The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
Hepatocellular Carcinoma Found after a Pyrogenic Liver Abscess
Kosuke OishiTakanori SakaguchiKeisuke InabaYoshifumi MoritaAtsushi SuzukiKazuhiko FukumotoSatoshi BabaShohachi SuzukiHiroyuki Konno
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2013 Volume 46 Issue 2 Pages 91-97

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Abstract

症例は75歳の男性で,2004年2月,肝外側区域および後区域のKlebsiella pneumoniaeによる肝膿瘍の敗血症性ショックで他院に入院した.抗生剤投与により膿瘍は縮小し,全身状態は改善した.10か月後に膿瘍は消失し,経過観察中止となった.2007年1月の検診にて肝胆道系酵素上昇を指摘され,腹部超音波検査,CTで以前の肝膿瘍存在部位に一致する肝外側区域に6 cm大の腫瘍を認めた.肝炎ウイルス検査は陰性であったが,血清AFP値は上昇していた.厚い不整な被膜の内部に隔壁を有する画像検査所見より,混合型肝癌と診断して肝左葉切除術を施行した.病理組織学的検査では多結節癒合型の肝細胞癌で,腫瘍辺縁部に肉芽細胞や異物巨細胞を含む炎症性瘢痕組織がみられ,以前膿瘍が存在した部位に肝細胞癌が顕在化したものと考えられた.発生原因が不明な肝膿瘍では治癒後も定期的な経過観察が重要である.

はじめに

細菌性肝膿瘍は経胆道性の感染,憩室炎や痔瘻など消化管病変からの経門脈性の感染,肝動脈塞栓術や焼灼術などの肝腫瘍治療後合併症として発生する場合が多い.しかし,肝膿瘍の約15%は上記のような要因がない特発性である1).画像診断法の進歩により,肝膿瘍を契機に発見される肝細胞癌症例が散見されるようになった2)~13)が,肝膿瘍が消退した後に同一の部位に肝細胞癌が発生した報告はなく,今回,我々が経験したまれな1例につき,文献的考察を加えて報告する.

症例

患者:75歳,男性

主訴:なし(肝腫瘍の精査,治療).

既往歴:特記すべきことなし.

家族歴:特記すべきことなし.

生活歴:飲酒,喫煙歴なし.海外渡航歴なし.

現病歴:2004年2月,悪寒戦慄を主訴に他院に入院した.原因検索の腹部CTで肝外側区域,右葉後区域に蜂巣状に造影される不整な低吸収域を認めた(Fig. 1a).血液培養検査でKlebsiella pneumoniaeが検出され,敗血症性ショックを伴う細菌性肝膿瘍と診断された.抗生剤による治療にて膿瘍の縮小と全身状態の改善が得られた(Fig. 1b).消化管および胆道系を精査したが,肝膿瘍の原因疾患を認めなかった.10か月後に膿瘍は同定不可能となり,定期的な通院が中断した.

Fig. 1 

Enhanced abdominal computed tomography reveals liver abscesses (shown by arrows) in the lateral segment (a). The abscesses have almost disappeared after conservative medical management (b).

2007年1月,検診で肝胆道系酵素の上昇を指摘され,同院を受診した.腹部超音波検査で肝腫瘍が疑われ,精査加療目的に当科紹介となった.

入院時現症:貧血,黄疸なく,胸腹部所見に異常を認めなかった.

血液検査所見:肝胆道系酵素が軽度上昇していたが,血清肝炎ウイルス関連検査は陰性であった.AFP値は33.6 ng/mlと上昇していたが,CEA,Carbohydrate antigen 19-9(以下,CA19-9と略記)などは正常範囲内であった(Table 1).

Table 1  Laboratory data on admission
 Hematology  Coagulation
 WBC 3,800​/μl  PT 11​ sec
 RBC 400×104​/μl  %PT 104​%
 Hb 13.4​ g/dl  APTT 28.2​ sec
 Ht 39.7​%  %APTT 97​%
 PLT 23.4×104​/μl
 Serology
 Biochemistry  CRP 0.18​ mg/dl
 TP 7.9​ g/dl  HBs-Ag (–)
 ALB 4.5​ g/dl  HBs-Ab (–)
 ChE 252​ IU/l  HBe-Ag (–)
 T. Bil 0.6​ mg/dl  HBe-Ab (–)
 D. Bil 0.1​ mg/dl  HBc-Ab (–)
 GOT 32​ IU/l  HCV-Ab (–)
 GTP 19​ IU/l  HCV-RNA (–)
 γ-GTP 139​ IU/l
 LDH 244​ IU/l  Tumor markers
 BUN 16.5​ mg/dl  CEA 1.9​ ng/ml
 CRE 0.7​ mg/dl  CA19-9 18.1​ U/ml
 Na 140​ mEq/l  AFP 33.6​ ng/ml
 K 4.6​ mEq/l  PIVKA-II 9​ mAU/ml
 Cl 101​ mEq/l

腹部超音波検査所見:辺縁不整な周辺低エコー帯を伴う腫瘍を肝外側区域に認めた.

