The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
Gallbladder Carcinoma with Situs Inversus Totalis
Akefumi SatoHirofumi IchikawaKazuaki HatsugaiMasato OoharaSigeru OttomoDaisuke TakeyamaKentaro ShimaIwao Kaneda
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2015 Volume 48 Issue 10 Pages 847-854

Details
Abstract

症例は75歳の男性で,胆管炎の発症を契機に精査を行ったところ,胆囊内に悪性を疑う腫瘤性病変を指摘され,同時に完全内臓逆位が認められた.胆囊癌の疑いで手術を施行したが,開腹所見で腫瘍の漿膜面への露出を認めず,術中迅速診断で胆囊管断端に悪性所見を認めなかったため,拡大胆囊摘出術を施行し,肝外胆管切除術は施行しなかった.病理組織学的診断では漿膜下層まで浸潤する腺癌を認めたが,切除断端はいずれも陰性であり,胆囊管リンパ節(#12c)への転移も認められなかった.完全内臓逆位は内臓が左右逆転・鏡面関係であるため,手術操作に困難を生じることがある.また,合併奇形が認められることも多いため,通常よりも入念な画像の読影と術中の細心の注意が求められる.完全内臓逆位と胆囊癌が合併したとの報告は非常にまれであり,ここに報告する.

はじめに

完全内臓逆位症は先天的に胸腹部臓器が左右反対の鏡面像をとる位置異常であり,2,000人から10,000人に1人の頻度で認められるといわれている1).今回,本症に胆囊癌を合併した症例に対する手術を経験した.完全内臓逆位症患者に対する手術の症例報告は少なからず存在するものの,胆囊癌に対する手術に関しては報告が非常にまれである.慣れない術野のために,手術にはやや困難を覚えたが,貴重な症例と考え,ここに報告する.

症例

患者:75歳,男性

主訴:腹痛,発熱

既往歴:中学生時に虫垂切除術の既往あり.2002年に狭心症にて経皮的冠動脈形成術施行.

糖尿病,高血圧にて内服治療中.

家族歴:近親者に内臓逆位者は認められない.

現病歴:2013年8月完全房室ブロックにて近医にてペースメーカー留置術が施行された.入院中に肝機能障害を認めたため,精査目的に当院消化器内科紹介となった.

来院時,37°C台の発熱と心窩部痛を認めた.血液生化学検査では炎症反応の高値と肝機能障害を認めた.腹部CTでは完全内臓逆位を認めた.明らかな胆囊炎の所見を認めないものの,胆囊底部に不整な壁肥厚が認められた.また,明らかな総胆管結石は認められなかったものの,胆管炎および胆囊癌の疑いで精査・加療目的に入院となった.

入院後,抗生物質の投与にて炎症反応および自覚症状の軽減はえられたものの,肝機能異常が遷延した.精査にて総胆管結石を認め,内視鏡的乳頭切開術が施行された.また,上部消化管内視鏡検査にて早期胃癌が認められ,ESDが施行された.

また,胆囊底部に腫瘍性病変を認め,強く胆囊癌が疑われた.手術・加療目的に当科紹介となった.

身体所見:腹部は平坦・軟.腹痛なし.左下腹部に交差切開痕を認める.

血液生化学検査所見:肝機能異常は認めない.CEA,CA19-9は正常範囲内であった.

腹部US所見:胆囊底部に限局性壁肥厚と20 mm前後の辺縁不整な病変を認める.肝臓との境界は明瞭,内腔にdebris貯留,肝内に腫瘤性病変を認めず.

腹部超音波内視鏡検査所見:内臓逆位のため,右側臥位にて観察した.胆囊内にdebrisが充満,胆囊底部に20 mm程度の結節隆起を認める.表面に細やかな凹凸あり.全体に高エコー,周囲にII a様病変が広がる.外側高エコー層の断裂や消失は認めない(Fig. 1).

Fig. 1 

Endoscopic ultrasound shows the primary tumor in the fundus of the gallbladder (arrow). The continuity of the outer echogenic layer was not interrupted.

腹部造影CT所見:完全内臓逆位を認める.胆囊底部に不整な壁肥厚を認め,胆囊癌が疑われる.胆囊床への浸潤の可能性あり(Fig. 2).肝転移は明らかではない.腹腔動脈近位部から副右肝動脈が分岐しており,門脈の背側を走行している(Fig. 3).また,A4が胃十二指腸動脈から分岐している.

