The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
Poorly Differentiated Adenocarcinoma of the Duodenal Ampulla Causing Rapid Postoperative Hepatic and Pulmonary Metastasis
Ryuji HiraiToshihisa YamanoMasatoshi KurodaSeiji YoshitomiShoji TakagiEiji IkedaHisashi Tsuji
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2014 Volume 47 Issue 12 Pages 768-775

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Abstract

十二指腸乳頭部癌は他の胆・膵癌に比較して予後良好な症例が多いが,中には術後早期に全身転移を来す予後不良な症例も報告されている.我々はそのような1例を経験したので報告する.患者は64歳の男性で,黄疸を主訴とし入院した.腫瘤潰瘍型の十二指腸乳頭部癌で,#13a,#14dリンパ節転移陽性を疑った.術前生検で未分化癌組織を含む低分化型腺癌と診断されたが,根治手術可能と判定し幽門輪温存膵頭十二指腸切除を施行した.pT3,pN2,M(−),fStage IVaであった.術後7週目に多発性肺・肝転移を続発し,術後2か月で癌死した.病理組織学的検査では未分化癌組織を多く含む低分化管状腺癌と診断された.自験例を含む低分化型腺癌本邦報告8切除例中,3例が術後6か月以内に再発死亡していた.術後急速に遠隔転移を来し再発死亡する十二指腸乳頭部癌を術前に選別することができれば,不要な手術を回避できると思われた.

はじめに

十二指腸乳頭部癌は比較的早期に黄疸などの症状が出現し,受診・診断・加療が早くから行えるため,他の胆・膵癌に比較して予後良好な症例が多いが1),中には高度進行例で全身転移を来し予後不良な症例も報告されている2)~9).今回,我々は術前生検にて低分化型腺癌と診断された十二指腸乳頭部癌症例に対し幽門輪温存膵頭十二指腸切除を施行したところ,術後7週目に多発性肺・肝転移を続発し,術後2か月で死亡した症例を経験した.自験例のような症例を術前に選別することができれば,不要な手術を回避できるのではないかと思われ,示唆に富む症例と思われたので報告する.

症例

患者:64歳,男性

主訴:皮膚掻痒感

既往歴:高血圧,高脂血症

家族歴:特記すべきことなし.

現病歴:2009年6月,皮膚掻痒感を訴え,近医を受診した.黄疸を指摘され,当院内科を紹介された.

入院時血液検査所見:AST 236 IU/l,ALT 435 IU/l,Alp 1,440 IU/l,LAP 421 IU/l,γ-GTP 1,212 IU/l,T.Bil 5.2 mg/dl,D.Bil 4.1 mg/dlと肝胆道系酵素の上昇を認めた.

腫瘍マーカー:CEAは4.4 ng/dlと正常値であったが,CA19-9は276 U/mlと高値を示した.

腹部US所見:肝両葉の肝内胆管や総胆管の拡張が見られ,膵頭部に25 mm大の低エコー腫瘤が見られた.膵管も4 mm径に拡張していた.

腹部CT所見:乳頭部付近に十二指腸内腔に突出する8 mm大の腫瘤があり,膵内胆管や主膵管に沿って発育進展し長径30 mmとなっていた(Fig. 1A).総胆管は著明に拡張し,主膵管も軽度に拡張していた.腫瘍は不均一に造影効果を伴い,内部は一部壊死を思わせる所見で十二指腸乳頭部癌と診断した.#13a,#14dリンパ節は腫大し内部の壊死を伴っていたので転移陽性と診断した(Fig. 1B, C).肝転移の所見は見られなかった.

Fig. 1 

A: Abdominal CT shows the tumor located in the duodenal papilla to be 8 mm in diameter (arrow) and grows into the lower bile duct and main pancreatic duct (arrowhead). B, C: Lymph nodes of the peripancreas (#13a and #14d) are diagnosed as metastasis from tumor of the duodenal papilla because of enlargement and having necrosis inside (white arrow). D: Abdominal MRI shows that the common bile duct and main pancreatic duct are dilated and the tumor of the duodenal papilla grows into the main pancreatic duct (white arrow).

