The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
A Case of Ruptured Aneurysm of the Right Gastroepiploic Artery Caused by Segmental Arterial Mediolysis
Masaaki YamamotoMasao OgawaSho ToyodaNaoto MizumuraAtsuo ImagawaKoichi DemuraMasayasu KawasakiKatsuhiko HoriiMasao KameyamaMichiko Yoshimura
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2013 Volume 46 Issue 11 Pages 806-813

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Abstract

症例は80歳の男性で,突然出現した腹痛を主訴に当院へ救急搬送となった.搬送時,バイタルサインは安定していたものの,苦悶様顔貌を呈し,腹膜刺激症状を認めた.腹部造影CTで,十二指腸下行脚周囲,脾臓周囲,骨盤腔内にややdensityの高い液体貯留を認め,造影剤の血管外への漏出は認めなかったが,腹腔内出血による腹膜炎を疑い,同日緊急手術を施行した.開腹所見では右胃大網動脈に径10 mm大の出血を伴う動脈瘤を認めた.その他に明らかな出血源は認めなかったため,出血していた右胃大網動脈瘤を含め大網部分切除術を施行した.病理組織学的には,右胃大網動脈壁に島状の中膜の残存を認めたことから,segmental arterial mediolysis(SAM)による右胃大網動脈瘤の破裂と診断した.

はじめに

胃大網動脈瘤はまれな疾患で,中膜に分節状の融解が生じることが瘤形成の一因と考えられ,segmental arterial mediolysis(以下,SAMと略記)と呼ばれる1)2).今回,我々はSAMによる右胃大網動脈瘤破裂の1例を経験したので報告する.

症例

患者:80歳,男性

主訴:腹痛

家族歴:特記すべき事項なし.

既往歴:76歳時に直腸癌に対し低位前方切除術施行.77歳時に慢性骨髄増殖性疾患を指摘.78歳時に胃潰瘍出血に対し内視鏡的止血術施行.

現病歴:2時間前から突然の腹痛が出現し,症状増悪してきたため当院に救急搬送となった.

入院時現症:苦悶様顔貌,血圧136/92 mmHg,脈拍62回/分,体温34.5°C.腹部は平坦で,臍中心に圧痛を認め,筋性防御を伴っていた.

血液生化学検査所見:白血球数41,800/μl,赤血球数587×104/μl,血小板121.5×104/μlと著明な汎血球増多を認め,慢性骨髄増殖性疾患によるものと考えた.また,Hb 13.1 g/dl,Ht 44.0%と貧血は認めず,CRPは1.18 mg/dlと軽度の上昇を認めた.その他に異常所見は認めなかった.

腹部造影CT所見:右腎上極から骨盤腔内にややdensityの高い中等量の液体貯留を認め,腹腔内出血が疑われたが,造影剤の血管外漏出所見は認めなかった(Fig. 1A, B).

Fig. 1 

A: Abdominal CT revealed a slightly high density area in the ventral side of the right kidney (arrows). B: Low and high density area in the pelvic cavity (arrows).

以上より,特発性の腹腔内出血による急性腹症と診断し,同日緊急手術を施行した.

手術所見:開腹すると,右胃大網動脈周辺に凝血塊を含んだ血性腹水を約300 ml認めた.右胃大網動脈は全体的に血管壁が肥厚し,その中に径10 mm大の動脈瘤を認め,同部位より拍動性の出血を認めた.その破裂動脈瘤の近傍にも5 mm大の動脈瘤を認めたが,こちらは破裂所見を認めなかった.明らかな外傷既往がなく,他に出血源を認めなかったことから,右大網動脈瘤破裂による腹腔内出血と診断し,右胃大網動脈瘤を含めた大網部分切除術を施行した(Fig. 2).

Fig. 2 

Rupture of the right gastroepiploic arterial aneurysm 10 mm in diameter (arrow), and the other aneurysm 5 mm in diameter near the right gastroepiploic artery (arrowhead).

切除標本所見:右胃大網動脈に直径約10 mm大の動脈瘤と近傍に直径5 mm大の動脈瘤を認めた.

病理組織学的検査所見:直径11 mm大の囊状の動脈瘤を認め,動脈瘤壁は薄い結合組織を残すのみの仮性動脈瘤であり,周囲に出血を認めた.動脈瘤壁の内膜は肥厚し,中膜は途絶していた(Fig. 3A).Elastica van Gieson染色でも,局所的に中膜の途絶,消失を認めた(Fig. 3B).肥厚した内膜に好中球やマクロファージが浸潤し,中膜は一部不明瞭で,中膜平滑筋細胞内に空胞変性,外膜に線維化を認めた(Fig. 3C).右胃大網動脈瘤周辺の動脈壁や直径5 mm大の動脈瘤にも同様の所見を認めた.以上より,SAMによる右胃大網動脈瘤の破裂と診断した.

