2013 Volume 46 Issue 8 Pages 594-602
今回,我々は膵頭十二指腸切除術(pancreaticoduodenectomy;以下,PDと略記)を施行した肝硬変(liver cirrhosis;以下,LCと略記)合併症例2例を報告する.(症例1)74歳の男性(B型肝炎でChild-Pugh 6点(Grade A))で,下部胆管癌症例であった.術後8日目に上腸間膜静脈内血栓を生じ,術後15か月でChild Pugh score 7点(Grade B),肝細胞癌に対しTAIを2回施行した.(症例2)77歳の女性(輸血後C型肝炎でChild-Pugh 5点(Grade A))で,ファーター乳頭部癌にて PD,脾臓摘出術を施行した.術後約2か月間全身管理に難渋,術後12か月で Child Pugh score 8点(Grade B),難治性腹水を生じた.LC合併症例にPDを施行する際,術中出血量増加,門脈血栓,LCの非代償化など重篤な合併症が生じる可能性あり,手術適応に対する慎重な判断と注意深い術後管理が必要と考えられた.
肝硬変(liver cirrhosis;以下,LCと略記)合併症例は外科領域においてmorbidity,mortalityが増加するハイリスク群として認識される1)2).LC合併肝切除に関する手術適応に関しては幕内ら3)によって確立されて以降,一定の基準が認識されるようになった.しかし,侵襲の大きい胆膵領域手術においてLC合併症例の手術適応に関してはいまだ十分なデータによる裏付けはなく,慎重にならざるをえない.今回,我々は膵頭十二指腸切除術(pancreaticoduodenectomy;以下,PDと略記)を施行したLC症例2例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.
症例1:74歳,男性
主訴: 閉塞性黄疸
現病歴:60歳時よりB型慢性肝炎のため紹介医にて経過観察されていた.63歳時に肝細胞癌(hepatocellular carcinoma;以下,HCCと略記)に対して肝S5部分切除が施行された.また,65歳時,72歳時にS8のHCCに対してラジオ波焼却療法(radiofrequency ablation;以下,RFAと略記)が施行された.その当時,慢性肝炎からLCへの移行を指摘されていた.
紹介医通院中に黄疸を指摘され,入院精査の結果下部胆管癌と診断された.減黄のために内視鏡下に胆管ステントが挿入された後に加療目的にて当院紹介となった.
入院時血液検査所見:肝炎ウイルスマーカーはHBsAg(+),HBV-DNA(–),HCV-Ab(+),HCV-RNA(–)であった.WBC 4,800/μl,RBC 383×104/μl ,Hb 12.1 g/dl,Ht 35.9%,Plt 129×103/μL,PT 89%,PT-INR 1.1,APTT 29.1秒,AST 48 IU/l,ALT 36 IU/l,ChE 162 mU/ml,T.Bil 1.6 mg/dl,D.Bil 0.3 mg/dl,ALP 777 IU/l,γ-GT 944 IU/l,TP 7.6 g/dl,Alb 3.4 g/dl,BUN 11 mg/dl,Cr 0.54 mg/dl,Na 142 mmol/l,K 3.9 mmol/l,Cl 108 mmol/l,CRP 0.1 mg/dl,NH3 88 μg/dl,ICG 15分値31%,Child-Pugh score 6点(Grade A),MELD score 9点であった.CEA,CA19-9は正常値であった.
ERC所見:下部胆管に狭窄を認めた(Fig. 1矢印).
ERCP shows stenosis of distal bile duct (arrow).
腹部造影CT所見:肝臓は変形し,辺縁は鈍化し,脾腫を伴いLCの所見であった.右肝は萎縮し,食道静脈瘤は認めなかった.腹水は認めなかった(Fig. 2).
Abdominal CT shows liver deformity and surface nodularity with splenomegaly suggestive of cirrhosis.
プリモビスト造影MRI所見:CT同様LCの所見とともにS3およびS8 に径2 cm大の早期相にて造影効果があり,肝細胞相にて欠損像を示す腫瘤像を認めた(Fig. 3矢印).同部位は超音波では視認できなかったが,HCCと考えられた.
