The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
A Case of Early Neuroendocrine Carcinoma of the Gallbladder with Extensive Intraductal Extension
Tsutomu KumamotoMasaji HashimotoKazunari SasakiSachiko KaidaShuichiro MatobaMasamichi MatsudaHiroya KuroyanagiHarushi UdagawaGoro WatanabeMasafumi Inoue
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2013 Volume 46 Issue 10 Pages 742-750

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Abstract

症例は70歳の女性で,食欲不振を主訴に近医受診した.胆道癌による閉塞性黄疸の診断で当院紹介された.CTで不整な胆囊壁肥厚を認め,それと連続し上部胆管から下部胆管にかけて充満する腫瘍を認めた.組織診では神経内分泌細胞癌の診断で,開腹全層胆囊摘出術,肝外胆管切除,肝管十二指腸吻合術を施行した.病理組織学的検査所見では神経内分泌細胞癌(synaptophysin,chromogranin A陽性,MIB-1 index 70%),WHO分類2010では大細胞神経内分泌細胞癌の診断であった.進行度は,T1(fm,pHinf0,pBinf0,pPV0,pA0)N0H0P0M(–)Stage Iの早期癌であり,術後14か月無再発生存中である.胆囊の神経内分泌細胞癌はまれで,予後は極めて不良である.本邦における早期の胆囊神経内分泌細胞癌は本症例が2例目であり,文献的考察を加えて報告する.

はじめに

胆囊の神経内分泌細胞癌はまれな疾患であり,悪性度が高く1)~4),早期癌の報告は極めてまれである.今回,我々は広範な管腔内進展を来し,術前診断しえた早期の胆囊神経内分泌細胞癌の1切除例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

症例

患者:70歳,女性

主訴:食欲不振

既往歴:65歳に2型糖尿病と診断された.

家族歴:特記すべきことなし.

現病歴:2012年1月末より食欲不振を認め近医受診した.血液検査で肝胆道系酵素の上昇を認めた.腹部USで胆囊~胆管に腫瘤影を指摘され,胆道癌による閉塞性黄疸の診断で,2月初旬精査加療目的で当院紹介入院となった.

入院時現症:身長154 cm,体重42 kg.眼球結膜に黄染あり.腹部は平坦,軟で腫瘤は触知しなかった.

血液検査所見:血算,凝固に異常所見を認めなかった.T-Bil 16.5 mg/dl,D-Bil 12.0 mg/dl,AST 218 IU/l,ALT 451 IU/l,ALP 979 IU/l,γ-GTP 578 IU/lと閉塞性黄疸を認めた.腫瘍マーカーは,CEAは正常範囲であったが,CA19-9は131 U/mlと上昇していた.

腹部US所見:胆囊内は不整な実質エコーで占められており,それと連続し胆管内に充満する腫瘍を認めた(Fig. 1).

Fig. 1 

Abdominal ultrasonography showed that the gallbladder, cystic duct and bile duct were filled with the solid tumor.

腹部造影CT所見:胆囊壁は早期膿染される不整な肥厚を認め,それと連続し胆囊頸部から上部胆管,下部胆管にかけて管腔内に充満する腫瘍を認めた(Fig. 2).周囲リンパ節腫大,肝転移は認めなかった.

Fig. 2 

Abdominal CT showed the gallbladder wall was irregularly thickened and the extrahepatic bile duct was filled with the tumor contiguously.

腹部MRI所見:肥厚した胆囊壁とそれに連続する長径70 mmの腫瘍は,T1強調にて軽度高信号,T2強調で軽度高信号,拡散強調画像で高信号域を呈した.

ERCP所見:左右肝管レベルから下部胆管にかけて乳頭状の腫瘍を認め,肝側胆管の拡張を認めた.膵・胆管合流異常は認めなかった.胆汁細胞診はclass Vであり,下部胆管からの腫瘍生検による病理組織学的検査で神経内分泌細胞癌と診断された.

管腔内超音波検査所見:胆囊管から胆管内は高エコーな腫瘍で充満していたが,起始部は不明であった.

