The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
A Rare Case of Arteriovenous Fistula of Splenic Vessels After Splenectomy Necessitated by Spontaneous Rupture of a Splenic Cyst
Eiji SunamiIsao KurosakiKazuyasu TakizawaKen NishikuraKatsuyoshi Hatakeyama
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2012 Volume 45 Issue 8 Pages 850-856

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Abstract

症例は78歳の女性で,2002年9月脾囊胞自然破裂による腹腔内出血のため当院にて緊急脾臓摘出術を施行した.その際脾動静脈は数回に分けて一括結紮処理された.その後2006年6月他院での腹部USにて脾静脈拡張を指摘され当科紹介となった.腹部CTにて膵尾部外側に長経約7 cmの,脾静脈と同等に強く造影される腫瘤を指摘された.腹部MRIでは造影早期相にて強い造影効果を呈し,さらに,拡張した門脈にも造影効果を認めたことから脾動静脈瘻と診断し手術適応と考え,前回手術から3年11か月後に手術を施行した.開腹所見では膵尾部外側の,脾動静脈の断端に約7 cm径のスリルを伴う血流豊富な腫瘤を認め脾動静脈瘻と診断した.手術は脾動静脈をそれぞれ結紮切離し腫瘤切除を行った.術後経過は良好であった.脾摘の際に脾動静脈を一括結紮切離したことが原因になり脾動静脈瘻が形成されたと考えられる,まれな1例を経験したので報告する.

はじめに

脾動静脈瘤は比較的まれな病態であり1),今回,我々は脾臓摘出術に起因したと考えられる脾動静脈瘻の1例を経験したので報告する.

症例

症例:78歳,女性

主訴:特になし.

既往歴:68歳時より統合失調症のため他院にて入院施療中であった.2002年9月に脾囊胞自然破裂による腹腔内出血のため当科にて脾臓摘出術を施行した.損傷した脾臓のみを摘出し,膵臓は損傷もなく切除しなかった.脾門部の血管は,数回に分けて動静脈を集束結紮切離し処理された.病理組織診断では,多発脾囊胞の一つが自然破裂しており,これが出血の原因と考えられた.術中約4,500 mlの出血量があった.

家族歴:特記すべきことなし.

現病歴:2006年6月上旬特に自覚症状はなかったが,他院による腹部USにて脾静脈の拡張を指摘されたため6月中旬当院内科紹介受診,腹部CTにて膵尾部外側に長径約7 cmの,脾静脈と同等に強く造影される腫瘤が指摘された.そのため7月中旬当科紹介となった.腹部MRIでは脾動静脈断端に一致して約7 cm大の多血性腫瘍が認められた.手術適応と考えられ7月下旬当科入院となった.

入院時現症:身長147 cm,体重57 kg,血圧106/66 mmHg,脈拍72/分,整,眼結膜に貧血,黄疸なし.体表リンパ節を触知しない.腹部は平坦・軟で腫瘤を認めず,上腹部正中に手術痕を認めた.

入院時検査成績:血液一般検査では異常所見は認めず,肝機能障害の所見も認めなかった.

腹部CT所見:脾静脈に連続するように,約7 cm径の良好に造影される瘤状変化を認め,さらに,門脈本幹や脾静脈の拡張を伴っていた(Fig. 1).

腹部MRI所見:CTにて指摘された脾静脈に連続した腫瘍は,T1およびT2強調像にていずれも低信号であるが,造影の早期相にて強い造影効果を呈しさらに,拡張した門脈にも造影効果を認め(Fig. 2),脾動静脈間にシャントが形成されている可能性が強く考えられた.

Fig. 1 

Abdominal CT demonstrated a 7-cm tumor, which communicated with a dilated splenic vein.

Fig. 2 

T2-weighted MRI showed that the tumor was well-enhanced in the early phase, and the dilated portal vein was also enhanced at the same time. These findings indicated shunt formation between the splenic artery and vein.

上部消化管内視鏡検査所見:特記所見はなく,食道静脈瘤も認めなかった.