腹部造影CT所見:肝外側区域の以前に肝膿瘍があった部位に辺縁不整な6 cm大の腫瘍を認めた.

肝動脈造影下CT所見:腫瘍は早期より内部が不均一に造影され,後期相では八ッ頭状の腫瘍の不整な厚い被膜および腫瘍内部の隔壁様構造が強く造影された(Fig. 2).

Fig. 2 

CT during left hepatic arteriography shows a 6-cm tumor in the lateral segment. The tumor was heterogeneously enhanced in the early phase. In the late phase, peripheral area and septum-like structures of the tumor were irregularly enhanced.

上部および下部消化管内視鏡検査に異常はなく,画像所見から混合型肝癌を最も疑い,2007年3月手術を施行した.

手術所見:開腹時,腹水はなく,肝臓は正常肝であった.肝外側区域の腫瘍は漿膜面に露出し,門脈臍部に近接していた.このため左尾状葉含めた肝左葉切除,肝十二指腸間膜内および総肝動脈周囲リンパ節郭清を行った.術中迅速病理診断で左肝管断端に悪性像はなかった.

切除標本:腫瘍は6×4×4 cm,割面の大部分は淡黄色調で,腫瘍辺縁部は凹凸不整であるものの,周囲組織との境界は明瞭であった(Fig. 3a).また,腫瘍辺縁部に瘢痕様の線維成分に富む部分を認めた(Fig. 3b).

Fig. 3 

The cut surface of the resected specimen shows an irregularly circumscribed tumor (a). Sparse scarred tissues can be observed in the peripheral area of the tumor (b, Hematoxylin and eosin stain, original magnification ×10).

病理組織学的検査所見: 腫瘍中心よりやや離れた部位に,腫瘍細胞塊に圧排されるように膠原線維の多い浮腫状の組織や壊死巣が存在していた(Fig. 3b, 4a).腫瘍細胞は,索状配列を呈する高分化から中分化型の肝細胞癌であり(Fig. 4b),肝細胞抗原特異抗体(OCH-IE5)による免疫染色検査で陽性,胆管上皮細胞表面マーカーであるcytokeratin 19の免疫染色検査は陰性であった.血管侵襲や胆管侵襲は認めなかった.また,強拡大観察上,正常肝組織に接する腫瘍辺縁部壊死巣の周囲には索状の肉芽細胞や多核巨細胞が認められ,肝膿瘍に由来する炎症性瘢痕組織と考えられた(Fig. 4c, d).原発性肝癌取扱い規約(第5版)14)に基づく記載では,St-L,6 cm,eg,fc(+),fc-inf(+),sf(+),s1,n0,vp0,vv0,va0,b0,im(–),sm(–),nl,t2,n0,m0,stage IIであった.

Fig. 4 

Microscopic examinations show scarred tissues including fibrous-rich and necrotic components, surrounded by trabecular granulation cells and multinuclear giant cells in the peripheral area of the tumor (a, Hematoxylin and eosin stain, original magnification ×40). (b) The tumor mainly consists of well to moderate differentiated hepatocellular carcinoma cells (×200). Trabecular granulation cells (c) and multinuclear giant cells (d) can be observed around necrotic tissues (×200).

術後AFP値は正常化し,54か月後の現在まで再発なく経過観察中である.

考察

細菌性肝膿瘍の成因は,胆管炎などに伴う経胆道性,消化管の炎症に伴う経門脈性,敗血症などに伴う経動脈性,外傷に伴う二次感染1)のほか,最近では肝悪性腫瘍に対する焼灼術や血管内治療などの治療合併症として発生する医原性のものがある15)~17).いずれにも該当せず,原因不明なものは特発性とされる.悪性腫瘍が原因となる場合は肝胆道系悪性腫瘍が最も多いが18),消化管悪性腫瘍などの悪性腫瘍と肝膿瘍が併存した報告もある18)~20)

肝膿瘍と肝腫瘍との鑑別は決して容易ではないが,近年の画像診断法の進歩により,肝膿瘍を契機に肝細胞癌が発見される症例が散見されるようになった2)~13).「肝細胞癌」,「肝膿瘍」,「hepatocellular carcinoma(英文報告)」,「liver abscess(英文報告)」をキーワードとして,医学中央雑誌は1983年から2010年まで,PubMedは1950年から2010年まで検索し,肝細胞癌の治療経過中に続発した膿瘍形成例を除外すると,肝膿瘍と肝細胞癌が併存した症例報告は11例であった(Table 24)~13).実際,肝細胞癌の約1~2%に膿瘍を伴うとする報告もある2)3).しかし,本症例のように肝膿瘍消退後に期間をおいて膿瘍発生部位に肝細胞癌の発生をみた症例は文献検索をしたかぎりではみられなかった.

