The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
Bowel Obstruction after Appendectomy Suspected to be Caused by an Internal Hernia in the Paracolic Gutter of the Ascending Colon
Tomohiro SugiyamaHidenori TakaharaMotoyasu TabuchiByonggu AnnTadashi Yokoyama
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2014 Volume 47 Issue 10 Pages 644-650

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Abstract

症例は虫垂炎にて開腹歴のある73歳の女性で,受診約5時間前より特に誘引なく突然の右下腹部痛を主訴に近医を受診し,結腸憩室炎の疑いで当院紹介となった.理学所見上,右下腹部に手拳大の腫瘤が触知され,同部に強い圧痛を認めた.造影CTでは上行結腸外側に著明に拡張し緊満した小腸ループを認めた.我々は内ヘルニアに伴う絞扼性小腸イレウスを疑い緊急開腹術を施行した.術中所見では回腸が約30 cm右傍結腸溝の腹膜窩に嵌入しており,文献上傍上行結腸窩ヘルニアと分類される.傍上行結腸窩ヘルニアは非常にまれであり,文献上のデータと若干の考察を加えてこれを報告する.

はじめに

内ヘルニアは比較的まれな疾患であるが1),なかでも後腹膜のくぼみに腹腔内臓器が嵌入する腹膜窩ヘルニアは非常にまれであり,嵌入部位は多様でその成因もいまだ明らかでなく非常に興味深い.この度,我々は右傍結腸溝にできた腹膜窩に嵌入した内ヘルニアの1例を経験した.文献上本症例は傍上行結腸窩ヘルニアに分類される.本症例は本邦7例目(症例報告で4例目)の報告であり,極めてまれな内ヘルニアの1例と考えられたためこれを報告する.

症例

患者:73歳,女性

既往歴:高コレステロール血症,糖尿病

手術歴:左鼠径ヘルニア,胆囊炎,虫垂炎

右下腹部に傍腹直筋切開の手術痕あり.虫垂炎の術後瘢痕と思われるが20年以上前に他院で施行されたとのことであった.

現病歴:2013年1月,受診5時間前より特に誘引なく突然の右下腹部痛を自覚した.嘔気嘔吐を伴い近医を受診し,結腸憩室炎疑いにて当院紹介受診となった.

入院時現症:体温34.3°C,血圧120/70 mmHg,脈拍数72回/分 整.顔面苦悶様,冷汗著明であった.腹部所見としてMcburney pointより2横指頭側に手拳大の可動性のある柔らかい腫瘤を認め,同部に強い圧痛を認めた.腹膜刺激症状は認めなかった(Fig. 1).

Fig. 1 

Physical findings on admission showing a 3×4×6-cm mass in the lower right abdomen.

血液検査所見:CRP 0.02 mg/dl,WBC 14,900/μlと白血球の上昇を認めたが,その他有意な所見は認めなかった.

腹部造影CT所見:上行結腸右側に拡張した小腸ループを認めた.血管群と腸間膜脂肪層が限局的に集簇し囊状構造を呈していた.拡張した小腸ループの一部には造影不良域を認めた.上行結腸は虚脱し左側に圧排されていた(Fig. 2).

Fig. 2 

Contrast-enhanced multi-detector CT findings show a closed loop-shaped intestine and a caliber change in the right lower abdomen that had pushed the ascending colon leftward. Contrast-enhanced findings of part of the intestine are poorly contrasted. Short arrows, poorly contrasted area of the intestine. Long arrows, displaced ascending colon. Circle, caliber change on the intestine.

以上より,右側腹部の内ヘルニアに伴う絞扼性小腸閉塞症が疑われたため,緊急開腹手術を行った.

手術所見:全身麻酔下にて中腹部正中切開にて開腹した.腹腔内は漿液性の腹水が少量貯留していた.右下腹部,盲腸の周囲には腹壁と大網の強固な癒着を認めた.癒着の頭側には上行結腸外側から後腹膜側に向けて小腸ループが嵌入していた(Fig. 3, 4).嵌入した小腸はトライツ靭帯より220 cm肛門側から約30 cmの回腸であった.絞扼を解除した腸管は漿膜面が暗紫色に変色していたが腸管壊死には至っておらず腹腔内へ還納した(Fig. 5).ヘルニア門は2横指程度であり,ヘルニア囊は後腹膜が進展しくぼみを呈したものであった.後腹膜に異常な裂孔は認めなかった.ヘルニア囊と脱出腸管の間に癒着は認めなかった.ヘルニア門は開放し手術を終了した.

