The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
Long-term Recurrence-free Survival of a Spindle Cell Type Anaplastic Ductal Carcinoma of the Pancreas and Review of the Literature
Hiroaki MotoyamaAkira KobayashiKenta YokoiHiroe KitaharaNorihiko FurusawaKoji KubotaAkira ShimizuTakenari NakataTakahide YokoyamaShinichi Miyagawa
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2012 Volume 45 Issue 9 Pages 970-976

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Abstract

症例は63歳男性で,心窩部痛と黄疸を主訴に発症した.膵鈎頭部に2.5 cm大の乏血性腫瘤を認め, 膵鈎頭部癌の診断で膵頭十二指腸切除術を施行.病理組織学的検査の結果,紡錘細胞型退形成性膵管癌(anaplastic ductal carcinoma of the pancreas;以下,ADCと略記)と診断された.補助化学療法は施行せず,術後7年無再発生存中である.ADCは浸潤性膵管癌の一亜型であり,まれで予後不良な腫瘍である.その細胞形態から紡錘細胞型を含め4型に分類されるが,これまでに紡錘細胞型における長期生存例の報告はない.ADC本邦報告例に自験例を加えた検討を行い,報告する.

はじめに

退形成性膵管癌(anaplastic ductal carcinoma of the pancreas;以下,ADCと略記)は浸潤性膵管癌のうち,約0.16%の頻度で発生するまれで予後不良な腫瘍である1).ADCはその細胞形態より巨細胞型・多形細胞型・紡錘細胞型・破骨細胞型の4型に分類されるが2),紡錘細胞型における5年生存例の報告はない.今回,我々は術後7年無再発生存中の紡錘細胞型ADCの1例を経験したので文献的考察を加え報告する.

症例

患者:63歳,男性

主訴:心窩部痛,黄疸

既往歴:特記すべきことなし.

家族歴:特記すべきことなし.

現病歴:2003年9月上旬より心窩部痛と黄疸が出現し前医受診.閉塞性黄疸の診断のもと当科紹介,入院となった.

現症:身長176 cm,体重56 kg.明らかな身体異常所見は認めなかった.

検査所見:T-Bil. 1.0 mg/dl,AST 25 IU/l,ALT 40 IU/l,ALP 451IU/l,γGTP 285 IU/lと胆道系酵素の上昇を認めた.腫瘍マーカーはCEA 2.2 ng/dl,CA19-9 63.4 IU/ml,DUPAN-2 <25 U/ml,SPAN-1 35 U/mlとCA19-9およびSPAN-1の上昇を認めた.

腹部CT所見:膵鈎頭部に直径2 cm大の乏血性腫瘤を認めた(Fig. 1A).また肝S5に直径1.5 cm大の造影効果を示す腫瘤を認めた.

Fig. 1 

Enhanced CT (A), Dynamic MRI (B) and CT-angiography (C) showed a hypovascular mass (arrows) in the pancreatic groove.

腹部MRI所見:膵鈎頭部腫瘤はT2強調像で等~低,T1強調像で低信号を呈する境界不明瞭な病変であり,Dynamic MRIではCTと同様に乏血性病変として描出された(Fig. 1B).肝結節性病変はT2強調像で輪郭不明瞭な高信号,T1強調像で低信号を呈し,CTと同様に濃染を呈した(Fig. 2A).またSPIO-MRIにて取り込み欠損像を示した.

Fig. 2 

(A) Dynamic MRI showed an inflammatory pseudotumor (arrow) in segment 5 of the liver. (B) Postoperative enhanced CT showed the disappearance of this pseudotumor.

血管造影下CT所見:膵鈎頭腫瘤はCTAにて造影CTと同様の造影パターンを示した(Fig. 1C).肝S5の病変はCTAPでperfusion defectを呈した.

ERCP:下部胆管に狭窄像を認めるものの主膵管に明らかな異常所見を認めなかった.狭窄部からの胆管生検結果はGroup IVであったが,胆汁細胞診ではClass 5,高分化腺癌が検出された.

FDG-PET所見:膵鈎頭部腫瘤はstandardized uptake value(SUV)max 7.1の異常集積を示した.肝腫瘤への集積は認めなかった.

以上より,膵鈎頭癌の診断のもと手術を予定した.肝腫瘤は転移の可能性を否定できないものの,FDG-PETでの集積が認められない点より膵病変とは異なる病態も考えられたため,術中肝生検にて最終的に診断することとした.

