The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
A Case of Adenosquamous Carcinoma of the Transverse Colon with Gastric Mucin Expression
Norimasa MatsushitaTatsuya FurukawaKuroudo KoshinoKieko YamazakiSatoshi SakaueKenji FurukawaHideo KatsuragawaAkio KomatsuKyosuke Shigematsu
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2013 Volume 46 Issue 6 Pages 456-462

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Abstract

症例は67歳女性で,特に症状を認めなかったが便潜血検査が陽性であり下部消化管内視鏡検査を‍行ったところ横行結腸に腫瘍を指摘された.腫瘍の生検の結果tubular adenocarcinoma,moderately differentiated typeであり遠隔転移を認めなかったため2010年4月横行結腸切除術施行した.摘出標本の病理組織学的検査所見の結果,通常型腺癌に扁平上皮癌の混在する腺扁平上皮癌と診断され,その粘液形質発現を免疫染色検査にて評価したところMUC2陰性,MUC5AC陽性,CD10陰性と表現型は胃型の粘液形質発現であった.近年通常型の大腸腺癌においてはその粘液形質発現により生物学的性質の評価が行われ始めている.大腸に発生する腺扁平上皮癌は0.1%と非常にまれでありさらに自験例のようにその粘液形質発現を検討した報告は認めないことから文献的考察を加え報告する.

はじめに

結腸に発生する癌は大部分が腺癌であり,腺扁平上皮癌は極めてまれである1).また,近年通常型大腸腺癌はその粘液形質発現により生物学的性質の分類が試みられているが2)~4)大腸腺扁平上皮癌の粘液形質発現について検討された報告は認めない.今回,横行結腸に発生した腺扁平上皮癌の手術例を経験し,その粘液形質発現マーカーの染色の結果,胃型形質発現を認めたまれな腫瘍を経験したので文献的考察も含め報告する.

症例

患者:67歳,女性

主訴:特になし.

既往歴:高血圧,白内障

現病歴:特に症状を認めなかったが2010年3月,健康診断にて施行した便潜血検査にて陽性反応を認めたため他院で下部消化管内視鏡検査施行.横行結腸に1型病変を認め精査加療目的に当院紹介となった.

入院時現症:黄疸や貧血所見を認めず.腹部平坦軟で腫瘤は触知せず.肝脾腫大を認めず表在リンパ節を触知しなかった.

入院時血液生化学検査:腫瘍マーカーではCEAは2.0 ng/mlと正常範囲内であったが,CA19-9が649.0 ‍U/‍mlと異常高値を示した.その他の血液生化学検査所見に異常を認めなかった.

下部消化管内視鏡検査所見:横行結腸中央部に管腔を占める1型隆起性病変を認めた(Fig. 1).表面に白苔が付着し,腫瘍の生検ではtubular adenocarcinoma,moderately differentiated typeであった.

Fig. 1 

A colonoscopy reveals type 1 tumor in the transverse colon. White tissue appears on the tumor surface. A biopsy from the tumor reveals tubular adenocarcinoma of moderately differentiated type.

手術所見:2010年4月手術施行.上腹部正中切開にて開腹.横行結腸中程に腫瘍を触知し横行結腸切除術を施行した(D3).術中明らかな肝転移や腹膜播種は認めなかった.

病理組織学的検査所見:腫瘍は中分化型腺癌(Fig. 2aのA)を主体とし,散在性に腺癌(Fig. 2bのB)から扁平上皮癌(Fig. 2bのC)への移行帯を認める腺扁平上皮癌と診断された.扁平上皮癌成分の強拡大像(Fig. 2c)では充実性,シート状に配列する扁平上皮様の異型細胞の増生を認め,免疫染色検査において扁平上皮癌成分では扁平上皮と関連のあるCK34Eβ12が陽性であることを確認した(Fig. 3a).腫瘍の粘液形質発現を免疫染色検査にて評価したところ腺癌,扁平上皮癌ともにMUC2陰性(Fig. 3b)で,MUC5ACは腺癌,扁平上皮癌いずれにおいても陽性であった(Fig. 3c:腺癌,Fig. 3d:扁平上皮癌).CD10は間質と壊死組織で陽性であったものの腺癌,扁平上皮癌成分において陰性で(Fig. 3e),粘液形質発現の表現型としては胃型を示した.最終病理組織学的検査所見としてadenosquamous carcinoma,pSS,pN0(0/26),ly1,v0,stage IIと診断された.

