The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
A Resected Case of Pancreatic Head Cancer Induced Duodenal Penetration and Bleeding During Neoadjuvant Chemoradiation
Norio OkumuraTsutomu FujiiTadao IshikawaSuguru YamadaMasaya SuenagaShin TakedaYasuhiro Kodera
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2013 Volume 46 Issue 4 Pages 282-288

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Abstract

症例は66歳の男性で,CTにて腫瘍径3.0 cmの上腸間膜静脈浸潤をともなう膵頭部癌と診断した.上腸間膜動脈神経叢浸潤が疑われたため,術前補助化学療法(GEM+S-1併用療法)を施行する方針とした.1クール終了後に貧血で来院,上部消化管内視鏡検査にて十二指腸穿通部からの出血を認めた.クリッピングとトロンビン散布にて止血が得られたが,抗癌剤による腫瘍変性からの出血を疑い術前化学療法は中止し,止血から6日後に膵頭十二指腸切除術を施行した.病理組織学的検査所見では穿通部に腫瘍細胞の壊死を認め,化学療法の効果によるものと推察された.第24病日に退院し,術後補助化学療法としてGEM単剤の投与を施行したが,再発を来し術後9か月で永眠された.膵癌に対する術前治療が広まりつつあり,今後,本症例のような穿孔・穿通などのoncologic emergency の機会は増加するものと予想される.

はじめに

膵癌は診断用医療機器が進歩した現在でも,診断時にはすでに手術不能な高度進行癌が多く,予後不良な疾患である.手術後に補助化学療法を行うのが推奨されている1)が,切除例の5年生存率は13.4%と非常に低い2).近年では,NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology3)でborderline resectableと分類される上腸間膜動脈や総肝動脈に浸潤を認める膵癌に対し,術前化学(放射線)療法が試みられている4).今回,我々は術前化学療法中に腫瘍変性・壊死による穿通・出血を来し,その後切除しえた膵癌症例を経験したので報告する.

症例

患者:66歳,男性

主訴:心窩部違和感

既往歴:特記すべきことなし.

現病歴:2010年4月に心窩部の違和感が出現し,6月に近医を受診した.上部消化管内視鏡検査では十二指腸などに異常所見を認めなかったが,腹部CTで膵頭部癌と診断され,当院に紹介受診となった.

腹部ダイナミックCTにて膵頭部癌・上腸間膜静脈(superior mesenteric vein;以下,SMVと略記)浸潤と診断され,上腸間膜動脈神経叢浸潤が疑われた(Fig. 1).リンパ節転移,遠隔転移は認められなかった.臨床病期はPh,cTS2,cT4,cCH(–),cDU(–),cS(+),cRP(+),cPV(+),cA(–),cPL(+),cOO(–),cN0,cM0,cStage IVaでNCCN Clinical Practice Guidelines in Oncologyではborderline resectableに分類された3).化学療法を先行し,その後に手術を施行する方針とした.

Fig. 1 

Enhanced abdominal CT shows the pancreatic head carcinoma 30 mm in size invading to the superior mesenteric vein (arrowheads) and the nerve plexus around the superior mesenteric artery (arrow).

術前化学療法として,gemcitabine(以下,GEMと略記)+S-1療法を開始した(GEM 1,000 mg/m2,day 1・8,S-1 60 mg/m2,day 1〜14,その後1週間休薬)(Fig. 2).これを2クール施行予定であったが,1クール終了時に,経口摂取不良・嘔吐のため当院を緊急受診した.Hb 3.3 g/dlと著明な貧血を認めたため,緊急入院となった.

Fig. 2 

Regimen of preoperative chemotherapy.

入院後経過:消化性潰瘍からの出血を最も強く疑い上部消化管内視鏡検査を施行したところ,十二指腸乳頭の口側で腫瘍が露出しており,腫瘍からの出血が認められた.クリッピングとトロンビン散布により止血が得られた(Fig. 3).化学療法による腫瘍変性・壊死からの穿通・出血を考え,術前化学療法の継続は断念した.その後のCT所見では遠隔転移などを認めず,切除の適応はあると判断し,止血術から6日後,切除術を施行した.術直前のCTでは膵頭部の原発巣は軽度増大していた(Fig. 4).

Fig. 3 

a: Upper gastrointestinal fiberscopy shows an exposed tumor at the oral side of the ampulla of Vater and bleeding from the tumor. b: Temporary hemostasis is achieved with clipping and thrombin administration.

Fig. 4 

Preoperative enhanced abdominal CT reveals a slight enlargement of the tumor (arrows).

手術所見:肝転移・腹膜播種の所見は認められず,腹水洗浄細胞診も陰性であった.腫瘍はSMVの半周以上に浸潤を認めたが,腫瘍と上腸間膜動脈は剥離可能であったため切除可能と判断し,膵頭十二指腸切除術(D2郭清)を施行した.SMVを20 mm切除し,5-0モノフィラメント非吸収糸により2点支持連続縫合にて端々吻合した.SMA神経叢は温存した.腫瘍の存在した部位を中心に腹腔動脈,およびSMAの剥離面を含む範囲に術中照射(7 cm照射筒,照射線量9 MeV,30 Gy)を施行した.手術時間は9時間48分,出血量は890 mlであった(Fig. 5).

Fig. 5 

The resected specimen (a) and the cut surface of the fixed specimen (b) show the duodenal invasion of the tumor.

術後経過:経過は良好で,第4病日に食事を開始し,第24病日に退院となった.術後補助化学療法としてGEM単剤(1,000 mg/m2)の隔週投与を9クール投与したが,腹水の貯留を認め,腹部CTで腸間膜リンパ節転移と腹膜播種を認めた.術後9か月で癌性腹膜炎にて永眠された.病理解剖は施行されなかった.

