2014 Volume 47 Issue 5 Pages 268-274
胃粘膜下腫瘍はgastrointestinal stromal tumor(GIST),平滑筋(肉)腫が多いがまれなものもある.症例は35歳の男性で,検診で,胃粘膜下腫瘍を指摘され当院紹介となった.上部消化管内視鏡検査で胃体下部前壁に発赤を伴う粘膜下腫瘍を認めた.EUSでは第4層由来の腫瘍で,内部に高エコー構造を認め石灰化が疑われた.腹部CTで径27 mmの遅延性に造影される境界明瞭な腫瘤を認めた.胃粘膜下腫瘍の診断で,腹腔鏡下胃部分切除術を施行した.病理組織学的検査で,硝子化した膠原線維を伴う紡錘形細胞の増殖と,砂丘体を伴う石灰化,炎症細胞の浸潤を認めた.C-kit,α-smooth muscle actin,desmin,S-100,anaplastic lymphoma kinase(ALK)は全て陰性で,calcifying fibrous tumor (以下,CFTと略記)と診断した.CFTは若年成人の皮下や軟部組織に好発し,胃原発の報告は極めてまれである.
Calcifying fibrous tumor(以下,CFTと略記)は1988年にRosenthalら1)により,女児の四肢に発生したfibrous tumor with psammomabodiesという名称で2例が報告されたのが最初である.その後,体腔内の胸膜,腹膜,縦隔,副腎などに発生する比較的まれな良性腫瘍として認識されているが胃壁での報告はこれまでに19例しかない2)~12).今回,胃壁を原発とする極めてまれなCFTを経験したため,文献的報告を加えて報告する.
症例:35歳,男性
主訴:特になし.
現病歴:2012年7月,検診で施行された上部消化管内視鏡検査で,胃粘膜下腫瘤を指摘され,当院総合診療科を紹介受診した.精査の結果gastrointestinal storomal tumor(以下,GISTと略記)を強く疑い,治療目的で当院紹介受診となった.
理学所見:特記すべき所見なし.
血液・生化学検査所見:特記すべき所見なし.
上部消化管造影検査所見:胃体部前壁小彎寄りに長径約3 cmの表面平滑な隆起性病変を認めた(Fig. 1a).
Preoperative examination. (a) Upper gastrointestinal X-ray examination reveals an elevated lesion with smooth surface at the lesser curvature of the middle stomach (white arrow). (b) Endoscopic examination reveals a submucosal mass in the anterior wall of the gastric body with slightly erythematous surface. (c) Endoscopic ultrasonography shows a heterogeneous hypoechoic lesion with shadowing consistent with calcification. The 1st to 3rd layer were observed in the surface side of the tumor, and continuity between the mass and the muscularis was suspected. (d) Contrast-enhanced computed tomography scan reveals a well-circumscribed tumor with delayed enhancement.
上部消化管内視鏡検査所見:胃体部前壁に,頂部に発赤を伴う正常粘膜に覆われた隆起性病変を認めた.鉗子での触診で弾性硬な腫瘤であった(Fig. 1b).
超音波内視鏡検査所見:腫瘍内部は不均一な低エコーを呈し,第4層との連続性が考えられ,腫瘍の表面側には第1~3層が確認された.内部にはモザイク状に小さな高エコー構造を認め,内部の石灰化が疑われた.以上の所見から筋層由来の胃GISTが最も疑われた(Fig. 1c).
腹部CT所見:胃体部前壁に胃内腔へ突出するように,径27 mm大で遅延性に造影効果が増強される境界明瞭な腫瘤性病変を認めた.明らかな肝転移,リンパ節転移,腹膜播種を疑う所見は認めなかった(Fig. 1d).
以上より,石灰化を伴う胃GISTを第一に考え,腹腔鏡下胃部分切除術を施行した.
手術所見:病変は胃角部に存在していたため,小彎側の血管を処理したのちに自動縫合器を用いて部分切除を施行した.
切除標本:腫瘍は粘膜下層に存在し,白色で20×20 mmの境界明瞭な充実性の腫瘍であった(Fig. 2a).
Resected specimen. (a) Macroscopic findings. Cut-section reveals a well-defined white tumor, measuring 20×20 mm in size, covered by intact mucosa. (b) Microscopic findings showed a well-circumscribed nodular tumor in the submucosal layer. (c) The tumor was composed of spindle shaped cells with hyalinized fibro-collagenous tissue and psammomatous calcification (white arrow).
