The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
A Case of Inflammatory Pseudotumor of the Liver Due to Segmental Cholangitis with Hepatolithiasis
Katsutaka WatanabeShingo KuzeTakanori KyokaneTakehiro TakagiSatoshi BabaHideya Kawasaki
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2013 Volume 46 Issue 10 Pages 725-733

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Abstract

症例は65歳の男性で,発熱のため近医を受診し,精査目的で当院に紹介となった.血液検査では,高度の炎症反応上昇と胆道系酵素の上昇を認めた.造影CTで肝左葉は著明に萎縮し,左肝管内に肝内結石を認め,その上流側の肝内胆管拡張を認めた.肝S1に6 cm大の多房性病変を認めた.MRIではT1で低信号域,T2では内部に液体成分の貯留を疑う著明な高信号域を伴った不均一な等~高信号域を認めた.炎症反応が高値のため,抗生剤治療を施行した.抗生剤治療後の造影CTでは,腫瘤は最大6 cm大が4 cm大に縮小し,内部の液体成分も著明に縮小した.以上の検査所見から,肝炎症性偽腫瘍(inflammatory pseudotumor;以下,IPTと略記)を疑ったが,肝萎縮を伴う肝内結石を伴っていたため,肝左葉尾状葉切除を施行した.病理組織学的検査では紡錘形細胞の増生とマクロファージの浸潤,リンパ球を中心とした高度の炎症性細胞浸潤を認め,IPTと診断した.

はじめに

肝炎症性偽腫瘍(inflammatory pseudotumor;以下,IPTと略記)は,炎症細胞の浸潤と線維性結合織の増生を認める腫瘤性病変であり1),その術前診断において,しばしば肝細胞癌,腫瘤形成性肝内胆管癌などの悪性腫瘍との鑑別が問題となる.今回,肝内結石による区域性胆管炎に合併したIPTの1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

症例

患者:65歳,男性

主訴:発熱

既往歴,家族歴:35歳時,総胆管結石に対して乳頭形成術.

現病歴:上記主訴のため,近医を受診した.炎症反応の上昇を指摘され,当院に紹介となった.

入院時身体所見:血圧142/76 mmHg,脈拍88回/分,体温38.3°C,眼球結膜に黄染は認めなかった.腹部は平坦,軟で,上腹部に軽度圧痛を認めたが,異常腫瘤は触知しなかった.また,体表リンパ節は触知しなかった.

入院時血液検査所見:白血球数は20,600/μl,CRP値は34.57 mg/dlと著明に上昇していた.ALPも729 IU/lと上昇を認めた.腫瘍マーカーはいずれも正常範囲内だった.

腹部超音波検査所見:肝S1に最大6 cm大の低輝度腫瘤を認めた.

腹部造影CT所見:肝左葉は著明に萎縮し,肝内胆管は拡張を認めた.左肝管内に等~高吸収域を認め,肝内結石の存在を疑った(Fig. 1A).肝S1に6 cm大の不均一な造影効果を有する多房性囊胞性病変を認めた(Fig. 1B).

Fig. 1 

Enhanced computed tomography shows hepatotorophy of the left lobe (white arrowheads) and an intrahepatic bile duct stone in the left hepatic duct (black arrowhead) (A) and a multicystic lesion 6 cm diameter in segment 1 of the liver (B). Enhanced computed tomography after antibiotic therapy reveals the tumor has decreased to 4 cm diameter (C).

腹部単純MRI所見:T1強調画像では不均一な低信号域を認めた(Fig. 2A).T2強調画像では内部に液体成分の貯留を疑う著明な高信号域を伴った不均一な等~高信号域を認めた(Fig. 2B).

Fig. 2 

MRI shows a lesion of low signal intensity in T1 weighted images (A) and a lesion of moderate-to-high signal intensity accompanied with strongly high signal intensity on T2 weighted images in segment 1 (B).

内視鏡的逆行性胆道造影所見:左肝管内に結石と思われる透亮像を認め,その下流側で狭窄を認めた.狭窄の上流側の胆管は拡張していた.左尾状葉胆管枝は造影されなかった(Fig. 3).狭窄部の生検および胆汁細胞診では悪性像は認めなかった.

Fig. 3 

Endoscopic retrograde cholangiopancreatog­raphy demonstrates bile duct stenosis in the left hepatic duct (arrowhead) and bile duct dilatation in the left lobe.