Fig. 2 

Histological examination of the tumor reveals that adenocarcinoma and squamous cell carcinoma were mixed in the tumor. a) Main part of the specimen (HE stain ×40) reveals the adenocarcinoma (A). b) The transient lesion of the two types of tumor can be seen in the specimen (B: adenocarcinoma, C: squamous cell carcinoma), (HE stain ×40). c) Microscopic examination of the squamous cell carcinoma under a high power field (HE stain ×400) discloses proliferated tumor cells with sheet-like arrangement in the specimen.

Fig. 3 

Part of the tumor cells is positive for squamous cell marker CK34Eβ12 confirmed by immunohistochemistry (a) (×100). The tumor shows negative stain for goblet cell marker MUC2 (b) (×100). Adenocarcinoma (c) and squamous cell carcinoma (d) are positive for gastric differentiation marker MUC5AC (×40). The tumor shows negative stain for small intestinal brush border marked CD10 (e) (×100) although the necrotic tissue and the stromal tissue in the specimen are false positive for the CD10 stain.

術後経過:術後経過特に問題なく退院となり,術後補助化学療法としてFOLFOX4を施行した後にS-1+CDDPを施行し,現在術後2年4か月再発なく生存中である.

考察

大腸癌は一般的に腺癌であり,腺扁平上皮癌は非常にまれである.腺扁平上皮癌の割合は本邦報告では全大腸癌の約0.1%と報告されている1).自験例においては特に症状なく発見されたが,腺扁平上皮癌に特異的な症状はなく症状がある場合は下血や貧血,便秘など通常の大腸癌と同様な臨床症状を呈するとされる5).最近の報告では大腸腺扁平上皮癌のリンパ節転移の頻度は46.7~68.8%,肝転移の頻度は12.8~47.8%とされ5年生存率は30~43.3%と大腸癌治療ガイドラインに示されている全大腸癌の5年生存率69.9%と比較して予後不良である5)6).発症平均年齢は60.6歳で,諸家の報告では大腸腺扁平上皮癌は右側結腸ないしはS状結腸に発生する頻度が高く自験例のような横行結腸に発生する頻度は10%程度と比較的少ないと報告されている7)~13).腺扁平上皮癌の発生機序は,①異所性迷入扁平上皮由来,②粘膜の扁平上皮化生由来,③未分化基底細胞由来,④腺癌細胞の扁平上皮化生由来などの説があるが現在では一般的に④の説が有力とされ,その理由として腺扁平上皮癌の報告例のほとんどが大きな腫瘤の進行癌であること,腺癌部分と扁平上皮癌部分の間に移行帯がみられる例があること,扁平上皮癌部分でもCEA,CA19-9染色が強陽性の場合があること,免疫組織学的に扁平上皮癌の一部に腺上皮形質を有するケラチンが認められること,主に腺癌で過剰発現が報告されているc-erbB-2が扁平上皮癌で発現が認められることなどとされる11)14)~16).治療は一般的に外科的切除が第一選択とされ有効な化学療法や放射線治療は確立していない5).扁平上皮癌成分は腺癌成分の約2倍の増殖速度で増大し5)12)15),深達度を問わず腺扁平上皮癌成分を認める場合にはより慎重な術後経過観察が必要とされ,stage Iの症例でも術後補助化学療法が検討されるべきとの報告もある14).化学療法であるがFOLFOX4が著効した症例報告15)や,S-1+CDDPにて転移巣の縮小を認めた症例報告14)を認めるものの症例数も少なく化学療法の標準化は行われていないのが現状である.自験例においても術後補助化学療法を導入し現時点で術後2年4か月再発を認めていない.腺癌成分に対してFOLFOX4,次いで扁平上皮癌成分に対してS-1+CDDPで制御する目的で化学療法を施行したがこれらは確立された方法ではない.扁平上皮癌成分の増殖速度を考慮すると,扁平上皮癌成分の制御が重要とも考えられる.自験例では術前生検にて腺扁平上皮癌の診断を得ることはできなかったが,術前に腺扁平上皮癌の診断が可能であった症例報告では,内視鏡所見にて腫瘍表面に水洗しても除去できない白色構造物を認め,そこよりの生検にて扁平上皮癌成分を認めたと報告されている12).扁平上皮癌の分化度は角化の程度により規定され高分化である程白色調を呈するとされる12)15).自験例でも腫瘍表面に白苔を認め重要な所見であった可能性が考えられるが,残念ながら観察時に扁平上皮癌成分混在の考えが念頭になく術前診断はできなかった.

