The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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ORIGINAL ARTICLE
Orthotopic Ileal Neobladder Reconstruction After Radical Resection for Colorectal Cancer with Advanced Bladder Invasion
Hideki TakamiHiroyuki YokoyamaRyoji HashimotoTakuya WatanabeYoshinari MochidukiOsamu KamihiraKenji TaniguchiHiroyuki Suenaga
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2013 Volume 46 Issue 12 Pages 885-893

Details
Abstract

目的:高度に膀胱浸潤を伴う大腸癌に対して膀胱全摘を行った場合の尿路変向術としては回腸導管を用いることが一般的である.しかし,このウロストーマは患者のQOL低下を招くことがあり,ボディーイメージも損なうために精神的苦痛を伴う.近年,当院泌尿器科では膀胱癌に対する膀胱全摘後に回腸を用いた自然排尿型代用膀胱の一つであるHautmann法を改変した尿路変向術を積極的に行っている.そこで,我々も高度膀胱浸潤を伴う大腸癌に対する根治切除後の尿路変向術としてこの方法を選択的に採用してきた.方法:2009年1月から2011年12月までにこの再建法を行った5例を対象とし,手術の安全性,術後アウトカムについて評価した.結果:術後平均観察期間は29か月で平均手術時間は635分,出血量の中央値は999 gで,輸血は2症例で必要とした.術後平均在院日数は33.4日,術後に重篤な合併症は認めなかった.5例中4例で完全立位自排尿が可能であった.1例で肺再発を認めて切除したが,5例とも生存中である.結語:我々の行った尿路変向術は重篤な術後合併症もなく安全に施行できた.QOLや長期の合併症,予後についての評価は不十分であるものの,ボディーイメージを損なわない点において患者の受け入れが良いため,適応を十分考慮すれば有用な再建方法の一つになりえる可能性が示唆された.

はじめに

隣接臓器に浸潤した大腸癌は,遠隔転移を伴わない場合,積極的な他臓器合併切除によって良好な予後が期待できる1).膀胱浸潤例では膀胱部分切除で対応できることも多いが,その浸潤が高度で膀胱三角部に及んだ場合には骨盤内臓器全摘が行われる2).その際に行われる尿路再建術としては,回腸導管や尿管皮膚瘻といったウロストーマを用いた方法を行うことが一般的である.しかし,これらの永久ストーマを用いた尿路変向術は患者のQOLが低下することがあり,さらにはボディーイメージの変容に対して患者が精神的な苦痛を受けることも多い.

一方,泌尿器科領域では膀胱癌に対する膀胱全摘後の尿路変向術において,自然排尿型代用膀胱再建が治療の一つとして確立され,回腸導管と比べても短期的,長期的な合併症に遜色なく,患者の満足度も高いことから,本邦でもこの再建法を選択する機会は増加している.しかし,消化器外科領域においては腸管を用いた自然排尿型もしくは禁制型の代用膀胱による尿路変向術が以前より試みられてきたが,その報告は非常に少なく,満足な結果は得られていない.

当院の泌尿器科では膀胱癌に対する膀胱全摘後の回腸を用いた自然排尿型代用膀胱再建としてHautmann法3)に若干の改良を加えた方法(以下,modified Hautmann法と略記)を積極的に行い,比較的良好な結果を得ている.

そこで,我々はこれまでに高度膀胱浸潤を伴う大腸癌で膀胱全摘が必要と判断された症例に対し,十分なインフォームドコンセントのもとで,このmodified Hautmann法を用いた代用膀胱による尿路再建術を選択的に施行してきた.今回はこの尿路変向術の手術手技の詳細を報告し,術後合併症および術後排尿障害などのアウトカムをまとめ,この再建法の安全性,有用性および問題点について検討した.

方法

2009年1月から2011年12月までにmodified Hautmann法による代用膀胱再建術を行った高度膀胱浸潤を伴う大腸癌手術症例5例を対象とした(Table 1).