以上より脾動静脈の断端に形成された脾動静脈瘻と診断し手術を施行した.

術中所見:逆T字切開にて開腹すると,腹腔内に腹水や血液貯留を認めず,また悪性腫瘍を疑わせる所見はなかった.前回手術の癒着は軽度であった.腫瘤は術前診断通り膵尾部外側に径7 cmの,スリルを伴って触診あるいは肉眼的に内部に血流を確認できる,囊状に拡張した脾静脈であった(Fig. 3).術中ドップラー超音波検査を施行すると静脈瘤内の血流はうずまき状を呈し,乱流を生じていた.脾動脈の血流を遮断したところ拍動が消失したことから,この囊胞が脾動静脈瘻に由来しているものであることを確認した(Fig. 4).囊状の脾静脈は膵臓など周囲の臓器や血管などとの癒着はなく容易に剥離され,壁の近傍で脾動脈と脾静脈をそれぞれ結紮切離し,囊状部分のみを摘出した.

Fig. 3 

On laparotomy, the 7-cm tumor was located in the lateral side of the pancreatic tail, and had abundant pulsatile blood flow.

Fig. 4 

Intraabdominal US demonstrated that the tumor had abundant arterial blood flow. The pulsatility disappeared on clamping the splenic artery, thus the tumor was diagnosed as an arterio-venous fistula.

切除標本造影所見:脾動脈にカニュレーションをし60%ウログラフィンを用いて造影を施行したところ,瘻孔を経て径7 cmの脾静脈瘤内部が造影された.内部には血塊を認め,瘻孔の大きさは実測で5 mmであった(Fig. 5a, b).

Fig. 5 

The fistula on the resected specimen was about 5 mm in diameter, enhanced with 60% urographin postoperatively. A: splenic artery, V: splenic vein, F: fistula

病理組織学的検査所見:脾動脈は軽度の内膜肥厚や石灰化を伴う動脈硬化を呈し,限局的に拡張が認められた.脾静脈壁は著明に拡張していた(Fig. 6).

Fig. 6 

The splenic vein was dilated with a thickened wall, and the artery showed mild atherosclerosis with calcification and localized dilatation (atherosclerotic aneurysm). No arteriovenous fistula was evident.

術後経過は良好で,術後12病日に当科退院となり前院に転院となった.

考察

脾動静脈瘻は1886年Weigert1)により剖検例で初めて報告されているが,その多くは肝硬変や門脈圧亢進症などの背景疾患に合併して生じると報告されている.したがって,症状としては脾腫,腹水などで肝硬変/門脈圧亢進症に基づく症状が多い.原因として,先天的なもの,動脈硬化に由来するもの,感染,手術手技によるもの,成因不明なものなどが挙げられている.

本症例は臨床症状としては明らかなものはなく,術後フォローの腹部USによって脾静脈拡張を指摘され精査となった.その間上述した背景疾患は認められず,脾動静脈瘻は脾臓摘出術に由来するものと考えられた.脾臓摘出術後に生じた脾動静脈瘻の報告はまれで,医学中央雑誌にて1983年から2011年3月までに「脾摘」と「脾動静脈瘻」をキーワードとして検索したところ欧米では9例,本邦ではわずか1例であった.またPubMed にて1950年から2011年8月までに「postsplenectomy」と「splenic AV fistula」をキーワードとして検索し,7例が報告されていた.本邦の報告例は小林ら2)が,肝細胞癌術後の血栓性肝外門脈閉塞に対するシャント手術後の脾動静脈瘻を報告している.

脾動静脈瘻の診断は腹部血管造影にて確定される報告がほとんどである2)3).また高リスク例では血管造影下に瘻孔の閉鎖術を施行している4)5).本例では統合失調症などの影響で腹部血管造影を施行するのが困難であり,低侵襲であるMRIを施行した.T1, T2強調像にて造影の早期相で脾動脈と同等に増強され,同時に脾静脈および門脈の増強効果を認めたことから脾動静脈瘻と診断した.MRIは本疾患の診断に極めて有用な検査であることが示唆された.

