The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
A Case of Early Carcinoma of the Appendix Diagnosed by Colonoscopic Examination
Saori YatabeShintaro NakajimaKen HanyuAkihiko FujitaTetsuya YamagataKatsuhito SuwaTomoyoshi OkamotoNobuo OmuraMasahiro IkegamiKatsuhiko Yanaga
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2013 Volume 46 Issue 7 Pages 530-537

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Abstract

症例は68歳の女性で,便潜血の精査目的で大腸内視鏡検査を施行したところ,虫垂開口部から盲腸内腔に露出する直径約15 mm大の隆起性病変を認めた.生検鉗子で同部を牽引すると腫瘍が盲腸内に反転して,その形態が虫垂粘膜に基部をもった有茎性ポリープと判明した.基部が虫垂内であったため内視鏡切除は施行せずに生検のみを行い,高分化型腺癌の診断に至った.以上より,早期虫垂癌と診断して腹腔鏡下回盲部切除術を施行した.原発性虫垂癌は比較的まれな疾患であり,特異的症状に乏しく,早期診断が困難であることから腹腔内腫瘤や癌性腹膜炎など進行癌の状態で発見されることが多い.今回,我々は術前に大腸内視鏡検査で有茎性ポリープの形態をとった早期虫垂癌と診断し,腹腔鏡下回盲部切除術を施行した症例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

はじめに

原発性虫垂癌は比較的まれな疾患であり,特異的症状に乏しく,早期診断が困難であることから,腹腔内腫瘤や癌性腹膜炎など進行癌の状態で発見されることが多い1).また,早期癌であっても急性虫垂炎の診断で虫垂切除術が行われ,病理組織学的診断の結果で悪性と診断される症例が大半を占める1).今回,我々は術前に大腸内視鏡検査で虫垂ポリープ癌と診断し,腹腔鏡下回盲部切除術を施行した症例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

症例

症例:68歳,女性

主訴:なし

既往歴:心室性期外収縮

現病歴:2011年1月,健康診断で便潜血陽性を指摘され,当院消化器内科を受診した.精査目的で行われた大腸内視鏡検査で虫垂開口部から盲腸内腔に露出した隆起性病変が発見された.生検の結果,虫垂原発の高分化型腺癌と診断され,加療目的で当科に紹介となった.

初診時現症:意識清明で,身長155 cm,体重61 kg,体温36.4°C,血圧115/73 mmHg,心拍60回/分,整.眼瞼結膜に貧血を認めず,眼球結膜に黄疸を認めず.胸部に明らかな心雑音,ラ音は認めなかった.腹部は平坦・軟で圧痛を認めず,腫瘤も触知しなかった.

初診時血液・生化学検査所見:炎症所見をはじめ,特記すべき異常を認めなかった.腫瘍マーカーもCEA 3.0 ng/ml,CA19-9 28 U/mlといずれも正常範囲内であった.

胸腹部単純X線検査所見:異常所見を認めなかった.

大腸内視鏡検査所見:虫垂開口部から盲腸内腔に露出する直径約15 mm大の隆起性病変を認めた(Fig. 1A).生検鉗子で同部を牽引すると腫瘍が盲腸内に反転して,その形態が虫垂粘膜に基部をもった有茎性ポリープと判明した(Fig. 1B).拡大内視鏡でnon-invasive pit pattern(IV)が確認され,cancer in adenomaが疑われた(Fig. 1C).基部が虫垂内であったことから内視鏡切除は施行せず,生検のみを行い高分化型腺癌と診断された.

Fig. 1 

Colonoscopic findings. A) An adenomatoid lesion approximately 15 mm in diameter is exposed from the orifice of the vermiform appendix. B) When the adenomatoid lesion is pulled with biopsy forceps, the appendiceal mucosa was invented, when the lesion was found to be a pedunculated polyp originating from the appendiceal mucosa. C) Non-invasive pattern (pit IV) is confirmed by chromoendoscopy with Indigocarmine, and the lesion is suspected to be carcinoma in adenoma.

腹部造影CT所見:腹水の貯留や肝内に占居性病変は認めず,虫垂は軽度腫大していた.周囲への浸潤を疑わせる所見や所属リンパ節の腫大は認めなかった(Fig. 2).

Fig. 2 

Abdominal enhanced CT. No ascites nor liver metastasis are identified, and the vermiform appendix is found to be slightly swollen (arrow). There is no evidence of invasion of the surrounding tissue or regional lymph node metastasis.

以上より,早期虫垂癌と診断し,2011年2月に腹腔鏡下回盲部切除術(D2郭清)を実施した.