以上の所見から,肝左葉肝内結石症に伴った肝S1の肝膿瘍を含む炎症性腫瘤もしくは胆管囊胞性腫瘍を疑った.炎症反応が高値のため,抗生剤治療を施行する方針とし,メロペネム水和物(MEPM)2 g/dayを開始した.抗生剤治療開始後8日目に解熱し,18日目に白血球数は6,700/μl,CRP値は1.42 mg/dlと低下したため,18日間の投与で終了した.

腹部造影CT所見(抗生剤治療後):腫瘤は最大6 cm大が4 cm大に縮小した.内部の液体成分も著明に縮小した(Fig. 1C).

以上の経過から,肝S1の腫瘤は腫瘍性病変ではなく,炎症性病変と考えた.左肝管の狭窄は,CT,生検および胆汁細胞診で悪性を疑う所見を認めなかったので,乳頭形成術後の度重なる胆管炎から狭窄を来したと推測した.本症例は肝萎縮を伴う肝内結石を伴っており,さらに左肝管に狭窄を認めるため,炎症再燃の可能性は高いと判断し,肝左葉尾状葉切除を予定した.

開腹所見:肝左葉は著明に萎縮し,周囲に膿瘍を形成していた.左肝管は狭窄部で切離し,術中迅速診断で癌陰性だった.狭窄部より末梢側に肝内結石を認め,左尾状葉胆管枝は術中ゾンデを使用して狭窄部に合流していることを確認した.胆管切除は施行せず,予定どおり肝左葉尾状葉切除を施行した.

切除標本:腫瘤は4.0×3.8 cmで白色調を呈し,黄色調や半透明状の部分を伴っていた(Fig. 4).

Fig. 4 

The cut surface of the lesion of the liver mostly consists of a whitish area accompanied with a yellowish and translucent area.

病理組織学的検査所見:高度の慢性炎症細胞浸潤と線維化を認めた.特に泡沫状組織球の浸潤が目立ち,形質細胞,リンパ球,好中球なども混在して黄色肉芽腫性炎症の像を呈していた.構成する線維芽細胞様の紡錘形細胞の密度は低く,明らかな細胞異型や核分裂像も認められなかった(Fig. 5).免疫染色検査では,IgG4陽性細胞の浸潤はごく少数のみで,大多数の形質細胞は陰性であった.紡錘形細胞はα-smooth muscle actinとvimentinが陽性,desminとS-100 proteinは陰性で,筋線維芽細胞が主体と考えられた.また,anaplastic lymphoma kinase(以下,ALKと略記)は陰性であった(Fig. 6).以上より,線維組織球型(fibrohistiocytic type)の肝IPTと診断した.

Fig. 5 

Microscopic examination of the tumor shows proliferation of spindle-like cells and infiltration of macrophages and lymphocytes (HE, ×20).

Fig. 6 

The tumor is immunohistochemically negative for IgG4 (A), positive for α-smooth muscle actin (B), and negative for anaplastic lymphoma kinase (C).

術後経過:第7病日に胆汁漏が判明したが,自然軽快し,第18病日退院した.

考察

肝臓に発生するIPTは,近年のIgG4関連疾患の理解に伴い,病理組織学的にリンパ球形質細胞型‍(lymphoplasmacytic type)と線維組織球型(fibrohistiocytic type)とに大別され,lymphoplasmacytic type‍はIgG4関連の病態,fibrohistiocytic typeはIgG4非関連の病態ととらえられるようになった2).Lymphoplasmacytic typeは多数のリンパ球・形質細胞の浸潤と線維化が組織形態学的な特徴であり3),全例に閉塞性静脈炎が認められる4).Fibrohistiocytic typeはリンパ球・形質細胞の浸潤と線維化,静脈閉塞など‍に類似性があるものの,多数の組織球浸潤,特に黄色肉芽腫性炎症が目立ち,また,しばしば色素貪色‍組織球,多核巨細胞,好中球浸潤がみられるなどの特徴がlymphoplasmacytic type との鑑別点となる.Fibrohistiocytic typeの具体的な病因には肝膿瘍,門脈炎,胆管炎などがある5).肝膿瘍は中心部に融解性壊死があり,周囲に炎症性細胞浸潤を伴う囊胞壁を有し,充実性結節性病変であるIPTとはその病理像が異なる.しかし,膿瘍壁では線維化やリンパ球,形質細胞浸潤があり,肝膿瘍が器質化あるいは壊死巣が吸収されつつある像はIPTにかなり類似する5).炎症性筋線維芽細胞性腫瘍(inflammatory myofibroblastic tumor;以下,IMTと略記)はIPTと鑑別が問題となる疾患である.IMTは肺や腸間膜に好発する真の腫瘍性病変であり,IPTから分離された病態である6).通常はIPTに比べて紡錘形細胞の索状増殖がより明確で,紡錘形細胞に細胞異型があり,特徴的なganglion-like cellsが出現する例もある.また,約半数のIMTではALK融合遺伝子を反映して免疫染色検査でALK陽性となる.本症例は,臨床検査所見,画像所見により,病因は区域性胆管炎,肝膿瘍で,また上記の組織形態学的な特徴および免疫染色検査所見を考慮してfibrohistiocytic typeの肝IPTと診断した.

