2013 Volume 46 Issue 5 Pages 369-376
早期胃癌術後に発症したデスモイド腫瘍の2例を報告する.症例1は66歳の女性で,胃癌に対して幽門側胃切除,D2リンパ節郭清術が施行された.病理組織学的検査結果はpT1a (m) pN0cM0,pStage IAであった.術後1年目のCTで残胃大彎側に腫瘍を認め,PETでは淡い集積を認め,胃癌の再発を否定できず腫瘍摘出術を行った.病理組織学的検査でデスモイド腫瘍と診断された.症例2は72歳の女性で,胃癌に対して幽門側胃切除,D2リンパ節郭清術が施行され,病理組織学的検査結果はpT1a (m) pN0cM0,pStage IAであった.術後16か月目のCTにて残胃大彎側に腫瘍を認め,PETでは淡い集積を認めた.腫瘍摘出術を行い,病理組織学的検査でデスモイド腫瘍と診断された.胃癌術後のデスモイド腫瘍は,胃癌再発との鑑別が困難である.胃癌術後の腹腔内腫瘍で,胃癌再発のリスクが少ない場合には,腫瘍切除による組織学的な診断が必要である.
デスモイド腫瘍は組織学的には良性であるが,浸潤性に増殖し,局所再発を来すため良悪性境界腫瘍に位置づけられている1).特徴的な画像所見に乏しく,術前診断は困難であることが多い.今回,早期胃癌術後に発生し,胃癌再発との鑑別を要した腹腔内デスモイド腫瘍の2例を経験したので,そのfluorodeoxyglucose-positron emission tomography(以下,FDG-PETと略記)の所見をあわせて報告する.
症例1:66歳,女性
既往歴:15歳時に急性虫垂炎にて虫垂切除術を施行された.
現病歴:胃癌(T1bN1M0)の診断にて幽門側胃切除,D2リンパ節郭清,Billorth I法による再建が施行された.病理組織学的検査結果はM,post,12×6 mm,por-sig,pT1a (m),ly0,v0,pN0,cM0,pStage IAであった.術後1年のCTにて,残胃大彎側に直径31 mmの腫瘍を指摘され,胃癌の再発を疑い入院となった.
血液検査所見:CEA 1.6 ng/ml,CA19-9 6.8 U/mlといずれも基準値範囲内であった.CEA,CA19-9ともに胃癌術前より基準値範囲内であり,術後経過で高値となることもなかった.
腹部造影CT所見:術後6か月の検査では残胃大彎側の腫瘍は最大径8 mmであった(Fig. 1A).徐々に増大し,術後12か月では31 mmに増大していた.全体に淡い造影効果を有していた(Fig. 1B).

A: Abdominal CT shows an 8-mm tumor close to the residual stomach (arrow). B: Six months later, the tumor size increases to 31 mm (arrow).
腹部造影MRI所見:腫瘍はT1強調画像で脾臓とほぼ等信号(Fig. 2A),T2強調画像では不均一な高信号を示していた(Fig. 2B).造影では早期から不均一に濃染し,後期では均一に強く濃染した.

A: A T1 weighted image of abdominal MRI shows a tumor whose intensity is homogenous and similar to the spleen (arrow). B: The tumor is heterogenous in a T2 weighted image (arrow).
FDG-PET所見:腫瘍に一致してstandard uptake value max(以下,SUV maxと略記)3.1のFDGの集積を認めた(Fig. 3).その他の部位に転移あるいは再発所見は認めなかった.

PET image shows a focal FDG uptake in the tumor (arrow).
上部消化管内視鏡検査所見:残胃内に腫瘍性病変を認めなかった.経胃的に施行した超音波内視鏡検査では,腫瘍は全体的には高エコーで,内部に不均一な低エコー領域を伴っていた.
下部消化管内視鏡検査所見:腫瘍性病変や大腸ポリポーシスの合併を認めなかった.
早期癌の術後であり,胃癌再発の可能性を否定できなかったが,他疾患の可能性を考慮したうえでの診断的治療目的の手術を行う方針とした.開腹時にダグラス窩,左横隔膜下より腹水洗浄細胞診を施行したが結果は陰性であった.腫瘍は残胃と脾臓との間に位置し,悪性を疑う浸潤所見は認められなかった.腫瘍を切除し迅速病理組織学的診断に提出したところ,悪性細胞は認めなかったため,腫瘍の切除のみで手術を終了とした.
摘出標本:腫瘍の大きさは32×23×24 mmであった.表面平滑,弾性硬な充実性腫瘍で,割面は白色から灰白色であった(Fig. 4).