手術所見:開腹時,腹水や腹膜播種は認められなかった.肝腫瘤は触知しえず,術中超音波検査にてechogenic massとして同定し得た.同病変をUSガイド下に針生検を施行したところ,グリソン周囲の炎症所見のみであり,炎症性偽腫瘤と診断した.膵鈎頭部腫留は硬結として触知したが,周囲臓器・脈管への明らかな浸潤は認めなかった.また#16b1リンパ節をサンプリングし術中迅速診断に提出したがリンパ節転移は認められなかった.以上の所見より根治切除可能と判断し膵頭十二指腸切除(幽門輪非温存),D2(#6,8,12b,12c,14,17)リンパ節郭清,Child変法再建術を施行した.

病理組織学的検査所見:膵鈎頭部に2.5×2.5 cmの境界不明瞭な結節性病変を認めた(Fig. 3A).組織学的には紡錘形細胞を主体とする異型細胞の肉腫様増殖像を認めた(Fig. 3B, C).紡錘形異型細胞は全体の約70%を占め,これに混在して多核巨細胞や類円形単核異型細胞の増生も認められた.腫瘍中心部一部(約5%)に低分化型管状腺癌の成分を認めた.腫瘍は膵後方脂肪組織への浸潤を認め,膵剥離面のごく一部に腫瘍細胞の浸潤を認めた(Fig. 3D)ためpRP(+),pDPM(+)と診断した.リンパ節転移は,#17および#8aに認められた.以上より膵癌取扱い規約第5版2)にしたがって,退形成性膵管癌,紡錘細胞型,pT3,結節型,INFγ,ly2,v2,ne2,mpd(–),pCH(–),pDU(+),pS(–),pRP(+),pPV(–),pA(–),pPL(x),pOO(–),pN2,pPCM(–),pBCM(–),pDPM(+),R1,Stage IVaと診断された.

Fig. 3 

(A) Resected specimen showing a tumor at the pancreatic groove about 25 mm in diameter. (B) Low-power view demonstrating both adenocarcinoma and stromal components (H&E, ×50). (C) The stromal components were mainly constructed with spindle-shaped atypical cells (H&E, ×100). (D) These spindle cells slightly invaded at the dissected surface of the pancreas (arrows) (H&E, ×200).

術後経過:特記すべき合併症を認めず経過した.術後7年経過した現在明らかな再発所見を認めず,また術前に指摘された肝S5炎症性偽腫瘍は画像上消失を認めている(Fig. 2B).術後補助化学療法は施行していない.

考察

ADCは1954年にSommersら3)によって肉腫様成分が混在する膵管癌(pleomorphic carcinoma)として初めて報告された.本邦では1993年の膵癌取扱い規約第4版から浸潤性膵管癌の一型とされ,その細胞形態により巨細胞型(giant cell type),紡錘細胞型(spindle cell type),多形細胞型(pleomorphic type)に分類され,巨細胞型のうち破骨細胞類似巨細胞が目立つものは破骨細胞型(giant cell carcinoma of osteocalstoid)として亜分類されている.日本膵臓学会の集計によれば,ADCの発生頻度は1981年から2002年までに登録された膵癌11,819例中19例(0.16%)であり1),まれな組織型と考えられる.臨床的には急激な膨張性発育により巨大腫瘤として発見される症例や4),既に広範なリンパ節転移や肝臓・肺などへの血行性転移を来している症例が少なからず存在するため,通常の浸潤性膵管癌に比べて予後不良とされている5)6)

医学中央雑誌を用いて「退形成性膵管癌」,「anaplastic carcinoma」(会議録を除く)をキーワードとして,1993年の膵癌取扱い規約改定以降2011年3月までの期間で検索した結果,自験例以外に計54例の報告があった.症例の内訳は巨細胞型12例,破骨細胞型17例,紡錘細胞型11例,多形細胞型10例(不明4例)であった.これらのうち詳細の判明した43症例について検討を行った.発症年齢中央値は65歳(32〜85歳)であり,男性24例,女性19例であった.ADCの特徴である膨張性発育を裏付けるように,最大腫瘍径が10 cmを超えた症例は11例(25.6%)であった.手術は39例に施行(膵頭十二指腸切除21例,膵体尾部切除術15例,膵全摘術3例)され,内18例(46.2%)において他臓器合併切除を要した.手術例の生存期間中央値は12か月(0.3〜133か月),同時性他臓器転移症例や術後再発症例に限っては4か月(0.6〜24か月)と極めて不良であった.5年生存が得られた4例の内訳は,多形細胞型3例,破骨細胞型1例であり,紡錘細胞型の報告例は認められなかった(Table 17)8)