以上の各種検査から,胆囊原発の神経内分泌細胞癌で,胆管浸潤陽性と判断し,cT4,N0,H0,P0,M‍(–)cStage IVaと診断した.黄疸を伴う長径70 mmの腫瘍で根治性は低いと考えた.内視鏡的逆行性胆管ドレナージチューブの留置による減黄を行い,T-Bil 2.9 mg/dlまで低下したところでR0の切除を目ざして手術を施行した.

手術所見:肝転移や腹膜播種,腫大リンパ節は認めなかった.胆囊は硬く,総胆管内も腫瘍で緊満していた(Fig. 3).膵内胆管レベルで乳頭側胆管を切離し,迅速病理組織学的診断で断端陰性を確認の後,全層胆囊摘出術を施行した.肝管は左右肝管レベルで前壁を切開し,肉眼的に断端陰性の部位で切離し標本を摘出した.再建は肝管十二指腸吻合術を施行した.

Fig. 3 

The gallbladder and common bile duct were found to be filled with the solid tumor in traoperatively.

切除標本肉眼所見:胆囊内から肝外胆管にかけて充満する71×37 mmの腫瘍を認めた(Fig. 4).

Fig. 4 

The resected specimen showed that the gallbladder and bile duct were filled with tumor, which spread to the common bile duct without intraepithelial invasion.

病理組織学的検査所見:腫瘍細胞は核の大小不同を伴う腫大,淡好酸性の胞体を有し,シート状胞巣を形成していた.免疫組織染色検査ではsynaptophysin陽性,chromogranin A陽性,CD56陰性,MIB-1 index 70%であり,神経内分泌細胞癌と診断した(Fig. 5).また,腫瘍細胞の多くは細胞質が多く,核のクロマチンは淡く,核小体を認め,WHO分類2010では大細胞神経内分泌細胞癌に相当した.腫瘍は,胆囊管から総胆管内にまでおよび,胆囊内では固有筋層への浸潤は認めなかったが,胆囊管内では一部線維筋層内まで浸潤を認めた(Fig. 6).以上より,胆道癌取扱い規約(第5版)5)では,GnbfC,circ,慢性炎症型,充満型,fT1(fm,pHinf0,pBinf0,pV0,pA0),N0(0/1),INFα,ly1,v0,pN0,H0,P0,M(–)fStage Iであり,UICCの胆道癌TNM分類では(第7版)では,fT1,N0,M0 fStage IAであった.

Fig. 5 

Histopathological features. A: Tubular and sheet-like structures consisted of tumor cells which were round with ‍a large N/C ratio (H&E, ×400). B: Immunohistochemical staining of Synaptophysin was positive. C: Immunohistochemical staining of chromogranin A was positive. D: The percentage of MIB-1 positive cells was 70%.

Fig. 6 

Pathological features. A: The tumor cells did not deeply invade the muscularis propria of the gallbladder (H&E, ×100). B: The tumor cells invaded the fibromuscular layer of the cystic duct (H&E).

術後経過は良好で第16病日に退院となった.早期癌であり,R0の手術が完遂できていること,また年齢,体重を考慮し,補助化学療法は行わず,経過観察とした.現在術後14か月で再発を認めず経過中である.

考察

胆囊の神経内分泌細胞腫瘍はまれな疾患であり,胆囊悪性腫瘍全体の0.4~4%で,全消化管内分泌腫瘍の1.4%といわれる.低悪性度腫瘍群(カルチノイド)と高悪性度腫瘍群(神経内分泌細胞癌(小細胞癌)と腺内分泌細胞癌)に分類されるが,これまで胆囊原発の神経内分泌細胞癌は,胆道癌取扱い規約では,未分化癌の亜型として分類されていた.しかし,第4版6)より病理組織学的に独立した疾患として分類された.また,「内分泌細胞癌と腺癌とが相接して,または混在している癌」は腺内分泌細胞癌と定義された経緯がある.そのため本邦での神経内分泌細胞癌の正確な症例数の把握は困難と考えられる.

