2012 Volume 45 Issue 10 Pages 1039-1045
胆道原発顆粒細胞腫は極めてまれな疾患である.今回,我々は顆粒細胞腫と診断された,極めてまれな胆道良性腫瘍を経験したので報告する.症例は62歳の女性で,2007年12月他院において胃癌に対して胃全摘術,脾臓摘出術,Roux-Y再建術を施行された.その際の術中触診にて中部胆管に直径約8 mmの腫瘤性病変を認めた.腹部造影CTでは中部胆管に内腔に突出する造影効果を伴う腫瘤性病変を認めたが,胆管壁の肥厚は認められなかった.細胞診などの病理組織学的検査は施行せず,術前には確定診断に至らなかった.2008年3月肝外胆管切除術,胆囊摘出術,胆管十二指腸吻合術を施行した.腫瘤は黄白色調の粘膜下腫瘍の形態を示し,病理組織学的診断にて胆管顆粒細胞腫と診断された.術後経過は良好であり,現在までに再発を認めていない.我々が文献検索しえたかぎりでは,胆道原発顆粒細胞腫の本邦報告例は本症例を含めて5例であった.
顆粒細胞腫は通常,皮膚や皮下組織,舌に発生することが多い腫瘍である1).消化管での発生は少なく,胆道系では極めてまれである.今回,我々は総胆管に発生した顆粒細胞腫の1例を経験したので報告する.
患者:62歳,女性
主訴:自覚症状なし.
家族歴:特記事項なし.
既往歴:17歳 卵巣囊腫,42歳 子宮筋腫,61歳 高血圧症
現病歴:2007年12月胃癌に対して,胃全摘術,Roux-Y再建,脾臓摘出術を前医で施行された.術後総合診断はU,Less-Post,2型,mp,por2>tub2,ly0,v0,n0,H0,P0,cy0,fStage IBであった.その術中触診にて中部胆管に直径約8 mmの腫瘤性病変を認めた.術中判断で再検査後の二期的手術の方針となった.精査加療目的に手術2か月後に当科紹介となった.
入院時現症:身長154 cm,体重45 kg.眼球結膜に黄染はなかった.上腹部正中に手術痕を認めるが,腹部は平坦軟で,腫瘤は触知しなかった.
血液検査所見:RBC 3.70×106/μl,Hb 11.3 g/dlと軽度貧血を認めるが,生化学検査では異常は見られなかった.
腹部造影CT所見:中部胆管に前壁から内腔に突出する,径15 mmの結節性病変を認めた.平衡相で軽度の造影効果を示した.腫瘤の上下胆管壁の肥厚は認められなかった.腫瘤の背側では胆管内腔を認め,腫瘤による閉塞は認められなかった(Fig. 1a~c).

An enhanced CT scan of the abdomen showed a middle common bile duct tumor 15 mm in diameter. Arrows show the tumor and arrowheads show the bile duct. (a) early arterial phase (b) portovenous phase (c) equilibrium phase.
MRCP所見:中部胆管に径10 mmの円形陰影欠損像を認めた(Fig. 2).

A magnetic resonance cholangiopancreatography of the abdomen showed a round defect within the middle common bile duct, approximately 10 mm in diameter (arrow).
通常の上部消化管内視鏡では胃全摘後再建のためVater乳頭部まで到達不能であり,内視鏡的胆道検査は施行できなかった.また,経皮経肝アプローチによる胆汁細胞診などの術前病理組織学的検査は,手技による腫瘍病変の播種の可能性を考慮して施行しなかった.
以上より,術前診断は総胆管腫瘍,胆囊ポリープとなった.
手術所見:2008年3月に手術を施行した.右季肋部斜切開にて開腹すると,前回手術による腹腔内癒着が見られた.剥離後に胆管を観察すると,三管合流部よりやや十二指腸側の総胆管腹側に径8 mm程度の腫瘤を触知した.同部の胆管壁は白色調を呈していたが,腫瘍部以外の胆管壁に肥厚はなかった.胆囊摘出術,肝外胆管切除術を施行した.術中迅速病理組織学的診断にて顆粒細胞腫と診断されたため,周囲リンパ節郭清術は併施せず,胆管十二指腸端側吻合術を行った.
切除標本:総胆管壁内に腫瘍の増殖がみられ,内腔の狭窄を伴っていた.腫瘍は白色調で,粘膜下腫瘍の形態を示していた(Fig. 3a, b).

Macroscopic findings of the resected specimen; (a) The tumor was located mainly in the submucosal layer of the common bile duct covered normal mucosa. (b) A section of the tumor was yellowish-white.
病理組織学的検査所見:腫瘍細胞は顆粒状・好酸性の胞体を有し,PAS染色陽性であった.免疫組織学的にS-100,NSEともに陽性を示した(Fig. 4a~c).

