The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
Primary Extramedullary Plasmacytoma of the Colon
Shoshiro OeToshikazu YagiKatsuhiro AndoShizuki TakemuraMitsuaki Ishida
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2014 Volume 47 Issue 10 Pages 637-643

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Abstract

症例は62歳の男性で,便秘を主訴に来院し大腸内視鏡検査で上行結腸に全周性の腫瘍による狭窄を指摘された.生検ではCD79a陽性,CD 138陽性の異型細胞の増殖を認め,形質細胞腫の疑いであった.尿中Bence Jones蛋白は陰性で,血清免疫グロブリンの異常は認めず,骨病変を含む臓器障害は認めなかった.FDG-PETでは,上行結腸に巨大な腫瘤を認め,同部位に著明な限局性異常集積を認めた.以上により,結腸原発髄外性形質細胞腫の術前診断で右半結腸切除術を施行した.病理組織学的診断はIgGκ型の形質細胞腫であった.結腸原発の髄外性形質細胞腫では手術が第一選択であり,可能なかぎり手術による完全切除を考慮すべきである.

はじめに

形質細胞腫瘍は,Bリンパ球系細胞の最終分化細胞である形質細胞が単クローン性,腫瘍性に増殖し,均一な免疫グロブリンを産生する疾患である1).主として骨髄に発生し,多くの場合,多発性骨髄腫の形態をとる.髄外性形質細胞腫は,骨以外に形質細胞がクローナルに髄外腫瘤を形成したものである.我々は,結腸原発の髄外性形質細胞腫の1例を経験したので報告する.

症例

症例:62歳,男性

主訴:食欲不振,便秘

既往歴:虫垂切除術,急性肝炎,高血圧,脳梗塞

家族歴:特記すべきことなし.

現病歴:2012年5月頃より,便秘と食欲低下を自覚し当院消化器科を受診した.大腸内視鏡検査で肝彎曲部の結腸に全周性の腫瘍による狭窄を認めた.生検ではN/C比の高い円形細胞の増殖を認め,形質細胞腫の疑いと診断された.

初診時現症:身長167.5 cm,体重62.6 kg,体温35.7°C,血圧114/84 mmHg,脈拍65回/分,整.眼瞼結膜に貧血を認めず,表在リンパ節を触知しなかった.腹部は平坦で,右上腹部に可動性良好な手拳大の腫瘤を触知した.

初診時血液検査所見:血清免疫グロブリンは正常範囲内であり,貧血,腎機能障害は認めず,尿中Bence Jones蛋白は陰性であった(Table 1).

Table 1  Laboratory data on admission
Ca 9.5​ (8.5–10.2) mg/dl
Cre 0.65​ (0.6–1.1) mg/dl
BUN 13.5​ (8–20) mg/dl
CEA 1.1​ (<5) ng/dl
CA19-9 <2.0​ U/ml
sIL-2R 427​ (122–496) U/ml
TP 7.2​ (6.5–8.2) g/dl
Alb 59.4​ (58.5–71) %
α1 2.7​ (1.6–3.4) %
α2 7.4​ (5.5–10) %
β 8.9​ (7–11) %
γ 21.6​ (11–22) %
IgG 1,860​ (870–1,700) mg/dl
IgA 133​ (110–410) mg/dl
IgM 32​ (33–190) mg/dl
IgE 5.7​ (0–9) mg/dl

sIL-2R: soluble interleukin-2 receptor

大腸内視鏡検査所見:肝彎曲部付近の上行結腸に全周性の1型腫瘍による狭窄を認めた(Fig. 1).

Fig. 1 

Colonoscopic examination reveals a type 1 tumor in the ascending colon.

注腸造影X線検査所見:上行結腸に全周性の隆起性病変による狭窄像を認めた.

腹部造影MRI所見:上行結腸に巨大な腫瘤(径65 mm,上下119 mm)を認める.腫瘤はよく造影され内部に壊死は認めず,右腎,肝臓,十二指腸,腹壁と接するが浸潤は認めなかった.肝転移,リンパ節腫大はなかった.

FDG-PET所見:上行結腸に著明な壁肥厚を認める.同部位にはSUVmaxで1時間後8.6,2時間後10.4の著明な限局性異常集積を認める(Fig. 2).

Fig. 2 

Markedly accumulated FDG (arrowhead) in the colon, shown by FDG-PET exami­nation.

骨髄生検(胸骨穿刺吸引細胞診):細胞形態や細胞分画に異常所見は認めなかった.

細胞診検査所見:N/C比の高い円形細胞の増生が見られ,腫瘍細胞はcytokeratin(CK)陰性,LCA陽性,vimentin陽性,CD3陽性,CD20陰性,CD79a陽性,CD138陽性であり,形質細胞腫の疑いであった.

