The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
Single Incision Laparoscopic Surgery for Bowel Obstruction Caused by Cholesterol Crystal Embolization after Lifesaving Procedure for Superior Mesenteric Artery Thrombosis
Yusuke WatanabeChihiro NakaharaJun KawataKeigo OhzonoHiroyuki SuzukiEiji MiyatakeMasaaki InoueToshiyuki IshimitsuJunichi YoshidaMasahiro Shinohara
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JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2013 Volume 46 Issue 10 Pages 759-768

Details
Abstract

症例は86歳の男性で,上腸間膜動脈(superior mesenteric artery;以下,SMAと略記)血栓症に対する血栓溶解療法・抗凝固療法を誘引として発症したコレステロール塞栓症(cholesterol crystal embolization;以下,CCEと略記)による腸閉塞に対し,単孔式腹腔鏡下手術(single incision laparoscopic surgery;以下,SILSと略記)を施行した.CCEによる腸閉塞はまれであり,これに対し単孔式を含めた腹腔鏡下手術を施行した報告はない.本症例に対しSILSを安全に施行するうえで,術前の閉塞部位の同定とイレウス管による腸管の減圧などが有効であった.今後,インターベンション治療や抗凝固療法の増加に伴いCCEの罹患数は増加するものと考えられ,一般消化器外科医もこの疾患の存在を認識することが重要である.また,本症例のようにCCEはSMA血栓症などの致死的な疾患を背景として発症する可能性のある疾患であり,外科的治療を考える際には低侵襲な単孔式を含めた腹腔鏡下手術も治療選択肢としてあげられると考えられた.

はじめに

コレステロール塞栓症(cholesterol crystal embolization;以下,CCEと略記)は,大動脈粥状硬化巣の破綻によりコレステロール結晶が散布され,全身の末梢動脈を閉塞することによりさまざまな臨床症状を呈する予後不良な疾患である1)2).高齢化や生活習慣病の増加に加え,インターベンション治療,抗凝固療法が増加しており,本邦でもCCEの発症や報告が増加している2)が,CCEによる腸閉塞に関する報告はまれであり,これに対し単孔式腹腔鏡下手術(single incision laparoscopic surgery;以下,SILSと略記)を含めた腹腔鏡下手術を施行した報告はない.致死率の高い上腸間膜動脈(superior mesenteric artery;以下,SMAと略記)血栓症に対する救命処置を誘因として発症したCCEによる腸閉塞に対しSILSを施行し良好に経過した1例を経験したので報告する.

症例

症例:86歳,男性

主訴:腹痛

家族歴:特記事項なし.

既往歴:77歳時,硬膜下血腫に対し手術を施行.高血圧で内服加療中であった.

現病歴:2012年8月排便後に突然腹痛を自覚し当院に救急搬送された.

初診時現症:身長157.0 cm,体重46.6 kg.血圧162/84 mmHg,脈拍62回/分,体温36.0°C.腹部は,平坦,軟であり,心窩部を中心に圧痛を認めた.腹膜刺激症状は認めず,腸蠕動音に亢進減弱を認めなかった.皮膚所見を認めなかった.

血液検査所見:WBC 9,750/μl(好中球分画64.6%,好酸球分画2.5%)と白血球数の上昇を認めた.生化学検査ではLDH 284 IU/lと軽度高値であったが,CPK値の上昇を認めなかった.

血液ガス分析所見(room air):pH 7.533,pCO2 22.2 mmHg,pO2 127.3 mmHg,HCO3 18.3,BE –2.1.

心電図:洞調律,正常軸であり,心筋虚血を疑う所見を認めなかった.

腹部単純X線所見:明らかな異常所見を認めなかった.

胸腹部造影CT所見1:第1空腸動脈分岐直後のSMAに限局性造影欠損を認めた(Fig. 1).腸管浮腫像を認めたが,造影効果の低下や腸管壁内微小空気像など壊死を積極的に疑う所見を認めなかった.大動脈弓部をはじめ大動脈壁に壁在血栓や粥腫を示唆する低吸収域を散見した.

Fig. 1 

Abdominal CT on admission reveals a filling defect in the superior mesenteric artery just after branching the 1st jejunal artery (arrow).

SMA血栓症と診断し,発症4時間後に緊急血管造影を施行した.

