The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
Intramesenteric Hernia of the Small Intestine
Toshinori HiranoYoshihiro SakashitaKatsunari MiyamotoMikio FujimotoYujiro YokoyamaHironori KobayashiNaoki MuraoKenjiro OkadaShiro Nakai
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2014 Volume 47 Issue 12 Pages 790-795

Details
Abstract

症例は87歳の女性で,腹痛,嘔吐を主訴に当院内科を受診した.開腹胆囊摘出術の既往歴あり.腹部単純X線検査で拡張した小腸と鏡面像あり,イレウスの診断で入院となった.腹部CTでは回盲部近傍に狭窄を伴うsac-like appearanceを呈する小腸ループ像を認め,術後の癒着や内ヘルニアが疑われた.イレウス管による保存的加療が行われたが,症状は改善するものの閉塞は解除されず,第9病日当科紹介となり緊急手術を行う運びとなった.術中所見では,回腸末端の腸間膜後葉の欠損孔をヘルニア門として口側回腸が嵌入しており,小腸間膜内ヘルニアと診断した.用手的に小腸を整復し,腸管切除は行わず欠損孔を縫合閉鎖した.術後経過は良好で,術後13日目に退院となった.小腸間膜内ヘルニアは内ヘルニアの中でも非常にまれな疾患であり,文献的考察を加えて報告する.

はじめに

内ヘルニアは腹腔内の腹膜窩や異常裂孔に腹部臓器が嵌入することによって生じ1),多くはイレウス症状を来す.発生部位や発生様式によって頻度は異なるが,内ヘルニアの中でも,小腸間膜の片葉のみが欠損し,同部をヘルニア門として内ヘルニア発症する小腸間膜内ヘルニアの報告例は非常に少ない.今回,我々は回腸末端の腸間膜に欠損孔を生じ小腸間膜内ヘルニア起こした症例を経験したので報告する.

症例

患者:87歳,女性

主訴:腹痛,嘔吐

既往歴:開腹胆囊摘出術,閉塞性動脈硬化症,骨粗鬆症,高血圧

現病歴:受診前日に腹痛,嘔吐が出現した.同日近医受診し点滴加療を受けるも改善しないため,翌日当院内科に紹介受診となる.

受診時現症:身長153 cm,体重49.7 kg,血圧147/72 mmHg,脈拍62回/分・整,体温36.3°C,腹部は軽度膨満し心窩部を中心に疼痛を認めた.

受診時血液検査所見:白血球15,760/μl,CRP 4.89 mg/dlと炎症反応は上昇し,尿素窒素67.3 mg/dl,クレアチニン2.48 mg/dlと腎機能低下所見を認めた.他異常所見は認めなかった.

受診時腹部単純X線検査所見:小腸ガスの貯留と鏡面像を認めた(Fig. 1).

Fig. 1 

Abdominal radiography shows intestinal obstruction with niveau formation.

受診時腹部単純CT所見:腎機能は低下しており単純CTのみ施行した.小腸は広範囲に拡張し鏡面像を認めた.回盲部近傍に索状構造により他の小腸ループと境界された一群の小腸ループ像あり(sac-like appearance),絞扼所見は認めなかった(Fig. 2a).

Fig. 2 

Abdominal CT (a. the first hospital day, b. the ninth hospital day). a. A closed loop of the small intestine in the vicinity of ileocecum with sac-like appearance. b. The small intestinal expansion improved, but the obstruction is unchanged from the first hospital day.

経過:回盲部小腸の癒着あるいは内ヘルニアによるイレウスの疑いで,内科にてイレウス管を挿入され保存的加療が行われた.第3病日には症状は改善し,血液検査では炎症反応,腎機能とも改善した.第9病日,全身状態は安定しているものの閉塞が続いており保存的加療では改善困難と判断され,同日当科紹介となった.腹部造影CTを施行し,前回のCTと同様に囊状構造に内包され周囲と小腸の集簇と,その内側に輸入脚・輸出脚を認め内ヘルニアによるヘルニア門様を呈していた(Fig. 2b).内ヘルニアが強く疑われ,同日緊急手術を行った.