以上の所見から,上行結腸に位置する髄外性形質細胞腫の術前診断で手術を施行した.

手術所見:肝転移,腹膜播種は認めず,胃,脾臓,小腸にも異常所見は認めなかった.可動性良好な10 ‍cm大の充実性腫瘤を上行結腸に認め,右半結腸切除術を施行した.手術時間は1時間41分,出血量は7 gであった.

切除標本:上行結腸に1型の腫瘍を認めた.腫瘍の表面には凹凸があり,割面は黄色であった.腫瘍の大きさは10×9×6.5 cmで,弾性硬であった(Fig. 3).

Fig. 3 

Surgical specimen (10×9×6.5 cm).

病理組織学的検査所見:形質細胞様異型細胞のびまん性で密な増生が見られる(Fig. 4A).形質細胞様の異型細胞の増生は漿膜下層に及び,一部は漿膜面に浸潤している.脈管侵襲は軽度見られるが,静脈侵襲は認めない.摘出されたリンパ節には形質細胞様異型細胞は認めなかった(0/26).CD138免疫染色検査では,腫瘍細胞の細胞膜に一致して陽性所見を認めた(Fig. 4B).

Fig. 4 

A: The histopathology of the resected tumor shows diffuse proliferation of atypical plasma cells (HE, ×400). B: Immunohistochemical findings show CD138 staining (×200). C: In situ hybridization showed that most of the tumor expresses κ chain mRNA (×100). D: On the contrary, there was no expression of λ chain mRNA (×100).

In situ hybridization所見:ほとんどの腫瘍細胞にκ鎖mRNAの発現を認める(Fig. 4C).一方,λ鎖mRNA発現は全ての腫瘍細胞で認めず(Fig. 4D),κ鎖の単クローン性の増殖と診断した.

術後経過:術後経過は良好で第25病日に退院した.術後補助化学療法,および,放射線治療は施行しなかった.現在,術後6か月間無再発生存中である.

考察

髄外性形質細胞腫は,骨および骨髄以外の臓器や組織に発生する形質細胞腫で,全形質細胞腫の3~5%を占める1).発生部位の約90%は上気道(口腔,鼻咽頭,副鼻腔,咽頭)であるが,消化管,中枢神経系,膀胱,甲状腺,乳腺,精巣,副甲状腺,リンパ節などにも発生する.

Alexiouら2)の報告では,髄外性形質細胞腫869例の原発部位は上気道が714例(82.2%),上気道以外が155例(17.8%)であった.消化管原発は62例(7.1%)であり,その内訳は胃17例,結腸10例,盲腸9例,回腸8例,膵臓6例,直腸5例,十二指腸3例,空腸2例,肝臓2例であり,大腸原発は全症例の0.028%を占めた.我々が,医中誌Webを用いて「大腸形質細胞腫」,「髄外性形質細胞腫」,「extramedullary plasmacytoma」のキーワードで1983年から2013年の期間を検索した結果,大腸原発の髄外性形質細胞腫の本邦報告例は自験例を含めて6例であった(Table 23)~7).男女比は5:1で男性に多く,平均年齢は54歳,部位では直腸3例,回盲部1例,上行結腸1例,横行結腸1例であった.症状は血便4例,腹痛1例,便秘1例であり,腫瘍径の平均は4.1 cm,1型が4例で最も多かった.病型はIgGκ型が3例,IgGλ型が2例,IgA型はなかった.治療は手術単独が5例,手術・放射線併用が1例であり,放射線単独はなかった.リンパ節転移は6例中1例にしか認めなかったが,藤盛ら4)は諸外国からの報告も含めた26例を検討し,リンパ節転移について記載のあった17例中10例にリンパ節転移を認めたと報告している.

Table 2  Japanese cases of extramedurally plasmacytoma in the colon
Case Author/Year Age/Sex Chief complain Location Size Type Histological finding Treatment LN metastasis Origin Prognosis
1 Terada3)1977 47/F bloody diarrhea rectum (Rb) 35×35 mm type 1 pyronine stain (+) Mile’s operation positive unknown 1M dead
2 Fujimori4)1993 18/M melena rectum (Rb) 10 mm polyp λ chain (+) EMR→wedge resection none IgGλ alive
3 Yanagimoto5)2001 78/M abdominal pain transverse 60×50×30 mm type 1 κ chain (+) EMA (+) Rt. hemicolectomy none IgGκ 1M dead
4 Hashiguchi6)2004 47/M bloody diarrhea rectum 20 mm granuloma λ chain (+) EMR→Rad.Tx none IgGλ 6M alive
5 Tajima7)2010 74/M stool occult blood cecum 20 m type 1 κ chain (+) CD3 (–) CD20 ‍(–) ilio-cecul resection none IgGκ 18M alive
6 Our case 62/M constipation ascending 10×90×65 mm type 1 κ chain (+) CD138 (+) CD79a (+) Rt. hemicolectomy none IgGκ 6M alive

