The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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ORIGINAL ARTICLE
Comparison of Paraumbilical Incision and Umbilicus Incision for Surgical Site Infection in Laparoscopic Colorectal Surgery
Hajime ImamuraFumihiko FujitaYusuke KawakamiDaisuke KawaharaTakehiro MishimaYusuke InoueKengo KanetakaMitsuhisa TakatsukiTamotsu KurokiSusumu Eguchi
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2013 Volume 46 Issue 4 Pages 237-242

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Abstract

目的:近年,生理的瘢痕である臍を利用した腹腔鏡手術が報告されており,当科においても2010年1月より腹腔鏡補助下大腸切除術の第一トロカー挿入に臍切開法を導入した.この切開法では術後,臍切開部に浸出液貯留を認める症例をいくつか経験したため,創部感染の有無についてsurgical site infection(以下,SSIと略記)の観点より検討を行った.対象:2007年12月から2012年2月に行われた腹腔鏡下大腸切除術100例を対象とした.方法:臍周囲を切開した50例をA群,臍部を切開した50例をB群とし,術後創部からの浸出液の有無を検討した.また,B群のうち2011年5月以降の症例の20例については執刀直前に臍部より細菌培養を行い,術後も浸出液の有無にかかわらず培養検査を行い感染源の同定を試みた.結果:A群4例(8%),B群9例(18%)に術後創部からの浸出液を認めた.B群にて術後創部の培養を行ったもののうち1例にて浸出液を認め,細菌培養結果陽性であった.しかし,術前の培養にて陽性であった症例ではいずれも術後培養では陰性という結果であった.また,検出菌に関しては全て皮膚常在細菌であり術中の大腸切除手術操作に伴うSSIは認めなかった.結語:臍切開法はSSIの観点から問題なく,整容面においても優れた手技であると考える.

はじめに

近年,生理的瘢痕である臍を利用した腹腔鏡下手術が報告されている1)~3).当科では2010年1月より腹腔鏡下大腸切除術における第一トロカー挿入時に臍切開法を導入した.しかし,この臍切開法では術後,臍の創部より浸出液を認める症例を時々経験する.今回,我々は臍切開法についてsurgical site infection(以下,SSIと略記)の観点から検討を行った.

対象と方法

2007年12月から2012年2月までに当科にて施行した腹腔鏡補助下大腸切除術100例を対象とした.第一トロカーを挿入する際に臍上もしくは臍下に切開を加えた50例(A群)と,2010年1月より導入した臍切開法50例(B群)に分類し,浸出液の有無により比較検討した.また,B群のうち2011年5月以降の症例の20例については執刀直前に臍部より細菌培養を行い,術後も浸出液の有無にかかわらず培養検査を行い感染源の同定を試みた.

臍切開法

全例において術前,看護師による臍部清掃を行った.オリーブ油含んだ綿球を臍部に10分ほど留置し,その後に綿棒にて臍内深部まで清掃を行う方法である.また,第一トロカーの挿入はHasson techniqueにて行った.

麻酔導入後にイソジンにて3回腹部全体を消毒したのちに臍部皮膚左右をコッヘルにて軽く把持し,挙上できた皮膚部分を尖刃にて縦に切開する.この操作により約12 mm長の皮切が形成され,12 mmのトロカー挿入に適度な大きさとなる.また,この時,臍の最も深い部分より綿棒にて執刀直前の培養検体を採取し,術前細菌培養へ提出した.皮下を更に電気メスにて切開をすすめ,皮下脂肪識が露出された時点で皮下をコッヘルにて把持し直す.皮下脂肪織を薄く電気メスにて切開し,長ペアンにて腹膜を貫き腹腔内へ到達する.筋鉤にて腹腔内であることを確認し,12 mmの第一トロカーを挿入する.この操作では,腹壁を縫合糸で固定する必要がないため,我々はHasson typeのトロカーは使用しない.手術終了時の閉腹操作では腹膜筋膜のみ0号のモノフィラメント吸収糸にて縫合し,臍の部分は皮下縫合を行わず綿球による圧迫を行う.その他の部位については4-0モノフィラメント吸収糸で埋没縫合している.

結果

臍切開法における臍部の創は治癒過程にて臍深部方向へ収縮していき,切開創はほとんど目立たなくなった(Fig. 1a, b).

Fig. 1 

a: The postoperative scar of the umbilicus (arrow) becomes inconspicuous during the healing process. b: Usual trocar placement for laparoscopic right side colectomy. ①, ② consist of 12 mm trocars and ③, ④, ⑤ 5 mm trocars. ① is the first inserted trocar site and 12 mm longitudinal incision is made at the umbilicus.

術後に臍部の創に浸出液を認めた症例(Fig. 2)はA群において50例中4例(8%),B群においては50例中9例(18%)に認められたが,両群間に有意差は認めなかった(P=0.233).B群の1例に術後細菌培養にてBacteroides thetaiotaomが検出されたが(Table 1, case No. 20),その他の症例では浸出液があっても菌の検出は認めなかった.

Fig. 2 

Serous fluid collection is recognized on the umbilicus scar around the brown pledget after surgery.