Table 2  Case reports of HCC associated with liver abscess
Author (Year) Age Sex Liver background Pathogenic bacteria AFP PIVKA-II Treatment Prognosis
Tezuka (1993)4) 64 F normal Pseudomonas aeruginosa 1.5 <0.06 BSC 3.5 M, dead
Elias (1996)5) 78 F normal Salmonella enteritidis ND. ND. BSC 2 M, dead
Lee (2002)6) 50 M normal Salmonella group B 2164 ND. BSC 1 M, dead
Nomura (2004)7) 54 M HCV not detected normal normal partial resection 20 M, alive
Inoue (2006)8) 87 M normal not detected 3.8 2130 BSC 4 M, dead
Masaki (2007)9) 68 M HCV not detected normal normal partial resection 8 M, alive
Narumoto (2008)10) 64 M normal Klebsiella pneumoniae 215 777 left hepatectomy 7 M, dead
Ooho (2009)11) 73 M normal Escherichia coli 1.9 61 lateral segmentectomy ND.
Chong (2009)12) 35 F normal Escherichia coli normal normal resection alive
Chong (2009)12) 80 M normal not detected normal normal BSC 22 M, alive
Hagiwara (2009)13) 67 M alcoholic cirrhosis Salmonella O9 HG 355.4 ND. BSC 55 days, dead
Our case 75 M normal Klebsiella 33.6 9 left hepatectomy 54 M, alive

ND.: not described, BSC: best supportive care.

これら報告の肝細胞癌発現に伴う肝膿瘍の成因として,①腫瘍による肝門側の胆管閉塞,②腫瘍組織の壊死に伴う感染,③肝内結石症の合併が考えられている2)9)10)21).また,慢性炎症が肝細胞癌の発癌に促進的な因子や微小環境の原因となることは,従来からの肝細胞癌発癌機構として支持されてきた理論22)であり,④膿瘍による慢性炎症により二次的に肝細胞癌が発生した可能性,も考えられる.

本症例では病理組織学的に腫瘍中心からやや離れた部位に線維組織増生を主体とする炎症瘢痕を認めた.瘢痕内部の壊死巣を囲む索状の肉芽細胞(Fig. 4c)や多核巨細胞(Fig. 4d)は肝膿瘍に由来する炎症性瘢痕組織と考えられ13),かつて肝膿瘍が存在した部位が腫瘍近傍に接していたことを裏付ける.今回の病理組織学的検査では,微小癌細胞塊が肝内胆管枝に浸潤し,これを閉塞させることで胆汁鬱滞を起こし,胆道感染に続発した膿瘍を形成した可能性がある12).この後,胆管外に存在したであろう微小原発部位は,画像上膿瘍部瘢痕として腫瘍としては同定されずに放置され,のちに数年の経過をもって癌細胞塊が判別可能な大きさに増大した12)と考えられる.膿瘍の慢性炎症による二次的肝細胞癌発癌の可能性については否定できないが,病理組織診断から上記のような診断とした.肝右葉後区域に発生した肝膿瘍は,抗生剤投与により軽快し再発もなかったことから,外側区域に発生した肝膿瘍により引き起こされた胆管炎による二次性の胆管炎性肝膿瘍と考えられた23)

従来,肝膿瘍を併発した肝細胞癌の予後は極めて悪く,肝切除術を施行できたのは10例中3例のみで,治療法によらず平均3.5か月(全例6か月以内)と報告されていた2).しかし,最近の報告には,患者の全身状態をみきわめたうえでの肝切除術が生存に寄与したと考えられる症例がある(Table 27)9)12).今後の症例の蓄積により,肝膿瘍を合併した肝細胞癌に対する積極的な外科切除の意義が明らかになることを期待したい.

特発性肝膿瘍の診療では,膿瘍が消失,治癒した後も,潜在的な肝腫瘍性病変の存在や膿瘍による慢性炎症による発癌も念頭に置き12),定期的な画像診断と経過観察を行うべきと考えられた.

利益相反:なし

文献
 

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