2013 Volume 46 Issue 6 Pages 424-430
胆管腫瘍栓合併肝細胞癌に対する手術は,肝外胆管を温存して腫瘍栓を摘出するか,肝外胆管合併切除を選択するかは,症例数が少ないこともあり十分な評価がなされていない.症例は71歳の女性で,心窩部痛にて精査を行ったところ,15 cm大の肝細胞癌を肝外側区域に認めたため,肝外側区域,横隔膜合併切除術を施行した.術後6か月に高ビリルビン血症,AFPの上昇と,CT,MRCPにて総胆管の欠損像,内側区域の腫瘍性病変を認めたため,肝外胆管腫瘍栓を伴う肝細胞癌再発と診断し,内視鏡的経鼻胆道ドレナージ(ENBD)チューブを留置後に,肝内側区域切除,胆管切開,腫瘍栓摘出術を行った.病理組織学的には2回の手術ともに中分化型肝細胞癌の診断だった.術後はアイエーコールを用いた肝動注療法を補助療法として行い,初回手術より3年2か月,2回目の手術より2年8か月を経た現在,再発を認めていない.
肝外胆管腫瘍栓を伴った肝細胞癌は比較的まれな病態であり,高度な黄疸を伴ったものは“icteric type hepatoma”とも分類されている1).今回,我々は心窩部痛を主訴とした15 cm大の肝細胞癌に対して初回手術を行い,6か月後の肝外胆管腫瘍栓を伴った再発に対して,肝系統的切除と胆管切開,腫瘍栓摘出術を施行した.術後のadjuvant chemotherapyとしてアイエーコールによる肝動注療法を行い,2年8か月間無再発の症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.
症例:71歳,女性
主訴:心窩部痛
既往歴:特になし.
家族歴:特記事項なし.
現病歴:心窩部痛と上腹部の腫瘤を触知したため,近医受診した.腹部エコーとCTにて15 cm大の肝腫瘍を肝外側区域に認め,当院受診した.
Dynamic CT所見1:動脈相で辺縁と内部が不均一に造影され,門脈相でwashoutされる15 cm大の腫瘤を肝外側区域に認めた(Fig. 1).
CT reveals an enhanced mass, 15 cm in diameter, at the lateral segment of the liver. The tumor is iso-density in the early phase (A) and contrast medium is washed out in the late phase (B).
血液検査所見1:HBs抗原(–),HCV抗体(–),アルブミン3.9 g/dlと軽度の低下,ALP 366 U/l,γ-GTP 95 U/lの軽度の上昇を認めた.腫瘍マーカーはAFP 1,106.6 ng/dl,PIVKA-II 124.0 U/mlの上昇を認めた.肝障害度はA,Child-Pugh分類も5点のAだった.
手術所見1:開腹時,肝外側区域の腫瘍の表面に横隔膜と大網が癒着していたため,癒着していた横隔膜と大網を肝外側区域とともに合併切除を行った(Fig. 2).
Resected tumor: The tumor adheres to the diaphragm, therefore, the diaphragm is resected with tumor.
病理組織学的検査所見1:中分化型肝細胞癌で,eg,Fc(–),sf(+),S1,vp0,vv1,va0,B2,sm(–),背景肝は慢性肝炎だった(Fig. 3).組織学的にはB2を認めたものの,胆管断端も含めて断端は陰性だった.
Histopathological examination reveals moderately differentiated hepatocellular carcinoma, eg, Fc (–), sf (+), S1, vp0, vv1, va0, B2 and sm (–). (×20 magnifications)
経過1:初回手術後,いったんは正常範囲内になったAFPが,術後6か月の外来受診時に10.4 ng/dlと上昇を認めた.精査施行中にMRCPにて胆管内の欠損像と肝管の軽度拡張を認めたため,内視鏡的経鼻胆道ドレナージ(ENBD)を留置後に手術を行った.
血液検査所見2:WBC 4,400/μl,CRP 3.41 mg/dlの軽度の炎症反応,T-Bil 1.14 mg/dl,D-Bil 0.55 mg/dlと軽度の閉塞性黄疸,AST 60 U/l,ALT 110 U/lと肝機能障害,ALP 1,642 U/l,γ-GTP 658 U/lの上昇を認めた.腫瘍マーカーは,PIVKA-IIは27.0 U/mlと正常範囲内だったものの,AFP 10.4 ng/dl,AFP-L3分画は80.3%と高値だった.
MRCP所見:総胆管から左肝管にかけての欠損像と右肝管の軽度の拡張を認めた(Fig. 4).
MRCP demonstrates the dilated bile duct and the defect from the common bile duct to the left branch of the intrahepatic bile duct.
Dynamic CT所見2:動脈相で濃染され,門脈相でwashoutされる3 cm大の肝内側区域の腫瘤(矢印)と左肝管,総肝管にわたる腫瘍栓(点線矢印)を認めた(Fig. 5).
CT reveals a 3 cm mass at the median segment of the liver (A) and tumor thrombus can be seen from the common bile duct to the left branch of the intrahepatic bile duct (B). An endoscopic nasobiliary drainage tube is inserted.
手術所見2:総胆管,左右の肝動脈,門脈本幹と左枝をテーピングした後,左肝動脈,門脈左枝を結紮切離,肝内側区域を切離した.肝切離後,左肝管を根部にて切開,総肝管,右肝管内の胆管腫瘍栓を摘出,さらに胆道鏡にて腫瘍栓の遺残のないことを確認した後,左肝管根部を結紮し,内側区域切除を終えた(Fig. 6).
