においてはPost期において、それぞれ苦痛度のPre期からの有意な減弱が認められた。このことから、苦痛度の高い言語刺激がWRTに含まれる場合には、中性的な言語刺激の使用の有無にかかわらず、WRTによって苦痛度が介入直後や介入1週間後といった比較的短期間の間に減弱することが示された。先行研究においても、苦痛度の高い言語刺激を用いたWRTは介入直後に苦痛度を減弱させることが示されており3,4,5,6, 8)、本研究の結果は、先行研究の結果と合致するものであると考えられる。これらのWRTにおける苦痛度の一時的な減弱は、脱フュージョンの想定する言語刺激そのものが有する機能の変容を生じさせるきっかけとなる可能性がある。その一方、中性的な言語刺激のみを用いたNeutral-Defusion群においては、Pre期と比較して1か月後のFollow-up2期における苦痛度の有意な減弱が認められた。このことから、中性的な言語刺激のみを用いた場合には、苦痛度は介入直後には減弱しないが、脱フュージョンが想定している言語刺激そのものの機能の変容が生じ、苦痛度がある程度の時間を経て減弱した可能性が考えられる。一方、確信度においては、Neutral-Defusion群においてのみ、Follow-up1期からFollow-up2期への有意な減弱が認められたが、介入前から介入直後にかけての変化は認められなかった。これらの結果は、主観報告で測定される確信度に対しては、WRTによる介入効果が十分に測定できないとする先行研究 5,7)の知見と合致するものであると考えられる。本研究において、WRTが実施されたいずれの群においても、介入直後における確信度の減弱が示されなかったことから、主観報告によって測定される確信度はWRTの介入に対して十分な感度を有していないことが推察される。WRTの言語刺激が有する苦痛度、確信度の減弱に及ぼす影響を検討したこれまでの研究3,4,5,6,7,8)においては、WRTの介入直後における効果のみが検討されている。本研究は、先行研究においては測定がなされていない介入1週間後、介入1か月後において、異なる言語刺激を用いたWRTのそれぞれの指標に対する効果が異なることを示した点において意義があると考えられる。

次に、潜在指標に関しては、Neutral-Defusion群においては、Pre期から、Post期および1か月後のFollow-up2期において言語刺激が有する回避機能の有意な減弱が認められた。一方、苦痛度の高い言語刺激が含まれるBoth-Defusion群においては、介入直後のPost期における変化は見受けられなかったが、Pre期からFollow-up2期における言語刺激が有する回避機能の減弱が認められた。また、苦痛度の高い言語刺激のみが含まれるNegative-Defusion群においては、Pre期から1週間後のFollow-up1期においてのみ有意な回避機能の減弱が認められたものの、その効果は1か月後まで維持しなかった。これらのことから、中性的な言語刺激が含まれるWRTを実施した場合、苦痛度の高い言語刺激を必ずしも併用しなくとも、回避機能の長期的な減弱が認められることが示された。

また、アウトカム指標の中でも、社交不安症状を測定するSPS、SIAS得点には有意な変化は認められなかった。その一方、体験の回避を測定するAAQ-II得点に関しては、Neutral-Defusion群においてのみPre期からPost期にかけて有意な増加が認められた。このことから、中性的な言語刺激を用いた介入によって、私的出来事(private events:本人しか知りえない意識レベルの身体変化)そのものは減弱しないものの、それらに対する回避傾向が減弱することが示された。この結果は、不安症状のなかでも、主観的不安感や生理的不安反応といった私的出来事(本研究では、社交不安症状)の頻度を減弱させずに、その「機能」(回避行動を生起させる機能)を減弱させる脱フュージョンの前提1,2)を支持していると言える。このように脱フュージョンは、私的出来事の頻度を減弱するという「前提」は有していないものの、先行研究においては、ACTの実施によって、私的出来事に対する回避機能が減弱し、ある程度の時間が経過した後に、結果として不安症状が減弱する場合があることも示されている19)。また、本研究においては、介入による変化が介入後比較的時間が経過した後に認められるプロセス指標も存在した。これらの点を踏まえると、本研究で用いたWRTの有効性は概ね示されたと考えられるものの、さらなる長期的なフォローアップ測定を実施することによって、アウトカム指標の変化(不安症状等の改善)が認められるかを検討する必要があると考えられる。

