The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
A Case of Signet-ring Cell Carcinoma of the Extrahepatic Bile Duct with Bile Duct Resection
Taro OkazakiTetsuo AjikiKenta ShinozakiSae MurakamiYuko YoshidaIppei MatsumotoTakumi FukumotoFumi KawakamiShigeo HaraYonson Ku
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2013 Volume 46 Issue 11 Pages 840-846

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Abstract

我々は肝外胆管に発生したまれな印環細胞癌の1例を経験したので報告する.症例は76歳の女性で,腹痛を主訴に近医を受診し,急性胆囊炎の診断にて経皮経肝胆囊ドレナージ(percutaneous transhepatic gallbladder drainage;PTGBD)と抗生剤による保存的加療を受けた.精査の結果,MRCPにて左右肝管合流部から総胆管にかけて不整な狭窄像を認め,腹部造影CTでは同部位に一致して造影効果を伴う軟部陰影を認めた.胆管擦過細胞診では腺癌が疑われる所見であった.中部胆管癌の診断にて胆管切除術,胆道再建による根治切除術を施行した.病理組織学的には,細胞質内に粘液の貯留の目立つ印環細胞様の腫瘍細胞が小胞巣や索状の形態をとって浸潤性に増殖しており,印環細胞癌と診断した.現在術後24か月経過し,再発の兆候は認めていない.

はじめに

印環細胞癌の多くは胃に原発し,浸潤傾向が強く,予後不良とされている.一方で,胆道癌は大部分が腺癌で,印環細胞癌はまれであり,なかでも胆管原発の印環細胞癌の報告例は少数に限られる1)~8).また,外科的切除術が唯一の根治的治療であるが,その発生部位の特殊性から治療は膵頭十二指腸切除術や肝葉切除術など大侵襲手術を要することが一般的である.今回,我々は肝外胆管原発印環細胞癌に対して胆管切除術による根治切除術を施行し,術後2年間無再発の1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

症例

患者:76歳,女性

主訴:腹痛

家族歴:特記事項なし.

既往歴:1964年,子宮筋腫手術.1970年,虫垂炎手術.1985年,狭心症・高血圧.2008年より,糖尿病(内服加療中).

現病歴:2010年11月に腹痛を認め,近医を受診.急性胆囊炎の診断にて,経皮経肝胆囊ドレナージ(percutaneous transhepatic gallbladder drainage;以下,PTGBDと略記)と抗生剤による保存的加療を受けた.その後精査の結果,胆管癌が疑われたため,当科紹介となった.

入院時現症:身長143 cm,体重53 kg,体温35.4°C,血圧114/60,脈拍72回/分,眼球結膜に黄染は認めず.腹部は平坦軟,圧痛なく,腫瘤は触知しなかった.右季肋部からPTGBD tubeが挿入されていた.

入院時血液検査所見:当科入院時検査所見はすでにPTGBDなど加療後のため,WBC 6,100/μl,CRP 1.93と炎症反応は改善,AST 25 IU/l,ALT 29 IU/l,T-bil 0.8 mg/dl,ALP 336 IU/l,γ-GTP 206 IU/lと軽度肝胆道系酵素の上昇を示したのみであった.腫瘍マーカーはCA19-9 3 U/ml,CEA 1.3 ng/mlで正常範囲内であった.

腹部造影CT所見:左右肝管合流部から総胆管にかけて造影効果を伴う軟部陰影を認め,その上流の胆管拡張を伴っていた(Fig. 1).肝十二指腸間膜内リンパ節の軽度の腫大を認めた.右肝動脈に明らかなencasementは認めなかった.

Fig. 1 

Abdominal CT reveals a contrast-enhanced mass (arrow) from the upper to middle bile duct accompanied by a proximal dilatation of the biliary tract.

MRCP所見:左右肝管合流部から総胆管にかけて22 mmにわたる狭窄像を認めた(Fig. 2).

Fig. 2 

MRCP shows the 22-mm sized bile duct stricture (arrow) from the upper to middle bile duct.

内視鏡的経鼻胆管ドレナージ(endoscopic nasobiliary drainage;ENBD)チューブ造影下3D-CT胆管像:左右肝管合流部から総胆管にかけて狭窄像を認めた(Fig. 3).

Fig. 3 

3D-CT cholangiography via ENBD tube reveals a bile duct stricture (arrow) from the upper to middle bile duct.

胆管腔内超音波(intraductal ultrasonography;IDUS)所見:狭窄部に一致して腫瘍性病変を認めたが,胆管外壁は保たれており,右肝動脈への浸潤は認めなかった.

胆管擦過細胞診:核の大小不同,配列不整,細胞質内に粘液のみられる異型細胞集塊を認め,腺癌を強く疑う所見であった.

以上から,中部胆管に発生した肝外胆管癌と診断し,手術を施行した.

