The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
A Case of AFP-Producing, True Gastric Carcinosarcoma
Toshiyuki IshibaMikito InokuchiMegumu EnjojiRyo OhnoNorihito OgawaHirofumi SugitaKeiji KatoMariko NegiKazuyuki KojimaKenichi Sugihara
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2013 Volume 46 Issue 11 Pages 814-821

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Abstract

症例は79歳男性で,心窩部痛・嘔吐を主訴に来院した.上部消化管内視鏡検査で穹窿部に径10 cmの隆起性病変を認め,CTで原発巣とリンパ節腫大を認めるも遠隔転移はなく,AFPは263.0 ng/mlであった.AFP産生を伴う胃癌肉腫U,Post,type 1,cT3N1M0,cStageIIBと術前診断し,胃全摘術(D2郭清),Roux-en-Y再建を施行した.肉眼的に13.5 cm大で,病理組織学的には肉腫細胞が主体で腺癌細胞が混在し移行性はなく,免疫染色検査にて腺癌細胞は上皮系マーカーが,肉腫細胞は間葉系マーカーが陽性となり,真性胃癌肉腫T3(SS),N3a,Stage IIIBと診断した.AFPは腺癌細胞において陽性であった.術後3か月で肝転移再発し,術後6か月で原病死した.真性胃癌肉腫は有効な治療法がなく予後不良である.また,これまでの報告は15例とまれで,AFP産生の胃癌肉腫の報告は2例目である.

はじめに

本邦における真性胃癌肉腫のこれまでの報告は15例とまれで,AFP産生を伴う胃癌肉腫では1例のみと非常にまれである1)~15).今回,AFP産生を伴う真性胃癌肉腫の1例を経験したので報告する.

症例

症例:79歳,男性

主訴:心窩部痛,嘔吐

既往歴:76歳 腹部大動脈瘤に対して人工血管置換術を施行され,その際に高血圧,痛風,慢性腎不全,脂質異常症を指摘され,経過観察されていた.

生活歴:飲酒歴なし.喫煙歴は20本/dayを55年間.

現病歴:上記主訴にて,当院消化器内科受診した.上部消化管内視鏡検査にて,胃穹窿部に隆起性病変を認めた.生検で胃癌肉腫と診断され,手術目的に当科に転科した.

入院時現症:身長174.5 cm,体重59 kg,血圧126/57 脈拍90回/分,体温37.9°C.腹部は平坦・軟で圧痛を認めなかった.腫瘤は触知しなかった.上中下腹部正中切開の手術痕を認めた.

血液生化学検査所見:WBC 13,800/μl,Neu 93.0%,CRP 13.09 mg/dlと炎症反応の上昇を認めた.また,Hb 8.8 g/dlと貧血を認め,BUN 26 mg/dl,Cre 1.83 mg/dlと軽度腎機能低下も認められた.腫瘍マーカーについては,CEAは1.6 ng/ml(基準値5.0以下),CA19-9は2.7 U/ml(基準値37.0以下)と正常範囲内であったが,AFPは263.0 ng/ml(基準値10.0以下)と異常高値を示していた.

上部消化管内視鏡検査所見:胃穹窿部の後壁に約2 cmの茎をもつ径10 cmの隆起性病変を認めた.腫瘤の表面は発赤し白苔が付着し易出血性であった.有茎性だが可動性はなく1型の進行癌と診断した(Fig. 1).生検にて胃癌肉腫と診断した.

Fig. 1 

Upper endoscopy. Gastrointestinal endoscopy shows a pedunculated tumor in the fornix.

腹部単純CT所見:腎機能障害のために造影CTは施行されなかった.胃体部内腔に突出した径10 cmの腫瘤と小彎リンパ節の腫大を認めた(Fig. 2).遠隔転移を疑う所見はなかった.

Fig. 2 

Contrast-enhanced CT. The arrowheads shows the tumor occupying the stomach. The arrow shows the lymph node along the lesser curvature.

腹部超音波検査所見:胃に径10 cmの分葉状,内部不均一,境界明瞭な腫瘤を認めた.肝臓には囊胞を認めたが,肝転移を疑う所見はなかった.

以上より,胃癌肉腫U,Post,type1,cT3N1M0,cStage IIBと術前診断した.

手術所見:胃全摘術(D2郭清),Roux-en-Y再建術を施行した.腹膜播種,腹水,肝転移を認めなかった.胃穹窿部の内腔に超手拳大の腫瘤を触知し,小彎リンパ節の腫大を認めた.高齢でかつ全身状態不良のため,脾臓は温存した.

切除標本:胃後壁に13.5×6.5×14.5 cm大の有茎性隆起性病変を認めた(Fig. 3).割面では乳白色調の充実性腫瘤で一部に出血を伴っていた.

Fig. 3 

Resected specimen. A surgically resected specimen shows a pedunculated tumor at the gastric fornix.