Macroscopically, the tumor is approximately 3 cm in diameter. The cut-surface is grey and solid.
病理組織学的検査所見:紡錘形の腫瘍細胞が膠原線維束を介して束状に増殖しており,核分裂像はほとんど認められなかった(Fig. 5).免疫染色検査ではCD34陰性,KIT陰性,α-SMA陰性,S-100陰性,MIB-1 indexは2.1%であった.以上より,デスモイド腫瘍と診断された.

HE staining. Histopathologically, the tumor is composed of spindle-shaped atypical cells with round nuclei and the tumor cells multiply in the stroma with collagen fibers.
術後経過良好で退院し,現在術後18か月目で胃癌,デスモイド腫瘍ともに再発兆候を認めていない.
症例2:72歳,女性
既往歴:70歳時に左鼠径ヘルニアに対してヘルニア根治術を施行された.
現病歴:胃癌(T1bN1M0)の診断にて幽門側胃切除,D1+リンパ節郭清,Billorth II法による再建が施行された.病理組織学的検査結果はL,less,12×23 mm,tub2-por2,pT1a (m),ly0,v0,pN0,cM0,pStage IAであった.術後16か月のCTにて残胃大彎側に腫瘍を認め,胃癌の再発を疑い入院となった.
血液検査所見:CEA 2.1 ng/ml,CA19-9 6.0 U/mlといずれも基準値範囲内であった.CEA,CA19-9ともに胃癌術前より基準値範囲内であり,術後経過で高値となることもなかった.
腹部造影CT所見:残胃大彎側の腫瘍は術後16か月目のCTでは最大径30 mmで,その1か月後のCTでは43 mmと増大傾向を示していた(Fig. 6).腫瘍はごく淡い造影効果を伴っていた.

A: Abdominal CT shows a 30 mm enhanced lesion close to the residual stomach (arrow). B: One month later, the tumor size increases to 43 mm (arrow).
FDG-PET所見:腫瘍に一致してSUV max 4.3のFDGの集積を認めた(Fig. 7).その他の部位に再発を疑う所見は認めなかった.