Table 1  Clinical and surgical findings
Case 1 2 3 4 5
Age/Sex 69/M 70/M 72/M 50/M 64/M
ASA*1 classification 1 1 1 1 1
Location of primary lesion Sigmoid Sigmoid Rectosigmoid Sigmoid Sigmoid
Operative time (min) 718 649 611 605 593
Time of reconstructing the urinary tract (min) 235 165 152 143 130
Blood loss (g) 1700 950 2494 291 999
Blood transfusion RCC 6U none RCC 2U none none
Hospital stay (day) 38 28 36 30 35
Final TNM classification (AJCC*2 7th edition) T4b N1 M1a (LYM) T4b N0 M0 T4b N0 M0 T4b N1 M0 T4b N1 M0
Final Stage (AJCC*2 7th edition) Stage IVa Stage IIC Stage IIC Stage IIIC Stage IIIC
Adjuvant chemotherapy UFT/LV UFT/LV UFT/LV UFT/LV UFT/LV

*1American Society of Anesthesiologists, *2American Joint Comittee on Cancer

1. 手術適応

高度膀胱浸潤を伴う大腸癌で膀胱全摘が必要と判断された症例のうち,以下の点をみたすものについて本術式による代用膀胱再建の適応とした.①根治切除が可能である.②腸管の吻合再建ができ,直腸切断術とならない(代用膀胱の後方支持臓器が温存される).③尿道括約筋への浸潤がなく,尿道の温存が可能である.④患者が本術式に耐術可能と判断され(ASA分類でIまたはII),腎機能が正常である.⑤膀胱洗浄の手技が自立してできる.⑥患者が本術式のメリット,デメリットを十分理解し本術式を希望している.

2. 代用膀胱の手術手技と術後管理

我々が行っているmodified Hautmann法の特徴は,「W型rabitt pauch」と呼ぶW型の新膀胱で,両端にrabittの耳にあたる5 cmのchimneyを形成し,そこへ尿管吻合を行うものである.新膀胱をW型にして長めのchimneyを形成することによる利点は,①chimneyが長く左右に大きく広がるために尿管新膀胱吻合の緊張が軽減し吻合が容易となること,②新膀胱の形状が逆三角形を保ちやすく,排尿時には代用膀胱に十分な腹圧が効率よくかかるために立位で排尿がしやすいことにあり,従来のHautmann法とは異なる特徴である.尿管新膀胱吻合について,従来のHautmann法は当初の新膀胱に直接尿管を吻合する方法から1990年代後半にはchimneyを形成する方法へ変更しているが,その長さは2~3 cmで我々と比較して短い4).さらに,彼らは尿管とchimney断端をend-to-endで吻合しているが4),我々は尿管とchimney腸管をside-to-endで吻合する方法を用いており,2010年5月からはそれに尿管逆流防止機構をつけた方法を採用している.

実際の手術手技について述べる.骨盤内臓器全摘で標本を一塊に摘出した後に,まず消化管の再建を先行し,自動吻合器を用いてdouble stapling technique法で行う.その後,新膀胱の形成および吻合は泌尿器科医師により行われる.回盲部から約20 cmの部位から口側に60 cmの回腸を遊離し(Fig. 1A),遊離回腸の内腔を生理食塩水で洗浄後,遊離した回腸の両端5 cmをchimneyとして管腔を残したままとし,残りの回腸の前壁を長軸方向に切開して脱管腔化する(Fig. 1B).脱管腔化した回腸をW字型に配置して3-0バイクリルにて全層の連続1層縫合(Fig. 1C)し新膀胱を形成する.両側尿管断端に1 cmのスリットを入れてシングルJカテーテルを挿入して尿管断端に固定する(Fig. 1D).Chimney前壁の漿膜を腸管軸方向に2 cm程度切開してその尾側端に小孔を開け,尿管口を形成する.両側尿管を形成した尿管口へ導き,尿管と腸管を2層で結節縫合する(Fig. 2A).近年はさらにこれを新膀胱でとりまくように結節縫合した方法を用いて(Fig. 2B, C),これを尿管逆流防止機構としている.最後に新膀胱下端に尿道口を形成し切離した尿道断端と全層で7針結節縫合する(Fig. 1D).ドレーンは直腸吻合部後面および尿道新膀胱吻合部前面へ低圧持続吸引型の閉鎖式ドレーンをそれぞれ留置する.

Fig. 1 

Surgical steps of modified Hautmann orthotopic ileal neobladder reconstruction. A: Selection of the ileal segment, B: An antimesenteric incision of the ileum, C: Construction of the reservoir, D: Ileo-urethral anastomosis and Uretero-ileal anastomosis.

Fig. 2 

The method of uretelo-ileal anastomosis in our orthotopic ileal neobladder. A: At first the ureteral wall and ileal mucosal layer are sutured, and secondly the ureteral adventitia and ileal serosal layer are sutured. B–C: The ureter is covered with ileal wall flaps.

術後約2週間後に膀胱造影を行い,問題がなければ両尿管のシングルJカテーテルを抜去し,自己膀胱洗浄の指導を開始する.術後3週間後に膀胱カテーテルを抜去し,自己導尿および自己膀胱洗浄の手技が確立すれば退院を許可する.

