The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
A Case of Ileocecal Actinomycosis after Chemoradiation for Uterine Cervical Cancer
Naoya KawakitaYasuo FukuiKazuyuki OishiAkihito KodukiFuminori TeraishiKazuhide OzakiToshio NakamuraMadoka HamadaYasuo ShimaToshikatsu Taniki
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2013 Volume 46 Issue 5 Pages 377-384

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Abstract

腹腔内放線菌症において回盲部は好発部位であるが,その合併疾患により,診断・治療に難渋することがある.今回,子宮頸癌に対する化学放射線療法後に発症した回盲部放線菌症の1例を経験した.患者は46歳の女性で,2009年7月に子宮頸癌に対して,化学放射線療法を施行した.その後の経過観察中,2010年5月のPET/CTで骨盤内リンパ節および,上行結腸背側に集積を認め,ともに再発を疑った.右下腹部痛を主訴に6月当院救急外来を受診した.同日のCTで虫垂先端が上行結腸背側で腫瘤を形成し,同部を機転に盲腸は拡張を認め,採血上炎症反応高値を呈していた.子宮頸癌の転移もしくは虫垂周囲膿瘍と診断し,腹膜刺激症状を呈していたことから,緊急で回盲部切除を施行した.病理組織学的検査で放線菌症と診断されたため,アンピシリンの内服を開始した.半年間継続し,同時に子宮頸癌再発に対する化学療法も行ったが放線菌症の再発なく経過した.

はじめに

回盲部放線菌症は腹腔内放線菌症の好発部位であるが,その合併疾患によりしばしば診断・治療に難渋することがある1)~3).今回,子宮頸癌に対する化学放射線療法後に発症した回盲部放線菌症に対し緊急手術および抗菌薬治療を行い,良好に経過した1例を経験したので報告する.

症例

患者:46歳,女性

主訴:右下腹部痛

既往歴:子宮頸癌に対して化学放射線療法

現病歴:2009年7月に子宮頸癌Stage IIIb期と診断され,その後,weeklyパクリタキセル+シスプラチン療法と同時放射線療法を9月まで施行された.同時に水腎症も来しており,両側尿管ステントを留置されていた.その後は外来にて経過観察を行っていた.2010年5月(入院21日前)のPET/CTで,子宮頸癌の治療前から腫大していた左内腸骨動脈周囲のリンパ節の再増大とFDGの集積を認め遺残再発と判断し,さらに上行結腸背側にFDGの集積を認め子宮頸癌の転移もしくは炎症性変化が疑われた(Fig. 1).入院11日前に大腸内視鏡検査を施行したが癒着のためS状結腸までしか内視鏡挿入ができず上行結腸の病変は確認できなかったが,臨床的に再発を疑い化学療法を開始する予定であった.5日前からの右下腹部痛を主訴に2010年6月某日当院救急受診した.

Fig. 1 

PET/CT findings in May 2010. Abnormal accumulation of FDG in the dorsal side of the ascending colon (a) and pelvic lymph nodes (b).

入院時現症:身長148 cm,体重39 kg.体温37.5度,心拍数65回/分,血圧96/52 mmHg.触診では右下腹部に拡張した腸管を触知し,腹膜刺激症状を伴う強い圧痛を認めた.排ガスは認めるものの,5日間排便は認めていなかった.嘔気は軽度で,嘔吐は認めなかった.

入院血液検査所見:WBC 8,840/μl,RBC 3.23×106/μl,Hb 9.2 g/dl,CRP 15.1 mg/dlと軽度の貧血,CRP高値を認めた.その他生化学および腫瘍マーカのCEA,CA19-9,SCC,CA125は正常であった.

腹部CT所見:2010年5月のPET/CTの撮影時点で,すでに虫垂先端に含気を伴う拡張を認めていたが,サイズが小さく,上行結腸と接していたことから,その時点では指摘できなかった(Fig. 1).救急受診時の腹部造影CTでは虫垂根部は壁肥厚なく明瞭に追えたが,先端部は上行結腸背側に位置し,内部に含気を有する壁肥厚を認め,虫垂先端部での膿瘍形成を疑った.膿瘍により上行結腸は腹側に圧排され,同部より口側の盲腸の拡張と,内部の液体貯留,および壁の肥厚を伴っており,上行結腸での狭窄を疑った.また,小腸は全域にわたり軽度の拡張と壁の肥厚を認め,腹水貯留も認めた(Fig. 2).