胸部CT所見:肺転移や縦隔転移の所見は見られなかった.

MRI所見:乳頭部に腫瘍があり,主膵管が膵頭部で不明瞭となっているため腫瘍の膵管内進展と診断した(Fig. 1D).

十二指腸ファイバー所見:乳頭部は十二指腸内腔に突出し表面凹凸不正な腫瘍性病変を認め十二指腸乳頭部癌を疑った(Fig. 2A).ERCP後,生検を施行し,内視鏡的逆行性胆管ドレナージチューブを留置した.

Fig. 2 

A: Endoscopy shows the duodenal papilla protruding into the lumen of the duodenum has tumor with ulcer. The tumor is suspected to be malignant. B: Resected specimen. The tumor is located in duodenal ampulla (white arrows) and grows into the lower bile duct and pancreatic duct.

FDG-PET所見:乳頭部から膵頭部にかけて限局性集積亢進が見られ,SUV-maxは12.0であった.肝十二指腸間膜リンパ節や上腸間膜リンパ節にも集積亢進を認め転移リンパ節と診断された.遠隔転移を疑う集積亢進はなかった.

生検標本病理組織学的検査所見:粘液様物質を背景に好酸性胞体を有した異型細胞が散在して見られるが特異的な構築像は見られなかった.未分化癌の部分が多いが,一部にムシカルミンやd-PAS陽性であり腺管形成とみなされる構造があるため低分化型腺癌と診断した(Fig. 3A).ケラチン陽性,p53陽性,MIB-1は高率に陽性,vimentin陽性,CK7陽性,CK20陰性,p63陰性,d-PAS陽性,CEA陰性であった.

Fig. 3 

A: Microscopic findings of biopsy specimen show that the tumor is predominantly undifferentiated carcinoma but poorly differentiated adenocarcinoma is demonstrated in a small part of the lesion (H&E, ×400). B: Microscopic findings of the resected specimen show that most parts of lesion are undifferentiated carcinoma, but small parts of the lesion are poorly differentiated tubular adenocarcinoma (H&E, ×100). C: Immunohistochemical staining shows that the tumor cells have epithelial mucus stained by mucicarmine, Alcian blue and d-PAS (d-PAS, ×400).

術前診断:生検結果は未分化癌組織が優勢であるが一部に低分化な腺管形成を認め低分化型の十二指腸乳頭部癌と診断した.#13a,#14dリンパ節に転移陽性でcN2と診断したが根治切除可能と考え手術を施行した.

手術所見:第1空腸動脈沿いの空腸間膜内に母指頭大のリンパ節を認め,これを含めたD2郭清+α(13ab,12a2b2p2,17ab,14abcd,8ap)と幽門輪温存膵頭十二指腸切除,膵腸吻合,胆管空腸吻合,胃空腸吻合を施行した.

切除標本所見:乳頭部から下部胆管に,25×20 mm大の腫瘍を認め,割面では白色調を呈し胆管内腔や膵管内腔に浸潤発育していた(Fig. 2B).十二指腸乳頭部癌,腫瘤潰瘍型と診断した.胆道癌取扱い規約第5版では,AcbpBiPh,2.5×2.0 cm,H0,Panc1,Du2,P0,N2(#12b;2/5,#13a;2/2,#14d;2/2,#17b;2/5),M(−),St(−),T3,sStage IVaとなった.