病理組織学的検査所見:胃癌取扱い規約第13版に基づく病理組織学的病期は,胃癌肉腫 U,Post,type 1,pT3(SS),ly2,v1,pN3a,pStage IIIBであった.原発巣は肉腫成分が主体で,その中に島状に異型腺管が分布していた(Fig. 4a).肉腫成分はN/C比の高い小型類円形から紡錘形の肉腫細胞で,それに隣接して腺管構造を有する上皮性成分である腺癌細胞が領域をもって存在した.肉腫細胞と腺癌細胞は混在するが移行像はなく,大型の核と好酸性の細胞質を有する横紋筋細胞様の細胞も見られた(Fig. 4b).真性癌肉腫と診断した.免疫組織染色検査では肉腫細胞は,筋・間葉系のマーカーであるdesmin,myogenin,CD56,myoDが陽性となった(Fig. 5a, b).腺癌細胞は,上皮系のマーカーであるkeratin AE1/3 とCAM5.2が陽性であった(Fig. 5c).AFPとglypican-3は腺癌細胞において陽性となった(Fig. 5d).Ki-67は高いところで80%陽性であった.リンパ節は1,3,4sa番に計10個の転移を認め,その構成成分は肉腫細胞のみで腺癌細胞はなかった.

Fig. 4 

Pathological findings. The tumor shows both sarcoma and adenocarcinoma components. Both components are sharply demarcated. The arrows show adenocarcinoma components. (a: H.E. ×40). The cells with eosinophilic cytoplasm are similar to striated muscle cells (b: H.E. ×400).

Fig. 5 

Immunohistochemistry. The sarcoma component is stained using desmin (a: ×40). The sarcoma component is stained using myogenin (b: ×40). The adenocarcinoma component is stained using AE1/3 (c: ×40). The adenocarcinoma component is stained using AFP (d: ×40).

術後経過は良好で術後14日目に退院した.術後補助療法を勧めるも本人の希望により行わなかった.術後1か月でWBC 4,800/μl,CRP 1.09 mg/dlと炎症反応は正常化し,AFPも1.8 ng/mlと正常化した.その後他院でフォローされ,術後3か月目に多発肝転移を認めた.Docetaxel+cisplatin+S-1の化学療法が行われたが有害事象により1コースで中止した.その後は積極的治療を希望せず,術後6か月で原病死した.家族の意向により病理解剖は行われなかった.

考察

癌肉腫は,同一腫瘍内に上皮性悪性腫瘍である腺癌細胞と非上皮性悪性腫瘍である肉腫細胞をあわせもつ腫瘍である.癌肉腫は食道,子宮などにおける報告は少なくないが胃の癌肉腫の報告はまれである16)

癌肉腫は組織診断学的見地から真性癌肉腫と,肉腫に相当する組織が明らかな間葉系形態を示さない“いわゆる”癌肉腫に分類されている.真性癌肉腫は肉腫成分が横紋筋や,骨,軟骨成分などの明らかな間葉系組織への分化を示すものである.この分化が認められない場合には間葉系と考えられる細胞に,間葉系細胞のマーカーであるdesminやmyogenin,vimentin,CD5,myoDなどが存在し,上皮系マーカーであるCEA,EMA,keratin AE1/3,CAM5.2などがないことを確認する必要がある.これに対して肉腫に相当する部分の組織が明らかな間葉系の形態を示さず,前述の免疫組織学的特徴を有さないものは,いわゆる癌肉腫とされる.肉腫細胞にみえる紡錘形細胞は,癌細胞が形態変化により紡錘化したものと考えられている.そのため,上皮性成分と肉腫成分に移行像がみられる16).本症例は上皮性成分の肉腫成分への移行像を示さず,大型の核と好酸性の細胞質を有する横紋筋細胞様の細胞も見られた.また,免疫組織染色検査にて肉腫細胞に間葉系マーカーの存在もあり,真性癌肉腫と診断した.

癌肉腫は上皮性成分と肉腫成分が複雑に混在する腫瘍であるが,その組織発生に関しては,以下の仮説が知られている.1)collision tumor theory(上皮組織と間質組織の同時悪性化による衝突腫瘍),2)composition tumor theory(癌に対する間質の偽肉腫様反応によるもの),3)combination tumor theory(単一クローン性であり,腫瘍細胞の幹細胞的な多分化能に基づくとする).最後の説の亜型として肉腫成分は癌から二次的に化生・派生したとするmetaplastic tumor theoryがある17).現在では1)のcollision tumor theoryは癌肉腫の分類から除外されている.クロナリティー解析によって,癌肉腫のほとんどが単一細胞由来で,腫瘍発生の過程で上皮性成分を示す部分と肉腫成分を示す部分に分化するというcombination tumor theory を支持する結果が示された18)

医学中央雑誌をもとに1983年4月より2012年9月まで「胃」,「癌肉腫」をキーワードとして検索した.真性胃癌肉腫のこれまでの報告は15例であり,AFP産生を伴う真性胃癌肉腫の報告は1例のみで極めてまれであった1)~15).PubMedにおいて1950年から2012年9月までの「carcinosarcoma」,「stomach」での検索では34例であった.

