The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
Esophagus Hiatus Hernia after Laparoscopic Total Gastrectomy
Noriko MatsumotoMitsuo ShimadaNobuhiro KuritaHirohiko SatoTakashi IwataKozo YoshikawaJun HigashijimaMotoya ChikakiyoMasatoshi NishiHideya Kashihara
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2014 Volume 47 Issue 8 Pages 460-465

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Abstract

腹腔鏡下胃全摘術1年後に傍食道裂孔ヘルニアを発症した1例を経験したので報告する.症例は73歳男性で,1年前に当院で早期胃癌に対して腹腔鏡下胃全摘術,Roux-en-Y再建を施行した.2012年5月,突然の腹痛を主訴に来院した.腹部は板状硬でBlumberg signを認めた.胸腹部造影CTにて食道裂孔より左胸腔内へ拡張した腸管の脱出像と胸水貯留を認めた.食道裂孔ヘルニアによる絞扼性イレウスと診断し,緊急手術を施行した.食道裂孔を介して挙上空腸が左胸腔内へ進入しており,傍食道裂孔ヘルニアと診断した.食道裂孔を切開しヘルニア門を開大し,腹腔側から空腸を引き戻し,裂孔部を縫合閉鎖し空腸を固定し手術を終了した.術後14日目に軽快,退院した.術後1年の現在まで再発の徴候はない.

はじめに

腹腔鏡下胃全摘術は開腹胃切除術と比べ術後疼痛の軽減,早期腸管機能の回復などの利点から,近年積極的に導入されている1)~3).出血や縫合不全,創感染などの合併症に関しても,開腹手術と大差はないと報告されているが,従来の開腹手術ではまれであった内ヘルニアが,術後合併症として注意が必要であることも報告されている4)~8)

今回,我々は腹腔鏡下胃全摘術1年後に手術時に開大した食道裂孔より腸管が胸腔内に脱出し,絞扼性イレウスに至った傍食道裂孔ヘルニアのまれな1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

症例

患者:73歳,男性

主訴:腹痛

既往歴:1年前,早期胃癌に対して当科で腹腔鏡下胃全摘術,D2郭清,Roux-en-Y法再建(食道空腸吻合はoverlap法)を施行した.その際に食道左側,横隔膜脚の一部を約1 cm横切開し,食道裂孔を開大したが,明らかな胸膜の損傷はなく開胸にはなっていなかった.また,Petersens defectは縫合閉鎖していたが,食道裂孔の閉鎖はしていなかった.

家族歴:特記すべきことなし.

現病歴:胃癌術後1年,突然の腹痛を認め,精査加療目的に当院受診となった.

入院時現症:身長160 cm,体重58.3 kg,body mass index(BMI)22.8,体温37.3°C,血圧129/87 mmHg,脈拍80回/分整,SpO2 97%(room air).眼瞼結膜,眼球結膜に貧血・黄染なし.腹部は板状硬でBlumberg signを認めた.

入院時検査成績:血液一般検査に異常は認めず,BUN 40 mg/dl,CRE 0.92 mg/dlと軽度脱水所見を認めた.腫瘍マーカーは正常であった.

腹部造影CT所見:食道裂孔より左胸腔内へ拡張した腸管の脱出像と胸水貯留を認めた.脱出した腸管の造影不良を認めた(Fig. 1).

Fig. 1 

CT shows the intestines herniating into the thoracic cavity through the left side of the esophageal hiatus.

上部消化管造影所見:経鼻的に減圧チューブを挿入し,拡張した挙上空腸の減圧を図った後に造影検査を施行した.挙上空腸はループ状に屈曲し,腹腔内の空腸内への造影剤の流出は認めなかった(Fig. 2).

Fig. 2 

Gastrografin infusion shows an extended and twisted jejunum in the thorax.

以上の所見より,傍食道裂孔ヘルニアによる絞扼性イレウスと診断し,十分なinformed consentの後,緊急手術を施行した.