手術所見:上腹部正中切開にて開腹.肝転移,腹膜播種,腹水は認めず,肝十二指腸間膜内リンパ節および大動脈周囲リンパ節の転移性腫大も認めなかった.肝十二指腸間膜内胆管に腫瘤を触知したが,明らかな漿膜面への露出も認めず,右肝動脈にも明らかな浸潤は認めなかった.腫瘍は中部胆管に限局しており,周囲への進展やリンパ節転移も明らかでなかったため,胆管切除による根治的な治療可能と考え,術中に肝側および膵側胆管断端の迅速病理組織学的診断にて断端陰性の診断を得たうえで,胆管切除術,胆道再建(Roux-en Y),D2郭清と16b1のサンプリングを施行した.郭清リンパ節は組織学的に7個で転移を認めなかった.

切除標本肉眼所見:中部胆管に壁肥厚とそれに伴う胆管の狭窄像を示す,結節浸潤型の腫瘍を認めた(Fig. 4).

Fig. 4 

Macroscopically, the middle bile duct wall shows circumferential thickening and narrowing of the lumen (white arrows). The black arrow shows the inferior part of the bile duct.

病理組織学的検査所見:細胞質内に粘液の貯留の目立つ印環細胞様の腫瘍細胞が小胞巣や索状の形態をとって粘膜固有層から間質を中心に浸潤性に増殖していた(Fig. 5a).リンパ管侵襲と静脈侵襲は軽度であったが,神経周囲浸潤が極めて目立ち(Fig. 5b),胆管壁を越えて,周囲の脂肪織に浸潤していたが,右肝動脈剥離面とは離れていた.郭清リンパ節に転移は認めなかった.胆道癌取扱い規約ではsig>tub2,INFβ,ly1,v1,pn3,BmsC,circ,ss,pHinf0,pGinf0,pPanc0,pDu0,pPV0,pA0,pP0,pN0,M(–),pHM0,pDM0,pEM1,T2でfstage II,CurBとなった.

Fig. 5 

a: Small clusters of tumor cells showing signet-ring cell features set in prominent desmoplastic stroma (H&E, ×100). b: Slight lymphatic invasion and vascular invasion are slightly observed, and perinueral invasion was severe (H&E, ×100).

術後経過:術後は経過良好で,術後21日目に退院となった.患者および家族と相談の上,術後補助化学療法は行わなかった.術後24か月現在で無再発生存中である.

考察

印環細胞癌は約90%が胃に発生し,胆道系に生じることはまれである1).全国胆道癌登録調査報告によると胆道癌の組織型のなかで胆管原発,胆囊原発,Vater乳頭部原発の印環細胞癌のそれぞれの頻度は,0.18%,0.2%,0.5%とされている9).中下部胆管原発印環細胞癌はPubMedおよび医中誌Webで「胆管(bile duct)」,「印環細胞癌(signet-ring cell carcinoma)」をキーワードとしてPubMedは1950年から2013年1月まで,医中誌Webは1983年から2013年1月までの検索期間で検索した結果,医中誌Webでの会議録を含めると13例で,症例報告されているものは8例であった(Table 1).この8例に本例を加えた計9例について検討した.

Table 1  Reported cases of signet-ring cell carcinoma of the bile duct
No. Author Year Age/Sex Site fStage Resection margin status Treatment Prognosis
Operation Chomoradiotherapy
1 Hirokaga1) 2000 57/M lower III R1 (pHM2) PDa) Postoperative radiotherapy 12 months alive local recurrence (+)
2 Kato2) 2007 78/M middle-lower IV b R0 SSPPDb) Postoperative chemotherapy (GEMf)) 14 months alive
3 Hiraki3) 2007 78/M lower Unknown Best supportive care 6 months death
4 Tanemura4) 2008 78/M upper-middle IV b R0 BDRc) Preoperative chemoradiotherapy (GEMf)) Unknown
5 Ogata5) 2010 42/F middle-lower IV a R0 SSPPDb) 6 months alive
6 Unno6) 2010 71/M lower IV b R2 PPPDd)+PVRe) 7 months death
7 Lee7) 2010 55/M lower IV a R1 (pHM2) PPPDd) Postoperative chemoradiotherapy (GEMf)/CDDPg)) 24 months alive
8 Matsumoto8) 2011 72/M lower IV b Chemotherapy (GEMf)) 3 months death
9 Our case 76/F middle II R0 BDRc) 24 months alive

a)PD: pancreatoduodenectomy, b)SSPD: subtotal stomach-preserving pancreatoduodenectomy, c)BRD: bile duct resection, d)PPPD: pylorus-preserving pancreatoduodenectomy, e)PVR: portal vein resection, f)GEM: gemcitabine, g)CDDP: cisplatin

平均年齢は67歳で,男女比は7:2と男性が多く,進行度IV a以上が6例あり,リンパ節転移や局所過進展を認める進行例が多かった.治療としては7例に手術が施行されており,5例が亜全胃温存膵頭十二指腸切除術(subtotal stomach-preserving pancreatoduodenectomy;SSPD),幽門輪温存膵頭十二指腸切除術(pylorus-preserving pancreatoduodenectomy;PPPD)を含む膵頭十二指腸切除術(pancreatoduodenectomy;以下,PDと略記),2例が胆管切除術であった.