Fig. 2 

Abdominal CT scan shows situs inversus totalis. Irregular wall thickening can be observed in the fundus of the transpositioned gallbladder (arrow).

Fig. 3 

A 3-dimensional CT image shows the accessory right hepatic artery arising from the celiac artery (arrow).

PET-CT所見:胆囊底部に一致してSUVmax=5.7のFDG集積を認める(Fig. 4).その他の部位には異常集積を認めない.

Fig. 4 

PET-CT shows increased 18F-FDG uptake in the fundus of the gallbladder (arrow).

手術所見:以上より,壁深達度がMPもしくはSS浅層程度の胆囊癌が強く疑われ,なおかつ,根治切除可能と考えられ,2013年11月手術を施行した.術者は通常の肝切除の際と同様に患者の右側に立ち,上腹部にL字型切開をおき,開腹した.胆囊底部に比較的やわらかい腫瘤を触知した.胆囊壁のひきつれを認めたが,腫瘍の漿膜面への露出はなかった.明らかな遠隔転移の所見を認めず,予定通り拡大胆囊摘出術の予定とした.

冠状間膜および肝腎間膜を切離し,肝左葉(本来の右葉)を脱転した.本来,この操作の際には第一助手に右葉を把持・挙上してもらい,術者が直視下に作業を行っている.本症例では術者が左手で肝臓を把持・挙上し,右手にデバイスを持ち,第一助手と協力して切離を進めた.

胆囊管を結紮・切離し,断端を術中迅速診断に提出したが,悪性所見を認めなかった.

2 cmのmarginをとり胆囊床の切離線を設定した.肝切離は主に超音波外科吸引器(SONOPET®)を使用し,Pringle法による肝血流遮断も併用した.

通常は術者が右葉背側に左手を入れ,肝臓を把持・挙上しながら,右手にデバイスを持ち肝切離を行っている.しかし,本症例では術者の立ち位置を変更しても左手での肝臓の挙上が困難であった.また,第一助手による肝臓の挙上も,かえって術野を妨げることになり,手技に困難を感じた.そこで,第二助手に肝円索を把持してもらい,腹側に牽引し肝臓を挙上したところ,ストレスなく肝切離が可能となり,胆囊床と胆囊をen blocに摘出した.予防的リンパ節郭清や肝外胆管切除は施行しなかった.

止血を確認後,肝下面へドレーンを留置して閉腹した.

麻酔時間 5時間58分,手術時間 4時間40分,肝血流遮断時間 67分,出血量 800 ml,自己血輸血 2単位であった.

切除標本所見:胆囊底部に30×25 mm大の乳頭浸潤型腫瘍を認めた(Fig. 5).漿膜面への露出はなく,肝浸潤も明らかではなかった.

Fig. 5 

The specimen demonstrates a papillary-infiltrating type tumor, 30×25 mm in size, located in the fundus of the gallbladder.

病理組織学的検査所見:adenocarcinoma of gallbladder 【pap>tub2,int,INFβ,ly0,v1,pn0,ss,pHinf1a,pBinf0,pPV0,pA0,pBM0,pEM0,pT2,Stage II】

術後経過は問題なく経過し,4病日に退院となった.

現在,術後半年を経過しているが,明らかな再発の所見なく,外来にて経過観察中である.

考察

内臓逆位は胸腹部臓器の全てが逆転する完全内臓逆位と,一部の臓器のみ逆転する部分内臓逆位とに分類される.前者と後者の比は6:1と前者が多く,完全内臓逆位の頻度は2,000~10,000人に1人程度とされている1)2).自験例も右胸心や左下腹部に虫垂切除の術痕を認め,完全内臓逆位に分類される.

本症の成因として,全内臓転移説,不同加温説,双胎説,胎芽回転説,遺伝説,organisator説など諸説があるが,いまだ定説はない3)~5)

内臓逆位それ自体に病的意義はないが,心血管奇形,総腸間膜症,多脾症,上行結腸欠如,胆道奇形,横隔膜弛緩症,歯牙欠損などの合併奇形が多く報告され6),特に心血管系合併奇形は8~10%で正常人の約10倍といわれている7)

内臓逆位症の患者に対し,腹腔鏡下胆囊摘出術を行った報告は比較的多く7)~11),また,胆管癌12)13)に対する手術の報告や肝切除の報告も散見される.しかし,胆囊癌に対する手術を行ったとする報告はまれで,医学中央雑誌で「内臓逆位」と「胆囊癌」をキーワードとして検索すると1977年から2013年3月までに8例の報告があるものの(会議録を含む),拡大胆囊摘出術を施行したと記載のある報告はなかった.