結果

当科における膀胱浸潤を伴う大腸癌に対してmodified Hautmann法による代用膀胱再建術を行った5例について,原発巣はS状結腸癌4例,直腸S状結腸部癌1例であった.全例が男性で,平均年齢65歳,平均手術時間635分,出血量の中央値は999 gであった.尿路変更術に要したとき間の中央値は152分で,5例中2例で輸血を要した.症例4および5は前述の尿管逆流防止機構を付加した尿管新膀胱吻合を行った.術後の平均在院日数は33.4日であった.American Joint Comittee on Cancer(AJCC)のTNM分類第7版5)による最終病期は,Stage IICが2例,IIICが2例であったが,症例1は術中にサンプリングした右閉鎖リンパ節(No. 283)に病理組織学的に1個の転移を認め,M1aとの診断となり,最終病期はStage IVaと診断した.いずれの症例もR0の切除と判断し,術後補助化学療法としてUFT/LV療法を行った(Table 1).

術後の平均観察期間は29か月で,術後早期(3か月以内)の合併症は5例中4例に認め,その内訳はメシチリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)腸炎1例,イレウス1例,腎盂腎炎2例であった.前述の尿管逆流防止機構を付加した症例4と5では腎盂腎炎は認めなかった.イレウスについてはイレウス管の留置による治療を要したが,他はいずれも保存的治療で改善し,Clavien-Dindo分類6) IIIb以上の重篤な合併症は経験しなかった(Table 2).

Table 2  Post operative outcomes and complications
Case 1 2 3 4 5
Follow-up time (month) 38 37 32 25 13
Early complication* Enteritis Pyelonephritis Pyelonephritis None Ileus
Spontaneous urination Possible Possible Impossible Possible Possible
Daytime continence at 12 months Good Good Good Incontinence Good
Nighttime continence at 12 months Good Good Good Incontinence Good
Capacity of ileal neobladder (ml) 184 402 496 169 342
Recurrence Urethral canal, Lung None None None None
Prognosis Alive Alive Alive Alive Alive

* Early complication occured before 3 months after operation

術後の排尿状態について,術後12か月の時点で間歇的自己導尿が必要な症例は1例に認め,残りの4例では完全立位自排尿が可能であった.膀胱容量は平均318.6 ml.術後12か月の時点での尿禁制について,5例中4例は日中,夜間いずれも完全な尿禁制が得られ,生活に支障はなかった.ただし,夜間は尿禁制を維持するために数回の定期排尿は必要であった.症例4については排尿を我慢すると失禁するために,日中は失禁予防で頻回にトイレに行かなければならない状態であり,夜間についても就寝中に尿失禁がみられるとのことであった.

遠隔成績については,症例1で術後11か月目に肺転移を指摘され,化学療法を施行した後に肺部分切除術を行った.さらに,術後33か月に尿道内再発を来したため経尿道的腫瘍切除術を施行している.本症例は術後30か月頃から慢性腎炎の急性増悪を認め,術後38か月で血液透析の導入となっているが,術後43か月現在,新規再発はなく生存中である.残りの4症例では観察期間中に再発は認めておらず,無再発生存中である(Table 2).

考察

膀胱癌に対する膀胱全摘後の尿路変向術は失禁型と禁制型に大別され,前者には回腸導管,尿管皮膚瘻などが含まれ,後者はさらに自己導尿型代用膀胱形成術と自然排尿型代用膀胱形成術がある.腸管を利用した自然排尿型代用膀胱形成術は1958年にCameyらが回腸をU字型にしてその両端に尿管を吻合する方法を報告して以降7),1985年に回腸を利用したStuder法8),1987年にS状結腸を利用したReddy法9),1988年に回腸を利用したHautmann法3)などが次々と報告され,さまざまな工夫,改良および評価が行われてきた.この自然排尿型代用膀胱は回腸導管と比べて短期的および長期的合併症に差はないと報告があり10),またQOL調査では有意な差は認めないという報告が多いものの,患者の体の外見(ボディーイメージ)に対する満足度が有意に高いことから11),膀胱全摘後の再建法の標準術式の選択肢として確立されつつある.理想的な自然排尿型代用膀胱としては,低圧な畜尿が可能なこと,Le Duc-Camey法12)のような尿管逆流防止機能をもち通過障害のない尿管吻合,腹圧のかかりやすい球状の膀胱形態をしていることなどがあげられる2).その観点から現在では代用膀胱としてStuder法およびHautmann法が主流となり,欧米を中心に普及してきた.