通常胆管癌は肝門部に最も多く発生するとされているが,本症例も含めて,印環細胞癌の多くの症例が中下部胆管に発生し,PDを施行されていた.胃の印環細胞癌はMUC6陽性の胃型の粘液を有するとの報告があり10),形態学的に胃固有の付属腺である幽門腺を模倣している.胆管は胃,十二指腸と同じ前腸系に属し,胆道粘膜にも炎症に続く再生機転から幽門腺化生が発生することが知られているが11),その分布については一定の見解はない.また,胆管における付属腺の分布は肝内胆管では胆管の両側に規則正しく配列し,左右肝管や肝外胆管では不規則に配列している12).このようなこれまでの知見からは印環細胞癌が中下部胆管にのみ発生していた理由は明らかではなかった.今後の症例集積によるさらなる検討が必要と考えられる.

化学療法は切除不能例1例に,また術前1例・術後2例に行われていた.全例に塩酸ゲムシタビン(以下,GEMと略記)が投与されており,うち1例は術後GEM+シスプラチン療法+放射線療法が行われていた.放射線療法は術後照射行ったものが2例,術前照射が1例あった.それぞれ1例が化学療法と併用されていた.2年以上の予後が得られているのは2例のみであった.全例がアジアからの報告であり,松本ら8)が述べているように肝外胆管系の印環細胞癌の発生はアジアに多い可能性もあると考えられた.

一般に印環細胞癌は悪性度が高く,予後不良な腫瘍とされている.胃の印環細胞癌は肉眼的に明らかな腫瘤を形成することなく広がり,組織学的には癌細胞が個々バラバラにあるいは索状配列を示してびまん性に浸潤することが知られている1).胃印環細胞癌の予後は進行癌において他の組織型のものより有意に不良であるとされ,5年生存率はおよそ30~40%と報告されている13).また,Vater乳頭部印環細胞癌においても胆管,膵管,膵実質,十二指腸壁内にびまん性に浸潤する傾向が高く,悪性度の高い腫瘍であり,予後不良とされている13).胆管印環細胞癌については,これまでの報告例では診断時にすでにIV a以上で生存期間も1年未満の症例が多かった.Hirakiら3)は胆管印環細胞癌の予後は不良であると推測しているが,一方で胆囊14)15)やVater乳頭部印環細胞癌13)の予後に関して治癒切除症例で2年以上の生存を示す例も報告されており,胆管印環細胞癌の予後に関しても早期に診断し治癒切除が行えれば長期予後が期待できる可能性が推測された.

胆管印環細胞癌に対する術後補助化学療法に関しては,症例の報告も少なく,有効な治療方法として定まったものはない.胆管癌自体でも術後補助化学療法の有用性は明らかになっていないが,印環細胞癌で一番発生頻度の高い胃癌においてはS-1を用いた術後補助化学療法の有用性が報告されている16).Vater乳頭部印環細胞癌に対してもS-1を用いた術後補助化学療法が有効であった報告もあるが13),今回の検討では9例中3例でGEMが用いられていた.切除不能例については,放射線化学療法が著効し,根治的切除が行うことができたとする報告を認めるが4),症例の報告自体が少なく,有効な治療方法として定まったものはない.胆管印環細胞癌に対する化学療法については今後も症例の集積による検討が必要と考えられた.

胆管癌の多くは胆管長軸方向,胆管壁外方向への進展に加えて,リンパ節転移や神経周囲浸潤を高頻度に伴い,切除断端癌遺残とリンパ節転移が胆管癌術後の重要な予後因子であると報告されている17).したがって,胆道癌診療ガイドライン18)においても,根治手術としては肝切除や膵頭十二指腸切除が望ましく,胆管切除のみは推奨できないとされる.一方で,中部胆管癌において最も転移頻度の高いリンパ節は田端ら19)の報告では12bで22%に認め,全国胆道癌登録調査でも12bで21%に認められたと報告されており9),厳密な進展度診断を行った上で根治手術が可能と判断される症例には肝外胆管切除も考慮されうるとの記載もある.本例においては腫瘍が中部胆管に限局しており,術中迅速病理組織学的診断でも肝側・膵側胆管断端陰性であり,リンパ節転移もなく,胆管切除術を選択した.しかしながら,病理組織学的には脈管侵襲,神経周囲侵襲を認め,やはり本術式の施行には議論の余地が残る.胆管癌は深達度が漿膜下層を越えると高率に神経浸潤がみられ,中下部胆管癌では93.3%が陽性であったとの報告もある1).また,胆管印環細胞癌の場合は浸潤傾向を強く認め,胆管粘膜に沿って,あるいは胆管壁内に沿って浸潤性に進展するといった報告がみられる5).幸い我々の症例は術後2年間無再発生存中であるが,今後も慎重な経過観察が必要であると思われた.

利益相反:なし

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