Japanese Journal of Behavioral Medicine
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2015 Volume 21 Issue 2 Pages 110

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このたびは第16回荒記記念賞という名誉ある賞をいただき、大変光栄に思っております。今回受賞した「Workaholism and sleep quality among Japanese Employees:A prospective cohort study(労働者におけるワーカホリズムと睡眠の質との関連:前向きコホート研究による検討)」は、私自身の博士論文の一部であると同時に、第2回日本行動医学会奨励賞も受賞した研究でもあり、これまでの研究者人生でもっとも思い出に残る業績となりました。

私たちの働き方は、時代とともにずいぶん変わってきました。例えばパソコンやスマートフォンの普及によって、業種によっては自宅や空港、カフェなど会社のオフィス以外でも仕事ができるようになりました。便利になった一方で、仕事と仕事以外の時間の切り分けが難しくなり、かえってストレスを高める結果にもつながっているという指摘があります。そのため、職場のメンタルヘルス研究では「どのような職場環境で働くか」という視点のほかに、「どのように働くか」という視点、すなわち仕事に対する態度に注目することが必要になってきました。

そこで本研究は、仕事に対する態度として最近注目されている「ワーカホリズム」という、過度に熱心に働く(=work excessively;行動面)ことと、仕事に強迫的(=work compulsively;認知面)な傾向を示した概念(Schaufeli et al., 2008)に注目し、国内の労働者1,683名を対象に、ワーカホリズム傾向の相違が睡眠の質に与える影響を検証したものです。その結果、ワーカホリズム傾向の高い労働者は、 低い労働者と比較して、その後の睡眠の質(入眠時間および日中覚醒困難)を低下させることが明らかになりました。

私はこれまで職場のメンタルヘルス研究に従事してきましたが、その原点は看護師として働いていた時の経験です。これまで病院や在宅の現場で対象者とかかわる中で、超少子高齢社会を迎えつつある現状に対して、十分な医療提供体制が整っていない現実に大きな疑問を感じてきました。このことは、対象者やその家族を不幸にするだけではなく、医療従事者が期待する最善の医療を実践できないことによる無力感も生んできたのではと考えています。このような現状を何とかしたいと思い、24歳の時に大学院進学を決意しました。大学院では、公衆衛生や精神保健分野を中心とした学びを深めると同時に、医療従事者のメンタルヘルス不調を低減し、個人や職場を活性化するための方策を見出すための研究活動を通して、微力ではありますが社会にとって有益となるエビデンス構築に従事してきました。

特に今回のワーカホリズム研究で伝えたかったメッセージとして、これまで日本の職場では「企業戦士」や「24時間働けますか」などのフレーズに見られるように、個人を(過度に)仕事に一体化させる人が美徳とされてきました。しかし、こうした人たちが、本当に生産性が高いのか、このような人たちを美徳と考える職場の文化が、働く人々や会社の利益と幸せに本当につながっているのか、ということを今一度振り返る機会になれば、と思っております。

今回の受賞を通じて、これまで取り組んできた研究が評価されたことは私自身にとって大きな励みとなりました。今後も臨床と研究の橋渡しをするべく、地道に研究活動を邁進してまいりたいと思います。

最後になりますが、本研究をまとめるにあたり多大なるお力添えをいただいた東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野教授川上憲人先生、東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野准教授島津明人先生、独立行政法人労働安全衛生総合研究所作業条件適応研究グループ上席研究員高橋正也先生をはじめ、これまで支えてくださった皆様に心からお礼申し上げます。

 
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