手術所見:全身麻酔下に上腹部正中切開にて経腹的アプローチにてヘルニア門を確認すると,左傍食道裂孔を介して挙上空腸が左胸腔内へ入り込んでおり,ヘルニア門で絞扼されていた.左傍食道裂孔ヘルニアと診断した(Fig. 3).食道裂孔を1 cm程縦切開しヘルニア門を開大し,腹腔側から空腸を引き戻して整復した.ヘルニア門は5 cm大で,一部腸管の色調変化を認めたが,腸管切除をすることなく,食道裂孔部(左右横隔膜脚)を食道後方にて4針縫合閉鎖した.また,食道右壁を横隔膜右脚に,左側を横隔膜腱中心に2針ずつ縫合固定し,手術を終了した(Fig. 4).手術時間は2時間38分で出血量は少量であった.

Fig. 3 

Intraoperative findings. Herniation of the small intestine into the left side of the esophageal hiatus. Arrowheads: left side of the esophageal hiatus.

Fig. 4 

Intraoperative findings. Hernia orifice is occluded by suturing posterior walls of the diaphragm crus. Arrowheads: Esophagus is securely fixed by 4 sutures to the diaphragm crus.

術後経過:経過は良好であり,14日目に退院した.術後12か月の現在まで再発はない.

考察

食道裂孔ヘルニアは,横隔膜ヘルニアのなかで最も頻度が高く,先天性,後天性にも発生する.食道裂孔が開大し,横隔膜食道靭帯が弛緩し,噴門部および胃の一部が胸腔内に脱出する.

本症例のように術後に発症した傍食道裂孔ヘルニアは,初回手術時に生じた食道裂孔開大部,胸膜欠損部より腸管が胸腔内に脱出し,嵌頓し絞扼性イレウスに至ったと考えられる.

1983年~2013年7月までに「術後」,「食道裂孔ヘルニア」をキーワードに医学中央雑誌で検索した結果,会議録を除き5例同様の症例報告があった.食道癌術後に胸腔内ヘルニアが発症した報告が2例9)10),胃癌術後に食道裂孔ヘルニアを発症した報告が3例あるのみで非常にまれである(Table 111)~13).自験例のように腹腔鏡下胃全摘術後に食道裂孔ヘルニアを発生した報告は2例あった.その報告の1例では腹腔鏡下胃全摘術後2日目に発症し,剥離操作時の左胸膜の損傷と食道裂孔の開大が原因と考えられた.

Table 1  Reported case of esophageal hiatus hernia after total gastrectomy
No Author/Year Age/gender Symptom Previous surgery Interval Access Treatment for hernia orifice
1 Matsuki12)/2003 60 s/M vomiting lower esophagectomy and total gastrectomy with jejunal interposition 16 ​year open The flat Marlex mesh
2 Matsushima11)/2011 80 s/M dyspnea LATG with Roux-en-Y 2 ​day laparoscopy Suturing posterior walls of the diaphragm crus
3 Wakiyama13)/2013 60 s/M abdominal pain LATG with Roux-en-Y 1.5 ​year laparoscopy Suturing posterior walls of the diaphragm crus
4 Our case 70 s/M abdominal pain LATG with Roux-en-Y 1 ​year open Suturing posterior walls of the diaphragm crus

LATG: Laparosdistal gastrectomycopy assisted

当科では腹腔鏡下胃全摘術再建時の食道空腸吻合には,overlap法を採用している.その理由としては,サーキュラーステイプラーに比べ本体が細く視野に制限のある腹腔鏡下手術において有利である,食道へのステイプラーの挿入が容易である,細径の食道でも十分な吻合口径を確保できる,吻合時の解放創が不必要で完全鏡視下手術が可能であるなどの利点を有するためである14).Overlap法を安全に施行するためには,circular法と比較しスティプラーを挿入するために横隔膜脚を切開し食道裂孔を開大する必要がある.本症例でも,横隔膜脚を切開し,型通りの吻合再建を行っていた.手術終了時には,食道空腸吻合部周囲に余剰な間隙がないことを確認し,切開部の縫縮などは行わなかった.手術ビデオを再度確認したが,明らかな胸膜の欠損はなく開胸には至っていなかった.しかし,脚を切り広げる際に胸膜に熱損傷などが加わり,胸膜に小孔が生じた可能性,または胸膜の一部が菲薄化,脆弱化し,術後に欠損孔が生じた可能性があると考える.また,癒着により間隙は閉鎖されることが多いといわれているが,本症例では緊急手術時に腹腔内の癒着をほとんど認めておらず,胸腔内陰圧により切開部のわずかな間隙より小腸が胸腔内へ脱出し嵌頓したと考えられる.