病理組織学的検査所見:粘膜下層を中心にした境界明瞭な粘膜下腫瘍であり,硝子化した膠原線維組織を伴う紡錐形細胞からなる腫瘍で多層構造を呈するpsammomatous calcification(砂粒状石灰化)を認めた.また,腫瘍は筋層との連続性を認めなかった(Fig. 2b, c).免疫組織化学的染色検査による所見では,一部にCD34陽性を認めたが,c-kit,DOG1,α-smooth muscle actin,HHF35,desmin,h-caldesmon,anaplastic lymphoma kinase(以下,ALKと略記),S-100,epithelial membrane antigen(EMA),bcl-2は全て陰性であった.
以上より,胃原発性CFTと診断した.
CFTは1988年にRosenthalら1)により,女児の四肢に発生したfibrous tumor with psammomabodiesという名称で最初の2例が報告された.2001年のSigelら13)の約30例の報告によると,10~20歳代の女性に多く,四肢の皮下や軟部組織に好発し,次いで体幹,鼠径部,陰囊,頭頸部,さらにまれであるが縦隔,胸膜,腹膜にもみられるとされている.一方消化管での発生例の報告は少なく,胃が19例2)~12),小腸が4例5)とまれである.
組織学的な特徴として硝子化膠原線維を含む紡錘形細胞の増殖,石灰化が幾層にも重なった砂粒体(psammoma body)の存在,リンパ球や形質細胞などの慢性炎症細胞の浸潤が挙げられる14).免疫組織学的には,vimentin陽性,factor XIII陽性でその他c-kit,desmin,actin,S100,ALKは全て陰性とされるがCD34が部分的に陽性となることもある.以前は,組織の治癒過程における異常反応とされてcalcifying fibrous pseudotumorと命名されたことや15),硝子化した組織内にリンパ球や形質細胞の浸潤を認めることから,広義の炎症性偽腫瘍(inflammatory pseudotumor;IPT)に属する疾患として報告もされたこともあるが13),現在は非浸潤性の良性腫瘍の一つと認識されている.CFTの原因として先行感染,外傷,手術などが挙げられるが,現在のところ詳細は不明である.家族発症も報告されていることから,遺伝的な要素も示唆されている16).
消化管CFTの画像診断として,EUSは有用であり,Satoら7)はCFTのEUS所見の特徴として,境界明瞭で固く小さいこと,膨張性の発育を来すこと,筋層との連続性がないこと,内部不均一で点状高輝度を有することとしている.一方,GISTのEUS所見として,辺縁不正で,筋層との連続があり,内部不均一であることを特徴としている17).また,GISTは大きさが増大するにつれ出血や壊死を生じ,時に石灰化することがあり,そのような場合は点状高輝度を示すと考えられる7).CFTとGISTの鑑別として,筋層との連続性が鑑別の一つとして挙げられる.Satoら7)の報告したような粘膜下層を中心として発育したCFTの場合はEUSによる鑑別が有効であると思われるが,筋層に発育したCFTの症例も報告されており9)~11),そのような場合はEUSのみでの鑑別診断は非常に困難であり,最終的には切除による組織診断が必要と考えられる.本症例は腫瘤の上に第1~3層が確認され,筋層とほぼ同様の内部低エコーを呈し,筋層との連続性が疑われたこと,内部エコー不均一で,一部石灰化の所見を伴っていたことからGISTの所見にも一致しており,EUSにおけるGISTとCFTとの鑑別が困難であることを示す1例であると考えられる.術前に粘膜下層由来の腫瘍と確定診断が可能であったら,Satoら7)が示すように診断的治療法の一つとしてESDも可能であったかもしれないが,GISTであった場合,合併症としての腫瘍の損傷や穿孔は転移再発の高危険因子となることを肝に銘じなければならない.
また,EUS-FNAによる生検は診断の補助になると考えられるが,報告例の中で術前にEUS-FNAを行いCFTと診断されたものは1例も認めなかった.CFTの確定診断には紡錘形細胞や石灰化といった組織像が重要であり,細胞診のみでは確定診断は困難と思われる.また,消化管GISTはScarpaら18)によるとEUS-FNAにより84%の診断が可能であるが,全ての症例で確定診断が可能というわけではない.本症例ではEUS-FNAにおいてGISTの確定診断がつかずとも,今回術前に胃GISTを疑っており,また,2 cm以上であったことから,EUS-FNAの結果にかかわらず手術を選択していたと考えられる.
