The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
A Case of Type II Enteropathy-associated T-cell Lymphoma Presenting with Perforated Peritonitis
Satoshi NishiShusuke MoriYasunori NishidaRyousuke HiranoSeijiro YoshifukuNoriaki OtagiriKotaro SasaharaHiroshi KishimotoKatsunori TauchiKayoko Higuchi
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2012 Volume 45 Issue 10 Pages 1059-1065

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Abstract

症例は79歳の男性で,腹痛を主訴に来院した.腹部触診上臍左側に高度の圧痛を認めた.腹部造影CTで左下腹部に限局した小腸壁の肥厚と周囲脂肪織濃度の上昇および腸管外ガス像を認め,小腸穿孔,腹膜炎の診断で緊急手術を施行した.大網の一部がトライツ靱帯より約180 cmの空腸壁に癒着し膿瘍を形成しており,同部を含む小腸部分切除術を施行した.切除標本では中心に潰瘍を伴う3 cm×7 cmの隆起性病変を認め潰瘍底で穿孔を来していた.病理組織学的検査では小腸壁全層に密に増生した中型のリンパ球とlymphoepithelial lesionを認めた.免疫染色検査の結果,CD3陽性,CD4陰性,CD8陽性,CD20陰性,CD56陽性,EBER in situ hybridization陰性であった.以上よりII型腸管症型T細胞リンパ腫と診断した.術後8日目退院となり,その後再発し術後62日目に死亡した.

はじめに

小腸原発のT細胞リンパ腫はまれな疾患であり,穿孔頻度が高く予後不良な疾患として知られている.腸管症型T細胞リンパ腫(enteropathy-associated T-cell lymphoma;以下,EATLと略記)は2008年に改定されたWHO分類で成熟T/NK細胞リンパ腫の一型に分類され,腸管上皮内に腫瘍性リンパ球浸潤を認めるlymphoepithelial lesion(以下,LELと略記)を特徴とする.EATLの頻度は全非ホジキンリンパ腫の1%未満とまれで病理組織学的にI型とII型に分類されている1).今回,我々は小腸穿孔による腹膜炎で発症したII型EATLの1例を経験したので報告する.

症例

患者:79歳,男性

主訴:腹痛

既往歴:洞不全症候群にてペースメーカー留置,発作性心房細動,高血圧,2型糖尿病,虫垂炎にて手術.

現病歴:2010年3月,飲水後に胃液様の嘔吐を来し,その後下腹部痛および39°Cの発熱を認めたため近医を受診した.CRP 13.6 mg/dlと高値であり,腹膜炎の疑いで当院救命救急センターへ紹介受診となった.

入院時現症:血圧159/76 mmHg,体温36.5°C,脈拍数69 bpm整,呼吸数20/min.Sp02は室内気で96%.意識清明.眼球結膜に黄染なし.腹部は平坦で腸蠕動音は減弱し,臍左側に高度の圧痛を認め,反跳痛,筋性防御は認めなかった.

血液検査所見:白血球数9,750/mm3(好中球75.0%,リンパ球15.1%,単球7.6%),CRP 16.7 mg/dl,HGB 12.0 g/dl,HbA1C 7.5%,ビリルビンの上昇,肝胆道系酵素の上昇,腎機能障害は認めなかった.

胸部X線検査所見:肺野は透過性良好で横隔膜下に遊離ガスは認めなかった.

腹部X線検査所見:左腹部に小腸ガス像を認めた.立位でニボー像は認めなかった.

腹部造影CT所見:臍左側に壁肥厚した小腸および周囲脂肪織濃度の上昇,遊離ガス像を認めた(Fig. 1).

Fig. 1 

Enhanced abdominal computed tomography showing the thickening of the small intestinal wall (arrow) and a small amount of free air near the thickened intestine (thick arrow).

以上より,小腸穿孔による腹膜炎と診断し緊急手術を施行した.

手術所見:腹水はごく少量であり混濁は認めなかった.大網の一部がトライツ靱帯より約180 cmの空腸壁に癒着して膿瘍腔を形成しており,同部を含む小腸部分切除術を施行した(Fig. 2, 3).

Fig. 2 

Operative findings showing the thickened small intestine adherent to the greater omentum.

Fig. 3 

Resected specimen showing the abscess between the small intestine and greater omentum.

切除標本:中心に潰瘍を伴う3 cm×7 cmのほぼ全周性の隆起性病変を認め,潰瘍底で穿孔を来しており,周囲に全周性の発赤を伴っていた(Fig. 4).