Abdominal Gd-EOB-DTPA-enhanced MRI shows that two tumors measuring 20 mm in diameter in segment 3 and 8 of the liver were hypointense in the hepatobiliary phase (arrows).
上部消化管内視鏡検査所見:治療の対象となるような食道静脈瘤は認めなかった.
99mTc-GSA肝シンチグラフィー:LHL15 0.839であり,肝集積は高度低下し,核種血中消褪は明らかに遅延し,肝予備能は高度低下していた.
入院後経過:下部胆管癌(T3N0M0)と診断した.併存疾患としてLCとHCC(もしくは前癌病変)を認めたが,前医から既に指摘されており,HCCであったとしても緩徐に経過していると判断された.今後生命予後を左右すると予想される胆管癌に対してはPDを施行することが根治術となるが,LCおよびHCC(もしくはその前癌病変)が存在し,周術期間がハイリスクであるうえに,根治術をしえても術後の予後がLCとそれに伴うHCCにも規定されるため,非切除という選択肢もあることを十分に患者および家族に説明した.そのうえで患者側が胆管癌切除を強く希望されたため,手術施行となった.
術前は当科におけるLCに対する肝切除に準じてスピロノラクトン100 mg/dayを3日間,術前日は腸管内容をゴライテリー法にて一掃した.
手術所見:肝表面は凹凸が目立ち,LCに合致する所見であった.術中愛護的な操作に努め,易出血性が認められ腹腔内には側副血行路の発達による静脈の怒張が観察された.術中操作で出血を認めた際は,極力縫合結紮による確実な止血を心がけた.術中迅速病理にて離断部での悪性所見の陰性を確認しPD(前庭部を切除する定型的なPD.胆道癌取扱い規約上における#6,#12a,#12b,#13,#14(一部),#17リンパ節を郭清)を施行した.再建はChild変法再建とし,膵空腸吻合は柿田法(膵空腸密着吻合)とした.膵の性状は正常膵で,膵管径は1 mmであったために5Fr膵管ステントを留置し,完全外瘻とした.胆管ステント,腸瘻チューブは留置しなかった.手術時間は9時間1分,術中出血は2,410 mlであった.術中に濃厚赤血球2単位,新鮮凍結血漿5単位,血小板20×104単位を輸血した.
病理組織学的検査所見:Adenocarcinoma,moderately to poorly differentiated tubular. pat Bi,40×22×5 mm,int,INFβ,ly1,v0,pn2,fm,s(–),pHinf0,pGinf0,pPanc2,pDu2,pPV0,pA0,pT4,pN0(#12a,0/3; #12b2,0/2; #13,0/2; #14,0/9),H0,M(–),fstage IVa,pHM0,pDM0,pEM0であった.
術後経過:膵液漏,胆汁漏は認めなかった.術後6日目より経口摂取(蛋白塩分制限食)を開始した.術後8日目に白血球増多(12,200/μl)のため施行したCTにて偶然上腸間膜静脈内に血栓を認めた(Fig. 4).
Abdominal enhanced CT shows a thrombus within superior mesenteric vein (arrows).
AT IIIは40%と低下しており,LCによるAT IIIの産生低下に伴う血栓形成と判断し,ヘパリンとともにAT III製剤を投与し抗凝固療法を施行した.術後21日目に血栓の大部分の溶解を確認され,術後28日目に退院となった.退院1か月後外来で再度施行したCTにて血栓の完全消失を確認した.内服として分岐鎖アミノ酸製剤を投与した.
退院後経過:術後7か月後に画像上明確に視認されるようになったS3,S8に存在したHCCに対してTAIを施行した.その5か月後に同部位に再度TAIを施行した.肝機能の評価としては術前Child-Pugh score 6点(Grade A),MELD score 9点であったが,術後15か月現在 Child-Pugh score 7点(Grade B),MELD score 9点となっている.
糖尿病は生じていない.
症例2:77歳,女性
主訴:上部消化管内視鏡検査異常
現病歴:50歳時よりC型慢性肝炎のため紹介医にて経過観察されていた.胃食道静脈瘤のチェック目的にて施行された上部消化管内視鏡検査にてファーター乳頭部癌を指摘され,加療目的にて当院紹介となった.
既往歴:41歳時に出産時に輸血した.
