The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
Duodenal Necrosis Caused by Internal Jejunal Hernia after Laparoscopic Assisted Distal Gastrectomy, Roux-en-Y Reconstruction
Yuki MatsumiYasuhiro FujiwaraYasuhiro ChodaTakashi KanazawaMasao HaranoHiroyoshi MatsukawaYasutomo OjimaShigehiro ShiozakiSatoshi OhnoMotoki Ninomiya
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2013 Volume 46 Issue 6 Pages 409-415

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Abstract

症例は74歳の男性で,2年前に他施設に於いて早期胃癌に対し腹腔鏡補助下幽門側胃切除,結腸後経路にてRoux-en-Y法再建術を施行されていた.その後非小細胞肺癌に対し当院にて化学療法を受けていた.腹痛嘔吐が出現し,その2日後に意識混濁を認めたため当院に救急搬送となった.CTにて空腸内ヘルニアに伴う絞扼性イレウスと診断し緊急手術を施行した.術中所見では前回手術に伴う癒着は軽度で,空腸が挙上空腸背側と横行結腸間膜との間隙に入り込み内ヘルニアとなり,また輸入脚側の上部空腸および十二指腸水平脚が壊死し穿孔を来していた.壊死腸管を切除し,十二指腸下行脚と空腸を吻合し手術を終了し,術後33日目に退院となった.腹腔鏡補助下手術の増加に伴い空腸内ヘルニアの増加が報告されているが,十二指腸の壊死を来した症例はまれであり文献的考察を加え報告する.

はじめに

胃切除術後の輸入脚症候群は,比較的まれな疾患であるが,重篤な経過をとる可能性があり,早期の診断および治療が不可欠な病態である1)

腹腔鏡補助下幽門側胃切除(laparoscopy assisted distal gastrectomy;以下,LADGと略記),結腸後経路にてRoux-en-Y法による再建術の術後に,空腸内ヘルニアとなり,十二指腸壊死を来すも,緊急手術により壊死腸管切除を行い救命できた1例を経験したので文献的考察を含めて報告する.

症例

患者:74歳,男性

主訴:腹痛,嘔吐,意識混濁

既往歴:2009年早期胃癌(T1b,N0,M0,Stage IA)に対して,他施設に於いてLADG,Roux-en-Y法再建を施行され,その後無再発にて経過していた.

2010年4月より非小細胞肺癌(Stage IV)に対し化学療法(カルボプラチン+ペメトレキセド)を当院の呼吸器内科で施行中であった.

家族歴:特記事項なし.

現病歴:2010年12月より便秘を自覚し,1日後より腹痛および嘔気が出現したが,自宅にて経過を見ていた.2日後になり腹痛の増悪および意識障害も認め,家人により救急要請され,3日後の早朝に当院に救急搬送となった.

入院時現症:意識レベルはJapan coma scale 2桁,収縮期血圧は聴診法で50 mmHg程度であり,脈拍数は38回/分,呼吸回数は38回/分であった.四肢および体幹にはチアノーゼを呈し,さらに上腹部を中心とした膨満を認めた.

来院時血液検査所見:WBC 2,500/μlと低値であったが,CRP 9.03 mg/dlと上昇し,T-Bil 1.9 mg/dl,AST 431 IU/l,ALT 156 IU/lと肝機能障害を認めた.また,血清AMY 2,234 IU/l,LDH 482 IU/l,CK 762 IU/l,乳酸値12.0 mmol/lと著明な上昇を示し,B.E.も–13.8 mEq/lと著明な代謝性アシドーシスを認めた(Table 1).

Table 1  Laboratory data on admission
Complete blood count  BUN 43 ​mg/dl
 WBC 2,500​/mm3  Cr 1.9 ​mg/dl
 RBC 423×104​/mm3  Na 134.1 ​mEq/l
 Hb 14.2 ​g/dl  K 3.8 ​mEq/l
 Ht 40.60​%  Cl 98.9 ​mEq/l
 Plt 22.9×104​/mm3  Ca 9.5 ​mg/dl
 AMY 2,234 ​IU/l
Blood biochemistry  CRP 9.033 ​mg/dl
 T-Bil 1.9 ​mg/dl  Lactate 12.0 ​mmol/l
 AST 431 ​IU/l
 ALT 156 ​IU/l Blood gas analysis
 LDH 482 ​IU/l  pH ​7.284
 CK 762 ​IU/l  pCO2 23.5 ​mmHg
 ALP 641 ​IU/l  pO2 122.5 ​mmHg
 T.P. 6.1 ​g/dl  BE –13.8 ​mM/l
 Alb 3.6 ​g/dl  HCO3 13.6 ​mmol/l

腹部CT所見:上腹部を中心に,拡張した残胃,十二指腸および上部空腸を認めた.上部空腸の内ヘルニアおよびそれに伴う絞扼性イレウスと診断した(Fig. 1).