自然排尿型代用膀胱で患者のQOLを左右する最も大きな問題点として尿失禁と排尿困難がある.日中の尿失禁は約13%の症例に,夜間の尿失禁は0~67%の症例にみられると報告されている13).Hautmann法では日中の尿禁制は84%,夜間は66%で得られるとされ,5.6%で自己導尿が必要と報告されている14).自然排尿型代用膀胱はウロストミーと比べて十分なリザーバー機能によって排尿リズムを受け入れやすいという点でも患者にとっては受け入れやすく有用と考えられる.

自然排尿型代用膀胱の術後合併症は術後3か月以内の早期合併症とそれ以降の晩期合併症に分けられるが,Hautmann法における1,013人の検討において58%の患者で術後90日以内に何らかの合併症がおこったと報告されている.その最も多いものが急性腎盂腎炎と報告されており,その他には吻合部狭窄,繰り返す腎盂腎炎,新膀胱内結石,高クロール性代謝性アシドーシスなどがあるが,いずれも頻度は低いとされている15).さらに,長期的には腎機能低下,残尿量の増加,それに伴う尿失禁の増加などの問題が残されており,欧米のガイドラインも含めてどの自然排尿型代用膀胱形成術が最適な再建方法なのか結論には至っていない.

その現状の中で当院泌尿器科ではmodified Hautmann法による尿路再建が試みられてきた.この方法で膀胱全摘後にmodified Hautmann法を行った症例のうち,1年以上フォローアップを行った45例の検討で術後12か月の尿禁制は昼91%,夜57%で維持され,立位排尿が77%の患者で可能であった(Table 3).この方法と従来のHautmann法との違いの一つとしては,従来のHautmann法は十分な長さの尿管を確保できないと吻合が難しく,吻合に伴うトラブル(狭窄や血流障害による縫合不全)が起こりやすいという欠点があったが,我々の方法は両端にchimneyを作ることで,より緊張のかからない吻合を行うことができ,かつ十分なmarginを確保して尿管を切除できるという利点がある.また,逆三角形の形を保ちやすく蓄尿時は低圧になるので逆流しづらく,排尿時には十分な腹圧が効率よく代用膀胱にかかるので,立位排尿がしやすいというのも特徴である.短期的な合併症についてはこれまでの報告と遜色はなく,尿禁制についても同様に満足いく結果が得られているが,従来のHautmann法と比較した機能評価やQOLの評価は行われていないのが現状で,今後の評価が待たれる16)17)

Table 3  The outcomes of the modified Hautmann orthotopic ileal neobladder reconstruction after total cystectomy for bladder cancer in the urology department of our hospital
Average age (year) 62.2 (34–79)
Sex male 68 : female 3
Operation time (min) 576 (428–790)
Bleeding (g) 722 (240–2,494)
Early complication 45%
Spontaneous urination in upright positin 77%
Daytime continence at 12 months 91%
Nighttime continence at 12 months 57%

一方で膀胱浸潤を伴う大腸癌の骨盤内臓器全摘術の際に行われる尿路変向術としては回腸導管や尿管皮膚瘻といったストーマを使用した方法が現在でも主流である.代用膀胱を用いた自排尿型尿路変向術による再建については本邦では1990年代前半ごろから報告を散見するが,現在でも普及しておらず,一般的ではない.医学中央雑誌にて1983年から2012年まで「代用膀胱,neobladder,大腸癌」をキーワードに会議録を除いた報告を検索すると,8報告12症例のみであった(Table 418)~25).代用膀胱の形式もさまざまで,排尿状況については記載のないものも見受けられたが,報告のあるものでは導尿が必要な症例は1例のみであった.観察期間は最も長いもので24か月であり,長期成績については検証できなかった.

Table 4  Previous reports of neobladder after cystectomy for colorectal carcinoma in Japan
No Author (year) Age/Sex Primary lesion Method of neobladder Stoma Follow-up time (month) Spontaneous urination Daytime incontinence Nighttime incontinence
 1 Akiyama (1991)18) 60/M Rectum Mainz pouch Stomaless 9 Impossible Unknown Unknown
 2 Inagaki (1993)19) 65/M Rectum Ileocecal neobladder Colostomy 18 Possible None Sometimes
 3 Inagaki (1993)19) 75/M Rectum Ileocecal neobladder Colostomy 12 Possible None Sometimes
 4 Yamamoto (1995)20) 53/M Sigmoid Ileal S Pauch Stomaless 24 Possible Sometimes Unknown
 5 Yoshimi (1996)21) 52/M Sigmoid Ileal Pauch Stomaless Unknown Unknown Unknown Unknown
 6 Yamamoto (2000)22) 63/M Sigmoid Modified Studer Stomaless 17 Possible None None
 7 Hamada (2004)23) 61/M Rectum Modified Studer Colostomy 15 Possible None Sometimes
 8 Yamamoto (2004)24) 62/M Rectum Ileal pauch Stomaless 1 Unknown Unknown Unknown
 9 Yamamoto (2004)24) 55/M Rectum Ileal pauch Stomaless 1 Possible Unknown Unknown
10 Danno (2004)25) 47/M Sigmoid Modified Hautomann Stomaless 18 Unknown Unknown Unknown
11 Danno (2004)25) 57/M Rectum Modified Hautomann Stomaless 10 Unknown Unknown Unknown
12 Danno (2004)25) 61/M Rectum Modified Hautomann Stomaless 7 Unknown Unknown Unknown