Fig. 3 

Diagram of the intraoperative findings.

Fig. 4 

Intraoperative findings showing a hernial orifice in the lower right abdomen. The intestine had stuck into the para-ascending colic fossa. The right figure shows the laparotomy findings. Arrows, hernial orifice and the stuck ileum. The left figure shows the hernial orifice after reduction of the internal hernia.

Fig. 5 

The reduced intestine had previously been ileum, 30 cm in length.

術後経過:大きな合併症なく経過し,術後第11病日に軽快退院された.

考察

内ヘルニアは腹腔内臓器が腹腔内の窩,陥凹あるいは裂孔に入り込む状態と定義され,なかでも後腹膜のくぼみに腹腔内臓器が嵌入する状態を腹膜窩ヘルニアと分類する2).腹膜窩ヘルニアはまれな病態でありその発生については一定した見解がないが,腹膜に生理的に存在するとされる下十二指腸陥凹やS状結腸陥凹などの腹膜陥凹3)に対し,先天的な結腸と後腹膜への固定異常,結腸と後腹膜の部分的癒合不全,あるいは後天的に手術,外傷,炎症などの既往に伴い後腹膜の脆弱性を伴うことでへルニア囊が形成されるものとされている4)~7).腹膜窩ヘルニアはヘルニア囊の位置によりさらに分類され,傍上行結腸窩ヘルニアは上行結腸外側にヘルニア門があり,傍結腸溝沿いにヘルニア囊が形成されるものとされている8)~10)

天野4)による腹膜窩ヘルニアの1993年まで151例の分類と集計によると腹膜窩ヘルニアは分類上,傍十二指腸窩(87例57.6%)が最も多く,ついで盲腸周囲窩(23例15.2%),子宮間膜窩(13例8.6%),S状結腸間膜窩(11例7.3%),網囊孔(10例6.6%),横行結腸間膜窩(6例3.9%),傍上行結腸窩(1例0.7%)とされている.1993年以降も腹膜窩ヘルニアの症例報告は散見されるものの医中誌Webにより「傍上行結腸窩ヘルニア」をキーワードとした1983年1月から2013年12月までの検索では症例報告8)~10),会議録を含めわずかに6例を認めるのみであり,腹膜窩ヘルニアのなかでも傍上行結腸窩ヘルニアは極めてまれであるといえる(Table 1).

Table 1  Reported Japanese cases of internal hernia in the para ascending fossa
No Author/Year Age/Gender Herniated organ Anamnestic of a laparotomy Necrosis of the herniated organ Sugical procedure
1 Teraoka8)2006 67/male ileum no yes partial resection of the ileum and closure of the hernial orifice
2 Yamaguchi9)2009 68/female intestine yes no closure of the hernial orifice
3 Taga10)2012 81/male ileum no no closure of the hernial orifice
4 Our case 73/female ileum yes no opening of the hernial orifice

一般に傍上行結腸窩ヘルニアの発生には盲腸あるいは上行結腸の右後側にしばしば存在しているとされる後盲腸陥凹3)が誘引となっているものと考えられる.さらに,本症例においては発症20年以上前に開腹虫垂切除術が施行されており,右下腹部の大網と腹壁の癒着は虫垂炎の炎症および手術操作により形成されたものと考えられるため,右下腹部~側腹部の後腹膜には炎症の既往に伴う脆弱性(ヘルニア囊へと進展しやすい素地)があったものと考えられる.つまり後盲腸陥凹に虫垂炎の術後癒着の要素が加わることによりヘルニアが形成されたものと推測される.

