The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
Intestinal Obstruction Due to Vitelline Vascular Remnants Treated by Single-incision Laparoscopic-assisted Surgery
Hironori KobayashiKatsunari MiyamotoShiro NakaiMikio FujimotoYuujiro YokoyamaYoshihiro SakashitaNaoki MuraoToshinori HiranoKenjiro OkadaFumio Shimamoto
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2014 Volume 47 Issue 11 Pages 719-725

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Abstract

症例は37歳の男性で,腹痛,嘔吐を主訴に受診した.腹部造影CTでイレウスと診断され入院したが,保存的治療で軽快した.開腹手術歴がないイレウスで,以前より腹痛を繰り返していたため,診断精査目的にて単孔式腹腔鏡下手術を行った.回腸末端より約40 cm口側の回腸から右内側臍ヒダにつながる索状物が見られ,これがイレウスの原因と考えられた.切除された索状物の術後病理組織学的検索で血管構造を認めたため卵黄血管遺残と診断した.本邦でのMeckel憩室を合併しない卵黄血管遺残症例の報告は極めてまれであり,腹腔鏡下手術での報告は本症例のみである.術前診断が困難なMeckel憩室を合併しない卵黄腸管遺残によるイレウスに対して腹腔鏡下手術が有用であったので若干の文献的考察を加え報告する.

はじめに

卵黄血管遺残(vitelline vascular remnants)は比較的まれな疾患で,胎生期の卵黄動静脈の遺残でありMeckel憩室に合併することが多い1).今回,我々はMeckel憩室を合併しない卵黄腸管遺残によるイレウス症例を経験した.術前診断が困難で腹腔鏡下に手術を施行し有用であったので,若干の文献的考察を加え報告する.

症例

患者:37歳,男性

主訴:腹痛,嘔吐

家族歴:父に胃癌,母に子宮頸癌.

既往歴:特記事項なし.開腹手術歴なし.

現病歴:4年前から時折,腹痛があった.腹痛および嘔吐を認め救急受診した.

現症:身長184 cm,体重69 kg.腹部は膨満し,全体に圧痛を認めた.筋性防御なし.

血液検査所見:白血球10,120/μl,好中球分画84.1%,CRP 0.15 mg/dlと炎症所見を認めた.その他に異常所見を認めなかった.

腹部X線検査所見:小腸の拡張像を認めた.

腹部造影CT所見:空腸から回腸に広範囲の拡張を認め,腸管壁肥厚所見は認めず,小腸イレウスの所見であった.明らかな閉塞機転は不明であった(Fig. 1).

Fig. 1 

Abdominal CT shows an intestinal obstruction.

開腹手術歴はないが,明らかな内ヘルニアの所見や絞扼所見なども認めず,癒着性イレウスを疑い,絶飲食および補液にて保存的加療を行いイレウスは軽快した.開腹既往がないイレウスであり,以前より腹痛を繰り返していたため原因精査目的にて手術を行った.

手術所見:全身麻酔および硬膜外麻酔下にて単孔式腹腔鏡下手術を施行した.臍部に小縦切開を加えGelPortを装着した.腹腔鏡を挿入し腹腔内を観察すると右内側臍ヒダと小腸との間に索状物を認めた(Fig. 2a~c).索状物を右内側臍ヒダ付着部で切離し小腸とともに創外に引き出した.索状物は回腸末端から約40 cm口側の部位で腸間膜前面から回腸前面に癒着したようになり,最終的に腸間膜の対側から伸びていた.索状物を腸管付着部の根部で切除した.腹腔内を慎重に観察したが,他に癒着や索状物などイレウスの原因となる病変は認めなかった.

Fig. 2 

(a) Intraoperative findings show a band extending from the ileum, 40 cm proximal to the end of the Bauhin’s valve (b), and adhering to the right medial umbilical fold (c).

病理組織学的検査所見:索状物には粘膜上皮は認めず,動脈,静脈の血管構造が認められ卵黄血管遺残と診断した(Fig. 3a, b).

Fig. 3 

a: Macroscopic picture of the band, b: Pathologically, the band was found to contain an artery and vein.

術後経過:経過良好で5日目に退院した(Fig. 4).現在術後,約2年経過するが,腹痛やイレウスの再燃を認めていない.

Fig. 4 

Most of the scar in the umbilical region was masked by the umbilicus.

考察

卵黄腸管は胎生3週には卵黄囊と中腸を連絡しており,胎生5週頃より退化しはじめ,胎生8週頃には吸収され消失する.また,卵黄動脈は大動脈より左右2本に分枝し原始腸管,卵黄腸管および卵黄囊を栄養しており2),胎生8週には卵黄腸管の消失に伴い,左卵黄動脈は消失し,右卵黄動脈は上腸間膜動脈となる3).これらの過程が障害されると,卵黄腸管遺残や卵黄血管遺残などさまざまな遺残症が発生する1)3)

卵黄腸管遺残の発生頻度は全人口の1.5~2%とされており4),その中ではMeckel 憩室の頻度が高い1).卵黄血管遺残はMeckel憩室に合併することが多く,Rutherfordら3)は148例の小児Meckel憩室中12例に卵黄血管遺残を認めたと報告しており,橋本ら5)は全出生に対する卵黄血管遺残の頻度は0.1~0.4%程度と推察している.本症例のようにMeckel憩室を合併しない卵黄血管遺残に関しては,Smithyら6)は卵黄血管遺残12手術症例のうちMeckel憩室は6例に認めなかったと報告しているが,本邦報告例については極めてまれで,医学中央雑誌で1983年から2013年11月までに「卵黄血管遺残」,「mesodiverticular band」をキーワードとして検索し,さらにその関連文献を我々が検索しえた範囲では5例の報告のみであった(Table ‍15)7)~10).年齢は小児期の発症が多く,全例,嘔吐を認めイレウスの状態であった.術前診断は,腸捻転や腸重積,索状物による絞扼性イレウスなどを疑っていた.術式は全例,開腹手術であり,病理組織学的検査所見は1例を除き,動脈および静脈の存在を証明していた.遺残形式に関しては左卵黄動脈遺残,右卵黄動脈遺残および両卵黄動脈遺残症例のいずれも認めた.