病理組織学的検査所見(切除標本):高度異型を伴う癌細胞が,充実蜂巣状,索状の構造を示し,あるいは個々に散在して見られたが,一部に腺様構造を認めた(Fig. 3B).免疫組織化学染色ではごく一部に腺管形成が存在することや,ムシカルミン,Alcian blue,d-PAS陽性の上皮性粘液が腫瘍細胞に見られ腺癌への分化が窺われた(Fig. 3C).クロモグラニンA,CD56は陰性であり神経内分泌腫瘍は否定的であった.以上より,低分化型腺癌と診断した.また,第1群リンパ節だけでなく,#12b,#14d,#17bなどの第2群リンパ節にも転移陽性であった.胆道癌取扱い規約第5版では,patAcbpBiPh,int,INFβ,ly3,v1,pn0,pPanc1b,pDu2,pN2(#12b;2/5,#13a;2/2,#14d;2/2,#17b;2/5),pT3,fStage IVaとなった10)

術後経過:術後16日目に胆道内出血が見られ血管造影にて右肝動脈瘤を認めたためTAEを施行し止血した.以後,経過良好であったが,術後4週を過ぎた頃より食欲低下し全身倦怠感が出現した.術後52日目,呼吸困難を訴えたので胸腹部CTを施行したところ,粟粒大の無数の肝転移と肺転移を認めた(Fig. 4).CEAは正常値であったが,CA19-9が70,200 U/mlと著しく増加していた.呼吸困難著明で全身状態が急速に悪化しているため化学療法を行えず,術後63日目に原病死された.

Fig. 4 

A: Abdominal CT on the 52nd day after surgery shows multiple liver metastases. B: Chest CT on the same day also shows multiple lung metastases.

考察

全国胆道癌登録での十二指腸乳頭部癌症例の組織型の内訳を見ると,乳頭腺癌27.6%,高分化管状腺癌38.3%,中分化管状腺癌25.0%,低分化管状腺癌5.5%であり,未分化癌は2例のみで,0.2%と報告されている11).胆道癌のなかで低分化管状腺癌の割合を比較すると,胆囊癌12.2%,胆管癌10.2%と比べ,十二指腸乳頭部癌は5.5%と少ない.一方,乳頭腺癌と高分化管状腺癌を足した割合は十二指腸乳頭部癌65.9%,胆囊癌53.1%,胆管癌42.8%であり,十二指腸乳頭部癌が多い.以上より,十二指腸乳頭部癌は胆囊癌や胆管癌に比べ,高分化型の癌の比率が高いといえる.n0,n1症例の割合を比較すると,胆囊癌56.8%,12.4%,下部胆管癌60.4%,17.2%,十二指腸乳頭部癌62.2%,21.9%と十二指腸乳頭部癌は胆囊癌,下部胆管癌に比べn1以下の割合が高い12).切除率を見ると胆囊癌69.8%,胆管癌67.0%と比較して十二指腸乳頭部癌は91.2%と高い.切除例の5年生存率も十二指腸乳頭部癌は51%であり胆囊癌42%,胆管癌26%に比べ良好である13).よって,十二指腸乳頭部癌は胆囊癌や胆管癌に比べ予後良好な症例の割合が多いといえる.しかし,十二指腸乳頭部癌症例の中には,腺内分泌細胞癌,腺扁平上皮癌,印環細胞癌,未分化癌などまれな腫瘍で急速な進展を示し予後不良であった症例が報告されている2)~5)

胆道癌取扱い規約第5版で「未分化癌」の定義は「癌巣のどの部分にも,腺癌,扁平上皮癌,内分泌細胞腫瘍への分化を示さない癌をいう」と定義されている14).一方,「低分化型腺癌」の定義は,「癌細胞は小型腺管のほかに,小充実蜂巣状,索状の構造をとったり,または個々ばらばらに存在する.このため,腺腔形成が乏しいか,ほとんど認められない場合もある.腺癌であることは,癌巣の一部に腺管形成が存在すること,ないし癌細胞質内に粘液が存在することによって判定できる.」とある.自験例は生検標本でも切除標本でも,高度異型を伴う癌細胞が充実蜂巣状/索状の構造を示し,あるいは個々に散在して見られたが,一部に腺管形成が存在することや,上皮性粘液が腫瘍細胞に見られたことより低分化型腺癌と診断した.

