The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
Segmental Arterial Mediolysis with Rupture of a Middle Colic Artery Aneurysm Leading to an Impending Hepatic Artery Rupture Detected in the Acute Phase
Takuma NishinoDaisuke FujimotoKenji KoneriMakoto MurakamiYasuo HironoTakanori GoiAtsushi IidaKanji KatayamaYoshiaki ImamuraAkio Yamaguchi
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2014 Volume 47 Issue 4 Pages 251-257

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Abstract

症例は68歳の女性で,突然の腹痛で受診し,CTで中結腸動脈瘤と周囲に血腫と腹水を認めた.中結腸動脈瘤の破裂の診断で緊急手術を行い,中結腸動脈を切離し横行結腸切除術を施行した.発熱,炎症所見が遷延したため,7病日目にCT施行し,肝動脈後区域枝に2.5 cm大の動脈瘤を認め,複数の腹部内臓動脈に小動脈瘤の出現を認めた.肝動脈後区域枝の動脈瘤に対し,同日緊急でinterventional radiology(IVR)による塞栓術を施行した.病理組織学的検査で中膜平滑筋細胞に空胞変性や弾性板の消失がみられ,segmental arterial mediolysis(以下,SAMと略記)と診断した.SAMの複数回破裂や急性期の新規病変で再治療が必要となる症例はまれだが,本疾患を診療する際に留意する必要があり,貴重な症例であると考えられ報告する.

はじめに

Segmental arterial mediolysis(以下,SAMと略記)は,1976年にSlavinら1)により提唱された,非炎症性,非動脈硬化性の動脈変性疾患で,腹部内臓動脈破裂の原因疾患として近年注目されている.今回,中結腸動脈瘤破裂により発症し,1週間後に肝動脈後区域枝に新たに切迫破裂状態の動脈瘤が出現しinterventional radiology(以下,IVRと略記)で塞栓術を要したSAMの1例を経験したので報告する.

症例

患者:68歳 女性

主訴:腹痛

既往歴:乳がん,子宮筋腫

家族歴:特記事項なし.

現病歴:2012年6月朝4時に突然の腹痛にて起床,痛みが改善しないため,8時に家人に連れられ病院へ向かった.車内で意識消失し救急外来に搬入された.

来院時現症:JCS II-30,体温35.8°C,脈拍76回/分,血圧64/39 mmHg,SpO2 99%.眼瞼結膜に貧血あり,眼球結膜に黄染なし.胸部は右乳房切除術の手術痕あり,呼吸音・心音に異常は認めなかった.腹部は肥満,軟,臍下部に圧痛を認めたが筋性防御や反跳痛は認めなかった.

血液生化学検査所見:赤血球362×104/μl,Hb 10.9 g/dlと貧血を認め,白血球11,200/μl,CRP 5.29 mg/dlと上昇を認めた.その他凝固系,生化学検査所見には異常所見は認めなかった(Table 1).

Table 1  Laboratory findings
WBC 11,200​/μl Na 140​ mEq/l
RBC 362×104​/μl K 3.5​ mEq/l
Hb 10.9​ g/dl Cl 109​ mEq/l
Ht 34.50​% BUN 17​ mg/dl
Plt 23.7×104​/μl Cr 0.64​ mg/dl
T-Bil 0.4​ mg/dl
CRP 5.29​ mg/dl AST 45​ IU/l
ALT 34​ IU/l
ALP 160​ IU/l
Amy 33​ IU/l

CT所見:横行結腸間膜内に血腫を認めた.血腫の中心部に13 mm大の中結腸動脈の動脈瘤を認めた.造影剤の明らかな漏出は認めなかった.肝表面,脾周囲,両側傍結腸溝,膀胱周囲,ダグラス窩に濃度の高い液体貯留を認め,血性腹水と考えられた(Fig. 1a, b).3DCTで中結腸動脈瘤以外に明らかな動脈瘤は認めなかった(Fig. 1c).

Fig. 1 

a, b: Enhanced abdominal computed tomography shows an aneurysm in the middle colic artery (long arrow) and hematoma formation in the mesentery of the transverse colon (short arrows). Hemorrhagic ascites were detected at the surface of the liver and the Douglas pouch (encircled). c: Three-dimensional computed tomography also shows an aneurysm in the middle colic artery (arrow). No other aneurysm was detected.

来院後経過:初期輸液にてvital signは改善したため,上記検査施行し,CTにて中結腸動脈瘤と腹腔内出血の所見を認めた.IVRによる治療を考慮したが,支配臓器の虚血や再開通,再出血などのリスクを伴うことから,中結腸動脈瘤の破裂の診断で緊急開腹術の方針とした.