これらの結果を踏まえると、苦痛度の高い言語刺激を用いたWRTが含まれる場合、介入後、比較的短期間において当該言語刺激の苦痛度が減弱することが示された。その一方、中性的な言語刺激のみを用いたWRTの場合、苦痛度の長期的な減弱や、介入後一定時間経過した後に確信度の減弱が認められることが示された。

また、苦痛度の高い言語刺激のみを用いたWRTを実施した場合、言語刺激が有する回避機能の一時的な減弱が認められるものの、長期的には維持しないことが示された。その一方、中性的な言語刺激を用いたWRTが含まれる場合、言語刺激が有する回避機能の長期的な減弱が認められることが明らかにされた。また、中性的な言語刺激のみを用いたWRTの場合、体験の回避の減弱が認められることが示された。

本研究においては、苦痛度の高い言語刺激と中性的な言語刺激の両方を用いたWRTが、他の群と比較して、言語刺激の苦痛度や確信度、回避機能等の比較的長期的な減弱を生じさせることを想定していた。しかしながら、想定とは異なり、中性的な言語刺激のみを用いた場合においても、言語刺激が有する苦痛度や回避機能の長期的な減弱が認められた。この要因として、中性的な言語刺激のみを用いたWRTを実施した者は、心理教育の内容(言葉にとらわれることが時として問題となること等)を踏まえ、WRTの体験(「れもん」の機能の変化の体験)を、言語刺激そのものの特徴として理解したことが想定される。そして、中性的な言語刺激のみを用いたWRTを実施した者は、これらの体験を日常生活で見受けられるさまざまな言語刺激に応用した可能性が考えられる。このような試みは、介入直後から比較的時間が経過した日常生活においてなされることになるため、ある程度の時間を要した可能性がある。そのため、中性的な言語刺激を用いたWRTにおいては、言語刺激が有する苦痛度や確信度、回避機能の減弱に時間を要したことが想定される。先行研究においては、WRTによって、介入で用いられた言語刺激以外の言語刺激の苦痛度の減弱が認められていることなどからも8)、今後は、異なる言語刺激を用いたWRTの、苦痛度の高い言語刺激の機能の変容に対する短期、長期的結果のみならず、苦痛度の高い言語刺激以外の言語刺激(例えば、中性的な言語刺激)に対しても効果が般化するかどうかを実験的に検討する必要があると考えられる。また、このような効果は、言語刺激に対する曝露を行ったVerbal-Exposure群には認められなかった。したがって、WRTは、言語刺激に対する曝露と作用機序が異なると想定した仮説1は支持されたものの、両方の言語刺激を用いたWRTのみならず、中性的な言語刺激のみを用いたWRTも長期的な介入効果が認められた点において、仮説2は支持されなかった。

本研究においては、仮説と異なり、中性的な言語刺激のみを用いたWRTが、両方の言語刺激を用いたWRTと、言語刺激が有する回避機能の減弱等に対して概ね同等の効果を示した。この理由として、苦痛度の高い言語刺激と中性的な言語刺激が有する機能の差異が大きく、その共通項(言語刺激であること)に研究参加者が気づきにくかった可能性がある。今後は、WRTで用いる異なる言語刺激同士を関係フレームづける手続きを実施した場合の介入効果を検討する必要がある。また、本研究では、操作の意図どおりスピーチ課題においては十分な主観的不安感が喚起されたものの、行動指標である視線回避、沈黙時間においては、時期の主効果は認められたが、群間の差異は認められなかった。この理由として、スピーチ内容の教示の提示順序のカウンターバランスをとっていなかったことや、スピーチの制限時間を事前に教示したため、沈黙時間の個人差が生じにくくなった可能性が挙げられる。加えて、本研究においては、実験1日目(Pre期、Post期)と2日目、3日目(Follow-up1、2期)において、実験の所要時間が異なっていた。これまでの先行研究においても、実験の所要時間が異なる測定は標準的に行われているが20)、本研究において、実験の所要時間の差異の影響がないとは言えない。今後は、実験時間を統一して検討する必要性があると考えられる。また、本研究は比較的不安の程度が低く、認知的能力が高いと想定される健常大学生を対象としたため、苦痛度の高い言語刺激をあつかわないWRTによっても言語刺激が有する機能の変化が認められたが、今後は臨床群を対象として脱フュージョンが奏効する状態像を記述する必要があると考えられる。

付記 本研究は、日本学術振興会特別研究員奨励費(課題番号:26・3898)の助成を受けて実施された。

文 献
 
© 2015 The Japanese Society of Behavioral Medicine
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