後盲腸陥凹に嵌入するタイプのヘルニアには傍結腸溝沿いにヘルニア囊が形成される傍上行結腸窩ヘルニアに対し,盲腸周囲に形成される盲腸後窩ヘルニア(外側型盲腸周囲ヘルニア)が報告されている(Fig. 6).盲腸後窩ヘルニアは医学中央雑誌刊行会Webにて50例を超える報告があり,上行結腸窩ヘルニアと比べた頻度には大きな差が認められている.推論ではあるが一般に盲腸は結腸と後腹膜との間に固定がないことに対し上行結腸は後腹膜と固定されていることから,同部位に腹膜窩ヘルニアが発生する際にはより空間的な自由度が高い盲腸足側にヘルニア囊が形成されやすいと考えられ,S状結腸間膜や子宮間膜などと比較してもその空間的自由度の低さが腹膜窩ヘルニアのなかでも傍上行結腸窩ヘルニアが希少である要因と考える.

Fig. 6 

The diagram of the internal hernia of the retrocecal fossa. ① The arrow shows the hernia of the para-ascending colic fossa. The ileum invaginates the retrocecal recess from the cranial side of the recess. ② The arrow shows the hernia of the retrocecum. The ileum invaginates the retrocecal recess from the caudal side of the recess.

腹膜窩ヘルニアは一般に特徴的所見に乏しく術前診断は困難であるとされる10).傍上行結腸窩ヘルニアの症例報告例ではいずれも術前に確定診断には至っていない.しかしながら,retrospectiveな検討では診断におけるCTの有用性が指摘されており,寺岡ら8)はCTにて上行結腸外側から背側にかけて嵌頓した小腸陰影が描出されることが本症例に特徴的な所見と考えられると述べている.近年ではmulti detected CTの普及に伴い薄いスライス圧で比較的容易に立体画像を得られるようになり,嵌入腸管と盲腸・上行結腸との位置関係の評価が可能となった.また,腸管や血管の集簇像からヘルニア門の位置の特定が可能であり診断に有用であるとされている11)12)

本症例においては疾患の特異性から確診に至らなかったものの,CT所見にてヘルニア門の位置および嵌入腸管の位置関係を把握できたことは手術操作上非常に有用であった.一方で本症例では行わなかったが,イレウス管造影にて閉塞部の所見や注腸造影での盲腸,上行結腸の内上方への圧排所見が診断に有用であったとの報告もあり13),また腫瘤を呈している場合はエコーにてto and froを伴う腫瘤陰影を確認した例14)など報告されているが,いずれもイレウスの存在診断として有用であり,嵌入腸管と結腸や盲腸との位置関係などの把握は困難であると考えられた.

文献上,治療に関しては腹膜窩ヘルニアは本症例のように腸管の脱出・嵌入に伴いイレウス症状で明らかとなり手術加療を要するものが多いとされる7).近年ではイレウスの手術は術前に腸管壊死がなく,腸管内の減圧が良好,腹腔内の癒着が軽度,さらにバンドによる狭窄など手術操作が容易な場合に腹腔鏡手術を施行される例が散見されるがその適応はあいまいである15).一方で腹膜窩ヘルニアによるイレウスは術前に開腹既往のないものや軽度の癒着のみが予想される症例も多く,必ずしも緊急性を要さないことも多いことから,診断および治療に低侵襲な腹腔鏡手術を先行すべきとするものがある.北川ら16)は開腹歴のないイレウスに対するアルゴリズムを提案し,審査腹腔鏡や治療的腹腔鏡手術を先行し,腸管壊死や確定診断不可である場合,また技術的に不可能な場合を除き治療的腹腔鏡手術を行うべきとしている.

また,ヘルニア還納後,ヘルニア門の処理についても一定した見解がなく,前述した3例の上行結腸窩ヘルニアの報告例ではそれぞれヘルニア門の縫合閉鎖が行われているが,他の腹膜窩ヘルニアの治療例ではヘルニア囊内に大網を充填する例17)やヘルニア囊を開放して治療しえている例も認めている18).本症例では腸管の再嵌入やヘルニア囊内へ水腫,血腫,膿瘍等の形成の可能性を考えたことからヘルニア門は開放として手術を終了し,良好な結果を得た.そのため結果的に手術操作自体は容易であり腹腔内に大きな癒着を認めずワーキングスペースがとりやすかったこと,術前に腸管壊死が予想されなかったことなどから腹腔鏡手術も可能であったと考える.

腹膜窩ヘルニアは非常にまれな病態であり術前診断は困難とされるが,本疾患を念頭に置くことにより,症例によっては腹腔鏡を含む低侵襲な治療も考慮されうるものと考える.

利益相反:なし

文献
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