Table 1  Long-term survivors of anaplastic carcinoma: reported cases in Japan
Case Authors Year Age Sex TS (cm) Histological type Location Operation Combined resection Curability Stage Prognosis
1 Yamada7) 2005 74 M 10 pleomo Ph PD (+) R0 III  60 m
2 Saegusa8) 2005 65 M 10 pleomo Pt DP (+) R0 II 121 m
3 Saegusa8) 2005 65 M 6 pleomo Ph PD (–) R0 IVa 133 m
4 Saegusa8) 2005 49 M 4 osteo Ph PD (–) R1 IVa 133 m
5 Our case 63 M 2.5 spindle Ph PD (–) R1 IVa  88 m

Note: pleomo; pleomorphic type, osteo; giant cell carcinoma of osteocalstoid, spindle; spindle cell type, Ph; head, Pb; body, Pt; tail, TS; tumor size, DP; distal pancreatectomy, PD; pancretatico-duodenectomy, m; months

紡錘細胞型ADCの予後について,Paalら9)はADC 35例の検討から紡錘細胞型(n=4)の術後平均生存期間は巨細胞型(n=31)と比べて有意に短い(3.3か月vs. 6.0か月)ことを報告している.同様に本邦報告例の検討においても,紡錘細胞型はその他の組織型と比べ,①術後生存期間中央値が有意に短く(3か月vs. 14か月,P=0.027),②他臓器転移が有意に多い(89% vs. 30%,P=0.005),という結果であった.浸潤性膵管癌における予後予測因子については,リンパ節転移の有無10)や組織学的治癒切除11)12)などがその候補として報告されている.自験例を含めた本邦における紡錘細胞型ADC治癒切除症例9例(Table 2)を生存例と再発例の2群に分け,年齢・性別・最大腫瘍径・リンパ節転移の有無・他臓器合併切除の有無の各因子について検討すると,生存例(n=3)の平均最大腫瘍径は再発例(n=6)に比し有意に小さい(2.0±0.9 cm vs. 7.6±3.7 cm,P=0.042)という結果が得られたが,症例数が少なく紡錘細胞型ADCにおける予後因子を特定するためには更なる症例蓄積を要すると考えられた13)~20).自験例は2群リンパ節転移陽性かつpDPM(+)のR1症例であるが,島田ら21)は浸潤性膵管癌における長期生存症例の検討を行い,術後10年以上の生存が得られた10症例の中に,通常その長期予後を期待しにくい,同時性肝転移症例,2群リンパ節転移陽性症例,R1症例などが含まれていることを報告している.自験例において今回のような長期予後を獲得しえた主因を特定することは困難であるが,臨床病期の進行した症例であっても時に予測を超えた長期生存を得られる可能性があるという点においては,示唆的な症例であると考えられた.

Table 2  Spindle cell type anaplastic carcinoma of pancreas: resected cases in Japan
No. Author Year Age Sex TS (cm) Location Operation Combind resection Lymphnode metastasis Stage Site of recurrence Prognosis
Reccurent cases 1 Shirobe13) 1995 54 F 11 Pbth TP + + IVa liver  3 m/dead
2 Saito14) 1996 49 M 9 Pbt DP + + IVa liver  2 m/dead
3 Higuchi15) 2004 65 F 11 Pt DP + IVa liver  3 m/dead
4 Nakannishi16) 2006 69 M 1.5 Pb DP I liver, peritoneum, ampulla of vater  8 m/dead
5 Hino17) 2007 56 M 8 Ph PD + unknown liver  3 m/dead
6 Abo18) 2007 84 F 5 Ph PD + III liver 10 m/dead
Survival cases 7 Fujiwara19) 2007 71 F 1 Pb DP III 20 m/alive
8 Kozuki20) 2010 78 F 2.5 Ph PD + + IVb  6 m/alive
9 Our case 63 M 2.5 Ph PD + IVa 88 m/alive

Note: TP; total pancreatectomy

利益相反:なし

文献
 

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