The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
Synchronous Sigmoid Colon Metastasis from a Carcinoma of the Ampulla of Vater
Koki TabataKanji MiyataNorihiro YuasaEiji TakeuchiYasutomo GotoHideo MiyakeHidemasa NagaiYoichiro KobayashiMasafumi Ito
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2013 Volume 46 Issue 1 Pages 25-33

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Abstract

症例は74歳の男性で,2002年に十二指腸乳頭部腫瘍に対し開腹十二指腸乳頭部腫瘍切除が施行され,病理組織学的に高度異型腺腫であり,切除断端陰性と診断された.2008年,黄疸を主訴に当院を受診した.内視鏡検査で十二指腸乳頭部に不整な腫瘤を認め,生検で中分化型腺癌と診断された.下部消化管内視鏡検査にて,S状結腸にひだ集中と辺縁隆起を伴う不整な潰瘍性病変を認め,生検所見を考慮して転移性腫瘍と診断した.十二指腸乳頭部癌,同時性S状結腸転移と診断し膵頭十二指腸切除術・S状結腸切除術を施行した.病理組織学的検査所見は中分化型腺癌,Panc1b,Du2,N2(#13b,#14d,#17d),EM0,M1(S状結腸),Stage IVbであった.S状結腸転移は血行性あるいはリンパ行性転移と考えられた.大腸に孤立性転移を認める十二指腸乳頭部癌は極めてまれで,内視鏡所見,生検所見から術前診断しえたので報告する.

はじめに

消化器癌の大腸への転移は播種性転移によることが多く,血行性またはリンパ行性転移は極めてまれである1)~3).今回,我々は十二指腸乳頭部癌の同時性S状結腸転移を術前診断し,その転移形式は血行性あるいはリンパ行性と考えられたので,文献的考察を加えて報告する.

症例

患者:74歳,男性

主訴:心窩部痛,黄疸

既往歴:高血圧症

家族歴:特記すべきことなし.

現病歴:2001年に当院消化器内科にて重症急性膵炎を契機に十二指腸乳頭部腫瘍を指摘され,生検にて腺腫と診断された.2002年4月に開腹十二指腸切開,十二指腸乳頭部腫瘍切除術を施行し,病理組織学的に高度異型腺腫であり,切除断端陰性と診断された(Fig. 1).2008年8月,心窩部痛と黄疸のため当院を受診した.

Fig. 1 

Histological findings of the tumor of the ampulla of Vater resected in 2002 shows severe atypia (×100).

入院時現症:身長165 cm,体重53.4 kg,体温38.7度.腹部は平坦,軟で,圧痛はなく,腫瘤は触知しなかった.

入院時検査所見:白血球11,900/μl,赤血球463×104/μl,CRP 6.9 mg/dl,T-bil 9.8 mg/dl,D-bil 7.9 mg/dl,AST 433 IU/l,ALT 353 IU/l,ALP 1,507 IU/l,AMY 431 IU/l,CEA 1.5 ng/ml,CA19-9 36.3 U/mlと炎症反応,ビリルビン,肝胆道系酵素,アミラーゼの上昇を認めた.

腹部CT所見:総胆管・肝内胆管・主膵管の拡張と十二指腸乳頭部に腫瘤性病変を認めた.

上部消化管内視鏡検査所見:十二指腸乳頭部に境界明瞭な広基性の乳頭状腫瘤を認め,生検で中分化型腺癌と診断された.

内視鏡的逆行性胆管膵管造影検査所見:下部胆管・主膵管に結節状の陰影欠損を認め,総胆管・主膵管の拡張を認めたため,内視鏡的逆行性胆道・膵管ドレナージを施行した.

他臓器癌をスクリーニングする目的で下部消化管内視鏡検査を行ったところ,S状結腸にひだの集中と辺縁隆起を伴う不整な潰瘍性病変を認めた(Fig. 2).生検標本の病理組織学的検索で,粘膜表層上皮細胞がよく保たれ粘膜下に浸潤性腫瘍を認めたため(Fig. 3),内視鏡所見と合わせて転移性S状結腸癌と診断した.

Fig. 2 

Colonoscopy shows an irregular ulcerative tumor with converging folds and peripheral ridge in the sigmoid colon.

Fig. 3 

Histological findings of the biopsy specimen from the ulcerative tumor in the sigmoid colon show atypical cells invading into the submucosal layer and covered with normal mucosal epithelium.

FDG-PET/CTにてFDGの高集積を十二指腸乳頭部(maximum standardized uptake value;以下,max SUVと略記:8.4)とS状結腸(max SUV: 4.5)に認め,その他の部位への異常なFDGの集積は認めなかった.以上の所見より,十二指腸乳頭部癌,同時性S状結腸転移と診断し,亜全胃温存膵頭十二指腸切除・S状結腸切除を施行した.

手術所見:肝転移,腹膜播種を認めなかった.