PET image shows a focal FDG uptake in the tumor (arrow).
上部消化管内視鏡検査所見:残胃内に再発を疑う所見は認めなかった.
下部消化管内視鏡検査所見:腫瘍性病変,大腸ポリポーシスの合併などは認めなかった.
他疾患の可能性を考慮したうえでの診断的治療目的の手術を行った.腫瘍は残胃と脾臓との間に存在したが,両者との間に癒着はほとんど認められなかった.腫瘍を摘出し,迅速病理組織学的診断に提出したところ,低悪性度の軟部腫瘍疑いとの結果であったため,腫瘍の切除のみで手術を終了とした.
摘出標本:腫瘍の大きさは60×58×40 mmであった.表面平滑,弾性硬な充実性腫瘍で割面は白色から黄白色であった.
病理組織学的検査所見:腫瘍は紡錘形の細胞が膠原線維束を介して束状に増殖しており,核分裂像はほとんど認めなかった.免疫染色検査ではCD34陰性,KIT陰性,α-SMA陰性,S-100陰性,MIB-1 indexは2%以下であった.以上より,デスモイド腫瘍と診断された.
術後経過良好で退院となり,現在術後20か月となるが,胃癌,デスモイド腫瘍ともに再発兆候を認ていない.
デスモイド腫瘍は高分化な線維芽細胞様の腫瘍細胞の増殖,細胞間の膠原線維の存在,細胞異型に乏しく核分裂像をほとんど認めず,浸潤性に発育し,遠隔転移は来さないが局所再発しうる腫瘍とされている1).手術や外傷などの機械的刺激が誘引となるタイプのほか,家族性大腸腺腫症やGardner症候群に合併するタイプが知られている2)3).今回の2症例はいずれも胃癌手術後の比較的早期に発症しており,ポリポーシスの合併や明らかな外傷の既往もないため,胃癌手術による機械的刺激が誘引となった可能性が高い.
自験例では2症例ともに,腫瘍の位置が残胃大彎の近傍であり,術前に胃癌の4saあるいは4sbリンパ節再発の可能性を否定できなかった.本症例のような低分化型の粘膜癌でのリンパ節転移頻度は,胃癌の腫瘍径が2 cm以下では0~0.96%,2 cm以上でも1.0~6.0%と比較的低い4).さらに,両症例ともにD2リンパ節郭清後であったこと,腫瘍マーカーの上昇を認めなかったこと,他に転移を疑う所見を認めなかったことなどを総合的に判断したうえで,化学療法は行わずに,診断的治療を目的に手術を行うこととした.両症例ともに悪性腫瘍や再発の可能性を考えて,脾臓摘出術を伴う残胃全摘も考慮された.しかし,腫瘍の術中迅速診断にて悪性所見を認めず,線維腫様の組織のみで,リンパ節の構造も認めなかった.このためデスモイド腫瘍の可能性が考えられた.さらに,腫瘍を露出させずに切除することが可能であったので拡大手術は施行しなかった.デスモイド腫瘍は局所再発を来しやすく,切除断端が陰性であっても局所再発を来しうるといわれている.しかし,適切な切除断端の距離に関しては統一した見解はなく,切除断端の距離を確保するための他臓器合併切除に関しては否定的な意見もある5)6).両症例とも術後1年の時点で再発は認めていないが,川野ら7)の開腹手術後の腹腔内デスモイド腫瘍をまとめた報告によると,家族性大腸腺腫症を伴わない腹腔内デスモイド腫瘍で,前回手術からデスモイド切除術までの期間は平均8.4年であり,自験例でもデスモイド腫瘍の局所再発に対して,早期胃癌術後の経過観察期間以上のフォローアップを考慮しなければならない.
医学中央雑誌にて「デスモイド」,「腹腔内」,「胃癌術後」をキーワードに1983年から2011年まで会議録を除いて検索したところ,胃癌術後に発症した腹腔内デスモイド腫瘍は9例の報告があった8)~16).今回,自験例を含めた11例に関して検討した(Table 1)8)~16).男女比は8:3で,デスモイド腫瘍切除時の年齢は44歳から72歳,平均年齢は60歳であった.記載された胃癌の手術術式では,幽門側胃切除が6例,胃全摘,胃亜全摘,胃部分切除がそれぞれ1例であった.胃癌術後からデスモイド腫瘍切除までの期間は12か月から72か月で,平均期間は27.1か月であった.デスモイド腫瘍の発生部位は腸間膜由来が6例と多く,自験例のような残胃大彎側に発生した症例は認められなかった.デスモイド腫瘍に対する手術は11例中6例が周囲臓器の合併切除を伴う術式であった.術前にデスモイド腫瘍と診断がなされたのは生検が施行された1例のみであった16).川野ら7)がまとめた一般的な開腹手術後のデスモイド腫瘍と比べて,胃癌術後のデスモイド腫瘍の局在に特徴的な傾向は認めなかった.デスモイド腫瘍の術前診断として,胃癌再発を疑った症例は自験例を含めて5例12)15)16)で,いずれも摘出検体の病理学的検査ではじめてデスモイド腫瘍と診断されていた.胃癌再発を強く疑って,化学療法が施行された例もみられた15).
| Author | Year | Age/Sex | CPF of gastric cancer | CPF of desmoid tumor | ||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| Histology | TNM | OP | Interval (months) | Size (cm) | Location | Combined resection | ||||
| Souda8) | 1987 | 44/M | n.i. | T1bN0M0 | PG | 40 | 8×6×6 | mesentery of ileum | ileum | |