現在,壁深達度がSS以深の胆囊癌症例では半数以上の症例でリンパ節転移が認められる14)ため,胆囊床切除に加えて,一般に第2群までのリンパ節郭清が推奨されている.また,Shimizuら15)はSS以深の癌では肉眼で検知できない肝十二指腸間膜浸潤が相当数あり,予防的に肝外胆管も切除するべきと述べている.自験例では術前のEUSにおいて外側高エコー層の断裂や消失を認めず,深達度はMPもしくはSS浅層と考えられた.腹部造影CTにおいては,腫瘍は胆囊底部に存在していたが,胆囊床に浸潤している可能性も疑われた.以上より,開腹胆囊摘出術および胆囊床切除を術式として選択した.予防的リンパ節郭清および肝外胆管切除に関しては,心疾患の既往や高齢であることから,胆囊管断端が陰性であれば施行しない方針とした.術後の病理組織学的検査の結果では,深達度はSSであったが,胆囊管リンパ節に転移を認めず,リンパ管浸潤や神経周囲浸潤は認められなかった.これを受けて,二期的なリンパ節郭清や肝外胆管切除は施行しなかったが,厳重な経過観察は必要と考えている.

本症の系統解剖で多くの動脈系異常が指摘され,特に腹腔動脈や上腸間膜動脈系で多数のバリエーションが報告されている1).また,肝静脈に関しても,各々が独立して右房や右室へ還流するといった走行異常が報告されている16)17).自験例を含め肝切除を施行した完全内臓逆位患者のうち,肝動脈の走行異常の有無についての記載のあった13例について検討すると5例に何らかの走行異常が認められた(Table 11)2)6)16)~24)

Table 1  Summary of situs inversus patients who received hepatic resection in Japan
No Author
(year)
Age/Sex Disease Location Operation Anomary of the hepatic artery
1 Kanematsu18)
(1983)
37/M Hepatocellular carcinoma Bil. lobe right lobectomy none
2 Kim19)
(1989)
66/F Hepatocellular carcinoma Rt. lobe right lobectomy RHA from SMA
3 Kamiike20)
(1996)
69/F Hepatocellular carcinoma S7 subsegmentectomy none
4 Hosoi1)
(2001)
70/M Hilar cholangiocellular carcinoma Perihilar bile duct right lobectomy none
5 Goi21)
(2003)
72/M Metastatic liver tumor S7 subsegmentectomy none
6 Sano22)
(2003)
76/F Hilar cholangiocellular carcinoma Perihilar bile duct right lobectomy none
7 Kakinuma6)
(2004)
70/F Hepatocellular carcinoma S8 partial resection none
8 Sawada2)
(2006)
76/M Hepatocellular carcinoma Rt. lobe right trisegmentectomy none
9 Matsukawa16)
(2007)
55/F Angiogenic tumor Posterior sector extended posterior sectionectomy CHA from SMA
10 Uemura17)
(2009)
64/M Metastatic liver tumor Bil. lobe left lobectomy and
partial resection
PHA from SMA
11 Harada23)
(2012)
59/M Hepatocellular carcinoma S7 extended right lateral segmentectomy CHA from SMA LHA from LGA
12 Uchiyama24)
(2013)
66/F Hepatocellular carcinoma S4 partial resection none
13 Our case 75/M Gallbladder cancer Gallbladder extended cholecystectomy acc. RHA
from CA

RHA: right hepatic artery, SMA: superior mesenteric artery, CHA: common hepatic artery, PHA: proper hepatic artery, acc.: accessory

自験例においては,肝静脈に関しては通常通りの走行であったが,腹腔動脈の根部より分岐し,門脈の背側を走行する副右肝動脈が認められた.これはAdachi分類I型の7群に相当する分岐異常である25).副右肝動脈は上腸間膜動脈から分岐することが多いと考えられるが,腹腔動脈から分岐する変異は非常にまれであると考えられる.また,A4が胃十二指腸動脈より分岐する変異も認められた.肝外胆管切除や肝十二指腸間膜内のリンパ節郭清は行わなかったため,これらの分岐異常が手術施行に影響を及ぼすことはなかった.しかし,内臓逆位症例の肝・胆・膵領域手術においては,他の報告でも触れられているように,術前に詳細な画像読影を行い,特に脈管走行の把握をしておくことが重要であると考えられた.