肝IPTは1953年にPackら7)によって始めて報告され,本邦でも症例が蓄積されており,医学中央雑誌にて「肝炎症性偽腫瘍」をキーワードとし,1983年から2012年10月までの期間を検索したところ(会議録は除く),139例が報告されていた.本症例を含めてTable 1に臨床的特徴をまとめた(Table 1).

Table 1  Accumulation of the 140 cases of IPT of the liver in Japan
Clinical findings Number (%) Image Number (%)
Age Av: 59.5 year (1~91) Ultrasonography (n =129)
Gender (M/F) 90/50  Hypoechoic 115​ (89.1%)
Chief complaint  Isoechoic 3​ (2.3%)
 Fever 59​ (42.1%)  Hyperechoic 2​ (1.6%)
 Abdominal pain 21​ (15.0%)  Mosaic 11​ (8.5%)
 General fatigue 17​ (12.1%) Enhanced computed tomography (n =130)
 Annual examination 16​ (11.4%)  Enhancement (+) 112​ (86.2%)
 Weight loss 7​ (5.0%) ringed enhancement 54​ (41.5%)
 Hepatic disorder 7​ (5.0%) multicystic lesion 13​ (10.0%)
 Anemia 3​ (2.1%)  Enhancement (–) 18​ (13.8%)
 Others 10​ (7.1%) MRI (n =69)
Tumor size Av: 45 mm (10~150)  T1 Low 63​ (91.3%)
Solitary 120​ (85.7%)  High 3​ (4.3%)
Multiple 20​ (14.3%)  Not detected 3​ (4.3%)
History of hepato-biliary surgery 24​ (17.1%)  T2 Low 2​ (2.9%)
Bile duct dilatation 26​ (18.6%)  Iso 2​ (2.9%)
     High 56​ (81.2%)
Therapy (n =136) Number (%)  Mosaic 6​ (8.7%)
Surgical resection 85​ (62.5%)  Not detected 3​ (4.3%)
Conservative therapy 51​ (37.5%) FDG-PET (n=4)  
 1983~1999 (n =67)  Hot 4​ (100.0%)
 Surgical resection 46​ (68.7%)  Max SUV Av:6.3 (5.2~7.3, n =2)
 Conservative therapy 21​ (31.3%) Assessment of follow-up images (n =57)
 2000~2012 (n =69)  Regression 53​ (93.0%)
 Surgical resection 39​ (56.5%)  No change 3​ (5.3%)
 Conservative therapy 30​ (43.5%)  Progression 1​ (1.8%)

主訴としては発熱が42.1%と最も多く,発熱と肝腫瘤を認める場合は本疾患を疑うことが重要である.画像診断においては,造影CTでは造影効果を認めることが多く(86.2%),リング状や多房性造影など多彩な造影パターンを示した.肝IPTは病期により,炎症細胞浸潤,線維化,脂肪沈着,壊死,出血などがさまざまな分布形態で混在しており,一様ではない8)と報告されていて,病期により多彩な像を呈することが推測される.本症例でも,初診時のCTでは腫瘤は多房性病変として描出され,肝膿瘍に類似の活動期を示していた.しかし,抗生剤治療後は内部の液体成分が著明に縮小した病変で,肝膿瘍と異なる画像所見を示した.MRIでは,T1強調画像では低信号域(91.2%),T2強調画像では高信号域(81.2%)を呈することが多かった.FDG-PETは4例に施行されており,全例高集積を認めた9)~12).しかしながら,画像診断において肝IPTに特異的な所見が乏しいため,肝悪性腫瘍との鑑別がしばしば問題となる.経時的な画像診断により,腫瘍径を評価した症例は57例認め,53例(93.0%)は縮小した.肝IPTの確定診断においては経皮的針生検の有用性とそれに基づいた治療方針の選択についての報告がみられる1)13)~15).肝IPTが積極的に疑われる場合,生検などを施行して悪性を否定し,画像で経時的に経過観察することが,侵襲の低減につながりうると考えられた.今回の140例の報告例を,前期(1983~1999年)と後期(2000~2012年)に分けて治療を検討すると,後期では,前期と比較して保存的治療を選択されることが多かった.症例の蓄積により,本疾患の知見が広まったことが影響したと考えられた.