病理組織学的検査所見:腫瘍細胞は間質の線維化を伴い,不規則な腺管構造を形成して増殖していた.腫瘍は周囲脂肪組織に一部浸潤しており,十二指腸粘膜層に達していた.全体の約20%に線維化・硝子化などの変化が認められ,化学療法の効果と推察された.十二指腸浸潤部は広範囲に腫瘍細胞の浸潤を認めており,穿通部は抗癌剤による腫瘍細胞の変性によって,組織欠損をおこし出血を来したものと思われた.最終病理組織学的診断は,Ph,TS2(3.0 cm),infiltrative type,pT4,pCH(–),pDU(+),pS(+),pRp(+),pPV(+),pA(–),pPL(–),pOO(–),pN1,pM0,pPCM(–),pBCM(–),pDPM(–),R0,poorly to moderately differentiated tubular adenocarcinoma,int,INFβ,ly1,v1,ne2,pStage IVaであった(Fig. 6).

Fig. 6 

a: Pathological findings show necrosis and lack of poor to moderately differentiated adenocarcinoma cells at the penetration site (arrows), possibly resulting from preoperative chemotherapy. b: Fibrosis and hyalinization can be observed in about 20% of the entire tumor (HE ×40).

考察

膵癌に対しては手術のみが根治を得る可能性のある治療法だが,治癒切除された症例においても最終的には90%以上が再発することから,顕在化しない微小転移巣を有することが多いと考えられている.塩酸ゲムシタビンなどによる術後補助化学療法により一定の予後の改善が得られるようになったが,その治療成績は決して芳しいものではない5).そのため近年では,血管浸潤陽性例に対し,化学放射線療法または化学療法を先行する,術前化学(放射線)療法が試みられてきている4)

膵癌診療ガイドライン2009年度版では,膵癌に対する術前治療の有用性を支持する論文が増加傾向にあるものの,これが長期遠隔成績を向上させるか否かについては,今後の臨床試験や研究の蓄積によって明らかにされるべきであるとされている5).術前化学(放射線)療法の利点としては,①術後と異なり血流が保たれているため放射線療法に対する酸素効果が期待できる6).②down-stagingによって切除不能例が切除可能となる6)7),③surgical marginの陰性化によって根治性の向上が期待できる6),④術前治療期間に潜在的な遠隔転移の診断や術前治療に対する効果を評価することができることで不必要な手術を避けることができる5)6)8)9),⑤膵癌切除手術は侵襲が大きいため,全身・栄養状態によっては術後補助化学療法が施行不可能なことがある.また,膵液漏などの術後合併症の発生率も高いため,速やかに補助化学療法を施行できないこともあるが,術前治療はこれらの問題が少ない9),⑥dose intensityを上げることができる可能性がある9)10),⑦癌の進展を抑制し,切除時のviableな癌細胞の遺残・散布の危険性を低下させることにより根治性を向上させることが期待できる8)ことなどが挙げられている.

術前化学(放射線)療法の問題点としては,①切除可能例が,術前化学(放射線)療法中に切除不能となる可能性があること9)11),②有害事象の発生により切除の機会を逸する可能性があること11),③下部胆管癌と膵頭部癌の鑑別が難しい11),④黄疸例では術前化学(放射線)療法の開始前に減黄期間が必要となる11)ことなどが挙げられている.

1983年から2012年1月までの医学中央雑誌と1950年から2012年1月までのPubMedにて「膵癌」,「化学療法」,「穿孔」,「穿通」もしくは「pancreatic cancer」,「chemotherapy」,「perforation」で検索した結果,術前化学(放射線)療法施行中に消化管穿孔・穿通を来した報告は3例のみであったが,それらは全て非切除症例で,本症例のように病理組織学的所見を確認しえた報告を認めなかった(Table 112)~14).近年,さまざまな癌種において,新規抗癌剤や多剤併用療法の開発により奏効率の上昇と生存期間の延長が得られている.今後,化学療法中や経過中に,消化管穿孔・穿通,出血,狭窄による腸閉塞のようなoncologic emergency の機会は増加するものと予想される.化学療法中に消化管穿孔・穿通を来す機序として,①高度な粘膜障害や腸管壁の萎縮,②腫瘍の増大・進展,③抗腫瘍効果による腫瘍部位の壊死,などが挙げられる15)~17).本症例では原病巣を切除しえたため,膵癌組織壊死による穿通という貴重な病理結果を得ることができた.

Table 1  Reported cases of pancreatic cancer with gastrointestinal perforation during chemotherapy
Case No. Author Year Age/Gender Tumor Location Pre-chemotherapy Stage Chemotherapy Perforated organ Response Histology Prognosis
1 Okamoto12) 2007 67/F Tail IVb GEM transverse colon PR adenocarcinoma (unresectable) 6 month death
2 Tada13) 2007 62/M Head IVb GEM+S-1 duodenum PR adenocarcinoma (unresectable) 9 month death
3 Oshiro14) 2009 54/M Tail IVb GEM transverse colon PR adenosquamous carcinoma (unresectable) 7 month death
4 Our case 66/M Head IVa GEM+S-1 duodenum SD poorly diff. adenocarcinoma (resectable) 9 month death

GEM; gemcitabine, PR; partial response, SD; stable disease

現在,特に切除境界膵癌に対して術前補助化学(放射線)療法が積極的に試みられている.比較的良好な成績が報告されてきており18),今後同治療はより広まっていくものと予想される.本症例のような同治療中の膵癌の穿孔・穿通は留意すべき合併症であると考えられた.

最後に,病理組織学的ご指導を賜りました当院臓器病態診断学・下山芳江先生に深謝いたします.

利益相反:なし

文献
 

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