Fig. 1 

Abdominal CT shows the dilated duodenum (arrowheads) and jejunum (arrows).

経過:血液検査,CT所見より空腸内ヘルニアに伴う絞扼性イレウスと診断し,直ちに開腹手術となった.

手術所見:上腹部正中切開にて開腹し腹腔内を検索したところ,大量の腹水を認め,以前のLADGに伴う腸管の癒着はごく軽度のみであり,空腸の可動性は良好であった.再建空腸は結腸後経路にて挙上されていたが,Y脚吻合より遠位側1 m程度の空腸が右から左側に向かい挙上空腸背側と横行結腸間膜の間隙に入り込み内ヘルニアを呈していた(Fig. 2A).嵌頓腸管は著明な拡張があるも,壊死はなく,ヘルニアの解除は非常に容易であり,十二指腸への圧迫は認めなかった.しかし,ヘルニア内容ではない輸入脚側である十二指腸下行脚から水平脚および上部空腸が壊死し穿孔を来していた(Fig. 2B).Y脚の吻合部を切除し,十二指腸を後腹膜より授動した後に,壊死に陥っていた十二指腸の下行脚から上部空腸までを切除し,温存した十二指腸下行脚の内腔に壊死や潰瘍のないことを確認した.また,胆囊も緊満していたため,胆囊摘出術も併施し,胆囊管より総胆管内に胆汁ドレナージチューブを挿入した.空腸空腸吻合および十二指腸下行脚と空腸を吻合し消化管再建を行った(Fig. 2C).また,術後の栄養管理を目的とし,空腸から経腸栄養用チューブを留置して手術を終了した.

Fig. 2 

Schema of operative findings. A: The jejunum is strangulated through the space between the mesentery of the Roux-limb and transverse mesocolon. B: After reposition of the strangulated jejunum, the perforated duodenum and jejunum can be seen (slanted line,). C: Partial resection of the necrotic and perforated duodenum and jejunum and the duodeno jejunal anastomosis is performed.

切除標本:十二指腸内腔は拡張し壊死を伴っており,粘膜面および漿膜面ともに粗造であった(Fig. 3A).

Fig. 3 

A: Macroscopic findings show the dilated and necrotic duodenum. B: Pathological findings show an ischemic degeneration with acute necrotizing enteritis and fibrinopurulent peritonitis.

病理組織学的検査所見:十二指腸は全体にわたり粘膜を含めた壁の虚血性変化があり,また壁全層性にわたる好中球の浸潤を伴った壊死性の壁構造の変化を認めた(Fig. 3B).

術後経過:術後は集中治療室にて全身管理を開始し,手術翌日には呼吸状態が安定し人工呼吸器から離脱でき,術後5日目に集中治療室から一般病床に移動となった.術後6日目より経腸栄養を開始し,術後15日目より経口摂取を開始とし,術後33日目に独歩にて退院となった.現在も当院の呼吸器内科にて非小細胞肺癌に対する治療を継続中である.

考察

従来胃切除に伴うRoux-en-Y法再建術後に,内ヘルニアが発生する頻度は0.1~0.3%と報告されており,まれな病態であるとされてきた.しかし,腹腔鏡補助下胃切除の増加に伴い,術後合併症としての内ヘルニアの発生が増加しているとの報告がある2)3).それらの報告ではLADG後の内ヘルニア発生要因として,再建経路,癒着の程度,術後体重減少が挙げられている.