Fig. 4 

Macroscopic findings of the resected specimen showing the circumferential mass lesion 3 by 7 cm with an ulcer and perforation at the base of the ulcer.

病理組織学的検査所見:割面では腫瘍の中心部に深ぼれ潰瘍が形成され漿膜面では出血を来していた(Fig. 5).組織では円形核を有する一様な中型リンパ球が小腸粘膜から漿膜まで全層性に密に増生し(Fig. 6),腫瘍性リンパ球が腫瘍周辺の粘膜上皮内に浸潤するLELも認められた(Fig. 7).免疫染色検査では腫瘍細胞はCD3(+),CD4(–),CD8(+),CD20(–),CD56(+)(Fig. 8),EBV-encoded small RNAs(以下,EBERと略記)in situ hybridizationは陰性であった.以上よりII型EATLと診断した.

Fig. 5 

Microscopic findings (HE stain) show a deep ulcer (thick arrow) with serosal hemorrhage (arrow) indicating perforation.

Fig. 6 

Microscopic findings (HE stain ×4) showing densely packed monomorphic medium-sized cells.

Fig. 7 

Microscopic findings showing a lymphoepithelial lesion composed of increasing numbers of intraepithelial lymphocytes. a: HE stain ×40, b: AE1/AE3 (pancytokeratin antibody) immunostain ×40.

Fig. 8 

Immunohistochemical findings. Tumor cells are positive for CD3, CD8 and CD56 and negative for CD4, CD20.

術後経過:経過は良好であり,術後8日目に退院となった.化学療法を希望されず外来で経過観察となっていた.術後19日目のFDG-PETでは異常集積を認めなかったが可溶性IL-2レセプターは1,400 U/ml(基準値145–519 U/ml)と高値を示していた.LDHは術前221 U/l(基準値115–245 U/l)で術後35日目より軽度上昇し術後61日目の値は357 U/lであった.術後23日目,左眼瞼下垂,左瞳孔散大および複視が出現し再入院となった.これらは左動眼神経麻痺の徴候であり,その後右の動眼神経麻痺も出現した.術後29日目には頭痛,嘔気を認め頭部単純CTを施行したが異常所見を認めなかった.術後34日目,左口角下垂を認め神経内科医師より末梢性左顔面神経麻痺と診断され,悪性リンパ腫の頭蓋底への髄膜播種も疑われたが髄液検査は拒否された.嚥下障害が出現したため経口摂取を中止し経管栄養を開始した.術後35目の腹部単純CT所見では腸間膜内に複数の結節性病変を認め,悪性リンパ腫の再発が疑われた.検査や治療は希望されないとのことで療養型の病院へ転院の予定であった.術後60日目の夕方に37.9°Cの発熱を認め,術後61日目の朝に胸部,腹部単純CTを施行した.胸部単純CT所見では縦隔や肺門リンパ節の有意な腫大は認めなかった.腹部単純CT所見では手術部位の小腸壁の肥厚が疑われ,術後35日目に認めていた腸間膜のリンパ節が増大傾向であった(Fig. 9).夜間になり体温は39°Cまで上昇し,意識はJCSIII-100へ低下,呼吸は努力様で血圧は80 mmHg台へ低下していた.朝には意識はJCSIII-300となり橈骨動脈は触知不能となった.心拍数は徐々に低下し心肺停止状態となり,術後62日目に死亡した.剖検は希望されなかった.

Fig. 9 

Abdominal computed tomography shows multiple swollen lymph nodes in the mesentery (arrows).

考察

消化管悪性リンパ腫のほとんどはB細胞リンパ腫でありT細胞リンパ腫はまれである.高田ら2)は消化管悪性リンパ腫2,504例を検討し,T細胞性リンパ腫は90例(3.6%)であったと報告している.小腸原発悪性リンパ腫は消化管原発の悪性リンパ腫の20~30%,全消化管悪性腫瘍の1~5%,小腸原発悪性腫瘍の30.4%を占め,小腸悪性リンパ腫のうちT細胞リンパ腫は17%と報告されている3)4).EATLは消化管原発の悪性リンパ腫の5%以下であり,本邦におけるEATLは全ての悪性リンパ腫の0.25%である5)

消化管原発悪性リンパ腫の診断にDawsonら6)の診断基準が用いられる.診断基準は,①消化管病変が主体で転移は所属リンパ節のみ,②表在リンパ節の腫大がない,③胸部単純X線検査所見で縦隔リンパ節腫大がない,④末梢血の血球検査で白血化がない,⑤肝臓・脾臓に腫瘍を認めない,である.本症例はこれら5項目を満たしている.また消化管悪性リンパ腫の病期分類にはLugano国際会議で作成された臨床病期分類が用いられるが,本症例はstage IIE(omentum)であった7)