胃癌術後,R-Y再建後に発症する内ヘルニアの発生頻度は0.2~11.7%と報告されており15)~17),発症部位としては,1)挙上空腸背側の腸間膜欠損部(Petersens defect),2)空腸空腸吻合部背側の腸間膜欠損部,3)結腸後経路の挙上空腸による横行結腸間膜の間隙,4)癒着によるバンドがあげられるが,今回のような食道裂孔ヘルニアはまれである.原因としては肥満手術や胃癌手術では術後に体重減少が多く欠損部が大きくなること,また腹腔鏡手術においては癒着が軽度であること,腸間膜の完全閉鎖が困難であることなどが考えられる18)19)

腹痛や嘔吐などの症状で発症することが多く,診断には腹部CTが有用とされている5)6).胃癌術後にこのような症状を認めた場合,内ヘルニアの可能性も念頭におき,CTを施行する必要がある.内ヘルニアと診断がついた場合,自然整復することはまれであり,絞扼性にイレウスに至ることも多い.そのため,早急に診断して外科治療を開始することが重要である.本症例もイレウスチューブによる減圧を行ったのち,緊急開腹手術の方針となった.食道裂孔ヘルニア修復術はヘルニア整復とヘルニア門の閉鎖が基本である.本症例は,術中所見で空腸に色調変化は認めたものの,壊死には至っておらず,腸切除は要さなかった.また,ヘルニア門は5 cm大であったが直接縫合にて閉鎖が可能であった.

食道裂孔ヘルニアや術後内ヘルニアに対し,最近では鏡視下手術を施行した報告も散見される.開腹,開胸と比較し,合併症や再発リスクは同等であるとの報告もある20).内ヘルニアを発症する症例では,癒着は軽度であることが多く,比較的容易に鏡視下手術による修復が可能と考えるが,本症例のように,小腸イレウスに至り腸管浮腫・拡張が著明な場合は,腹腔鏡手術では術野の確保や全体視が困難で,鉗子による腸管損傷の危険性などから,開腹手術を選択するべきである.

食道裂孔ヘルニア修復術の基本手技は,裂孔の連続または単結節縫合による直接閉鎖が基本である21).直接縫合閉鎖による再発率は0~40%とさまざまな報告があるが,重度の逆流症状などで再手術が必要となる症例は3%未満と少数である21).ヘルニア門が大きい,横隔膜脚が脆弱など直接縫合閉鎖が困難な症例に対しては,メッシュなどの人工物挿入による補強が再発リスクを5%以上低下させるという報告もある.腹腔内膿瘍や腹膜炎を伴わない症例では,小腸,大腸切除を要したヘルニア陥頓症例でもメッシュを使用し修復した症例も認めるが,メッシュの材質や形状,またメッシュ挿入の有用性,合併症に関しては,まだ十分なevidenceはなく,今後の検討を要すると思われる21)~23)

腹腔鏡下胃全摘術,overlap法の普及に伴い,このような胃全摘後の食道裂孔ヘルニア嵌頓の発生頻度が高まる危険性がある.予防策として,横隔膜脚の切開は最小限に留める,胸膜損傷の危険性も念頭におき,デバイスなどを選択するなどが考えられる.また,食道裂孔の縫縮や腸管との固定も考慮する必要があると思われるが,過度な横隔膜脚の縫縮は腸管のうっ血や縫合不全時のドレナージ不全などの問題点もあり,今後検討を要する.本症例を経験後,当科では脚を切除する際には,切除の程度を最小限に留め,不要な間隙を作らないこと,胸膜損傷がないことを十分に確認することを留意している.

また,その発症時期においても術後2日~16年と長期にわたっている.今後は胃癌術後の腹痛に対し,従来の内ヘルニアなどとともに食道裂孔ヘルニアも念頭におき,速やかに対応することが重要である.

利益相反:なし

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