The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
A Case of Intestinal Endometriosis with Lymphovascular Invasion
Tetsuro TominagaDaisuke FukudaHiroaki TakeshitaKazuo ToTakafumi AboShigekazu HidakaAtsushi NanashimaNaoe KinoshitaTakeshi NagayasuTerumitsu Sawai
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2014 Volume 47 Issue 6 Pages 351-356

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Abstract

腸管子宮内膜症は,腸管で子宮内膜組織が異所性に増殖するまれな疾患である.症例は38歳の女性で,3か月前から腸閉塞症状を繰り返すため精査目的で当院へ紹介された.腹部造影CTで回盲部の腫瘤影と多発子宮筋腫を認めた.月経に随伴する腹部症状と,CA125の上昇より腸管子宮内膜症を疑い回盲部切除術を施行した.組織学的診断では回盲部に粘膜下層から漿膜下層にかけて子宮内膜組織の増生を認め,一部リンパ管侵襲を伴っていた.腸管子宮内膜症のリンパ行性進展を示唆する貴重な症例であり,文献的考察を加え報告する.

はじめに

腸管子宮内膜症は子宮内膜組織が腸管で異所性に増殖,浸潤する疾患である1).多くは子宮内膜細胞が月経時に月経血とともに卵管内を逆流し腹腔内に散布されることで発症するといわれているが,一部に悪性腫瘍と同様な脈管性の進展を来す可能性も報告されている2).今回,我々はリンパ管侵襲を伴った腸管子宮内膜症の1例を経験したので報告する.

症例

症例:38歳,女性

主訴:右下腹部痛

既往歴:左卵巣囊腫にて10年前に左付属器摘出術を施行.

現病歴:3か月前に突然の腹痛および腹部膨満が出現し,腸閉塞の診断で前医へ入院した.腹部CTで回盲部の腫瘤様浮腫と口側腸管の拡張を認めた.保存的治療で症状が改善し一旦退院したが,その後も同様の症状を繰り返したため精査目的に当科へ紹介となった.

血液検査所見:血液生化学所見は軽度の肝機能障害と貧血を認めた.CA125が117.2 U/mlと上昇してい‍た.

身体所見:身長163.0 cm,体重47.0 kg,BMI 17.6,腹部は全体的に膨満し,右下腹部に圧痛がみられた.筋性防御や反跳痛はみられなかった.

腹部単純X線検査所見:小腸の拡張および鏡面像を認めた(Fig. 1).

Fig. 1 

Abdominal plain X-ray showed some niveaus.

骨盤部造影CT所見:回腸終末部に腫瘤影を認め,口側腸管の拡張がみられた(Fig. 2:矢印).子宮には筋腫が多発していた(Fig. 2:矢頭).

Fig. 2 

Pelvic CT revealed a mass lesion at the terminal ileum (arrow) and myoma of the uterus (arrowhead).

病歴から月経周期に随伴して腸閉塞症状を繰り返していたことが判明したため,腸管子宮内膜症による狭窄を最も疑った.子宮筋腫に関しては当院婦人科にコンサルトしたところ,挙児希望があり過多月経による貧血もみられたため,核出術を計画した.

手術所見:下腹部正中切開で開腹した.回盲部に約5 cmにわたる硬い狭窄を認め,口側の小腸は全体的に拡張しており浮腫も著明であった.Skip lesionや明らかなリンパ節腫大がないことを確認し回盲部切除術を行った.右卵巣には病変はみられなかった.子宮は漿膜下筋腫,筋層内筋腫が多発しており4~8 cm大の漿膜下筋腫を4個,1.5~2.5 cm大の筋層内筋腫を9個核出して手術終了した.

切除標本:Bauhin弁を中心に腸管壁の肥厚と硬化に伴う狭窄を認めた(Fig. 3a).また,粘膜面に明らかな異常はみられなかった(Fig. 3b).

Fig. 3 

Macroscopic findings of the resected specimen. Ridging formation was present (a). The cut surface showed that tumor was mainly located in the submucosal layer (b).

病理組織学的検査所見:回腸の漿膜下層から筋層深部にかけて,一部線維化を伴った子宮内膜様の組織が島状に散見された(×20:Fig. 4a).漿膜面の変化はみられなかった.高円柱型上皮からなる長円形腺管を認め,核の大小不同はみられなかった(×200:Fig. 4b).上皮,間質ともにER,PgR免疫染色陽性であり腸管子宮内膜症と診断した(×200:Fig. 4c).また,粘膜下層の管腔内に上皮様細胞の小集塊がみられた(×100:Fig. 5a,右上×200).管腔はD2-40免疫染色陽性でありリンパ管であった(×200:Fig. 5b).内部の小集塊はAE1/AE3(ケラチン)免疫染色で陽性であり上皮組織であった(×200:Fig. 5c).ER,PgR免疫染色はいずれも陽性を示し,リンパ管侵襲を伴った腸管子宮内膜症であると診断した(×200:Fig. 5d(矢頭),Fig. 5e(矢印)).