Table 1  The incidence of fluid collection on scars and culture results
Case No. Preoperative Postoperative
Culture Fluid collection Culture
 1
 2 +
 3
 4 Citrobacter koseri
 5 Propionibacterium acnes
 6
 7 Pseudomonas aeruginosa
 8 Stenotrophomonas maltophilia
 9 Staphylococcus epidermidis
10 Citrobacter koseri
11 Enterobacter aerogenes
12
13
14
15
16
17
18 +
19 Staphylococcus epidermidis
20 + Bacteroides thetaiotaom

Twenty cases in the umbilicus incision group were investigated for bacterial culture from their umbilicus pre- or postoperatively.

B群において執刀前に行った培養では20例中8例が細菌培養陽性であった(Table 1).菌種については,Staphylococcus epidermidis(2例),Citrobacter koseri(2例),Enterobacter aerogenesStenotrophomonas maltophiliaPseudomonas aeruginosaPropionibacterium acnesであった.しかし,同症例の術後培養検査において培養陽性となった症例は1例も認めなかった(Table 1, case No. 4, 5, 7–11, 19).臍部に常在していた菌による創部感染は認めなかった.

考察

臍は胎生期に臍帯にて母胎とつながり,出生後の臍帯切断に伴い残組織が壊死,脱落した生理的瘢痕である.近年,整容性を追求する理由からこの生理的瘢痕である臍部を利用した術式が工夫されるようになり,single incision laparoscopic surgery(SILS)1),transumbilical single-port surgery(TSPS)2),embryonic natural orifice transumbilical endoscopic surgery(E-NOTES)3)などが報告されている.実際にこれらの手技を用いて胆囊摘出術4),虫垂切除術5),腎臓摘出術6)などが施行されており,その適応は広がりつつある7)8)

しかしながら,本邦では従来より,正中切開法を含め臍部の切開は避け左右によけて皮膚切開を行うことが多く,その理由として臍内部は不潔であり術後創感染のリスクが増すものであると考えられてきた.

当科では従来より腹腔鏡下大腸切除術の第一トロカー挿入時には臍上もしくは臍下に切開を行っていたが,2010年1月より臍部を縦に切開する臍切開法を導入した.術中操作,術後管理含め現在までに特に問題はないが,術後に創部からの浸出液を認める症例を数例経験した.しかし,この浸出液の性状は膿性ではなく漿液性であり,発赤や疼痛のような創感染の経過をとっていない.明らかな感染徴候は認めなかったが,臍切開法とSSIの発生について検討を行った.

SSIは手術部位感染と訳され,深さにより表層切開創,深部切開創,臓器・体腔と分けて定義されている.臍部のSSIは表層切開創に分類され,その定義は感染が術後30日以内に発生し切開創皮膚と皮下組織に及び,さらに以下のうち一つ以上に当てはまり,1.表層切開創からの膿性排液,2.切開創表層から無菌的に採取した検体からの病原体の検出,3.感染徴候(疼痛,圧痛,腫脹,発赤,熱感)がある.また,主治医により創が開放された場合,4.主治医により表層切開創SSIと診断された場合,といった項目を診断の条件としている9).臍切開法に伴うSSIの発生は表層切開創に分類されると考えられる.大腸癌手術におけるSSIに関与する危険因子として過去の報告では,BMI高値,低アルブミン血症,ハルトマン手術,術後低血圧,術後低体温,喫煙,糖尿病といったものが挙げられている10)11)が,臍切開がSSI発生の因子となりうるかを検討した報告は検索しうるかぎりでは認めなかった.本検討での浸出液貯留症例のSSIとの関連について,定義上は1例にて菌検出を認めたためSSIにあてはまるが,臨床上は感染徴候を認めず特別な処置は必要としなかった.本検討の結果を踏まえると,臍切開法はSSI発生のリスクファクターとは関連を認めないものと考えられる.

当科での術後創部管理であるが,臍部切開創に綿球を置きドレッシング材にて密封被覆し管理を行っている.密封による湿潤環境により浸出液貯留が助長された可能性もあるが,本検討においては浸出液貯留を認めない症例が大多数であり,また浸出液から手術操作が原因と思われる菌の検出は認められなかった.

執刀直前の培養結果では,検出菌種としては皮膚常在菌,腸内細菌群が検出されたが術後のSSI発症との関連は認められず,常在菌が存在していたとしても特に臍切開と術後創感染とは関係しないものと考えられる.ただし,これらの症例においては術前に看護師により臍部清掃処置が行われており,臍内深部の残屑除去はSSI防止の一助となっている可能性はある.

整容面においては,治癒過程での創部収縮に伴い本来の陥凹を伴う形状へと復することより,美容上優れた術式であると考えられる.臍縦切開はSSIの観点,整容面から問題なく施行でき,一般的な腹腔内到達経路としてその適応は拡大していくものと考えられる.

利益相反:なし

文献
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  • 3)   Desai  MM,  Stein  R,  Rao  P,  Canes  D,  Aron  M,  Rao  PP, et al. Embryonic natural orifice transumbilical endoscopic surgery (E-NOTES) for advanced reconstruction: initial experience. Urology. 2009 Jan;73(1):182–187.
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