手術所見:下腹部正中切開で開腹すると,回腸末端から50 cm~120 cmの口側回腸が回腸末端の腸間膜背側に嵌頓していた.用手的に嵌頓を解除し,腸管の血流は良好であるため腸切除は行わなかった(Fig. 3a).嵌頓部を確認すると,回腸末端の腸間膜後葉に直径2 cm大の辺縁平滑な欠損孔を認め,同部がヘルニア門となっていたが前葉は保たれていた(Fig. 3b).欠損孔を縫合閉鎖し手術終了した.手術所見から,回腸末端部の小腸間膜内ヘルニアと診断した.

Fig. 3 

Operative photograph. a. Although 70 cm of the ileum was incarcerated into a posterior mesenteric defect of the terminal ileum Ileal strangulation did not occur. b. A 2.0 cm defect of a posterior mesenteric section of the terminal ileum.

術後経過:術後経過は良好で,術後13日目に軽快退院した.現在術後2年半経ったが再発なく経過している.

考察

内ヘルニアはSteinke1)により腹腔内の腹膜窩や囊状部に臓器が嵌入する腹膜窩ヘルニアと,異常裂孔に臓器が嵌入する異常裂孔ヘルニアに分類され,その頻度は全イレウスの0.2~0.9%とされている2).異常裂孔ヘルニアは裂孔部位により小腸間膜裂孔,結腸間膜裂孔,網囊異常裂孔,広間膜異常裂孔などに分類され3),腸間膜裂孔ヘルニアはその性状により以下の2種類に分類される4)

1)経腸間膜ヘルニア:腸間膜両葉に穿通性の欠損部がありそこに腸管が嵌入するもので腸間膜裂孔ヘルニアの大半を占める(Fig. 4a).

Fig. 4 

a: Transmesenteric hernia of the small intestine. b: Intra­mesenteric hernia of the small intestine.

2)腸間膜内ヘルニア: 腸間膜の片葉が欠損し腸管が嵌入しヘルニア内容臓器が腸管膜内に存在するもの(Fig. 4b).

本症例は,小腸間膜後葉のみの欠損で前葉がヘルニア囊となって腸管膜内に腸管が嵌入していたため,小腸腸間膜内ヘルニアに分類される.

小腸間膜裂孔ヘルニアは内ヘルニア全体の70%を占めるとされているが,その大半は小腸経腸間膜ヘルニアであり小腸間膜内ヘルニアの報告例は非常に少ない5)6).医学中央雑誌(1983~2013)にて「小腸間膜内ヘルニア」,「小腸腸間膜内ヘルニア」をキーワードに検索した範囲では,1983年以降本邦での小腸間膜内ヘルニアの報告は自験例を含めて4例のみであった(Table 14)7)8).この4例について検討した結果,発症年齢は10代から87歳,男性2例,女性2例であった.いずれも術前の画像検査で内ヘルニアが疑われているが,小腸間膜内ヘルニアと診断されたものはなかった.ヘルニア門は回腸終末部に集中しており,術式は全例用手整復と欠損孔の縫合閉鎖が行われ,1例のみ漿膜炎を来しているため腸管切除が行われた症例はあるものの,絞扼による壊死で腸管切除を必要とした症例はなかった.