入院時血液検査所見:肝炎ウイルスマーカーはHBsAg(–),HCV-Ab(+),抗体価38.6 C.O.I.であった.WBC 3,200/μl,RBC 400×104/μl,Hb 12.8 g/dl,Ht 37.7%,Plt 50×103/μL,PT 83%,PT-INR 1.1,APTT 33.1秒,AST 51 IU/l,ALT 32 IU/l,ChE 90 mU/ml,T.Bil 1.1 mg/dl,D.Bil 0.3 mg/dl,ALP 203 IU/l,γ-GT 32 IU/l,TP 7.0 g/dl,Alb 3.6 g/dl,BUN 11 mg/dl,Cr 0.53 mg/dl,Na 141 mmol/l,K 4.5 mmol/l,Cl 107 mmol/l,CRP 0.0 mg/dl,Child-Pugh score 5点(Grade A),MELD score 8点,CEA 7.0 ng/ml,CA19-9 84 ng/mlであった.
上部内視鏡検査所見:径2 cmの腫瘤潰瘍型の腫瘍を認め,同部位の組織診断はadenocarcinomaであった.EUSにて十二指腸浸潤,総胆管への浸潤を認めた.治療の対象となるような食道静脈瘤は認めなかった.
腹部造影CT所見:肝臓は変形し,辺縁は鈍化しLCの所見であった(Fig. 5).腹壁の静脈拡張と肝円索を中心に著明な側副血行路の発達を認め,脾腫も著しかった.食道静脈瘤,腹水は認めなかった.
Abdominal enhanced CT shows liver deformity and surface nodularity with splenomegaly suggestive of cirrhosis. The formation of collaterals around the round ligament of the liver and a dilated collateral vein in the abdominal wall (arrow) were detected.
99mTc-GSA肝シンチグラフィー:LHL15 0.872であり,肝集積は高度低下し,核種血中消褪は明らかに遅延し,肝予備能は高度低下していた.
入院後経過:ファーター乳頭部癌(T2N0M0 Stage II)と診断した.内視鏡下乳頭切除など縮小手術の適応にならないと判断し,ファーター乳頭部癌に対してはPDを施行することが根治術となるが,LCが存在しハイリスクであるうえに,根治術をしえても術後にLCにより予後が規定される可能性があり,非切除という選択肢もあることを十分に患者および家族に説明した.そのうえで患者側が切除を強く希望されたため,手術施行となった.術前は症例1同様に当科におけるLCに対する肝切除に準じて全身管理した.
手術所見:肝表面は凹凸不正が目立ち,LCに合致する所見であった(Fig. 6).術中愛護的な操作に努めたが,下腹部の大網癒着部,肝円索周囲は著明な側副血行路(細かな静脈瘤)を形成し,易出血性であった.術中極力結紮による確実な止血を心がけ,PD(亜全胃温存膵頭十二指腸切除術.胆道癌取扱い規約上における#6,#8a(一部),#12a(一部),#12b,#13,#17リンパ節を郭清)を施行した.血小板低値を考慮して,脾臓摘出術を併施した.再建はChild変法再建とし,柿田式密着吻合に膵管空腸吻合を付加した柿田変法にて膵空腸吻合した.膵管空腸吻合は5-0 PDSを8針使用した.膵の性状は正常膵で,膵管径は1 mmであったために5Fr膵管ステントを留置し,不完全外瘻とした.胆管ステント,腸瘻チューブは留置しなかった.手術時間は12時間,術中出血は 1,700 mlであった.術中に血小板40×104単位を輸血した.
The edge of the liver is dull, and its surface is granular. The liver is elastic hard with the dark color. The formation of collaterals around the round ligament of the liver was abundant.
病理組織学的検査所見:Adenocarcinoma,moderately differentiated tubular. pat Acb,20×14×11 mm,int,INFβ,ly1,v0,pn0,pPanc0,pDu1α,pT2,pN2(#13,1/2; #12b,0/2; #12c 0/2),H0,M(–),fstage III,pHM0,pDM0,pEM0であった.