小林ら2)は術前に腹部血管造影を施行し,脾動脈の断端から脾静脈に瘻孔の存在を確認している.動脈の断端から瘻孔が形成されていることから,前回手術での脾動静脈の集束結紮が瘻孔形成に影響した可能性が高いと指摘している.またElkinら6)も成因の可能性として“mass ligation of arteries and veins”を指摘している.本例における脾摘の既往も,腹腔内出血による緊急手術であったことから脾動静脈を数回に分けて集束結紮切離していた.また瘻孔もやはり脾動脈断端に形成されており,脾動静脈の集束結紮の影響を裏付けていると考えてよいだろう.

病理組織診断によると,囊状に拡張した部分は7 cmにも拡張した脾静脈の断端の静脈瘤であった.また脾動脈には一部拡張した部分が認められ,限局した動脈瘤の形態をとっていた.初回手術の脾臓摘出術後の経過は良好で,左横隔膜下に留置されていたドレーンは術後6日目に抜去され血清アミラーゼ値も正常範囲であった.そのため膵損傷による術後膵液漏は認めず,またその他術後合併症もなかった.動脈瘤は患者側の素地として動脈硬化があったところに,手術による剥離や結紮の影響が加わっているのではないかと推測される.本例では組織学的に瘻孔は同定できなかったが,脾動脈本幹に小さな仮性動脈瘤が形成され,それが集束結紮によって一塊となった脾静脈と交通を持つことで脾動静脈瘻が形成されたと考えられた.さらに,本症例に特徴的なのは,限局的な球状の静脈瘤の形成である.術中に施行したドップラー超音波検査で静脈瘤内にうずまき状の血流を認め,乱流状態を確認している.そのため静脈瘤内で内圧が上昇し,限局的な門脈圧亢進状態を来したと考えられ,それがこの静脈瘤の形成につながったと推測される.その模式図をFig. 7に示した.静脈瘤がこのように末端で球状の形態をとったのは血流の乱流状態が存在したことに加え,上腸間膜静脈—門脈圧と脾静脈末端の圧が拮抗していたことが影響して,脾静脈末端の極めて小範囲が拡張したと考えられる.最初に形成した動静脈瘻は小さなものであったが,計時的に静脈瘤が増大していった過程が推測される.昨今は腹腔鏡下脾臓摘出術において,自動縫合器による脾動静脈一括処理が行われている場合が多い.その術後フォローで,脾動静脈瘻も起こりうる合併症の一つとして詳細に観察をする必要があると思われる.本例はそのような意味においても考えさせられる興味深い症例であった.

Fig. 7 

Schema of splenic A-V fistula caused by total ligation and resection of splenic artery and vein.

利益相反:なし

文献
  • 1)   Weigert  VC. In die Milzvene geborstenes Aneurysma einer Milzarterie. Arch Path Anat. 1886;104:26–30.
  • 2)   小林  達則, 松田  忠和, 大崎  俊英, 船曵  定実, 柚木  正之, 村嶋  信尚,ほか.摘脾後に発生した脾動静脈瘻の1例.日本臨床外科学会雑誌.1988;49:917–21.
  • 3)   藤井  秀樹, 真下  六郎, 許  国文, 若城  太朗, 磯和  剛平, 松本  由朗.肝性昏睡を来した脾動静脈瘻の1治験例.肝臓.1983;24:331–8.
  • 4)   Zelch  JV,  Herman  RE. Control of arteriovenous fistula of splenic vessels by forgaty catheter. Arch Surg. 1975;110(3):329–31.
  • 5)   Keller  FS,  Rosch  J, Dotter, CT. Bleeding from esophageal varices exacerbated by splenic arterial-venous fistula: complete transcatheter obliterative therapy. Cardiovas Intervent Radiol. 1980;3(3):97–102.
  • 6)   Elkin  DC,  Banner  EA. Arteriovenous aneurysm following surgical operations. J Am Med Assoc. 1946;131(14):1117–9.
 

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