血管造影所見および手技1:SMA第1空腸動脈分岐部の末梢から約2 cm長程度の造影欠損を認めた(Fig. 2a).右結腸動脈および中結腸動脈は開存しており,側副血行路によりSMA末梢側も軽度造影されていた.SMA深部へのカテーテル挿入が困難であり,血栓付近からウロキナーゼを断続的に計48×104単位動注し血栓溶解を行った.手技中に,カテーテルが血栓部遠位まで通過し,分枝血管の描出を認めたが,最終的に血栓が残存したため,カテーテルをSMA起始部に留置し,ウロキナーゼ持続動注療法を開始した.腹痛は著明に改善した.

Fig. 2 

a) Angiography on admission reveals a filling defect in the superior mesenteric artery just after branching the 1st jejunal artery (arrow). Vascular patency of the right and middle colic arteries, and peripheral circulation by collateral blood flow are depicted. b) Angiography 1 day after admission reveals a recanalization of the superior mesenteric artery. The artery wall in which the thrombus exists is irregular (arrow).

集中治療室入室後の心電図モニター上,心房細動であった.SMA血栓症の原因は,潜在的な発作性心房細動による心原性,あるいは大動脈弓部の不安定性プラークによる大動脈原性のいずれもが考えられた.第2病日,再度血管造影を施行した.

血管造影所見2:SMA血栓部は開通していたが,血栓部辺縁はやや不整であった(Fig. 2b).少量の血栓の残存を疑いウロキナーゼ持続動注療法を継続した.

第3病日,腹痛は消失した.第4病日,ウロキナーゼ持続動注療法を終了し,ヘパリン持続静注療法を開始した.第6病日,飲水を開始した.第9病日,経口摂取を開始した.第13病日,ワーファリン内服を開始し,症状の再燃なく退院を予定した.しかし,第22病日,第1・2右足趾のチアノーゼおよび疼痛が出現した.足背動脈・後脛骨動脈の拍動は良好に触知された.血管カテーテル操作後および抗凝固療法開始後であること,第8病日に一過性の好酸球分画の上昇(10.0%),第17病日に軽度腎機能の低下(Cr 1.4 ‍mg/dl)を認めたことから,CCEによるblue toe症候群を考え,皮膚生検を施行しCCEの確定診断となった.

皮膚生検病理組織学的所見:厚い角層をもつ手掌・足底型皮膚の真皮小動脈内にコレステロール結晶を認めた(Fig. 3).

Fig. 3 

Microscopic findings of the biopsy specimen from the cyanotic skin demonstrate cholesterol crystals in the dermal arteriole (arrow) (HE stain ×400).

第28病日,頻回な下痢と腹痛が出現した.SMA再塞栓を疑い腹部造影CTを施行した.SMAは開存していたが,回腸を主体とした浮腫性壁肥厚を認めた.明らかな閉塞部位を認めず,腸炎として保存的加療を開始した.しかし,症状の改善なく,第41病日,再度腹部造影CTを施行し,小腸の拡張および閉塞部位を認め,腸閉塞と診断した.

腹部造影CT所見2:小腸の拡張と腸液貯留,液面形成を認めた.骨盤内の回腸に壁肥厚を伴う狭窄箇所があり,同部より末梢の小腸,結腸は虚脱しており,同部が閉塞起点であると判断した(Fig. 4).

Fig. 4 

Abdominal CT 41 days after admission reveals intestinal dilatation of almost the whole small bowel and stenosis of the small bowel in the pelvis (arrow).

イレウス管を挿入し,腸管の減圧を行った.

イレウス管造影所見:骨盤内の回腸が完全閉塞しており,同部より肛門側へ造影剤が通過しなかった(Fig. 5).

Fig. 5 

Contrast study of the small bowel exhibits complete stenosis of the ileum in the pelvis (arrow).

以上の経過から,回腸狭窄による腸閉塞と診断し,第52病日手術を行った.