Fig. 2 

Abdominal enhanced CT on the day of surgery shows the periappendiceal abscess on the distal appendix (a, arrow). (b) Normal size of proximal appendix (arrowheads), and dilation of the cecum.

以上より,虫垂炎および虫垂周囲膿瘍による限局性腹膜炎の診断にて同日緊急開腹手術を施行した.

手術所見:開腹所見では少量の黄色透明腹水を認め,小腸は全体に浮腫状であった.盲腸は強い拡張を認めていたが,壁は浮腫状に肥厚し穿孔は認められなかった.虫垂根部は腫脹なく同定可能であったが,上行結腸背側を頭側に向かって走行し,後腹膜に固定していた.先に上行結腸を外側から授動すると,黄色の壊死物質が流出し,膿瘍腔が開放された.膿瘍内容を可及的に除去すると,膿瘍壁に接してやや浮腫状の虫垂を認めたが,虫垂自体は先端まで破壊を認めず漿膜面も保たれていた.膿瘍に接する上行結腸は壁外性に圧排狭窄しており,授動後に盲腸を圧迫して腸管内容液を肛門側に押し出したが,抵抗があり狭窄による通過障害があると考えられた.そのため,狭窄は不可逆性と考え回盲部切除を施行した.切除標本は盲腸から上行結腸にかけて強い浮腫を認めたが粘膜面には明らかな潰瘍性病変は認めなかった.虫垂先端が位置していた上行結腸背側には硬い腫瘤性病変があり同部は最も浮腫の影響が強く,著明に狭窄していた.虫垂内腔には膿瘍や粘膜脱落などの所見を認めなかった(Fig. 3).

Fig. 3 

Periappendiceal abscess is opened. Xanthochromatic necrotic materials are seen on the ascending colon and there is no swelling in the appendix.

病理組織学的検査所見:上行結腸の粘膜面には異常を認めなかったが,膿瘍壁の存在する上行結腸背側を主体として粘膜下層にはリンパ管の拡張と強い浮腫を認めた.筋層から漿膜下層および漿膜にかけて,組織破壊性に好中球を中心とした炎症細胞浸潤を認め,多数の膿瘍を形成していた.膿瘍内に放線菌塊を認めており,放線菌症と診断した.虫垂は粘膜下層に浮腫を認めるものの,粘膜面には異常を認めず,筋層および漿膜下層に軽度の炎症細胞浸潤を認めたが,筋層,漿膜の破壊は認められなかった(Fig. 4).

Fig. 4 

(a) Histopathological findings show acute inflammatory cell infiltration on the serous surface and abscess formation (H.E ×100). (b) Hyphae-like actinomyces strings in the abscess (×400).

術後経過:術後7日目に病理組織学的検査結果が判明し回盲部放線菌症と診断した.膿瘍壁を含めた完全切除はできていなかったことから菌は残存していると考えられ,アンピシリン(aminobenzyl penicillin;以下,ABPCと略記)の内服を開始し,術後27日目に退院となった.術後86日目より子宮頸癌の再発に対してCPT-11+ネダプラチン(3週毎)による化学療法を併用したが,放線菌症の画像上の増悪はなく,ABPCは術後6か月で終了した(Fig. 5).抗菌薬終了後2か月の時点で傍大動脈リンパ節転移の出現を認め,化学療法をドセタキセル+カルボプラチン療法に変更し,1年間抗癌剤治療を継続しているが,画像上放線菌症の再発を認めていない.

Fig. 5 

Postoperative abdominal CT at (a) 2 months and (b) 8 months. Retroperitoneal inflammation subsided with time.

考察

放線菌症は口腔内,消化管に常在するグラム陽性嫌気性菌であるActinomyces israeliiによる感染症である.通常侵入性は弱く,齲歯や消化管の潰瘍部,炎症部位など粘膜バリアの破綻した部位から侵入し感染が成立する3)4).腹部放線菌症の誘因としては,虫垂炎,消化管穿孔,憩室炎,消化管潰瘍,消化管手術に加えて逆行性感染としての子宮内避妊具留置も誘因となるといわれる5)~7).好発部位は横行結腸(35%),回盲部(33%)で,症状は腫瘤触知,腹痛,発熱が高頻度に認められた8).本症例においては,上行結腸の狭窄による盲腸の拡張と,同部の腹膜刺激症状により緊急手術を行った.通常,右側結腸に好発することから狭窄症状は出現しにくいと考えられるが,高度な膿瘍形成が,特に上行結腸の筋層から漿膜下層まで破壊性に及んでおり,さらに炎症による粘膜下層の強い浮腫のため,狭窄を呈していたものと考えられる.