近年通常型大腸腺癌の粘液形質発現の分類が試みられており,それによる腫瘍の生物学的態度の分類が試みられているが,今回,我々は腺扁平上皮癌において同様の検討を行った.医学中央雑誌において1983年から2012年までの期間で「腺扁平上皮癌」,「大腸」,「粘液形質」をキーワードに,同じくPubMedにおいて1950年から2012年までの期間で「adenosquamous carcinoma」,「colon」,「mucin expression」をキーワードに文献検索した範囲では同様の検討がされている報告を認めなかった.ムチンコア蛋白マーカーであるMUC2は消化管の杯細胞に,MUC5ACは通常の胃腺窩上皮細胞に発現するとされる17).通常型大腸腺癌はこれらムチンコア蛋白マーカーに加え小腸刷子縁マーカーCD10を使用し大腸型,小腸型,胃型,混合型,分類不能型に分類されており(Table 12)~4),MUC2は大腸型形質,MUC5ACは胃型形質とされる.MUC2陽性症例では静脈浸潤やリンパ節転移の頻度は比較的低く悪性度は低いとされている2)3).MUC5AC陽性症例では高度の浸潤性や低分化傾向を示すとされ悪性度が高い印象を受けるが3),肝転移頻度に関してはMUC2,MUC5ACの発現の有無で差は認めない傾向が示されている4)18).CD10陽性症例は静脈浸潤が強く肝転移が高頻度な傾向があり,混合型は粘液癌,絨毛腫瘍由来の癌・潰瘍性大腸炎関連癌に高頻度であるとされる2)~4)17)~20).通常型大腸腺癌ではこのようにムチンコア蛋白発現の評価が近年行われ,腫瘍の生物学的悪性度と相関するとされている.自験例ではMUC2陰性,MUC5AC陽性,CD10陰性と胃型の粘液形質発現を呈したため悪性度が高い可能性があり,脈管浸潤の比較的軽度なstage II症例ではあったが術後補助化学療法を導入し今後も慎重な経過観察を予定している.現時点では通常型大腸腺癌に対しても粘液形質発現の評価がされている症例は少なく,今後の症例集積が重要と考えられるが,腺癌と同様,腺扁平上皮癌に関しても自験例と同様の検討がなされることが望ましいと考えられ,腺扁平上皮癌の悪性度評価やそれに伴う診療・治療方針決定の参考となることが期待される.

Table 1  Classification of phenotypes
MUC5AC (+) MUC5AC (−)
CD10 (+) MUC2 (+) Mixed Small intestinal
MUC2 (−) Mixed Small intestinal
CD10 (−) MUC2 (+) Mixed Large intestinal
MUC2 (−) Gastric Unclassified

本論文要旨は第66回日本消化器外科学会総会(2011年7月,名古屋)において発表した.

稿を終えるにあたり病理学的診断をご指導いただいた杏林大学医学部附属病院・病理部長,大倉康男教授に深謝申し上げます.

利益相反:なし

文献
 

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