| Kikuhara9) | 1989 | 56/M | n.i. | n.i. | DG | 22 | 5×5×4 | mesentery of jejunum | jejunum | |
| Osada10) | 1995 | 61/M | tub1 | T1aN0M0 | DG | 32 | 11.5×10.5×10.5 | mesentery of jejunum | — | |
| Baba11) | 1995 | 56/M | tub1 | T1b | n.i. | 24 | 4 | ileocecal area | ileocecal area | |
| Matsuyama12) | 1996 | 56/M | pap | T1NXM0 | DG | 29 | 4.5×2.7 | mesentery of jejunum | jejunum | |
| Kako13) | 2000 | 67/F | sig | T1aN0M0 | DG | 23 | 10×7×4 | mesentery of transverse colon | transverse colon | |
| Taniguchi14) | 2002 | 66/M | n.i. | n.i. | SG | 12 | 7 | mesentery of small intestine | n.i. | |
| Komatsu15) | 2006 | 50/M | tub1 | T4aNXM0 | TG | 12 | 5 | n.i. | jejunum | |
| Inoue16) | 2010 | 71/M | n.i. | T2N0M0 | n.i. | 72 | 8 | n.i. | — | |
| Our case 1 | 66/F | por-sig | T1aN0M0 | DG | 13 | 3.2×2.3×2.4 | greater curvature of remnant stomach | — | ||
| Our case 2 | 72/F | tub2-por2 | T1aN0M0 | DG | 19 | 6×5.8×4 | greater curvature of remnant stomach | — | ||
CPF: clinicopathological features, TNM: TNM classification according to 14th edition of Japanese classification of gastric cancer, OP: operative procedure, PG: partial gastrectomy, DG: distal gastrectomy, TG: total gastrectomy, SG: subtotal gastrectomy, n.i.: not informative
CTやMRI,超音波検査などの画像診断を行っても,デスモイド腫瘍と原疾患の再発との鑑別は困難とされる.MRIのT1強調画像では骨格筋と同程度のintensityであり,T2強調画像では比較的均一なintensityを呈することもあるが,腫瘍を構成する線維芽細胞と間質に分布する膠原線維の分布,割合の違いで内部不均一なintensityを呈するといわれている17)~19).症例1のようなT2強調画像での内部不均一な高信号の所見は,デスモイド腫瘍を疑う所見の一つであった.
悪性疾患と良性疾患の鑑別にはFDG-PETが有用とされる.腹部や後腹膜のデスモイド腫瘍も程度は低いながらも,FDGの集積を示すとされるが,同一の腫瘍でも細胞成分と膠原線維の分布の違いにより,FDGの集積は均一ではない20).一方胃癌に関しては,glucose transporter-1の発現の違いにより,intestinal type(pap,tub,por1)ではFDGの集積は強いが,diffuse type(por2,sig,muc)では集積は弱いといわれている21).症例1,2ともに低分化腺癌の腫瘍成分を含む胃癌であったため,FDG集積の程度が低いことが胃癌再発を否定する根拠にはならなかった.以上より腹腔内デスモイド腫瘍と胃癌再発とでは,FDGの集積の程度が類似する可能性が高く,鑑別のmodalityとしての有用性は低いと考えられた.
デスモイド腫瘍の組織学的所見としては,被膜を伴わずに周囲組織に浸潤傾向を示し,細胞間に膠原線維を伴う線維芽細胞の増殖がみられ,悪性所見は認めない22)免疫組織学的にはvimentinに強陽性で,筋繊維芽細胞への分化の程度に応じてαSMAやdesminに種々の程度に陽性となる.約70~80%の症例にてβ-cateninの核内陽性所見がみられるといわれているが23),自験例では認められなかった.β-cateninの核内陽性率には施設間格差があるといわれ,ポリマー法を用いて免疫染色検査の感度を上げて診断している報告もあり23),自験例でも検討すべきであった.
治療に関してはestrogen receptorの発現が認められる症例に対して,ホルモン療法を施行し良好な結果が得られた報告もあったが24),本例は両者共に陰性であった.他の薬物療法としては非ステロイド性抗炎症薬の有用性がいわれている22).本例でもデスモイド腫瘍の再発時には考慮されうるが,治療の基本は外科的切除であり25),また前述のように胃癌再発との鑑別は困難であるため,切除不能となる前に発見できるように慎重な経過観察が必要である.
最後に,病理組織学的検討に関してご指導賜りました信州大学中央検査部・浅香志穂先生,ならびに信州上田医療センター・前島俊孝先生に深謝申し上げます.
利益相反:なし