手術所見:仰臥位で体位を固定し,臍部からカメラ用5 mmポート,正中下腹部と右中腹部に5 mmポート,上腹部正中に12 mmポートを挿入し,手術を開始した.虫垂の周囲との癒着や漿膜面への浸潤を示唆する所見はなく,腹水や肝表面をはじめとする可視範囲内での異常所見を認めなかった.超音波凝固切開切離装置で腸管膜を処理し,回結腸動静脈を上腸間膜動静脈からの起始部でendo-cutter 60を用いて一塊で切離した.外側より右結腸から肝彎曲部まで十分に授動し,腸管を上腹部正中ポートから体外へ誘導して切離した.再建はfunctional end-to-end anastmosisで行った.手術時間は1時間50分,出血量は少量であった.

切除標本肉眼的所見:虫垂口より腺腫様病変の一部が盲腸内腔に露出しており,腫瘍を牽引して盲腸内に反転させると虫垂粘膜に基部を持ったIp型病変の全貌が確認され,長径は15 mm,表面は顆粒状で発赤を伴っており,明らかな陥凹面はなく,粘膜下深部浸潤を疑わせる所見は認めなかった(Fig. 3).

Fig. 3 

Resected specimen. Macroscopic appearance of the resected specimen reveals the tumor to have a stalk of approximately 15 mm in the maximal diameter and to originate from the appendiceal mucosa (arrow). The appearance of the tumor is granular and reddish, and there is no depressed lesion. No findings suggesting deep submucous invasion are present.

病理組織学的検査所見:腺腫成分と腺管の管状構造が明瞭で細胞異形度の高い高分化型腺癌を認め,同様の癌細胞が粘膜筋板にまで進展しているが,明らかな脈管浸潤や簇出の所見はなく,リンパ節転移および脈管侵襲は認めなかった(Fig. 4).以上より,虫垂癌,V,tub1,pM,ly0,v0,pN0,cH0,cMo,fStage Iと診断した.

Fig. 4 

Pathological findings (Hematoxylin and Eosin staining: ×4). The tubular structure of the glands can be clearly observed, and well differentiated adenocarcinoma with high nuclear atypia can be identified. Such adenocarcinoma cells invade the muscularis mucosa, but lymph node metastasis and vessel invasion are absent.

術後経過は良好で,術後第9病日で退院し,23か月が経過した現在,再発や転移を認めていない.

考察

原発性虫垂癌の頻度はCollins2)によれば71,000例の手術および剖検例中57例(0.08%),Hananelら3)によれば虫垂切除2,520例中8例(0.3%)と報告されている.本邦では大腸癌手術症例の0.14~0.83%と報告されており,比較的まれな疾患である4).しかし,一般的に虫垂癌は予後不良であり,河野ら5)によると本邦の5年生存率は15%に過ぎない.その理由として,①症状が出現しにくく早期の術前診断が困難である,②組織学的に固有筋層と粘膜下層が薄く,粘膜下層と漿膜の距離が近いため癌細胞が容易に浸潤しやすい,③虫垂近傍にはリンパ組織が発達しているためリンパ節転移を来しやすい,といった点を挙げている.

我々が医学中央雑誌で1983年から2012年2月の範囲で「虫垂癌」をキーワードに検索し,そのなかから早期癌症例を抽出したところ,会議録を除くと自験例を含め49例の報告があった(Table 11)6)~47).平均年齢は62歳(15~96歳)で男女比は19:30と女性に多い傾向があった.右下腹部痛で発症した症例が23例(46.9%)と最も多く,本症例同様に自覚症状のなかったものは12例(24.5%),便潜血を契機に発見された症例は10例(20.4%)であった.Feldmanら48)によると虫垂癌の臨床症状の発生機序として,①腫瘍による虫垂内腔の閉塞,②虫垂壁の穿孔を伴う浸潤,③リンパ流・血流の閉塞などによって右下腹部痛が出現するもの,と説明されている.このような経過をとるため,急性虫垂炎と診断された症例が19例(38.8%)と最多を占め,術前に虫垂癌と診断が可能であった症例は12例(24.4%)にすぎない.窪田ら18)は虫垂癌の内視鏡像特徴を,①粘膜下腫瘍様型:癌によって虫垂内腔に粘液瘤が形成された状態,②鉢巻きひだ型:粘液瘤もしくは腫瘍が盲腸を内腔側に向かって持ち上げて虫垂開口部を取り囲むようなひだが形成された状態,③隆起型:盲腸内腔に腫瘍が発育し,虫垂が盲腸内腔に内翻した状態,④側方浸潤型:虫垂から壁外性に浸潤した状態,の4型に分類している.全報告例中,術前に大腸内視鏡検査が行われたものは自験例を含めて23例であり,内視鏡所見による分類では粘膜下腫瘍型:2例,鉢巻きひだ型:5例,隆起型:13例,側方浸潤型:1例,虫垂開口部に異常を認めなかったものが2例であった.