術後経過:膵液漏,胆汁漏は認めなかった.術後6日目より経口摂取(蛋白塩分制限食)を開始した.術後腹水貯留,低ナトリウム血症,高アンモニア血症(術後11日目で171 μg/dl),摂食障害を来し,一旦術後28日目に退院となったが,退院後4日目に再入院を要し,全身管理に難渋した.再入院後57日目に退院となった(退院時NH3 44 μl /dl).画像上,門脈内,上腸間膜静脈内に血栓は認めなかった.内服としてスピロノラクトン,フロセミド,分岐鎖アミノ酸剤を投与した.
退院後経過:腹水は徐々にコントロール不良となり,術後12か月の現在は非代償性となっている.肝機能の評価としては術前Child-Pugh score 5点(Grade A),MELD score 8点であったが,術後12か月の現在 Child-Pugh score 8点(Grade B),MELD score 9点となっている.
糖尿病は生じていない.
一般外科領域においてLC合併手術症例は,morbidity,mortalityの増加,術中出血量増加,輸血量増加,入院期間延長などが指摘されている1)2).術式別のmorbidity,mortalityにおいては胆囊摘出,ソケイヘルニアなど低侵襲な手術では比較的低く,膵疾患,心血管手術,外傷手術など侵襲の高い手術では高率となる4).また,術前耐術能評価に関してはChild-Turcotte-Pugh,MELD scoreなどが有用とされ5)6).Child-Pugh分類 A,B,Cにてmortalityは各々10%,17%,63%7),MELDにて術後30日におけるmortalityはMELD<8で6%,MELD>20で50%という報告もある5).
1983年~2012年まで医学中央雑誌にて「肝硬変」,「慢性肝障害」,「膵頭十二指腸切除術」をキーワードとして検索したところ,4例の症例報告(うち2例は会議録)を認めたのみであり,1983年~2012年までPubMedにて「liver chirrhosis」,「pancreaticoduodenectomy」をキーワードとして検索したところ,一編32例の報告を認めたのみであった(Table 1)8)~12).したがって,LC合併症例のPDの適応基準のみならず,短期予後,長期予後も明らかでないのが現状である.
Author | Year | Age | Sex | Diagnosis for PD indication*,** | Child-Turcotte-Pugh | Intraoperative bleeding (ml) | Perioperative complication | Prognosis | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | Kitagawa 8) | 2000 | 62(Mean) | Male 4, Female 5 | Pancreas 5, Bile duct Ca. 2, Ca. of ampulla of Vater 2 | Child B 9 cases | 3 cases died | ||
2 | Noie 9) | 2004 | 60 | Male | Ca. of ampulla of Vater | not reported (Alb 3.3, T.Bil 1.4, PT 82%) | Drain infection Hospital stay: 34 days |
||
3 | Noie 9) | 2004 | 62 | Male | Bile duct Ca. | not reported (Alb 3.3, T.Bil 1.3, PT 80%) | Pancreatic fistula, bile leakage | Hospital stay: 222 days | |
4 | Yamamoto 10) | 2004 | 65 | Male | Intraductal papillary mucinous tumor | Child A | 3,084 | died due to liver failure on POD 3 | |
5 | Warnick 12) | 2011 | 56(Mean) | Male 25, Female 7 | Child A 30 cases, Child B 2 cases | one case died, 2 cased died |
|||
6 | Kyokane 11) | 2012 | 74 | Male | Neuroendocrine tumor | Child B | 1,900 | Hospital stay: 24 days |
Decompensated cirrhosis (POD 22M) |
7 | Our cases 1 | 74 | Male | Bile duct Ca. | Child A | 2,410 | Superior mesenteric vein thrombosis | Child B, HCC | |
8 | Our case 2 | 77 | Female | Ca. of ampulla of Vater | Child A | 1,700 | Hospital stay: 57 days |
Child B, intractable ascites |
* PD: pancreaticoduodenectomy, ** Ca: carcinoma
Table 1において自験例を含めて傾向をみてみると,Child-Pugh分類B症例はmortalityは33%12)~100%8)と非常に高率であり,周術期を乗り越えた症例11)においても22か月後には肝不全となっていた.つまり基本的にはPDの有用性は低いと考えるべき結果であった.Child-Pugh分類A症例に関してはmortalityは30例中1例(3.3%)と低下していた12).LC非合併例のmortality が2~3%であることを考慮すると許容範囲とも考えられるが,morbidityは67%12)と高く,同時に比較対象となっている非硬変肝群はmortality自体は0%であることにも注意を払わなければならない12).門脈圧亢進症が合併している症例はさらに死亡率が上がることが報告されていることも注意しなければならない12).また,術後3日目の死亡例10)を考慮すると決してLC非合併例と同等に扱えるとはいえないが,我々の経験したLC症例は側副路の発達を認めたがいずれもChildA症例であり,手術という選択肢も禁忌ではないと考え,手術適応と判断した.