手術所見・手術手技:全身麻酔,仰臥位で手術を開始した.臍部を2 cm縦に皮膚切開し,臍部生理的筋膜欠損部より腹腔内に到達した.Alexis wound retractor(Applied Medical, Rancho Santa Margarita, CA, USA)を装着し,清潔手術用手袋を用いたグローブ法でSILS手技を開始した.術中操作は,パラレル法で行った.腹腔内を観察すると,骨盤内腹側の腹壁に回盲部から約20 cm口側の回腸が強固に癒着していた(Fig. 6a).イレウス管は,回腸の癒着部まで到達し,良好に腸管が減圧され,良好な術野が確保された.全腸管を観察し,その他の小腸に癒着や色調変化などの異常所見は認めず,術前画像診断からも同部が責任病巣であると判断した.腹壁との癒着を超音波凝固切開装置を用いて鋭的に剥離し,臍部創から病変部を含めた小腸を腹腔外に挙上したところ,この部の回腸は炎症性に強固に硬結し狭窄していた(Fig. 6b).臍部創からほぼ全小腸を挙上し,触視診し,他病変がないことを確認した後,病変部を切除する小腸部分切除術を行い,Albert-Lembert法による腸管端々吻合を行い腹腔内に還納した.手術時間は147分,出血量は100 gであった.

Fig. 6 

a) Laparoscopic intraperitoneal findings show the ileum in the pelvis adhering rigidly to the abdominal wall (arrows). Adhering ileum is detached from the abdominal wall by the ultrasonically activated scalpel. b) Intraoperative findings show inflammatory stiffening and stenosis at the small bowel dissected from the abdominal wall. Partial resection of the small bowel and end to end entero-anastomosis are performed extracorporeally through the incision.

Fig. 6a-video

切除標本肉眼所見:回腸に狭窄を伴う潰瘍性病変を認めた.口側回腸は拡張し,白苔の付着を認めた(Fig. 7).

Fig. 7 

Macroscopic findings of the resected specimen show circular ulceration with severe stenosis.

切除標本病理組織学的所見:粘膜に広範な浅い潰瘍を認め,著しい毛細血管増生,慢性炎症細胞浸潤を伴い,辺縁粘膜下組織には強い浮腫を認めた.粘膜下および漿膜下の小動脈内にコレステロール結晶を認めた(Fig. 8).

Fig. 8 

Microscopic findings of the resected specimen demonstrate cholesterol crystals in the submucosal arteriole (arrow). Extensive ulceration with inflammatory cells infiltration and angiogenesis are observed (HE stain ×40).

術後経過:術後1日目から離床を開始した.術後2日目,イレウス管を抜去し,飲水を開始した.術後4日目,経口摂取を開始し,ワーファリン内服を再開した.以後,腹部愁訴はなく経過した.術後12日目,PT延長を確認し,ヘパリン持続静注療法を終了したが,術後14日目に,血小板減少(1.3×104/μl)を認めた.ヘパリン起因性血小板減少症と診断され,血液内科的治療を要したが,術後63日目(第115病日)に自宅退院となった.現在,外来経過観察中であるが,症状の再燃は認めていない.術後約5か月後の臍部創を提示する(Fig. 9).

Fig. 9 

Site of surgical wound 5 months after the operation.

考察

SMA血栓症は,急速に腸管壊死が進行し致命的となる予後不良な疾患である.早期診断治療が行われなければ致死率は50%~90%とされており,救命のために早期診断治療を要する3)~5).本疾患は,自覚する腹痛の程度に比較し,発症初期には腹膜刺激症状などの腹部所見がとぼしいことが特徴とされている6).そのため早期診断が難しいが,診断には,造影CTが有用である7).本疾患の治療には,経カテーテル的血栓溶解療法などのインターベンション治療と外科的治療の二つの方法があげられる.血栓溶解療法の適応は,腸管壊死のない症例である8).閉塞部位により虚血性変化の進行が異なるが,結腸動脈分岐部より近位の閉塞では発症後5時間以内がゴールデンタイムとされる9)10).中結腸動脈起始部より末梢の閉塞の場合は側副血行路が発達している場合が多く,血栓溶解療法の良い適応となる8).本症例は発症後5時間以内に診断し,画像上明らかな腸管虚血の所見がなく,第1空腸動脈分岐直後の末梢の閉塞であったため,経カテーテル的血栓溶解療法を選択し,救命しえた.