1983年から2014年1月までの医学中央雑誌で(「十二指腸乳頭部癌」または「乳頭部癌」)×「低分化」のキーワードで検索したところ29件がヒットしそのうち8例が十二指腸乳頭部低分化型腺癌に該当した.このうち切除された7例と自験例を加えた8例について検討した(Table 18)9)15)~19).組織型では中分化型から低分化型腺癌が2例で低分化型腺癌が6例であった.自験例のように未分化癌のコンポーネント含有の有無については記載がなかった.7例に膵頭十二指腸切除が行われ,1例に膵全摘が行われた.8例中4例が術後再発を来し,うち3例はいずれも術後3か月以内の再発で6か月以内に早期死亡していた.再発部位は,肝臓,肺,腹膜,後腹膜リンパ節であり,術後2か月,4か月,6か月に原病死した.腫瘍サイズ,肉眼型,組織学的乳頭周囲進展度(pT),組織学的リンパ節転移(pN),総合的進行度(fStage)を見ると,1年以上生存例と1年以下生存例で有意な差は見られなかった.よって症例報告を見るかぎり,低分化型腺癌でリンパ節転移陽性であっても必ずしも1年以内に死亡するとはいえない.しかし,文献的には,低分化型腺癌は高分化型・中分化型腺癌に比べ有意に予後不良でリンパ節転移陽性とともに強い予後規定因子であると報告されている20)~22).それ故,リンパ節転移を伴う低分化型腺癌においては早期再発の危険性がさらに高まると思われる.1年以内の再発死亡例を選択し不要な手術を回避するために,どのような症例に術前化学療法を導入すればよいのかは現時点において不明である.自験例のように低分化型腺癌は術後急速な遠隔転移をもたらすポテンシャルを持っているので,術前化学療法を導入する意義はあると思われる.

Table 1  Seven resected cases of poorly differentiated adenocarcinomas of the duodenal ampulla from the literature in Japan and our case
No Author Year Age/Sex Histology Size (mm) Treatment pT pN fStage Recurrence Prognosis
1 Motojima8) 1989 60/M tub3 15 TP 4 3 4b 3M/ paraaortic LNs 6M/dead
2 Umehara15) 1997 56/F tub3 35 PD 1 0 1 No 24M/alive
3 Yoneda16) 2004 70/M tub2~3 11 PD 2 1 2 32M/ liver 32M/alive
4 Kitagawa17) 2006 80/M tub3 22 PPPD 3 3 4b No 12M/alive
5 Andou18) 2010 67/M tub3 15 PPPD 3 2 4a No 36M/alive
6 Ikeya19) 2011 74/F tub2~3 20 PPPD 4 1 4a NA NA
7 Shiba9) 2012 68/M tub3 20 PPPD 3 1 3 3M/ liver, peritoneum 4M/dead
8 Our case 64/M tub3 25 PPPD 3 2 4a 1.5M/ liver, lung 2M/dead

tub2: moderately differentiated adenocarcinoma, tub3: poorly differentiated adenocarcinoma, TP: total pancreatectomy, PD: pancreato-duodenectomy, PPPD: pylorus preserving pancreato-duodenectomy

十二指腸乳頭部癌のリンパ節転移陽性群は陰性群に比べ明らかに予後不良である20)~22).Narangら21)はリンパ節転移陽性群の5年生存率は術後補助化学放射線療法を併用することにより5.9%から27.5%に改善したと報告している.ただし,これは全症例についての解析であり低分化型腺癌だけの成績ではない.また,補助化学療法か補助化学放射線療法かはいまだ明かではない.どのような術後補助化学療法がよいかについてであるが,2012年,The European Study Group for Pancreatic Cancer(ESPAC)から報告されたperiampullary adenocarcinoma の大規模RCT(ESPAC-3)の結果ではgemcitabine群は手術単独群に比べ有意に予後を改善しているので第一選択の薬剤といえる22).このtrialの構成は十二指腸乳頭部癌が69%,胆管癌が22%,十二指腸癌を含むその他が8%であり十二指腸乳頭部癌だけの成績ではないが十分参考にできると思える.

利益相反:なし

文献
 

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