胃原発性CFTの報告としてPubMedでは1950年から,または医中誌Webでは1983年から2012年11月の期間を「calcifying fibrous tumor」,「calcifying fibrous pseudotumor」をキーワードとして検索したところ,これまでに19例の報告があり,本邦報告例は2例のみであった(Table 1)2)~12).男性11人,女性8人であり,年齢は25~77歳で平均52歳,腫瘍径は0.8~3.9 cmで平均2 cmであった.また,腫瘍の位置は胃体部が12例,前庭部が2例,穹窿部に1例,詳細不明が4例と多くの症例は胃体部に病変が存在した.症状のない症例が多く,検診や,他疾患のフォローアップ中に発見されることが多い.また,免疫染色検査はvimentin,factor XIIIaが陽性となるのが一般的だが,本症例も含め一部CD34陽性である症例も存在する.また,IgG4陽性形質細胞が一部に存在することも特徴とされている.本症例では病理組織学的特徴によりCFTと確定診断が可能であり,vimentin,factor XIIIaの免疫染色検査,IgG4陽性形質細胞の検索は行わなかった.しかし,他疾患と組織学的に鑑別が困難な場合はvimentin,factor XIIIa,IgG4の免疫染色検査を行うことは診断の一助となると考えられる.
No | Author | Year | Age/Sex | Symptom | Size (cm) | Site | Treatment | Recurrence | Immunohistochemically |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | Puccio2) | 2001 | 49/F | weight loss/early satiety | UN | Great curvature of body | LPGR | UN | UN |
2 | Nascimento3) | 2002 | 64/M | incidental | 1.1 | stomach | resection | none | UN |
3 | Nascimento3) | 2002 | 65/M | incidental | 0.8 | stomach | resection | none | UN |
4 | Delbecque4) | 2004 | 63/M | Epigastric pain | 2 | Lesser curvature | LPGR | none | Vimentin/factor XIIIa positive |
5 | Elpek5) | 2006 | 47/F | halitosis | 3.2 | Lesser curvature | PGR | UN | Vimentin positive |
6 | Attila6) | 2006 | 25/M | Incidental | 1 | Lesser curvature of antrum | LPGR | none | Vimentin/factorXIIIa positive |
7 | Sato7) | 2008 | 61/M | UN | 2 | Anterior wall of the middle body | ESD | UN | Vimentin positive |
8 | Chatelain8) | 2008 | 50/F | incidental | 2 | lesser curvature of the body | PGR | none | Vimentin positive |
9 | Kitamura9) | 2009 | 44/F | incidental | 3 | Anterior wall of the lower body | LPGR | none | Vimentin positive |
10 | Abbas10) | 2010 | 51/M | incidental | 2.2 | Posterior wall of body | PGR | none | |
11 | Abbas10) | 2010 | 77/F | incidental | 1 | Posterior wall of body | PGR | none | |
12 | Abbas10) | 2010 | 59/F | anemia | 3 | Posterior wall of body | PGR | none | 2 case focally CD34 positive/4 case IgG4 positive (plasma cells) |
13 | Abbas10) | 2010 | 53/M | incidental | 2 | antrum | PGR | none | |
14 | Abbas10) | 2010 | 40/M | UN | 2 | body | PGR | none | |
15 | Abbas10) | 2010 | 42/F | incidental | 3 | Lower body | PGR | none | |
16 | Abbas10) | 2010 | 51/M | incidental | 2.2 | body | PGR | none | |
17 | Jang11) | 2012 | 59/M | incidental | 3.9 | Great curvature of fundus | LPGR | none | CD117-positive (mast cells)/IgG4 positive (plasma cell) |
18 | Vasilakakia12) | 2012 | 60/ M | dyspepsia | 1 | body | PGR | none | Vimentin/factor XIII positive |
19 | Our case | 35/F | incidental | 2 | Anterior wall of the lower body | LPGR | none | Focally CD34 posive |
*UN: unkown, LPGR: laparoscopic partial gastrectomy, PGR: partial gastrectomy, but not described whether open or laparoscopic procedure, ESD: endscopic submucosal dissection
治療は19例中1例のみESDで切除が行われていたが,大部分の例で胃部分切除が行われており,術後の再発は1例も認められていない.本症例も,術前胃GISTを疑い,腹腔鏡下胃部分切除を行った.良性腫瘍であることから播種の可能性は低いと考えられるが,頸部原発のCFTが,その後局所再発したとの報告があり3)19),十分な切除断端を確保することは必要である.本疾患は良性の経過をとること,比較的腫瘍が小さいこと,病理組織学的にさまざまな形態をとることから,臨床的に認識されにくい疾患であるが,CFTの臨床病理学的な特徴を認識することで,GISTを含めた粘膜下腫瘍の鑑別として報告しておくことは有用と思われる.
利益相反:なし