Intraoperative findings: Median segment resection is performed and bile duct tumor thrombus is removed through surgical margin of the left bile duct.
病理組織学的検査所見2:初回手術と同じ中分化型肝細胞癌で,ig,Fc(+),Fc-inf(+),sf(–),S0,vp0,vv0,va0,B4,sm(–)だった(Fig. 7).
Histopathological examination reveals moderately differentiated hepatocellular carcinoma, ig, Fc (+), Fc-inf (+), sf (–), S0, vp0, vv0, va0, B4 and sm (–). (main tumor: A, bile duct tumor thrombosis: B)
経過2:胆管腫瘍栓に対する根治術後,adjuvant chemotherapyとして,アイエーコール50 mgによる肝動注療法を,4週間毎に計7回施行した.2回目の手術より2年8か月間を経て,現在,無再発生存中である.
胆管腫瘍栓を伴う肝細胞癌は比較的まれな病態で,1.2~9%との報告を認める2)~7).初発症状としては,黄疸,肝機能障害,発熱などの胆道閉塞に起因する症状を呈することが多く,胆道癌との鑑別が重要となるが,背景となる肝疾患の存在や肝細胞癌に特徴的なAFP,PIVKA-IIといった腫瘍マーカーの上昇が鑑別に有用である8).本症例においても肝炎ウイルスの既往は認めないものの,肝細胞癌の手術歴とAFPの上昇により,肝細胞癌再発に伴う胆管腫瘍栓を疑い,2回目の手術を行った.本症例のように肝切除後の胆管腫瘍栓を伴った再発例を医学中央雑誌(1983年1月~2012年8月)にて「肝細胞癌」,「胆管腫瘍栓」,「再発」をキーワードに検索した結果,2例報告例を認めたものの,いずれも初回肝切除時から胆管腫瘍栓を伴った症例だった8)9).
胆管腫瘍栓合併肝細胞癌の予後については,八木ら10)の胆管内発育型肝細胞癌の切除例28例の検討にて,5年生存率65.5%と報告されている.一方,1,3,5年生存率がそれぞれ,73.3~93.2%,40~56.0%,24~33%との報告も認め6)11)~15),胆管腫瘍栓の有無により生存率の差は認めないとの最近の報告を認める.予後規定因子については,ウイルス性肝炎なし,腫瘍径5 cm以上,被膜形成なし,低分化型腫瘍の予後が悪いとする一方10),肝内再発を認めない胆管腫瘍栓症例,B3,B4といった肉眼的胆管腫瘍栓14),術前の高ビリルビン血症15),を認めた方が予後がよい,などの報告がなされている.
治療方法については外科的切除が第一選択である16).土屋ら16)は,外科的切除施行例81例と肝動脈塞栓術,肝動注療法,化学療法,放射線療法などの非外科的治療施行例156例の治療成績を検討,平均生存期間が18.7か月と5.5か月であることから,外科的切除の有効性を示した.また,肝切除の形式については,胆管腫瘍栓を含めた比較的広範囲な系統的肝切除を要することが多い17)~19).本症例においても,初回手術が外側区域切除,再発病変は内側区域の主病巣から総胆管にかけての胆管腫瘍栓の形態をとったため,内側区域切除と胆管腫瘍栓摘出術を施行した.
胆管腫瘍栓に対する標準術式として,肝外胆管切除,胆道再建術を行うべきか,腫瘍栓摘出術にとどめ,肝外胆管を温存するべきかが常に議論となるところであるが,その症例数が少ないことから明らかにはなっていないものの,再発時の肝動脈塞栓術やラジオ波焼灼術(RFA)などの局所療法が制限されること,胆管内腫瘍栓が胆管上皮への浸潤傾向に乏しく,比較的容易に摘出可能なことから,肝外胆管切除は基本的には必要ないとする報告が多い2)8).自験例においても,容易に胆管内腫瘍栓が摘出でき,胆管内の腫瘍栓の取り残しを考慮し,切離した左肝管断端から胆道鏡を挿入,肉眼的な腫瘍の残存がないことを確認した.
胆管腫瘍栓を伴う肝細胞癌に対する根治術施行後の再発形式は残肝再発が多く,その再発率が1年以内で50%との報告も認める20).肝癌診療ガイドライン(2009年版)でも記されているように,肝動注療法の有効性はメタアナリシスにて再発率を抑制,生存率を改善したとの報告を認めるものの,少数例のrandomized control trial(RCT)の単報であり,現時点ではその有効性がはっきり示されていない21)22).しかし,胆管腫瘍栓同様に,残肝再発の高危険群である門脈腫瘍栓症例においては,術後補助療法の有効性を示唆する報告も認めるため23),我々は術後補助療法として肝動注療法を行った.
胆管腫瘍栓を伴う肝細胞癌は症例数自体が少ないことからRCTが困難であり,予後,術式についてもいまだコンセンサスが得られていないのが現状である.従来,予後不良とされていたものの,画像診断の進歩と病態が認識されたことにより,比較的早期の診断と積極的な外科治療がなされ,近年では胆管腫瘍栓を伴わない症例と予後が変わらないとの報告も散見されるようになってきている.術後補助療法の有効性の可能性もふまえて,今後の症例の蓄積による治療方針の標準化が望まれる.
利益相反:なし