Table 1  Early-stage appendiceal carcinoma reported in Japan
Parameter n %
Age 15–96 years (mean 61.5)
Sex
 male 19 38.8
 female 30 61.2
Clinical symptoms
 Addominal pain (RLQ/others) 28 (23/5) 57.1 (46.9/10.2)
 Stool occult 10 20.4
 Others  9 18.4
 None  2  4.1
Preoperative diagnosis
 Appendicitis 19 38.8
 Appeniceal carcinoma 12 24.4
 Appendiceal tumor  9 18.4
  (mucinous cystadenoma/others) (3/6) (6.1/12.3)
 Cecal tumor  4  8.2
 Others  5 10.2
Surgery
 a) appendectomy 10 (L: 2) 20.4
 b) ileocecal resection 18 (L: 6) 36.8
 c) right hemicolectomy  5 (L: 1) 10.2
 d) appendectomy → ileocecal resection 12 (L: 1) 24.4
 e) appendectomy → right hemicolectomy  4  8.2
Depth of invasion
 m 42 85.7
 sm  7 14.3
Lymph node metastasis
 positive  3  6.1
 negative 46 93.9
Histological type
 adenocarcinoma (tub1: tub2 : por) 32 (29 : 2 : 1) 65.3 (59.2 : 4.1 : 2.0)
 mucinous cyst adenocarcinoma 17 34.7

本症例は大腸内視鏡検査の時点で生検鉗子による牽引操作で病変を完全に反転させ,Ip型の有茎性ポリープ病変であると診断することが可能であった.切除検体で評価すると,有茎性病変と亜有茎性病変が同時に存在した北岡ら41)の症例が1例あるのみで,記載例の大半が表在型ないしは隆起型でびまん性に進展したものであった.

原発性虫垂癌の治療は虫垂切除単独のみでなく,リンパ節郭清を伴った回盲部切除もしくは結腸右半切除が一般的である.Hopkinsら49)によれば,虫垂癌の術式別5年生存率は虫垂切除単独群が20%,結腸右半切除群が63%と明らかな差がある.一方で粘膜内癌であれば虫垂切除単独で十分であるとの報告もあり,Ferroら50)は70例の虫垂癌の術式別予後をDukes分類に従って検討し,Dukes Aの18症例では虫垂切除と結腸右半切除の2群間で有意差はなかったとしている.本邦報告49例中,m癌32例(65.3%)のうちリンパ節転移を伴っていた症例はなく,sm癌17例(34.7%)で3例にリンパ節転移を認めた23)30)31).このことからも,m癌であれば虫垂切除のみでも良好な成績が得られる可能性がある.本邦報告例の術式は虫垂切除10例(20.4%),回盲部切除18例(36.8%),結腸右半切除5例(10.2%),虫垂切除後に追加切除(回盲部切除もしくは結腸右半切除)が行われた症例が16例(32.6%)を占め,病理組織学的診断ではじめて診断される症例が多いことを反映した内訳と考えられた.しかし,自験例のように虫垂内の病変全体が確認できれば深達度診断も可能であるが,早期癌症例の大半が病変の一部分が虫垂口より露出している程度であり,なかには虫垂内で癌病変が非連続性であった症例も報告されており41),術前の正確な深達度判定は困難であることも多い.近年,PET-CTで発見された無症状早期虫垂癌の報告が会議録で散見され,今後の術前診断率の向上が期待される.しかし,術前診断が困難である場合は初回の縮小手術にこだわる必要はなく,術後に虫垂癌との診断に至った時点で追加切除の必要性を判断すればよい.

大腸癌取扱い規約第10版によると,虫垂癌の組織型は腺癌(adenocarcinoma),粘液囊胞腺癌(mucinous cystadenocarcinoma),その他,の計三つに分類される.さらに,病理組織学的に通常の大腸癌と同様の組織像を有するcolonic typeと粘液産生を伴う高分化型乳頭癌であるcystic typeとに分類される.前者は血行性,リンパ行性転移を来しやすく,臨床症状は急性虫垂炎症状を呈することが多い14).後者は血行性,リンパ行性転移はまれであるが,腫瘤を触知することが比較的多く,進展すれば虫垂破裂によって腹膜偽粘液腫を来すことがあるとされている14).本邦の原発性虫垂癌はcystic typeが全体の63%を占めると報告されているが15),早期虫垂癌に限定するとcystic typeが34.7%(17/49例)に対してcolonic typeが65.3%(32/49例)と逆の結果であった.これはcystic typeではcolonic typeと異なり,虫垂炎症状を来しにくく,無症状に経過して腫瘤を形成するなど進行癌の状態で発見されることが多いためと考えられた.

利益相反:なし

文献
 

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