Table 1  Reported cases of vitelline vascular remnants without Meckel’s diverticulum in Japan
No. Author Year Age Gender Compliant Preoperative diagnosis Location Procedure Operation Pathology Which VVR
1 Kitamura7) 1983 3 months M vomit intestinal volvulus 40 open ileocecal resection ND ND
2 Hashimoto5) 1988 5 years M abd pain, vomit strangulated ileus ND open band resection artery and ‍vein Lt
3 Uchida8) 1993 4 years M abd pain, vomit ileus ND open band resection artery and ‍vein Rt
4 China9) 1994 19 months F abd pain, vomit intussusceptionor 10 open band resection artery and ‍vein ND
5 Kimura10) 2000 64 years M abd pain, vomit strangulated ileus 5 open band resection artery and ‍vein Lt Rt
6 Our case 37 years M abd pain, vomit adhesive intestinal obstruction 40 laparoscopic band resection artery and ‍vein Rt

M: male, F: female, Location: distance from the ileocecal valve (cm), ND: not described, VVR: vitelline vascular remnants

左右の卵黄動脈の消失機転に異常があると,腸間膜とMeckel憩室または臍後壁との間に索状物の遺残が認められる.Rutherfordら3)によると右卵黄動脈が遺残すると上腸間膜動脈より分枝しMeckel憩室に達し,左卵黄動脈が遺残すると腹部大動脈より分枝し,Meckel憩室に達するとしている.また,索状物の走行が腸間膜の前面であれば右卵黄動脈の遺残,後面であれば左卵黄動脈の遺残であると考えられている5)8)11).本症例においては,索状物の腸管側は腸間膜および周囲回腸との癒着を認めており,明らかな起始部位は不明であったが癒着は腸間膜前面に認め,腸間膜前面より起始しているものと考えられた.そのため,本症例は右卵黄動脈の遺残であると考えられた.また,索状物の腹壁側は右内側臍ヒダにつながっていたが,術中所見では索状物がヒダに癒着しそのまま臍後壁に向かっているように見え,実際は臍後壁まで交通していたものと考えられた.

卵黄血管遺残の診断に関しては,組織学的に索状物内に動脈を確認できることよりなされる12)13).本邦でのMeckel憩室を合併しない卵黄血管遺残の報告は極めて少ないが,木村ら10)も述べているように,過去に索状物が原因のイレウスに対して手術を行った症例の中には,実際には索状物が卵黄血管遺残であった症例がある可能性も否定できず,今後,同様の症例に対して積極的に索状物の走行および組織学的検索を行うことが,本例の集積,解析には重要であると考えられた.

Meckel憩室の多くは無症状で経過するが,症状として成人発症ではイレウスが多く,Rutherfordら3)はMeckel憩室のイレウスの発生機序について五つに分類している.そのうちでは卵黄血管遺残によるイレウスが多かった.本症例はMeckel憩室を合併しない卵黄血管遺残であったが,イレウスの原因は卵黄血管遺残によるものであったと考えられる.術後には腹痛やイレウスの再燃を認めておらず,以前から時々認めた腹痛も卵黄血管遺残による小腸の通過障害が原因であった可能性があると考えられた.我々がまとめたMeckel憩室を合併しない卵黄血管遺残症例に関しても全例がイレウスにて発症していた.

本症例ではイレウスは保存的に軽快したが,癒着の原因となるような開腹既往や虫垂炎などの腹腔内炎症疾患の既往がなく,悪性疾患の可能性も考え,診断目的も含めて単孔式腹腔鏡下に手術を行った.近年,腹腔鏡下手術の進歩によりMeckel憩室に対しても腹腔鏡下に手術を行う症例報告が散見される14)~16).第一ポートの挿入部位に関しては,Meckel憩室は臍疾患の一形態であり臍腸管索状物が存在する可能性のある臍周辺からの挿入は避けるべきとする報告もある17).Meckel憩室の術前診断には造影CTが有用であるという報告がある13)18)が,本症例のようにMeckel憩室を合併しない卵黄血管遺残の術前診断は非常に困難であると考えられる.本症例に関してはCT所見からもMeckel憩室によるイレウスを疑うような所見はなく,癒着など索状物が原因のイレウスを疑っていた.腸閉塞のような小腸疾患に対しては小腸間膜の解剖学的配置から,全小腸の観察が容易な左下腹部から第一ポートを挿入するのがよいとする報告もある16)19).本症例に関しては,臍切開により臍後壁近傍の観察は十分にできておらず,臍切開による整容性の利点を除けば,原因不明の小腸イレウス症例に対して腹腔鏡下手術を行う場合は,卵黄腸管遺残や卵黄血管遺残の可能性も考えて左下腹部からのポート留置の方が安全性や全体像の把握など有用である可能性があると考えられた.

卵黄血管遺残などの索状物の術前診断は非常に困難である.開腹手術既往のない小腸イレウス症例や腹痛を繰り返す症例に対しては診断に苦慮することが多いが20),Meckel憩室や卵黄血管遺残などの索状物の存在を疑うことが重要で,イレウスに対して腸管内が十分に減圧できていれば単孔式腹腔鏡下手術は診断および治療に非常に有用であると考えられた.

利益相反:なし

文献
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