1978年にIsaacsonら8)は18症例の小腸原発リンパ腫を検討したところ,形態学的に悪性組織球症に類似し,非腫瘍性部分にvillous atrophyとcrypt hyperplasiaを伴うことを報告した.1986年にO’Farrellyら9)はこのリンパ腫がセリアック病に関連していることを見出し,enteropathy-associated T-cell lymphomaとして報告した.2001年のWHO分類ではenteropathy-type T-cell lymphomaと記載され T/NK細胞リンパ腫の一型に分類されていた.2008年のWHO分類ではenteropathy-associated T-cell lymphomaと記載が変更となり,さらに形態学的,免疫学的,遺伝学的特徴から二つの型に分類された.EATLは腸管上皮内T細胞に由来し,腸管上皮内浸潤が特徴で腸管全層に浸潤する1)

EATLはI型とII型に分類されている.I型はEATLの80~90%を占め,大型細胞が混在するものや核の多形性の目立つのを特徴とし,多くはCD8とCD56が陰性となる.またI型の70%以上はセリアック病と関係がありHLA-DQ2/DQ8は90%以上陽性となる.これに対しII型はEATLの10~20%程度で単形性の中型の腫瘍細胞を特徴とし,多くはCD8とCD56が陽性となり,セリアック病との関連はない1)5)9)~11).I型は欧米人に多く,II型は本邦報告例に多い12).EATLのほとんどは近位小腸,特に空腸に認めるが,回腸,十二指腸,胃,結腸にも生じる5).臨床的にはI型は吸収不良,体重減少などセリアック病に関連した症状で,II型は消化管穿孔や腸閉塞を来すのが特徴である5).本症例ではセリアック病の既往がないこと,腸管上皮内への一様な中型のT細胞浸潤を認め,CD8およびCD56が共に陽性であることからII型EATLと診断した.1983年~2012年1月までに医学中央雑誌(会議録を除く)で「小腸」,「T細胞リンパ腫」をキーワードにして検索したところII型EATLの報告はAkiyamaら13)が報告した5例,鈴木ら14)が報告した1例および自験例を合わせ7例であった(Table 113)14).7例中5例で穿孔を来し手術が行われた.鈴木ら14)の報告では原発病変の切除とCHOP療法が施行され術後1年再発を認めていないが,それ以外の症例では予後は2か月~13か月と不良であった.II型 EATLは有効な化学療法が確立されておらず予後不良である.

Table 1  Reported cases of type II EATL in Japan
Case Author/
Year
Age/Sex Symptom Location Perforation Histopathology LEL CD8 CD56 EBER Treatment Prognosis
1 Akiyama13)
2008
43/F abdminal pain jejunum + monomorphic medium + + + operation chemotherapy 5 months dead
2 Akiyama13)
2008
45/F abdminal pain ileum/mesentery + monomorphic medium to large + + + operation chemotherapy 2 months dead
3 Akiyama13)
2008
75/M abdminal pain duodenum/ileumu/lung + pleomorphic medium to large + + + operation chemotherapy 13 months death
4 Akiyama13)
2008
72/F abdminal pain constipation jejunum/ileum/mesentery/lung/skin/blood + monomorphic medium to large + + + operation chemotherapy 2 months dead
5 Akiyama13)
2008
74/M odynophasia jejunum/mesentery/lung/skin/brain monomorphic medium + + + operation chemoradiation 8 months dead
6 Suzuki14)
2011
69/M tarry stool ileum monomorphic medium + + operation chemotherapy 12 months alive
7 Our case 78/M abdminal pain jejunum/mesentery + monomorphic medium + + + operation 2 months dead

本症例は小腸穿孔による腹膜炎にて小腸部分切除を施行し,術後19日のFDG-PETにて異常集積を認めなかったが,その後に動眼神経麻痺や顔面神経麻痺といった脳神経症状を呈し,腸間膜に複数の結節性病変が出現し術後約2か月で死亡するという急速な経過をたどった.突然の意識障害出現を考えるとII型EATLの髄膜播種による脳圧亢進が死因として考えられた.

本邦におけるII型EATLの報告はまだ少なく,治療方針は確立していない.本症例は術後化学療法を行わず,短期間に再発し死亡したが,過去の報告例では術後化学療法を行い1年間再発なく生存している症例もある.今後さらなる症例の蓄積が治療方針の確立につながると考える.II型EATLのまれな1例を経験したので報告した.

利益相反:なし

文献
 

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