Fig. 4 

HE stain showed endometrial tissue in the submucosal layer (a: HE staining ×20). Positive staining of endometrial tissue with ER (b: ER staining ×200) and PgR (c: PgR staining ×200).

Fig. 5 

Lymphovascular invasion of an endometrial gland was shown (a: HE staining ×100). Positive staining of the lumen is outlined with D2-40 antibody (b: D2-40 staining ×200). The tissue was positive for AE1/AE3 staining (c: AE1/AE3 staining ×200). Immunohistochemical staining was positive with ER (d: ER staining ×200) and PgR (e: PgR staining ×200).

術後経過:術後経過は良好で術後16日目に自宅退院した.現在3年4か月経過しているが特に再燃の徴候はみられていない.

考察

腸管子宮内膜症は,子宮内膜あるいはそれと類似する組織が異所性に腸管に増殖,浸潤し周囲組織との強固な癒着を形成する疾患である1)

形態から,腸管壁の一部に粘膜下腫瘍様に異所性子宮内膜を認め性周期に同調して出血を繰り返すendometrioma型と,内膜組織が漿膜側で増殖し壁の線維化が進行して狭窄を来すdiffuse endometriosis型の二つに分類される3).本症例は腸管狭窄症状を呈し,病理組織学的検査で筋層の変形と線維化を伴っていたためdiffuse endometriosis型と考えられる.

子宮内膜症の発症機序については,①子宮内膜細胞が月経時に月経血とともに卵管内を逆流し腹腔内に散布される経卵管移植説,②胎生期の体腔上皮が子宮内膜に化生する腹膜上皮化生説,③手術の際に播種される機械的移植説,④悪性腫瘍と同様に血行性またはリンパ行性に運ばれ,他臓器に着床,増殖する転移性移植説などが挙げられる3)~7).現在最も有力な説は①の経卵管移植説であり,このことは骨盤内の腹膜および直腸・S状結腸に好発する本症の特徴からも裏付けられる.

自験例は,手術時に腹膜内に散布された播種を思わせる病変はみられなかった.また,病理組織学的検査で粘膜下層から漿膜下層に子宮内膜組織を認め,明らかな漿膜面の変化や直接浸潤を疑わせる所見は認めず経卵管移植経路は否定的であった.標本内の微小なリンパ脈管内には子宮内膜組織がみられ,免疫染色検査の結果からもリンパ管侵襲を伴った腸管子宮内膜症であることが裏付けられたため,発症機序として④のリンパ行性進展を示唆する貴重な症例であると考えた.

一方,子宮内膜症は良性腫瘍でありながら,一部に悪性腫瘍と同様に形態異常,無秩序な細胞増殖,細胞浸潤,血管新生を来し侵攻性の経過をたどる症例が存在することが知られている2).本症例のリンパ管侵襲が,既存した腸管子宮内膜症の内膜組織からリンパ管に進展した可能性も否定はできない.Noelら8)はリンパ行性にリンパ節転移を来した子宮内膜症の症例を集積し,リンパ管侵襲を認める症例は有意にリンパ節転移を来しやすいことを報告しており,このような症例では遺残したリンパ節からの転移,再発も念頭に置く必要がある.

子宮内膜症の約1%は癌化を伴うと報告されている9).多くは卵巣子宮内膜症からの発生であるが,腸管子宮内膜症からの癌化例はendometriosis-associated intestinal tumor(以下,EAITと略記)と総称され,5年生存率が約10%と予後不良の疾患である10).その診断基準には,「同一組織内に良悪性の子宮内膜組織が存在すること」や,「癌が良性子宮内膜症組織内に生じ他の原発病変が存在しないこと」が挙げられるが,自験例では組織内に明らかな異型細胞は認めず,EAITの基準は満たさなかった9).しかし,病理組織学的検査時に主病変の悪性組織が偶然切り出せていない可能性や,今後悪性化する可能性も考えられる4)11)

1983年から2013年8月までの医学中央雑誌で「腸管子宮内膜症」と「リンパ節」をキーワードとして検索(会議録を除く)した結果同様の報告は8例認めた4)7)12)~17).いずれも,腸管切除にて良好な経過が得られており再発を来した症例はみられなかった.しかし,これらの術後経過観察期間は最長でも2年と短く,長期経過後に転移,再発や悪性化を来す可能性についてはさらなる症例の蓄積が待たれるところである.

腸管子宮内膜症は術前診断率が約10%と低く,術後の病理組織学的検査で確定診断されることが多いため18),腸管子宮内膜症の摘出標本に対しリンパ節病変の有無を調べることは本疾患の経過観察を行う上で重要と考える.

利益相反:なし

文献
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