当院では通常の右葉系の肝切除の際には,術者は患者の右側に位置し,まず右葉の脱転を行う.右葉背側でbare areaを剥離する際には第一助手に右葉を把持・挙上してもらい,術者が直視下に作業を行っている.本症例における脱転操作は副腎付着部の手前までで十分と考えた.したがって,術者の位置は患者の右側のままで,左手で肝臓を把持・挙上し,患者に覆い被さるような格好で脱転操作が施行可能であった.ただし,副腎との剥離や,短肝静脈の処理といった,両手を使った手技が要求される際には,対側に立つことが必要であると考えられた.

また,肝切離の際には主に超音波外科吸引器を使用し,Pringle法による肝血流の遮断を行っている.肝静脈圧を低下させるため,左手を右葉背側に入れ把持・挙上し,右手でデバイスを使用し,切離を進めている.

本症例においては,肝切離の操作にやや難渋した.左手でデバイスを操作可能であれば,患者の左側に立ち,右手で肝臓を把持・挙上することで,肝切離も可能となると思われる.しかし,術者の手技の至らなさもあり,繊細な動きが要求される操作を利き手と反対の手で行うことは困難であった.そこで,第二助手に肝側に長く残しておいた肝円索を頼りに肝臓を挙上してもらったところ,患者の右側に立ったまま,静脈系の出血を抑えながら切離が可能であった.

今回,検索しえた完全内臓逆位患者に対する肝切除の報告(Table 1)では,自験例において感じえた手技の困難性について言及したものはなく,術前に臓器の位置関係や血管走行を把握しておけば,通常通りの手術が可能であるといった考察を行っているものが大部分であった.ただし,Haradaら23)はS7に存在した肝細胞癌に対し,区域切除ではなく,あえてextended right lateral segmentectomyをliver-hanging maneuver(以下,LHMと略記)を用いて施行し,臓器が鏡面関係にあることによる手技の困難性を克服しえたと述べている.

また,完全内臓逆位症患者に対し,腹腔鏡下胆囊摘出術を施行した報告では,ほぼ全例で術者は通常と対側の患者の右側に立って手術を施行していた.通常と対側のポートの挿入では左手での剥離操作を必要とすることが多くなるため,右手用のポートの挿入位置を工夫したとする報告が多い10)11).また,大東ら9)は右手同様に左手を自由に使いこなせるように習熟することの必要性を述べている.近年は単孔式腹腔鏡下胆囊摘出術を導入する施設が増加傾向であるが,単孔式に習熟した術者であれば,内臓逆位症患者に対する手術は4孔式よりもむしろ単孔式のほうが容易に施行しえたとの報告もあった26)

自験例では,助手による肝円索の挙上により術者の両手がfreeとなり,手術が施行しえた.完全内臓逆位患者に対する開腹での肝切除においては,通常であれば,術者が右手一本で切離操作を進める術式においても,両手を使って切離をしていくような方法を考慮するべきと考えられた.具体的には肝静脈のテーピング,開胸操作を加えた十分な肝臓の脱転,助手による肝臓の挙上操作,LHMの併用などが挙げられると考えられる.本症例のような,比較的小範囲の肝切除では,本症例で行った肝円索による挙上も有効であると考えられる.

また,可能であれば左手でデバイスの操作を行えるような訓練を行っておくことも対処法の一つかもしれないが,一般の外科医が完全内臓逆位症患者の手術を経験することは滅多にないことであり,現実的ではないかもしれない.

また,開腹肝切除における術者の立ち位置に関しては,臨機応変に立ち位置を変更し,患者の安全が担保されるような状況で手術を行っていくべきかと考えられた.

内臓逆位患者の手術においては,他の報告でも述べられているように術前に入念に画像の読影を行い,手術のシミュレーションを行っておくことが重要であると考えられた.開腹での肝切除には,通常と同様の方法では困難を覚えるものと考えられ,術者が両手を使って肝切離を行えるような術野を作る方法を考慮しておくことが肝要で,左手での手術操作に慣れておくことが大きなアドバンテージになる可能性があると考えられた.

利益相反:なし

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