Warnickら12)はLC合併PD26症例を膵体尾部切除症例6例ととも検討しているが,死亡例にはMELD scoreが6,8といった症例が含まれていた.また,長期成績は不明であるが,自験例のChild-Pugh分類A症例の2例は結果的にいずれもChild-Pugh分類Bとなっており,長期的には手術を契機に肝障害度が進行する可能性が示唆された.
症例2の術後経過について,症例1に比べてChild-Pugh score,MELD scoreが良好にもかかわらず,腹水貯留,低ナトリウム血症,高アンモニア血症など肝不全徴候が遷延したのは,側副血行路が症例1に比べ発達しており,手術により側副路が結果的に郭清されたこと,血小板増加のために施行した脾臓摘出も結果的には側副路血流の減少を促進し,術後門脈圧が高まったためと推察した.同時期に生じた摂食障害も腹水貯留,高アンモニア血症と同様に門脈圧亢進のために生じた胃腸の粘膜層あるいは粘膜下層の血管拡張,しいては粘膜の浮腫を来したための胃腸症の一症状と考えた.
LC合併の胆膵疾患に対して根治術としてPDが必要になった際,術後肝不全をいかに防止するかがmortalityに直結する最重要課題であるが,その際にLC非合併症例と比べて考慮すべきと考える点を挙げる.1)リンパ節郭清.LC非合併症例と同等のリンパ節郭清が可能か.もしくはD1郭清で根治術となるうる疾患を対象とするべきなのか.自験例における2例はともに,主病巣を切除することを主体とし,リンパ節郭清に関しては術後リンパ漏を危惧し,1群+αの郭清のみを施行した.結果的に治癒切除,相対的治癒切除となりえた.しかし,自験例(ファーター乳頭部癌症例)のごとく,門脈圧亢進症例あるいは側副血行の発達した症例は肝十二指腸間膜の徹底した郭清を施行することにより発達した側副路を遮断することになり,容易に腹水出現,肝障害悪化をすすめることになることが予想される.2)術中出血のコントロール.LC合併症例は門脈圧亢進,凝固能の低下による出血量の増加と輸血をした際のさらなる肝機能の悪化が憂慮される.確実な止血とリンパ管の閉鎖とともに,後下膵十二指腸動脈の先行処理など出血量は可能なかぎり減らすことが重要であると考えられる.3)術後周術期感染症の予防.感染症は肝不全のリスクファクターとなりうると考える.LC非合併症例の如く,抗菌剤の予防的投与の至適投与期間は不明である.4)術前肝予備能,耐術能の評価.現在はChild-Pugh分類,MELDなどの有用性が示されているが,LC合併のPD症例においてはChild-Pugh分類A症例,MELD score 8でも死亡例が認められたため,新たな評価判定が望まれる.LCのみの障害度のみならず,対象疾患の種類(膵癌,胆管癌,ファーター乳頭部癌,胆囊癌,十二指腸癌など),進行度(手控えた範囲の郭清のみで根治術になりうる)の評価も重要と考えられる.また,LCの評価目的の肝生検も一考の価値がある.
現時点においてLCを合併症として有する症例に対しPDを施行する場合,短期的には術中出血増加,門脈血栓,肝硬変非代償化など重篤な合併症が生じる可能性がある.中長期的にも肝硬変非代償化,HCC発生などリスクがある.そのため手術侵襲(手術適応とリンパ節郭清範囲)と全身状態,原疾患とLC自体の予後を考慮したバランスのとれた慎重な判断を,また注意深い術前処置,術後経過観察を要すると考えられた.多施設にてさらなる症例の蓄積を積み,予後予測因子の解析と手術適応のガイドライン作成が必要と考えられた.
利益相反:なし