今回の感染の誘因に関しては,虫垂炎,憩室炎や粘膜破綻はみられず,子宮内避妊具留置の既往もなかった.腹部骨盤領域での化学放射線療法後の放線菌感染症の報告はこれまでに見られないが,Vikramら9)は食道癌に対する化学放射線療法後に,Abdallaら10)は肺癌に対する化学放射線療法後に発症した食道放線菌症の症例を報告しており,頭頸部癌領域において,Liuら11)は化学放射線療法後の顎骨壊死部への感染の報告が認められる.また,糖尿病患者において,組織の整合性の乱れから放線菌感染の誘因となることが報告されているように2),粘膜障害を来す可能性のある放射線,抗癌剤は感染の誘因となると考える.一方で,放線菌感染は日和見感染とは考えられておらず,HIV(human immunodeficiency virus)感染患者における感染頻度は増加しないため12)13),抗癌剤による骨髄抑制のみでは感染の誘因とはならないと思われる.しかし,井原ら1)は,大腸癌術後に経過観察中に出現した多発腹腔内腫瘤に対して,播種再発を疑って抗癌剤治療を施行したところ急速に増大し疼痛が出現したため切除施行したところ放線菌症であったという症例を報告している.この報告から感染成立後の抗癌剤治療は増悪させる要因となる可能性があると思われる.

感染の時期について考察するうえでは,放線菌が粘膜バリアの破綻した部位から侵入した時期と,画像上膿瘍が捉えられる感染成立の時期を分けて考える必要がある.本症例では,2010年5月のPET/CTでは虫垂先端部に一致した膿瘍形成を認めており,その時点で感染は成立しており,放線菌の進入はそれ以前であると考えられる.放線菌の侵入から画像上の感染成立までの期間をこれまでの報告から検討するために,放線菌の侵入した時期が明確である消化管手術後に放線菌症を発症した症例を検索した.医学中央雑誌で2000年から2012年までで会議録を除いて「放線菌症」,「腹部」,「術後」を検索ワードに69件を検索した.そのうち,消化管手術の後に腹部放線菌症を発症した症例は7例認めた.消化管手術を放線菌の侵入時期,放線菌症の診断を感染成立時期とすると,進入から感染成立までの期間はそれぞれ,1か月,6か月,8か月,21か月,10年,13年,43年と大きな開きがあった.宿主の免疫状態や抗菌薬の使用歴などがその期間に影響を与えているとも考えられるが,長期の経過中に別の侵入要因が生じている可能性もある.短期間のものでは数か月での発症の報告が見られることから,通常は放線菌の侵入から,感染成立までは数か月程度ではないかと考える.本患者における発症数か月以内のイベントとしては子宮頸癌に対する化学放射線療法があり,感染の時期の点からも,化学放射線治療が感染の誘因になったものと考えられる.

Todd14)は放射線腸炎を早期障害と,晩期障害に分類した.前者は治療開始後1~2週間以内から,照射終了後6週間以内に見られる粘膜上皮のびらんで可逆性であるが,後者は治療終了後平均6か月で見られる不可逆性の潰瘍や線維化である.また,早期障害は30~75%の症例で見られ,晩期障害は2~20%に認められるとされる15)

本症において,放射線腸炎の晩期障害を疑う所見は病理組織学的検査所見からは認めなかったが,膿瘍の主座は上行結腸の漿膜下層から筋層に見られており,早期障害による上行結腸の粘膜障害から放線菌が侵入し感染成立したものと考えた.

今回,子宮頸癌再発の検索のためにPET/CTを施行し,偶然にも膿瘍を異常集積として捉えられているが,炎症,悪性腫瘍との鑑別は難しく,特に癌が合併している状況下では,質的診断にPET/CTは有効でないと考えられる16)17).今回,施行はしなかったが,放線菌症に対するMRIの知見は少数ではあるものの,Hawnaurら18)はT1強調像で等信号,T2強調像で充実部は低~等信号,膿瘍部では高信号を呈すると報告し,福永ら19)は,T1強調で均一な低信号,T2強調像で内部に低信号隔壁を有する不均一な高信号,ガドリニウム造影で不均一な造影を呈することを報告している.画像通常の転移リンパ節がT1強調像で等信号,T2強調像で等~高信号を呈することを考慮すると,本症の鑑別に有用であった可能性がある.また,画像診断での確定は困難であっても,MRIにより付加された所見により,転移以外の可能性を考慮できれば,Leeら20)が報告しているようにCTガイド下のcore needle biopsyにより診断できたかもしれない.狭窄を呈する前に適切な診断と抗菌薬投与が開始できれば切除術を回避できた可能性はあったと考えられた21)