CCEは大動脈粥状硬化巣の破綻によりコレステロール結晶が散布され,全身の末梢動脈を閉塞することによりさまざまな臨床症状を呈する疾患である1)2).1862年にPanum11)により最初に報告され,その後1945年にFlory12)が病理組織学的検討を加えて以来,循環器領域で注目されてきた.発症頻度は0.18%から0.31%とされ1),高齢男性に多く,高血圧症・心筋梗塞・狭心症・動脈硬化症・大動脈瘤などの既往を有することが多い13).病態は動脈硬化性病変が基礎に存在し,機械的刺激もしくは抗凝固療法の関与により,200 μm以下のコレステロール結晶が末梢の細動脈で動脈炎を引き起こし,その結果,細動脈の内膜肥厚,閉塞に至ると考えられている1)2)14).血栓塞栓症とは異なり,必ずしも血管内腔が完全閉塞するのではなく,コレステロール結晶という異物に反応する炎症反応により組織障害が徐々に進行し,血管内腔が閉塞するとされている1)15).発症には31%~100%で医原性要因が関与するとされ,その大部分は血管内カテーテル操作や心血管手術などの心血管手技やヘパリンなどの抗凝固療法である16).検査所見では,好酸球増多(62%~80%),低補体血症(40%~80%)が認められる15).また,契機となる検査・治療から発症までの期間は数時間から数か月と幅があり,これらもコレステロール結晶に対する免疫組織学的な炎症反応と組織障害,線維化の関与を示唆する17).確定診断は,病理組織学的検査や眼底検査によりコレステロール結晶の細動脈閉塞所見をえることでなされる18)

近年,高齢化や生活習慣病の増加に加え,インターベンション治療,抗凝固療法が増加しており,本邦でもCCEの発症や報告が増加している2).CCEの臨床症状は,腎機能障害(50%~99.4%)と皮膚症状(34%~90%)が2大症状である18).皮膚症状は,足趾にみられるチアノーゼで潰瘍,壊死に陥ることもあるblue toe症候群と網目状のうっ血斑である網状皮疹が典型的である15)18).消化器症状の頻度は,上記2症状に次ぐとされているが,腹痛や嘔吐,下痢から消化管出血,壊死,穿孔と,その臨床症状はさまざまである1)18).消化器症状についてまとめたBen-Horinら1)の報告によると,CCEの患者の36%に消化器症状を認めたが,その症状は非特異的であり,動脈硬化性病変,先行する血管操作や抗凝固療法の既往のある患者で消化器症状を認めた場合,本疾患を念頭に置く必要があると結論している.腹部臓器に発症したものでは1年以上の生存率が28%とされ,確立された治療法はなく予後不良とされている19)

本症例は,SMA血栓症に対する救命処置として,血栓溶解療法を行い,血栓溶解および発作性心房細動による2次的な血栓塞栓症の予防としてヘパリン持続静注療法を施行した.同処置でSMA血栓症に対して救命しえたが,医原性にCCEを発症したと考えられる.CCEによる腸閉塞の報告は極めてまれであり,医学中央雑誌で「コレステロール塞栓症」,「腸閉塞」をキーワードに1983年から2012年の論文報告(会議録を除く)を検索した結果,3例が検索された.3例のうち1例は,小腸の他に脾臓,膵臓,肝臓,腎臓にCCEが多発し術後13日目に死亡した20).また,1例は,明らかな誘引を認めない特発性CCEであった21).3症例とも開腹手術による切除標本でCCEの診断がなされている(Table 1).本症例は,経過中にblue toe症候群および好酸球分画上昇,腎機能低下を認め,術前にCCEによる腸閉塞の可能性を念頭に置くことができた症例である.第28病日以降に出現した,腹痛および下痢症状もCCEによる腹部症状であったと考えられるが,経過途中のCT画像上特異的な所見は認められず,腸閉塞と診断するまでに日数を要した.CCEによる腸閉塞において腸管狭窄を来す機序は不明であるが,内海ら15)は本病態をCCEによる虚血性腸炎の狭窄型と表現している.本病態で狭窄を来す機序は虚血性腸炎と同様と思われるが,血栓塞栓症と異なりコレステロール結晶という異物に対する炎症反応により徐々に血管内腔が閉塞するとされる病態から,その循環障害の進行速度や程度,範囲により,穿孔・壊死から狭窄や下痢などの非特異的な症状まで,臨床症状の多様性が生じるのではないかと考えられる.本症例では,狭窄部位と腹壁の間に強固な癒着を認めた.経過で微小穿孔や限局性腹膜炎が存在していた可能性があり,その炎症性変化も狭窄を生じた一因であった可能性が考えられる.