切除標本肉眼所見:十二指腸乳頭から下部胆管に境界明瞭な乳頭状腫瘍を認めた(Fig. 4).S状結腸にはひだの集中と辺縁隆起を伴う不整な潰瘍を認めた.辺縁隆起部の粘膜は保たれていた(Fig. 5).

Fig. 4 

Macroscopic findings of the resected specimen of the bile duct and duodenum show a reddish papillary tumor located in the lower bile duct and ampulla of Vater.

Fig. 5 

Macroscopic findings of the resected specimen of the sigmoid colon show an irregular ulcer with converging folds and a peripheral ridge covered with normal mucosa.

病理組織学的検査所見(Fig. 6, 7):十二指腸乳頭部の腫瘍は異型円柱上皮細胞が不規則な腺管を形成し増生・浸潤する中分化型腺癌で,腫瘍の浸潤部では低分化腺癌の形態を呈し,下部胆管,膵臓に浸潤していた.S状結腸の腫瘤は粘膜下層を中心に発育する低分化型腺癌で,粘膜は保たれ浸潤は筋層にとどまり,漿膜に浸潤を認めなかった.S状結腸間膜にリンパ節転移を認めなかったが,リンパ管侵襲,静脈侵襲を認めた.CDX2,CK20,CK7による免疫染色検査では,十二指腸乳頭部腫瘍・S状結腸腫瘍の両病変ともCDX2陽性,CK20陽性,CK7陰性であった.以上の所見から,十二指腸乳頭部癌の同時性S状結腸転移と診断した.胆道癌取扱い規約に従うと,ABiPhD,T3(Panc1b,Du2),N2(#13b,#14d,#17b),H0,P0,EM0,M1(Sigmoid colon),ly1,v1,Stage IVbであった4)

Fig. 6 

Histological findings of the tumor extending to the lower bile duct (left) and ampulla of Vater (right) show invasion to the duodenal muscle layer and pancreas parenchyma (a: ×20), and indicate moderately differentiated adenocarcinoma (b: ×100).

Fig. 7 

Histological findings of the tumor in the sigmoid colon infiltrate into the submucosal and proper muscle layer (a: ×20) and indicate poorly differentiated adenocarcinoma (b: ×100).

術後経過は良好で第40日目に退院した.術後9か月目のCTで腹部大動脈周囲リンパ節転移,肝転移を認めたため,gemcitabine,tegafur-gimeracil-oteracil potassiumによる化学療法を行ったが,術後28か月に死亡した.

考察

転移性大腸癌は大腸癌の中では0.1–1%と報告されている5)6).正岡ら2)による剖検例の検討では,悪性腫瘍による死亡例の8.5%に大腸転移を認めるが,肺(44.3%),肝臓(40.2%),骨(31.8%)への転移と比較すると,大腸への転移は低頻度である.原岡ら3)による剖検例の検討では,転移性大腸癌の原発臓器は胃,膵臓,肺,卵巣の順に多く,Vater乳頭部癌を原発臓器とする頻度は0.2%であった.臨床例での転移性大腸癌の原発臓器としては,胃,卵巣,膵臓,大腸,胆囊が多いが7)8),その多くは腹膜播種性転移,直接浸潤である.腹膜播種性転移,直接浸潤が否定的な,血行性あるいはリンパ行性が示唆される大腸転移はまれで,melanoma9),胃癌10)~21),乳癌22)23),肺癌24),子宮癌25)26),食道癌27)などで報告されてきたが,十二指腸癌,十二指腸乳頭部癌での報告は極めて少ない.

我々の検索したかぎりでは(医学中央雑誌WEB ver.5 1983–2011,キーワード「乳頭部癌」,「胆道癌」,「転移性大腸癌」,「大腸転移」,「結腸転移」),血行性あるいはリンパ行性が示唆される大腸転移を来した十二指腸癌あるいは十二指腸乳頭部癌の本邦報告は自験例を含めて4例であった(Table 128)~30).PubMedで「ampulla of Vater」,「colorectal metastasis」をキーワードに検索を行ったが(検索対象期間1950–2011),十二指腸乳頭部癌の大腸転移の報告は見出せなかった.本邦報告4例のうち2例は同時性転移で,原発巣の組織型は高分化型腺癌2例,中分化型腺癌2例であった.主病変の詳細な病理組織学的記載のある3例では,深達度は全例T3以深,リンパ節転移は2例で陽性であった.転移性大腸癌は横行結腸(2例),S状結腸(2例)にみられ,全例において腫瘤の一部が異型のない上皮で覆われており,診断時に肝・肺・腹膜などの他の臓器に転移を認めていない.この4例と対称的に,血行性あるいはリンパ行性が示唆される大腸転移を来した胃癌は低分化腺癌や印環細胞癌が多い10)~21)