代用膀胱造設による尿路変向術が十分普及しない理由としては,T4大腸癌は再発率が高く,特に局所再発のリスクが問題となること,手術手技が煩雑でその方法を十分習熟できている外科医や泌尿器科医が少ないこと,高度膀胱浸潤を伴う大腸癌患者は術前に貧血や低栄養など状態の悪い症例も多いため手術侵襲が高度となる本術式の適応が少ないことがあげられる.また,本術式についての中長期的な合併症や後遺症,QOLについても十分な検証はなされておらず,このことも普及の妨げとなっているものと思われる.

今回,我々が経験した5例では手術時間は長いものの,術後の重篤な合併症を認めず,手術の安全性については問題がないと考えられた.これは本手術手技に熟練した泌尿器科医師の協力が得られたことによると考えられる.排尿状況については5例中症例3のみ自己導尿を必要としたが,現在は1日3回程度の自己導尿で日常生活は問題なくできている.また,日中・夜間の尿禁制については症例4を除き,十分満足いく結果が得られており,短期的な排尿状況も認容される範囲であることが示された.この尿禁制については,失禁対策として日中の場合はパットやコンドームの使用,夜間の定期排尿を行うなど排尿管理が重要とされており,入院中の十分な指導を行う必要がある.それによって本術式への患者のコンプライアンスは十分得られるものと思われる.症例4については外国籍の男性であり,通訳を介して説明を行った.このため,結果として,排尿管理への理解・説明が不十分となり,術後の尿禁制が不満足なものとなった可能性があると考えられた.また,前述の尿管逆流防止機構を付加した症例4と5では,短期的には腎盂腎炎をおこしていない.しかし,症例数が少ないこと,長期的な結果についてはまだ十分検討できていないことから,今後さらに症例を集積してその結果を解析していく必要があると考えている.

予後については,観察期間は短く,症例数が少ないこともあり,必ずしも今までの報告と比べ根治性が遜色はないとはいえない.症例1では遠隔臓器再発だけでなく,局所再発(尿道内再発)も認めた.この尿道内再発は膀胱内に浸潤・露出した腫瘍が脆くなっていた症例であったため,手術によるimplantationが再発の原因である可能性がある.この再発形式の存在を周知し,十分注意して経過観察する必要があると思われた.今回の5症例は,いずれも再発リスクが高いと判断し術後補助化学療法を行った.本来であれば再発抑制効果の高いオキサリプラチンベースのレジメを積極的に考慮したいところであったが,まだ認可される前の症例や術後栄養状態の悪化した症例があったこと,また術後排尿管理の最中に補助療法を行うことになるため腎機能への負担も考慮し,5例とも経口抗がん剤のみとなった.補助療法の適否やその内容ついては今後十分検討すべきと考えられた.

以上のような結果から,我々の行った尿路変向術を含めた自然排尿型代用膀胱は,標準的な回腸導管による再建と比べて中長期的な合併症や後遺症,QOLについての問題は残されているものの,ボディーイメージを損なわず,ウロストーマとなる精神的な苦痛を回避できることから,その点においては患者の満足が得られれば,有用な再建方法の一つの選択肢となりえると思われた.しかし,泌尿器科領域においても自然排尿型代用膀胱による尿路変向術はいまだ発展,改良が加えられ,評価が行われており,その結果が待たれるところである.そのため現時点では骨盤内臓器全摘後の自然排尿型代用膀胱による再建については安易に適応を拡大すべきではなく,根治性が得られることを前提として,失禁や自己導尿を要する排尿障害やその他さまざまな合併症や後遺症について術前に患者へ十分情報を提供したうえで,ウロストミー回避を強く希望する患者に対し,標準術式に対するオプションの一つとして提示するべきと考えられた.

利益相反:なし

文献
 

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