健康寿命の延伸に向けて、生活習慣病予防および介護予防の重要性が強調されている。これらの課題に対応するためには、栄養・食行動、運動・身体活動、喫煙、飲酒などの健康行動を適正に維持することが重要である。科学的視点から考えると、これらの行動と健康との関連については多くのエビデンスが示されている。しかし一方で、どうすれば良い生活習慣を維持することができるのか、あるいは良い生活習慣へと改善することができるのか、といった課題についてはエビデンスが不足しており、実際の対策を構築するにあたり最も問題となるところである。このような課題に対して、行動医学的手法や認知行動療法が大きな役割を果たすことが期待されている。
そこで、本特集では、がん検診、栄養・食行動、ストレス・マネジメント、身体活動・運動の4つの分野において行動医学、認知行動療法がどのように活用されているのか、またどんなことがわかっているのか、さらに今後の課題は何なのか、について整理した。
平井啓氏はがん検診の受診率を向上するためにトランスセオレティカルモデル・計画的行動理論などを用いた介入を行った。そして、セグメント化された対象者へのテイラーメード・メッセージが受診率の向上に有効であったことを紹介している。
赤松利恵氏は食行動を変えるには、「食物や栄養」に関する知識だけでは不十分であり、「食行動」に注目した栄養教育、研究が必要であることを強調している。さらに、食行動に関するエビデンスに基づいた栄養教育教材を紹介している。
中村菜々子氏はストレス・マネジメント行動の阻害要因を質的・量的研究より明らかにし、より効果的にストレス・マネジメント行動の獲得を促すために、ストレスの過小評価に着目することが重要であることを指摘している。
岡浩一朗氏は膝痛高齢者の疼痛管理および運動習慣形成のために痛み対処スキルの役割に着目し、従来その有効性が示されてきた運動療法に認知行動療法(痛み対処スキルトレーニング)を組み合わせることの重要性を強調している。
以上のような報告は多様な健康問題の解決にあたり、行動医学・認知行動療法が有用であることを示すものである。今後、さらに多くの健康問題でこれらの手法が活用されることが期待される。本特集がその一助となれば幸いである。