手術所見:上中腹部正中切開で開腹,開腹すると腹腔内に多量の血性腹水と凝血塊を認めた.出血源を検索したところ,横行結腸間膜内に巨大な血腫を認め,腹腔内に漏出していた.動脈瘤は視認できなかった横行結腸間膜を開放し,血腫より中枢側の中結腸動脈を切離した,肝彎曲,脾彎曲を剥離,脱転し,中結腸動脈の支配領域の横行結腸を血腫を含めて切除した.吻合はAlbert-Lambert吻合にて行った.血性腹水を含めた術中出血量は3,550 mlで,濃厚赤血球4単位を術中に輸血した.

病理組織学的検査所見:HE染色では動脈壁の一部に中膜平滑筋細胞の空胞変性と融解がみられ,中膜と外膜の間には出血がみられた.また,微小な解離も散見された(Fig. 2a).同部位のElastica van Gieson染色では内弾性板の部分的な消失を認めた(Fig. 2b).

Fig. 2 

a: HE staining (×10). Histopathological examination shows almost imperceptible dissection (encircled), indicating bleeding between the tunica media and tunica externa. b: Elastic Van Gieson staining (×10). The tunica media of an artery is vacuolated and lytic (white arrows), and the internal elastic lamina is abruptly broken (black arrow).

術後経過:2病日目より水分再開,4病日目より食事を再開した.しかし,その後発熱が遷延し,CRP 7.03 mg/dlと炎症も遷延した.貧血の進行は認めず,AST 83 IU/l,ALT 275 IU/lと肝逸脱酵素の上昇を認めたため,7病日目に再度腹部造影CTを施行した.

7病日目CT所見:肝外の右肝動脈後区域枝に,前回認めなかった25 mm大の動脈瘤の形成を認めた.肝動脈後区域枝は,背膵動脈から直接分岐している変異を認めたが,同動脈および固有肝動脈,右胃動脈,脾動脈など複数の動脈系に小さな動脈瘤と狭窄を認めた.明らかな出血所見や横行結腸術後の縫合不全や腹腔内膿瘍などは認めなかった(Fig. 3a, b).

Fig. 3 

a, b: CT on postoperative day 7 shows that the 25-mm aneurysm in the right posterior segment of the hepatic artery has ruptured (long arrow) and that there are small aneurysms in the multiple abdominal arteries, with a beaded appearance (short arrows).

緊急IVR所見:右肝動脈後区域枝の25 mm大の動脈瘤は,急激に増大しており,また肝逸脱酵素の上昇も認めることから,切迫破裂の状態と判断し,緊急でIVRを施行し,右肝動脈後区域枝をマイクロコイルにて塞栓術施行した.右肝動脈後区域枝以外の固有肝動脈,右胃動脈などにCT所見と同様の小さな動脈瘤と狭窄病変が連続し数珠状の血管の変形を認め,SAMに特徴的な所見を示した(Fig. 4a, b).

Fig. 4 

a: Angiography indicates an impending rupture of the right posterior segment of the hepatic artery (long arrow). In addition, small aneurysms are found in the multiple abdominal arteries, resulting in a beaded appearance (short arrows). b: Coil embolization of the right posterior segment of the hepatic artery is performed (long arrow).

IVR後経過:その後の経過は順調であり,徐々に解熱も得られ,WBC,CRPも徐々に改善した.第35病日に軽快退院となった.

考察

SAMは主に腹部臓器の筋性動脈の中膜融解により動脈瘤を形成し,しばしば破裂する非炎症性,非粥状硬化性の疾患で1),近年腹部内臓動脈瘤の破裂の原因として注目されており本邦での報告例も近年増加している.稲田ら2)による本邦報告の検討では,中高年(平均年齢59歳)の男性(男女比2:1)に多く,好発部位は中結腸動脈が最多で(38%),胃大網動脈(19%),胃動脈(17%)と続く.また,しばしば動脈瘤が多発することが知られている.医中誌Webで,「segmental arterial mediolysis」をキーワードとして1983年から2013年5月までについて検索したところ,会議録を含め200例以上の症例報告がなされているが,その多くは単発の動脈瘤破裂の症例である.複数回の破裂症例は少なく,異時性に別の腹部内臓動脈が破裂した症例が1例(左結腸動脈瘤破裂15か月後に脾動脈瘤破裂)3),異時性に同一血管が再破裂した症例が1例(中結腸動脈瘤破裂2か月後に同動脈再破裂)4)で2例のみである.本例のように中結腸動脈瘤の破裂後の急性期に,新たに治療が必要と考えられる動脈瘤が形成された報告例は1例のみで(前上膵十二指腸動脈瘤破裂10日目に後上膵十二指腸動脈瘤形成)5),本例が2例目である.非常にまれな経過と考えられるが,今後本疾患を診療する際に留意する必要があり,貴重な症例であると考えられる.