再建経路による検討では,内ヘルニアの発生率は,結腸後経路に比べ結腸前経路再建時が有意に低いと報告されている.結腸前経路では,輸入脚が長くさらに腸間膜の欠損孔が大きいため,ヘルニア自体の発生頻度は高いものの,脱出した腸管の嵌頓を起こしにくいとされ,さらに結腸後経路再建の場合はヘルニア門となる可能性がある場所が3か所存在するのに対して,結腸前経路の場合2か所となるためと考えられている4)

また,腹腔鏡下手術では開腹手術に比べ腹壁との癒着が少なく,腸管の可動性が保たれることより内ヘルニアの合併が高率であるとされる.また,胃切除術後の影響で,術後に体重が減少し,腸間膜脂肪織が減少し間隙が大きくなることが挙げられる5)6)

海外では肥満症例に対する腹腔鏡下胃バイパス手術後の内ヘルニアの報告が散見され7),中でもRoux-en-Y再建法を結腸前経路で行い,挙上空腸間膜と横行結腸腸間膜との間隙を起因とする内ヘルニアはPetersens herniaと呼称されている.それら報告での検討では,腹腔鏡下胃切除Roux-en-Y法再建術後に伴う内ヘルニアの合併は0.2~4.5%であり,その中の約5%がPetersens herniaと報告されている8)

術後内ヘルニア予防の対策としては,結腸前経路を選択することおよび,再建後に内ヘルニアを起こす可能性のある腸間膜間隙を可能なかぎり閉鎖すること,輸入脚を必要以上に長くしないことである1).当科では2005年に開腹下での幽門側胃切除,結腸後経路でのRoux-en-Y再建術後早期に内ヘルニアを経験し,その後より全例で腸間膜間隙の閉鎖を行っている9)

本症例では,再建経路は結腸後経路であったが,腸間膜間隙が閉鎖されておらず,また肺癌に対する化学療法開始後に6 kgの体重減少があったことにより間隙の開大があったのではないかと考えられる.

本邦での報告例を医学中央雑誌(1983年~2011年)で,「胃切除術後」,「内ヘルニア」と「消化管穿孔」,または「輸入脚症候群」をキーワードにて検索した.胃切除後の内ヘルニアによる十二指腸壊死は以前から報告があるが10)11),本症例と同様に腹腔鏡補助下胃切除術後に十二指腸壊死を来したとする報告はわずかに2編のみであった12)13)

内ヘルニアにおける腹部症状は非特異的であるため,その診断は画像所見によるところが大きいが,特に腹部造影CTは本疾患の診断に有用な検査であるとされる.腸間膜の血管を中心として腸管と腸間膜が渦巻き状となるwhirl signと呼ばれる所見は診断に有効であるとされる14).しかし,術前診断での正診率は低く,胃切除後の上部空腸を起点とするイレウスでは本疾患も鑑別に上げる必要がある.

十二指腸壊死を来した原因であるが,輸入脚自体は内ヘルニアとはなっておらず直接的な血流障害はなかったと考えられる.また,椎体と拡張したヘルニア内容との間に位置する十二指腸が椎体とヘルニア内容の間にはさまれ圧迫により虚血を起こした可能性についても検討した.椎体とヘルニア内容にはさまれ圧迫されたのであれば,はさまれた十二指腸辺縁血管による栄養される部位の虚血となるはずであるが,本症例では直接圧迫されていない十二指腸下行脚まで壊死していたことより否定的であると考えられる.Blomstedtら15)は急な経過で十二指腸の著明な拡張から循環障害を来し穿孔へと至る急性型の重症型の輸入脚症候群を報告している.本症例においても遠位側の空腸による腸閉塞のため,閉塞起点よりも近側の著明な腸管拡張を呈し,特に輸入脚側は胆汁などの分泌による腸管内容の増加により腸管内圧の上昇を来していたものと考えられる.病理組織学的検査所見において十二指腸は粘膜も含めた壁の虚血性変化を認めており,発症後2日間で著明な腸管拡張を来し微小循環不全から壊死穿孔を来したのではないかと推測される.

また,内ヘルニアに対する治療は,自然整復が困難であると考えられ,早急な外科的処置が必要となる.近年,内ヘルニアに対しても低侵襲な腹腔鏡手術が行われるようになり,イレウスを伴っていない腹腔鏡手術後の症例であれがその良い適応となると報告されている16).しかし,本症例では来院時すでに絞扼性イレウスからショックを来しており,血流障害により腸管が脆弱となっていること,および全身状態が不良で気腹による呼吸・循環機能への影響が問題となることなどから開腹術を選択した.

本症例のように十二指腸壊死を来し,重篤な経過をたどる可能性があるため,胃切除術後の上部消化管に起因する腸閉塞を認めた際には早期の診断および外科的治療が不可欠であると考えられた.

利益相反:なし

文献
 

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