Fig. 3 

A (H.E. staining ×40): Tunica media was partially disrupted (arrow). B (E.V.G. staining ×40): Disruption of media was highlighted by staining of lamina elastic interna (arrow). C (H.E. staining ×100): Vacuolization of smooth muscle cells (arrows). *TE (tunica externa), TM (tunica media), TI (tunica interna)

術後経過:術後は経過良好であったが,術後第11病日に突然の腹痛,血圧低下を認め,一時ショック状態となった.腹部CTで急性胃潰瘍出血が疑われ,上部消化管内視鏡で胃体下部,小弯後壁の出血を伴った露出血管を認め,これをclippingすると出血は治まった.術後第12病日および第14病日に再度上部消化管内視鏡検査を施行したが,露出血管からの出血は認めなかった.以降,再出血は認めず,良好に経過し,術後第30病日に退院となった.術後約半年後に腹部造影CTを行ったが,新たな動脈瘤の出現は認めていない.

考察

胃大網動脈瘤はまれな疾患で腹部内臓動脈瘤の約0.4%と報告されている3)4).「胃大網動脈瘤」をキーワードとして,1983年から2012年4月までの期間で医学中央雑誌で検索したところ,本邦では会議録を除くと26例が論文報告されているにすぎない(Table 15)~30).自験例を含めた全27例の内訳は,破裂17例,未破裂10例であった.突然の腹痛で発症することが多く,ショックを伴うものは6例,他疾患精査中の偶発発見5例であった.初回治療としては,外科的手術が18例(67%),経カテーテル的動脈塞栓術(transcatheter arterial embolization;以下,TAEと略記)施行は8例(30%)であったが,その内2例が最終的に外科的手術に移行した.

Table 1  Summary of reported cases with gastroepiploic artery aneurysm
No. Author Year Age Sex Symptoms Shock Angiography before operation Rupture Location Size (mm) Treatment Etiology Outcome
 1 Sukigara5) 1989 52 M Epigastralgia + Right 20 TAE→Embolization at laparotomy Alive
 2 Menjo6) 1991 55 F Epigastralgia + + + Right ND Resection False aneurysm Alive
 3 Ueno7) 1992 70 F Abdominal pain, abdominal distention + + + Right 40 Resection Vessel wall defect Alive
 4 Kawatsu8) 1992 74 M Epigastralgia + + Left 25 Resection Arteriosclerosis Alive
 5 Shimada9) 1993 49 M Unconsciousness, epigastralgia + Left 10 Resection ND Alive
 6 Sato10) 1995 64 M Epigastralgia + + Right ND Resection ND Alive
 7 Hiei11) 1996 84 M + Right 8, 8 Resection Arteriosclerosis Alive
 8 Sugiyama12) 1997 52 F Abdominal pain + + Right ND Partial gastrectomy ND Alive
 9 Kawai13) 1998 60 F Epigastralgia + + Right 40, 10 Resection Neurofibromatosis Alive
10 Yamane14) 2000 51 M + Right (multi) 10 Resection (laparoscopic) ND Alive
11 Iguchi15) 2002 71 F Abdominal pain + + Right 15 TAE Alive
12 Narita16) 2002 55 F Abdominal pain + + Right 45 Resection SAM Alive
13 Nakamura17) 2003 76 F Abdominal pain, back pain + + Right (multi) 55 Resection SAM Alive
14 Yamabuki18) 2003 75 F Palpable mass + Right 50 Resection (laparoscopic) ND Alive
15 Yasuda19) 2006 84 M Epigastralgia, vomiting + Right ND Resection Dissecting aneurysm Alive
16 Nabeshima20) 2007 53 M Epigastralgia + + Left 3 TAE→Resection False aneurysm Alive
17 Ichikawa21) 2007 68 F Hypogastric pain + + Right 70 TAE Alive
18 Noda22) 2008 69 M Epigastralgia, abdominal distention + + Right 20 TAE Alive
19 Oya23) 2008 70 F Unconsciousness, Epigastralgia, vomiting + Right 30 Resection Arteriosclerosis Alive
20 Shigematsu24) 2008 68 M + Right 30 Resection Medial degeneration Alive
21 Hosokawa25) 2009 51 M Epigastralgia + + Left 9 TAE Alive
22 Wada26) 2009 68 M Melena + Right 30 TAE Alive
23 Kinoshita27) 2009 49 M + Right 7 TAE Alive
24 Kado28) 2010 70 M Left flank pain + + Right ND Conservative→TAE Alive
25 Nishida29) 2011 56 F Left flank pain Right 35 Resection (laparoscopic) SAM Alive
26 Shimada30) 2011 72 F + Right (multi) 10 Resection, arterial reconstruction Arteriosclerosis Alive
27 Our case 80 M Abdominal pain = = ± Right 10 Resection SAM Alive

*ND=not described

腹部内臓動脈瘤の治療方法を選択するうえで,TAEか外科的手術かの判断に迷うことが少なくない.腹部血管造影検査およびTAEは,責任血管の同定から血管塞栓術と診断から治療まで一貫して行うことができ,外科的手術に比べ侵襲が小さい.また,成因の一つであるSAMが原因の動脈瘤では多発例も報告されている31)ことから,それらを検索する意味でも有用であるといえる.しかし,再出血のリスクから確実性はやや劣り,その他にコイルによる溶血性貧血や塞栓後の臓器虚血などの重大な合併症のリスクもある.