腹部内臓動脈瘤破裂の症例の多くは腹痛にて発症し,治療前に出血性ショックを呈していることが多く,緊急処置の対象となる.診断には造影CT(3DCT)や血管造影が有用であるが,血行動態が安定していない場合も多く,診断方法と治療方針の決定には迅速かつ適切な判断が必要である.本例では来院後の初期輸液で血行動態が安定したため,腹部造影CTを施行した.中結腸動脈瘤を認め,周囲に血腫を形成し,腹腔内に腹水の貯留を認めたため,中結腸動脈瘤の破綻と診断した.明らかな多発病変は指摘しえず,術前に多発病変の検索目的に血管造影は施行しなかった.IVRによる治療を考慮したが,支配臓器の虚血や再開通,再出血などのリスクを伴うことから,外科的に緊急手術の方針とし,結腸切除を含めた破綻血管の中枢側での切離を行った.SAMを含めた中結腸動脈瘤破裂症例の約半数に多発病変が確認されており6),患者の血行動態やCT所見などで総合的に判断し,血管造影などを施行することも考慮すべきと考えられた.血管造影は診断と同時に治療に移行することも可能であり,中結腸動脈瘤の破裂時の治療の第一選択として動脈塞栓術を推奨している報告もあるが7)8),支配臓器の虚血や再開通,再出血などのリスクを伴うため,慎重に選択すべきである.また,外科的治療の選択肢として瘤切除を選択している報告もあるが9)10),本例では結腸間膜内に巨大な血腫が存在し,瘤そのものの視認が困難であり,血腫の中枢側で中結腸動脈を切離し,支配領域の横行結腸を切除することを選択した.瘤切除のみに留めることが可能な例では,腸管の切除も不要となる可能性があり,各症例により考慮する必要があると考えられる.

SAMは病理組織学的検査で,動脈の中膜平滑筋の変性・融解や動脈瘤壁に分節状に残存する中膜の存在を確認することで確定診断される.本例では,動脈壁の一部に中膜平滑筋細胞の空胞変性と融解がみられ,微小な解離病変と同部位の内弾性板の部分的な消失を認めたためSAMと診断した.しかし,近年腹部内臓動脈の破裂症例においてIVRによる治療が増加しつつあり,病理組織学的診断が行えない場合も増えてきている.内山ら11)は臨床的診断基準を提唱し,中高年者,炎症・粥状硬化性病変がない,突然の腹腔内出血で発症する,血管造影検査で血管に数珠状の不整な血管拡張と狭窄を認めることを基準に含めており,本例でもこれに全て合致していた.

予後であるが,腹部内臓動脈瘤破裂症例全体の死亡率は8.5~28.3%で予後不良とされているが12)13),稲田ら14)によるとSAMのみの検討では手術やIVRによる治療を施行した症例の死亡率は4.4%としており,比較的予後良好といえる.その理由として,SAMでの動脈瘤破裂は中結腸動脈や胃大網動脈,胃動脈に多く,手術やIVRによる出血のコントロールが比較的容易で,支配臓器の虚血などに対応しやすい点が考えられる.また,SAMは融解した中膜の欠損部に肉芽形成が増生し修復されることで,半年~数年の経過で自然軽快するという報告も多い.多発動脈瘤症例で未治療の残存動脈瘤に対する長期経過観察例は少ないが,症例数が不十分なため長期予後に関しては明確ではない.本症例でも過去の報告を参考にして残存動脈瘤に対する予防的治療は施行せず切迫破裂を呈した病変のみにIVRでコイル塞栓術を施行した.その後はCTで経過観察を行い,発症後11か月のCTで全ての動脈瘤の消失を確認した.

今回,中結腸動脈瘤破裂により発症し,術後急性期に肝動脈後区域枝の切迫破裂を起こしたSAMの一例を経験した.SAMによる腹部内臓動脈の複数回破裂や,初回破裂後の急性期に急速に増大し治療が必要となるような動脈瘤を形成する症例の報告は少ないが,今後,本疾患を診療する際に留意する必要があると考えられた.

利益相反:なし

文献
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