Table 1  Reported cases of duodenal carcioma developping colorectal metastasis in Japanese literature
No Author/
Year
Age/Se‍x Primary cancer Interval Metastatic colorectal carcinoma Distant metastasis to other organ Outcome
Location Histology Depth of invasion Lymph node metastasis Lymphatic invasion Venous invasion Number of metastases Location Depth of invasion Lymph node metastasis Lymphatic invasion Venous invasion
1 Sano28)/
2003
69/
M
Ampulla of Vater tub1 Synchronous 1 T sm negative 21 months dead
2 Maruyama29)/
2004
65/
F
Duodenum tub1 pT4 (pancreas) negative negative negative 91 months later 1 T ss positive positive negative negative 15 months alive
3 Nakagawa30)/
2009
69/
M
Duodenum tub2 pT3 positive 27 months later 3 A, T, S mp negative 24 months dead
4 Our case 74/
M
Ampulla of Vater tub2>por pT3 (Du2, Panc1b) positive positive positive Synchronous 1 S mp negative positive positive negative 28 months dead

tub1: well differetiated adenocarcinoma, tub2: moderately differentiated adenocarcinoma, por: poorly differentiated adenocarcinoma, A: ascending colon, S: sigmoid colon, T: transverse colon. —: not described

血行性あるいはリンパ行性が示唆される転移性大腸癌は,肉眼的に限局性腫瘤や粘膜下腫瘍の形態をとることが多く,病理組織学的検査所見でも病変の主座が粘膜下層中心であることが特徴である3)8).自験例では,内視鏡所見でS状結腸の腫瘍が正常上皮による周堤を形成していたこと,生検標本の病理組織学的検索で粘膜表層上皮細胞がよく保たれ粘膜下に浸潤性腫瘍を認めたことから,転移性S状結腸癌と術前診断した.また,切除標本で,S状結腸の腫瘍は粘膜下層を中心に発育する低分化型癌で十二指腸乳頭部腫瘍の浸潤部の組織像と類似していたこと,粘膜は保たれ浸潤は粘膜下層・筋層にとどまっていたこと,免疫組織学的に十二指腸乳頭部癌と同様にCDX2陽性,CK20陽性,CK7陰性であったことから,転移性大腸癌と最終診断した31)

自験例は腹膜播種を認めなかったこと,S状結腸転移巣は粘膜下層を中心に発育し,漿膜外浸潤を認めなかったことから,転移経路として腹膜播種性転移は否定的である.原発巣はリンパ管侵襲,静脈侵襲ともに陽性で,リンパ節転移を3個認めた.術後9か月目に腹部大動脈周囲リンパ節転移,肝転移で再発したことを考慮すると以下の転移経路のいずれかが推定される:1)血行性:膵頭部周囲の静脈→門脈→肝→下大静脈→体循環→S状結腸,2)リンパ行性:#13・#14リンパ節→#16リンパ節→胸管→静脈角→心臓→体循環→S状結腸,3)#13,#14リンパ節→#16リンパ節から逆行性にS状結腸間膜内リンパ管→S状結腸.一方,十二指腸切開・十二指腸乳頭部切除により,乳頭部,十二指腸周辺の血流やリンパ流の変化,リンパ管・血管の新生が起こり,これが極めてまれなS状結腸転移に寄与した可能性がある32)

自験例では6年前に十二指腸乳頭部腫瘍が切除されており,その際の病理組織学的検査では高度異型腺腫であり切除断端陰性であった.今回,その組織標本を再検討したが診断に変更はない.十二指腸乳頭部腺腫における腺腫内癌の頻度は23–79%と報告され33)34),十二指腸乳頭部腺腫と低異型度の乳頭部癌は組織学的に類似していることから,自験例における6年前の乳頭部腫瘍は腺癌であった可能性がある.しかし,この病変は粘膜内病変であり,切除断端陰性であることから再発の可能性は極めて低いと考えられる.したがって,同時性S状結腸転移を来した十二指腸乳頭部癌は新たに発生した癌と考えられる.自験例における反省点は2002年以降,上部消化管内視鏡検査による十二指腸乳頭部腫瘍切除後の評価を行ってこなかったことである.十二指腸乳頭部腺腫の局所切除後の再発は,Posnerら35)は18例中(高度異型腺腫9例を含む)2例(11%)に認めた.Grobmyerら36)は25例中1例(4%)に再発を認め,この中で高度異型腺腫4例切除後に再発を認めたものはなかったと報告した.伊藤ら37)は十二指腸乳頭部腺腫に内視鏡的切除術を施行し56例中1例(1.7%)に再発を認めている.これらの報告の再発時期は切除後半年から5年であるので,十二指腸乳頭部腺腫切除後は半年から1年ごとの内視鏡的観察を,5年間は行うべきと考える.

十二指腸乳頭部癌は悪性腫瘍の合併が多いことが知られている38)39).Hatchら40)は大腸癌と子宮体癌において乳頭部癌の合併率が高いと報告している.十二指腸乳頭部癌の術前の全身検索や術後フォローアップにおいては他臓器癌の合併に加えて,大腸転移についても注意すべきである.

利益相反:なし

文献
 

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