本症例の特徴は肝内結石症を合併していたことである.肝IPT報告例のうち,肝内結石を合併した症例は,140例中本症例を含めて8例であった(Table 210)14)16)~20).それらの報告例をみると,発熱が主訴で,胆管拡張を認める症例が多いことから,胆管炎による膿瘍が肉芽化して形成された可能性が示唆されている17).また,8例中4例に肝胆道系の手術既往を認めた.本症例は乳頭形成術が施行されており,佐々木ら21)は乳頭形成術後晩期合併症として,肝内結石発生の頻度は5.6%,胆管炎発生の頻度は6.5%と報告している.本症例を含む全例で,IPTの存在区域は肝内結石の末梢側に存在し,肝内結石がIPTの発生に関与したと推測できる.さらに,本症例を含む胆管狭窄を認めた4例全例で,IPTの存在区域は胆管狭窄より末梢側に存在した.本症例以外は膿瘍形成や肝内胆管癌の可能性を疑い,肝切除が施行されている.本症例では肝膿瘍を含む炎症性腫瘤もしくは胆管囊胞性腫瘍を疑ったが,肝内結石による区域性胆管炎を来していたため,最初に抗生剤治療を選択した.区域性胆管炎を来している肝区域の肝切除は,残存肝の肝再生に悪影響を及ぼすと報告されている22)23).抗生剤治療後,腫瘍径が縮小しているため,肝IPTを疑った.胆管狭窄や肝萎縮を認めるため,肝切除を施行したが,悪性疾患が術前診断により否定的であったため,胆管切除などより侵襲の大きい手術手技の追加は回避できた.肝内結石症では肝内胆管癌の合併が2‍~‍9%と報告されている24)~27).さらに,肝内結石のみを除去しても,経過観察中に結石が存在していた部位に肝内胆管癌の発生を認めた報告もみられる26)28)29).これらの報告例も本症例の切除の妥当性を支持しうる.本症例のような肝萎縮,肝内結石を伴う肝IPTに対しては,癌合併や将来の発癌の可能性を考慮し,全身状態などの条件が許せば,責任肝領域の肝切除術が望ましいと考えている.

Table 2  Inflammatory pseudotumor in the liver associated with intrahepatic bile duct stones: summary of previously reported cases
No Author Year Age Gender Chief complaint History of hepato-biliary surgery Size (mm) Location of tumor Bile duct stenosis Location of stone Hepato-torophy Assessment of follow-up images Preoperative diagnosis Therapy
1 Syoda18) 1992 68 M Fever Choledocho-duodenostomy 50 M ND CHD NA ND Central bisegmentectomy
2 Ueda17) 1998 74 F Fever Cholecystectomy 20 L LHD~CBD NA LA Lateral segmentectomy
3 Fukuda20) 1999 62 M General fatigue 40 P RHD~CHD RHD NA IHCC Right lobectomy
4 Thushimi19) 2004 73 F Abdominal pain Pancreato-duodenectomy 30 L LHD LHD NA IHCC Left lobectomy
5 Kanemoto14) 2004 76 M General fatigue 50 L LHD LHD NA IHCC Left lobectomy
6 Urata16) 2009 76 M Fever 50 L ND LHD NA LA or IHCC Left lobectomy
7 Ueda10) 2009 71 M Fever 30 L ND LHD NA IHCC Subsegmentectomy
8 Our case 65 M Fever Sphinctero-plasty 60→40 C LHD LHD + Regression IPT Left lobectomy + caudal lobectomy

M: medial segment, L: lateral segment, P: posterior segment, C: caudate lobe of liver, ND: not discribed, RHD: right hepatic duct, CHD: common hepatic duct, LHD: left hepatic duct, CBD: common bile duct, NA: no assessment, LA: liver abscess, IHCC: intrahepatic cholangiocarcinoma, IPT: inflammatory pseudotumor

利益相反:なし

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