『医学中央雑誌』を用いて,腺内分泌細胞癌を除き,「胆囊癌」,「神経内分泌細胞癌(小細胞癌)」をキーワードに1983年から2012年12月までに検索しうる報告例は,本症例を含めて35例であった(Table 11)‍~4)7)~28).この内,大細胞神経内分泌細胞癌の報告は本症例を含め3例のみであった24)27).早期癌は本症例を含め2例のみであった16).性差は,男性15例,女性20例で,平均年齢は68歳(36~81歳)であった.術前診断が得られた症例は本症例を含め4例のみであった.胆囊の神経内分泌細胞癌の画像による特異的な所見はなく,浸潤傾向が非常に強く,転移が多いとされる29)30).本症例では,腫瘍は胆囊壁から連続し下部胆管まで進展していたため術前に内視鏡による生検が可能で,神経内分泌細胞癌の診断に至った.術前に確定診断がついた4例の内,本症例を除く3例15)24)28)は肝転移を有する症例であり,経皮的肝生検が施行され確定診断に至った.このうち,Shimonoら24)の報告例では本症例と同様大細胞神経内分泌細胞癌の診断であった.いずれも進行度はStage IVbであり,化学療法単独または化学放射線療法が行われた.胆囊神経内分泌細胞癌に対する化学療法については確立されていないが,これらの3例は肺小細胞癌に準じた化学療法が施行された.生検にて確定診断に至る症例は少ないが,治療法の選択をするためにも,組織診断は必須と考えられる.

Table 1  The reported cases of neuroendocrine carcinoma of the gallbladder
Case Author Year Age Sex Treatment Adjuvant therapy Stage Prognosis (months)
 1 Guo 7) 1988 44 M Operation nm nm D (Operative death)
 2 Guo 7) 1988 75 F Operation nm nm D (9)
 3 Guo 7) 1988 72 F Operation nm nm D (2)
 4 Guo 7) 1988 56 F Operation nm nm D (2)
 5 Guo 7) 1988 68 F Operation nm nm A (59)
 6 Guo 7) 1988 50 F Chemotherapy nm Autopsy
 7 Guo 7) 1988 69 F Chemotherapy nm Autopsy
 8 Guo 7) 1988 73 M Chemotherapy nm Autopsy
 9 Murakuni 8) 1990 51 F Cholecystectomy Chemoterapy IVb D (10)
10 Sasaki 9) 1990 63 F Cholecystectomy, Gastrectomy nm IVa nm
11 Ishikawa 10) 1994 71 M PD, portal vein resection,
Extended cholecystectomy
Chemoterapy IVb D (9)
12 Yamada 11) 1996 80 F Cholecystectomy none III D (2)
13 Yamada 11) 1996 81 M Extended cholecystectomy Chemoterapy II A (27)
14 Uchimura 12) 1998 62 F Extended cholecystectomy,
Liver resection
Chemoterapy, Radiation IVb D (15)
15 Kuwabara 13) 1998 76 F Extended cholecystectomy none IVa nm
16 Kuratate 14) 1998 79 F Cholecystectomy, Bile duct resection none IVa A (9)
17 Saito 15) 1999 36 F Chemotherapy IVb D (5)
18 Tamura 16) 1999 75 F Cholecystectomy none I D (20)
19 Matsuo 17) 2000 81 F Cholecystectomy,
Partial liver resection
none IVa A (5)
20 Yasuda 18) 2001 78 F Extended cholecystectomy Chemotherapy III D (27)
21 Inagaki 19) 2002 78 M Extended cholecystectomy none IVa D (5)
22 Morohuji 20) 2003 40 F PD, Extended cholecystectomy III A (8)
23 Oku 21) 2003 73 M Cholecystectomy, Liver resection none IVb D (6)
24 Hiraga 22) 2003 79 M nm Autopsy
25 Ishikawa 23) 2006 59 F Cholecystectomy, Liver resection none IVb D (3)
26 Shimono 24) 2009 64 F Multimodal treatment IVb A (69)
27 Shimazaki 25) 2009 64 M SSPPD Chemotherapy III A (13)
28 Adati 26) 2009 69 M PpPD none III A (30)
29 Murata 27) 2009 80 F Chloecystectomy nm II nm
30 Sasaki 1) 2010 66 M Extended cholecystectomy Cemotherapy II A (30)
31 Yamamoto 2) 2010 72 M Extended cholecystectomy none IVb D (17)
32 Nishimura 3) 2011 73 M Extended cholecystectomy Chemotherapy III D (8)
33 Kiyoie 28) 2011 76 M Chemotherapy IVb D (18)
34 Yamamoto 4) 2011 79 M Extended cholecystectomy none III D (6)
35 Our case 70 F Cholecystectomy,
Extrahepatic duct resection
none I A (14)