医学中央雑誌による真性胃癌肉腫の16例をまとめると,平均年齢が65歳(24~80歳)で,男性12例,女性4例であった.発育形態は比較的境界明瞭な隆起性病変を呈することが多く,有茎性腫瘍あるいは1型腫瘍が9例で,腫瘍径の平均は8.8 cm(2~20 cm)であった.外科切除以外に有効な治療法はなく,予後は非常に悪く,生存期間の平均値は11か月,中央値は約6か月であった.本症例も術後の生存期間は6か月であった.血清中のAFPは記載のあった9症例において測定されていたが,免疫組織染色検査を行いAFP産生を伴う胃癌肉腫と診断されたのは本症例を含め2例のみであった(Table 1).

Table 1  All cases of true gastric carcinosarcoma reported in Japan
Author
(Year)
Age/Sex Location Gross &
Size (cm)
Depth Serum AFP (ng/ml) IHC AFP Meta. Lymph node meta. Prognosis
 1 Machida1)
(1981)
39/M fornix type 2
7×6×3.5
MP ND ND (–) (–) dead (5M)
 2 Sugai2)
(1991)
78/M pylorus polypoid
9×7×3.5
SS ND ND ND ND dead (5M)
 3 Matsukuma3)
(1997)
74/M gastric stump polypoid
15×11×6
MP ND ND (–) (–) dead (5.5M)
 4 Nakayama4)
(1997)
69/M gastric remnant polypoid
20×18×8
SE ND ND (–) (–) Autopsy case
 5 Inoue5)
(1998)
74/F body~eso type 3
7.8×7
SI (eso) 22 ND (–) (+) (ac) dead(6M)
 6 Numoto6)
(1998)
65/M body~pylorus type 3
8×4
ND 8,437 (+) (ac) liver (ac) (–) dead (3M)
 7 Fujii7)
(2002)
72/M body type 1
2×1.8×1.8
SM ND ND (–) (–) dead (4M)
 8 Teramachi8)
(2003)
62/M body type 3
10×6
SS ND (–) (–) (+) alive (1Y8M)
 9 Mori9)
(2004)
67/M body SMT like
6.8×5.5×4.8
ND (–) ND (–) (–) alive (2Y6M)
10 Takase10)
(2006)
74/M body polipoid
12×10×5
SI (liver) (–) ND (–) (+) (ac) dead (5m)
11 Oomori11)
(2007)
62/M body type 2
3×2
SE ND ND (–) (–) dead (7M)
12 Fujikuni12)
(2010)
69/F body~pylorus type 1
6×6×3.5
SS (–) ND (–) (+) (cas) alive (2Y2M)
13 Higuchi13)
(2011)
24/F pylorus SMT like
2.7×2.5
ND (–) ND liver (–) alive (1Y3M)
14 Yuasa14)
(2012)
54/F pylorus type 1
5×4.5
SM 1.6 ND (–) (+) (ac) alive (5Y)
15 Tsukahara15)
(2012)
80/M body type 1
6×4
MP (–) ND Aorta (sar) (+) (ac) dead (64D)
16 Our case 79/M fornix type 1
13.5×6.5×14.5
SS 263 (+) (ac) (–) (+) (sar) dead (6M)

Meta: metastasis, eso: esophagus, IHC: immunohistochemistry, ND: not described, ac: adenocarcinoma, sar: sarcoma, cas: carcinosarcoma

胃癌肉腫の転移例は,転移リンパ節には腺癌細胞のみを認めるも肝転移には腺癌細胞と肉腫細胞の両者を認めた症例,リンパ節に肉腫細胞のみを認めた症例,大動脈内膜転移に肉腫細胞のみを認めた症例の報告があった10)12)15).本症例においてはリンパ節転移は肉腫細胞のみで,肝転移巣は生検や病理解剖が行われず,組織学的診断は行われなかった.

癌肉腫の化学療法について調べてみると,他の臓器を原発とする癌肉腫ではプラチナ系の多剤併用療法が有効との報告がある19)~24).婦人科領域においてはpaclitaxelとcarboplatin,食道ではCDDPと5-FU,肺においてはCDDPとdoxorubicinが用いられることが多い.胃においては胃癌に準じて化学療法が行われることが多く,報告例でcyclophosfamid,docetaxel,epirubicinの多剤併用療法が1例のみに行われている11).本症例はcisplatin,S-1,docetaxelの多剤併用療法を行ったが,有害事象により1コースのみで中止したため,効果判定されなかった.ただ胃癌肉腫の発生理論としてのcombination tumor theoryから考えると,胃癌に準じた治療は妥当であると考える.

AFP産生胃癌は臨床的には肝転移を高頻度に伴い,予後不良である25)~27).AFP産生を伴う胃癌肉腫の報告は1例のみで術後3か月で肝転移により死亡した6).本症例も6か月で死亡しており,AFP産生を伴う胃癌肉腫の予後が極めて不良である可能性もあるが,症例も少なくより一層の検討が必要と考える.

今回,AFP産生を伴う胃癌肉腫を経験した.まれな症例で根治的切除がなされても予後が非常に悪く,効果的な化学療法もない.症例の積み重ねにより効果的な治療法を確立する必要があると考え,報告した.

利益相反:なし

文献
 

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