2015 Volume 21 Issue 2 Pages 111
本論文は、オランダの中等学校に通う生徒を対象として、青年の様々な行動や習慣と心理社会的問題の関連を調査したものである。論文内で述べられているが、どういった行動が心の問題と関わっているかというのは文化の影響を大きく受けるため、本論文の知見のすべてをそのまま日本に当てはめることはできないが、日本で青年の心理的な問題について研究を行う際、本研究は非常に参考になると考えられる。
【目的】本研究では包括的に青年の行動と心理社会的問題を扱い、「青年の健康行動は心理社会的な問題と関連しているか、また、健康行動が他の健康行動と心理社会的な問題の関連にどの程度交絡要因として影響を与えているか」について検討する。
【方法】2012年9月に5つのオランダの学校で自己記述式のアンケートを用いてデータを収集した。有効回答数は2,690名であった。アンケートにはオランダのHealth Behaviour in School-aged Childrenの調査と同様の項目を使用した。これには青年の健康行動、性別、年齢、社会経済的状況、民族、教育レベルなどの項目が含まれている。その他、いじめ、身体的活動と栄養、スクリーンタイム、心理社会的問題についての項目を使用した。いじめはOlweus Bully ScoreとOlweus Bully Victim Scoreを基にした項目で測定した。身体的活動と栄養についてはオランダでよく使われる定義を用いた。スクリーンタイムはテレビ視聴、学習を目的としないPCやインターネットの使用、ビデオゲームプレイのことであり、1日に2時間より多いと“過度”な使用とした。時間とは別に、インターネットやゲームへの強迫性をCompulsive Internet Use ScaleとVideogame Addiction Testで測定した。心理社会的な問題については、Strengths and Difficulties Questionnaireを用いて情緒的な問題などの有無を測定した(19点以上が「問題がある」と分類される)。解析にはロジスティック回帰分析を用い、行動と心理社会的問題の関連を検討した。無調整解析と、無調整解析において関連が認められた行動を抜き出し、多行動回帰モデルを用いて計算する調整解析を行い、無調整解析と調整解析の結果を比較することで行動と心理社会的問題の関連における交絡の影響について検討した。
【結果】無調整解析の結果、少年の心理社会的問題には過度な飲酒、喫煙、ゲームやPCの過度な使用や強迫的な使用、いじめ、いじめ被害が関わっており、少女の心理社会的問題には、喫煙、大麻使用、いじめ、いじめ被害、PCの過度な使用や強迫的な使用、不健康な栄養、運動不足が関わっていた。調整解析の結果、喫煙(OR=2.168(CI 95%:1.253–3.749))、強迫的なゲームプレイ(OR=3.630(CI 95%:2.050–6.428))、いじめ被害(OR=2.886(CI 95%:1.452–5.733))が少年の心理社会的問題と有意に関連しており、大麻使用(OR=3.041 (CI 95%:1.506–6.139)、いじめ被害(OR=8.102(CI 95%:4.603–14.260))、過度なPC使用(OR=1.671(CI 95%:1.151–2.425))、強迫的なインターネット使用(OR=5.203(CI 95%:2.555–10.596))、不健康な栄養(OR=1.791(CI 95%:1.416–2.710))、運動不足(OR =1.759(CI 95%:1.462–2.313))が少女の心理社会的健康と関わっていた。
【考察】無調整解析と調整解析の結果を比較すると青年の行動が相互に影響を与えており、その効果について誤った評価をしてしまう潜在的な危険性があることがわかる。少年より少女において、より多くの行動が心理社会的問題に関連しており、その関連度も強いのは、先行研究で述べられている「少年と少女では危険に思う行動が異なる」ことが原因である可能性がある。本研究はPCやゲームの強迫的な使用やいじめといった比較的新しい行動が学校における健康促進活動と関わっていることを示している。
インターネットやゲームをする時間よりもそれらにどれだけ依存しているかということのほうが心理的な問題と関わっているというのは非常に興味深い知見であり、このことから考えると単純に使用時間を抑える目的で「ゲームは一日○時間まで」といったルールを作ることよりも、ゲームやインターネットにのめり込まないように環境を調整することのほうが重要であると考えられる。また、飲酒は不健康な行動ではあるが、オランダの若者に受け入れられていることから心理社会的問題と関連していないという文化背景を意識した筆者の考察は重要であり、日本で調査を行う際には日本の青年の意識や考え方についても考慮する必要があると感じた。