Table 1  Cases of bowel obstruction caused by cholesterol crystal embolization in Japan
No. Author Year Sex Age Cause of CCE Preopreative diagnosis Outcome
1 Ueda20) 1989 F 67 Percutaneous transluminal coronary angioplasty Ileus and peritonitis Died at 13 postoperative days
2 Takeda21) 2004 M 77 None (spontaneous) Ileus Discharged at 11 postoperative days
3 Utsumi15) 2006 M 66 Systemic anticoagulation Ileus Discharged at 14 postoperative days

胆囊炎や虫垂炎に対するSILSが近年注目され,急速に普及している.腹腔鏡下胆囊摘出術においてSILSと従来法を比較した近年の文献では,従来法と遜色のないSILSの手術成績が報告されている22)23).一方で,SILSが従来の複数のポートを使用した腹腔鏡手術に比較し低侵襲な術式であるという科学的根拠は,現時点では存在せず,整容性がその利点として挙げられている24)25).当科では,2012年4月からSILSを導入しており,2012年12月までに胆囊結石症3例,虫垂炎10例,本症例1例に対しSILSを施行し,手技の改良を行ってきた.胆囊摘出術は,山田ら26)の報告したシンクロ法で,虫垂切除術はグローブ法でSILSを導入し良好な成績をえている.CCEによる腸閉塞に対し,SILSを含めた腹腔鏡下手術を施行した報告はない.本症例は,高齢かつ予後不良なSMA血栓症救命後の腸閉塞であり,できるかぎり低侵襲な手術が望ましいと考えた.そのため,術式は開腹手術より低侵襲な腹腔鏡手術の延長として,ポートの追加や開腹移行を念頭におき,SILSを選択した.

本症例では,グローブ法によるSILS手技を行った.グローブ法は,トロッカーの固定がなく,手術器具の出し入れや手術器具・腹腔鏡間の干渉が問題となる.虫垂切除術や癒着剥離術など簡単な手術手技は比較的容易に可能であるが,上行結腸の授動など複雑な操作は習熟を要する.一方で,グローブ法は医療経済面で有用である.小腸は後腹膜や他臓器との固定がなく,一般的に小腸疾患に対する手術は腹腔内で複雑な手術手技が要求されることが少ないためSILSの良い適応であると考えられる.本症例において,SILSを安全に施行しえた要因として,イレウス管により腸管の減圧が効果的になされ良好な術野が確保されたこと,腹腔内に過度の癒着が存在しなかったこと,回腸末端付近の病変であったが上行結腸の授動を要さなかったこと,術前画像診断で狭窄部が同定されていたことがあげられる.そのため,本症例では安全に施行しえたが,当然,小腸疾患全例でSILSが施行可能ではない.また,CCEは,消化管に複数の病変が存在する可能性のある疾患である27).本症例では,腹腔鏡下に全腸管の観察および臍部創からほぼ全小腸の観察を行えた.SILSでの安全な手術遂行が困難と判断される場合や多発病変に対する検索が不十分と思われる場合は,躊躇なくポートの追加もしくは開腹移行を考慮すべきであり,それを念頭にSILSを施行していくべきであると考える.

本症例のようなヘパリン持続静注療法を施行している症例に対し,心血管手技ではないものの腹腔鏡下手術を含めた手術操作が誘引となり,さらにCCEを誘発する可能性は考慮すべきと思われる.本症例では腸閉塞のため手術加療は必須であり,手術手技として腹腔鏡下手術を選択したが,その功罪についての報告はない.本来CCEではヘパリンなど抗凝固療法は中止が望ましい28)が,本症例では心房細動の病態があり中止はデメリットも大きいと考えられ,中止しなかった.結果としてSMA血栓症やCCEの再燃は認めなかったが,今後の臨床経験の蓄積と報告が待たれる.

今後,動脈硬化が存在する高齢者の増加に加え,インターベンション治療,抗凝固療法の増加に伴いCCEの罹患数は増加するものと考えられる.一般消化器外科医もCCEという疾患の存在を認識することが重要である.また,本症例のようにCCEはSMA血栓症などの予後不良な疾患を背景として発症する可能性のある疾患であり,外科的治療を考える際には低侵襲なSILSを含めた腹腔鏡下手術も治療選択肢としてあげられると考え,報告した.

利益相反:なし.

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  • 28)   石川  暢夫, 新村  浩明, 小幡  紀夫, 宮島  静一, 佐藤  啓一, 東間  紘,ほか.コレステロール塞栓症により腎不全(血液透析導入→離脱)をきたした1例.日本透析医学会雑誌.1996;29:121–127.
 

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