Microscopic findings of the resected specimen; (a) The tumor cell contains fine eosinophilic granules, positive for the periodic-acid Schiff reaction. (b) The tumor cells are positive in the immunohistochemical staining for S-100 protein. (c) The tumor cells are positive in the immunohistochemical staining for neuron-specific enolase.
以上の病理組織学的検査所見から,granular cell tumorと診断された.
術後経過良好で,2011年11月現在胃癌も含めて再発徴候なく,外来通院中である.
顆粒細胞腫は1926年Abrikossoff2)が初めて報告した腫瘍であり,全身いずれにも発生するが,皮膚や皮下組織,舌に発生することが多い1).従来筋原性と考えられたが,最近はSchwann細胞由来と考えられている.消化管への発生は全顆粒細胞腫の約8%3)で,部位別には食道に最も多く,次いで大腸4)となっている.胆道系では極めてまれである.
本腫瘍の組織学的特徴としては,円形または,類円形の細胞が胞巣状に不規則に配列し,胞体内にはエオジンに染まる微細顆粒を有し,細胞質内の微細顆粒は,PAS染色陽性であり,ジアスターゼ処理にて消化されないことがあげられる.また,免疫組織学的にはS-100蛋白,NSEが陽性である.
胆道系に発生した顆粒細胞腫は,1952年Coggins5)が総胆管原発の顆粒細胞腫を報告したのが初めであり,本邦報告例は1977年Ishiiら6)が報告した胆囊原発例が初めてであった.
「granular cell tumor」,「biliary tract」および「gall bladder」をキーワードとしてPubMedにて検索(1950年~2011年11月)したところ,我々が検索しえたかぎりでは76例の報告例があった.
胆道原発顆粒細胞腫は,2000年te Boekhorstら7),2010年Patelら8)の報告によると,黒色人種の女性に多く,発症年齢は30歳代が最も多く,平均発症年齢は32歳である.症状としては腹痛,黄疸が多く,両症状を有する例を含めると,94~95%に達する.腫瘍径は3 cm以下が多く,部位は総胆管が45~49.2%と最も多くみられる.術前病理組織学的診断が困難な領域であるために,術前に顆粒細胞腫と診断されず,多くの症例で胆道癌と診断されている.
胆道系顆粒細胞腫は小さい腫瘍であることが多く,超音波検査では軽度高エコー腫瘤として描出され,CTでは非特異的な軟部組織腫瘤として認められる.胆管発生例では,胆道閉塞を来し,閉塞性黄疸を併発している場合がある.形態的には球形腫瘤を呈する場合もあるが,びまん性に胆管壁に浸潤する形態を呈する場合もある.このような術前画像検査や肉眼所見であるため,胆管癌と鑑別することは困難と思われる.
「顆粒細胞腫」と「胆管」または,「胆囊」をキーワードとして医学中央雑誌にて検索(1983年~2011年11月,会議録は除く)したところ,我々が検索しえたかぎりでは3例9)~11)であり,Ishiiら6)の報告を加えると本症例が5例目の報告であった(Table 1)6)9)~11).
| No. | Author/ Year |
Age | Gender | Chief complaint | Jaundice | Past history | Preoperative diagnosis | Tumor site | Tumor size | Outcome |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | Ishii6) 1977 |
39 | Female | epigastralgia, nausea, vomit | – | appendicitis | cholecystolithiasis | Gb | 0.7 cm | unknown |
| 2 | Yamaguchi9) 1985 |
58 | Male | right chondralgia | + | — | cholecystoduodenal fistula, choledocholithiasis | Gb | 0.7 cm | 48 months, alive |
| 3 | Okajima10) 1989 |
45 | Male | brown urine | + | diabetes mellitus | common bile duct tumor | Bm | 1.5 cm | unknown |
| 4 | Ogawa11) 1999 |
83 | Female | anemia | – | cerebral infarction | (colon cancer) | C | 0.3 cm | 10 months, alive |
| 5 | Our case | 62 | Female | — | – | ovarian cyst, hysteromyoma, hypertension, gastric cancer | common bile duct tumor, gallbladder polyp | Bm | 1.3×1.0 cm | 44 months, alive |
※Gb=body of the gallbladder, Bm=middle common bile duct, C=cystic duct
本邦報告例の平均年齢は57歳(39~83歳),男女比は3:2,胆道系由来と考えられる初発症状は3例であり,その3例中2例で黄疸が見られた.合併症および既往歴において癌を有する例は2例であり,いずれも消化器癌(大腸癌1例,胃癌1例)であった.全例で術前診断では確定診断には至らず,摘出標本の病理組織学的診断にて顆粒細胞腫と診断されていた.ただし,術前に細胞診を含む病理組織学的検査が施行された症例はなかった.腫瘍部位は胆囊体部2例,胆囊管1例,中部胆管2例であり,腫瘍径の平均は0.9 cm(0.3~1.5 cm)であった.初発症状は胆道系の一般的症状であり,顆粒細胞腫特有のものではなく,黄疸の有無についても同様と考えられた.
本症例では,腫瘍は中部胆管に存在し,腫瘍径は1.3 cmと平均より大きかったが,胆管閉塞を来さなかったため,胆道由来の症状はなく,黄疸も認めなかった.
PubMedで検索しえた症例と本症例を含む本邦報告例5例を比較すると,本邦報告例では平均年齢がやや高齢であり,男性が多かった点では差違が見られるが,それ以外はほぼ一致する結果であった.顆粒細胞腫は多くが良性腫瘍であり,1~2%に悪性を認めると報告されており1),本症例を含む本邦報告5例,海外報告例においても胆道系の悪性顆粒細胞腫は見られていない.術後長期成績は,本邦報告5例中,本症例を含む3例で判明しているが,3例全て再発なく,術後10~48か月の生存が確認されている.また,海外報告例では,2例に局所再発が見られたが,ともに再手術によって切除可能であった12)13).
また,胆道顆粒細胞腫と悪性腫瘍の合併例も散見され,本邦報告5例中2例で消化器癌が合併しているが,その関連性については不明である.
利益相反:なし