Pancreatoduodenectomy: PD, Subtotal stomach-preserving pancreaticoduodenectomy: SSPPD, Pylolus-preserving pancreaticoduodenectomy: PpPD, A: alive, D: death, nm: not mentioned

胆囊の神経内分泌細胞癌は極めて悪性度が高く,進行して発見される症例が多い.今回の検討では進行度に関して記載のある症例は25例であり,この内14例はStage IVであった.姑息的な手術も含め,28例で手術が施行されていたが,術後1年以内の死亡が11例,2年以上の生存は4例であり,足立ら26)と佐々木ら1)の2例は術後2年半無再発生存中であった.足立ら26)は幽門輪温存膵頭十二指腸切除を施行し,進行度はfStage IIIの診断で術後補助化学療法は行わなかった.一方で佐々木ら1)の例では胆囊摘出術,肝床部切除を施行し,進行度はfStage IIの診断となりS-1内服による補助化学療法が行われた.

早期の胆囊神経内分泌細胞癌は田村ら16)の報告と本症例のみであった.田村ら16)は,急性胆囊炎の診断で経皮経肝胆囊ドレナージ後,開腹の胆囊摘出術を施行した.術前検査での腹部USでは一部胆囊壁肥厚を認め,胆囊内に結石を認めるのみで悪性を示唆する所見はなかった.病理組織学的所見では,神経内分泌細胞癌,m,pHinf0,pBinf0,ly1,v1の診断であったが,年齢を考慮し,経過観察とされた.深達度は粘膜内にとどまる早期胆囊癌であるにもかかわらず,術後5か月に多発肝転移,術後11か月にドレナージチューブ刺入部痕に皮膚転移,術後16か月に右腋窩リンパ節転移を認め,初回手術後20か月に肝不全で死亡した.

本症例では腫瘍径は71×37 mmと大きく,胆囊内に充満し,胆管内にまで広範な管腔内進展を来していたが壁内浸潤は認めなかった.胆囊内では固有筋層への浸潤は認めず,胆囊管内では一部線維筋層内まで浸潤を認めるのみであった.組織学的深達度は胆囊内では粘膜(m)内,胆囊管では線維筋層(fm)内の早期癌と診断した.発生部位に関しては,腫瘍は大きく,胆囊であるか胆囊管であるかの特定は困難であったが,胆囊内で正常上皮から連続して徐々に異型上皮へと移行し,腫瘍細胞の増生を呈する部位を認めたため,胆囊が原発部位であると考えた.

胆囊神経内分泌細胞癌の治療方針に一定の見解はなく,術前に確定診断に至った際の治療方針に関しては,さらに議論があると思われる.高率に再発を認め,平均生存期間は9か月31),5年生存率は8%と予後は極めて不良であるため32)33),胆囊の腺癌と同様の治療を行うのではなく,化学療法を先行するという考えもあるが,有効な化学療法は確立されておらず,肺の小細胞癌に準じた化学療法を施行した報告を散見する程度である23)28)

本症例では,術前に組織診断が可能であり,画像診断では腫瘍は大きく,悪性度の高い腫瘍と判断した.内視鏡的なドレナージ効果の持続は難しく,化学療法実施も困難になると判断したため手術を先行した.術式に関しては,術前のCTでも周囲のリンパ節転移は疑われず,原病の予後を考慮し,肝合併切除,広汎リンパ節郭清は施行しなかった.術後の補助化学療法に関しては,高齢であり早期癌でR0の手術を施行でき,また現在確立されたレジメンがないことから実施せず,経過観察中である.胆囊の神経内分泌細胞癌は極めて予後不良であり,治療方針も確立されていない.本疾患に対して根治切除不能であれ,組織診断の確定や減黄目的に外科的切除は状況に応じて選択すべき治療の一つであると考える.

利益相反:なし

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