Rad. Tx: Radiation therapy

2003年にInternational Myeloma Working Group(IMWG)8)は,骨髄腫および関連疾患の診断基準を発表した.この診断基準では,①monoclonal gammopathy of undetermined significance(MGUS),②無症候性骨髄腫,③症候性多発性骨髄腫,④非分泌型骨髄腫,⑤骨の孤立性形質細胞腫,⑥髄外性形質細胞腫,⑦多発性の孤立性形質細胞腫,⑧形質細胞白血病,の8型に分類されている8).一方,WHO分類第4版では,形質細胞腫は成熟B細胞腫瘍に属している9).診断基準としては,①血清,尿中にM蛋白を検出しない(少量検出することがある),②クローナルな形質細胞による髄外腫瘤,③正常骨髄,④正常な全身骨所見,⑤臓器障害がないこと,の五つの条件を満たす必要がある4).加えて,確定診断には免疫組織学的手法による形質細胞の単クローン性増殖の証明が必要10)である.自験例では,血清蛋白電気泳動検査にてM蛋白を認めず,FDG-PETで上行結腸のみに異常集積像を認めた点,骨髄生検で異常がなく,レントゲン像が正常骨所見であり,血液検査で貧血,高カルシウム血症,腎障害を認めないことにより,髄外性形質細胞腫と診断した.補助診断として,腫瘍組織のκ鎖とλ鎖のin situ hybridizationを施行し,腫瘍細胞にκ鎖mRNAの発現を認め,IgGκ型の髄外性形質細胞腫と診断した.

髄外性形質細胞腫の治療方針は,上気道と上気道以外では異なる.髄外性形質細胞腫は放射線感受性が高い腫瘍であり,上気道原発では放射線治療単独での局所制御率は93~100%11)12)である.そのため,頭頸部などの根治的切除により機能的,美容的欠損を残す領域では,放射線治療が第一選択である.Alexiouら2)の報告では,上気道原発の44.3%が放射線治療を行い,21.9%が手術,26.9%が手術・放射線併用であった.このうち,手術・放射線併用が手術単独と放射線単独に比べて生存率と無再発生存率ともに有意に良かったと報告されている.一方,上気道以外に対しては手術が55.6%,放射線が11%,手術・放射線併用が19.8%であり,三つの治療法に生存率,無再発生存率に差はなかった2).しかし,この報告は1905年から1997年の症例を対象にしており,放射線治療が可能でなかった時期が含まれ,症例の背景に偏りがある点が指摘されている.その点を踏まえて,英国血液学会の髄外性形質細胞腫のガイドライン(2004年)13)では,手術に関する推奨グレードBとして,①放射線単独は頭頸部の髄外性形質細胞腫に用いる,②頭頸部以外では可能なかぎり手術による完全切除を考慮すべきであると記載されている.一方,術後補助化学療法に関しては,エビデンスはなく,①補助化学療法は腫瘍径が5 cmより大きい場合に考慮すべきである,②化学療法は再発,転移時に多発性骨髄腫に準じて行う,が推奨グレードCとして記載されている.我々の症例では,腫瘍径が5 cmを超えており,一部に漿膜浸潤を認めた点により,術後の補助化学療法を考慮した.病理医と血液内科医と協議した結果,術後2か月の時点で再度FDG-PETを施行したが,腫瘍の遺残は認めず,補助化学療法は施行しなかった.直腸では術後放射線治療が可能であるが,結腸では照射野に小腸が含まれるため放射線治療は困難であることが多く,可能なかぎり手術による完全切除を考慮すべきである.

髄外性形質細胞腫の予後に関して,上気道の髄外性形質細胞腫の22%に再発を認め,16.1%に多発性骨髄腫への移行を認めた.これに対して,上気道以外の髄外性形質細胞腫では21.2%に再発,14.1%に多発性骨髄腫への移行を認め,64.7%は治療後の再発を認めなかった2).このように上気道と上気道以外で予後に差は認めない.放射線治療後の局所再発率は5%未満であり,遠隔転移は2~3年以内に起こる場合が多く,遠隔転移を起こす確率は30%未満である13).髄外性形質細胞腫の少なくとも,2/3の症例は10年以上生存し,予後は良好である.

大腸原発の髄外性形質細胞腫では手術が第一選択であり,結腸では手術的に完全に切除することが重要である.

利益相反:なし

文献
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