一方,外科的手術は,責任血管を肉眼的に確認・同定し,動脈瘤の結紮切除を行うことから,再発率が低く,確実性が高いといえる.また,TAEに比べ侵襲は大きいが,近年腹腔鏡下での報告例も散見され,侵襲性を抑えた瘤切除も可能となりつつある.本症例では開腹下直腸前方切除術の既往があったことから,腹腔鏡下ではなく開腹下での外科的手術を行うことが安全かつ確実と考え選択した.また,本邦での報告では,ショック例6例中全例が外科的手術を施行されていた.そのうち3例に術前腹部血管造影検査が施行されているが,いずれもTAE成功例はなく,最終的に外科的手術に至っている.このように破裂例でショック状態であれば,血管攣縮などの理由からTAEの成功率は低くなる傾向にあると推察され,外科的手術の果たす役割が大きいといえる.

本症例では,腹部造影CTにて造影剤の血管外漏出所見を認めなかったことから,腹部血管造影検査を施行しても責任血管の同定が困難であると考え施行しなかったが,動脈瘤破裂の可能性も念頭に置き,腹部血管造影検査を考慮すべきであったと思われる.また,術前CTをretrospectiveに血管構築し,見直すと,今回の動脈瘤を同定することができたことから,術前のCT読影を反省するとともに3D-CTによる血管構築像の有用性を確認することもできた(Fig. 4, 5).

Fig. 4 

Abdominal CT revealed the arterial aneurysm (arrow).

Fig. 5 

Abdominal CT (3D-CT) revealed the right gastroepiploic arterial aneurysm (arrow).

未破裂動脈瘤の手術適応に関しては,明確な基準がないのが現状である.自験例を含めた本邦の胃大網動脈瘤の破裂報告例のうち,動脈瘤の大きさの記載のあった12例中10例が直径10 mm以上であったことから,直径10 mm以上の動脈瘤であれば破裂のリスクが高いと考え,未破裂例で保存加療を選択した場合であっても待機的にTAEあるいは外科的手術が望ましいと思われる.

腹部内臓動脈瘤の原因として,動脈硬化,外傷,先天性血管異常,感染,炎症,膠原病による血管炎,医原性などが挙げられるが,近年SAMの報告が散見される.SAMは,腹部内臓動脈の中膜に分節状に融解が起こり,多くは動脈瘤を形成して破裂する.1976年にSlavinら1)はsegmental mediolytic arteritisという疾患概念を提唱したが,動脈炎を伴っていない症例もあることなどから,1995年に segmental arterial mediolysisと改名された2).病理組織学的特徴としては,中膜の空胞変性・融解による動脈瘤の分節状・島状の中膜残存(medial island),拡張した外膜が保たれる一方で,内膜の破綻を来していること(medial gap),壁内炎症所見・粥状硬化所見がないこと(ただし,症例によっては動脈瘤周辺に炎症性細胞浸潤を伴うこともあり,反応性変化によるものとされている)31)などが挙げられる.しかし,SAMの発生メカニズムは未解明のことが多く,罹患血管の分布・外見上の類似点から線維筋性異形成fibromuscular dysplasiaの一亜型32)あるいは前駆病変2)ではないかという説もある.本症例では,好中球やマクロファージの浸潤が認められたが,前述した反応性変化によるものと判断し,中膜の途絶・消失所見を認めたことから,SAMと診断した.

病理組織学的に,SAMと確診されたのは文献上3例を認めるのみであった.これは,TAE症例により病理組織学的な確定診断が行えないことや,病態や疾患概念が十分に解明されていないことが背景にあると考える.

特発性の腹腔内出血を認めた場合,腹部内臓動脈瘤破裂の可能性も考慮し,精査をすすめていく必要がある.中でも,本症例のような胃大網動脈瘤は,全身状態が許すかぎり診断や治療を兼ねた腹部血管造影検査が有用と考えられるが,ショック状態など全身状態が不安定であれば,TAEの成功率も低い傾向にあることを念頭に置き,機を逸することなく外科的手術を行う必要があるといえる.また,近年報告の増えているSAMが原因の動脈瘤では多発例の報告もあることから,全身検索も必要であることを留意したい.

稿を終えるにあたり,本論文の作成に御助言頂きました大阪大学医学部病態病理学名誉教授,青笹克之先生に深謝いたします.

利益相反:なし

文献
 

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