Table 1  Four reported cases of intramesenteric hernia in the Japanese literature (1983–2013)
No. Author/Year Age/
Gender
Preoperative diagnosis Days to surgery Location Hernia orifice size (cm) Herniated intestine/Herniated loop (cm) Strangulation Surgical operation
1 Sato4)/
2005
Teen/M Internal hernia terminal ileum Ileum/— No Repair of the defect and ileal resection
2 Yagi7)/
2006
48/F Internal hernia 9 terminal ileum 3.5 Ileum/4 No Repair of the defect
3 Kurogoti8)/
2011
21/M Internal hernia 2 50 cm oral from ileocecum —/80 Yes Repair of the defect
4 Our case 87/F Internal hernia 9 terminal ileum 2 Ileum/70 No Repair of the defect

—: not described

裂孔の成因として,先天性説と外傷や手術・炎症によって発生するとされる後天性説がある.先天性説では回結腸動脈・右結腸動脈間の脆弱な腸間膜に裂孔を生じるとするHommesの説,回結腸動脈と小腸終末枝とが吻合する部位で脂肪組織・血管・リンパ管が欠如し抵抗性が低下して穿孔を来すとするTrevesの説,腸管と腸間膜の発育不均衡による腸間膜欠損が生じるとするPruntzの説,胎生期の生理的な腸間膜消滅現象が強く起きた際に裂孔が生じるとするFederschmidtの説,腸間膜の血行障害により腸間膜に欠損を生じるMurphyの説などがある7).本症例は開腹歴があり後天的に裂孔が形成された可能性も否定はできないが,小腸間膜裂孔は回腸終末部に多くHommesやTrevesの説が有力である7).しかし,裂孔は横行結腸やS状結腸にも存在することがあり全てを同一の理論で説明するにはその他の説がふさわしいが,現在のところ原因は判明していない.

小腸間膜裂孔ヘルニアの内,経腸間膜ヘルニアでは発症から短時間で壊死を起こし早急に手術が行われたものが多く,その内77%が腸管切除を施行されている9)10).一方,結腸を含めた腸間膜内ヘルニアでは腸管の嵌入を解除するのみで終了した症例が多く6),経腸間膜と腸間膜内とでは血流障害の発生頻度が異なっていた.経腸間膜ヘルニアはヘルニア囊が存在しないため短時間で多くの腸管が裂孔を通過し,絞扼を受け広範な血流障害を起こすことが原因の一つであると考えられる9).一方,腸間膜内ヘルニアでは,対側の腸間膜が存在するため腸管が入り込む隙間が小さく,嵌入腸管が短く限局され重大な循環障害を来しにくいという病態特異性があると考えられる6)7)11).内ヘルニアは軸捻転を合併しやすくそれによっても絞扼を起こすが2),嵌入腸管が短いことで軸捻転が起きにくいという側面もあると考えられる.その他の要因として,ヘルニア門の大きさに言及している報告もあるが6),角南ら12)は最大径が2 cm未満のヘルニア門と2 cm以上での症例群との間で一定の傾向は見られなかったと報告している.

腸間膜内ヘルニアは絞扼を来しにくく,症状や経過が比較的穏やかであるため保存的治療期間が延長し,手術療法への移行が遅れてしまうという側面がある.村田ら6)によると,S状結腸間膜内ヘルニアに対する初期治療から手術までの平均期間が13日であったと報告されており,比較的長い経過を経て手術に至った症例が多いことが指摘されている.

内ヘルニアの症状は腹痛や嘔吐といった非特異的なものが多く,一般に術前診断は困難とされている.しかしながら,腹部CTによる小腸の集簇像(cluster),腸管の囊状像(sac-like appearance),ヘルニア腸管の腸間膜脂肪織や血管の集簇・伸展像,ヘルニア門の存在といった特徴的な所見があり2),術前に内ヘルニアを疑うことは可能となってきている13).内ヘルニアが疑われる場合には,解除できないヘルニアである以上14)~16),絞扼の有無にかかわらず早急な手術が望ましい.従来当院ではイレウスに対する手術では消化管の損傷や原因の見落としなどを防ぐため開腹手術を行うこと多かったが,腸間膜内ヘルニアでは嵌入した腸管の整復とヘルニア門の閉鎖のみで十分な場合が多く,術前検査で本疾患が疑われイレウス管による減圧が十分できている場合は腹腔鏡下手術の積極的な導入も必要であると考えられた.

利益相反:なし

文献
 

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