放線菌症に対する治療方針としては,壊死物質を含めた外科的切除と術後のペニシリン系抗菌薬が基本的治療であるが,抗菌薬のみの治療の可能性や,完全切除が得られれば,術後の抗菌薬が不要との考え方もある17)21).太田ら22)は本邦における回盲部放線菌症170例の検討から,3%に再発を認めたとし,その再発時期は9日~4年6か月であったと報告している.不完全切除時の術後抗菌薬の至適投与期間に関する一致した見解はみられないが,投与期間が短いと再発率が高いとされており,本邦での報告も平均26.3週であった22)23).本症においては,十分な切除が得られていない可能性があったことや,その後に抗癌剤治療が必要であり,放線菌症再発により治療が中断される可能性を懸念して,ABPCの半年間投与を行った.

放線菌症は癌との鑑別が問題となり切除された結果放線菌症と診断される報告例が大半を占め,実際癌を合併し同時に治療を行った報告は,医学中央雑誌で1983年から2011年12月までで会議録を除いて「放線菌症」,「癌」で検索しえた208件のうち,病理組織学的に放線菌症と癌を同時期に合併していたのは4例のみであった(Fig. 624)~27).そのうち井出ら26),林ら25),長岡ら24)の報告の3例は放線菌症と診断した肺結節に対して抗菌薬治療を行い,結節が残存するため切除し癌を合併していたことが判明した症例であり,手術により癌,放線菌ともに治療が終了している.奥田ら27)の報告では左肺野の放線菌症の治療中に右肺野の肺癌が見つかり別部位ではあるものの抗菌薬治療と放射線治療を併用し,いずれも経過良好であった症例を報告しており,放射線との併用下でも抗菌薬治療により放線菌も同時治療可能と考えられる.我々の症例では,子宮頸癌の遺残再発と同時期の放線菌症に対して,放線菌症に対しては切除とその後6か月の抗菌薬投与を行い,子宮頸癌に対しては抗癌剤投与を抗菌薬投与と併用して行い,放線菌症の再発なく抗癌剤治療を継続できた.活動性感染症の存在下での癌化学療法の問題点として,抗癌剤投与下での骨髄抑制期における感染症の増悪・再燃の懸念がある.活動性結核患者に悪性腫瘍を合併した報告によると28),抗結核薬と抗癌剤の治療を同時に行い大部分が菌の陰性化を得られており,安全に同時治療が可能であったと報告されている.一方で福岡ら29)は,肺非結核性抗酸菌症の治療中に,肺癌に対する抗癌剤治療を行ったところ,抗酸菌症の再燃を来した症例を報告し,感染症合併下での抗癌剤治療には十分な注意が必要と述べている.また,近年では抗癌剤や免疫抑制剤投与によりB型肝炎ウイルスキャリアにおいてウイルスが再活性化することが問題視され,抗癌剤投与時には積極的に核酸アナログ製剤を投与して再活性化を避けることが必要であるとされており30),抗癌剤投与中のウイルス,細菌の再増殖抑制には適切な抗菌薬,抗ウイルス薬の投与を考慮する必要があると考える.

Fig. 6 

Reported cases of therapy for actinomycosis and synchronous carcinoma. Ab: anitimicrobial therapy, Ac: anticancer drug therapy, RT: radiotherapy, CRT: chemoradiotherapy, *: surgery

白血病治療のような強力な抗癌剤治療をはじめとして,その他の抗癌剤の併用において同じように放線菌症の再発なく治療できるかどうかは本症例のみでは不明であるが,近年,大腸癌,子宮癌を含め,再発症例においても抗癌剤投与により長期生存が認められるようになってきており,今後同様に抗癌剤投与下での放線菌治療を必要とする症例も生じるものと考えられる.放線菌症再発による抗癌剤治療の中止を抑えるために,放線菌感染下での抗癌剤治療は術後6か月程度の抗菌薬長期投与が勧められる.

利益相反:なし

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